ナナカマド博士の助手のヒカリです。   作:竜宮 黍

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実際にゲームを進めながら書いてるんですが、チュートリアルの時にコウキ(ヒカリ)がモンスターボールを20個持っていたので、前話で父親から貰ったモンスターボールの数を20個に変更しました。太っ腹ぁ。

HPの表記について
ーーーー(HP満タン)
ーー(半分)
-(瀕死手前)


先輩トレーナー(一日目)。

「や。ポケモン図鑑(ソレ)を持ってるってことは、私と同じことをナナカマド博士に頼まれた感じかな?」

 

念のため、先に202番道路の方を見に行って、まだコウキ君が先に進んでないことを確認してから、ナナカマド博士の研究所に行くと、丁度コウキ君が出てきた所だった。

 

いやー、とっくに先に進んでたらどうしようかと思った。まあ、主人公なんだし特にアドバイスとか無くても問題無く進めるだろうけど、一応原作の役割は担っておいた方が良いだろう。後の展開の為になるかもしれない。

 

「あ、うん。なんか、シンオウ地方のポケモンのことを知りたいから、全てのポケモンに会ってこいって……」

 

んん? なんかちょっと不安そうだね? うんうん分かるよ。いきなりそんなこと頼まれても、どうしたらいいのか分からないよね。旅の準備してる訳でもあるまいし。

え? ジュン? いや、彼はフットワークが軽すぎるから……

 

「うん。私も博士に頼まれて、図鑑のページを埋めるんだ。だから、君とは同じ目的の仲間ってことね。私、ヒカリ。ナナカマド博士の助手をやっているわ。よろしくね」

 

「俺はコウキ……です。よろしく」

 

手を差し出すと、コウキ君は握手に応じてくれた。

態度は及び腰だが、手はぎゅっと握ってくるあたり、思い切りの良い性格をしていそうだ。

 

「着いてきて、旅に必要なことを教えてあげる」

 

テッテテテテテテテテッテレレレレンッ♪

 

頭の中で『強引な人のテーマ』を流しながら、コウキ君の手を引く。

 

「この赤い屋根の建物がポケモンセンター。闘って傷付いたポケモンを元気にしてくれるし、宿でもあり、食事処でもあるわ。私達は諸々無料だから、遠慮無く利用しましょう。色んな町にあるから安心して」

 

ポケモンを癒すのは全トレーナー共通で無料だけど、宿と食事は15歳以上は有料になる。それでも格安のため、殆どのトレーナーが利用しているらしい(父調べ)。

 

「こっちの青い屋根の建物はフレンドリィショップ。色んな道具を買ったり売ったり出来るわ。ジムバッジの数で買える物が変わるから、私達はまだ買えない物が多いけど、買えないということは買わなくていいということだから、気にしなくていいわ」

 

「ジムバッジ?」

 

「シンオウ地方の各地に存在する、ポケモンジムのジムリーダーにポケモンバトルで勝つと貰えるバッジよ。旅の目的が定まらないなら、各地のポケモンジムを巡って、腕を磨きながら旅をするのもアリかもね。そうしてる内に図鑑も埋まると思うし」

 

まあ、私はジムにはあんまり興味無いんだけどね。

 

コウキ君は初めてのポケモンバトルで思う所があったのか、目を輝かせていた。うーん、男の子!

 

「あっ、そうだ。コウキ君、ナナカマド博士のお手伝いでポケモン図鑑を作ること、家の人に言っておいたら? 各地のジムを巡るなら、結構遠くまで行くことにもなるし、言っておいた方が良いと思うよ」

 

「分かった。そうするよ」

 

「じゃーねー」

 

コウキ君にバイバイし、私は202番道路へ進む。

この後はコウキ君が母親に報告した後、ここでコウキ君にポケモンの捕まえ方を教えるのが私の役目だ。

 

ただ待つのも味気無い。

そもそもやったこと無いことを教えるのは難しいので、予め練習しておこう。

原作のヒカリないしコウキもこの時練習してたのだろうか。私と同じ経緯ならそうだろう。微笑ましいな。

 

辺りを警戒しながら、草むらへと進む。

ああ、ドキドキする。新しい出会いへの期待というより、未知への恐怖の方が割合は大きい。私は臆病なのだ。

ここでは特別強いポケモンは出ないとは言え、そもそも野生動物が普通に群生する場所に身を置くのは恐ろしいことだと思う。

 

「ビィピー!」

 

聞き覚えのある鳴き声がし、振り向くと、ビッパが現れた。

 

ひ、秘伝要員だ!

 

「ポッチャマ!」

 

思わず情緒の欠片も無いことを考えてしまったが、それはさておき、戦闘そして捕獲だ。

 

「チャマ!」

 

モンスターボールからポッチャマが飛び出て、私の前に庇う様に降り立つ。

 

か、カッコいいーー! 抱いてーー!!

……あれ? そう言えば、この子って♂だろうか、♀だろうか。

 

まあ、後で確認しよう。

 

「ポッチャマ! 『はたく』!」

 

「チャマ!」

 

とりあえずは攻撃。序盤……と言うか、通常の戦闘では、ほとんど攻撃だけした方が効率が良いんではなかろうか。

そもそも、ポッチャマが最初に覚えてる補助技ってなんだっけ? 覚えてない。どうしよう。

 

そんなことを考えてる内に、ポッチャマの『はたく』がビッパにクリーンヒット。

 

「ビィッ!」

 

空のモンスターボールを取り出す。

ゲームと違ってHPの残量が見えないため、どれくらい弱ってるのか分からないが、ここに出てくるレベルのポケモンなら技を一発当てれば捕まえられるだろう。多分。

 

無理だったら再チャレンジだ。とにかく行くぞ!

 

「行け! モンスターボール!」

 

私の投げたモンスターボールは、弧を描き、ビッパの体にしっかり当たった。

 

ナイスコントロール! 子供の頃、お父さんとキャッチボールをしていて良かった!

 

モンスターボールの中から赤い光線が溢れ、ビッパに降り注ぐ。光線に包まれたビッパはモンスターボールに収まり、1…2…3度揺れた所で、揺れが収まった。

 

や……

 

「やった……!」

 

緊張が解け、思わず座り込みそうになるのをグッと堪え、ビッパを捕まえたモンスターボールを拾い、そそくさと草むらから出る。

 

視界の明けた所でポケモン図鑑を取り出し、ビッパの入ったモンスターボールをスキャンする。

 

『ビッパ まるねずみポケモン

いつも大木や石を齧って丈夫な前歯を削っている。水辺に巣を作り暮らす。』

 

ビッパの詳しい情報が図鑑に加わる。

このポケモン図鑑、カメラ機能があり、それでポケモンを撮ると、そのポケモンの大まかな情報が図鑑に登録される。

そして、モンスターボールに入った状態でスキャンすると、詳しい情報が登録されるのだ。

 

続いて、モンスターボールにトレーナーズカードを翳す。

こうすることで、モンスターボールにトレーナーIDが登録され、正式に中のポケモンが手持ちとして扱われる。

ポッチャマには先に登録を済ませてある。

 

これで、誰かが間違えてモンスターボールをビッパやポッチャマに投げたり、暴投でうっかりモンスターボールが当たっても、IDが既に登録されているため、捕まえることは出来ない。

 

まったく良く出来たシステムだと思う。シルフカンパニー様々だ。

 

「ん?」

 

モンスターボールをよく見てみると、ポケモンの情報が少しだけ載っていた。

名前(種族名)、性別、レベル、体力ゲージ、覚えてる技……なるほど、便利。

 

てか待って。じゃあ、ポッチャマの方もこれで諸々確認できるじゃん。なんで気付かなかった。

 

ポッチャマ ♂ Lv.5

ーーーー

はたく なきごえ

 

……なるほど。

これ、覚える技が増えたらどうするんだろう。4つまでは載るかもしれないけど、もしかして、4つまでしか表示できないから、4つまでしか覚えられないなんてことは無いよな?

 

頭を悩ませていると、見覚えのある赤い帽子が視界に入った。

 

「あ、コウキ君。ちゃんと家の人に報告してきた?」

 

「うん。見て、新しいランニングシューズ貰っちゃった」

 

自慢気に赤いランニングシューズを見せびらかしてくるコウキ君。

仕草が少し子供っぽい。いや、そもそも子供か。

 

「いいね。カッコいいよ」

 

コウキ君の顔が少し赤くなった。自慢気にしてたのにそこは照れるのか。

 

「さて、ところで、コウキ君ってポケモンの捕まえ方のコツ、もう知ってる? 良かったら、私がポケモンの捕まえ方教えてあげる」

 

「えーと……じゃあ、お願いします」

 

再び草むらに入り、手近な所でビッパを見つける。

 

チュートリアルの始まりだ。

 

 

「ざっとこんな感じかな」

 

さっきと同じ手順で捕まえ、ビッパの入ったモンスターボールを拾う。

 

「ある程度弱らせた方が良いけど、やり過ぎたらモンスターボールに入る気力すら残らなくなるから、加減が大事だよ。眠らせたりしたら、もっと捕まえやすくなるかな」

 

コウキ君は黙って頷きながら聞いてくれる。素直でよろしい。

 

「はい。じゃあこれ、モンスターボール」

 

ポン、とコウキ君にモンスターボールを5個手渡す。

 

「え、いいの?」

 

「いいのいいの。私、モンスターボール結構持ってるし、コウキ君にも色んなポケモンを捕まえてほしいからね」

 

ナナカマド博士だって、1人で図鑑を完成させられるとは思ってないだろう。だからこそ、こうやって3人に分配してる訳だろうし。

ま、私は完成させる気満々ですけどね。

 

コウキ君にポケモンを捕まえた後の手順と、ポケモン図鑑の機能の説明をしたら、私の役目はとりあえず終わりだ。

 

「じゃーねー! コウキ君。グッドラック!」

 

「うん。色々ありがとう。ヒカリ、またね」

 

コウキ君と別れ、一旦マサゴタウンに戻る。

 

町に入る前に、さっきチュートリアルの為に捕まえたビッパを草むらに逃がす。

 

2匹もいてもしょうがないからね。モンスターボールは再利用できるし、今後も旅パ以外のポケモンはほとんどこういう形式になりそうだ。

 

残るモンスターボールは14個。片手で数えられる様になったら、補給を検討しよう。

 

先に捕まえた方のビッパの状態を見てみる。

 

ビッパ ♂ Lv.3

ーー

たいあたり

 

それじゃあまあ、ポケセンに寄ってから、改めて先に進みますか。

 

 

202番道路の草むらを掻き分けて進む。

私の太もものあたりまで草が伸びていて、こそばゆい。

 

ゲームでは絶対に草むらを通らないと先に進めなかったが、実際にはちゃんと舗装された道があり、トレーナーでない人もコトブキシティに行くことが出来る。

 

私も何度か親や祖父に連れられて、コトブキシティまで来たことがある。

左手首に着けているポケッチは、その時に買ってもらった物だ。

 

なのでコトブキシティまでは、舗装された道を通れば、子供の足なら2時間もかければ辿り着くことが出来る。

 

いやー……意外と遠いんだよな。

ここ、ゲームでは全然短い道路だし、数分でコトブキシティに辿り着けるんだけど、現実は厳しいのだ。

 

まあ、ポケッチの表示する時間は現在8:56。できればお昼に間に合わせたい。

捕まえたいポケモンを捕まえたら、さっさとコトブキシティに向かうことにしよう。

 

 

そうやってコトブキシティの方に進みながら草むらを散策すること十数分。

 

「コゥー!」

 

よっしゃ出た! 全然ポケモン現れないから不安になったわ!

 

探してたポケモンはコリンク。

202番道路に出てくるポケモンで、ビッパとムックルは後の草むらでも出てくるけど、コリンクは確かこの草むらにしか出ないはず。是非とも捕まえたい。

て言うか、好きなポケモンだからパーティに加えたい。

 

「ポッチャマ!」

 

「チャマ!」

 

即座にポッチャマをモンスターボールから呼び出す。

先に出しておいた方が手間は省けるのだが、ポッチャマのサイズだと草むらに隠れてしまって、見失ってしまうのだ。

あと、まだそんなに信頼関係が確立されてないから、勝手にどこかに行ってしまう可能性もある。

 

ID登録のおかげで誰かに捕まえられることは無いが、運良く善良なポケモントレーナーか、ジュンサーさんに保護して貰えなければ、それが今生の別れになってしまうかもしれない。

それはあまりにも悲しい。

 

「ポッチャマ? どうかした?」

 

ふと、ポッチャマの様子がおかしいことに気が付く。

怯えているのか、どうにも腰が引けてる様子だ。

 

「チャマ……」

 

コリンクは電気タイプだ。ここに出てくるレベルなら、まだ電気タイプの技は覚えていないだろうが、潜在的に苦手なタイプに反応しているのかもしれない。

 

「コゥ!」

 

ポッチャマの様子を伺っていると、コリンクがポッチャマに向かって突撃してきた。

しまった! 先手を打たれた!

 

今まで、比較的動きの少ないビッパを相手にしていたから、油断していた。

 

「ポッチャマ! 右に跳べ!」

 

咄嗟に避ける様に指示を出し、ポッチャマも言われた通り右に跳んだが、コリンクもその動きに合わせて、前足を踏み込んで勢いよく方向転換した。

 

結果、コリンクの『たいあたり』がポッチャマにクリーンヒットした。

 

「ヂャマッ」

 

「ポッチャマ!」

 

思わずポッチャマの下に駆け寄ったが、ポッチャマはしっかりと2本の足で立ち上がった。

ホッとしたが、これ以上油断する訳にはいかない。

戦闘中はHPをゲージで見ることが出来ないから、ポッチャマの状態は私の目測で判断するしかない。しかし、まだ戦闘経験が少ない中でそんなもの分かる訳が無い。

 

倒される(やられる)前に倒す(やる)。短期決戦に賭けるしか道は無い。

 

「ポッチャマ! 『はたく』!」

 

「チャマ!」

 

ポッチャマの『はたく』がコリンクの左頬に当たったが、コリンクはまるで効いてないかの様にポッチャマを振り払った。

 

「ポッチャマ! 一旦距離を取って!」

 

コリンクの攻撃が飛んでくる前に、ポッチャマを後退させる。

 

コリンクはすぐに深追いはしてこず、準備運動のつもりか、前足を地面に擦り付けていた。

 

その間に、コリンクの様子を観察する。

前足の黄色い部分から、バチバチと音がしている。電気タイプの技を持ってなくても、あの足には触らせない方が良いだろう。

目は真っ直ぐとポッチャマを見据え、威圧する様にーー待て。

 

コリンクの目を見てピンと来た。

 

『いかく』か……! 戦闘時、最初のターンで相手の攻撃を下げるという、ポケモンの特性。

 

ポッチャマが怯えてる様に見えたのも、ポッチャマの攻撃が全然効いてないのも、この特性のせいだ。

 

分かった所でどうしろと言うのか。

 

「クルゥ!」

 

ああクソ! そりゃそう長くは待ってくれないよな!

 

「ポッチャマ! 私が合図したら斜め後ろに跳んで!」

 

「チャマ!」

 

とにかく、今できることをやるしかない。

まだだ。まだ……もう少し、ギリギリまで……

 

「今よ!」

 

「チャマ!」

 

さっきと違ってギリギリまで引き付けたおかげで、今度は攻撃を回避することができた。

ポッチャマの脇をコリンクが通り過ぎ、後ろ姿が無防備に晒される。

 

「ポッチャマ! 今度は、横っ腹に『はたく』!」

 

ポッチャマの『はたく』がコリンクの横っ腹に当たるが、駄目だ。やっぱり全然効いてない。

 

コリンクが尻尾でポッチャマを払いのけ、正面を向こうとするが、まだ背後は取っていたい。

 

「ポッチャマ! 尻尾を咥えて!」

 

ポッチャマは手の部分がまんまペンギンのそれなので、物を掴んだり、器用なことは出来ない。

仕方がないので、嘴で咥えてもらう。

 

「ギャンッ!」

 

ポッチャマがコリンクの尻尾を咥えると、コリンクは飛び上がり悲鳴を上げた。

 

! そこか!

 

「ポッチャマ! そのまま、尻尾に向けて『はたく』!」

 

「チャマ!」

 

ポッチャマの『はたく』が尻尾に当たると、コリンクは目に見えて弱った。

すかさず準備していたモンスターボールを投げる。

 

「行けぇ!」

 

モンスターボールはコリンクを吸い込み、1…2…3度揺れて止まった。

 

「…………っ!!」

 

思わずガッツポーズ。

強敵だった。ゲームではあんなに簡単に捕まえることの出来たコリンクは、確かに強敵だった。

 

 

『コリンク せんこうポケモン

筋肉の動きで電気を作る仕組みを前足に持つ。ピンチになると全身が光る。』

 

コリンク ♀ Lv.4

-

たいあたり

 

図鑑に登録し、コリンクの様子を見ると、かなり弱っていた。

うひゃあ、ギリギリだ。急所ヤバいな。

 

そう。私の狙いは、『急所』だったのだ。

ゲームでも、一定確立でポケモンの技が急所に当たる仕様になっている。

つまり、どんなポケモンにも、どこかしら弱点があるということだ。

火力が足りなくて、それを補う補助技が無いなら急所頼り、というのは、誰もが一度はやったことのある戦法ではなかろうか。

 

ゲームでは完全に運任せだったけれど、実際に急所を探しながらのバトルは中々に臨場感があった。

この戦法は今後にも役立てていきたい。

 

さて、欲しいポケモンは捕まえた。

急いでコトブキシティへ向かおう。ポケモンセンターでコリンクとポッチャマを元気にしてもらわなければ。

 

 

 

「お預りしたポケモンはみんな元気になりましたよ! またのご利用をお待ちしています」

 

「ありがとうございます」

 

ジョーイさんにポケモンを元気にしてもらい、一息吐く。

 

コトブキシティに着いたけれど、これからどうしようか。少し早いけど、お昼にするか……あ、でも、コウキ君にトレーナーズスクールを紹介した方が良いのか。

 

とりあえず、外に出よう。

ヒカリはゲームにおいてアドバイザーの位置にいて、各地で主人公(コウキ)に鉢合わせて、アドバイスしたりトラブルに巻きこまれたりする訳だけど、そうそう都合よく鉢合わせできるかどうかなんて、分かりはしない。

まあ、そこは偶然か必然に任せて、出来る時に出来るアドバイスを心掛けよう。

 

「あ」

 

ふと、見覚えのある後ろ姿を見かける。

 

「やあ、こんな所で何してるの?」

 

ジュン君だ。

私が声をかけると、ジュン君は訝しげな顔をし、暫し思案した後、徐に拳を手の平に打ち付けた。

 

「ん?……? あっ! お前、ナナカマド博士と一緒にいた奴か!」

 

こいつ。

 

「ああ、自己紹介する暇が無かったもんね……私はヒカリ。ナナカマド博士の助手をやっているわ」

 

「おう、オレのことはジュンでいいぜ。ヒカリ、お前もナナカマド博士に図鑑を渡された口か?」

 

「ええ。ここに」

 

カバンからポケモン図鑑を取り出す。

 

「ところでジュン、さっきから、図鑑を見て難しそうな顔をしてたけど、何か分からないことでもあったの?」

 

「いや……オレ、ポケモンのこと何にも知らないなあって思って……ポケモンのこと知りたかったんだけど、ポケモン図鑑を見てもさっぱりなんだ」

 

ほぅ。

察するに、ジュンが知りたいのは、主にポケモンバトルに必要な知識だろう。図鑑に載ってるのはそのポケモンの生態や分布、写真くらいだ。

 

「ポケモンのことを知りたいなら、トレーナーズスクールに行くことをお薦めするわ。ほら、そこの道を右に曲がった所にあるから。それと、トレーナーズスクール以外でも、色んな人から話を聞くと、意外と有用な知識を得ることもあるから、物怖じせず色んな人に話しかけると良いわよ」

 

現実では、子供が知らない大人に話しかけるのは、あまり薦められたことではないんだけどね。

 

「そうなのか! サンキューヒカリ! んじゃ、オレ早速トレーナーズスクールに行ってくるわ!」

 

言うや否や、トレーナーズスクールのある方に駆け出すジュン。本当にせっかちな奴だ。

 

さて、これからジュンがトレーナーズスクールに向かうということは、コウキ君も間もなくコトブキシティに来るということだ。

確かコウキ君はジュンに届け物があったはずだし、早めに教えてあげた方が良いだろう。あの男が一つ処にいつまでも留まるとは到底思えない。

 

 

コウキ君にトレーナーズスクールに行く様に薦めて、私はどこに行くとも無く足を進めていた。

 

マサゴタウンは田舎町と言った風情だけど、コトブキシティは『シティ』と言うだけあって、規模が違う。

 

コンクリートに舗装された地面、街灯、マンション、ビル、噴水、テレビ局。

広さもさることながら、正に都会の様相だ。

 

んー……でも、特にこの街の中に行きたい所がある訳でも無いし、観光は別にいいか。

トレーナーズスクールには後で行ってみたいけど、それよりもポケモンをもっと捕まえたい。

 

グゥーーー…

 

……まずは、ポケモンセンターで腹ごしらえだ。

 

 

「すみません。ランチと、ポケモンフーズを3匹分お願いします」

 

受け取り口で食事を受け取り、適当な席に持っていく。

 

机に私の分の食事を置いておいて、ポケモンフーズの袋を開ける。

専用の容器にそれぞれ入れると、ポッチャマとコリンクとビッパは思い思いに食べ始めた。

 

…………。

 

一欠片、ポケモンフーズを口に含んでみる。

……味が薄い。ちょっと固めのクッキーみたいだ。どちらかと言うとビスケットか。

甘いとも辛いともしょっぱいとも言えない味だ。ポケモンの好みに左右されない様に味付けしてるのかもしれない。

何となく味と食感に既視感を感じ、記憶を辿ってみると、思い出した。かんパンだ、これ。一昔前の固いやつ。

非常食じゃん。

 

3匹の頭を一撫でし、私も席に着いて食事を始める。

 

好みと言えば、ゲームではポケモンの性格や好みで能力補整が決まっていた。

能力補整とは、攻撃、防御、特殊攻撃、特殊防御、素早さの内、どれかの能力が上がりやすくて、どれかの能力が上がりにくいと言うものだ。

 

能力補整がかかっていない性格も存在する。素直、まじめ、がんばり屋などだ。

その場合は好みは存在せず、何でもよく食べる。

 

個体値や努力値を拘ったことは無いけど、性格は把握してみたい。能力補整がこの世界にあるのかも気になるし。

 

ほかほかのご飯を口に運ぶ。ああ、白米が美味しい……世界観が日本ベースで良かった。

 

性格を把握するには、日々の交流も大事だが、好みを知れば手っ取り早く済むかもしれない。

好みと性格がこの世界でも綿密に関わっているかどうかも、調べないと分からないけど。

 

一応ナナカマド博士の助手を自認してる訳だし、私なりにポケモンを研究するのもアリだな。

ちゃんとレポートに纏めておこう。どうせメモ取らないと忘れるし。

 

野菜と肉がゴロゴロ入ったポトフを啜る。生姜が効いていて、体の内側からポカポカしてくる。

地域柄、この地方にはこういう滋養の良い物を使った料理が多い。日本の北海道がモデルになっているため、基本的に寒いのだ。

 

その割には、私は寒そうな格好をしているが、それはまあ、寒さには結構慣れてるし、ヒカリと言えばこの服装だしなぁ……

 

 

腹ごしらえを済ませ、204番道路の方に出る。

ポケセンを出てから、モンスターボールに仕舞っていたポケモン達を呼び出す。

 

コトブキシティでは、ポケモンセンター以外での公共の場にポケモンを出すことは、原則禁止だ。

ポケモンをモンスターボールから出したいなら、自分の家の敷地内か、こうやって街の外に出る必要がある。

 

ルールと言うよりは、マナーに近い。

絶対に駄目ということは無いけど、ポケモンみんなが大人しいという訳では無いから、周りの迷惑にならない様に各々気を付けているのだ。

 

……なんか、赤ちゃんを連れてるお母さんが、変に周りに気を遣ってる現代日本を彷彿とさせるものがあるけど、もう少しフラットなイメージで受け止めたい。

まあ、コトブキシティにはジムも無く、ポケモンを所有してる人の割合も比較的少ないから、この街特有の風習かもしれない。

 

「チャマ!」

「コゥー!」

「……zzz」

 

いや、なに寝とんねん。

 

ポッチャマとコリンクは元気に飛び出て来たが、ビッパが思いっきり昼寝に明け暮れていた。

 

昼寝が好きなのか? そう言えば、ポケモンの個性でそういうのを見たことがあるな……

ポケモンには、性格や好みの他に『個性』が設定されている。

食べることが好きとか、逃げるのが早いとか……でも、個性がステータスにどういった影響があるのか知らないんだよな。

よし、気にしないことにしよう。

 

寝ているのを起こすのも悪い。ビッパには再びモンスターボールに入ってもらい、コリンクに向き直る。

 

「はじめまして、コリンク。私はヒカリ。貴女にはこれから、私の旅に着いてきて貰おうと思ってるんだけど、いいよね?」

 

念のため、コリンクの意志を確認しておく。

当たり前だが、モンスターボールで捕まえて、無理矢理連れていくなんてことはしたくない。

本当なら弱らせて捕まえるのも心苦しいけど、そこはポケモン図鑑のためと割り切っている。

 

「コゥ!」

 

尻尾をピンと立てて、コリンクは元気に返事をした。

言葉が通じてるとは思わないが、この分なら着いてきてくれるだろう。

 

「よっし! それじゃ、ポケモン図鑑完成のために、がんばるぞー!」

 

「チャマ!」

「コゥ!」

 

 

それから、204番道路でキャッチ&リリースを繰り返し、ムックル、スボミー、洞窟の入口で見つけたズバットを図鑑に登録した頃には、日が暮れかけていた。

 

途中で捕獲に失敗し、モンスターボールが壊されてしまったのには驚いた。

一度ボールの中に入った後に、無理矢理出てきて内側から壊れてしまったのだ。

ゲームで捕獲に失敗してもボールを回収出来ないのって、こういうことだったのか……モンスターボールは消費物なんだな。

残るモンスターボールは10個。片手で数えられる様になったら、補給を検討しよう。

 

あ、最後にコロボーシも捕まえとかないと。

 

日が暮れてしまったので、その日はそのままコトブキシティのポケモンセンターに宿泊した。

 




旅の一日目が終了。まだまだ序章って感じです。

現在の持ち物:キズ薬5個、モンスターボール10個
所持金:5000円
バッジの数:0個
捕まえたポケモンの数:7匹

オリジナル要素の補足は面倒になったので止めます。
気になる方は感想にてどうぞ。

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