六等分の花嫁   作:先導

11 / 55
結びの伝説1日目

三玖SIDE

 

私は最近フータローにたいして妙な気持ちを抱いてる。何というか・・・フータローと一緒にいると、妙に胸がぽかぽかしたりして・・・この前なんかはフータローのメアドをもらってうれしくなった気持ちがあった。その前なんかはフータローの好きな女子のタイプを自分らしくもないことを聞いたり、フータローがもう家に来れないとか言いかけた時はショックを受けたりもした。

 

この気持ちの正体に心当たりがないわけじゃない。でも・・・私だけがこんな気持ちを抱くなんて、絶対に変だよ。だって私たちはいつだって6等分で平等なんだから。

 

「いよいよ明日だね、林間学校!うーん、今から楽しみだなー!」

 

「六海も楽しみー!今からでも新しいスケッチブック買わないとね!」

 

そんな私の気持ちをしり目に四葉と六海は明日の林間学校の話を楽し気ながら一緒に廊下を歩いてる。廊下の曲がり角を曲がると勉強しながら歩いているフータローがいた。

 

「あ、風太郎君だ」

 

「うーえすーぎー、さん!!」

 

「ぐわっ⁉」

 

フータローを発見するや否や四葉は元気のあまり体当たりのあいさつをする。

 

「よ、四葉!いてぇだろ!」

 

「えへへ、すみません!それより、いよいよ明日ですね!」

 

「何が?」

 

「もー、風太郎君ったらとぼけちゃって!これだよ!林間学校だよ!しおり、ちゃんと読んだ?」

 

「読んでねぇよ。興味もねぇし」

 

林間学校を楽しみにしてる四葉と六海とは真逆にフータローはドライな反応をしてる。

 

「楽しいイベント満載です!飯盒炊爨に、スキーでしょ!釣りや、ハイキング!そして・・・キャンプファイヤー!ダンスの伝説!」

 

「・・・・・・」

 

キャンプファイヤーの踊りの伝説・・・確かフィナーレの瞬間に踊っていたペアは生涯添い遂げる縁で結ばれるって言ってたっけ・・・。信憑性のかけらもないただの噂だと私は思ってる。でも・・・でももし、その伝説が本当のことだったら・・・私は・・・。

 

「六海、その伝説知ってる!それがきっかけで付き合い始めるカップルがたくさんいるみたいなんだって!ああ・・・憧れるよねぇ・・・」

 

「うんうん、ロマンチックだよー・・・」

 

「「ねー♪」」

 

四葉と六海はこの伝説を本気で信じてるみたいで本当に浮かれてる状態。でもやっぱりフータローはそれとは真逆の反応。

 

「言ったろ?学生同士の恋愛など時間の無駄だ」

 

「もー、またそんなこと言ってー。青春が逃げるよー?」

 

「どうでもいい。それに、学生カップルなんてほとんどが別れるんだ。やるだけ無意味だ」

 

「で、でもー。好きな人とはお付き合いしたいじゃないですかー!」

 

好きな人・・・もし私のこの気持ちがそれに近いのだとしたら・・・意味がわからないことがある。

 

「・・・なんで好きな人と付き合うんだろう?」

 

「「「え?」」」

 

好きなら好きでそれでいいはずなのに、なんでわざわざ付き合ったりするんだろう?

 

「うーん、何でだろう?」

 

「どうしてかな?」

 

「それはね、その人のことが好きで好きでたまらないからだよ」

 

四葉と六海が考えてる中、私の疑問に答えたのは一花だった。

 

「三玖にも心当たりがあるんじゃない?」

 

「!な、ないよ・・・」

 

一花が的をついたようなことを言ってきた。こういったけど、心当たりは確かにあるっていえばあるけど・・・それはこれとは関係ないことだから・・・。

 

「よし!みんな揃ったし、勉強を始めるぞ!」

 

「え⁉今日もですか⁉」

 

明日が林間学校でも勉強を欠かそうとしないところ、フータローらしい。

 

「私は撮影あるからパス。・・・て、メール送ったんだけどなー」

 

「ん?・・・あ」

 

一花は今日もお仕事で参加できないみたい。フータローも忘れてたみたい。

 

「今は何よりもお仕事優先!寂しい思いさせてごめんね?」

 

「別に寂しくねぇよ」

 

「私も明日の準備を・・・えへへへー!」

 

一花の茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべてる中、四葉は今日は勉強したくないのかフータローから逃げ出す。これは珍しい。

 

「あ!おいこら待て!」

 

「もう!風太郎君がそんな風だと、らいはちゃんが悲しむよ?」

 

「なんでそこでらいはが出てくるんだよ?」

 

「いい?風太郎君。今らいはちゃんが望んでいるものは何?それはお兄ちゃんの林間学校の思い出話!そーんなやる気のなさをらいはちゃんに見せてみなよ?絶対いい気分じゃないよ?」

 

「お前はらいはの何を知ってるんだよ・・・」

 

「六海も末っ子の妹だからね。らいはちゃんの気持ちはよーーっく知ってるつもりだよ。同じ妹としてね」

 

「そういうもんなのか・・・?」

 

「そういうもんなの」

 

正直六海が何を言っているのかよくわからないけど・・・妙に説得力がある。

 

「と、いうわけで今日は勉強会はなーし!!さっそくお買い物の準備しなくちゃ!」

 

「ちょ!おま!」

 

六海はうきうきした様子でフータローから離れて自分の教室へと走っていく。

 

「まったく・・・」

 

「・・・あー、やば・・・」

 

フータローが呆れていると、一花はスマホを見て少し焦ったような顔をしてる。

 

「三玖、うちのクラスで林間学校の打ち合わせがあるんだけど・・・いつものお願い」

 

一花はそう言ってかばんから何かを取り出して私に渡してきた。これは、一花の髪と酷似した鬘だ。いつものってことは、あれか・・・。

 

「わかった」

 

別に断る理由もないし、とりあえずやっておくか。

 

「じゃあ、行くね」

 

「がんばって」

 

一花は今日の撮影のためにせっせと帰っていく。そしてここに残っているのは私とフータローだけ。

 

「なぁ、三玖。いつものって・・・」

 

「フータロー。私、用事ができたから今日は参加できない」

 

「そ、そうか・・・」

 

といってもその用事はたった今できたものだけど。私はとりあえず曲がり角のところにあった女子トイレに入る。

 

さて、と。まずは今私が着てるベストを脱いでそれを腰に巻き付けて・・・それから、鬘をかぶりやすいように髪を整えて・・・そして鬘をかぶる。これで中野一花の出来上がり。入れ替わりも完璧。いつものことっていうのはこの入れ替わりを指している。

 

とりあえず準備は整えて、トイレから出る。そしてここで一花スマイル。うん、これで完璧。一花のクラスは確か5組だったね。この一花スマイルを維持した状態で5組の教室に向かう。

 

♡♡♡♡♡♡

 

5組の教室までたどり着いた私はとりあえず教室の中へと入る。

 

「!な、中野さん・・・来てくれて・・・ありがとう」

 

教室にいたのはなんかちょっと柄が悪そうな男子生徒だった。・・・あれ?クラスのみんながいない・・・。それと、確か一花が言ってたっけ・・・この男の子の名前・・・確か・・・

 

「えーっと・・・前田君、だっけ?クラスのみんなは?」

 

「悪い・・・君に来てもらうため、嘘ついた」

 

「え?」

 

林間学校の打ち合わせが嘘ってことは・・・この前田君は一花に用があるんだ。でも、なんでわざわざクラスのみんながいない時に?

 

「一・・・私に用って・・・?」

 

少し一花って言いかけたけど、前田君はほんのりと頬を赤らめてる。え?本当に何?

 

「・・・お・・・俺と、キャンプファイヤーで一緒に踊ってください!」

 

「え?」

 

キャンプファイヤーって、林間学校の最終日の夜のあれ、だよね?

 

「私と?なんで?」

 

「あ・・・いや・・・それは・・・好き・・・だからです」

 

好き?好きってことはこれは・・・告白、ってことなのか。そうなんだ・・・前田君は一花のこと好きなんだ・・・。一花、かわいいからよくあるのかな・・・?でも私は一花であって一花じゃない。こういう時、一花はなんて言うんだろう・・・?

 

「あ、ありがとう・・・返事はまた今度・・・」

 

とりあえずはその場しのぎで返事は保留ということにして、帰ったら一花に相談しよう・・・。

 

「今答えが聞きたい!!中野さん!お願いします!!」

 

「え・・・」

 

と思ってたけど前田君はそれを許してくれない。なんていうか・・・せっかち・・・。

 

「ま、まだ悩んでるから・・・」

 

「ということは可能性はあるんですね!!」

 

「いやぁ・・・」

 

うぅ・・・ぐいぐい来る・・・そもそも、なんで好きな人ができたらこうやって告白しようとするんだろう・・・?

 

「お?中野さん、雰囲気変わりました?」

 

「!!!」

 

「髪・・・?ん・・・?なんだろう・・・?」

 

「あの・・・」

 

「中野さんって、確か六つ子でしたよね?もしかして・・・他の誰かと・・・入れ替わったり・・・なんてことは・・・?」

 

ま、前田君、鋭い・・・。ど、どうしよう・・・下手にぼろを出すと入れ替わっていたことがばれちゃう・・・。どうしよう・・・この場を切り抜ける方法は・・・

 

「一花。こんなところにいたのか?」

 

「「!!」」

 

私がどうするべきか悩んでいたらいつの間にかここに来てたフータローに声をかけられた。

 

「お前の姉妹5人が待ってたぞ。早く行ってやれ」

 

「フータロー・・・」

 

もしかして、私を助けてくれているの・・・?

 

「おい、何勝手に登場してきてんだコラ」

 

でも案の定前田君はフータローに突っかかってきた。

 

「お前誰だよ?気安く中野さんの下の名前で呼ぶんじゃねぇよコラ。お・・・俺も下の名前で呼んでいいのかなコラ」

 

なんか一部自分の願望みたいなの交じってるような気がする・・・。

 

「返事くらい待ってやれよ。少しは人の気持ちを考えろ」

 

「な・・・」

 

「フータローが言うと説得力ない」

 

「言うな」

 

私は六海からフータローが五月に向かって太るぞ発言をしたって聞いたことがある。だからこそ思いっきりブーメランになって返ってきてる。

 

「いくぞ、一花」

 

「おい待てコラ。何人の話勝手に聞いてんだ。俺はただい・・・中野さんと踊りたいだけだ。お前関係ないだろ」

 

「一応関係者だ」

 

「なんだとてめぇ・・・!」

 

前田君はフータローの言い分に腹が立ったのかフータローの胸倉をつかんでくる。こ、これはさすがにやばいんじゃあ・・・

 

「あ、あの・・・」

 

「一・・・中野さん、すぐに邪魔者を片付けるんでしばしお待ちください」

 

「お、落ち着いて・・・!」

 

「オラ!早く出てけ!!」

 

前田君はフータローを無理やり追い返そうとしてる。ろくに話も聞かないでこのままフータローを追い返そうとするの・・・なんか理不尽。

 

「私、この人と踊る約束してるから!!」

 

「へ?」

 

「・・・あ」

 

わ、私が変なことを考えてたらいつの間にかフータローの腕を組んで・・・勝手にキャンプファイヤーで踊る約束をしてしまってる。な、何言ってるんだろ私⁉今の私は一花だというのに!

 

「え、えっと・・・これは・・・違くて・・・」

 

「嘘だ!!こんな奴中野さんと釣り合わねぇ!!」

 

「そ、そんなことないよ!!フータローは・・・・・・フータローは・・・・・・かっこいいよ・・・///」

 

え?今自分で何言ってるんだろう?確かにそう思ったけども・・・て、何考えてるんだろう私・・・。・・・と、いけないいけない、私は一花・・・一花なんだ・・・。

 

「つ、付き合ってるんですか・・・?」

 

「ら、ラブラブだよねー!仲良く一緒に帰ろっか!」

 

「ああ・・・もうそれでいいよ・・・」

 

大丈夫・・・一花ならこうする・・・私はフータローの腕を組みながらその場を離れようとする。

 

「ちょっと待てーー!!」

 

そしたらまた前田君に止められた。ま、まだ何か疑いを・・・?

 

「恋人同士なら手を繋いで帰れるだろ!!」

 

「「!!」」

 

え?恋人同士って手をつなぐものなの?そんなの知らないし・・・ていうか、聞いたこともないんだけど・・・。まぁ、疎いっていうのあると思うけど・・・。

 

「なんだ?できないのか?やっぱり怪しいな」

 

「あのな・・・恋人だからって、そうとは限らないだろ?」

 

でも・・・それくらいで疑いが晴れるなら・・・。それに・・・今の私は一花だから・・・こういう状況なら平気でやると思う。そう考えた私はフータローの手をつなぐ。

 

「⁉み・・・一花・・・⁉」

 

い、一花ならやると思って手をつないでみたけど・・・思っていた以上に・・・ドキドキする・・・。なんか顔も熱くなってきた・・・。

 

「え・・・えっと・・・ま、また手をつなぎたかったとかじゃなくて・・・その・・・初めてじゃないから・・・///」

 

「・・・くそーっ!!林間学校までに彼女作りたかったってのに、結局このまま独り身かーー!!」

 

私を一花だと思っている前田君は私の行動で完全に付き合ってるって思い込んでいる。うまくいったのはいいけど・・・やっぱり申し訳ない・・・。でも・・・どうしてそこまでして好きな人に告白しようって思ったのかな?それでうまくいくとは限らないと思うのに・・・。

 

「あの・・・私が今聞くことじゃないと思うんだけど・・・なんで好きな人に告白しようと思ったの?」

 

「・・・中野さんがそれを言うか?」

 

「・・・ごめん・・・」

 

「・・・そりゃ・・・そうだな・・・とどのつまり・・・相手を独り占めしたい。これにつきる」

 

!!相手を・・・独り占めしたい・・・。

 

「はーあ、何言ってんだか・・・。おい!中野さんを困らせるじゃねーぞ?」

 

「俺が今絶賛困ってる最中なんだが・・・」

 

私のとっさの好意行為で本当に困り果てているフータロー少し頭を抱えてる。ごめん、フータロー・・・。

 

「何言ってるの?さあ行くよ、フータロー」

 

とりあえず一応は疑いは晴れた?ということで私はフータローの腕を組んだまま教室を後にする。

 

「お、おい・・・そんなにくっつかなくても・・・」

 

「・・・・・・今は一花だもん・・・。これくらいするよ・・・」

 

私が今抱いてるこの気持ちの正体・・・少しだけわかったような気がする・・・。でも・・・相手を独り占めしたいなんて・・・そんなことしない・・・。だって、私たちは6等分だから・・・。だから、私は大丈夫・・・。

 

「いやしかし・・・いいのかよ?勝手に断っちゃって」

 

「一花、仕事優先って言ってたし・・・」

 

とりあえず元の姿に戻った私はフータローの疑問に答える。

 

「にしても・・・勝手に約束して・・・キャンプファイヤーどうすんだよ・・・」

 

一花はたぶん、例のキャンプファイヤーの伝説の噂は知らない。噂さえ教えなければ大丈夫。それに・・・一花なら・・・心配ない・・・。大丈夫・・・問題ない・・・。

 

「あ!いたいたー!」

 

私がそう思ってると二乃、四葉、五月、六海が揃ってやってきた。私たちを探してた?

 

「さ、行くわよ」

 

「え?」

 

行くって・・・どこに?

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海SIDE

 

三玖ちゃんと風太郎君と合流した六海たちは明日の林間学校のための準備としてショッピングに来ているよ。やっぱり準備は万全にしておかないとねー♪

 

「上杉さんが林間学校で着る服をチョイスしまーす!」

 

まず最初に買うものは風太郎君のお洋服だよ。風太郎君との先生と生徒の関係が1か月ぐらいたってようやく気付いたんだけど、風太郎君は基本制服しかお洋服がないみたいなの。というか、六海、風太郎君がお洋服着てる姿なんて1回も見たことがない。でも服を買う余裕がない家庭育ちだしね。だからみんなで風太郎君のお洋服探しをしてるんだよ♪優しいでしょ?

 

「まずは私から!地味目なお顔なので派手な服を選んでみました!」

 

「多分だけどお前ふざけてるな?」

 

四葉ちゃんがチョイスした服は子供がかぶりそうなキャップ帽になんか子供向けの動物さんのイラストがいっぱい載った服だった。うん、風太郎君がそう思うのも無理もないね。というか四葉ちゃんの派手さっていったい・・・。

 

「フータローは和服が似合うと思ってたから、和のテイストを入れてみた」

 

「和そのものですけど!」

 

三玖ちゃんのチョイスした服は時代劇に出てくる町の住人さんが着そうな着物だった。あ、でも意外に似合ってるかも・・・。でもこれは林間学校に着る服じゃないから没だね。

 

「風太郎君はお兄さんスタイルが似合ってると思うから、シンプルにいきました!」

 

「これコスプレだよな?」

 

あ、バレた?六海がチョイスした服はナナカちゃんのお兄さんが着ている普通の上着に黒ズボンだよ。これだけだったら普通の服とたいして変わらないからばれないと思ったんだけど・・・やっぱり取り入れた鬘が余計だったみたい。でもせっかくのショッピングなんだし、こういう遊びも入れないとね♪

 

「私は男の人の服がよくわからないので、男らしい服装を選ばせていただきました」

 

「お前の男らしいはどんなだ⁉」

 

五月ちゃんのチョイスした服はズボンにも、ベストにもいたるところに傷があって、それでいて服はドクロがついていて、それでいてちゃらちゃらしたアクセサリーがいっぱいあった。これ完全に不良さんが着るタイプの服だ!五月ちゃんの男らしさっていったい・・・。

 

「・・・・・・」

 

二乃ちゃんがチョイスした服は長ズボンに黒シャツ、パーカー付きのジャケットといった今までの中で1番まともな服だった。なんていうか・・・面白味が全くない。

 

「二乃が本気で選んでる・・・」

 

「ガチだね・・・」

 

「なんかつまんないね」

 

「あんたたち真面目にやりなさいよ!!」

 

だってー、こういうのって、面白いもの選んだ方が盛り上がるじゃん?それを二乃ちゃんってば手早く済ませてつまんなーい!・・・まぁでも、これで風太郎君の服はこれで決まりっと。さてと、次はどんな服を買おっかなーっと。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それから六海たちは林間学校できていく服を3日分買っていった。ちなみにこれらの値段は大体1万か2万くらいの値段はついてるね。ふー、満足満足♪あと必要なものは下着とスケッチブックだねー。

 

「ふー、買ったねー」

 

「3日分となると大量ですね」

 

「お前ら洋服に1万2万って・・・俺の服40着は買えるぞ」

 

「えー?これでもまだ安い方だよ?」

 

「マジか・・・」

 

まぁ、風太郎君の家計じゃあそう思っちゃうのも無理ないね。六海たちも昔はだいたいそうだったし。

 

「はい。フータロー」

 

三玖ちゃんが風太郎君に渡したのは二乃ちゃんが選んだ風太郎君の服だった。

 

「お金はいいから・・・」

 

「お、おい・・・いいのかよ?」

 

「あんたのためじゃないわ。ダサい服して近寄られたら迷惑だからよ」

 

二乃ちゃんは相変わらず風太郎君にきつい言葉を使ってる。もー、素直じゃないんだからー、このツンデレさんめ♪

 

「林間学校もいよいよ明日ですね」

 

「まだ買うものがあるわよ」

 

「うーん、男の人と服を選んだり買い物するのって・・・デートって感じですね!!」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

「・・・へ?」

 

四葉ちゃんの発言で六海たちは思わず黙ってしまう。四葉ちゃんはこの意味が理解できてないみたい。はははー、四葉ちゃんってば何を言ってるのかな?風太郎君とはそんな関係じゃないのにね。あ、あれ?ちょっと顔が熱くなってきたよ?気のせい?

 

「・・・これはただの買い物です。学生の間に交際なんて、不純です」

 

この沈黙を最初に破ったのは五月ちゃんだった。

 

「あ、風太郎君と似たようなこと言ってるー」

 

「い、一緒にしないでください!あくまで上杉君とは教師と生徒!一線引いてしかるべきです!」

 

「言われなくても引いてるわ!!」

 

あー、またけんか始めてるよこの2人。けんかがするほど仲がいいっていうのは本当かもしれないね。あれ?だとすると二乃ちゃんと三玖ちゃんのけんかもそれに含まれる?

 

「ほら、そんな奴ほっといて残りの買い物を済ませるわよ」

 

「・・・そうですね。あなたはここで待っていてください」

 

「は?」

 

残りの買い物っていえば下着のことだね。ここから先は女子だけの領域だから風太郎君を入れるわけにはいかないんだよね。

 

「なんでだよ?」

 

「いいから待ってなさい!」

 

それを理解していない風太郎君はついていこうとしてる。ちょっと本当にやめてほしいんだけど・・・。

 

「そうはいくか。俺の服を勝手に選ばれたんだ。お前らの服も選ばせてもら・・・」

 

「下着!!」

 

「買うんです!!」

 

「・・・外で待ってまーす」

 

「デリカシーのない男ってサイテー!!」

 

さすがにそういうところはわきまえてるらしく、下着を買うとわかったとたん歩みを止めた。そこまでの変態さんじゃなくてよかったー・・・。二乃ちゃんと五月ちゃんは風太郎君のノーデリカシーに怒ってせっせと下着屋さんに向かっていってる。これで今場にいるのは六海と三玖ちゃん、四葉ちゃん、風太郎君だけになっちゃった。

 

「はぁ・・・そういうことなら俺帰る」

 

風太郎君はもう用済みだと言わんばかりに帰ろうとしてる。もうちょっとゆっくりしていけばいいのにー。

 

「上杉さん!明日が楽しみでもしっかり寝るんですよ!」

 

「言われなくても寝るよ」

 

「しおり一通り読んでくださいね!」

 

「読まねーって」

 

「さぼらずに来てくださいよ!」

 

「あー、わかったわかった」

 

「うん、えらい!最高の思い出を作りましょうね!」

 

風太郎君は生返事気味だけど四葉ちゃんは言いたいことを言ってにっこりと笑顔になっている。やっぱり純粋にかわいいなぁ、四葉ちゃんは。

 

「じゃ、あいつらに俺は帰ったって言っておけよ」

 

「うん。わかった」

 

「また明日ねー」

 

「林間学校、絶対に楽しみましょうねー!」

 

風太郎君は言いたいことを言ってそのまま家に帰宅する。やっぱり素っ気ないなー。

 

「さて、と。ここからは女子の時間♪六海が2人の下着をチョイスしてあげるよ♪」

 

「「え・・・」」

 

六海が三玖ちゃんと四葉ちゃんの下着を選ぶのを提案したら嫌そうな顔された。悲しいよぅ・・・。

 

「・・・なんでそんな嫌そうにするの・・・?」

 

「だって、六海の下着って一花に選んでもらってるでしょ?」

 

「そしたら絶対選ぶ下着だって・・・」

 

2人の言いたいことはよくわかったよ。確かに六海の下着はいつも一花ちゃんに選んでもらってる。そして選ばれる下着はちょっとエッチぃ感じの下着ばっかりなんだよね。一花ちゃんいわく、これが大人の下着らしいんだ。六海も最初こそ抵抗はあったけど、長く履き続けてるとそんな抵抗はどっか行っちゃった。というかむしろ・・・解放感があって気持ちいい・・・。それに誰かに見られるなんてことはないしね。

 

「大丈夫。恥ずかしいのは最初だけ・・・慣れれば心地いいよ♪」

 

「そんな心地よさ、いらない・・・!」

 

「四葉ちゃんも、そろそろお子様パンツ卒業しよーよー。そして2人で大人の階段上ろ?」

 

「い、いやー・・・私は・・・まだ子供でいいかなー、なんて・・・」

 

むぅ・・・2人は抵抗を続けてる。なんか悲しい・・・無理に連れていって嫌われたくないし、ここで打ち止めにしよう。あーあ、絶対に損はさせないのにねー。結局三玖ちゃんと四葉ちゃんは自分好みの下着を買って六海も一花ちゃんと同じ下着を買った。あの時の三玖ちゃんと四葉ちゃん顔は真っ赤っかだったなー。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「できた・・・ついにできた!」

 

ショッピングの後に家に帰って晩御飯を食べ終えたら六海は部屋に戻って漫画を描いてるよ。でもいつも書いてるそっち系のやつじゃない。六海がいつも読んでる魔法少女物だよ。六海が何で魔法少女物を書いてるのは、らいはちゃんに頼まれたからだよ。

 

明日から林間学校だからその間らいはちゃんは寂しい思いをするだろうと思って先日何が欲しいかって聞いてみたら、六海の描いた魔法少女漫画が見たいって言いだしたんだよね。

 

正直、六海は魔法少女物は読む専門で書くなんてこれが初めてなんだよね。だからその分書くのは大変だったよ。物語の構成、友達との友情、そしてかわいくもかっこいい戦い。それらを一から考えて思いついたネタをただそこに書く。妄想で書いてた時は全然違うから結構新鮮だったよ。

 

「さて、と。らいはちゃんに連絡しよっと」

 

六海は明日らいはちゃんにあげようと思ってすぐに電話を入れた。らいはちゃん、喜んでくれるかなー?そんな考えを抱いてると、電話が繋がった。

 

≪六海か?風太郎だが・・・≫

 

「・・・なんで風太郎君が出てるの?」

 

でも電話の相手は風太郎君だった。なんでらいはちゃんの電話に風太郎君が出るのさ?用があるのはらいはちゃんであって風太郎君じゃないんだよ。というより、人のスマホで勝手に出ないでよ。

 

≪今らいはは電話に出られる状態じゃないんだ。だから代わりに俺が出た≫

 

「電話に出られない?料理でも・・・」

 

≪らいはが熱を出して倒れた≫

 

・・・・・・え?らいはちゃんが熱?らいはちゃんが・・・倒れた!!?

 

「ちょっと!それどういうこと⁉らいはちゃんは・・・らいはちゃんは大丈夫なの⁉」

 

≪落ち着け。らいはなら大丈夫だ。たった今ぐっすり眠ったところだ≫

 

「大丈夫・・・なんだよね・・・?」

 

≪ああ。俺が保証する≫

 

風太郎君が言うなら・・・元気だよね。そう信じるしか・・・ないよね・・・。

 

「・・・ねぇ、風太郎君。明日の林間学校・・・」

 

≪・・・大丈夫だって。ちゃんと行くから・・・。つーか、らいはになんか用があったんじゃないか?≫

 

「う、ううん、また別の日にするね」

 

≪そうか。じゃあ、そろそろ切るぞ≫

 

六海の用が済んだと思った風太郎君は通話を切っちゃった。らいはちゃんが熱・・・衝撃な事実に六海は少してんぱってる。本当に大丈夫なんだよね?それに、風太郎君・・・本当に林間学校に来るんだよね・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日の林間学校当日、しおりによればまず学校に全員集合ということで六海たちは全員学校に来ていて、それぞれのクラスに分けられてる。そんな中六海は風太郎君がいるかどうか確認のために1組のクラスの方に向かってる。

 

らいはちゃんが熱を出してる。風太郎君はそんならいはちゃんの面倒をみてる。それを知ってるのは六海だけ。だからこそ不安なんだ。風太郎君がちゃんと林間学校に来ているのかどうか。

 

「中野、肝試しの実行委員だが、代役としてやってくれないか?」

 

「え?」

 

!!!今、1組の先生は五月ちゃんになんて・・・?実行委員の代役?肝試しの実行委員は風太郎君だって四葉ちゃんから聞いてる。その風太郎君の代わりってことは・・・

 

「来て・・・ないの・・・?」

 

そうとでしか考えられない。あの妹思いの風太郎君はきっとらいはちゃんの方を優先して、林間学校に来ないつもりなんだ。

 

「3組の生徒のバスはこちらになりまーす!」

 

そんな答えに行き着いてると六海たちのクラスの皆は3組のバスに乗っていってる。ど、どうしよう・・・。六海は別に風太郎君が来なくても困ることは何もない。ほぼ無関係なんだ。構う必要はない。

 

・・・でもらいはちゃんの気持ちはどうなんだろう。風太郎君が今回の件で林間学校に行かないとわかったらきっと・・・きっと悲しんでしまうに決まってる。

 

「六海-。早くバスに乗りましょうよー」

 

六海がいろいろ考えていると、同じクラスの友達の真鍋さんがこっちに向かって手を振って六海を呼んでる。

 

・・・ダメ。やっぱり風太郎君を置いていくなんてできない。

 

「あー・・・真鍋さん、ごめん!ちょっと忘れ物をしちゃって・・・すぐ戻るから先にバスに乗ってて!」

 

「え⁉ちょっと!今行ったらバスが・・・」

 

わかってる。今学校を離れたらバスは行ってしまうのは。でも一応は追いつく方法はあるから問題はないけどそれは相手には言わない。真鍋さんの声が響いてるけど、それどころじゃない。

 

「・・・六海?」

 

六海が走ってる途中で三玖ちゃんと目が合ったような気がするけど気にしてる暇はない!六海は走っていって学校の門の外へ出ていく。そしてそのまま風太郎君の家に走っていく。らいはちゃんは風太郎君に林間学校に行ってもらいたいんだ。風太郎君の思い出話をたくさん聞きたがってるに違いない。それを風太郎君の都合で潰させるわけにはいかない!

 

それに・・・さっき無関係と考えたけどそれは間違いだ。ほぼ赤点とはいえ、地理のテストで赤点を回避できたのは他ならない風太郎君のおかげだ。風太郎君がいなかったら、一生赤点のままだったと思う。だったら・・・せめてものお礼ってわけじゃないけど・・・林間学校で楽しい思い出を作らせてあげたいよ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

ただでさえ六海は体力がないからこうやって走り続けてるのは非常に疲れるなんてものじゃない。地獄のようなものだ。でも・・・それでも急がないと・・・!疲れたなんて言ってられない!

 

「あっ!」

 

走り続けていると足元がつまずいてこけてしまう。痛い・・・足から痛みがジンジンと響いてくる・・・。でも・・・止まるわけにはいかない!痛みに耐えながら六海は疲れた身体に無理をかけて走っていく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

疲れで息切れを起こしてるけど、ようやく・・・風太郎君の家までたどり着いた・・・。六海は息を整えながら風太郎君の家の扉を勢い良く開ける。

 

「風太郎君!!」

 

「⁉む、六海ちゃん⁉」

 

「!!??六海⁉お前、なんで・・・⁉」

 

「あれ?六海さん?来てくれたの?」

 

風太郎君が非常に驚いている中、六海の視線に映ったのは、すっかり元気になった様子のらいはちゃんだった。熱、治ったんだ・・・。そうとわかったとたん、六海は風太郎君と勇也さんに目をくれず、らいはちゃんに抱き着いた。六海の目元にはうれし涙を浮かべてるのが自分でもわかっちゃう。

 

「よかった・・・本当に・・・よかったよぅ・・・」

 

「六海さん・・心配かけてごめんね。でも、ありがとう!私はもう大丈夫だよ!だからお兄ちゃんと一緒に林間学校に行って来て!」

 

らいはちゃんの笑顔を見れただけでも、しんどくても汗まみれになった甲斐があったよ。

 

「そうだ。林間学校に行く前に・・・はい!頼まれてた六海の魔法少女漫画!」

 

「わあ!わざわざ私のために?」

 

「初めての挑戦だったから、うまく書けてるかわからないけどね・・・」

 

「それでもうれしいよ!ありがとう、六海さん!大好き!!」

 

六海の持ってきた漫画を受け取ったらいはちゃんはうれしかったのか満面の笑顔で六海に抱き着いてきた。喜んでもらえて、よかった・・・。

 

「わざわざそれを渡すために来たのか?てかバスは・・・」

 

「らいはちゃん、勇也さん、風太郎君借りていきますね」

 

「あ!おい!どこに・・・!」

 

「はーい!」

 

「おう!しっかり、楽しんで来いよ!」

 

らいはちゃんと勇也さんに見送られながら六海は風太郎君を連れて家の外に出た。

 

「さて、風太郎君。六海は怒ってるんだよ」

 

「だから・・・」

 

風太郎君が何かを言う前に六海は逆壁ドンをする。

 

「昨日林間学校に行くっていったよね?なんであんな嘘ついたの?」

 

「・・・らいはのためだ」

 

やっぱり・・・そういうと思った。

 

「それに、林間学校には興味ないからな」

 

「嘘だ」

 

「⁉」

 

林間学校に興味がない発言に六海はすぐに否定した。

 

「だってそのしおり、いっぱい付箋がついてるんだもん。本当は行きたかったんでしょ?」

 

「・・・・・・」

 

風太郎君が持ってるしおりにはたくさんの付箋がつけてあった。風太郎君は何も言わずに顔を俯いてる。

 

「それに、さっきらいはちゃんのためだって言ったよね?」

 

「あ、ああ・・・」

 

「六海、昨日言ったよね?らいはちゃんが望んでるのはお兄ちゃんの林間学校の思い出話だって!らいはちゃんの回復具合はずっとらいはちゃんの側にいた風太郎君が1番知ってるでしょ⁉どうせ勇也さんが帰ってきても残るつもりだったんでしょ⁉なんで頼ろうとしないの⁉」

 

「それは・・・」

 

「本気でらいはちゃんのためっていうなら、らいはちゃんのわがままを聞いてあげてよ!林間学校に来てよ!自分の都合で残ろうとしないで!!」

 

六海の説教に風太郎君はさらに顔を俯かせてる。

 

「・・・だがもうバスは・・・」

 

「まったく、2人して何してるんですか?」

 

風太郎君が口を開こうとした時、ここにいるはずのない声が聞こえてきた。後ろを振り向くと、五月ちゃんの姿があった。

 

「い、五月⁉」

 

「ど、どうして・・・?」

 

「どうしてって・・・迎えに来たに決まってるじゃないですか。六海を除いて、私しかここへ案内できませんからね」

 

五月ちゃんは六海の手を取って、風太郎君のかばんをとって六海たちを無理に引きずっていく。そこに待っていたのは・・・

 

「フータロー」

 

「おそよー」

 

「こっちこっちー!」

 

「たく、何してんのよ」

 

他のお姉ちゃんたち全員が揃っていた。その後ろには、江端おじちゃんの車があった。みんな・・・六海たちを待ってて・・・?

 

「事情は察しました。でも六海、知ってたならちゃんと声をかけてください。そうすれば、もう少し段取りが早かったのですよ?」

 

五月ちゃんは六海に優しい笑顔を向けてくれた。みんなが何も言わずに六海たちを待っててくれた・・・そのことがうれしくて、また涙を流してるのがわかっちゃった。

 

「えへへ、ごめんなさい」

 

「はい、許します。それから、上杉君。肝試しの実行委員ですが、暗い場所に1人で待機するなんてこと、私にはできません。あなたがやってください。お化け、苦手ですので」

 

「・・・仕方ない。行くとするか」

 

風太郎君はやれやれといった感じで頭をかいてるけど、その顔はなんだかうれしさが含まれてるような気がする。それでいいんだよ、風太郎君。

 

ふと足元を見ると、生徒手帳が落ちてた。中身を確認するとすぐに風太郎君の名前が出てきたから風太郎君の持ち物だとすぐにわかった。返そうと思った瞬間、六海はこの生徒手帳の中身が気になり始めた。

 

そもそも風太郎君に六海の秘密がばれた原因は風太郎君が勝手に六海のノートを見たからだし、仕返しはしたい。風太郎君の秘密を暴いてやる!

 

「あれ?生徒手帳・・・あ!お前!!」

 

風太郎君はすぐに気づいたけどもう遅いもんね。さーて、どんな恥ずかしい秘密が・・・ん?何これ?金髪の男の子の写真?

 

「誰これ?もしかして風太郎君って、あっち系?」

 

「(あっち系じゃないしそれは俺なんだが!!)

あ、ああ・・・親戚の写真だ。恥ずかしいから、あんま見られたくなかったんだが・・・」

 

「ふーん」

 

風太郎君って親戚がいたんだ。知らなかったよ。でも見るからに不良少年って感じがする。六海、不良さんあんまり好きじゃないんだよねー。

 

「それにしてもすっごい悪そうな顔。六海、間違ってもこの人とは付き合いたくないなー。これいつ撮ったの?」

 

「(二乃とは正反対だな・・・)

ああ、5年前にな」

 

5年前って言ったら・・・京都の修学旅行の時かー。

 

「・・・どこかで見たような・・・」

 

この男の子、どこかで見たような感じはするんだけど・・・何だろう?それに最近この顔を見たような・・・?

 

「六海ー!上杉さーん!早く早くー!」

 

「はーい!はい、風太郎君」

 

「あ、ああ」

 

四葉ちゃんに呼ばれたから六海は風太郎君に生徒手帳を返してすぐに車に乗り込んだ。

 

「みんな乗った?」

 

「もうちょっと詰めて」

 

「風太郎君、もうちょっと奥いってー」

 

「ようこそ上杉さん!どうですか、乗り心地は?」

 

「ああ!ふわっふわだ!」

 

「それでは・・・しゅっぱーーっつ!!」

 

四葉ちゃんの合図で車は出発して、六海たちの林間学校がスタートした。楽しみだな♪

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

五月SIDE

 

「六つ子ゲーム!!」

 

車が発車してから時間がたち、六海が元気よく六つ子ゲームの開始を宣言しました。どうやら林間学校の楽しみが勝ってるようで江端さんとお話ししてませんね。よかった・・・あのテンションの六海の長話は苦痛でしたから・・・。

 

「六海が描いたみんなの絵の顔のパーツをよく見て、六海たち姉妹の誰かを当ててもらいます!よく見ればわかるから頑張ってね!」

 

うーん、そうは言いますけどやっぱり絵は絵ですからね。私たちでも難しいと思うのですが・・・。

 

「まず第1問!私は誰でしょうかー?」

 

六海が最初に見せた絵は4つの短い線・・・ていきなり難易度が高すぎですよ⁉これは・・・パーツから察するに目と眉毛ですかね?瞼を閉じてるあたり、寝てるかにっこり笑ってるかどちらかですね。

 

「これ・・・笑ってる?なら、一花、かな?」

 

「二乃かな?」

 

「六海でしょ?」

 

「四葉!」

 

「六海でしょうか・・・?」

 

私が真っ先に思いついたのは六海がでした。言っておきますが、いつも笑顔で微笑むからという理由ではないですよ?

 

「・・・・・・」

 

「あ!こら!六海のスケッチブック取るの禁止ー!ルール違反ー!」

 

「くっ!ダメか!」

 

上杉君はスケッチブックを取ろうとしましたが禁止されて非常に悔しそうに拳を握っています。なんだかテンションが高いような・・・。

 

「・・・わかったぞ!この微笑は・・・四葉だ!!」

 

全員の答えが提示して、正解発表です。

 

「一花ちゃん以外ざんねーん♪正解は二乃ちゃんでしたー♪」

 

「やったー♪」

 

「え⁉アタシ⁉」

 

「なんでその二乃は中指を立てて裏返ってるんだ」

 

や、やられました!普段あんまりにっこりしない二乃をあえて選びましたか!完全にフェイントですよ!

 

「くっそー!次は当ててやる!」

 

それより車に乗ってから上杉君のテンションが高いんですが・・・。

 

「やけにハイテンションですね」

 

「ふっ、お前たちの家を除けば外泊なんて小学生以来だからな。もう誰も俺を止められないぜ!!」

 

「まぁ・・・もう1時間以上足止めくらってるんですけどね・・・」

 

ハイテンションな上杉君とは裏腹に、外は例年より早い猛吹雪が吹いています。そして今、大渋滞の中にいます。今日中に合流するのは無理ですね・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

今日中に合流できないとわかり、私たちは今日は宿屋で一晩を過ごすことになりました。しかし、何やら団体さんが急に泊りに来られたということで私たちに与えられた部屋は1部屋だけ。つまり必然的に・・・

 

「おおっ!いい部屋だな!」

 

「でも4人部屋だからきついよね」

 

そう、上杉君も同じ部屋にいるということです。しかもこの部屋は4人部屋なので寝る時部屋が狭くなるのは必須です。

 

「こいつ同じ部屋だなんて絶対嫌!!」

 

「団体のお客さんが急に入ったとかでこの部屋しか空いてなかったんだよー」

 

二乃は上杉君が同じ部屋で泊まることにたいしてものすごい不満を抱いていました。

 

「車があるでしょ?」

 

「午後から仕事があるって帰っちゃった」

 

「あ!ほら、旅館の前にもう一部屋あったでしょ?」

 

旅館の前の部屋・・・ていうよりあれは部屋ではなく犬小屋です。

 

「あ、明日死んでるよ~!」

 

「二乃ちゃん~、往生際が悪いよ。諦めて受け入れようよ~」

 

「ぐぬぬぬ・・・」

 

他に選択肢がなく、六海の言葉に二乃はかなり苦い顔をしています。私は六海が言うなら、仕方なく受け入れます。

 

「うん!いい旅館だ!文句言ってないで楽しもうぜ!!」

 

なんか上杉君、この旅館についてからさらにテンション上がってません?

 

「・・・はーい、女子集合ー」

 

二乃に呼ばれて私たち姉妹全員は部屋の隅に集まり、二乃の話を聞きます。

 

「不本意だけどご覧の通りよ。いいこと?各自気をつけなさいよ?」

 

「気を付けるって・・・何を?」

 

「それは・・・ほら・・・一晩同じ部屋で過ごすわけだから・・・あいつも男だってことよ!」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

二乃の言葉で言いたいことは察しました。今私たちの脳裏に浮かび上がったのは飢えた狼と化した上杉君の姿でした。

 

「・・・二乃ちゃんの考えすぎじゃない?」

 

「そうです。そんなことありえません」

 

「やろうぜ!!」

 

「「「「「「!!!???」」」」」」

 

ひいぃぃぃ!!?わ、私たちが話し合ってる隙に上杉君が私の背後にいぃぃぃ!!?

 

「な、何を⁉」

 

「トランプ持ってきた!やろうぜ!」

 

「と、トランプ・・・」

 

う、上杉君の手には・・・確かに、トランプがありますね。

 

「き、気が利くねー。懐かしいなぁ」

 

「何やります?」

 

「七並べっしょ!」

 

・・・だ、大丈夫ですよね・・・?私たちは、生徒と教師ですから・・・。・・・大丈夫ですよね?

 

♡♡♡♡♡♡

 

「んー、七並べ楽しかったねー」

 

「アタシはあいつと同じ部屋で疲れてるわ」

 

「意外に盛り上がりましたね」

 

七並べを終えた後、私は宿のエントランスホールのテーブルに置いてあったチェスをやっている六海と二乃の対戦を見学しています。少し休憩がてらに3人で宿を見て回っているときにチェスを発見したので六海がやろうと言い出したのがきっかけになっております。

 

「六海、足は大丈夫ですか?転んだって聞きましたが・・・」

 

「うん。大丈夫だよ。血は出てないからね」

 

「それはよかったです。でも、今回のことはこれっきりにしてくださいよ?」

 

「うん。今日はごめんね?あ、キングはこっちに移動っと」

 

私が六海が1人で上杉君の家に向かったとわかった時、少し怒りはありました。なんで私たちに相談しなかったのかって。でも、本人も反省してるようですし、その怒りもなくなりましたが。

 

「正直、アタシはあいつが来なくてもよかったんだけどねー。うーん、この場合はどうしよう・・・」

 

「それじゃあらいはちゃんが悲しむよー」

 

「ええ。わかってます。らいはちゃんのためにやったことなんですよね?」

 

「うん。らいはちゃんが元気になってよかったよー」

 

「ま、それは確かに喜ばしいわね。これを・・・ここに移動・・・」

 

らいはちゃんが風邪と聞きましたが、元気になって私もほっとしています。本当に良かったです。

 

「はーい、チェックメイトー!」

 

「え!ちょ、待って!」

 

「待たないよー、勝負は非情なのだー」

 

チェスの盤面を見る限り、この勝負は六海の完全勝利ですね。六海は外の遊びが苦手な分、こういう部屋でできる遊びは大得意なのです。それはおそらく、三玖といい勝負ができるほどだと思います。

 

「いぇーい!六海の勝ちー!」

 

「ちょ、ちょっと待って!もう1回!もう1回勝負よ!」

 

「ず、ずるいです!負けた方が交代っていうルールでしょ⁉」

 

「いいじゃない別に!このまま負けっぱなしは嫌よ!」

 

「次は私ですー!」

 

私たちは夕食の時間までチェスで楽しみました。七並べに負けないくらい白熱しました。でも結局勝ったのは全部六海ですが。

 

♡♡♡♡♡♡

 

そろそろ夕食の時間となり、私たちは部屋に戻ってごはんの到着を待っています。しばらく待っていますと、宿の人たちがご飯を持ってきてくれました。天ぷらに塩焼きに活け造り・・・ど、どれも・・・おいしそう・・・!

 

「すっげぇ!タッパーに入れて持ち帰りたい」

 

「わかるー!そしたら家でも食べられるし!」

 

「2人とも、やめてください」

 

上杉君と六海の気持ちはわかりますが、非常識ですよ。

 

「でも、こんなの食べちゃっていいのかなー?明日のカレーが見劣りしそうだよー」

 

確かに・・・なんだか申し訳ない気分になってきました。

 

「三玖、あんたの班のカレー、楽しみにしてるわ」

 

「うるさい。この前練習したから」

 

「そういえば、林間学校のスケジュール見てなかったかも」

 

私は一応確認しましたがまだうろ覚えで・・・えっと・・・

 

「2日目の主なイベントはオリエンテーリング、飯盒炊飯、夜は肝試し。3日目は自由参加の登山、スキー、釣り、そしてキャンプファイヤー」

 

「なんでフータロー君暗記してるの・・・?」

 

「歩くメモ帳みたいー」

 

私たちでもうろ覚えなのになんで上杉君はそんなテキパキに言えるんですか?しかも確認してみれば、全部当たってますし・・・。

 

「あ!後新しい情報では、キャンプファイヤーの伝説はフィナーレの瞬間手を・・・」

 

「またその話か」

 

「伝説?」

 

「関係ないわよ。そんな話したってしょうがないでしょ?どうせこの子たちに相手なんていないでしょ?」

 

「「「!!!」」」

 

まぁ、それもそうですね。そもそもそんな伝説自体も興味ありませんし。

 

「ま、伝説なんてそんなくだらないことどうでもいいけど」

 

「多分二乃、誰からも誘われなかったんだと思う」

 

「そっか!拗ねてるんだー!」

 

「二乃ちゃん、嘘はいけないな~?」

 

「あ、あんたたちねぇ!!」

 

・・・二乃、結局伝説信じてるじゃないですか・・・。

 

「あははは・・・あー、ほら!ここ露天風呂があるみたい!・・・え?混浴?」

 

!!!!????

 

「はあ!!?こいつと部屋のみならずお風呂も同じってこと!!?」

 

「や、やだよ!!恥ずかしいよ!!」

 

「言語道断です!!」

 

「なんで一緒に入る前提?」

 

混浴だなんて信じられません!!そんな・・・は、は、破廉恥な!!

 

「二乃・・・一緒に入るのが嫌だなんて心外だぜ。俺とお前はすでに経験済みだろぉ~?」

 

「なっ!!?」

 

「二乃?それどういうこと?」

 

「ば・・・ちが・・・!わざと誤解を招く言い方すんな!!」

 

「ははは!いつもの仕返しだ!」

 

今日の夕食はあまりに騒々しかったですが、ちょっと楽しかったかもしれませんね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「んんー、気持ちいい!」

 

「んー、混浴じゃなくて温浴だったね♪」

 

「みんなと一緒にお風呂に入るなんて、何年ぶりでしょう」

 

「あ、三玖のおっぱい大きくなったんじゃない?」

 

「みんな同じだから」

 

「六海、こんなにおっぱいいらないのに・・・」

 

夕食を食べ終えたら私たちは姉妹揃って外の景色を楽しみながら温泉に浸かっています。混浴じゃなくて本当によかったです・・・。今初めて知りましたが六海はさすがにお風呂の時はメガネ外すんですね。

 

「それにしても、今日のあいつ絶対おかしいわ」

 

「上杉さん普段旅行とか行かないのかな?」

 

「まるで徹夜明けのテンションだったね」

 

それはわかります。車の時からずっとあのテンションでしたし。

 

「とにかく、あのトラベラーズハイのあいつは危険よ。問題は・・・あの狭い部屋にギリギリお布団が7枚・・・誰があいつの隣で寝るか」

 

やっぱり問題はそこになってきますよね。今私たちはまた飢えた狼と化した上杉君を思い浮かべてます。

 

「ああ・・・二乃、考えすぎじゃない?私たち、ただの友達なんだし」

 

「そうだよ!上杉さんはそんな人じゃないよ!」

 

四葉、前を隠してください。見えています。

 

「じゃああんたが隣でいいってこと?」

 

「うぇ?」

 

「上杉はそんな奴じゃないから心配ないんでしょ?」

 

「そ、それは・・・ちょっと・・・どうなんだろう・・・?」

 

二乃の言葉に四葉は頬を赤らめています。ついでにウサギリボンも垂れてしまっています。どういう原理でしょう?

 

「やっぱり二乃ちゃんの考えすぎじゃない?風太郎君にそんな度胸あるとは思えないし」

 

六海は四葉の垂れてしまったリボンをもとに戻してそう言ってますね。まぁ、それは一理ありますね。

 

「じゃああんたが隣でいいんじゃない?」

 

「それとこれとは話が別だよー。だって、恥ずかしいし・・・」

 

六海も六海で上杉君の隣で寝るのは嫌みたいですね。私も嫌ですが。

 

「それでは、二乃ならどうでしょうか?」

 

「は⁉なんでアタシ⁉」

 

「いえ。二乃なら殴ってでも抵抗してくれそうなので」

 

「・・・一花!あんたなら気にしないでしょ⁉」

 

「おっと、私に来たか・・・」

 

二乃も嫌なのか一花に話を振り出しましたね。

 

「ただの友達なんでしょ?」

 

「・・・うん。フータロー君は、いい友達だよ」

 

「ならいいじゃない」

 

「待って!」

 

話がまとまりかけてるところに三玖がストップをかけてきました。

 

「平等・・・みんな平等にしよう・・・」

 

みんなで、平等?いったい三玖は何を考えたのでしょう・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

「なるほど、考えたわね」

 

「誰も隣に・・・」

 

「行きたくないなら・・・」

 

「全員が隣に行けばいい・・・」

 

「まぁ、誰かもわからない相手に・・・」

 

「手も出さないだろうし」

 

「少なくともフータローから見たら」

 

お風呂から上がり、浴衣に着替えた私たちが出した結論は、全員前髪を両サイドに分けて誰が誰かを見分けられないようにする作戦ですね。多分大丈夫だと思いますが・・・不安が残ります。

 

「さあ、行くわよ!」

 

二乃の一声で意を決して部屋の中へと入ります。そうして視線に映ったのは・・・

 

「zzz」

 

7枚のお布団のうち、上真ん中に位置している場所で上杉君がただ1人眠っている姿でした。誰が隣とかいう以前に、寝ているのであっては、私たちが危惧していたことはなくなったということですね。

 

「・・・えーっと・・・アタシたちも寝よっか」

 

なんだかバカバカしくなってきた私たちはすぐにそれぞれ布団に入り、寝ることにしました。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日、姉妹の中で誰よりも早く起きた私は係の人に今日の朝食について聞きに行っています。どうやら食堂で用意しているらしいですね。

 

・・・それにしても朝起きた時、みんなの寝相がひどかったのは驚きましたね。全員が布団からはみ出してしまっていましたし、寝ている場所もみんなめちゃくちゃでしたから。と、そう考えてるうちに部屋までたどり着きましたね。

 

「もう朝ですよ。朝食は食堂で・・・」

 

部屋を見た瞬間、私の視界に映ったのは・・・まだ寝ている上杉君に、姉妹の誰かが・・・⁉

 

バタンッ!

 

何が何だかわからず私は部屋のドアを閉めました。・・・え⁉嘘・・・あれって・・・

 

「中野?中野じゃないか!ここで何やってるんだ?」

 

「え?」

 

何やら聞き覚えのある声が聞こえたので振り返ってみますと・・・先生方がそこにいました。え?まさか・・・団体で泊まってたお客さんって・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「まさか、こいつらも雪のせいで同じ旅館に泊まっていたとはな・・・。よく会わなかったものだ」

 

あの旅館で思わぬ合流を果たせた私たちはそれぞれのクラスのバスに乗って目的地に向かっています。私と上杉君は1組なので1組のバスに乗ってます。

 

「?どうした?」

 

「!い、いえ!」

 

それよりも私が今考えているのはあの旅館で見たあの光景でした。よく見てないから判断つかないけれど・・・あれは・・・私の姉妹の誰かが、上杉君を・・・。

 

・・・先の試験で指導してくれる人の必要性は感じていました。ですが彼は私の理想とする家庭教師像からかけ離れすぎています。私たちは生徒と教師。もし生徒が好意を抱いたとしても、それを正しく導いてやるのが教師の役目。上杉君、あなたが家庭教師に相応しいかどうか、この林間学校で、確かめさせていただきます。

 

11「結びの伝説1日目」

 

つづく




六つ子豆知識?

『五月のものまね』

五月「三玖は姉妹の変装がうまいですよね」

三玖「でも五月の場合だと六海に負ける」

一花「そうなんだ!六海、試しに五月ちゃんの真似してみて?」

五月「オチが読めました!どうせ大食いキャラになるんでしょう!」

六海「風太郎君が家庭教師と知った時の五月ちゃんの真似を。ガーン!!」

五月「ガーン!!まさかのチョイスでしたー!」

六つ子豆知識? 今話分終わり

次回、四葉、二乃、風太郎視点

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。