それから、六海ちゃんの水着の仕入れ先を紹介に追加しました。
アンケートの結果は1番下になります。次が番外編アンケート最後になります。
六海SIDE
「ねぇ・・・答えてよ。六海になんか隠してるでしょ?」
キンちゃんとのデートを終えた次の日の学校の放課後、六海は風太郎君に何か隠しごとがないかと尋ねてる。一花ちゃんは風太郎君の付き添いで来てるみたいだけど。
というのも、昨日キンちゃんにお礼言うの忘れてたから風太郎君に電話しようとしたよ。でも、全然出る気配がなかったから、それなららいはちゃんに頼もうと考えたよ。親戚ならキンちゃんの名前くらい知ってるしね。・・・でも帰ってきた返事が・・・
『あの・・・うちの親戚にそのような名前の人はいませんよ?』
信じられなかった。いくららいはちゃんの言葉でも六海にはどうしてもキンちゃんがいないなんて思えない。いや、信じたくなかった。だから今こうしてキンちゃんと会ったという風太郎君に詰め寄ってる。どうしてもキンちゃんは存在してると確かめたかったから。
「いや・・・あの・・・だな・・・」
何か言おうとしてもたじたじな様子の風太郎君を見ていると無性にイライラしてたまらない。これじゃあまるで・・・本当にキンちゃんがいないんじゃないかってそんな気がしてたまらなかった。だから今の六海の顔は怒ってるようにも見えると思う。
「あ、あのね、六海?フータロー君にもふか~~い事情があって・・・」
「一花ちゃんは黙ってて」
「はい・・・」
一花ちゃんは風太郎君に弁明しようとしたみたいだけど、今の六海はそんなの聞いてる余裕はなかった。ふとしたら、風太郎君のしょってるかばんに目を向けた。そういえばあの雑貨屋さんでのキンちゃん、妙に風太郎君と似ていたところがあったけど・・・
「・・・ちょっとそのかばん見せて」
「え?あ!おい!」
六海は風太郎君のかばんを無理やりぶんどってぶんどってその中身を確認する。いろいろがさごそとあさっていると、あるものを見つけた。それは、昨日六海がキンちゃんにあげたもの。
「ねぇ・・・なんでこのキーホルダーを風太郎君が持ってるの?」
「そ・・・それは・・・」
どんどん顔色が青ざめてるような気がしたけどそんなことよりこれが重要。このメガネのキーホルダーはキンちゃんにあげたのであって風太郎君にはあげてない。どんどん六海の疑惑が浮かび上がっていく。まさか・・・いや・・・絶対にそんなことあるはずがない・・・。
「・・・ふぅ・・・わかった。いつかはこうなるだろうと思った。だから正直に話そう」
「フータロー君、本当に言う気?」
「もう・・・ここまで来たら逃げ道などない」
何の話をしているのかわからない六海をよそに覚悟を決めた顔をして全てを話しをしようとする風太郎君。この時の六海の気持ちはだんだんと嫌な予感がこみ上げてくる。
「六海・・・よく聞いてくれ。」
お願い・・・六海の気のせいであって・・・。キンちゃんはちゃんといるんだって言って・・・お願い・・・!
「金太郎の正体は俺だ。金太郎という奴は、初めから存在しない」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
「嘘・・・キンちゃんが・・・風太郎君・・・?」
風太郎君の言っていることが何を示しているのか全く分からなかった。キンちゃんが・・・風太郎君?そんなバカなことが・・・。今六海の気持ちは疑心暗鬼でいっぱいだった。
「混乱してるだろう。当然だ。あれほど尊敬していた奴の正体が、よりにもよって俺なんだからな」
六海の気持ちをよそに風太郎君は自分の気持ちをしゃべってる。
「どうせもう金太郎になることはないなら、多くを語らず、このまま墓場まで持っていけばいいと俺は思っていた。そこに今回の件だ。だから考えちまうんだ。正体を明かすべきかどうかをな」
やめて・・・これ以上のことは聞きたくなんかない。六海は今、黒い感情がどろどろとこみあがってきてるからやめて・・・。
「せめてお前にはちゃんと話しておくべきだった。そうすれば、こんな混乱を招かずに済んだかもしれない。だから・・・すまなかった」
風太郎君は誠心誠意を込めて謝ってくれてる。それで済めばどれほどよかったことか。でも・・・それとは対照的に六海の気持ちは黒く染まっていってる。
「・・・一花ちゃんは知ってたんだ。このこと・・・」
「そ、それは・・・」
「みんなよってたかって六海を騙してたんだ・・・」
違う・・・こんなこと言いたいわけじゃない・・・言いたいわけじゃないのに・・・気持ちがどうしても最悪な方に向かっていってる。
「違う!一花は関係ない!悪いのは俺・・・」
ダメ・・・もう気持ちが限界・・・!
バチンッ!!
「む・・・六海・・・?」
「・・・サイッテー!!バカにしないでよ!!」
「・・・すまなかった」
「・・・あ・・・」
やってしまった・・・頭じゃやりたくなくても、言いたくもない言葉でも、黒い気持ちが強すぎて表に出してしまった。六海は・・・風太郎君に引っ叩いちゃった・・・。
「ち、ちが・・・これは・・・違うから!!」
もう頭がごちゃごちゃしててわからなくなっちゃったよ。六海は抑えきれなかった感情を否定するかのようにその場から逃げ出した。
「六海⁉」
後ろから一花ちゃんの声が聞こえてきたけど、気にすることができない。無我夢中で気が付いていなかったけど、今の六海の目には涙が溢れちゃってたんだ。
♡♡♡♡♡♡
『六海を信じる』
「行っちゃった・・・大丈夫?フータロー君」
「ああ・・・大丈夫だ」
六海が走っていった後、一花はビンタされた風太郎に心配そうに声をかける。大丈夫と言っているが、風太郎の頬にはビンタされた跡がくっきりと残っている。
「ごめんね・・・あの子のメンタルが弱いばっかりに・・・」
「いや・・・もっと早く真実を明かさなかった俺が悪い。気にするな」
一花は風太郎に申し訳なく思うが、風太郎はこれは自分に否があると言い張る。
「私・・・六海を追いかけてくる!」
「いや、やめとけ。今行ったって逆に突っぱねられるだけだ。お前もわかってるだろ?」
「でも・・・」
「余計あいつを拗らせて関係が壊れるのはお前も嫌だろ?」
「・・・うん・・・」
一花は六海を追いかけようとしたが、これ以上悪化するのはよくないと思い、風太郎がそれを止めた。
「はぁ・・・もうじき期末試験があるって時にこれか・・・世話が焼ける・・・まぁ、俺が悪いんだが・・・」
「・・・六海、どうするんだろう・・・?」
「・・・あいつがあんなだから今は無理だが・・・俺はもう1度あいつと話をつけようと思う。またあいつは混乱するだろうが・・・あいつならきっと乗り越えるだろうと信じてる。いや・・・信じるしかないんだ」
これからの方針、そして、自身が抱いている風太郎の気持ちを聞いた一花は少しだけ頬を朱に染める。
「・・・へぇ、フータロー君がそんな風に言う日が来るとはねぇ・・・やっぱり六海に気があったりして?」
「からかうな。別にそんな目で見てねぇ。ただ・・・このまま隠したままじゃダメだって思っただけだ。ちゃんと向き合わねぇと。そして、いつか二乃にも・・・」
「え?二乃?」
「何でもねぇよ」
なぜ二乃の名前が出てきたのかわからない一花は首を傾げ、風太郎はそっぽを向いてはぐらかす。
とんとんっ
「ん?なんだよ・・・」
自身の肩を叩かれ、どうせ一花だと思い風太郎は後ろを向く。
「よぉ、上杉・・・大事な話のとこすまんの。今日こそは、ハッキリしとこー思うてな」
しかしそこにいたのは一花ではなく、自分に突っかかってくる坂本だった。風太郎は坂本のことをすっかり忘れ、顔を青ざめる。
「い、いち・・・」
「ごめんねー・・・これからおしご・・・バイトなんだ。じゃ、後はごゆっくり~」
「あ!てめ、一花!逃げんな!」
面倒ごとに関わるのはごめんだといわんばかりに一花はその場から逃げるように去っていった。
「さあ上杉。今日は部活は休みなんでとことんまで話せるで。向こう行って語り合おうや」
「・・・もう、勘弁してくれ・・・」
坂本は風太郎が逃げられないように風太郎の肩に腕を組ませる。どなどなと連れてかれる風太郎は非常にげんなりとした顔になる。
♡♡♡♡♡♡
「ぐすん・・・ぐすん・・・」
風太郎君から逃げた後、六海は河原の前までやってきて、ただ1人で泣いていた。風太郎君から告げられた真実に黒く込みあがってきた感情は・・・怒り、そして悲しみが入り混じったものだった。この感情が出た原因はきっと、六海を騙していたこと、そしてキンちゃんは本当にいないんだということだと思う。
どうしてこんな感情が流れたのか・・・六海なりに考えたよ。たどり着いた考えは、とっても簡単なことだと思う。
「・・・諦めきれなかったんだと思う・・・」
実際、六海はキンちゃんに優しさに触れて、キンちゃんに恋心を抱いちゃったんだ。でも、そのキンちゃんに二乃ちゃんも惚れてる。それが原因で林間学校で大喧嘩になったわけだし。もう喧嘩しないためにもキンちゃんから手を引こうと考えたよ。でも・・・それでも心の奥底ではやっぱり諦めたくない気持ちはあったんだ。
だからこそ許せなかったんだと思う。六海と二乃ちゃんの想いを踏みにじった風太郎君が、そして、抱いていた恋が全部幻だったんだということに。行き場のない怒りをぶつけないと気が済まなかったんだと思う。でもだからといって風太郎君を叩きたかったわけじゃない。変に勘違いした六海も悪いんだから・・・。
「はぁ・・・」
どうも一花ちゃんも知ってる様子だったから、今一花ちゃんと顔を合わせたらまたやり場のない怒りをぶつけてしまいそうでどうにも帰る気分ではない。どうしよう・・・。
「あら?六海じゃない」
六海が悩んでいると、バットを持っている六海の友達の真鍋さんが通りがかった来た。
「こんなとこで何やってんのよ?」
「真鍋さんこそ・・・」
「私はまぁ、練習よ。ちょっとは腕磨いとかないとさ」
あ、そっか。真鍋さんソフトボール部に入ってるんだった。それで・・・。
「で?あんたは?」
「・・・・・・」
「・・・ま、言いたくないならいいけど」
六海の暗さを察したのか深く聞かないでくれた。やっぱり真鍋さんは優しい・・・。
「家どこよ?ここで別れんのもなんだし、送ってってあげるわ」
「・・・帰りたくない」
「はい?」
六海が家に帰りたくないことを言ったら、怪訝な顔をされた。だって今帰ったらまたやり場のない怒りが・・・。
「・・・訳アリってわけね」
六海の顔を見て、いろいろと察した真鍋さんはため息をこぼして頭をかく。
「・・・泊まるとこないなら、うちくる?」
「・・・え?」
今、真鍋さんはなんて言ったの?泊まる?真鍋さん家に?
「ちょうど人手が欲しかったところなのよ。あんたでよければ、うちに泊めてあげるけど、どう?」
正直、この申し出にはありがたかった。今どうしても家に帰る気にはならなかったから。
「うん・・・」
「よし。じゃあほら、立って。案内するわ」
真鍋さんの優しく差し出された手を握って六海は真鍋さんが住んでる家まで向かっていった。どんな家だろう?
♡♡♡♡♡♡
「わあ・・・すごい・・・」
案内された真鍋さんの家はすごかった。六海たちのマンションほどの大きさじゃないにしろ、建物はものすごく大きかった。それに庭にはブランコみたいなたくさんの遊具もあったりするし。
「全然すごくないわよ。ただでさえお金のやりくりにまいるんだから・・・理由はすぐにわかるわ」
真鍋さんは六海の関心を一蹴するかのように入り口のドアを開けた。
「今帰ったわよー、子供たちー」
・・・うん?子供たち?なんか奥からどたどた音が聞こえてくるし・・・。
『恵理子姉ちゃんおかえりー!!』
うぇ⁉奥から子供たちが出てきた!それも1人や2人じゃない!いっぱいいる!
「いい子にしてた?」
「うん!してた!」
「院長先生がお歌褒めてくれたー!」
「そう。よかったわね」
「恵理子姉ちゃん!あそぼーぜー!」
「はいはい、後でね」
真鍋さんは子供たちに向かって優しい笑顔を浮かべてる。え・・・どゆこと?
「まぁ見ての通りよ。ここ、孤児院だから」
孤児院⁉どうりで建物が大きかったし、子供が多いわけだ。すごくないって言ってるけど、めっちゃすごいじゃん!
「恵理子姉ちゃん。その人だーれー?」
「友達よ。今日はこの子が世話になるけど、仲良くね」
『はーい!!』
真鍋さんが六海を紹介したら、子供たちが六海に近寄ってきた!か、かわいい・・・♡あの子も、この子も・・・なんて幸せなんだろう・・・♡
「おねーちゃん、あそぼー♪」
「おねーちゃん何が得意?」
「好きな食べ物はー?」
「お歌は好きー?」
あぁ・・・すごい質問攻めにあってる・・・♡子供たちにこうされるのたまらない・・・♡
「・・・姉ちゃん、おっぱいでけー」
「!!!??」
「たしかにー。すごい大きいよねー」
む、六海が気にしてる部分をずけずけと・・・!これだけは触れられたくなかった・・・!
「このエロガキ共!!」
「わー、恵理子姉ちゃんが怒ったー♪」
「恵理子姉ちゃんの貧乳ー♪」
「ぺったんこー♪」
「うっさい!!向こう行きなさい!!」
子供たちは楽しそうにしてるけど、お、怒ってる真鍋さんは初めて見た・・・。た、確かに真鍋さんのスタイルは抜群だし、運動神経もいい・・・そして何より、おっぱいがまな板みたいに小さい。まさに六海の理想の体つきだよ。
「たく・・・気にしてることを・・・」
「だ、大丈夫だよー。真鍋さん、スタイルいいから」
「そう思うならその無駄にでかいものを私にちょうだいよ」
「お、おっぱいあってもいいことないよー?絵を描くときたまにキャンパスに当たるし、すごい肩までこっちゃうんだから」
「それは持つものの贅沢というものよ。私だってそういうことで悩みたいわよ・・・」
怒ったと思ったら今度はしくしくと泣き出しちゃった。悪いことしてないのになんか罪悪感が・・・。
「ま、まぁ・・・それはいいわ。それより六海、子供たちの相手をお願いできない?あんたの姉に連絡入れとくから」
「あれ?真鍋さん、お姉ちゃんの連絡先知ってるの?」
「ええ。たった1人だけだけど。悪いようにはしないから、ほら、子供たちの相手をお願いね」
真鍋さんは片手だけだしてよろしくしてそのまま2階に上がってっちゃった。六海は子供たちにせがまれて子供たちの遊び相手になってあげた。こういうのをなんていうのかな?幸せの独り占めかな?とにかくもうかわいい子供たちに囲まれて六海、幸せ・・・♡
♡♡♡♡♡♡
『帰りを待つ姉5人』
「・・・帰ってこないわね、六海」
「こんなに遅いの、初めて・・・」
「どうしよう・・・事故にあったりしてないよね・・・?」
「お腹がすきましたぁ~・・・」
中野家では姉5人が六海の帰りを待っているのだが、一向に帰ってくる気配がないので心配をしている。五月はお腹がすいていて机に突っ伏しているが。
「・・・・・・」
姉妹の中で唯一事情を知っている一花は浮かない顔をしている。
「・・・一花?どうしたの?」
浮かない様子の一花に気付いた三玖は声をかけた。
「・・・みんな、あのね・・・六海は・・・」
一花が今日のことを話そうとした時・・・
ヴゥー、ヴゥー
「あ、ごめん!私からだ!」
四葉のスマホから着信が来て、四葉はすぐに電話に出る。
「・・・どうしたのよ?」
「・・・ううん、何でもない」
本当に話すべきなのかと戸惑った一花は言葉を濁した。
「お疲れ様です、真鍋さん!助っ人が欲しいときはまたいつでも声をかけてくださいね!」
四葉の電話にかかってきたのは真鍋だったようで四葉は笑みを浮かべながら電話に対応している。
「・・・え?はい・・・はい・・・。わかりました。よろしくお願いしますね」
電話の対応を終えた四葉は姉妹たちに電話内容を伝えた。
「今日は六海、友達の家に泊まるんだって」
「なんだ、そういうこと。通りで帰ってこないわけだわ」
「心配して損した」
「ということは今日は六海は食卓にいないわけですか。なんだか寂しいです・・・」
内容を聞いて姉妹たちはほっと一安心。五月は少し寂しさを感じ取っていた。
「それならさっさとご飯の支度でもしましょうか」
「待ちくたびれましたぁ~・・・」
二乃はせっせとご飯の支度をしにキッチンの方へと向かっていった。他の姉妹もご飯ができるまで自分の部屋へと戻っていった。
「やっぱり六海・・・今回のこと気にして・・・」
残った一花は六海のことが気がかりで心配そうに玄関への道をじっと見つめていた。
♡♡♡♡♡♡
孤児院で子供たちと遊んだり、ご飯食べたり、お風呂に入ったりしてたらもうすっかり就寝の時間になっちゃって、六海は客室でただ1人ベッドに寝転がっていた。
「・・・眠れない・・・」
1人でいると妙に風太郎君とキンちゃんのことを思い浮かべちゃって中々眠れなかった。あんな真実を聞かされた後じゃ、風太郎君とどう接すればいいのかって考えこんじゃうんだ。また行き場のない怒りをぶつけてしまいそうで、怖いよ・・・。
睡眠薬を持ってきてないから眠れない。だから非常に困る。六海は少しでも寝る工夫をするために水を飲みに行こうと客室から出た。そうしてリビングルームにたどり着くと、人がいるのが見えた。あれは・・・真鍋さん?ただ1人で写真を見つめて何してるんだろう・・・?
「・・・あら、六海。眠れないの?」
「うん・・・。その写真・・・」
六海は気になって真鍋さんの持ってた写真を尋ねてみた。写真に写ってたのは、仲のよさそうな夫婦が赤ん坊を抱えてる姿だった。
「ああ、これ?両親の写真らしいのよ」
「らしい?」
「私の両親ね、私が2つの時に事故で亡くなったみたいなのよ」
・・・え・・・真鍋さんの両親が・・・?
「身寄りのない私を院長が引き取られて孤児院生になって今に至る、のかしらね」
「ご、ごめん・・・聞いちゃまずかった・・・?」
「別にいいわよ。あんま覚えてないし」
悪いことを言っちゃったと思ったけど、真鍋さんは特に気にした様子はなかった。
「・・・寂しくないの?」
「別に。生んでくれたことには感謝してるけど、私にとって家族は、孤児院のみんなだからね」
真鍋さん・・・本当は両親に二度と会えなくて寂しいはずなのに、それ以上に子供たちの未来を思ってくれてるような笑みを浮かべてる。責任感強い性格は、きっと子供たちをまとめてきたからだろうなぁ。
「・・・孤児院ってのは言ってみれば行き場をなくした子供たちの集まりだからね。みんないろんな辛い事情を持ってる。私だって例外じゃない。それでも・・・子供たちはみんなそれを共有しあって今を生きてる。まぁ・・・だから、さ、あんたもあんま辛いこと抱え込みすぎないでよ?私は、あんたの味方だからさ」
真鍋さん・・・六海を気を使ってくれて・・・
「ま、言いたくないなら無理に言わなくてもいいよ。私は、いつでも待ってるよ」
真鍋さんがここまで言ってくれてるんだ・・・真鍋さんなら、話してもいい、かな?
「待って・・・ちゃんと、話すよ」
六海はこれまでの経緯を真鍋さんに話したよ。真鍋さんは真剣に話を聞いてくれた。
「ふーん、なるほど・・・」
いろいろ納得すると、真鍋さんはぷっと笑いをこみ上げてる。
「ぷっ・・・くくく・・・」
「ちょっと!」
「ああ、ごめんごめん。これはあんたじゃなくて、上杉に笑ってんのよ。ぷぷぷ・・・あの上杉がねぇ・・・」
・・・あれ?その口ぶり、まるで風太郎君を知ってるような・・・。
「風太郎君を知ってるの?」
「知ってるも何も、中学の同級生よ」
!!驚いた・・・まさか風太郎君が女の子と仲良くやってたなんて・・・
「ま、今も昔も、私の名前を覚えてないんだけどね」
前言撤回。やっぱり風太郎君は風太郎君だよ。
「あいつとの出会いは最悪だったわ。私が食堂で弁当を食べようと席に座ろとした時、あいつも同じ席でね。互いに席を譲れって言い合いをしたもんだわ。結局最後までいがみ合いながらご飯食べてたけど」
あれ?これなんかデジャヴじゃない?六海たちと最初に出会った時の。
「そんな出会い方だけどさ、あいつと普通にしゃべれるようになったきっかけはあったよ?あれは確か・・・中1の時弁当を忘れた時だっけか」
♡♡♡♡♡♡
『この教室に真鍋って奴いるか?』
『・・・真鍋は私だけど?』
『なんだお前かよ、性悪女』
『なんか用?クズ野郎』
『これ、お前の弟が届けにきたようでな。預かってきた』
『!あんた・・・わざわざこれを届けるために?』
『別にお前のためじゃねぇ。ただ・・・迷子になって、学校でうろうろされるのは迷惑だった。それだけだ』
『だからって預かってわざわざ届ける必要ある?』
『うるせぇな。ちゃんと届けたからな。それと、弟、大事にしろよ』
『・・・私、一人っ子なんだけど』
♡♡♡♡♡♡
「意外だったわ。子供たちが上杉を信じて弁当を預けたってのがね」
本当に意外過ぎる展開だったよ。理由は風太郎君らしいけど、わざわざその人のために動いてくれてたなんて想像すらしてなかったよ。
「ま、いい奴だってわかって以来、月に何回か話すようになったわね。ま、たいてい無視を決め込んでんだけど」
やっぱりこの辺は変わってないなぁ。他人には無関心なところは。それから真鍋さんは六海たちの知らない風太郎君をいっぱい話してくれた。聞けば聞くほど、風太郎君にたいして意外性を感じるよ。
「・・・まぁ、ここまで話してきたけどさ、本当に意外なのよ。あんたら六つ子と上杉の関係がさ」
「え?そうかな?」
「そうよ。あいつが自分から勉強を進んで教えようなんてこと、中学じゃ一切考えられなかったし」
あ、真鍋さんは知らないんだった。風太郎君が六海たちの家庭教師だってことを。
「それに何回かあんたらを見かけたけど、上杉の奴、最近いい顔するようにもなった。中学とは比べ物にならない変化よ、あれは」
「えーっと・・・そんなに?」
「まぁ、つまり、何が言いたいかって言うとさ・・・」
真鍋さんは六海に指をさして、堂々と言葉を言い放った。
「上杉にとってあんたら六つ子はね、特別な存在になりつつあるのよ」
・・・うん?特別?特別って何?
「えっと、その特別って友達として?それとも・・・」
「さあ?どっちだと思う?」
「もう、そうやってはぐらかす・・・」
その特別の意味が知りたいのに、真鍋さんはいたずらっ子のような笑みを浮かべてる。いじわる・・・。
「ま、少なくともあいつが変わったのは、あんたらが影響してるのは間違いないけどね」
「!」
「あいつはね、自分の過去を話したがるような奴じゃない。ましてや過去の自分になるなんてなおさらよ」
過去の自分って・・・明らかにキンちゃんのことを言ってるん・・・だよね・・・?
「林間学校では十中八九トラブルがあってだけど、今回は自分からだもの。これは、元気がないあんたを元気づかせるためだと私は思ってるわ」
「そ、それは・・・違うよ・・・ただ、自分のためにやってるんだよ、きっと・・・」
「だからってやらないわよ、あいつは。絶対に」
六海が反論しようとすると真鍋さんは確信をもって言い返される・・・。風太郎君が・・・六海のために・・・?ありえないよ・・・。
「六海」
真鍋さんは六海の両肩を掴んできた。
「1回上杉と話し合ってきなさい。あいつの想いを聞けば、あんたの世界は、きっと変わると思うわ」
六海の中の・・・世界・・・
「ふわぁ・・・さすがに眠くなってきたわ。六海も早く寝なさいよ。おやすみ」
真鍋さんはあくびをしながら自分の部屋へと戻っていっちゃった。六海たちが、特別・・・風太郎君が六海たちをどう思ってるか・・・。・・・もう、真鍋さんのせいで余計に頭がぐるぐるしちゃうじゃん。当然ながら、そんなことばかり考えているから、余計に眠れなくなっちゃった。
♡♡♡♡♡♡
翌日、今日は学校がある日だったから真鍋さんと一緒に登校することになった。学校につくや否や、お姉ちゃんたちが駆け付けてきた。本当に心配していたみたいで、罪悪感が芽生えてくる。一花ちゃんとも会ったけど、あんなに心配されてる姿を見たら、昨日ほどの怒りの感情は芽生えてこなかった。そして、今現在お昼休み・・・
「ねぇ・・・もうちょっと離れてほしいんだけど・・・」
「嫌です。昨日六海がいなくて寂しかったですから、これくらいさせてください」
六海は今五月ちゃんに抱き着かれた状態で廊下を歩いているよ。この光景だと、もうどっちが姉かわからなくなるような感じだから非常に困るよ。五月ちゃんはお姉ちゃんとしてもうちょっと堂々としてほしかったよ。
「それで、結局どうしたんですか、昨日は?わざわざ真鍋さんに連絡してもらって、家に泊まるとは・・・」
「ははは・・・ごめん。そこは言いたくないや・・・」
だってこれは六海の問題だから、そのことでこれ以上の心配はかけたくないから。五月ちゃんはその様子に首を傾げてた。
「お前の言い分はようわかった。せやからこれで最後にしよか」
!奥の方から六海に告白した人、坂本君の声が聞こえてきた。どうやら誰かと話してるみたい。
「五月ちゃん!こっち!」
「え?六海?」
六海は五月ちゃんと一緒に坂本君にばれないように曲がり角に隠れた。こっそりと坂本君を覗いてみる。坂本君の話し相手になってたのは、風太郎君だった。
(!!風太郎君・・・!)
「あれは、上杉君?何を話してるんでしょう?」
本当に坂本君はなんで風太郎君と話をしてるんだろう・・・?
「上杉、お前六海さんをどう思ってるんや?これだけはハッキリさせときたいわ」
!!風太郎君が・・・六海をどう思ってるか・・・
『上杉にとってあんたら六つ子はね、特別な存在になりつつあるのよ』
六海の脳裏には嫌でも真鍋さんの言葉が出てくる。いったい何を期待してるんだろう、六海は・・・?そんなんじゃないのに・・・。
「別に何とも思ってねぇよ。だが・・・強いてあげるなら・・・」
強いてあげるなら・・・?
「あいつは姉たちを含めめちゃくちゃバカだってことだ」
「は?」
なっ!!いうに事欠いて結局それ⁉ものすごいムカつく!事実だけどそう言われるのすごいムカつく!
「な・・・私まで⁉バカとは何ですかバカとは!」
五月ちゃんも五月ちゃんでものすごく怒ってるし・・・。
「どういうこっちゃ?」
「どうも何も言葉通りの意味だ!言ったことは覚えねぇし、教えた部分はすぐ間違える!挙句の果てには俺を別人だと思い込む始末で本当、手のかかりすぎる奴だよ!」
そ、そこまでのこと言わなくてもいいじゃん!だいたい、別人だと思い込んだのは風太郎君のせい・・・
「だが・・・努力家だ」
!急にトーンを変えた・・・?
「夢に向かってまっすぐ突き進む姿勢、ひたむきな努力・・・そこは俺も見習わないといけないものがある」
「・・・・・・」
「だがいかんせんメンタルが弱い。せっかく十分な技術があるのにこのままじゃもったいない。誇れる才能だからな、あれは。あいつに限った話じゃないが・・・」
風太郎君・・・
「今まで姉妹全員卒業、としか考えてこなかったが・・・最近じゃ、あいつの夢を支えてやりたいと考えている。まぁこれもあいつだけの話じゃないが」
「!」
「そのために俺にできることは協力する。他に何て言われようが、あいつに拒まれたとしても、俺の意思は変わらねぇ。全力でサポートしてやるつもりだ。
・・・最高の、パートナー、だからな」
!!!最高の・・・パートナー・・・
「それが、俺があいつに思ってることだ。我ながららしくねぇがな///」
トクンッ、トクンッ、トクンッ、トクンッ
「上杉・・・お前・・・意外にええ根性してるやないか。気に入ったわ!」
「は?」
「六海さんのためにそこまで言えるとは・・・お前こそ六海さんに相応しい!疑って悪かったの!」
「いや・・・別にあいつだけのためじゃねぇって・・・つか俺とあいつはそんな関係じゃな・・・」
「俺にできることは遠慮なく言いや!俺は全力で応援するで!」
「人の話を聞けよ!!」
・・・・・・・・・。
「あ・・・あんな小恥ずかしいことをよく言えましたね・・・意外過ぎて言葉も出ませんよ・・・ねぇ、六海。・・・六海?」
「・・・む・・・六海、おトイレ行ってくる!」
六海は今の顔を五月ちゃんに見られたくなくて、逃げるようにこの場を去っていく。おトイレに行くのは嘘。
トクンッ、トクンッ、トクンッ
嘘・・・こんなことってあるの・・・⁉風太郎君の言葉が頭から離れない・・・!さっきから、胸のあたりがトクン、トクンっていい続けてる・・・!六海の脳裏にはこれまでの風太郎君の優しい言葉が振りかえされていく。
『お前には他の姉妹にはない才能を持ってるんだ。いつか、世間にも認められるさ』
『俺は・・・こいつの・・・こいつらの・・・パートナーだ』
『心配すんな。お前の友達はちゃんと見つけてやるから』
『一応お前には感謝してるんだ』
『最近じゃ、あいつの夢を支えてやりたいと考えている』
風太郎君がキンちゃんだろうとそうじゃなくても、関係なくなってきてる・・・。キンちゃんの時はこんな音、そんなに大きくなかったのに・・・。自分でも驚いてる・・・。この気持ち・・・絶対にあれだよ・・・。
『最高の、パートナー、だからな』
六海は・・・風太郎君に・・・恋しちゃってるよ・・・。さっきの言葉が頭から離れない・・・胸に響いちゃってる・・・。
「こんなの・・・ありえないよ・・・」
「何が・・・ぜぇ・・・ありえないって?」
六海が混乱してると、息が絶え絶えな風太郎君がやってきた。・・・え⁉風太郎君⁉
「ふ、風太郎君⁉」
「くそ・・・坂本め・・・変な勘違いしやがって・・・げほ・・・」
あ、坂本君から逃げてきたんだ・・・ご愁傷様・・・。
「「・・・・・・」」
き、気まずい・・・昨日の件もあるし・・・そして何より・・・
ドキッドキッドキ
さ、さっきから胸のドキドキが止まらない~!顔もほんのり熱くなってるのがわかるし・・・何て言えば・・・。
「六海」
「は、はい!」
「金太郎のこと、騙して悪かった」
風太郎君は六海に向かって誠心誠意を込めて頭を下げて謝罪してきた。
「本当はずっと前から言おうとは思っていたんだ。だが、ちょっと・・・話を逸らされてしまって、なかなか言い出せなかったんだ。これが言い訳だってことはわかってるつもりだ。だが・・・せめてこれだけでも、けじめはつけたかったんだ」
!けじめ・・・
「悪いことをしたのは百も承知だ。だがそれでも俺は・・・」
「待って!それ以上は言わないで!」
「だが・・・」
大丈夫だよ。風太郎君の気持ちは、もうわかってるから。
「キンちゃんのことはもういいの。それより・・・まともに風太郎君の話も聞かないで勘違いしたり、ビンタしたりもしたから、悪いのは六海の方だよ。だから・・・ごめん!!」
六海も風太郎君に向けて精いっぱい謝罪した。
「・・・お前が悪いわけじゃねぇんだから謝んなっての」
風太郎君は素っ気なくそう言って、六海を通り過ぎていっちゃ・・・
「・・・勉強会、今日は参加するんだろ?待ってるからな」
そう言って風太郎君はどっか行っちゃった・・・。やっぱり風太郎君は素っ気ないな・・・。でも・・・そんな風に見えてるだけで、温かい優しさがあったよ。六海は・・・その優しさに心を打たれたんだ・・・。
ダメ・・・この気持ちに嘘はつけない・・・。六海は、本当に風太郎君に恋しちゃったんだ・・・。
「・・・けじめをつけなきゃ、か・・・」
六海も、ちゃんとけじめ、つけておかないとね・・・。
♡♡♡♡♡♡
「ごめんね、急に呼び出したりして」
「い、いえ!問題ないっす!」
六海は、自分のけじめをちゃんとつけるために、坂本君を屋上に呼び出した。もうあの写真は使わない。誰かにも頼らない。そうでもしないときっと、前に進めないから。
「それで・・・呼び出したのは、告白のことっすよね・・・?」
「うん。坂本君の告白、うれしかったよ。人生で初めてだったから」
「そ、そっすか・・・」
「でも・・・ごめんなさい!!他に気になる男の子がいるの!!」
言った・・・言っちゃったよ・・・六海は坂本君に申し訳なさでいっぱいになりそうだった。でも、それでも・・・この気持ちに区切りはつけたい。
「・・・そっすか」
坂本君は少し寂しさを感じさせるような声を上げた。
「いや、何となくそんな気はしたんす。昼休みに上杉と話してたんすけど、あいつの想いを聞いたら、思い知らされたんす。俺じゃあんたに相応しくないって」
「ごめんね・・・」
「いや、いいんす。これで・・・気持ちの区切りがつけられそうなんで」
坂本君は清々しい笑みを浮かべて屋上を去っていった。これでよかったんだ・・・これで・・・。でも・・・まだだよ。まだけじめはつけれてない。六海はスマホを取り出して、これまで撮ったキンちゃんの写真を映し出す。
「・・・さようなら、六海の初恋・・・」
そして、キンちゃんの写真をまとめて消して、空っぽの状態にさせる。これでやっと・・・前に進められるような気がするよ。陽気な気分になってる六海は勉強会に参加するために図書館へと向かっていく。今の六海の頭の中では、六海を出迎えてくれる風太郎君の姿が思い浮かんでくる。
六海の初恋はここで終わって、ここから、六海の新しい恋が始まった・・・そんな気持ちが、六海をより頬を緩ませた。
SIDEOUT
♡♡♡♡♡♡
三玖SIDE
六海が完全復活してから数日後、期末試験もあと1週間で始まる。私たちはフータローと一緒にその期末試験の対策のために図書室へ集まってる・・・んだけど・・・。
「だ、大丈夫?風太郎君?」
「なぜだ・・・なぜこうも集まらない・・・」
今ここにいるのは勉強会主催者のフータロー、それから私と一花と六海だけ。四葉は外せない用事で、二乃と五月は映画を見に行って出席すらしてない。
「ま、まぁ明日からが本番だからさ。まだノーカン、まだ何事もないって」
「元気出して、フータロー。明日は大丈夫だよ」
「だといいがな・・・」
私と一花でフータローを励ましてるけど、フータローは不安が残ってるみたい・・・。
「えっと・・・どうしよう?六海たちだけで始める?」
「うーん・・・確かに本番は明日だしな・・・今日ぐらいはいいか・・・。けど、自習は怠るなよ?」
「・・・そっか・・・」
なんか少し残念。もうちょっとフータローと一緒にいたかったのにな。
「・・・わあ!こんなところに2人分の美術館のチケットが!しかも六海の絵が展示されてるとこ!2人で行ってきなよ!」
「な、なんだよ、急に・・・」
急に一花がチケットを取り出して私とフータローに美術館を勧めてきた。突然何・・・?
「えー!2人だけなんてずるいよー!六海も美術館行きたーい!!」
「ごめんねー、チケットは2枚だけなんだー。六海は今度、お姉ちゃんと一緒に行こうか」
!六海もいるのに誘っていかないなんて・・・もしかして、一花はまだ気を使ってる?
「一花、ちょっと・・・」
「?」
私は少し一花を連れてフータローと六海に会話が聞こえないように一花と話す。
「無理して気を使わないで。言った通り、私の好きにするから」
「そ・・・そういうわけじゃないよー」
「・・・一花は・・・私とフータローが付き合ってもいいの?」
「!・・・・・・・・・も・・・もちろん。お祝いするよ」
・・・なんか間があった。やっぱり私に気を使ってる・・・。
「・・・後悔しないでね。私は・・・」
「一花」
私が言いたいこと言おうとした時、フータローが一花に声をかけてきた。
「すまん。ここもう行ったわ」
「・・・え?」
え?フータロー、美術館に行ってきたんだ・・・なんかすごい意外・・・
「なになにー?フータロー君って実は芸術に興味津々?」
「あれは四・・・人に誘われたからだ」
まぁ動機はフータローらしい理由。でも誘われたって誰から?やっぱり妹のらいはちゃんかな?
「て・・・てことは六海の描いた絵・・・見てくれたの・・・?」
「ああ・・・確か、不協和音からの覚醒だったか?絵に熱心なお前らしい作品だったぞ」
「そっか・・・そっか・・・!」
フータローが六海の絵を見てくれたことに六海は頬を緩ませてる。・・・なんか最近フータローといい雰囲気出してる。面白くない。
「ははは、そうなんだ。じゃあ私はこれで失礼するよー?」
「おい、ちょっと待て」
「え?」
一花がいち早く図書室から出ようとするとフータローが急に一花を止めてきた。
「本当に自習するのか?怪しすぎるな。やっぱり俺が勉強を教える。3人まとめてな」
「あ、ありがたいんだけど・・・今日はちょーーっと、用事があって・・・」
「嘘をつくんじゃない。俺は騙されないぞ」
?一花、今日って何か用事あったっけ?聞いてないけど・・・。
「本当だよ。事務所の社長の娘さんを面倒みる約束なんだ。だから・・・ね?」
「社長さんって・・・あ、もしかして、花火大会の時に六海と一花ちゃんを間違えた髭のおじさんのこと?」
「そう、その人が社長だよ」
え、あの人、娘さんとかいたんだ・・・ていうか、結婚、してたんだね・・・
「はあ?あのおっさんに娘だと?適当に誤魔化して勉強から逃げようたってそうはいくか」
「嘘じゃないってー」
「信じられん」
でもフータローは全く信じてもらえてない。
「よーし!そんな娘が本当にいるんなら俺の前に連れて来てみやがれ!」
♡♡♡♡♡♡
結論から言ってしまうと、本当にいた。今私たちの家には小さな女の子が熱心に絵を描いてる。なるほど、確かに雰囲気的にあの社長さんに似てる。名前は菊ちゃん。
「菊ちゃん、大人しくしててえらい」
「菊ちゃーん、何描いてるのー?」
「本当にいたんだ・・・」
「だから言ったじゃん」
まさか本当に娘さんがいたとは思わなかったフータローは呆然としてる。気持ちはわかる。
「なんか急な出張が入ったらしくてね、社長の代わりに私が面倒みることになったんだよね」
「あのおっさん結婚してたのかよ・・・」
それも気持ちはわかる。既婚者だとは想像してなかったし。
「て、そんなことはどうでもいいとして・・・とりあえず子供は静かにさせて今は勉強に集中・・・」
「おい、お前」
「!」
フータローが私たちに勉強を催促させようとすると、菊ちゃんが声をかけてきた。
「お前、アタシの遊び相手になれ」
「・・・・・・」
え、この子態度でかくない?別にいいけど・・・。
「・・・菊ちゃん遊ぼ・・・」
「子ども扱いすんな!」
フータローは人形遊びを進めてきたけど却下された。ていうかどっから持ってきたの?二乃のぬいぐるみ・・・
「人形遊びなんて時代遅れなんだよ。今の遊びのトレンドはおままごとだから」
うーん、いかにも子供らしい遊び。でもおままごとかぁ・・・懐かしいな・・・幼稚園の頃、よくおままごとしたっけ。確か、一花が理想の父親、五月が母親、私、二乃、六海はその娘役がよく当たったっけ。四葉はなぜか犬役に当たることが多かったっけ。ちなみに役決めはくじで決まってたのを覚えてる。
「お前、アタシのパパ役。アタシはアタシ役」
「え?何?その設定?どゆこと?」
どういう基準の設定かわからなかったけど・・・フータローがパパ役・・・
「あ、パパ役がフータローなら、ママ役は私がやる」
「うちにママはいない。ママは浮気相手と家を出ていった」
「あ、そこはリアルなんだ・・・」
「社長さん、かわいそうだよ・・・」
「あのおっさんのシリアスな過去なんて知りたくなかったぞ・・・」
そっか・・・あの人、奥さんに逃げられたんだ・・・通りで結婚してないって雰囲気が出てたんだ・・・。六海の言うとおり、ちょっとかわいそう・・・。
「ま、所詮は子供の戯れだ。俺が適当に相手してるからお前らは手を動かせ」
「むぅ・・・」
「あはは・・・フータロー君に相手が務まるかなぁ?」
「なんか不安だよねー」
「なんでだよ。バカにしやがって」
フータローの奥さん役、やりたかったのに・・・。菊ちゃんの設定にそれがないなんて・・・。
「えー・・・こほん・・・。菊、幼稚園で友達できたか?パパに聞かせてごらん」
「あいつらガキばっかだ」
「こらこら、お前もクソガキだろ?」
さっそく素が出てる気がする・・・本当に大丈夫?
「お勉強の方はどうなんだ?パパが教えてあげてもいいぞ?」
「断る。やっても意味がない。どうせすぐ忘れる」
うっ・・・否定できない・・・現に私たち、6科目中5科目赤点だし・・・。
「いけないぞ、菊。失敗を恐れてはいけない。何事もまずは挑戦だ。諦めずに続けることで報われる日が必ずくる。成功は、失敗の先にあるんだ」
フータロー・・・かっこいい・・・!
「きれいごとを」
あ、菊ちゃんには不評みたい。
「このクソガキめ」
「まぁまぁ」
「子供相手に大人げないよー、風太郎君」
「大丈夫。フータローはいいこと言ってたと思う」
フータローは菊ちゃんの言葉にこめかみをひくひくさせてる。大丈夫、今のはいいこと言ったと思うから。
「ガラガラガラ」
「「「?」」」
「へー、ここがパパの会社かー」
「あ、会社に来たんだ」
「子供が会社に来ていいの?」
「娘なんだし、いいんじゃない?」
ていうかもうおままごとの続き始めてるんだ。
「3人はここの事務員さん」
「え?」
「六海たちもやるの?」
「事務員さん?」
「そう。3人ともパパに惚れてる」
「「「!!」」」
事務員だけど・・・パパ役・・・フータローに惚れてる設定・・・そ、そういうことなら・・・。
「なんだそのわけわからん設定は?いいか菊、こいつらはそういう・・・」
「社長、いつになったらご飯連れてってくれるの?」
「お、おい・・・三玖・・・?」
「もう我慢できない。今夜行こう、今夜」
ママ役ではないけれど・・・案外この事務員役、悪くないかもしれない。
「ひどいです社長!む・・・私とご飯食べようって約束しましたのに!私と一緒に行きましょうよ!」
「六海までやるのか・・・」
「あ、六海、割り込み禁止」
六海もけっこうぐいぐい来てる・・・。でも、前にフータローとデートしてたし、六海には負けられない。
「菊ちゃん、新しいママ、欲しくない?」
「あー!菊ちゃんに迫ってるー!」
「あ、一花ずるい」
その手で来るとは・・・一花、侮れない・・・。
「菊ちゃんのママは六海がやるのー!」
「六海じゃ務まらない。私が適任」
「三玖こそちゃんとできるかなー?」
私たちはおままごとで小さな争いごとに発展してる。まぁ、遊びだしね。
「じゃあ3人とも、パパのどこが好きか言え」
「「「え・・・す・・・好きなところ・・・」」」
フータローの・・・好きなところ・・・言ってもいいのかな・・・?フータローは興味なさげだし・・・いい、かな・・・?
「えーっと・・・なんだろ・・・よくわかんないけど・・・ああ見えて男らしい一面があったり・・・て、何言ってるんだろ、私・・・」
「普段はいじわるな男の子なんだけど・・・ここぞって時に優しい言葉をかけてくれる。そんなところ、かな?」
「頭がいい。頼りになる。背も高い。かっこいい。他にもまだまだいっぱいある」
「・・・パパ、そんなに背が高い方じゃないんだけど。誰かと勘違いしてないか?」
・・・あ、そういえばこれ、おままごとの設定だった。私たち揃って勘違いしちゃった。
「そ、そうだった・・・社長のことだったね・・・」
「え?六海、社長さんはそんなに好きじゃ・・・」
「六海、それ以上いけない」
「んむっ!!?」
六海がなんか口走ろうとしたから両手で六海の口を封じる。
「もう、それで菊ちゃんが傷ついたらどうするの?」
「んー!んーー!!」
「菊ちゃんは3人のうちどっちがいいと思った?」
「アタシは・・・ママなんていらない」
「え?どうして?」
「だって寂しくないから。ママのせいでパパは大変だった。パパがいれば寂しくない」
そっか・・・そうだよね・・・奥さんが浮気相手と家を出ていってしまったらそうなっちゃうよね。トラウマなんだ・・・。でも、本当に寂しくないの?
「たく・・・十もいってねぇガキが無理すんな」
「わ!な、何をする!やめろ!」
フータローは菊ちゃんを励ますような手つきで頭をなでてる。
「お前みたいな年の女の子が母親がいなくなって寂しくないわけがない。かわいげもなく大人ぶってないで、ガキらしくわがまま言ってりゃいいんだよ。その方がかわいげがあるぞ」
菊ちゃんにかけるフータローの声は、優しさに溢れてた。ああ・・・きっとこういうところだ。自分ではわかってないだろうけど、人の気持ちに寄り添える温かさ・・・その優しさをフータローは持ってる・・・。私は・・・その温かい心に溶かされたんだ・・・。
「フータロー・・・
私と付き合おうよ」
「!」
「「!!!!」」
「・・・三玖、お前・・・」
・・・あ・・・。やっちゃった・・・つい勢い余ってフータローに告白しちゃった。
わー!バカバカ!もっと他にいい雰囲気で告白したかったのに!
「い、一花ちゃん!まさかとは思うけど三玖ちゃん・・・!」
「そ・・・それは・・・」
一花と六海がなんか話してるけどそれどころじゃない!
「付き合おうって、何言ってんだ?」
「えっと・・・これは・・・その・・・」
「そうじゃないだろ?」
・・・え?
「結婚しよう!」
「「!?!?!?!?!?」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
「・・・けっ・・・こん・・・て・・・えええっ!!??」
わ、私とフータローが・・・け、け、け、結婚って・・・そんな・・・まだお付き合いしてないのに・・・!いや、うれしいけど・・・反応に困るっていうか・・・
「急に・・・そんな・・・突然すぎて・・・どうしたら・・・」
「・・・よし!よかったな、菊!これでママができたぞ!めでたいだろ?といってもままごとの中だけどな!」
・・・・・・え?おままごと・・・?
「ただいまー!・・・てっ、あれ⁉かわいい女の子だ!」
「あんたまでなんでうちにいるのよ?てかその子誰よ?」
私が呆けてる間に四葉、二乃、五月が帰ってきた。
「おう、こいつは一花の事務所の社長の娘の菊だ」
「わあ、かわいいですね。何してたんですか?」
「ままごとだ。今ちょうど三玖と再婚したところだ」
「本当に何してたんですか・・・」
「へー・・・いいなー・・・私も混ぜてください!ね?ね?」
「おう。いいだろ、菊?」
「・・・ん」
あ、四葉も参加させてあげるんだ・・・。
「わーい!やったー!で、何の役余ってます?」
「・・・よし。お前、うちの犬!」
「ワンちゃん⁉わんわんわん!」
四葉・・・ここでも犬役を強いられるのか・・・。
「そこの2人はおばあちゃん!」
「おば・・・⁉」
「あらー、アタシ達も入れてくれるのー?うれしいわー。・・・で?何の役だって?」
「お・・・おば・・・」
「聞こえなーい。聞きたくもなーい」
二乃と五月はおばあちゃん役・・・なんか新鮮な感じがする・・て、そんなことより・・・
「告白・・・不発・・・」
「焦ったー・・・」
「ほっ・・・」
でもまぁ・・・さっきの勢いで言っちゃったし・・・ノーカン、かな?
「あ、そうだ一花」
「?」
「今回は不発に終わったけど・・・私は本気だから」
「・・・みたいだね」
私の宣言に一花は苦笑いを浮かべてる。私にはわかる。一花はフータローに恋してる。それに多分・・・六海も。六海は私が言わなくても積極的だからあの子にはあえて言わないけど、一花にはこう言っとかないと。
「よろしくな、お袋」
「あんたの母親なんていやー!チェンジよチェンジ!」
「こっちにおいでよ、五月おばさん!」
「六海!その設定はおかしいですよ!というか誰がおばさんですか!」
「あははは!たーのしー!」
あっちはあっちでおままごとの続きをやってる。
「・・・なんでだろう?フータローを独り占めしたいはずなのに・・・こんな風に7人で一緒にいるのも・・・嫌いじゃないんだ」
「三玖・・・」
「変・・・かな・・・?」
「・・・うん。私もそう思う。このままみんなで楽しくいられたらいいね」
私たちは菊ちゃんが満足するまでめいいっぱい遊んでいった。やっぱり、この7人で一緒にいるのは楽しい・・・。今はまだ・・・この関係のままでいい、かな。この7人で楽しくいられたらって気持ちは同感できる。
・・・でも、その次の日・・・まさかあんなことになるなんて、この時の私はちっとも思わなかった・・・。
18「リビングルームの告白」
つづく
次回、五月視点
おまけ
学園の生徒紹介
真鍋恵理子
外見は茶髪のポニーテール。左目にほくろがついてる
イメージCV:ラブライブの園田海未
2年生。六海とは同じクラスメイトであり、友達であり、よき理解者。ソフトボール部に所属しており、よく練習してるが、深い愛情はない。サバサバしたような雰囲気だが、責任感は強い性格。
風太郎とは中学校の時の同級生であり、腐れ縁。ただし、風太郎は彼女をあまり覚えていない。
孤児院に住んでおり、子供たちの面倒をよく見ている。孤児院ではリーダー的存在。彼女の責任感が強い性格は子供たちと一緒に過ごしていくうちに自然とそうなっている。
ちなみに胸がAカップでかなり小さく、本人はとても気にしている。身体測定で自分と六海の胸の大きさを比べられ、静かに涙を流したそうな。
2000日の未来では坂本と結婚を約束している。
選ばれた花嫁の番外編、どっちから先に見る?
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一花か二乃
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三玖か四葉
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五月か六海