六等分の花嫁   作:先導

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くそう・・・本当なら5月5日・・・つまり六つ子ちゃんの誕生日。その日に投稿したかったのに投稿できなかったとは・・・不覚です・・・。この日に投稿して、お祝いしたかったです。まぁ、当日でもお祝いしてたのですが・・・。やはりこれだけが心残りです・・・。

皆さんも皆さんも良ければ、遅らせながらでも、六つ子ちゃんをお祝いしてあげてください。

後ちょっと早いですが、後書きに大人になった六海ちゃんを紹介します。なにせ次回に写真でですが、ちょこっと登場しますので。


スクランブルエッグ 三玉目

一花SIDE

 

「恋愛相談なんだけど・・・あいつとの出会いは最悪だったわ。何度あいつを追い出そうと思ったかなんて数えきれなかったわね」

 

二乃・・・お願い・・・それ以上は言わないで。

 

「でもね、何度もあいつと向き合っていたら、気づいちゃったのよ。あいつが好きなんだって」

 

私と六海は今、温泉の女湯で二乃から恋愛相談をされている。・・・何で、今になって二乃が・・・。長女という立場が、今では嫌気が指す。

 

「ね・・・ねぇねぇ、それって二乃ちゃんの友達の話だよね?そうだよね?」

 

六海自身も認めたくないのかそんなことを口にした。だって六海だって、フータロー君のこと・・・。

 

「違うわ、アタシの話よ」

 

でも二乃は容赦なく私たちに現実を突きつけた。

 

「相手は・・・ああ!!やっぱダメ!!こればっかりは言えないわ!!ごめん、これだけは内緒よ!!」

 

いや、まぁ知ってるんだけども・・・。だってあの時、私と六海はその光景を見ちゃったんだもん。見たくはなかったけど・・・。

 

「・・・それで、話は戻すけど先日・・・まぁ、テスト返却の日にそいつに思いきって告白したわ。でもそれが正解かどうかは自分でもわからないわ」

 

「「・・・・・・」」

 

「そこで、告白を受けてるあんたたちに聞きたいわ。告白されたら多少ながらも意識したりするのかしら?」

 

この恋する乙女である二乃をどうにかして止めないと・・・じゃないと、六海はきっと悲しんでしまう・・・それに、このことを三玖が気が付いたら、あの子も・・・。それに・・・

 

「・・・私の経験では・・・だけど・・・ごめん。そういうことはなかったかな」

 

私だって・・・フータロー君のことを・・・。だから居心地のいい空間を壊さないで・・・今のままでいさせて・・・!

 

「・・・ふーん。で、六海はどうなのよ?坂本の告白は」

 

「・・・最初は本当に驚いたけど・・・うん。六海も・・・特別な感情は湧かなかったな」

 

六海は嘘をつく理由がないのか、正直なことを話してる。

 

「・・・そう。告白だけじゃ足りない、と・・・」

 

「え⁉いや、そうじゃなくて・・・」

 

どうしてそんな解釈になるの⁉

 

「ね、ねぇ、二乃ちゃん。二乃ちゃんとその人の出会いは最悪だったんでしょ?本当にその人のこと好きなの?勘違いとかじゃないの?」

 

六海は少し焦ったような気持ちになってるのか二乃にそう聞いてきた。そ、そうだよ・・・フータロー君のことあんなに嫌っていたのに・・・

 

「勘違い、ね。ある意味では間違ってはないわ」

 

二乃は特に慌てた様子はなく、さらに言葉を紡いでいく。

 

「あいつは・・・アタシの大切なものを壊す存在として現れたわ。だけど林間学校のあの夜、王子様みたいなあいつを別人と思い込んだまま好きになっちゃったのよ」

 

「・・・っ、それって・・・」

 

「同一人物とわかってから、別人のとしてのあいつを忘れようとしたわ。だけど、やっぱりできなかったわ。そして気づいちゃったのよ。アタシが拒絶していたのは彼の役割でだって彼個人ではなかったってね」

 

「・・・そんな・・・」

 

「王子様があいつだとわかってから、もう歯止めが利かなくなったわ。寝ても覚めても、あいつのことばかり考えるようになったわね」

 

・・・何それ・・・。あんなにフータロー君のことを否定していたくせに・・・。

 

「そ、そんなの・・・」

 

「だから好きになったって・・・そんなの都合よすぎない?」

 

「⁉一花・・・ちゃん・・・?」

 

二乃のあまりに虫のよさすぎる話に私は心の奥底から苛立ちが沸き上がってきている。多分、今私は全然笑えてないと思う。

 

「・・・そうね。こればっかりは自分でも引いてるわ」

 

「だったら・・・」

 

「でも、だからって引くつもりも諦めるつもりもないけどね」

 

「「え?」」

 

「だってこれはアタシの恋だもの。アタシが幸せにならなくちゃ意味がないわ」

 

二乃の意思は変わらないのかそんなことを言ってきた。確かにそういう考え方はあるかもしれないけど・・・ダメなものはダメ!何とかして止めないと・・・

 

「も・・・もし!同じ人を好きな人がいたらどうするつもり?」

 

「同じ人を?」

 

「そう!その子の方が二乃よりずっと、彼のことを想ってくる人がいたら?」

 

今の私は二乃を止めるので必死なんだと思う。六海の目も気にしてられないほどに思ってもないことを口にした。

 

「それは・・・そうね。その人には悪いけど・・・蹴落としてでも叶えたいって、思っちゃうわ。だって、アタシの方があいつのこと、大好きなんだもの」

 

・・・と・・・止まらない!いくら言っても二乃の意思が揺らぐ気配が全然ない!今の二乃を一言で例えるのなら、愛の暴走機関車だ!!話も聞いてくれない!恋愛相談だって言ったのに・・・噓つき!!

 

「あんたたちに話せてよかったわ。やっぱり告白だけじゃ足りないのね」

 

「告白だけじゃって・・・な、何するつもりなの・・・?」

 

六海は恐る恐るとどうするのか二乃に聞いてきた。こんな暴走機関車の行動予測なんて、想像もつかないよ・・・嫌な予感がするのは変わらないけども。

 

「手を繋いで・・・いいえ、インパクトが弱いわ。なら・・・抱き締めて・・・それでもわからないようなら・・・」

 

うわぁ・・・なんか胸の中で危険信号が鳴っているよ・・・いったい何を・・・

 

「キスするわ」

 

「「えええ!!?」」

 

ちょっと・・・ちょっとちょっと!さすがのお姉さんも予想を越える発言だよ!それはいくらなんでも飛躍しすぎだよ!

 

「そ、それはいくらなんでもまずいよ!いきなりキスするだなんて・・・」

 

「そ、そうだよ!そんな・・・突然キスだなんて・・・」

 

「そ、そうよね・・・冷静に考えて、飛ばしすぎよね・・・」

 

わ、わかってもらえて・・・

 

「下手くそだったら、嫌われちゃうかもしれないし・・・」

 

「「論点はそこじゃない!!」」

 

もうほんと嫌!なんなのこの暴走機関車は⁉️人って好きな人が出来たらこんなに変わるものなの⁉️我が妹ながら本当に怖すぎるよ!

 

「・・・ふふ」ギラリッ

 

え・・・何・・・二乃がこっちを見つめてきたんだけど・・・

 

「一花!あんたもうキスシーンとかもうしたのかしら?教えなさいよ!!」

 

「キスシー・・・てっ、ええ!!?一花ちゃん、キスしたのぉ!!?」

 

「ほ、本当に何するつもり⁉というより六海、そこは反応しないで!!」

 

に、二乃がものすごい勢いでキスシーンについてぐいぐいしてきた!そんなの事務所側からNGだし・・・だいたいそんなの二乃に教える義理はないって!

 

「何よ!姉妹なんだからいいじゃない!ケチね!」

 

「姉妹なんだからダメなの!」

 

「い、い、一花ちゃん!キスはもっと節度を持って・・・」

 

「キスシーンを妄想してた六海にだけは言われたくないよ⁉」

 

二乃は何度もキスシーンをしたのかどうかっていうのを聞いてきたけど、私は何度もそれを拒否していった。結局恋愛相談っていったい何だったんだろう・・・。なんか決意表明してるだけに思えるんだけど・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

お風呂から上がった後は大広間でみんな集まって朝ごはんをとったよ。朝ごはんの後はみんなが言っていたように、今日は海に行くことになったよ。私と二乃と六海は少しだけ話し合ったおかげで少し遅れちゃったけど・・・。

 

「ししし、ほーら!」

 

「ひゃっ!やめてくださいよー」

 

「まだ冷たい」

 

三玖、四葉、五月ちゃんはすでに海に来ていて、楽しく遊んでる。

 

「あ、一花と二乃と六海も来たよ」

 

「あれ?おじいちゃんはどこにいるの?」

 

「あそこでフータローと釣りしてる」

 

「いつの間に仲良く・・・」

 

三玖が指を指した方向には、おじいちゃんとフータロー君が一緒に釣りをしてる。

 

「ふーん、あいつも来てるんだ・・・チャンスかもね」

 

「「・・・・・・」」

 

二乃はフータロー君を見てくすりと笑みを浮かべてる。・・・二乃は本当に・・・キスをつもりなの・・・?言っていることはめちゃくちゃだけど、フータロー君にインパクトを与えるには本当に充分・・・いや、それを超えるくらいに意識するはず・・・。そうなると私たちの中で二乃が・・・二乃だけが見分けられるようになるかもしれない・・・。私は・・・それでいいのかな・・・?

 

「せっかくだし、様子見に行こうよ」

 

「そうですね。そうしましょうか」

 

「うん。行こう」

 

「・・・ふふ」

 

「「・・・・・・」」

 

みんなはおじいちゃんとフータロー君の様子を見に沖へと上がっていく。二乃は別の思惑があるみたいで私と六海は気が気でない様子でみんなについていく。

 

「お疲れ様です!調子はどうですか?」

 

「まぁ・・・ぼちぼちだな」

 

四葉は気兼ねなくフータロー君に挨拶をしていく。私も・・・あんな風に周りを気にせずに行動できたらなぁ・・・。

 

「・・・1番前にいるのが四葉、隣にいるのが五月と三玖。そして後からついてきているのが、一花、二乃、六海」

 

(・・・だ、誰が誰だか全然わからん・・・!)

 

おじいちゃんはフータロー君に何かを教えているように見えるけど・・・何を教えてるんだろう・・・?

 

「わあ!たくさん釣れてますね!」

 

「ああ。・・・ほとんど全部爺さんの手柄だがな」

 

わぁ、本当だ。クーラーボックスの中にはたくさんの魚が入ってる。きっとこれが今日の晩御飯になるんだろうなぁ・・・。

 

「これはなんて魚なんですか?」

 

「クロダイ」

 

「これは?」

 

「アイナメ」

 

「これは?」

 

「メバル」

 

う~ん・・・どれも同じに見えてしまうなぁ・・・。いや、でも目を凝らしてみれば・・・いや、やっぱり同じかもしれない・・・。

 

「じゃあ、これは?」

 

「ああ、こいつは・・・キスだな」

 

キスって・・・お魚のことだよね。そうだよね・・・何深く考えてるんだろ・・・って、えっ⁉二乃⁉ど、どうしてフータロー君にそんなずんずんと・・・⁉ま、まさか・・・ここで・・・き、き、キスを・・・⁉

 

「・・・いや、タイミング的に今じゃないわね」

 

だよね!だよね!よかった、二乃もそれくらいはわかって・・・

 

「五月の姿じゃ効果が見込めないかもしれないし、期待薄ね」

 

いや、だからさぁ・・・論点はそこじゃないんだってば!!どうしてこう・・・着眼点がずれてるのかなぁ⁉

 

「見て!おじいちゃんが大物引いてるよ!」

 

「えっ!凄!」

 

みんなはおじいちゃんが大物を釣り上げようとしているところに注目してる。二乃もそれにつられてる。

 

「・・・はぁ・・・」

 

本当にもう、疲れるよ・・・。来るんじゃなかったかも・・・。でも、もし放っておいたら二乃は・・・。

 

ズキッ

 

「うわっ・・・と・・・」

 

私が一歩踏み出すとふいに足に痛みが出て来て、バランスを崩し・・・

 

ガシッ

 

「と・・・大丈夫か?」

 

「!フータロー君・・・」

 

転びそうになったところにフータロー君が腕を掴んで支えてくれた。よりにもよってこんな時に・・・!

 

「ご、ごめん、ちょっとよろけちゃって・・・今、足を痛めちゃってね・・・」

 

「足を?おい、ちょっとこっち来い」

 

「え?」

 

何故か急に手を引っ張られて、バスの裏側まで連れてこられた。な、何?フータロー君、いったいどうしたの・・・?

 

「単刀直入に聞く。お前は誰だ?」

 

フータロー君はすごい形相で私に顔を近づけている。ち、近い!怖い!こんなとこ他の誰かに・・・特に二乃に見られたら・・・

 

「あれ・・・おかしいわね・・・」

 

!!に、二乃・・・やばい!

 

「隠れて!」

 

「うおっ⁉」

 

私はとっさにフータロー君を抱き寄せて、バスの裏側に身を潜ませる。

 

「あいつ、どこ行ったのかしら・・・?」

 

わ・・・わわわ・・・一応は隠れることができたけど、近づいてきたらすぐにばれそう・・・。

 

「おい・・・な、何の真似だ・・・」

 

「ご、ごめん・・・」

 

こうでもしないと二乃に見つかりそうだったから・・・。二乃はまだフータロー君を探している。ああ・・・なんで私はいっつも・・・。悪いことだってわかってるのに・・・それとは真逆に、私は人の・・・妹の恋路を邪魔してしまう・・・。つくづく嫌になってくる・・・。

 

「うぐっ・・・せ、せめて・・・お前が誰か教えてくれよ・・・」

 

私が誰か・・・?・・・そっか・・・五月ちゃんの姿をしているとはいえ・・・フータロー君はまだ、私が誰だかわからないんだ・・・。

 

「・・・それなら・・・」

 

それならいっそ・・・私がフータロー君にキスをして、私を意識させてしまえばいい・・・。そうすれば・・・こんな面倒なこと、考えなくて済むかも・・・。

 

「お、おい・・・何やって・・・」

 

フータロー君・・・私・・・私だって・・・君のことが・・・

 

「そこに誰かいるの?」

 

「「!」」

 

二乃・・・!こっちに近づいてくる・・・!まずい・・・この現場を恋の暴走機関車の二乃に見られたら・・・何をしですか予想できない!きっと場が荒れるのは間違いない・・・そしたらきっと・・・フータロー君にさらにキスを迫るかもしれない・・・!そんなことになる前に・・・

 

「えい!」

 

「なっ⁉」

 

ドボーンッ!

 

最悪の事態を免れるために私はフータロー君を海に突き落とした。フータロー君、本当にごめん!この場はこうするしかなかったんだよ・・・。

 

「一花、何してるのよ?」

 

「あ、あはははは・・・何でもないよ」

 

いや、何でもよくはないんだけど・・・とりあえずは誤魔化そう。最悪の事態は避けた・・・それでよしと追っておこう・・・。

 

「おーい、そろそろ帰るよー」

 

おじいちゃんの釣りが終わったのか向こうでは四葉たちは帰る準備をしている。

 

「はぁ・・・あいつ、どこ行ったのよ・・・」

 

二乃はフータロー君がいないからか、もしくはキスできなかったからか、残念そうにため息をこぼした。私たちも帰り支度を済ませてバスに乗り込んだ。フータロー君も海で濡れた状態でバスに乗り込んでいった。本当・・・ごめんなさい・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

バスは私たちが泊まっている宿に向かって、走っている。運転しているのはおじいちゃん。

 

「はっくしょん!・・・うぅ・・・くそ・・・あと少しで腿の傷を確認できたのに・・・」

 

「上杉君、なんでそんなずぶ濡れなんですか?」

 

「ああ、いや・・・何でもない」

 

ごめん、それ私のせいなんです・・・。

 

「むぅ・・・やっぱおじいちゃんの前だと何かと制限されるわね・・・。これじゃあ意味がないわ・・・」

 

二乃は二乃で諦めきれてないのかいまだにフータロー君にキスをする算段を立ててるし・・・。

 

「やるならやっぱ普段通りのアタシじゃないとダメね・・・」

 

「ね、ねぇ二乃・・・何も別に今じゃなくても・・・」

 

「この旅行もお互い明日まで・・・2人きりで会えるチャンスがあるとしたら・・・」

 

ダメだぁ・・・話すら聞いてもらえない・・・というより、聞こえてないのかも・・・。どうしてこんなことに・・・。

 

「一花」

 

「え?な、何?」

 

急に二乃が私に声をかけてきた。いやな予感が・・・

 

「夜になったらここを抜け出して彼に会いに行くわ。手助けしてちょうだい」

 

予感的中。二乃は言い出したら止まらないのはこれまでの行動でわかってる。だったら・・・私にできることなんて・・・もう・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

宿に戻って時間が経って夜、私はお父さんがいる部屋がよく見える場所で、お父さんがどう行動するかを見張っている。二乃が言うにはこうみたい。

 

『その時ネックになるのはパパね。だから一花は邪魔されないように、パパを見張っていてほしいのよ。できるわよね?』

 

お父さんは今おじいちゃんと話してる。もし私たちの部屋に来ようとしても、私が足止めすれば二乃に気付かれない。きっと・・・その時こそ、二乃はフータロー君と密会することになる。そして・・・もしかしたら・・・キスを・・・迫るかも・・・。

 

・・・もう、二乃は止められない・・・。二乃は私みたいにずるくない。誰の目も気にせず、誰に何と言われようとも、全力で・・・本気でフータロー君に恋してるんだ。

 

「・・・私には入る余地も・・・資格もない・・・」

 

それに引き換え私はいったい何なんだろう・・・。不都合があれば人の恋路を邪魔しようとする、三玖や六海のためと思っておきながら、いざとなったら抜け駆けしようとする、どうしようもない・・・ダメなお姉ちゃん・・・。

 

「あら?六海・・・じゃないわね・・・。あなたは誰かしら?」

 

こんなずるい私じゃ・・・間に入る資格なんて、最初からなかったんだ・・・。

 

「ちょっと、聞いてん・・・あんた・・・泣いてるの?」

 

自分のずるさ、ふがいなさを思うと、私は涙があふれて仕方がない。こんな姿、妹たちには見せられないよ・・・。

 

「・・・大丈夫?」

 

ふと考え事をしていると、顔に布のような感触が伝わってきた。視線を前に向けてみると、私の前にはハンカチで私の涙を拭いてる真鍋さんがいた。

 

「真鍋さん?」

 

「・・・少し、場所を変えましょうか」

 

♡♡♡♡♡♡

 

私は真鍋さんに連れられて中庭までやってきていた。私は中庭のベンチに座り込み、真鍋さんは自動販売機で飲み物を買ってきている。ご丁寧に、私の分まで用意してくれている。

 

「毛布を掛けてるとはいえ、まだ寒いしね。暖かい飲み物でも飲んで、身体を温めましょう。コーヒーでもよかったかしら?」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

私は真鍋さんから缶コーヒーを受け取って、冷えた手を温める。暖かい・・・。

 

「あ、さっきあんたたちのお父さんと鉢合わせたわよ」

 

「!お父さんと・・・?」

 

「ええ。女同士、あんたと積もる話があるからって言っておいたわ。ただの石頭かと思ってたけど、意外に寛容的じゃない、あの人。私、少し勘違いしてたわ」

 

真鍋さんは女の子だから多少なら私たちと話しても問題ないって思ったのかな?フータロー君だったら話は全く違ってくるんだけどね。でも・・・どうしよう・・・二乃に頼まれた通り、お父さんを足止めをしなくちゃいけないのに・・・私の方が足止めをくらっちゃったよ・・・。

 

「・・・飲まないの?それともやっぱりコーヒーは苦手だったかしら?」

 

「あ!ううん!何でもない!いただきます!」

 

と、いけないいけない・・・せっかくご厚意でいただいたんだし、少しコーヒーを飲もうかな。お父さんに追い付くのはそれからでもいいか。まずは一口・・・

 

「!に、苦~・・・今まで飲んだコーヒーで1番苦いんだけど・・・」

 

「あら、苦ければ苦いほど、コーヒーはおいしいのよ。基本私、ブラックしか飲まないし」

 

いや、私もブラックは飲むんだけど・・・このコーヒーは私が飲んできたものの中で断トツで苦かったよ。まぁ、こういうのを好んで飲む人はいるかもだけど・・・。

 

「でも、少し元気出たよ。ありがとね、真鍋さん。私を元気づけようとしてたんでしょ?おかげで少し、気分が楽になったよ」

 

この苦いコーヒーのおかげで、少しは気分が落ち着いてきた。そう言う意味では、あそこで真鍋さんと出会えてよかったな。

 

「じゃあ私、お父さんを追いかけないと・・・」

 

「まぁ待ちなさい」

 

私がお父さんを追いかけようとした時、真鍋さんがストップをかけてきた。え?まだ何かあるの?

 

「せっかくなんだし、もう少し私と話しましょうよ」

 

真鍋さんとお話、かぁ・・・。でも、話してる間にもお父さんは・・・

 

「実際あんたと2人きりで話したかったのよ。リーダーとして・・・というより、似た者同士としてね」

 

え?私と真鍋さんが・・・似た者同士?

 

「えーっと・・・どう言う意味かな?」

 

「あんたのことは六海からいろいろと聞いてるのよ。あんたがしっかり者に見えて、実は怠け者だとか、あんたが女優をやってて忙しくしてるとか、いろいろね」

 

む、六海ぃ・・・いらないことまで話したっていうの?女優業は・・・まあいつかバレると思うからいいけど・・・怠け者って・・・私の外でのイメージが崩れちゃうでしょ・・・。

 

「で、あんたの話の中に1つだけ、共通してるものがあるのよね」

 

「共通?」

 

「あんたたち昔は見た目も性格もそっくりな仲良し姉妹だったんでしょ?あんたその中で人のものを欲しがりたくなるようなガキ大将らしいじゃない」

 

・・・はい?私が・・・ガキ大将?

 

「そ、そうだったっけ?」

 

「エピソードもいくつか聞いたことがあったわ。1つ、妹の楽しみにしてたおやつを勝手に横取りした。それも数えきれないほどに」

 

「うっ・・・」

 

お、思い出した・・・みんなが楽しみにとっていたおやつがあまりにおいしそうだったから、つい・・・。

 

「2つ、妹が集めてたシールを勝手に取って自分のかばんに張り付けた」

 

「ぬぁ・・・」

 

それも思い出した・・・四葉の集めてたシールがすごくよかったから、私も欲しいなって・・・。

 

「3つ、妹が仲良くしたいって言った子も、次の日には先に仲良くなってたとかも・・・」

 

「も、もうやめてください・・・」

 

いやぁ・・・聞けば聞くほど自分がどれだけ身勝手にやってきたのかっていうのが恥ずかしいくらいに思い知らされるよ。というか最後、私そんなことまでしてたんだ・・・。

 

「ま・・・まぁそんな私も、大人になったってことで・・・」

 

「私が聞きたいのはそれよ」

 

え?私、何か言ったっけ?真鍋さんが聞きたがるようなこと・・・

 

「私から言わせてもらえれば、あんたたち全員子供みたいで手がかかる子たちって認識なのよ。それで六海からあんたは大人って聞いてたら疑問が浮かぶのよ。どうして急にそんな風に大人ぶるのかが不思議で仕方ないのよ。年も私と同年代なのにね」

 

「それは・・・まぁ・・・子供のころにいろいろあって・・・ね」

 

きっかけはいろいろとあった。まず1つ、私たちのお母さんが死んじゃった後の五月ちゃんのあの痛々しさを見ていたら、ね。さらに凶鳥時代の六海の1人で追いつめられている姿を見ていたらいつまでも子供でいちゃダメって気がしたんだ。

 

「それに、お姉ちゃんらしくしないといけないしさ。当然でしょ」

 

「・・・・・・」

 

「まぁ、といっても、ただお腹から出てきた順なんだけどね」

 

「あんたも大変ね」

 

真鍋さんは私の気持ちがわかったのかどうかはわからないけど、苦笑いを浮かべているね。

 

「でもだからって我慢する必要なんかないわよ?それこそ、身が持たないわよ」

 

「え?」

 

「あんただけに教えるけど・・・私も昔、孤児院の子供たちの中で1番の問題児だったのよ」

 

真鍋さんが問題児?そんな風には見えないけれど・・・

 

「春たちのおやつを独り占めしたり、あいつらの好きな本に落書きしたり、落とし穴掘って罠に嵌めたりして、もう手が付けられないくらいだったのよ、昔の私は」

 

「へ、へぇ・・・」

 

なんていうか・・・意外過ぎる。私以上に大人びている真鍋さんだけど、実はかなりの問題児だったなんて・・・。共通してるって意味が少しだけわかった気がする。

 

「でも、両親と一緒に過ごせなくなって孤児院に来る子供たちが徐々に増えてきてね・・・中には中々心を開いてくれなかった子も少なからずいたわ。それを見ていたらね・・・今までみたいなバカはできないな・・・て、思ったわけなのよね」

 

なるほど・・・新しくやってきた子供たちの見本になるために、将来をなくしかけた子たちの道しるべになるために、真鍋さんは今の性格になったんだ・・・。

 

「でもだからってやりたいことを我慢するつもりはないわよ、私」

 

「え?」

 

「前にね、子供たちに言われたのよ。自分たちのために無理はしないで、私は私のやりたいことをやってってね。それを聞いてね、吹っ切れたわ。だから私は、もう我慢はしないって決めたのよ。あの子たちの笑顔をのために・・・いいえ、リーダーだからこそ、やりたいことはやるわ」

 

「リーダー、だからこそ・・・」

 

「だからね・・・あんたが何に悩んでるか知らないけど・・・あの子たちの姉なら、あんたもやりたいことは、我慢せずにやりなさい」

 

「私の・・・やりたいこと・・・」

 

私のやりたいこと・・・私の望みは・・・姉妹とフータロー君の、今の関係がずっと続いてほしかった・・・。この1番心地のいい空間が変わってほしくなかった。でも・・・本当は・・・私の本音は・・・フータロー君を・・・

 

「誰にも取られたくなかったんだ」

 

「?」

 

・・・なんだか吹っ切れてきちゃった。真鍋さんの意外過ぎる話を聞いてたら、大人ぶってたのが、なんだかアホらしくなってきたよ。考えすぎてたのかな、私。私はもう一口、苦すぎコーヒーを飲む。

 

「・・・うぅ~、まずい!苦すぎて飲めないよこれ!なんていうか、私の嫌いなしいたけ食べてる気分!」

 

「ぼろくそに言うわね、あんた・・・」

 

だってこれ本当にまずすぎるんだもん。これ作った人に苦情を言いたい気分だよ。

 

「でも、そっちの方が、親近感が湧くわね」

 

真鍋さんは私は見て、笑みを浮かべている。

 

「ねぇ、メアド交換しない?ちょうど愚痴友達が欲しかったんだよねー」

 

「・・・まぁいいわ。断る理由もないし」

 

「ありがとね・・・恵理子ちゃん」

 

「・・・メアドくらいで大袈裟な。ええっと・・・」

 

「一花。私は一花だよ」

 

私と恵理子ちゃんはお互いにメアドを交換していく。これから仲良くやっていく証として。

 

「あ、そういえば一花・・・あんた自分のお父さんになんか用があったんじゃなかったっけ?」

 

「あー・・・それね・・・もういいや」

 

私だって我慢はしないってさっき決めたもん。だったらこれくらい、別にいいよね。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

『密会失敗』

 

二乃は風太郎の部屋に赴き、手紙を置いた後、島の唯一の観光スポット、誓いの鐘の前で風太郎が来るのを待っていた。

 

(遅いわね・・・部屋に置いた手紙、ちゃんと見てくれたかしら・・・)

 

到着が遅れている風太郎にもどかしさはあるものの、来ることを信じてずっと待っている。

 

ザッ・・・

 

「!もう・・・何して・・・」

 

ようやく待ち人が来たと思って、二乃は後ろを振り返る。

 

「二乃、こんな時間に外出とは、感心しないね」

 

だがこの場にやってきたのは、風太郎ではなく、六つ子たちの父、マルオだった。

 

「あれ・・・?一花・・・?」

 

二乃はどういうことかわけがわからないまま、マルオによってそのまま宿に戻されていくのだった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海SIDE

 

わからない・・・本当にわからない・・・。六海は何をやってるんだろう・・・。こんな何もない場所で・・・ただ1人ぼーっと座り込むなんて・・・。自分らしくないのはわかってる。他のみんなにも心配をかけられるのも無理はない。

 

でも・・・六海はどうしても考えてしまう・・・。二乃ちゃんの告白を・・・。それに・・・今日言っていた、二乃ちゃんの話・・・。しかも・・・聞いちゃった・・・一花ちゃんと二乃ちゃんの話を・・・。二乃ちゃんは本気なんだ・・・。本気で風太郎君に恋をしていて・・・2人きりなって・・・キスを・・・。

 

それは・・・嫌だ。六海だって・・・本気で風太郎君が大好きなんだ。いくら姉妹であろうと・・・フータロー君が他の女の子に取られるなんて嫌だ。できることなら、二乃ちゃんの行動を、力ずくでも止めたい。でもそれと同じくらいに、六海は姉妹が大好きなんだ。六海の行動のせいで、二乃ちゃんが悲しむ顔は、見たくない。それに・・・林間学校ではキンちゃんをめぐって大きな喧嘩をしちゃったんだ。意識しないわけにはいかない。もしまた喧嘩でもしたら、今度こそ・・・

 

「もう・・・どうしたらいいの・・・?」

 

六海ではもう・・・答えを導き出せそうにない・・・。

 

「うぅ~・・・トイレトイレ・・・」

 

六海はいったい何がしたいの・・・?

 

「!六海?こんな所で何して・・・」

 

六海はいったいいつまでこの苦しみを抱えればいいの・・・?

 

「あ・・・あーっと、漏れちゃう!あははは・・・は・・・はは・・・」

 

もうこんな苦しみ嫌だよ・・・。

 

「・・・六海?どうしたの?」

 

誰か・・・助けてよぅ・・・。

 

「泣かないで」

 

自然と涙があふれてた六海の頭に優しく撫でられる感覚が伝わってきた。前を見てみると、六海の顔色を窺ってる四葉ちゃんがいた。

 

「四葉ちゃん・・・」

 

四葉ちゃんは六海の顔を見て、にっこりと微笑んできた。

 

「久しぶりにあそこ行こっ」

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海は四葉ちゃんに連れられて、窓から出てこの宿の屋根の上まで登ってきた。懐かしいなぁ・・・。昔はよくみんなと一緒に並んで、この景色を眺めたものだよ・・・。

 

「あ、お父さん、私たちがいなくなってたの、気づいたんだ。これは後で怒られるかもねー」

 

外の景色を眺めてたら、お父さんが外に出ていく姿を見つけた。きっと六海たちがいなくなったことで、六海たちを心配してるんだ。

 

「ししし、でもまさかこんな所にいるだなんて、お父さんは思わないだろうねー」

 

「そう・・・だね・・・」

 

六海はなんて極端なんだろう・・・。お父さんが二乃ちゃんのところへ向かえば、間違いなく密会はその場で終わり・・・二乃ちゃんを部屋に連れ戻すだろうね・・・。六海の内心では、そのこと自体に深い安心を抱いてる・・・。これじゃあ本当に悪い子だよ・・・。

 

「・・・えっと・・・六海・・・よくわからないけど・・・ふぇ・・・ふぇ・・・ふぇっきし!!!」

 

「うわっ⁉」

 

び、びっくりしたぁ・・・。急に四葉ちゃんがくしゃみするから驚いたよ・・・。

 

「はは・・・夜はまだ寒いね・・・」

 

「えっと・・・六海、身体はぽかぽかだから、四葉ちゃんが毛布使っていいよ」

 

「あはは・・・なんだか悪いね・・・」

 

六海は寒そうにしてる四葉ちゃんに六海が使ってる毛布をかぶせてあげる。ありゃ、四葉ちゃんってば、鼻水まで垂れてるよ・・・。

 

「あ・・・鼻水出てるや・・・はは・・・」

 

「えっと・・・ポケットティッシュ持ってるけど・・・使う?」

 

「ありがとう」

 

四葉ちゃんは六海のティッシュを取り出して鼻をチーンッとかんでる。

 

「はは・・・ありがとうね、四葉ちゃん。六海を慰めてくれてたんでしょ?」

 

悩みは消えたわけじゃないけど・・・四葉ちゃんのおかげで少しだけでも、気分が楽になってきたよ。

 

「四葉ちゃんのおかげで六海、元気になってきたよ!ほら、元気元気!」

 

四葉ちゃんに心配をかけないように、六海は明るくふるまう。そうしたら四葉ちゃんは六海の手を握ってきた。

 

「六海・・・無理してない?心配だよ・・・」

 

「・・・え?」

 

やっぱり六海、無理してたのかなぁ?元気にふるまってるのに、無理してるのを見抜かれるし・・・いや、直感で聞いてるのかな?」

 

「・・・気のせいだったら、ごめん。この旅館に来てから、昔のことを思い出したんだ」

 

昔のこと?それって、六海たちがそっくり仲良し姉妹だった時のこと・・・だよね?

 

「昔はおじいちゃん怖かったな~、とか、イタズラばかりしてお母さんによく怒られてたな~、とか」

 

「あー、あったあった!はは、あの時の一花ちゃんのいたずらでママすごい怒ってたよね!」

 

「何言ってるの。よく怒ってたのは・・・六海でしょ?」

 

あ・・・あれれれ?そ、そうだったっけ・・・?六海ってそんな怒りっぽかったっけ?

 

「そ・・・そうだったっけ・・・?六海・・・」

 

「忘れたとは言わせないよ。似た者同士の中でも六海は怒りん坊だったんだから」

 

うーん・・・そう言われても・・・思い出せないんだけど・・・。

 

「ほら、一花におやつを取られた時、すごい駄々こねてたし・・・」

 

「あ、あー・・・あれね・・・」

 

そういえばそうだった・・・。でもあれは一花ちゃんが悪いんだよ?食べ物の恨みって恐ろしいんだよ?それこそ、五月ちゃんだったら・・・ブルブル・・・。

 

「借り物をしてたら、怒りながら無理やり取り返そうとするし・・・」

 

「そ、そうだったけ・・・?」

 

思い出したよ・・・。あれは一花ちゃんが勝手に六海のものを使ったから、つい・・・。でも、許可を取らずに勝手に使った一花ちゃんが悪い!

 

「たまに喧嘩した時だって、1番に怒ってたのは六海だったからね」

 

「うわぁ・・・なんていうか・・・ごめんなさい・・・」

 

聞けば聞くほど、昔の六海って、本当に怒りん坊だったんだ・・・。でも、それは相手が悪いことした時だけだから・・・普通の状態なら昔のみんなと変わらなかったと思う。

 

「そんな怒りん坊だったから、きっと凶鳥にも受け継・・・」

 

「ぬあっはああああああ!!黒歴史やめてほんとお願い!!」

 

「ご、ごめん・・・」

 

いや、本当に凶鳥のことは克服したいって思ってるよ?思ってるんだけど・・・そんなすぐに克服なんてできないって!しかも昔の六海を暴露された後だから余計に罪悪感が芽生えるって!

 

「で、でも本当に不思議だったんだー。怒りん坊でケンカもよくしてたのに、どうして急にそれがぱったりとなくなっちゃったんだろうって。昔より怒らなくもなったし」

 

「・・・それは、先生のおかげなのはもちろんだけど・・・自分がどれだけ迷惑をかけてきたのかっていうのを、思い知らされたから・・・」

 

六海のせいでみんなには大きな迷惑をかけた・・・その事実は一切変わらない。だったらせめて、大事は起こさないようにしよう。そう思って、些細なことは気にしないことにしたんだ。

 

「六海はお姉ちゃんが大好きだから・・・怒ってばかりじゃダメだって、思ったからなんだよ」

 

「そうだったんだ・・・」

 

「あの時は本当、ダメな妹でごめんね」

 

「はは、と言っても、生まれた順番が最後だってだけなんだけどね」

 

六海は今までのことを改めて謝罪したら四葉ちゃんは少し苦笑いを浮かべている。

 

「でも、私は六海のことを、迷惑だなんて思ってないよ」

 

「?」

 

「これだけは言いたかったんだ。六海は確かに昔は怒りん坊で、喧嘩なんて飽きてしまうくらいやってきた困ったちゃんだけど・・・私たち姉妹を思ってくれる、優しい女の子」

 

「四葉ちゃん・・・」

 

「私は六海のこと、今でも自慢の妹だって思ってるんだよ」

 

六海を見ている四葉ちゃんの顔は、本当に優しいお姉ちゃんっていうような微笑みしているよ。

 

「だからね・・・う~ん・・・なんて言うのかな・・・」

 

四葉ちゃんは自分の言いたかったことを思い出そうと少し考えてる。少し間が空いて、四葉ちゃんはにっこりと六海に微笑みを見せてくれた。

 

「何か悩んでるんだったら、我慢せずに・・・遠慮せずに、私に相談してほしいな。六海がしたいことを思いっきりできるように」

 

「六海の・・・やりたいこと・・・」

 

そんなこと、できることなら本当に思い切りやりたいよ。でも怖いんだよ・・・林間学校みたいな、あのいがみ合いが・・・。

 

「・・・もし、もしもだよ?」

 

「?」

 

「六海のやりたいことで、他の人とわだかまりができたら?もう二度と・・・口をきいてもらえなくなってしまったら・・・四葉ちゃんはどうするの?」

 

「え?う~~ん・・・そうだなぁ・・・」

 

六海の悩みであり、六海の1番気にしていることを四葉ちゃんに問いかけてみると、四葉ちゃんは本当に悩んだ様子になってる。

 

「仲直りできるように、何度も、何度も話してみる!かな?」

 

「うわぁ・・・シンプルだね」

 

でもそれが四葉ちゃんらしい答えなんじゃないかな。

 

「・・・正面からぶつかっていけば、思いはきっと伝わる」

 

「!」

 

「六海がよく口にしていた言葉だよ」

 

そういえばそうだった。時々姉妹と喧嘩した時、どうすれば仲直りできるんだろうと考えた時、六海はいつもこう口にしていたんだった。

 

「私、この言葉がとても好きなんだ。確かにわだかまりができるのは私も怖いよ。でも、なってしまったのなら・・・正面から謝って・・・ちゃんと自分の思いを伝えるようにしてるんだ。仲直りできると信じて」

 

「!信じて・・・」

 

「だからもし、六海がそれで悩んでるだったら・・・六海もその人としっかり話し合えばいいなって思うよ!自分の思いを伝えれば、きっと伝わるよ!」

 

「六海の・・・思いで・・・」

 

六海の思いは・・・今の関係をずっと続いてほしいんだ。六海の行動のせいで、林間学校のような同じ喧嘩を繰り返したくはなかったんだ。同じことを繰り返して、関係を崩したくはなかったんだ。でも・・・四葉ちゃんの話を聞いていたら・・・

 

「もう、これ以上後悔はしたくないな」

 

「?」

 

うん・・・そうだよね・・・。正面からぶつかれば、きっとわかってくれるよね。それに二乃ちゃんだってもうすっかり変わってる。風太郎君を諦めないと思うけど・・・きっと許してくれるよね・・・。何度も、何度も向き合えば、きっと・・・。

 

「ありがとう。六海がこれからやるべきこと、わかったかも」

 

「?よくわかんないけど、それはよかったよ」

 

ほんの偶然だったけど・・・四葉ちゃんとこうして話せてよかったって思えてくるよ。・・・うぅ・・・でもなんか寒いなぁ・・・。そろそろ四葉ちゃんに毛布を返してもらおっと。六海は四葉ちゃんのかぶってる毛布を引っぺがした。

 

「あれっ?えっ?」

 

「ごめんね、四葉ちゃん。六海、急に寒くなってきちゃった」

 

六海は今、とても気分が晴々してるから悪びれた様子は一切ないよ。

 

「えー!さっきは貸してくれたのに⁉」

 

「ごめんごめん。じゃあそろそろ戻ろうか」

 

これ以上体が冷えないように、六海と四葉ちゃんはそろそろ自分の部屋へと戻ろうと立ち上がる。

 

「・・・あ、そういえば、四葉ちゃん、おトイレはもういいの?」

 

「あ・・・も、漏れちゃう~・・・」

 

「はは・・・その前にトイレに行こっか」

 

でもその前に、おトイレに行っちゃわないとね。だって寒さのせいか、六海もずっとおトイレに行きたかったんだもの。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

『三玖の悟り』

 

時間はさかのぼって六つ子たちの部屋・・・

 

「三玖君、五月君。1つ聞こう。僕の娘は双子だっただろうか?」

 

「「違います・・・」」

 

他の姉妹4人がいない中、三玖と五月は正座をしながら、マルオからの問答を弱弱しく答える。

 

「少し目を離した間に6人中4人が部屋から抜け出すとは・・・家出癖がついてしまったのだろうか・・・。ふぅ・・・困ったものだ」

 

マルオは表情こそ無表情だが、本当に困ったと思っているのか少しため息をつく。

 

「誰か行方は聞いていないのかい?」

 

「四葉はトイレに行ったっきり・・・」

 

「二乃は着替えてたから旅館の外かも・・・」

 

三玖と五月は四葉と二乃の行方には心当たりがあったが、一花と六海はわかっていないようだ。

 

「・・・捜してこよう。君たちは部屋で大人しくしていなさい」

 

マルオは4人を捜しに向かいに六つ子の部屋から出ていった。

 

「みんな、どこに行ったんでしょう・・・」

 

「・・・もしかして、フータローのとこだったりして・・・」

 

三玖は今日の二乃の予定は知らないが、推察はかなり鋭かった。

 

「あはは・・・こんな夜中に会いに行く理由なんて・・・」

 

五月は口ではそう言ってはいるがないとは言い切れなかった。

 

「・・・三玖」

 

「?」

 

「ただ待ってるだけなのも暇なので、温泉に入りに行きませんか?」

 

五月の誘いを断る理由がない三玖は了承する。三玖と五月はさっそく温泉に入るために部屋を抜け出し、1階へと降りていく。

 

「あ」

 

「ここで何してるの?」

 

「・・・・・・えーっと・・・」

 

偶然にも風太郎と六つ子の祖父と出くわした。風太郎は未だに姉妹を見分けられないでいたので、言葉が詰まる。

 

「三玖、五月」

 

「あ・・・あー!!今言おうと思ったのに!!先に言われちまったぜ!!先に言おうと思ったのに!!」

 

祖父は見分けられてはいる。見分けられてない風太郎はわざとらしく声を上げる。

 

「上杉君、ちょっと・・・」

 

「ん?」

 

今日の風太郎の意味深な行動に五月は風太郎に耳打ちをして尋ねている。

 

「あなたは1日中何をして・・・」

 

「もう少しだ・・・もう少し待ってくれ・・・お前たちの爺さんがもう少しで教えてくれそうなんだ」

 

風太郎の言葉を聞いて、五月は少し風太郎が無理してないか心配になってくる。

 

「~~~」

 

「あ・・・悪い、もう行くわ」

 

「あ、はい・・・」

 

「待ってくださいよ・・・」

 

六つ子の祖父はその場を去っていき、風太郎は急いで追いかける。三玖と五月はそんな風太郎の背中を見つめていた。

 

「フータローも大変そうだね・・・」

 

「でも、三玖たちも何もこんなタイミングで上杉君を試さなくても・・・」

 

「事の発端は二乃」

 

「確かにそう聞きましたけども・・・」

 

そう話し込んでいる間に女湯の脱衣所までたどり着き、着ている浴衣を脱ぎ始める。

 

「それにしても彼にも呆れました。上杉君は自分で何とかしようとは思わないのですか?」

 

五月は自分力ではなく、祖父の力を借りて見分けようとする風太郎に少なからずあきれている。

 

「・・・仕方がないよ。たった半年の付き合いで見分けようなんて、無理な話だったんだよ」

 

そう口にした三玖の表情にはどこか諦めたような寂しさが入り交じっていた。

 

「・・・そうですね。このまま彼に任せていては・・・」

 

三玖に少し同意した五月は三玖の足を見て、目を見開き、三玖の手を掴んだ。

 

「?どうしたの?」

 

「その足・・・」

 

♡♡♡♡♡♡

 

『昨夜の偽五月の正体』

 

昨夜の偽五月にある腿についている痣・・・それこそが昨夜風太郎と出会っていた偽五月なのだ。

 

真鍋と一緒に中庭にいた一花・・・

 

「おっと」

 

部屋に戻ろうとした時、一花の足が少し痛んだ。

 

「?どうしたのよ?」

 

「いやね・・・昨日山登りしてたら、足首を捻っちゃって・・・」

 

一花の足首には、捻ったような痣ができていた。これによって、一花は昨夜の偽五月ではない。

 

四葉に連れられ、旅館の屋根にいた六海・・・

 

「いたた・・・」

 

「?六海?怪我したの?」

 

「ははは・・・今日の朝に、ちょっとお風呂でトラブルがあって・・・」

 

六海の足には躓いてできたような傷跡が残っていた。そもそも今日できた傷なので、六海も昨夜の偽五月ではない。

 

そして・・・五月に誘われ、今現在女湯の脱衣所にいる三玖。

 

「上杉君から聞かされていました。昨日の偽五月には、腿に痣がある、と・・・」

 

五月の視線に目がついていたのは、三玖の腿。その腿には、角にぶつかった痣がくっきりと残っていた。これが意味するところは・・・

 

「昨夜上杉君が会った偽五月は・・・三玖だったのですね」

 

昨夜風太郎と会い、家庭教師をやめるよう促した偽五月の正体は、三玖だったのだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『六つ子と向き合う覚悟』

 

三玖と五月と別れた風太郎は、六つ子の祖父に彼女たちの見分け方を教授してもらおうと懇願している。

 

「爺さん、いい加減教えてください。あいつらを見分けるコツとかないんですか?もうお手上げで・・・」

 

「・・・・・・」

 

六つ子を見分けようと努力する風太郎に向けて、六つ子の祖父はこう口を開いた。

 

「愛」

 

「!!??」

 

「愛があれば見分けられる」

 

(この人が発端か!!)

 

愛があれば見分けられるという理論がまさか祖父から始まったとは思わず、風太郎は絶句する。

 

「・・・長い月日を経て・・・」

 

「!」

 

「相手のしぐさ、声、ふとした癖を知ること・・・それはもはや、愛と言える」

 

六つ子の祖父は表情は髪で見えないが、声から察して真剣に語っているとみえる。

 

「・・・孫を見分けたい。お主はそう言ったな?」

 

「は、はい・・・」

 

「ハッキリ言おう。それは一朝一夕の努力ではできん」

 

それは見分けようと努力したができなかったために、風太郎は何も言えなかった。いや、それ以上に六つ子の祖父の真剣みな話で口出しもできなかった。

 

「問おう。お主は何のために孫を見分けたいんだ?孫を見分けられるようになって、お主がしたいことはなんだ?」

 

六つ子の祖父は風太郎の顔を見つめ、こう問いた。

 

「お主に・・・孫と向き合う覚悟があるのか?」

 

31「スクランブルエッグ 三玉目」

 

つづく




次回、六つ子&風太郎視点

六つ子豆知識

六海(23歳)

外見はストレートロングヘアで、黒カチューシャをつけ、変わらず黒縁メガネをかけている。

高校時代の思い出:???

六海が大人になった姿。元々髪は自慢であるがゆえに、自慢であるなら伸ばすという持論で再び髪を伸ばし、今に至るという。
凶鳥の思い出を克服したのか、当時付けていたカチューシャをつけるようにもなっている。メガネがアイデンティティというのは変わっていない。だが、風太郎が選んだものゆえに、メガネは一切壊してないし付け替えてない。
性格は以前と変わらず、子供っぽい印象が抜けておらず、オタク趣味も相変わらずのままだ。だが夢である漫画家になり、作品が人気になり、自身は天才漫画家だと豪語するように自慢することから、メンタルが強くなっていて、大きな成長を示している。
ちなみに六海が描いた漫画のタイトルは悪魔の滅殺天使アズエルちゃん。当初は知名度も人気も極端に低かった。
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