「ふぅ・・・一旦休憩するか・・・」
「あー、疲れたー」
「あれ?五月ちゃんは?」
「用事があるって言ってた」
全国模試に向けて、俺はこいつらの勉強を教えるのにも、自分の勉強にも、いつも以上の気合を入れている。全国模試で8位以内に入ること、そのうえで武田に勝てば家庭教師を続けられるかもしれねぇ。そのためにも、やれることは全部やらないといけねぇ。それはわかってはいるんだが・・・
「上杉さん、この問題なんですが・・・」
「・・・・・・」ボーッ・・・
「上杉さん?」
少し・・・根を詰めすぎたか・・・昨日は徹夜で自分の勉強に集中していたからな・・・。正直言って・・・眠すぎる・・・。
「・・・悪い・・・少し外の空気を吸ってくる」
「は、はい・・・」
少し体調が優れねぇ・・・。気休め程度だが、外の空気さえ吸っとけば、少しは良くなるかもしれないかもしれないからな。無理をしているのはわかっているつもりだ。だがそうでもしねぇと、全国模試で上位を取ることも、あいつらの成績を元に戻すこともできねぇ。結果として今日のあいつらの学期末試験の時の成績に戻りつつある。もう少し教え込めばあいつらを元の点数に戻せるはずだ。もちろん、あいつらの自学にもかかってはいるが・・・。俺も模試勉強に集中したいところだが、そういうわけにもいかないか・・・。
・・・いや、弱気になるな俺!あいつらの勉強も、俺の勉強も両立させるんだ!あいつらが帰った後に勉強すれば遅れは取り戻せる!あいつらは・・・絶対に足枷なんかじゃない!!
「フータロー・・・」
「!三玖か・・・」
俺が考え事をしながら図書館を出ようとすると、三玖が話しかけてきた。
『一花、フータローのこと、好きだよ』
・・・一花が俺のこと好き・・・か・・・。三玖を見るとどうしてもその言葉が思い出す。・・・だが、何か妙に引っかかることがある。
「・・・明後日のことなんだけど・・・」
「・・・昨日のことなんだが・・・」
少し三玖に問いかけようとしたらそれと同時に三玖の口が開いた。
「え・・・何・・・?」
「三玖こそ、どうしたんだよ?」
「・・・わ、私は・・・」
「2人して何話してるの?」
三玖の話を聞こうとすると一花が話に割り込んできた。
「一花・・・」
「ん?」
「・・・う、ううん、何でもない・・・。ごめん、フータロー・・・やっぱり今のなしで・・・」
「・・・そうか。・・・俺は外の空気を吸ってくる・・・」
「う、うん・・・」
昨日の真意について聞きたかったんだが・・・一花が目の前にいるからうまいこと聞き出すことができねぇな・・・。三玖の話も少し気になったが・・・まぁ、本人がいいって言うならいいか・・・。しかし・・・一花が俺のことが好き・・・だなんて・・・気のせい・・・だよな・・・?
♡♡♡♡♡♡
『風太郎への誕生日プレゼントについて』
風太郎が図書館から退室する姿を三玖と一花は見つめていた。
「・・・フータロー・・・大丈夫かな・・・?」
「大丈夫だよ」
三玖が心配そうにしていると、一花はそう発言した。
「私たちにできるのは少しでも負担を軽くするだけだからね。だから誕生日のことはいったん忘れよ?」
「・・・う、うん・・・」
「素直でよろしい♪私、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「うん・・・」
一花は三玖にそう言って自分も図書館から出ていった。風太郎の誕生日は明後日になる・・・にもかかわらずそれらを忘れようと一花が言い出したのは、先日の六つ子のラインの会話内容だ。
《3日後フータロー君の誕生日だよね?》
《うん》
《今日までプレゼントは何にしようかって考えてたけど》
《そもそも模試勉強してるフータロー君の迷惑にならないかな?》
《うーん・・・一理、あるかな?》
《でしょ?だからね・・・1度この話を白紙に戻そうよ》
風太郎の負担を軽くさせるためにも、誕生日から離れて、自分たちは勉強に専念しようという話になっている。・・・表向きは。この内容には裏がある。
(自分のしたことに罪悪感を抱いちゃダメ!私は、こう戦うと決めたんだから。全員に釘をさした今がチャンス!私1人だけがプレゼントを贈る!もう迷ってる時間はない!)
そう、一花は風太郎の誕生日に1人だけ抜け駆けで用意したプレゼントを渡そうとしているのだ。自分の恋を成就させるために、一花は噓つきに徹することに決めたのだ。先日の三玖になり切っての発言もまさにそのためである。妹を傷つける行為に一花は罪悪感はあれど、止まることはもう、許されない。
「いやー、ようやくひと段落ついたよ~」
「!む、六海・・・!」
そんな一花の企みを一蹴するかのように、妙なタイミングで六海が現れた。そして六海の手にはチケットのようなものの束があった。
「む、六海?その・・・紙切れの束は何・・・?」
「え?これ?風太郎君にあげる自作のマッサージチケットだよ。ほら、肩凝ってるって言ってたし、誕生日も近いから・・・」
どうやら六海が持っていたチケットの束は自分で作ったマッサージチケットらしい。六海はそれを風太郎の誕生日プレゼントとして渡すつもりらしい。
「はっ!いけないいけない・・・まだ秘密にするべきだった・・・」
「えーっと・・・六海?昨日のメッセージ見た?」
「ああ、あれのこと?」
一花の昨日のラインでのメッセージに六海は思い出したような表情になる。
「でもせっかくの誕生日なのに何もしないのは寂しいんじゃないかな?そういうの、我慢するのよくないと思うの」
「・・・っ!!」
六海の発言に一花は若干ながら引きつった表情を見せている。
「・・・あれ?ちょっと待って?ということは六海1人だけがプレゼントを渡すことに?」
「!!」
「あは♡なんてロマンチック♡効果絶大だね♡」
(ま・・・まさか六海が抜け駆けを企んでたなんて・・・迂闊だったよ・・・!)
一花はわかっていた・・・いや、わかってしまったのだ。自分のメッセージをきっかけに六海は自分より先に抜け駆けをしようとしていたことを。自分の計画が裏目に出てしまったことを一花は悔いてしまう。
「そういう一花ちゃんは・・・」
「あ~、迷っていたら遅れちゃったわ♡」
「!二乃・・・ちゃん・・・!」
六海が一花に何か問いかけようとしたらわざとらしい発言をしながら二乃がやってきた。しかも、二乃の両腕には何かを抱えていた。
「に・・・二乃・・・?それ、何・・・?」
「え?これかしら?疲労回復効果のアロマキャンドルよ」
二乃が抱えていたのは疲労回復効果のあるアロマキャンドルが入った包みだ。考えていることはだいたい一花と六海と同じだ。
「もうすぐフー君の誕生日だし・・・あ、危ないわ・・・当日まで秘密だったわね・・・」
「ねぇ二乃ちゃん、そのフー君呼びやめてよ」
「あのー?二乃さーん?私のメッセージ、呼んでくれた・・・?」
一花は先ほど六海にした質問を今度は二乃にも聞いてきた。
「ああ、あれね。でもせっかくの誕生日だもの。当日に渡したいわ。・・・どっかの誰かさんが抜け駆けするかもしれない」じっ・・・
「・・・・・・」ぷいっ
一花の質問に二乃は平然とそう答え、六海をジト目で見つめる。六海は視線から背けるように目を反らす。
(わ・・・忘れてた・・・!二乃はブレーキが壊れてるんだった!)
思い立ったらすぐ行動、そこにブレーキなどという概念は存在しない。愛の暴走機関車二乃に一花はそれを失念してしまっていたことを悔いた。
「それで?一花はどうなの?」
「え?何が?」
「あんたも用意してるんでしょ、プレゼント」
「!!!」
六海が今さっき一花に聞こうとしていたことはまさにそれだ。自分たちがプメッセージを無視してレゼントを用意してきたのだ。メッセージを送った張本人が用意してないはずがないと踏んだ二乃と六海。一花は観念して風太郎に渡そうとしていたプレゼントを取り出す。取り出したのは買い物で使用できるギフトカードだった。
「・・・この際だわ。一花、あんたに聞きたいことがある。春の旅行の最終日、アタシはあんたにパパの足止めを頼んだ。それなのにパパは待ち合わせ場所に現れた。さて、何か弁明はあるかしら?」
「・・・・・・」
二乃の問いかけに一花は押し黙っている。二乃の質問の内容は、六海もその場で聞いていたこともあって何となくだがわかっていた。沈黙が続く中、一花は口を開く。
「・・・私たち・・・六つ子なのに好みはバラバラだよね」
「!・・・そうね。そのせいでご飯を作る時毎回大変だわ」
妙な質問だと思ったが、一花は言葉を続ける。六海にも視線を向けて。
「二乃、六海・・・フータロー君は好き?」
「「・・・大好き」」
「私もだよ」
「「・・・っ!」」
「本当、なんでこんな時だけ好みが一緒なのかなぁ」
一花の問いに2人は包み隠さず答えた。2人の答えに一花も答えた。何となくはわかってはいたが、直で聞くとやっぱり2人にとっては結構堪える内容だった。
「・・・2人には悪いけど、譲るつもりはないから」
「・・・結構強気になったね、一花ちゃん」
「本当、姉ってだけで随分と上から目線ね」
「そもそもアロマって男の子にあげるものでもないでしょ?」
「はぁ!!?」
「マッサージチケットも、なんて言うか地味だし」
「う、うるさいよ!!こういうのは手作りが1番心に来るもん!!」
「そういうあんただってギフトカードって大概すぎるわ!!」
「いいじゃん、これなら本当に好きなものが買えるでしょ?」
バチバチバチッ!!
好きな男が共通とわかって、3人には目には見えない火花が大きく飛び散っている。話が終わった3人は睨みあいながら図書館へと戻っていく。
「わっ⁉」
「「「?」」」
3人が図書館に入ると、なぜか四葉がびっくりした。入ってきたのが一花たちとわかると、安堵した表情になる。四葉の手元には何やら折り紙があった。
「あはは・・・ビックリしたー。上杉さんが帰ってきたのかと思ったよー」
「四葉ちゃん?それ何作ってるの?」
「千羽鶴!休憩時間に上杉さんの試験合格を祈って作ろうかと思うんだ!」
「それ、病気の人にあげるやつじゃなかったっけ?」
「まぁ、幸運の効果はあるって聞くし・・・」
「ははは・・・四葉ちゃんらしいね」
誕生日に千羽鶴を贈るという若干ズレた認識を持つ四葉に一花たちは苦笑を浮かべる。
「上杉さん、あれからずっと疲れてるように見えるんだ。言わないだけで私たちに教えながらッテのがすごい負担になってるんだよ。だからせめて体を壊さないようにって・・・よしできた!」
1羽の鶴を完成した四葉はにこにこ笑いながら鶴を上に掲げる。
「でも四葉ちゃん、プレゼント中止だって・・・」
「・・・あ」
一花のメッセージを完全に忘れていた四葉はその瞬間、目元に涙を潤ませ泣き出した。
「ごめーん!!そんなつもりじゃなかったんだー!!」
「よ、四葉!ここ図書館!」
「そ、そんな気にしなくていいから・・・」
「そ、そうだよ!だから泣き止んで!ね?」
突然泣き出した四葉に一花たちは慌てて四葉をなだめる。
「自分で自分が許せないよ~!これじゃあ私だけズルしてたみたいだもん!」
「「「!!」」」グサッ!
「約束を破るなんて私はなんてことを~!!」
「「「っ!!」」」グサッグサッ!
「人として最低だ~!!」
「「「・・・っ!!」」」グサッグサッグサッ!
四葉は自責の念を抱いているが、四葉の無自覚による言葉のナイフに一花、二乃、六海は顔を酷く青ざめる。自分たちのやってることがズルだと自覚しているからなおさらである。
「「「・・・・・・えーっと・・・」」」
「一花・・・ごめん!!」
どう話そうかと悩んでいると、四葉と一緒にいた三玖が突然謝りだした。
「これ・・・スポーツジムのペア券・・・。フータローと一緒にトレーニングしようと思って・・・」
「「「え・・・」」」
「実は仕事の給料日割りでもらって買ってたんだ・・・。抜け駆けして、ごめん・・・」
まさか三玖までも同じ考えを持っていたことに一花、二乃、六海は少し唖然とする。
(やっぱり・・・私たちって六つ子だなぁ・・・)
みんな同じ考えを持っていたことに一花は仕方ないなといった笑みを浮かべている。
「じゃあ、こうしよっか。やっぱり模試前に渡すのは勉強の妨げになっちゃうから、この模試をフータロー君が乗り越えたらみんなで渡そうよ」
「うん!」
「それが1番いい」
一花の考えに四葉と三玖は賛成だが、二乃と六海は納得いっていないのか小声で一花に文句を言ってきた。
「ちょ、ちょっと、何勝手に決めてんのよ」
「そうだよ。というか、一花ちゃんはそれでいいの?」
「・・・みんな、フータロー君のことわかってないよ。・・・全員で一斉に渡しても、私のを1番喜んでくれるに決まってるもの」
「「・・・っ」」
一花の確信めいた笑みでそう断言した。その様子に二乃と六海も侮りがたいという気持ちでぎこちない笑みを浮かべている。
「と、いうことは当日は何もなしか・・・なんだか寂しい・・・」
「う~ん・・・」
風太郎の誕生日当日は何もなしということに三玖は寂しさを出しており、四葉は何かを考えている。
「!そうだ!こんなのはどうかな!」
四葉は何かを思いついたかのように何かを閃いた。心なしか、四葉のデカリボンもピンと立ったような気がした。
♡♡♡♡♡♡
刻々と迫る模試試験に向けて、今日も俺は六つ子たちに勉強を教えている。そして、六つ子たちが家に帰った後、俺は図書館に残って自分の模試勉強に集中している・・・が・・・か、かなり眠い・・・。今もうとうとしていて、今にも眠りだしそうだ・・・。やはりここ最近の徹夜が原因か・・・。だが・・・こうでもしなければ・・・模試で8位以上など・・・夢のまた夢。だったら・・・やるしか・・・
「まだ帰ってなかったのですね。こんな時間まで自習だなんて、ご苦労様です」
「!五月」
俺がうとうとしていると、五月が眠気覚ましのドリンクを持ってきてくれた。まだ帰っていなかったのか。
「何言ってんだ。俺は苦労なんてしてねぇ。俺を誰だと思っている」
「言うと思っていました。これ、差し入れです。どうぞ」
「悪いな」
少し無理をしているのは自覚しているが、俺はこれを苦労だなんて思ってない。だが、ここでの眠気覚ましはすげぇありがたい。俺はすぐにその眠気覚ましを飲む。
「・・・先日、塾講師をされてる下田さんという方の元へ出向いてまいりました」
「!」
「バイト・・・といえるかわかりませんが、下田さんのお手伝いをしながらさらなる学力向上を目指します」
そういや・・・2日前に五月が勉強会を用事とか言って遅刻していたことがあったな。用事ってのはそれ関係か・・・。
「・・・俺じゃ力不足かよ」
「そう拗ねないでください。そうではありませんよ。ただ・・・模試の先の卒業の更に先の夢のために、教育の現場を見ていきたいのです」
・・・真面目な五月らしい答えが出てきたな。とはいえ、五月のその行動は、予想外だった。全く・・・こいつらの考えは本当に読めねぇな・・・
「・・・お前らのやることは本当に予測不可能だ・・・。新学年になってから・・・四葉も・・・二乃・・・一花ときて・・・・・・三玖・・・も・・・」
「?何かあったので・・・わっ⁉また目を開けて寝てる⁉」
zzzzzz・・・
「・・・あなたにはいずれ、話しますから・・・」
♡♡♡♡♡♡
ブーッ、ブーッ、ブーッ・・・
「ん・・・いつの間に・・・」
どうやら俺は五月と話してる間に眠ってしまったらしい。俺のスマホの着信で目を覚ました。時間は・・・やべ、こんな時間か。それよりメールは誰が・・・らいはか。
『from:らいは
お兄ちゃん、いつ帰ってくるの?
お誕生日会の準備して待ってるよ』
お誕生日会?・・・ああ、そういや今日だったか・・・。勉強に集中しすぎてすっかり忘れてた・・・。もう外も暗いし、これ以上待たせるわけにもいかんな。
「帰るか・・・」
そろそろ帰ろうと思って席を立とうとすると、俺の席の前に、ある物が置かれていた。
「6羽・・・鶴・・・?」
俺の前にあったのは折り紙の千羽鶴ならぬ6羽鶴だった。いったい誰が・・・そう思っていると、鶴には何かうっすらと何かが書かれていた。これだけでこれが折り紙じゃないことがわかる。
「なんだこれ?何の紙を使って・・・」
気になって紙を広げてみたら・・・使用されていたのは英語の答案用紙だったことがわかる。そして名前の欄には三玖と書かれていた。もしやと思って他の鶴も広げてみたら・・・案の定、六つ子たちの名前が出てきた。点数は・・・学期末試験と同じ・・・いや、それ以上の点数が書かれていた。あいつら・・・ずっと頑張ってきたのか・・・。
「・・・1人じゃない、か・・・」
・・・あいつらが頑張ってるんだ。俺も、負けるわけにはいかねぇな。誕生日会が終わったら、俺もすぐに勉強を再開しないとな・・・。
♡♡♡♡♡♡
それから数日の時が流れて、今日がいよいよ本番の全国模試の開催日。当日ではあるのだが、せめてもの悪あがきだ。かなり眠いが・・・可能な限りは勉強を続けるぞ。
「お兄ちゃん!早くしないと学校遅れるよ!」
「後5分・・・後5分だけ復習させてくれ・・・頼む・・・」
「もー!しっかりしてよー!今日は大事なテストでしょ!ほら!パン食べて!」
らいはが学校に行くように急し、俺に食パンを食わせてきた。勉強する時間も惜しいが・・・登校する時間もあるしな・・・家でできるのはここらが限界か・・・。仕方ねぇ・・・勉強は切り上げてさっさと行くとするか。
「よし・・・行ってくる!」
「がんばってー!」
「気張ってきな!」
親父とらいはのエールを受け取りながら、俺は急いで模試会場である学校へと向かっていく。
「・・・お?らいは?俺の牛乳どこ行った?」
「え?もしかしてお兄ちゃん・・・あれ、持っていっちゃったの?」
♡♡♡♡♡♡
もうそろそろ学校につく頃合いには俺はパンを食い終わり、持ってきた牛乳で乾いた喉を潤す。とりあえずやれることはやった。後は・・・あいつらの方はどうだろうか・・・。
「おはようございます」
と、噂をすれば何とやら、か。振り向いてみたら、六つ子たちがそこにはいた。
「いよいよ試験当日ですね」
「頑張りましょー!」
「ってか、目の隈酷いわね」
「人のこと言えない・・・」
「はは・・・みんな同じだよー・・・」
「ふわー・・・どう?全国8位いけそう?」
よく見たら全員目の下に隈ができている。それだけこいつらも頑張ってるんだなって実感ができる。そう思うと不思議と笑みを浮かべてしまう。
「ああ、もちろん・・・」
「はははははは!!上杉君!逃げずに来たことをひとまず褒めておこう!」
もう学校が目の前ってところまで歩いてたら、学校の目の前で武田が立ちふさがっている。
「うわ・・・出た・・・」
「だがしかし君は後悔することになるだろう!!あの時、逃げておけばよかったと!!」
朝からうるさい奴だな・・・よくこんな早朝でそんな声を上げられるな。
「朝からうるさいわね・・・」
「上杉さんは負けません!」
「そうだそうだー!負けるもんかー!」
「君たちには話していない!!!!!」
・・・こいつ、こんな奴だったっけ?まぁこいつのこと、そんなに言うほど知らねぇけど。まぁいいけど。
「上杉君、ここが僕と君との最終決戦・・・一騎討ちで雌雄を決し・・・」
「お前ら急げ。まだ試験開始まで時間がある。少しでも悪あがきしておくんだな」
「「「「「「はーい」」」」」」
「・・・・・・」
これ以上こいつと話してるとなんか長くなりそうだったから早いとこ切り上げてさっさと学校へと向かっていく。・・・あ、そうだ。武田にはこれだけは言っておかないとな。
「悪いな。一騎討ちじゃないんだ。こっちには7人いるからな」
「・・・ふ、ふふふ・・・君の弱さになるよ」
俺は武田に言いたいことを言って六つ子を連れてさっさと学校に向かっていく。俺も、最後の仕上げとして悪あがきでもしておくか。
♡♡♡♡♡♡
時間が経って、いよいよ全国模試が始まる。周りにいる奴らはいつにもまして真剣な顔つきになっているな。それは、六つ子たちも同じか。
「机の中を空にして着席してください」
教室に入ってきた先生に言われたとおり、俺を含めて周りは机の中のものを全部かばんにしまって、そのかばんも机の下に置く。
「問題用紙は合図があるまで裏にしてお待ちください」
問題用紙と答案用紙が全員に渡った。後は合図が出れば試験開始だな。
「それでは、全国統一模試を開始します」
先生の合図で全国模試が始まった。やれることはやったんだ・・・後は俺の全力を出すだけだ。・・・それだけなんだが・・・ここで問題が発生した。
「・・・・・・まずいな・・・」
や・・・やべぇ・・・すっげぇ頭が回んねぇ・・・。襲ってくる眠気のせいでボーッとする・・・。こりゃ徹夜しすぎがまずかったか・・・。こりゃ今回ばかりはやばいかもしれねぇな・・・。
いや!!俺ならできる!!やってみせる!!頬でも抓りながらでも、意識を答案用紙に集中!!これくらいの問題、俺が本気を出せば、どうってことは・・・ない!!
♡♡♡♡♡♡
『つかの間の休息』
時間が経って、4科目のテストが終わり、残ったのは2科目だ。そして、4科目目が終えたころにはつかの間の休息・・・つまりはお昼休みの時間だ。六つ子たちは食堂で各々が食べたいものを頼んで、昼食にありつく。
「あ~っ、やっとお昼だ~!残り2科目だよ、頑張ろうね!」
「消費したエネルギーはしっかり補充しましょう!」
「フータロー・・・頭垂れてたけど、大丈夫かな・・・」
「後は信じるしかないわよ。じゃないと・・・せっかく用意したプレゼントが渡せないじゃない」
「あれー?ところでその風太郎君はどこに行ったの?」
「う~ん・・・それが・・・トイレに行ったっきり戻ってこないんだよね・・・。大丈夫かな?」
♡♡♡♡♡♡
ぐぎゅるるるる・・・ぐぎゅるるるる・・・
なんてこった・・・何でこんな日にこんな強烈な腹痛が襲ってくるんだよ・・・。まさか・・・今朝に飲んだ牛乳・・・消費期限が切れてたのか・・・?くそう・・・どっちにしろなんて不運なんだ・・・。・・・ふぅ・・・出すもん出して、ちょっとはマシになった・・・か・・・?まぁ・・・いい・・・。とりあえず出したもんは水に流して・・・便所から出るか・・・。
ガチャッ
「やぁ、上杉君。思ったより長かったね」
「・・・不思議といるような気がしてた」
便所から出ると、俺の前にいたのはやっぱりというか武田がいた。なんでか知らねぇが・・・こいつとは便所で見かけることが多いから、何となく予想はできていた。
「お前・・・こんなところにいていいのかよ?ここで時間を無駄にしてるくらいなら1つでも復習しておけよ。フェアじゃねぇだろ」
「復習?ふっふっふ・・・僕にはその必要がないのさ」
あ?復習する必要がない?こいつ・・・相当な自信があるのか・・・って・・・なんだ?武田の持ってるあの封筒は?
「・・・武田、その封筒はなんだ?」
「これかい?これはね・・・今回の模試の答えだ。全ての答えは、ここに書いてある」
「!!!???」
ちょ・・・ま・・・は、はあ!!??あの封筒の中身が・・・今回の模試の答え・・・だと!!?
「な・・・なんでそんなものが・・・つーか・・・それさえあれば・・・お前・・・」
「そう・・・君に確実に勝てる。君の成績がどれだけよくてもね」
・・・おい・・・ちょっと待て・・・。それって・・・
めちゃくちゃ不正じゃねぇか!!!!
こいつ・・・勝つためにそこまでするのか⁉いや待て・・・もしこいつの話が本当なら、武田はほぼ満点で間違いないはずだ・・・!こうなったら俺も全問正解を狙うしかないのか・・・?俺にそれができるのか・・・?
「ふっ・・・そう警戒しないでくれ上杉君。僕には・・・」
ビリィッ!!!!
「こんなものは必要ない」
武田は何を思ったのか自分で用意した模試の答えを破り捨てて・・・それを・・・便器の中に流してしまった。
「ふっ・・・安心してくれ。前半の科目でもあの封筒は開けていない。そもそも、あれは父さんが勝手に用意したもので僕はそんな不正を頼んだ覚えは1ミリもない」
「お前・・・」
こいつ、わざわざあの答えを処分するためにここに来たのか?それなら、なんでわざわざその用紙を俺に教えたんだ?
「上杉君・・・僕はね・・・宇宙飛行士になりたいんだ!」
「・・・ん?・・・は?」
こいつ、何言ってんだ?今は模試の話をしてんだろ?なんでそこで宇宙飛行士の話が出てくるんだ?
「・・・すまん、一から説明を・・・」
「地面も空気さえもないあの美しい空間に憧れてるんだ。宇宙には全てがない・・・だからそこに全てがある!!そこが・・・」
「わかった・・・もう説明はいい・・・」
なんか話が長くなりそうだったからそこで説明を切り上げる。だが・・・それとこれとで試験とどう関係があるんだ?
「ずっと縛られてきた僕の人生の中で唯一見つけた僕の道だ。無論、それは険しい道のりなのは承知している。宇宙に行けるのはこの地球で一握りの選ばれた者のみさ。世界中の人間が僕のライバルだ。だから僕はこんな小さな国の小さな学校で負けるわけにはいかないのさ。夢が、あるから」
「お前・・・」
「実力で君を倒す!!不正して得た結果に何の意味などない!!」
夢に向けてまっすぐな武田のその姿に俺は・・・
ぐぎゅるるるるるるる・・・
「うっ・・・!!?」
「!!?」
う、うおおおおお・・・ここでまた腹痛が発生するなんて・・・。だ、ダメだぁ・・・!!も、もう1回便所に入る!!
「・・・武田」
「!」
「お前の勝負、受けて立ってやるよ」
腹痛のせいで途切れてしまったが、夢に向かって進む武田の姿に俺は尊敬を覚えてくる。夢についてあまり考えたことのなかった俺にとっては憧れさえも抱いてくる。そいつがこうやって俺に向かって真剣に挑んできてるんだ。だったらそれに応えてやらねぇと武田に失礼だ。
「・・・はははは!何を今さら!当り前さ!僕らは永遠のライバルなのだからね!!」
武田は笑い声を上げながら便所から出ていった。正直に言えば・・・まだ頭がボーッとするが・・・やってやる・・・残り2科目・・・俺は絶対に、全国で8位以内に入って、武田に勝ってやるぜ!
♡♡♡♡♡♡
『試験の結果』
「旦那様。先月行われた全国模試の結果が届きました」
「ご苦労」
街の道路の中、リムジンがどこかへと向かっていっている。リムジンの中にいるのは運転している江端と江端の報告を聞きながらアイパッドで全国模試の結果を見ているマルオだ。
「お嬢様方は個人差はあれど、前年より大幅に成績を伸ばしております」
「そうか・・・」
「家庭教師という選択は結果的に大成功と言えるでしょう。もちろん、お嬢様方の努力あってのことです」
自分の娘たちが勉学で大きく成長したことにたいして、マルオは無表情だが心なしか少しうれしそうにしている。
「武田様は全国4位の快挙でございます」
「・・・・・・」
「そして最後に・・・上杉様の順位は・・・
全国1位」
全国模試で8位以内・・・そして武田に勝つ条件は上杉の勝利で収まった。マルオはこの結果に対しても無表情だ。
「旦那様にとっては残念な報告になりましたが・・・彼の宣言通りになりました」
「・・・彼自身の口で全国1位を狙うと聞いてはいたが・・・まさか本当に1位を取るとはね。驚いたよ」
「先月、上杉様はなぜそこまで頑張れるのかということを、中学校の同級生である真鍋様に1度尋ねたことがあります」
「真鍋君・・・春の旅行先にいた彼女か・・・」
「真鍋様は、こうおっしゃられておりました」
♡♡♡♡♡♡
あいつが頑張る理由・・・ですか?
・・・さあ?私もそこまであいつのことを知ってるってわけでもないので・・・。家庭教師の件だって江端さんに聞かされるまで知りませんでしたし。
・・・あ、でも・・・あいつは去年から・・・六つ子たちが来てからずいぶんと変わりましたよ。面倒ごとに関わろうとしなかったあいつが自分から進んで面倒に突っ込もうとしてるのもそうだし・・・2年後半になるまで私の名前を覚えようとしませんし・・・うまく説明できませんけど・・・以前と比べれば生き生きとしていますよ。
あいつ自身が変わることができたのは、間違いなくあの子たち六つ子たちなんです。少なくとも・・・私にはあいつを変えることはできませんでしたから・・・影響はすごく出ていると思いますよ。
♡♡♡♡♡♡
「お嬢様にとっても、上杉様にとっても、お互いにいい影響を受けたようですね。この家庭教師案・・・もし上杉様が引き受けていなければ・・・」
「・・・さてね。そんなことを考えても仕方ないよ」
少なくとも、娘たちがいい影響が出ているのは否定していないマルオは今回の模試の結果をじっと見つめている。
「・・・上杉風太郎・・・彼には悉く邪魔されてばかりだよ。彼と関わる度に、僕の考えていた予定は狂わされてしまう。全く・・・困ったものだよ・・・」
マルオは今回に結果に残念そうに思っているのとは裏腹に、無表情に心なしか笑みを浮かべている。
「・・・だが、その覚悟・・・見事だ」
家庭教師としての話だが、マルオは心の奥底から初めて・・・上杉風太郎という人物を認めたのであった。
39「男の戦い」
つづく
おまけ
誕生日プレゼント譲渡
六つ子「全国1位おめでとう!そして、遅くなったけど・・・お誕生日おめでとう!」
風太郎「お前ら・・・わざわざ用意してくれたのか?なんか・・・悪いな」
二乃「アタシ達がやりたいことなんだから気にしなくていいわよ。はい、フー君♡疲労回復効果のアロマキャンドル♡」
風太郎「・・・あ、あー・・・アロマな。いいよな、アロマ。ふんふんアロマね。人を選ぶが俺はうまいと思うぜ、アロマ」
二乃「・・・絶対わかってないでしょ」
三玖「フータロー・・・おめでとう。これ、スポーツジムのペア券」
風太郎「お、おう・・・」
三玖「今度、一緒に行こうね」
六海「はいはいはーい!六海のはこれ!マッサージチケットー!六海が風太郎君の肩をマッサージしてあげるよー!」
風太郎「絵だけはうまいが・・・発想が子供かよ・・・」
六海「いつでも使ってくれていいからね♪」
四葉「私と五月はこれです!千羽鶴です!上杉さん、模試勉強、お疲れ様でした!」
風太郎「これ、普通は病気の奴にあげるやつだろ。まぁいいが」
五月(私の場合、プレゼントはあの眠気覚ましのドリンクでしたし・・・あれでは味気ないので・・・いいですよね。決してうっかりしていた、というわけではありませんが・・・)
一花「最後はお姉さんだね。はい、私のプレゼントは、これね♪」
風太郎「ん?お前のだけなんか変だな。中に何が入ってんだ?」
一花「それは、開けてのお楽しみ♪」
二・六(ギフトカードって・・・大概すぎる・・・)
風太郎「・・・たく、本当にお前らは予測不可能なことをしてくるな・・・。けどまぁ・・・ありがとな」
自分のためにプレゼントを用意してくれた六つ子に風太郎は少し、嬉しさを感じるのであった。
誕生日プレゼント譲渡 おわり
次回、五月視点。
デート回(?)にて、2番目でデートをするのは誰がいい?
-
一花
-
二乃
-
三玖
-
六海