風太郎SIDE
「お見事、という他ないね」
「・・・・・・」
「君が10位以内に入ったとしても勝つつもりで臨んだ全国統一模試。4位というのは僕にとっても予想以上だし、願ってもいない順位だ。けどまさか、その上を・・・しかも1位を取ってしまうとはね。驚きで言葉も出ないよ」
「・・・・・・」
「1位、おめでとう。ところで、修学旅行の話になるけど・・・」
「おい、ちょっと待て。なぜ俺はこんな昼間からお前とブランコを漕いでいるんだ」
全国模試の結果が出た後の土曜日、俺はなぜか公園で武田と一緒にブランコを漕いでいる。いや、本当になんでだ?
「ははは、昨日の敵は今日の友ともいうだろう?これが青春というのかもしれないね」
「帰る」
つーか俺はここで遊ぶために来たわけじゃない。今日はあいつらの家に行って全国模試の反省会でもしないといけないのだから、早く帰りたいんだ。
「よっと」
俺はブランコの勢いに乗って跳び、着地する。
「お見事」
・・・四葉が跳んでいた記録にはまだ足りないか。いつかはこれを越えてみたいものだが。
「まぁそう焦るんじゃない。忘れたのかい?僕らは呼び出されたんだ。ほら、ご到着だ」
俺たちの視線の先にはいかにも金持ちが乗っていそうな高級リムジン。そのリムジンから出てきたのはやっぱりあいつら六つ子の父親だ。俺たちがこの人に呼び出されたのはもちろん忘れていない。どのみち、避けては通れない道だし、結果を受け取ったからには、呼び出されるのはわかっていた。
「待たせてすまなかったね」
お父さんが来たところで俺たちとお父さんは公園にあるベンチに座り、さっそく今回呼び出された本題に入る。
「まずは武田君、全国4位、おめでとう。出来のいい息子を持てて、お父さんも鼻が高いだろう」
「ありがとうございます」
「医師を目指していると聞いた。どうだろうか。君のような優秀な人材ならば、僕の病院に・・・」
「申し訳ございません。大変光栄なお話ではありますが、僕の進路についてはもう少し考えたいと思っております」
お父さんの提案に武田はそう言ってのけた。まぁ、この場を収めるためなのだろうが、俺にはこれが遠回しに断っているのだというのがわかる。こいつがこういうのはわかっていた。武田が目指しているのは医者とかじゃなくて、宇宙飛行士なのだから、当然だ。
「そうかい。いい返事を期待しているよ」
これで武田の話は終わりか。次は、俺の番か・・・。
「上杉君」
「はい」
「君に家庭教師の仕事を再度頼みたい」
「・・・え?」
今、お父さんはなんて?俺に、家庭教師の依頼を?俺を警戒していたあのお父さん、自ら?今までのことを考えれば、驚きでいっぱいになる。
「報酬は相場の6倍。アットホームで楽しい職場だ」
「それはよーく知っています」
だって以前まではそれで仕事をやっていたのだから、知っていて当然だ。
「・・・正直に言えば、また君に依頼するのは不本意でしかない。本来ならば、その手のプロでさえ手に余る仕事だ。・・・だが、君にしかできない仕事らしい。やるかい?」
・・・これ、お父さんが俺のことを家庭教師として認めてくれたって・・・ことなのか?・・・いや、この際そんなことはどうでもいい。俺の答えはとっくの昔に決まっている。
「もちろん、受けます!!言われなくてもやるつもりだったんだ!!給料がもらえるのならばなおさら、願ったり叶ったりです!!」
あいつらのバカさのおかげで、最期まで家庭教師をやり遂げようと決めたんだ。断る理由が俺にはなかった。しかも給料がもらえるのなら、さらにやる気が上がるってものだ。
「それはよかった。では、当初の予定通り、卒業まで・・・」
「あ、そのことで1つ、お伝えしたいことがあります」
「何だい?」
前までの俺だったならば、当然、卒業だけを目標にして動いていただろうが、今は違う。考え方を改めた・・・というのが正しいか。
「成績だけで言えば、あいつらはもうすでに卒業までいける力を見についております」
「ほう、頼もしいね」
「当初、俺もそれでいいと思ってました。だけど・・・五月の話と・・・こいつ、武田の話を聞いて、思い直しました。次の道を見つけての卒業・・・俺はあいつらの夢を見つけてやりたい」
まぁ、何人かはもう夢がはっきりしている奴もいるが、その夢のためにも、俺がしっかりと教えてやらないとな。たく・・・俺はいつからこんなことを考えるようになったんだか・・・。まるで自分が自分じゃないような気分だ。
「上杉君・・・」
「・・・ずいぶん大きな変わりようだね。就任直後、流されるまま嫌々こなしていた君とはまるで大違いだ」
「き・・・気づいてたんですか・・・?」
やべぇ・・・そこまで気づいてたなんて予想外だった・・・。完全にノーマークだった・・・。そう考えると俺、めっちゃ失礼だったんじゃ・・・。
「まぁ・・・いい。どんな方針で行こうが君の自由だ。間違っているとも思わないしね。だが・・・忘れないでほしい」ゴゴゴゴ・・・
「!!」ビクッ!
「君はあくまでも家庭教師だ。娘たちとは、紳士的に接してくれると信じているよ・・・」ゴゴゴゴ・・・
「も、もちろん!!一線は引いています!!俺は!!俺はね!!」
こ、こえぇ!!無表情の圧力がめっちゃ怖い!
「わかっているのならいい」
「は・・・はははは・・・」
まぁだけど・・・一応この人はこの人なりに、あいつらを心配してるんだよな。そうじゃなきゃ、あんな無表情ながらの威圧感なんか出さねぇって。そう考えると俺、ちょっと・・・いやかなり失礼なことを言ってしまったな。この人のことを何もわかってないのに父親らしいことをしろって・・・。後悔はしないが、反省はしないとな。
♡♡♡♡♡♡
話が終わった後、俺はお父さんからのご厚意であいつらの家まで送ってもらった。しっかし、リムジンってあんなに広かったんだな・・・。落ち着かなかったぜ・・・。まぁいい、やっと着いたんだ。早く中に入って全国模試の反省会を・・・。
「「えっ!!?」」
俺があいつらの部屋へ向かおうとすると、出かけていたであろう五月と六海が帰って来た。
「う、上杉君・・・今、乗ってきたのって、お父さんの車じゃ・・・」
あー・・・まぁ、確かに家庭教師のうんぬんと言った後のことだからな。驚くのもの無理はないが。
「まさか、またパパが余計なことを言ったの?ちょっと待ってて、今度こそガツンと・・・」
「あー、いや・・・その必要はない」
「なんで?言われっぱなしじゃ・・・」
「そうじゃねぇって・・・。まぁ・・・家庭教師、復帰できるようになったってだけだ」
「「!!」」パァ
俺が正式に家庭教師を復帰できると聞いた途端、五月と六海の顔色が明るくなった。六海なんか取り出したスマホをしまうくらいだから、わかりやすい奴ら。て・・・そんなことはいい。早く上がろう。
「功績が認められたのですね!おめでとうござ・・・あれ!!?」
「ちょっとちょっと!何で無視するの!!?」
「・・・・・・」
「ねぇ、無視しないでよー!ちゃんと会話に参加してよー!」
「あー、わかったわかったから、肩を揺さぶろうとするな」
くそ、このまま素通りしようと思ったのだが、六海が相手だとそうもいかないか・・・。だが、あの父親にかなりの念を押されてしまったからな・・・。そうでなくても勘違いされないように、今後はこいつらとの距離感は考え直さないと・・・。まぁ、五月に限っては心配するだけ無駄なような気がするが・・・。だが、先日のようなことがあっても困るし、今後は控えることにしよう。
「・・・怪しいですね・・・」
今後のこいつらの距離感について考えながら俺はこいつらが住んでいる部屋の扉を開ける。
「あ!上杉さん、いらっしゃーい!」
「やっと来た~」
「遅かったじゃない。何してたのよ」
「・・・すまん・・・」
扉を開けると一花と二乃と四葉が出迎えてくれた。三玖・・・はそういえば今日はバイトだって言ってたっけ。距離感と言えばこの3人もそうだ。俺が距離を置こうとしても、あいつらがぐいぐい来るからなぁ・・・。
「・・・て、うおっ!!?なんだこれ!!」
今気が付いたらこの部屋一面段ボールだらけじゃねぇか!
「あはは、生活も落ち着いてきたし、大掃除してたんです」
「え・・・今日は反省会の予定じゃあ・・・」
・・・まぁ、家庭教師就任時には予定を踏み倒されてばっかだから、あれに比べたらまだ全然マシな方か・・・。
「ねぇ!それよりアロマ使ったかしら?」
「え?アロマ?」
アロマ?アロマって・・・なんだっけか・・・?
「ほら、あげたじゃない。誕生日プレゼント」
・・・あー、思い出した。そういえばこいつらから渡されたプレゼントの中になんかあったな。しかしアロマか・・・。
「あー・・・アロマな。いいよな、アロマ。ふんふんアロマね。人を選ぶが俺はうまいと思うぜ、アロマ」
「それ前にも聞いたわよ。絶対わからなかったでしょ」
あれ?そうだったか?
「もう!ちゃんと教えるから使いなさいよね」
「誕生日プレゼントで思い出した!六海のマッサージチケット、いつ使うの?」
ああ、あのやたらと絵だけはうまい子供の発想の塊みたいなあれか。
「あれか・・・。別に今は肩とか凝ってねーし、別に今はやらなくてもいい」
「むぅ・・・せっかく作ったのに・・・使ってくれないと意味ないよぅ・・・」
肩凝ってないことを伝えると頬を膨らませて不服そうな顔をしている。え、なんで?・・・なんだかよくわからんが、あれを作ったってことはそれなりにマッサージがうまいんだろうな。四葉にもマッサージやってたくらいだし、本当に肩が凝ったら使ってみるか。
「ねぇ、フータロー君、私のプレゼントなんだけど・・・」
「ん?ああ・・・お前だけなんか変だったな。あのギフトカードで買い物しろってことか?」
「うん。あれでらいはちゃんの好きなものを買ってあげたらくれるんじゃないかなーって思って」
「最高!!マジで助かる!!ありがとうな、一花!」
「えへへ・・・」
らいはに好きなものを買ってあげようにも金がいるからあのギフトカードは本当に大助かりだ。らいはのことをちゃんと考えてくれて・・・一花にはマジ感謝しかねぇわ。
「その手があったか・・・!」
「らいはちゃん使うなんてずるーい!」
なんでか知らんが、二乃と六海が悔しがっている。何に悔しがっているんだ、この2人は。
「上杉さん、私の贈り物はどうでしたかー?」
四葉の贈り物はまんま千羽鶴だったか。もしかして、あれ1人で全部折ったかのか?だとしたら本気ですげぇもんだぞ。
「ああ、あの千羽鶴か。あれ全部お前が・・・」
・・・はっ!いかんいかん・・・今日はお父さんに釘を刺されたばかりだった・・・。こいつらの距離感を気をつけようといった傍からこれだ・・・。あぶねぇ・・・。
「・・・上杉さん?」
「・・・あー・・・なんか今日はもう勉強できそうにないな。また日を改めるわ」
「え?もう帰っちゃうの?」
「もう少しゆっくりしていけばいいのにー」
「この状況でどうゆっくりすればいいんだ」
こんな段ボールだらけで、しかも大掃除でバタバタしてるのにゆっくりできるわけないだろうに。まぁ、いい。今日は予定が空いちまったな。今日は家に帰って勉強でも・・・
「・・・隠し事の匂いがします・・・」
俺が外に出て家に帰ろうとした瞬間、背後からうっすらと五月に声をかけられた。その登場の仕方、どうにかならんのか?ゆっくりと扉を開けて姿をうっすらと現すとか、ホラー映画のゾンビみたいだぞ。
「な、なんだよ、五月・・・」
「ピンときました。あなた、私に何か隠してませんか?」
ぐっ・・・意外に勘のいい奴・・・。こいつが優秀なのかポンコツなのか本当にわからんな・・・。
「まさか・・・やっぱりお父さんに何か言われたんじゃ・・・ちょっと抗議を・・・」
「だからちげぇって。別に話すようなことでもないだろ」
「むむむ・・・」
六海と同じことをやろうとしてる辺りやっぱ姉妹なんだぁと思う。まぁ、今更だが。俺が何か隠してるだろうと思っている五月は頬を膨らませている。いや、そんなんされても言うほどのことでもないだろ。
「・・・わかりました。ではこうしましょう。あなたが隠し事を話してくれたら、私も隠し事を1つ、話ましょう」
「?お前の隠し事だって?たいして興味すらないんだが・・・」
「なっ!いいじゃないですか!!」
いや、別に五月の隠し事なんて大したことでもないし、そこまで気にするほどのことでもないだろう。
「・・・もう、黙っているのは限界なんです・・・。こうでもしないと、言えません・・・」
しかし、五月の表情はどことなく真剣なものだった。うーん・・・本当に興味もないんだが・・・。まぁ、こいつには世話になってるし、相談に乗ってほしいって意味では、いい機会かもしれん。
「・・・じゃあ話してやるが・・・引くなよ?」
「ええ!ぜひ話してください!!」
「実はな・・・俺に、モテ期が来た」
「・・・うわぁ・・・」
おい、引くなって言ってる側から思いっきり引いてんじゃねぇか。
「・・・おい」
「あ、すいません。ですが、上杉君の口からそのような言葉が出てくるとは・・・よほど疲れているようですね。休養を取ることを強くお勧めします」
ぐ、こいつ・・・言いたいことを言いやがって・・・!・・・まぁ、いい。いちいち気にしててもより一層疲れるだけだ。今はこれは放っておくとして・・・
「・・・話を戻すが、驚くのはまだ早い。相手はあの二乃と一花だ」
「え?二乃と・・・一花って・・・三玖ではないのですか?」
「・・・いや、あいつじゃねーよ。三玖と四葉は応援するとかどうとかって言ってやがる。まった・・・俺にいったいどうしろっていうんだよ、あいつら・・・」
「三玖と四葉が・・・応援・・・」
何をすればいいのかということも、三玖のあの発言の一件もいろいろと腑に落ちないところは多々ある。そのおかげでいろいろ考えさせられる・・・。いい迷惑だ、全く。・・・だが、気にしてても仕方がない。それよりも・・・
「・・・おい、俺は今、めちゃくちゃ恥ずかしいことを話してやったんだ。お前も早く、それ相応の物を話せ。この場が気まずくなる」
「は、はい!」
さて、たいして興味もない五月の隠し事とやらをしっかりと聞かせてもらおうか。
「・・・じ・・・実は・・・私は・・・もう1つの顔があるのです」
「!」
「誰にも明かせない・・・私の、もう1つの顔・・・誰にも明かすことができませんでしたが・・・今ここで、お話ししましょう・・・」
「ま、まさか・・・」
五月の・・・誰にも言うことができないもう1つの顔・・・それは・・・もしかして・・・
「・・・あの・・・私が・・・」
「もう!何でまた外に出ていっちゃうかなー、五月ちゃんは!」
五月のもう1つの顔を話そうとした時、六海が扉から出てきた。
「あれ?風太郎君、五月ちゃんと一緒にいたんだ」
「ああ、ちょうど五月の恥ずかしい秘密をはな・・・」
「足止めありがとう、風太郎君!五月ちゃん!ちょっとこっち来て!」
「えっ!!?あ、いや、ちょっと・・・!!」
「あ、おいこら待て!!五月、俺の秘密は言ったのにフェアじゃねぇだろ!!六海、五月を連れていくなーーー!!」
六海は俺の制止の声も聞かず、五月を連れていって部屋の奥へと行っちまった。なんだよそれ!!俺恥ずかし損じゃねぇか!!
「・・・まぁ、大方の予想はついているがな・・・」
どうせ五月の裏の顔ってのは十中八九、あれのことだろうな。しかしこのもんもんをどこにぶつけりゃいいっていうんだよ・・・。
「あれ?上杉さん、まだいたんですね。また会えて嬉しいです!」
「四葉か・・・」
このもんもんをどうしようと思ってたら古い新聞紙の束を持った四葉が出てきた。大方古い新聞を捨てるつもりだったのだろう。ちょうどいい・・・このもんもんを四葉にぶつけるか。ちょうど、五月の裏の顔っていうネタもあるしな。
「それで、上杉さんは今ここで何を・・・」
「なぁ四葉、有名レビュワーの
SIDEOUT
♡♡♡♡♡♡
『女の戦』
有名レビュワー、
「おーい、三玖―、バイトお疲れー」
「四葉」
「最近毎日頑張ってるよねー。ねぇ、三玖は知ってた?五月って・・・」
「ちょうどよかった。私の作ったパン、食べて」
「( ゚Д゚)」
三玖の作ったものの試食を頼まれた四葉は表情が固まった。しかし、元が優しい四葉ゆえ、三玖の頼みを断るはずもない。
「モ・・・モチロンイイヨー・・・」
「よかった。じゃあ、これがそのパン」
片ことながらも試食を了承した四葉に三玖は自身が作ったパンを受け取る。見た目は普通のクロワッサンそのものではあるが問題は味である。
「見た目はおいしそう・・・」
「食べて感想、聞かせて」
「じゃあ・・・いただきます」
四葉は意を決して三玖の作ったパンを試食する。そして・・・その味は・・・
「!おいしい!!」
四葉の口をうならせるほどのおいしさだったらしい。五月の方がいろいろと的確だろうが、それでも三玖にとってこれは大きな進歩である。
「これ、三玖が作ったって本当⁉すっごくおいしいよ!」
「ずっと特訓してたから・・・よかった・・・」
「もう少し早ければなー。ここに上杉さんが来てたの」
「ううん・・・割と都合がよかった・・・。もう少し待って・・・フータローにはとっておきの舞台で1番いいのを食べてもらうんだ」
三玖の静かな笑みを浮かべ、四葉はそれを見てにっこりと微笑む。
「ところで、とっておきって・・・?」
「ほら、京都の・・・」
三玖は四葉にそのとっておきの舞台について話す。
一方その頃、六海は五月をリビングに無理やり連れていき、そこに段ボールに隠れるように置かれていた白い箱を指さしている。
「これ、五月ちゃんのやつでしょ。秘密にしてほしいって言ってた」
「あ、ああ!そ、そうです!すみません、ちゃんと隠しててくれたんですね・・・」
「まったくー・・・先に見つけたのが六海だったからよかったものの・・・隠す気がないのなら早く捨ててよねー」
「返す言葉もありません・・・」
五月に返すものを返した六海はリビングから出て、別の部屋に入っていった。五月も白い箱を処理しようと白い箱を持ってリビングを出ようとする。
「あれ?五月ちゃん?もしかして、今六海と話してた?」
そこへ偶然一花が鉢合わせる。箱の中身はちゃんと蓋で閉じているため一花に見られることはないので五月は少々戸惑ったが、冷静を装う。
「え、ええ。ちょうど着なくなった服を六海が見つけたので、それの確認を・・・」
「いらないものは捨てなよー。て、私が言えたことでもないかー」
「ははは、六海にも同じことを言われました・・・」
「おっと、余計なお世話だったかなー。ごめんね」
五月は白い箱を持ってせっせとリビングから出ていく。すると五月は何かを落としていった。
「!ねぇ、五月ちゃん、何か落として・・」
五月の落とし物を拾い上げた一花は落とし物を見て目を見開いた。五月が落としていったのは1枚の写真であった。
「これ・・・京都の・・・」
どうやら写真に写ってた風景は京都らしい。が、そこは重要ではない。一花が目を見開いていたのは理由はその写真に写っている人物にある。
「・・・そっか・・・」
その写真に何かに気が付いた一花は、怪しく微笑んでいる。
一方の五月はトイレへと入っていき、そこに白い箱を蓋が閉じた便座に白い箱を置く。
「・・・やっぱり・・・言えない・・・京都のことも・・・全て・・・」
白い箱の中に入っていたのは、白のワンピースに白のハイヒール、白いハット帽子に、ピンクの鬘だった。
「こんなこと・・・なんて説明したら・・・」
五月は何やら思いつめた様子でそれらの服を見つめていた。
一方六海は自分のかばんからがさごそと何かを探っている。
「・・・早いところ、六海も行動に移さないと、だよね。今のままじゃ、差が広がっちゃう」
何かを見つけたそれを六海は取り出す。取り出したそれは、修学旅行のしおりだった。
「このとっておきの舞台で、六海は風太郎君と距離を縮める。そして・・・風太郎君に・・・ちゃんと好きだって告白するんだ・・・」
六海は決意がこもったような表情と瞳で修学旅行のしおりを見つめる。
一方、キッチンにいた二乃は自分の修学旅行のしおりをじっと見つめている。
「・・・追いつかれるわけには、いかないわ」
二乃の表情からは、他の姉妹には負けられないという気持ちが出ている。
(もうすぐ来るこの高校最大のイベント、修学旅行・・・これがきっと、フー君を振り向かせる最大のチャンス)
修学旅行の行き先は、六つ子にとっても、風太郎にとっても記憶に深く残っている場所・・・京都。
「修学旅行・・・行き先は京都・・・ここで決着をつけてやるわ」
♡♡♡♡♡♡
四葉SIDE
大掃除をやった日、三玖にパンの試食を頼まれてからというもの、私はその後も試食を頼まれて、三玖のバイトの日には必ずパン屋に行くことになりました。そして現在もパン屋、こむぎ屋に来て三玖の作ったパンを試食・・・のつもりなんですが・・・
「・・・えーっと・・・三玖、ここってパン屋さんだよね?炭屋さんじゃなくて」
「・・・やっぱり、不格好、だよね・・・。これは食べなくていいよ・・・」
私の目の前にあるパンはパンの形をしていますが、とにかく真っ黒こげで一目で炭や石と勘違いしてしまうような出来でした。三玖には申し訳ないけど、これは食べられたものじゃありません。
「・・・ま、まぁ・・・中野さんはまだまだバイト始めたばかりだし・・・パン作りは難しいし誰でもこうなるよ。幸いにも、向かいのケーキ屋はそれほど脅威じゃないよ」
三玖のフォローに回っているのはこのパン屋さんの女性店長さんでした。ちなみに、この店長さん、上杉さんのアルバイト先である向かいのケーキ屋さんにたいしてライバル心を燃やしてるらしいです。
「私もできる限り教えていくから、上達していこう!」
「はい!」
おお!三玖がやる気に満ち溢れている。よーし、私も三玖を支えるために、全力で応援しよう!これからも三玖の様子を見に行こう!
・・・そう思って次の日も三玖のバイト先に顔を出して、パンを試食しようと・・・思ったんですけど・・・
「・・・なんかべちゃべちゃしてる・・・」
「・・・うん。これは私も失敗なのはわかる・・・」
目の前に出されたパンはどういうわけかパンがトロッとしてて、べっちゃりとしてて、手に甘いものが付きまくってます。
「おかしい・・・手順通り作らせてるのに・・・不思議な力で何故か失敗する・・・。最近向かいの店、調子よさげみたいだし・・・」
この出来栄えには教えている店長さん自身も落ち込んでいます。どうしてこんな風になるんだろう・・・?
「・・・やっぱり私、才能ないのかなぁ・・・六海に試食避けられてばっかりだし・・・」
ま、まずい!三玖が自信をなくしかけてる!私が何とかフォローしてあげなくちゃ!
「だ、大丈夫!私が食べた成功例があるじゃん!幻なんかじゃないって!それに前より食べ物に近づいてるし、この調子だよ!」
「・・・うん・・・ありがとう・・・」
ふぅ・・・なんとか持ち直してくれた・・・。少しずつつ食べ物に近づいてるのは事実だし、次には絶対によくなってるよね、きっと。
そしてさらに次の日、今日もパン屋に来ています。そして、目の前に出されたパンは・・・正真正銘、私があの時に見たパンと同じ形をしていた。
「パンだ・・・。やったね三玖!やっと形を成せたね!」
「えっへん」
ちゃんとした形のパンを褒めたら三玖ってば嬉しそうにしてる。私も嬉しい気持ちでいっぱいです!
「まだお店に出せるレベルじゃないけど・・・三玖ちゃんがここまで作れるようになってくれて、私も嬉しいよ・・・」
店長さん、やけに疲れ気味ですね。三玖のここまでご指導、ありがとうございました。そして、お疲れ様です。
「店長さん、ありがとうございます」
「ねぇ三玖、やっぱりすぐに上杉さんに食べてもらおうよ。きっと驚くよ」
私が三玖にそう提案すると、三玖は首を横に振って反対します。
「ううん。形ができただけ。これはおいしいパンじゃない。だからまだダメ」
「そういえば、修学旅行までにって言ってたっけ?」
「はい。1日目のお昼が自由昼食のはず・・・。侵掠すること火の如し・・・そこで私のとっておき・・・最高傑作をあげるんだ」
「そっか!絶対喜んでくれるよ!」
きっと三玖の頑張りは上杉さんに届くよね!こんなに頑張ってるんだもん!
「・・・でも、問題が1つ・・・」
「あ、あれのことだよね」
三玖が不安に思っていることといえば、やっぱり、あれだよね。
♡♡♡♡♡♡
次の日の学校、私と上杉さんは皆さんの前に立ち、修学旅行の話に入ろうとしています。
「全国模試も無事終わった、ということで、修学旅行の話に本格的に入りたいと思います。事前に配られたパンフレットに三日間の流れは書かれていますが、皆さんは明日までに班を決めておいてください」
皆さんは誰と班になろうとかということでざわざわしています。わかる・・・わかりますその気持ち!誰だってこの人とペアを組みたいって思いはありますよね!
「当日はこの班ごとの行動となります。なお、定員は6人までです」
そしてこれが・・・三玖の最大の問題の1つであり・・・私がやらなければいけない重大な役目!
♡♡♡♡♡♡
『同じ班じゃなきゃ、お昼を一緒にできないかもしれない』
『確かに!自由に行動できる日もあるけど、基本は班行動だしね』
『うん・・・それもあるけど・・・何より、フータローと一緒に行動したい』
『うんうん・・・三玖!私に任せて!』
『四葉?』
『私と上杉さんで班になろうよ!私から上杉さんに言っておくから!』
『え?いいの?』
『いいのいいの!どーんと私に頼って!』
『四葉・・・ありがとう』
♡♡♡♡♡♡
私が言ったことなんだから、私と三玖と上杉さんのペア・・・必ず実現させてあげなきゃ!さーってと、ホームルームも終わったし・・・上杉さんはどこに・・・あ、いたいた!何やら武田さんに坂本さん、前田さんと一緒にいますね。
「おーい、上杉さー・・・」
「四葉」
「!一花・・・」
私が上杉さんに声をかけようとしたら、一花が私に声をかけてきました。
「ちょっとこっちに来てくれるかな?話があるの」
?一花の話?なんだろう・・・?後ででもいいかな?私は一花に手招きで誘導されるがまま、誰もいない教室に向かっていった。
「どーしたの、一花?話って・・・」
「・・・修学旅行、楽しみだね。私たち、京都って、初めてだっけ?」
「違うよ。小学生の頃に行ったじゃん。忘れたの?」
「ああ、そうだったね。四葉はまた行きたいところって、あるかな?」
「べただけど・・・お寺かな~・・・」
もしかして、お寺に行こうっていう話かな?でもなんでわざわざ・・・
「ところで話は変わるけど、クラスのみんなは6人班で悩んでるみたい。だけど私たちにはお誂え向きだよね!」
「あ!あ・・・ははは・・・六つ子でよかったね・・・」
あれ?話的にも・・・まずいんじゃ・・・。私たちが6人班で行ったら・・・三玖の願いが・・・
「でも、フータロー君はどうだろうね?」
ギクッ!!ここで上杉さんの話!!?ますますやばくなっていくような気が・・・!な、なんとか言っておかないと・・・!
「もう3年生なのに、友達いなさそうだもんねー。全国1位になっても人望ないから変わんなさそうだしねー・・・。お姉さん、ちょっと心配だなー」
「あ、ああ・・・それなら・・・」
「よし!ここは1つ、私たちで一肌脱いであげようよ」
「え?一花?」
い、一花はいったい何を言って・・・
「私と四葉とフータロー君で一班・・・いいよね?」
「!!」
え・・・えええええ!!い、一花!ど、どうしてこのタイミングでそんな発言を・・・!そんなことしたら、三玖の・・・
「あ、ごめん、電話だ。じゃあ四葉、後はよろしくね」
「え!待って・・・」
・・・行っちゃった・・・。・・・ど、どうしよー・・・。あの様子じゃ今さら断るなんてできないし・・・何でこんなことに・・・?
♡♡♡♡♡♡
解決策も見つからないまま、私は勉強会会場である図書室にやってきました。みんなもすでに集まっている状態です。遅れてですが、上杉さんも到着しました。
「お、今日は珍しく三玖が参加か」
「この後バイトだけど、ちょっとだけ参加する」
「全国模試以来の全員集合ですね」
「そうだね!あれから結構時がたったからね!」
今は勉強に集中するけど・・・修学旅行の班決めも明日までだし・・・なんとしてでも・・・なんとしてでも解決法を見出さないと・・・。
「・・・五月、フー君に何熱い視線を向けてんのよ」
「フー君呼びやめてよ二乃ちゃん」
「い、いえ!さ、勉強を始めましょう!そうしましょう!」
「・・・その前に・・・修学旅行の話がしたい」
「え?」
!!三玖!!?ここで修学旅行の話を!!?となると三玖がする話って・・・
「フータロー・・・誰と組むか決めた?」
「!!」
や、やっぱり・・・三玖は上杉さんと組みたがってるし、言うのは当然・・・だよね・・・。
「・・・俺は・・・」
「はいはいはーい!ここで六海の発言を許可お願いしまーす!」
む、六海?いったい何を言うつもりなの・・・?
「ねぇ、今回の班決め、風太郎君は当然六海と組むよね?」
「!!!」
「は?」
いやーーーー!!!これ以上ややこしくして、お姉ちゃんを困らせるようなことはやめてよ六海ーーー!!
「実はもう五月ちゃんと話はつけてあるんだー。六海と四葉ちゃんと五月ちゃんと風太郎君の4人ペア!」
「え?」
「うえ!!??」
わ、私ーーーーー!!??
「そうだよね、五月ちゃん?」
「あ、は、はい。確かに図書室に来る前に、六海とそういう話がありまして・・・四葉と一緒・・・ということなら・・・オッケーを出しました」
五月までなんてことを!!?私、了承なんてしてないのにーーー!!!
「ほらぁ!後は四葉ちゃんと風太郎君の了承を得るだけ!それで晴れて一班のかんせ・・・」
「ちょ、ちょっと待って!」
六海の発言をストップをかけてきたのは一花でした。こ、今度は何を・・・
「その言い方だと、まだ班を組んでないってことだよね?」
「え?まぁ、そうだけど・・・」
「だったら今回の班決めで四葉が話したいことがあるって!!」
「ええ!!?」
こ、ここで私に話を振るのぉ!!?いったい何を考えてるの一花ぁ!!?
「え、ええーっと・・・私は・・・」
「ほら・・・ね?」
う、うぅ・・・
「・・・何?」
え、えぇっと・・・
「四葉ちゃん、ダメ?」
そ、そのぅ・・・
「どうした?早く言えよ」
ど・・・どうしよう・・・この場をなんて切り抜けよう・・・。三玖も一花も・・・そして五月と六海も一緒にいた方がいい・・・よね・・・?だけど・・・二乃だけが取り残されちゃう・・・。改めて考えると・・・姉妹一緒じゃないと・・・
「・・・あ!そうだ!!この際みんなで同じ班になろうよ!!上杉さんも一緒に!!」
「は?」
「確かにそれが1番だと思うけど・・・」
「でも四葉ちゃん・・・店員は6人までって・・・」
「うん。だから私以外のみんなでってこと!これなら万事解決、だよね!」
こうすれば私以外の全員は上杉さんと一緒にいられる。みんな争わない。私は真鍋さんと同じ班になればいい。それで解決。うん・・・これでいいんだ。
「でも四葉・・・いくらなんでもそれは・・・」
「そうだ四葉。それはできねぇよ」
「え?何か問題でもありますか?」
お願い、上杉さん・・・この場は同意してください・・・。この場を治めるためには、これ以外にないんです。
「・・・ああ、大問題だ。それがある以上、認められない」
「ええ、そうね。大問題ね。そんなこと、だれも望んでないってこと。少なくとも・・・私はね」
え・・・じゃあ・・・どうすればいいっていうの・・・?私の思いとは知らずに二乃は話を進めます。
「例えば・・・そうね・・・こんなのはどうかしら?アタシとフー君が2人っきりの班を組むの」
「「「「「!!!!」」」」」
「四葉が何を言おうとしたか知らないけど、そんなのは通らない。アタシが通らせない。だって、アタシは最初から決めてたもの」
え・・・え・・・え・・・?
「アタシは、アタシの好きな人と2人っきりで回る。あんたに拒否権なんかないんだから」
ええええええええええ!!!???二乃ぉ!!?なんて大胆発言を!!?いや、それよりもまさか・・・二乃も上杉さんを・・・!!?
「お、おい・・・二乃・・・勝手に・・・」
「フー君は黙ってて。で、反論はいる?」
「「・・・・・・」」
二乃の問いかけに、一花と六海はもう、何も言えなくなってしまっています。そ、そうだ・・・三玖は・・・?
「・・・ふ・・・フー君・・・わ・・・わた・・・私も・・・」
「・・・三玖、言いたいことがあるなら・・・今、ここで、ハッキリと、言ってみなさい」
み、三玖・・・頑張って・・・自分の意見を・・・
「・・・・・・・・・ううん・・・何でも・・・ない・・・」
三玖・・・。
「・・・決まりね」
「おい、勝手に決めんな。まず俺の話を聞けって。人を差し置いて勝手に決めやがって」
「だーかーらー、今は黙ってなさいって!いい?あんたみたいなのがアタシとデートできるのよ?感謝しなさ・・・」
「いや、それ以前に俺・・・武田と坂本と前田とで4人班を組んだぞ」
「「「「「「え?」」」」」」
「いや、これマジな話だ。・・・すまんな」
え・・・ということは・・・これまでの討論は・・・全部無意味?
♡♡♡♡♡♡
・・・えっと・・・まぁ・・・とりあえずは・・・全員班が決まったわけ・・・なんですけど・・・
「はい、これで班分けも決まったということで、各班、班長を決めておくように」
・・・班長決め、かぁ・・・。その前に・・・私が一時は入ろうと考えた真鍋さんの班は・・・
「班長、恵理子でいいかな?」
「ええ、構わないわよ。その方が気が楽でしょ?」
松井さんと同じ班を組んで、班長が真鍋さんに決まったようですね。一方の上杉さんは・・・
「班長、誰がやんだコラ」
「俺は無理や。そういうのはむかんわ」
「ふっ、この僕を差し置いているまい」
「前田、坂本、お前らも1組だったんだな・・・」
あ・・・本当に前田さんと坂本さんと武田さんで班を組んでる・・・。
「・・・なんでこうなるのよ・・・」
私の隣では二乃がかなり不服そうに頬を膨らませています。そして・・・残った私たちの班というのは・・・
「結局いつも通り・・・」
「風太郎君に友達がいること自体予想外なんだけど・・・」
「ははは・・・フータロー君に友達ができて・・・よかったよかった・・・ふぅ・・・」
いつも通り姉妹揃ってで班を組みました。上杉さんと一緒に班を組めなかった一花と二乃と三玖、そして六海は非常に不服そうな顔をしています。・・・・・・なんていうか・・・その・・・気まずい!!いったい姉妹たちはどうしちゃったのぉ?
41 「シスターズウォー 1回戦」
つづく
おまけ
六つ子ちゃんはトイレを六等分できない
三玖「う~・・・トイレ・・・早く戻らなきゃ・・・」
家に戻る三玖
三玖「ただいま・・・ギリギリセーフ・・・」
一花「二乃~、まだ終わらない~?」
五月「早くしてくださいよー」
六海「後がつっかえちゃってるよ~」
四葉「漏れちゃう~」
三玖「・・・・・・」
こうなる展開をいろいろと察した三玖。長い時間をかけ、何とか耐え抜き、トイレに行くことができましたとさ。
六つ子ちゃんはトイレを六等分できない 終わり
次回、風太郎、一花視点
デート回(?)にて、2番目でデートをするのは誰がいい?
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一花
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二乃
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三玖
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六海