さて、今回は三玖ちゃんのシナリオです。今回のテーマは夕方の一時です。夕方という短い時間、されどもほっこりするような一時を・・・できてたらいいなぁ・・・。
後今回、オリジナル回では文字数が少ないかもですが・・・まぁ、三玖ちゃんの場合、これが前哨戦ってことで・・・。
とりあえず今年最後の投稿、間に合ってよかったです。来年の目標は投稿はより早く・・・できたらいいなぁって思っております。それでは、よいお年を!
「おー、本当においしそうー。成長したね、三玖」
「でしょー?」
「えっへん」
「見た目は確かにおいしそうなパン・・・だね・・・」
まだまだ夏休みが続く中でも、アルバイトに休みはない。今日は出勤日だから私はこうしてアルバイトに勤しんでる。今は出来上がったパンをちょうどアルバイトが休みで暇を持て余してる四葉に試食を頼んでもらってる。そこにちょうど仕事で遅くなる一花とアルバイトで遅くなるかもしれない六海が間食に食べるパンを買いにやってきたからせっかくだから2人にも試食を頼んでる。
「あれから三玖ちゃん、どんどん成長していってね。もう少ししたらお店に出すことができるかもしれないの。いや、この調子なら他のレシピも作れるようになるかも・・・」
「おお!それはすごいですね!」
まだクロワッサン1種類しか作れないけど・・・ここまでの出来になることができたのは、店長のおかげ。本当に感謝してる。
「う、うぅ~ん・・・でも・・・でもなぁ・・・うぅ・・・お腹が痛くなってきた・・・」
これまで試食を避けていた六海は今も渋ったような顔をしてる。それどころかお腹まで痛くなってる始末。前に私が作った料理のことを思い出してるのかも。六海が試食を避けていた理由が今なら・・・いや、うすうすながら気づいていた。でも、今回は違う反応が出てくるって自信はある。
「大丈夫。今日のは特に自信作」
「余計に不安を煽るようなこと言わないでよ・・・」
「大丈夫だよ六海!修学旅行の時だって上杉さんはおいしいって言ってたから!」
「フーちゃんの味覚ほど信用できないものはないよー・・・」
なかなかクロワッサンに手を付けようとしない六海に四葉は説得してるけど、それでも全然手を付けようとしない。・・・しょうがないとはいえ、なんかちょっとだけ腹が立ってきた。
「ははは・・・六海は怖がりだなぁ。じゃあ、お姉ちゃんが先にいただいちゃおっかな」
そう言って一花は目の前にあるクロワッサンに手に取って、それを口に運んだ。
「どう?」
「うん。おいしいよ、とっても」
「うそぉ!!?」
「本当本当!ほら、六海も食べてごらん」
一花の感想はとても高評価だった。信じられないといった様子の六海は一花に勧められてようやくクロワッサンに手を付けた。まだ疑ってる様子の六海は意を決してやっとクロワッサンを食べた。
「・・・まず・・・くない!!なにこれすごくおいしい!!」
「でしょ?おいしいよね」
「三玖、これ作るのに一生懸命頑張ってたもんね!」
「本当においしい・・・食べる手が止まらないよー・・・」
「・・・ふふん」ドヤァ・・・
さっきまでの疑いはどこへやら、六海はおいしいおいしいって言って食べるスピードが速くなっていく。気が付けば完食して、もう1個クロワッサンを手に取ってそれを食べる。それを見て私は思わずにドヤ顔になった。
(・・・そっか・・・。三玖はここで必死に頑張って来たんだ・・・。・・・それなのに・・・私は・・・)
「・・・一花?」
「!ううん、何でもないよ。気にしないで」
「・・・・・・」
一瞬だけ一花の顔が曇っていたのに気づいた。声を掛けたらすぐに笑顔を振るまっていたけど・・・。何でもないっていうのは多分嘘。・・・もしかして、修学旅行の時のこと、まだ気にしてるのかな。
「じゃあ私も1ついただこーっと・・・て、あれ!!?ない!!クロワッサンが消えた!!ミステリー!!」
「え?」
クロワッサンがあったお皿を見てみると、四葉の言うとおり、確かになくなってる。おかしいな・・・ちょっと多めに作ったのに・・・。どうしてだろうと思って六海の方を見てみると・・・
「もぐもぐ・・・むぐっ⁉」
「・・・・・・」
クロワッサンを頬張っていて、両手にはまだ食べてないクロワッサンがあった。犯人はここにいた。・・・ちょっと食べすぎじゃない?五月じゃあるまいし・・・。
「むぐむぐ・・・ごくんっ。ご、ごめん・・・あまりにおいしくてつい・・・」
「あはは、五月みたいですごい食べっぷりだね!よっぽどおいしかったんだね!」
「六海は正直だなぁ~」
「しょ、しょうがないじゃん!おいしかったんだもん!あ、余ってるよ?四葉ちゃん、食べる?」
「あ、食べる食べる!よかったー・・・まだちょっと残ってて」
六海は四葉に謝りながら両手に持っていたクロワッサンを渡した。四葉は本当に安心した様子でクロワッサンを受け取ってそれを食べ始める。
「おいしい!三玖、本当においしいよ!前に試食の時よりも上達してる!」
「ありがとう、四葉」
四葉と六海が初めて私の料理を食べた時はあんまりいい顔してなかったけど・・・今じゃこうして嬉しそうに食べてくれてる。・・・やっぱり、誰かにおいしいって言ってもらえるのは、嬉しい。
「それにしてもこんなにおいしくパンができるなんて思わなかったよー。これならコロッケやオムライスとかのリベンジいけるんじゃない?」
「・・・リベンジ、か・・・」
「え?何の話?」
「あ、そっか。一花は知らないんだったね」
「実はねー、前にねー・・・」
六海は一花に私が料理を始めるきっかけを一から順に話し始めた。それにしても・・・リベンジ、かぁ・・・。いろいろと忙しかったから考えてもみなかった。前に作ったオムライスやコロッケ、フータローは普通においしいって言ってたけど、あれは誰が見ても失敗作だった。・・・どうせだったら、成功作の方も、いつかは食べてもらいたいなぁ・・・。
「へぇー、そうなんだ。・・・と、もうこんな時間か。急がないと撮影に遅れちゃうなぁ」
「え⁉もうそんな時間⁉早くパンを買って仕事場に行かないと!」
そろそろ仕事に行かないといけない時間が迫ってきて、一花と六海は席から立って間食に食べるパンを選びに向かってる。・・・あ、私もそろそろ休憩時間終わっちゃう。
「私もそろそろ家に帰るけど・・・三玖、お仕事頑張ってね!また今度味見させてね!」
「うん。その時はよろしくね」
四葉は私にエールを送って笑顔を見せて手を振ってから家に帰る・・・前に1つパンを買ってから店を出た。ちゃっかりお店に貢献してる・・・。
「じゃあ私たちもそろそろ行くよ」
「三玖ちゃん、パンごちそうさま!お仕事頑張ってね!」
「うん。2人も頑張ってね」
パンを買い終えた一花と六海も私に手を振ってそのまま自分の仕事場に向かっていった。私も休憩終わり・・・よし。今日もアルバイト、頑張ろう。
♡♡♡♡♡♡
アルバイトが終わったころにはすっかり夕方になってた。時間がたつのは結構早いな・・・。・・・それにしても・・・何度思い返しても顔がにやけてしまうな。コロッケ以降全然試食を避けていた六海があんなにおいしいおいしいって言って食べるんだもん。それが嬉しいし、おかしくって・・・
『コロッケやオムライスとかのリベンジいけるんじゃない?』
「・・・リベンジ、か・・・」
今にして思えば、あの時の私には料理の基礎知識とか、材料の分配とか、何もかもが知らない素人の状態だった。でも今は違う。二乃のおかげで基礎的な知識を学んだ。まだレシピを頼りにしてるけど、1人でもパンやチョコを作れるようになった。それならきっと・・・。
・・・いや、でも待って。これまでいくつかの料理を作って来たけど・・・レシピ通りにやってもなぜか不思議な力で見た目が不格好になってしまうことが度々・・・。というか、今でもそんなことが続いてるし・・・。・・・やっぱり、やめておこうかなぁ・・・。・・・でも・・・でももしうまくいいったら、フータローは、いつもみたいにおいしいって言ってくれるかな・・・。それとも・・・。
・・・少しだけスーパーに寄っていこうかな。リベンジ云々はともかくとして、練習ぐらいはしときたいし。味見役は・・・いつも通りの四葉でいいかな。そう思ってスーパーへの道へ私は歩いていく。
「好きだ♡」
「私もよ♡」
うわ・・・以前にも見たあのイチャイチャカップルだ・・・。まだお付き合いが続いていたんだね・・・。それだけお互いに相手のことが好きなんだろうな・・・。
「僕の方が好きだ♡」
「私の方が好きよ♡」
「僕には負けるさ♡」
「私が勝つわ♡」
・・・うん、やっぱりむかつく。恋愛をするなとは言わないけど・・・せめて人が見てないところでやってほしい。近くで見せられると、単なる当てつけにしか見えない。誰か・・・この2人をどうにかして・・・もしくはこの場の流れを変えて・・・。
「・・・やはり理解不能だ」
目のやり場に困っていたところに2人の水を差すような声が聞こえてきた。その声の主は私の好きな人、フータローだった。
「!三玖!」
「フータロー・・・偶然だね」
フータローは今アルバイトがお休みだから外に出る機会がこれといってない。だからこうして会える機会は滅多にない。だからかな。久しぶりにフータローの顔が見れて、嬉しい。
「珍しいね、フータローが外に出てるの。プールに行った後、ちっとも顔を合わせないから・・・久しぶりな気がする」
「行く用事もないからな」
「ただ遊びに来るだけでもよかったのに」
「・・・・・・」
「それに、やっぱり私は、フータローに勉強、教えてもらいたい」
「あー・・・まぁ・・・機会があったら・・・行く」
「うん。待ってる」
ちょっと言ってはみるものだね。フータローはいつうちに来てくれるのかな?今から楽しみ。
「・・・えーっと・・・今日はアルバイト・・・だったか?」
「うん。ちょうど今終わって、ついでに買い物でもしようかなって」
「そうか・・・」
「そういうフータローも買い物?」
「ああ。らいはに今日の晩御飯の買い出しを頼まれてな。ついで、花も買っておこうと」
「お花?」
フータローの口からまさか花なんて単語が出てくるなんて思わなかった。急にどうしたんだろう?
「ほら、店長バイク事故で今入院してるだろ?」
「うん。知ってる」
プールの後、二乃から直接聞いた。私たちもあの人にはお世話になったから、ちょっと心配。
「明日二乃と春と一緒に店長のお見舞いに行くことになったんで、花をと思ってな」
「ああ、だから二乃、今日はお花を買いに行ってたんだ」
そういえば二乃行ってたっけ。店長さんのお見舞いに行くって。それで・・・。納得がいったよ。
「もしかしたら、春もお花、買ってるかも」
「・・・やっぱり買わない方がいいか・・・」
「こういうのは気持ちだから、買っておいた方がいいと思うよ」
「むぅ・・・そうか・・・そうだな・・・」
ちょっと渋ってしまってるフータローは私の思ってることを聞いて、やっぱり買うことを決めたみたい。こうしてフータローと何気ない会話をするのは楽しいな。・・・あ、そうだ。
「・・・ねぇ、フータロー」
「ん?どうした?」
「よかったら買い物、手伝ってあげるよ」
せっかく買い物するんだし、どうせならフータローと一緒に買い物がしたい。これならフータローの邪魔にならないし、何よりもう少しだけ一緒にいられる。
「それはありがたいが・・・いいのか?」
「うん。買い物する場所は多分一緒だと思うし・・・それに私は・・・もう少し・・・フータローと一緒にいたい・・・」
「・・・そ、そうか・・・」
あ、フータロー、少し髪の毛をいじってる。フータローってこういう時、前髪をいじる癖があるんだ・・・。なんだかかわいいな・・・。
「・・・えっと・・・じゃあ・・・少し、頼めるか?見舞いにどんな花を送ればいいかわからんから・・・少し教えてくれると助かる」
「うん、任せて」
私とフータローは何気ない会話をしながらスーパーの道のりを歩いていく。・・・少しでもフータローが私を頼ってくれている。少し、嬉しい。
♡♡♡♡♡♡
スーパーにたどり着いた私たちはまず何を買うかっていうのを話し合っている。
「まず何を買おうか」
「一応何を買うかは決まってあるから花から買っておこうと思う。面倒なものは先に済ませるに限るからな」
面倒って・・・フータローらしいっていえばらしいけど・・・それはあんまりいうべきことじゃないと思う・・・。まぁそれは置いといて・・・とりあえずまずは花屋さんに足を運んだ。
「・・・それで、どんな花を贈った方がいいんだ?」
「他の患者さんもいるだろうから、気を使ってあまり香りの方がいい。それと、マナーは大切だから寂しげな色は避けた方がいい。選ぶとしたら明るめな色で」
「お、おう」
「あ、それから鉢物は避けた方がいいよ。フラワーアレンジメントがかなりお勧め」
お見舞いに贈るのに気を付けた方がいいことをフータローに伝えていく。
「すげぇな。そんなことまでわかるのか?」
「まぁ・・・私もそこまで詳しいっていうわけじゃないから、全部スマホで調べた知識だけどね」
「そうか・・・。いやしかし、いんたーねっとってのはすごいものなんだな。そんなことまで調べられるとは」
「・・・フータローもスマホなら、これくらいできると思うけど・・・」
「いや俺はそもそも連絡するものしか使用しない。アプリとかなんとかってのもわけわかんねぇし、そもそも基本スマホは触らない」
「それは知ろうともしないだけなんじゃ・・・」
若者で便利なアプリを知らないって言い張ってるの、世界中を探してもフータローだけなんじゃ・・・。まぁ、らしいと言えばらしいけど。
「・・・・・・」
「・・・?お花をじっと見てどうしたの?」
「・・・なぁ三玖。お前らの母親の命日って今月の14日・・・明後日だったよな」
?急に話を振ってきたと思ったら・・・お母さんの命日?
「うん。そうだけど・・・それがどうしたの?」
「・・・いや、ただちょっと確認しただけだ」
・・・それだけを聞きたかったの?変なフータロー。
「・・・よかったら一緒に来る?みんな喜ぶと思うよ」
「いや、遠慮しておく。せっかく家族水入らずなんだ。俺がいたらただ邪魔なだけだからな」
それくらい気にしなくてもいいと思うけど。でも、これもフータローなりの優しさなんだろうね。
「まぁ、とにかく助かった。正直俺1人のチョイスじゃ厳しかったかもしれなかった。ありがとうな、三玖」
「・・・うん」
少しでもフータローの力になれたなら、私も嬉しく思う。自分でも少し笑みを浮かべているのがわかる。
♡♡♡♡♡♡
お花屋さんでお見舞いのお花を選んで買った次は今日の晩御飯の食材。私も練習用に食材を買おうと思ってたからちょうどいい。まだ何にするかは決めてないんだけど・・・まぁ、見ればすぐに決まると思う。
「フータローは何を買うの?」
「そんなに多くは買わねぇよ。今日の晩飯はらいは特性の卵焼きに焼き魚、後は味噌汁とごはんだからな」
・・・晩御飯にしては本当に少ないね。・・・そういえば、学校の食堂でも焼肉定食の焼肉を抜いたものを食べてるって言ってたっけ。・・・その時くらいは贅沢してもいいと思うんだけど・・・。
「本当にそれで足りてるの?」
「足りてる・・・とはいいがたいな・・・。だが、金を多く使うわけにはいかねぇよ」
「よかったら、私が作ってあげるよ」
「・・・い、いや・・・そこまでしなくてもいい・・・それほど困ってもいないし・・・」
「・・・しゅん・・・」
そう言われると・・・なんかショック・・・。
「それよりも俺が出した宿題、ちゃんとやってるだろうな?」
「うん。ちゃんとやってるよ。他のみんなもそう。ちょっと苦戦はしてるけど」
「それはなによりだ。あの宿題は全部大学試験に出る問題ばかりだからな」
「大学試験・・・」
「入試判定試験は終わったが、あれで終わりってわけじゃねぇからな。本番でも躓かないようにしないと大学は受からねぇぞ」
ああ・・・そういえば忘れてた・・・フータローは知らないんだった。私が目指すのは、大学じゃなくて、料理の専門学校なんだっていうのを・・・。
「えっと・・・あのね・・・フータロー・・・」
チャリンチャリーン!!!
「あ?なんだ?てかうるさいな・・・何の音だよ」
「あ・・・」
私が進路について話そうとした時、何かのベルの音で遮られた。ベルの音のした場所をのぞいてみると、福引をやってる場所があった。どうやら今の音は福引で当選した音みたい。
「福引か・・・そういえばそんなチラシが張ってあったっけか」
「えと・・・」
「それで・・・三玖、なんて言おうとしたんだ?」
「・・・ううん、何でもない」
進路について話そうと思ったけど・・・やっぱりやめた。今はまだ・・・なんだか喋れる勇気が持てない・・・。はぁ・・・まだ弱いままだな・・・私・・・。・・・ううん、こんな気持ちじゃダメ。気持ちを切り替えていかないと・・・。
「それよりフータロー、千円以上の買い物をすれば福引券もらえるんだって。1回挑戦してみようよ」
「いや・・・そう言われても俺の買い物じゃ千円もいかないんだが・・・」
あ・・・それもそうか・・・。確かにこの量じゃ千円の値段もいかない。・・・あ、じゃあ・・・
「それなら私の分と合わせよう。そうすれば2千円で2回分・・・1人1回は引けるよ」
「む・・・まぁ・・・それなら・・・何とかなるか・・・」
「ふふ・・・決まり、だね」
福引をやると決めたところでフータローの分と私の分をかごに入れて2人分のお会計を済ませる。ちなみに、お金の方は割り勘で払ってる。だって、フータローはこういう時に限ってすごく細かいから。こうやって福引券をもらって、私たちは福引でもらえる商品を確認する。
「これが福引の商品か」
「E賞がクリアファイル、D賞が冷凍食品1週間分・・・いろいろあるね・・・」
これのほかにもC賞にお米の一袋分なんかもあるし・・・B賞にはネックレスもある・・・。すごいな・・・。
「あ、A章に温泉旅行のペアチケットがある。場所はおじいちゃんの宿とは違うけど・・・また当たるかな・・・」
「A賞なんてそう何回も当たってたまるか。それよりも実用的なものを狙った方がいい」
「実用的って・・・フータローは何が欲しいの?」
「そりゃF賞の商品券かD賞の冷凍食品に決まってるだろ。どちらか当たれば食費がかなり浮くぜ・・・!いや、待てよ?ネックレスは売ったらいくらほどになる・・・?」
「フータローじゃ当たらない気がする」
今のフータローの顔、結構悪人みたいになってる。そんなに欲深いと残念賞のティッシュが当たると私は思う。
「やってみないとわからないだろ。実際に春休みに温泉旅行ペアチケット当たっただろ?」
「それはまぁ・・・確かにそうだけど・・・」
フータローの言うことは最もだ。何が出るのかわからないから福引なんだし。
「これ、お願いします」
「はい、福引1回ですね。幸運を掴めるよう、頑張ってください」
店員の人にさっきもらった福引券を渡して、私はガラガラを回す。いい商品・・・当たるといいんだけど・・・結果は・・・
「おめでとうございます!E賞のクリアファイルです!」
「クリアファイルか・・・」
「当たったのはいいけど・・・正直微妙・・・」
外れよりは何倍もいいんだけど・・・あんまり使わないし、柄も好みじゃないし。だからこれをもらっても困る。でも使わないのももったいないし・・・六海にあげようかな。六海ならどんなクリアファイルでも喜んで使うだろうね。だってどんな絵でも大切に保存するから。
「よし、次は俺の番だ。狙うはD賞だ」
微妙なラインナップだと思うけど・・・そんなことはお構いなしにフータローは福引券を渡して、意気揚々とガラガラを引いていく。・・・なんとなく予想はつくんだけど・・・どうだろう・・・?
♡♡♡♡♡♡
「残念!外れです。残念賞のティッシュをどうぞー」
「・・・・・・」
ああ・・・やっぱり・・・予想が当たったよ・・・。フータローの番でガラガラから出てきた弾は白、つまりは外れ。あんなに気合いを入れてたのに・・・運だからしょうがないけど・・・ちょっとかわいそう・・・。
「・・・どんまい」
「くっ・・・当たると思ったのに・・・冷凍食品セットが・・・」
「こればっかりはしょうがないよ」
「むむむ・・・まぁいい・・・ティッシュでも使い道はいくらでもある。むしろとれてよかったと考えよう」
「無理しなくてもいいよ」
なんか無理に前向きにとらえようとしてるけど・・・若干ながら顔に出てるんだよね・・・複雑そうな顔が。
「そ、それはそうと・・・今日はありがとうな。おかげで助かった」
「私は別に何もしてない。ただスマホで調べただけだから」
「あー・・・それで・・・なんだがな・・・」
?フータロー、ちょっと歯切れが悪くなってきてる。急にどうしたんだろう?
「・・・三玖、何かしてほしいことはないか?」
・・・?何かしてほしいこと?どういうこと?
「・・・何かしてほしいことって?」
「何がいいんだ?何でもいいぞ。もしくは食いたいものでも構わない。ただし、俺が買える範囲内でな」
「そうじゃなくって・・・どういう意味かを聞いてるの」
「・・・ほら・・・買い物を手伝ってもらったわけだし・・・。今回だけじゃねぇ。特にお前にはいろいろと世話になったからな・・・。だから・・・その・・・そ、そのお返しだ・・・」
「・・・ぷぷ・・・」
フータローの口からお返し、だなんて・・・。やっぱり何度聞いてもあまり似合わない。だから、驚くよりも、むしろおかしくって思わず笑っちゃうね。
「・・・なんだよ」
「ううん。ただ、やっぱり似合わないなぁって」
「・・・うるせぇ。自覚はしてる」
でも、やっぱり嬉しいなとは思っちゃうな。だって、最初はそういうの言葉なんて出てくることはないと思ってたから。本当、最初と比べて変わったなぁ。
「・・・じゃあ・・・ちょっとだけ・・・いいかな・・・?」
せっかくだし、ここはフータローのお言葉に甘えちゃおうかな。もう夕方だけど・・・もう少し遅くなっても・・・いいよね。
♡♡♡♡♡♡
スーパーから出た後は私とフータローは少し移動して、河原沿いの道のりを歩いていく。簡単に言えばこの辺りをお散歩してるってこと。
「風が気持ちいいね」
「・・・なぁ、三玖。本当にここで散歩でよかったのか?もっと他のことでもよかったんだぞ」
正直に言うと・・・何かやりたいことって言われても別にやりたいことは何もない。強いているならば、フータローともっと一緒にいたい。私の望むことは、それだけだから。
「うん。これでいい。私は・・・フータローと一緒にいるだけで、十分だから」
「・・・・・・///」
あ、少し照れて口元を抑えてる。かわいい。
「・・・あ、そうだ。フータロー、のど渇いてない?抹茶ソーダ買ってあるから、1つどう?」
「ま、抹茶ソーダ・・・」
「フータローになら1本上げるよ」
「う、うーん・・・まぁ・・・せっかくだし・・・もらっとく」
なんか若干ながら渋っているような・・・まぁいいや。
「はい、どうぞ」
「あ、ああ」
「・・・もちろん、鼻水は入ってないよ」
抹茶ソーダを渡した後に私の言った言葉にフータローは一瞬だけ目を見開かせて、その後に口元に笑みを浮かべた。
「またそのエピソードか・・・好きなのか?」
「そういうフータローは覚えてたんだ」
「そりゃお前に苦汁をなめさせられた出来事だからな。そう簡単に忘れてたまるかよ」
「それもそうだね」
今にして思えば・・・このエピソードがあったからこそ、こうしてフータローと向き合えているのかもしれないね。そう考えると感慨深いものがある。
「むかつきはしたものの・・・あれがあったからこそ・・・こうしてお前のことを知ることができた。今となっては、感謝してる」
「ううん、感謝してるのはこっちの方。フータローのおかげで・・・こんな私でも、できるかもって思うことができたんだ。それと比べれば大したことはしてない」
「・・・あれからもうすぐで1年になるか・・・」
「早いものだね・・・」
2年生の時を懐かしみながら、フータローは私が渡した抹茶ソーダを一口飲んだ。
「ん・・・なんだこりゃ・・・。うまいような・・・まずいような・・・よくわからん味だな」
「そう?私は普通においしいと思うけど・・・」
毎回思うんだけど・・・みんなどうして抹茶ソーダはまずいだとか、よくわからないなんて感想が出てくるんだろう?抹茶独特の苦みがあるからこそおいしいのに。そう思いながら私はもう1本の抹茶ソーダのふたを開けてそれを飲む。すると、河原の向こう側から赤い夕陽が出てきた。
「あ・・・きれい・・・」
赤い夕陽が川辺によく映り込んであるから、この景色は非常に美しかった。それに・・・懐かしさも込み上げてきた。
「・・・ここにはね、昔6人でよく歩いてたりしていたの」
「へぇ・・・そうなのか・・・」
「うん。それでここにはお絵描き爺さんっていうおじいさんがよく飽きもせずに絵を描いていたんだ。たまにおじいさんの絵のモデルになったり、たまに絵を一緒に描いたりして・・・それであの夕陽が出てきたんだ」
「そうか。お前たちにとっては、思い出の景色の1つなんだな、ここは・・・」
「うん。お絵描き爺さん・・・元気かな・・・」
お母さんが亡くなってからいろいろあってからというもの、あれからお絵描き爺さんには会ってなかったな・・・。元気にしてるかな・・・。久しぶりに会ってみたかったんだけど・・・いないなら仕方ない・・・。
「・・・実はな、ここでこの夕陽を見るのは、これで2度目なんだ」
「え?そうなの?」
意外・・・フータローは外に出るっていう考えは買い物以外ではないと思ってた・・・。
「あの時は確か・・・まだ中1の頃だったな。あの時は・・・真鍋の奴にソフトボールの練習に付き合えって了承も得てないのにあの橋の下に無理やり連れてこられてな・・・」
真鍋さんかぁ・・・フータロー、確か真鍋さんと同じ中学校なんだっけ・・・。なんか、納得がいった。
「それで、その時は何やったの?」
「普通にキャッチボールだったな。あの時は真鍋の奴にかなりなめられてな・・・あいつの挑発に乗ってしまってやったって感じだ。その後は散々だった。ボールはうまく取れないわ、あいつにはバカにされるわ、挙句の果てにあいつのミスったボールが溝内に当たったりして・・・それで口喧嘩して最終的には互いに罵り合ってたな」
うわぁ・・・どうしよう、その時の光景が簡単に想像がつく・・・。フータローと真鍋さん、似てないようで意外に似てるから・・・。
「そん時に見たのが、今みたいな夕陽だったな。これを見た時、喧嘩してたのがすげぇバカらしくなってな。お互いに座り込んでこの夕陽をぼーっと眺めていた。なぜかそれを思い出した」
「そうだったんだ」
「・・・と、悪かったな。こんなくだらない話をしちまって・・・」
「ううん、そんなことない。だって・・・こうしてまた、私の知らないフータローの意外な一面を知ることができた。私は・・・それが嬉しいし・・・楽しい」
「そ、そうか?」
「うん」
ここに来たのは正解だったな。だって・・・こうしてゆっくりと、フータローとお話をして、フータローのことを、知ることができるから。
「ねぇ、もっといろいろなことを教えて。私も・・・自分のことを、いろいろ話すから・・・私のことを・・・知ってほしい」
私の心からの本心にフータローは私の顔を見て、少し考える素振りをしている。
「じゃあ・・・こんな話とかはどうだ?これも思い出した話なんだが・・・」
その後私とフータローは座り込んでこの赤い夕陽を見ながらたわいない話で盛り上がった。やっぱり、この一時はたまらなく好きだな。
♡♡♡♡♡♡
あれから結構長く話してたみたいで、夕陽がもうすぐで沈みそうになっている。時間が経つのって・・・結構早いね・・・。
「あ・・・もうこんな時間・・・」
「げっ・・・マジか・・・。じゃあ少し歩いたら帰るとするか」
私とフータローは立ち上がって河原沿いを歩いていく。
「・・・ねぇフータロー・・・1つ聞きたいことがあるの」
「どうした?言ってみろ」
「フータローと真鍋さんって、同じ中学校だったんだよね?」
「ああ、そうだな」
「・・・どんな関係だったの?」
実はずっと前からかなり気になってたこと。私たちと出会う前に一緒にいた女の人・・・その人がどんな関係だったのかっていうのはやっぱり気になる。もしかしたら・・・前に付き合っていて・・・今は別れた・・・みたいな・・・
「ただの腐れ縁だな。喧嘩した回数なんてもう数えきれないほどだ」
・・・まさかの即答で答えるなんて思わなかった・・・。
「・・・いや、そうじゃなくって・・・好き・・・とかは・・・」
「は?ありえねぇ。マジでありえねぇ。百歩譲って友人だというのはいいが、それだけは絶対ねぇよ。あんな性悪女となんて」
・・・最後まで言い切る前に即答するとは思わなかった。よっぽどなんだね・・・。
「じゃあ・・・真鍋さんとは何ともないんだね・・・」
「よく思い出してみろ。その時の俺は恋愛なんてくだらないって思っていたんだぞ?そんな俺があいつどころか他の女ですらそんな目で見てすらいねぇよ」
「それはちょっと拗らせすぎじゃあ・・・」
・・・でもそっか。何とも思ってなかったんだ。じゃあ恋愛を意識し始めたのは私たちからだったってことか・・・。なんか、ちょっとだけ嬉しいな。
「ふふ、なんか今のフータロー、普通の男の子っぽい。こういう話で一蹴しなくなったし」
「おい、前まで異常だった見たいな言い方はやめろ」
実際その通りなんだけど・・・。だって初めて恋愛の話が出た時の拗らせ具合は凄まじかったもの。
「でも、フータローとこういう話をするの、すごく楽しいよ」
「・・・まぁ・・・悪くはなかったな」
フータローは少しだけ楽しそうに笑みを浮かべている。フータロー、こんな顔もするんだ。
「私・・・今日でフータローのこと、もっとよく知ることができた。すごく楽しかった」
「それはなによりだ」
「でも私・・・もっとフータローのことが知りたい。もっと一緒にいたい・・・」
私はフータローの前まで歩き、顔をじっと見つめる。
「フータロー、どこか出かけようよ」
「・・・えっ?」
何の脈略もなく出た私の言葉にフータローはあっけにとられてる。
「いやあの・・・三玖さん?今はもう夕暮れ時なんですが・・・」
「・・・いや?」
「いや・・・別に嫌とかではなくてだな・・・その・・・時間が・・・」
・・・あ、そういえばそうだった。そろそろ帰らないと・・・二乃がうるさそう。それに・・・ちょっと急すぎた。
「じゃあ・・・別に今日じゃなくてもいい。フータローが行ける時間帯でいい。それなら・・・どうかな?」
「どっかに行くことは確定なんだな・・・」
私にじっと顔を見つめられてるフータローは少しため息をはいて頭をかく。
「はぁ・・・わかったわかった・・・そっちの都合のいい時間があったら付き合ってやるよ」
「!」
フータローの言葉を聞いて、私ははっと目を見開かせた。
「自分で言っといてなんだけど・・・いいの?言質取るよ?約束破ったら切腹だよ?」
「ああ。それでお前が満足するならそれでいい」
いつかはわからないけど・・・別の日にフータローと約束を取り付けられた・・・。それも嬉しいけど・・・フータローが私に付き合ってくれる・・・それが何よりも嬉しい。
「じゃあ、約束ね。いつか絶対、私と一緒に出掛けようね」
「ああ」
「約束、破ったら嫌だよ」
「心配するな。今はバイトが休みで暇なんだ。時間はいつでも空いてる」
この先の楽しみが1つ増えちゃったな。フータローなら割と何でも楽しそうにしそうだから・・・どこにしようか迷っちゃうな・・・。ふふ・・・なんだか笑っちゃいそう。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「うん」
フータローと約束したところで、私たちはたわいない話で盛り上がりながら帰り道を歩いて行った。
♡♡♡♡♡♡
私が帰ってきた頃にはちょうど夕陽が沈んで夜になろうとしていた時だった。リビングには二乃が今日の晩御飯の支度をしているところだった。
「ただいま」
「あんた遅かったじゃない。何してたのよ?」
「ただちょっと買い物に行ってただけ」
嘘は言ってはいない。でも全部は言うつもりはない。
「・・・三玖、あんた何かいいことでもあったの?」
「え?どうして?」
「だってあんた、顔に出てるもの」
そんなにわかりやすく顔に出てたかな。確かに、いいことはあった。とってもいいことが。でも・・・
「・・・ないしょだよ」
フータローと一緒に散歩をしてきたことは誰にもないしょ。私だけの秘密・・・私だけの・・・特別な時間だったから・・・。
♡♡♡♡♡♡
翌日の朝・・・まだ眠気が残ってるせいで二度寝したい気分であった。そんな気分をかみ殺して、私は洗面所で顔を洗おうと思って部屋を開けてみると・・・
「本当に一花ちゃんがそう言ったの?」
「にわかには信じがたいかもしれませんが・・・しっかりと聞いてしまいましたから・・・」
「・・・一花が・・・」
「・・・や、やっぱり気のせいなんじゃないかな・・・?」
「・・・やはりそうなのでしょうか・・・?」
二乃、四葉、五月、六海の4人が集まって何かを話し合っている。何の話をしてるんだろう・・・?なんか一花の名前がちょくちょく出てるけど・・・。
「・・・何してるの?」
「あ・・・三玖・・・」
「ちょうどよいところに・・・三玖にも聞いてもらいたいことがあります」
?私に・・・聞いてもらいたいこと・・・?姉妹がほぼ全員そろっていることからして・・・よほどのことなのかな?
「聞いてもらいたいって・・・どうしたの?」
「・・・私も、最初はただの勘違いなのでは、と思っていたのですが・・・昨日一花の電話をたまたま聞いてしまって・・・それで・・・嫌な予感がして・・・」
「だからいったい何の話?一花の電話がどうしたって?」
未だに何のことがよくわかってない私の問いにみんなはかなり困ったような顔つきになってる。短い沈黙の末、五月は複雑そうな顔つきのまま、驚くことを口にした。
「実は・・・一花が・・・家を出ていくのかもしれません・・・」
「・・・え?」
一花がこの家から出ていくかもしれない・・・何の確証もないものの・・・私たちを困惑させるには十分すぎるほどの内容だった。
52「夕方の約束」
つづく
次回、二乃、三玖、一花視点