六等分の花嫁   作:先導

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今年の六等分の花嫁の投稿は2本だけですが、大きく決断を出してようやく達筆できてよかったと思っております。本当に、お待たせするのが申し訳なく思っていたので。

さて、今回の話で今年の六等分の花嫁の投稿は終わりです。来年は2本ではなく、もっと多く投稿できるように頑張りたいと思います。

それでは、よいお年を!


終わり掛ける日常

『六海のお願い』

 

ドラマの撮影が終わると、一花は勉強会の日以外はたいていは自分の家か宿泊先で寝ることが多い。今だってゆっくり眠りたい気持ちはある。だが今はそうも言ってられない。なぜなら今日は自分の宿泊先に、六海が来ているのだから。

 

「おー、面白いよこれ。なかなかよくできたシナリオじゃん」

 

「でっしょー?スランプを克服してからはもうネタが出るわ出るわで・・・。おかげで毎日ぶっ通しで・・・しまいには寝なかった日もあるんだからー!」

 

「あはは・・・熱中するのはいいけど、ほどほどにねー」

 

六海のやる気に一花はちょっぴり苦笑いを浮かべている。

 

「そうも言ってられないんだよねー。学祭ではこれ以外の作品を売りに出すつもりだから・・・時間がいくつあっても足りないんだよー。一花ちゃんもぜひ学祭で漫画買っていってよ」

 

「はいはい。時間があったら買いに行くよ」

 

「本当⁉言質取ったからね!絶対だよ⁉絶対に来てね⁉」

 

「絶対・・・はちょっとあれだけど・・・まぁ善処するよ」

 

今読んでいる漫画以外のものを買いに来るという約束を交わしたところで、一花はそろそろ本題に入る。

 

「それで・・・六海。話っていうのは・・・この漫画のことじゃないんだよね?」

 

「あー・・・うん・・・。こんなこと一花ちゃんにしか相談できないから・・・」

 

本題に入った瞬間、六海は少し申し訳なさそうな表情をした後、鞄からあるものを取り出した。それは、学祭の招待状である。

 

「お願い、一花ちゃん。招待文の文章を一緒に考えて」

 

「招待って・・・いったい誰を招待するの?」

 

「・・・・・・・・・それは・・・」

 

一花の質問に六海は長く沈黙した後に、招待したい人物の名を口にした。

 

♡♡♡♡♡♡

 

トスッ!

 

「お!ドンピシャ!さすが私、いいコントロール♡」

 

「・・・・・・」

 

真鍋がデートとか変なことを言って連れられた場所ってのは・・・アラウンド2っていうスポーツ施設にあるダーツコーナーだった。真鍋はダーツを楽しんでいて、俺は注文したドリンクを飲んでいる。・・・こんなことしてていいのか?学祭の準備で忙しいってのに。

 

「・・・なーに白けた顔してんのよ。せっかくのデートよ?もうちょっと楽しそうな顔しなさいよ」

 

「・・・俺らはそんな関係じゃねぇだろ。他の奴誘えよ他の奴」

 

「しょうがないでしょ?孤児院の同学年の奴は全員予定があって無理だし、子供たちじゃどうしたって気遣うでしょ?気負わずに誘えるのがあんただけだったのよ。おまけに無料チケット、今日までなのよ。使わないと損でしょうが」

 

坂本よ、お前の恋路、まだまだ遠い道のりらしいぞ。お前を誘うって選択肢すらなかったんだからな。

 

「てかこんなことしてていいのかよ・・・屋台だって何するかまだ決まらねぇし・・・」

 

「ああゆうのはたいてい自然と何とかなるもんなのよ。いいじゃないたまには身を流れに任せても。だいたいあんたも四葉も頭が固いのよ。もっと柔軟に行きましょう」

 

「俺学級長。暇じゃないのわかってる?」

 

「人望のない学級長が何言ってんだか」

 

それ地味に傷つくからやめてほしいんだが・・・。

 

「途中で帰るとか言い出さないでよ?あんたにはボーリングやらバッティングセンター、ビリヤードとかにも付き合ってもらうんだから」

 

「体力が持たん・・・勘弁してくれ・・・」

 

「いいのよ別にやらなくても。あんたはただドリンク飲んで私のプレイを見てばそれでいいの」

 

「じゃあ俺を連れてこなくてもよくね?」

 

1人でやりたいなら別に俺を誘う理由もないだろうよ。マジでこいつの真意がわからん。中学の時だってそうだ。こいつはたまに来たかと思えば俺を外に連れまわし、練習から何まで付き合わされる変な奴。正直、こいつと仲良くできる気が全くしねぇ。だからこいつとは腐れ縁のままだ。俺の言葉を聞いて真鍋は心底呆れたような表情を見せた。

 

「・・・はぁ・・・。そんなんで本番大丈夫なのかしらね?日曜、デートなんでしょ?」

 

「ブッ!!!」

 

真鍋のいきなりの発言で思わずドリンクを吹いてしまった。も、もったいねぇ・・・じゃなくて!問題はそこじゃねぇ!

 

「汚いわねぇ」

 

「ゴホッ!ゴホッ!お前・・・聞いてやがったな・・・!」

 

こいつはデートっていうが、どっかに出かけるってのは間違ってねぇ。というのも、先日、三玖から誘いがあってな・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの時は・・・そう、あの女子3人組が二乃に絡んで来ようとした時に声をかけた時だった。あれを見た瞬間、何か文句があって二乃に絡んできたのだろうと思って、問題解決のためにどうすればいいかと考えてた時だったな。二乃と一緒にいた三玖が声をかけてきたのは。

 

『フータロー』

 

『ん?なんだ三玖?』

 

『あのさ・・・ちょっと・・・・・・付き合ってよ』

 

『えっ⁉』

 

今思い返しても、あの言葉を聞いた時は一瞬ドキッとなってしまったぞ。

 

『あ・・・ごめん・・・。今のは変な意味じゃなくて・・・。ほら・・・前に一緒に出掛けようって約束したでしょ?』

 

『あ、ああ・・・そういえばしたな』

 

『・・・今度の日曜日、どこかお出かけしようよ』

 

♡♡♡♡♡♡

 

そういうわけで俺は今度の日曜日には三玖との約束が控えてる。でもそれをまさかこいつに聞かれるなんて思わなかった・・・。

 

「まぁだからって私がどうこう言える立場じゃないんだけどさ・・・。何をやるにしても、ビシッと決めなさいよビシッと。あの子たちに言いたいこと、あるんでしょ?」

 

言いたいこと・・・か・・・。多分こいつは気づいてるんだろうな・・・。俺が六つ子たちにたいして思ってることを・・・。

 

・・・この胸の内にある感情を。

 

「・・・言っている意味が全く理解できんな」

 

「またまた。すっとぼけんじゃないわよ、この幸せ者め」

 

真鍋はにやにやした表情を浮かべながらひじをぐりぐりとして来やがった。この女うぜぇ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『六海が六海でいられるように』

 

一方その頃、一花の宿泊先で六海は今回学祭に招待したい人物の名と、どうして学祭に呼びたいのか・・・その理由を明確に話し終えた。その時の六海の表情は真剣だった。

 

「・・・なるほどね。うん。よくわかったよ。六海の気持ちは」

 

六海の気持ちを理解できた一花。ただ理由を聞いても、一花はその人物を呼ぶことにたいして消極的な様子だ。

 

「でも・・・ハッキリ言って私はおススメできないなぁ。昔六海にやらかした仕打ち・・・忘れたわけじゃないでしょ?」

 

「・・・わかってるよ・・・そんなこと・・・。・・・お姉ちゃんたちがあの子のことが嫌いなことも・・・」

 

一花の言葉に六海はスカートをぎゅっと握りしめながら顔を俯かせる。一花が心配する気持ちは理解できないわけではない。なぜならあの出来事は・・・六海の黒歴史の始まりでもあるのだから。

 

「・・・それでも誘うの?来るはずがないって思ってても・・・また辛い目に合うかもしれないってわかってても・・・」

 

「当然!!」

 

一花の質問に対し、六海は顔を見上げて、ハッキリと答えてみた。

 

「正直あの時のことは何があったのか全然わかってない・・・。何で六海のことが嫌いなのかも・・・。何もかもがわからないことだらけだけど・・・これだけはハッキリわかる。このままじゃ六海は絶対に後悔するってこと!!」

 

六海は座り方を正座に変えて一花の顔を真正面から見て、言葉を紡ぐ。

 

「一花ちゃんの言うとおり、来ないかもしれない・・・もっと辛い目に合うかもしれない・・・でも・・・だからといってこのままにはしておけない!六海は・・・六海にできることを精いっぱいやりたい!後悔しないように!何より・・・六海が六海でいられるように!!だから・・・お願いします。あの子へ送る招待文を・・・一緒に考えてください」

 

六海は自分が本気であると誠意を見せつけるかのように、一花に土下座をして頼み込んだ。2人の間に長い沈黙が流れる。

 

「・・・本気なんだね・・・」

 

ポツリと一言呟いた後、一花は口元に笑みを浮かべ、六海の頭をポンと乗せ、撫で始める。

 

「えらい!よく言えました!」

 

「一花ちゃん・・・?」

 

「まぁ正直?私もあの子に対して文句の1つは言っておきたいからね」

 

あまり要領が吞み込めていない六海頭に?マークを作っている。

 

「今から書こっか?あの子が絶対に行きたいって思わせるような招待文を」

 

「・・・!うん!!」

 

一花の言葉を聞いて六海はパーッと明るい表情を見せた。こうして一花と六海はある人物へ向けた招待文を頭を悩ませながら書くのであった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

とりあえず、真鍋の奴がダーツ1ゲームを終えて、次に向かったのはバッティングセンターだった。話を聞く限りだと、学祭が終わった後にはソフトボールの試合が控えているんだと。真鍋にとってこれがソフトボール最後の試合だから練習したいという理由でこれを選んだらしい。俺は相変わらずドリンクを飲んで真鍋のプレイを見ているだけだ。スポーツはともかく、ドリンクも無料なんだ。なら頼まないと損だろ?

 

「・・・んで?実際のところどうなのよ?」

 

ピッチングマシーンから飛んできたボールを真鍋が打ち返すと同時に、何か質問してきた。どうって・・・何の話だ?

 

「どうってなんだ?」

 

「とぼけんじゃないわよ。六つ子の関係に決まってるでしょ」

 

「ブーーーッ!!!」

 

真鍋の質問で、俺はまたもドリンクを吹いてしまった。も、もったいねぇ・・・本日二度目・・・て、違う!!そうじゃねぇ!!

 

「何回ジュース吹くつもりよ」

 

「ゴホッ!お前が変なこと聞くからだろ・・・」

 

「だって気になるじゃない。色恋沙汰なんて・・・中学じゃありえなかったんだもの」

 

だからって不意に聞くことじゃないだろうが。まぁ・・・中学の時にはありえなかったってのは認めるが・・・。しかし俺があいつらのことをどう思ってるか・・・か・・・。

 

「・・・どうもこうもねぇよ。お前だって知ってるだろ?俺はあいつらの家庭教師で・・・あいつらは俺の生徒。それ以上でも以下でもねぇよ」

 

「・・・本当にそれだけ?」

 

真鍋はバッティングに集中して顔を見せないが、言いたいことはわかるつもりだ。おそらくは本心だけを話せと言っているのだろう。これは紛れもない本心なのだが・・・。・・・いや、これだけじゃないってこともあいつには見抜かれてるんだろうな。

 

「・・・まぁ・・・数少ない大事な友人だと思ってるよ」

 

「へー」

 

これも紛れもない本心ではある。だが、これもこいつが聞きたい言葉ではないと思う。なんだかんだでわかってしまう。こいつとは中学からの腐れ縁だからな。ある程度のことはわかっちまう。

 

カキーンッ!!

 

「私、学校卒業したら東京に行く」

 

「・・・え?」

 

今こいつは何て言った?卒業したら・・・東京?

 

「東京にはそれなりにいい経済学を教えてる大学があってね。私そこ受けることにしたから」

 

「ちょっと待て。話が見えてこないんだが・・・お前・・・この街を出る気か?」

 

「そうよ?」

 

まだ要領を得ていない俺の質問に真鍋はあっさりと肯定しやがった。いや、こいつが決めたことだからとやかく言う気はないが・・・予想外だった。俺はてっきりスポーツ専門の学校に行くかと思ってたから・・・。

 

「・・・孤児院は私にとって思い出深い大事な家よ。でもいつまでも続くわけじゃない。院長だってもう歳だし、長くは持たない」

 

確かに・・・あの爺さんって相当歳くってたからなぁ・・・。あれだと多分・・・10年かそこら辺りが限界かもしれん。

 

「だからこそ、院長の後は・・・私が引き継ぐ」

 

「!」

 

あの爺さんの後を・・・引き継ぐだって?

 

「今は無理でも、東京でいい大学に入って・・・経済を勉強して資格を手に入れて・・・千尋たちのような身寄りのない子供たちに、生きる未来を与えたい。それが私の・・・長く考えて見つけた・・・私の夢だから」

 

・・・そうか・・・。真鍋も自分の夢のために悩みに悩んで・・・この答えを出したんだな・・・。まったく・・・どいつもこいつも・・・すげぇな・・・夢に向かって進めるってのは・・・。

 

「ちなみに、これは子供たちや他の誰にも言ってない。話したのはあんたが初めて」

 

「え・・・?」

 

真鍋が・・・他を差し置いて俺にそんな大事なことを話しただと?1ゲームが終わった真鍋はヘルメットを置いて俺に顔を向けた。

 

「私は六つ子とは違って、あんたに特別な感情はない。だけど私はあんたを対等だと思ってるわ。・・・腐れ縁・・・だからね」

 

真鍋は屈託のない笑顔でにっと笑ってみせた。対等・・・対等か・・・。こいつは俺のことを・・・そこまで評価してくれていたのか・・・。だから俺に大学のことを話してくれたのか・・・。こんな勉強でしか取り柄のない俺を・・・。

 

「どう?これがビシッと決めるってことよ。私のことは話したんだから、次はあんたの番よ」

 

「は・・・?」

 

次は・・・俺の番?

 

「もうわかってんでしょ?自分の気持ちくらい」

 

「・・・・・・・」

 

・・・俺の気持ち・・・か・・・。

 

「今は別にいいけどね・・・本番くらい、自分の口でちゃんとしゃべりなさいよ?私に、じゃなくて、あの子たちに、よ?」

 

・・・もしかして真鍋は俺の背中を押すためにわざわざ自分のことを話したのか?デートなんて建前をつけてまでして・・・いつまでも踏ん切りがつかねぇ俺に、一歩でも前に進ませるために。・・・まったく・・・六つ子といいこいつといい・・・俺の周りの奴らは本当にめんどくせぇ奴らばっかりだな。

 

「・・・おい、まだボーリングに行くなよ。次は俺の番だろ。これ終わったらまたダーツやるぞ。お前の得点を越えてやる」

 

「!・・・へぇ。ずいぶんとやる気じゃない。スポーツ経験が浅いあんたが私に勝つつもり?」

 

「そんなもんやってみないとわからないだろ。何事も挑戦・・・勝てば儲けものだ。負けても前に進むための糧になる」

 

真鍋の挑発に対して、俺はこう返答し、ピッチングマシーンが放つ球を・・・

 

スカッ!

 

・・・・・・見事に外しました。

 

「ダサ。カッコつけ」

 

「うるせー!」

 

くっそ性悪女め!見てろよ、絶対に・・・にやにや笑ってんじゃねぇーー!!!

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの後俺は真鍋にもう1度ダーツをやって、ボーリング、ビリヤードなど、真鍋の興味がある種目をやったのだが・・・全部敗北という結果に終わってしまった・・・。ちくしょう!何から何まであいつうますぎだろ!点数とかの差もありまくりだし・・・。

 

「単純にあんたが下手くそってだけじゃない。それでよくカッコつけてられるわね?もしかして上杉って、自分のことをかっこいいって思ってる痛い系?うわぁ・・・」

 

「てめ・・・好き放題言いやがって・・・!」

 

この性格が破綻しまくってるいけすかねぇ女め・・・!上等だ・・・!喧嘩売ってるんだったらいくらでも買ってやるよ・・・!

 

「運動神経がいいからっていい気になってんじゃねぇぞ!言っておくがな、運動神経なんて孤児院経営に何の役にも立たねぇんだよ!運動してる暇があったら勉強しろ勉強!」

 

「年がら年中勉強漬けの毎日を送ってるあんたにゃ言われたかないわよ!もやしっ子みたいになるくらいならバカやってる方がまだマシな方だわ!」

 

「あ?なんだと?俺のことをもやしっ子って言いやがったかこの野郎」

 

「実際そうでしょうが。部屋に引きこもって勉強の毎日なんて何が楽しいんだか」

 

「常識知識を知らないっていう奴の方がよっぽど恥ずかしいね。お前みたいな脳筋とかな」

 

「はあ?だーれが脳筋ですって?私はちゃんと考える頭くらいあるっつーの」

 

売り言葉に買い言葉と言ったように、俺たちは互いの悪口を言いあって口喧嘩を繰り広げていく。まったく・・・中学の時からそうだ・・・。俺が文句を言ったらまんまと乗っかるように言い返して挑発し、口喧嘩に勃発。今の光景はそれと全く同じだ。真鍋と関わるといつもこうだ・・・。けど・・・俺たちの関係はこれくらいがちょうどいいんだ。何せ俺たちは・・・腐れ縁だからな。

 

「『この性悪女め!!』」

 

「『私が性悪ならあんたはクズよ!!』」

 

今の俺たちが繰り広げてる口喧嘩は・・・多分中学の時の光景と瓜二つだと思う。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『その日の夜、そして日曜日にて』

 

風太郎とこれでもかと口喧嘩をした真鍋はたまたま用事が早く終わった孤児院の同期の青年と出くわし、せっかくだからと近くのカフェで今回の出来事の愚痴をこぼしている。青年は苦笑を浮かべながら愚痴を聞いてくれている。

 

「あはは・・・それでその上杉君と口喧嘩しちゃったんだ」

 

「本当、ムカつくったらありゃしない!ちょっとしたことですぐ突っかかってきて・・・ガキかっつーの!」

 

(恵理子ちゃんも大概子供だと思うけどなー・・・)

 

「たくっ・・・」

 

真鍋はぶすっと表情を浮かべながら注文したコーヒーを一口すすった。一通り落ち着いた真鍋は窓の外を見つめ、笑みを浮かべている。

 

(・・・こっからが正念場だからね。下手したら承知しないわよ・・・上杉)

 

なんだかんだ文句を言いつつも、真鍋は風太郎を心から応援するのであった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

時が経って日曜日の中野総合病院の院長室。日曜日だというのに今日も仕事に専念しているマルオは束の間の休憩時間を院長室で過ごしていた。そんな時、院長室に招かねざる客人が訪れた。

 

「おーおー、結構いい部屋だなー、院長先生よぉ。こんな部屋が用意されてたんじゃあ家に帰りたくなくなる気持ちもわかるぜぇ」

 

「・・・・・・お前の入室を許可した覚えはない。すぐさま出ていけ・・・上杉」

 

その招かねざる客というのは、彼の友人・・・いや、腐れ縁ともいえる関係である上杉勇也であった。

 

「おいおい、ずいぶん水臭ぇじゃねーか。せっかくいい情報を知らせに来てやったってのによぉ」

 

「?いい情報?」

 

いい情報に疑問符を浮かべるマルオに対し、先ほどまで呑気であった勇也は真面目な表情に変わる。

 

「・・・来てるぜ。十数年ぶりだ。同窓会しようぜ」

 

勇也の言っていることには少なからず心当たりがある。無表情のマルオの眉が若干ながらしわ寄せているのが何よりの証拠だ。

 

「・・・・・・意味がわからないな。つまみ出してくれ」

 

「あ!てめこの野郎!」

 

マルオは話にならないと言わんばかりに秘書に頼んで勇也を院長室からつまみ出した。そんな彼のデスクには日の出祭りの招待状が置かれていた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

一方その頃、三玖はマンションの入り口で、風太郎が来る時を今か今かと待っている。

 

「よし!頑張るぞ・・・!

(フータローと・・・デート・・・)」

 

それもそのはずだ。今日がお出かけする当日・・・すなわちデートであるため、三玖もオシャレな服を着込んで、今日という日を張り切っている。しばらく待っていると待ちに待った風太郎がやってきて、いよいよデート開始である。

 

♡♡♡♡♡♡

 

三玖との約束の日。どこへ向かうのだろうと思って辿り着いたのは水族館だった。正直に言えば今日は家で学祭の疲れを癒したいところだが・・・約束を無下にするわけにもいかないからな。それに、三玖と出かけるのは、そんなに嫌ってわけでもない。むしろそれなりに楽しみにはしてた。

 

「来週はもう学祭。3日間、楽しみだね」

 

学祭も来週にスタートか・・・。まぁ・・・楽しみっていえば楽しみなんだが・・・

 

「素直に喜べなくなってきてるがな・・・」

 

楽しみよりも不安の感情の方が上回ってるんだよな。その原因を作っているのが、たこ焼き派とパンケーキ派の派閥なんだよなぁ・・・。

 

「まさかたこ焼きとパンケーキ・・・2つともやることになるとは思わなかったぞ」

 

いくら話し合っても全く決まらなかったために、男子がたこ焼きを、女子パンケーキを両方やることになっちまったんだ。面倒くせぇことこの上ない・・・他のクラスでも屋台は1つだけなのに・・・。

 

「つーか正直どっちやったっていいだろ・・・」

 

「それだけみんな真剣なんだよ。中途半端にはしたくないから」

 

・・・まぁ気持ちはわからんでもない。俺だって全力でやると決めたわけだからな。

 

「忙しいだろうけど、フータローも食べに来てね、パンケーキ」

 

「・・・・・・」

 

時間があったらぜひとも立ち寄りたいところなんだが・・・そんな時間を作れるだろうか・・・。

 

「学級長の負担が想像以上に重くてな・・・ここ最近は四葉と東奔西走してる」

 

「とーほんせーそー・・・あー・・・そういえば四葉も言ってたね。とにかく忙しいって。演劇部の舞台にも参加するからって・・・」

 

「は?あいつが演技だと・・・?どんな舞台になっても知らねぇぞ俺・・・」

 

あの嘘が下手くそな四葉が演技ができるとは到底思えん・・・。それどころか演劇失敗するんじゃないかと心配しているところだ。

 

「そうかな?まぁ・・・でも一花がいたら・・・」

 

まぁ・・・一花がいれば確かにちょっとはマシにはなるだろうが・・・あいつ自身もドラマの撮影で忙しい身だしな。ないものねだりしてもしょうがない。

 

「・・・とまぁ・・・クラスまで気を回しきれなかったのもそれが原因だ。もしかしたら当日も顔を出せないかもしれん。その時は三玖・・・お前に任せたぞ」

 

「・・・っ、う、うん・・・頑張ってみる・・・」

 

もしかしたら三玖には少しプレッシャーを与えさせているかもしれない。けど何となく三玖なら・・・あいつらのわだかまりを何とかできるかもしれん。もちろんそんな保障はないが・・・三玖ならきっと・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

その後俺たちは水族館をいろいろ見て回った。砂からチンアナゴが出てくる瞬間、イルカのショー・・・水槽の中を自由に泳ぎ回る魚・・・。いろいろ見て回って楽しかったが・・・正直、ものすっごい疲れた!!おそらく今俺はぐったりと座り込んで顔を項垂れてることだろう・・・。

 

「お疲れだったでしょ?そんな中で呼び出してごめん・・・」

 

「気にすんな・・・」

 

「でも私・・・学祭前にフータローに言っておきたいことがあって・・・」

 

どうやら三玖はその言いたいこととやらで俺を呼び出したんだろう。この話は俺にとってもちょうどいい機会だ。

 

「そうか。俺もお前に言いたいことがあるんだ」

 

「え・・・?それ、先に聞いてもいい?」

 

「ああ」

 

学祭の準備でなかなか時間が作れないからな。こういう時でないと、話すことはできないだろう。

 

「聞いたぞ、三玖。大学の入試判定の結果『A』だったらしいじゃないか。頑張ったじゃねーか」

 

「・・・あー・・・えーっと・・・」

 

「初テスト28点のお前が、ついにここまで来たんだな」

 

初めてこいつらに小テストを出してやったあの日が今でも鮮明に浮かび上がるぜ・・・。問題児を外すためだけにやったテストで、まさか全員が問題児だったなんて予想できなかったぜ・・・。そんなあいつらがここまで・・・。しかも三玖は大学入試でAだ。感慨深いものが込み上げてくるぜ・・・。

 

「・・・そ、そのことなんだけど・・・私・・・・大学は・・・」

 

「思えば、長い道のりだったな・・・。家庭教師として力不足だったのではと不安にもなったりしたものだ・・・。しかし全てはお前らが大学に入学してくれたら報われる。俺も授業した甲斐があったってもんだな!」

 

「・・・そう・・・だね・・・。フータローのおかげ・・・」

 

三玖自身・・・いや一花を除いた六つ子たちは大学入試本番で不安なところは多々あるだろう。だけどあいつらならきっと大丈夫だ。どこの大学に行く気は知らんが、きっと受かってくれる。そのためにも俺も、これまで以上に頑張らないとな。家庭教師も・・・学祭も。

 

「よし、次は三玖の番だ。それでお前は何の話を・・・」

 

「あ、見て。ペンギンがいるよ」

 

自分で話を振っといてそれかよ・・・。まぁいい・・・こういうのは無理強いはいかん。本人が話したい時を待ってやるとするか。・・・お、今ペンギンの紹介をやってるのか。

 

『そしてこっちがアンちゃん。その後ろにいるのがサンちゃんです。さて皆さんに問題です。この子の名前はなんだったでしょーか?』

 

「みんな同じ顔じゃん」

 

「違いわかんないよねー」

 

こいつらの言ってること・・・なんか既視感を感じる・・・。きっと六つ子たちに囲まれてたせいだなそうに違いない。

 

「当ててあげたい」

 

三玖は三玖でなんか変な使命感を出してるし・・・。

 

『あー!正解!似てるのも当然でこの6羽は姉妹のペンギンちゃんなんです』

 

ほう、あのペンギン、姉妹だったのか。しかも6羽。

 

「まさにお前らだな」

 

「言われてみると、あれ二乃っぽい」

 

確かにあのペンギン気が強そうだな。そう考えると確かに二乃に似てるともいえるな。他のペンギンたちもよく観察してみればこいつらとの共通点が多くみられる。こりゃ面白れぇ。・・・おっ・・・

 

「じゃあ、あのペンギンが三玖か?」

 

「わー、転んだ!」

 

「あいつ運動音痴だね」

 

「・・・フータロー・・・」

 

ははは、いつもこいつらには六つ子ゲームとか何やらでやられてるからな。ほんのちょっぴりの仕返しだ。お、あのペンギン姉妹、跳んだぞ。

 

(・・・調理学校に行きたいってこと・・・言いづらくなっちゃった・・・。ガッカリさせちゃうだろうな・・・)

 

「あはは、あの1羽だけ跳べないよ」

 

回りの奴らの言うとおり、さっき転んだペンギンが氷の上で立ち止まるだけで水に飛び込もうとしない。周りの奴らは笑っているが、俺はバカになどはしない。勇気を振りだせば、きっと跳べるはずだ。そう思えるのは、三玖の成長を隣で見てきたからだろうな。

 

(・・・ひとまず大学行ってからでも遅くないかもしれない)

 

『もしかしたら、フー君と同じとこ行けるかもしれないし♡』

 

(あの時否定はしたけど、二乃の言ってたことに少し憧れてた・・・。私ももしかしたら・・・フータローと同じ大学に行けるかも・・・。・・・でも・・・)

 

しばらく見守ってると、あのペンギン姉妹の1羽、ようやく勇気を振り絞って、跳んで・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、料理の勉強がしたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくペンギンを見守っていたら、三玖が自分の進路を打ち明けた。

 

「私、学校を卒業したら料理の専門学校に行きたい。だから大学にはいけない。ごめんね、フータロー」

 

専門学校・・・それが三玖が考えて出した決断・・・。

 

「・・・そうか。お前が決めたのなら何も言わない。応援するぞ」

 

「あ・・・。

(すごい複雑そうな顔してる!)」

 

・・・専門学校の選択・・・失念してたーーーーー!!!

 

「そうだよな・・・専門学校・・・それもありだよな・・・」

 

そうだよ、進路を進むのなら何も大学に拘る必要ないじゃねぇか・・・就職なり専門学校に行くなりと・・・つーか六海を見てたら専門学校に行く可能性あるってすぐにわかるじゃねぇか!なんでそんなことも思いつかなかったんだ!俺のバカ野郎!

 

「・・・大学に行くのも間違いじゃないと思う。何が正解かなんて誰にも・・・自分でもわからない。でもね・・・もう自分の夢に進みたくって仕方ないの。それを伝えたかった。フータローは私にとって特別な人だから」

 

「!三玖・・・それって・・・」

 

「・・・もちろん、変な意味で」

 

・・・俺が・・・特別・・・。

 

「私は伝えたよ。じゃあ次、フータローの番ね」

 

次は俺の番・・・真鍋の時にも言われたこの言葉が・・・今の俺の胸に響いた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

水族館を充分に満喫した俺は三玖と別れて帰路の道を歩いていく。今日は楽しい1日ではあったが・・・心残りはあった。俺の番か・・・。

 

「風太郎」

 

「!親父」

 

「お前も今帰りか?」

 

少し考え事をしていると、偶然にも親父と出くわした。休日に外で親父と会うのは珍しいな。休みの日はだいたい家にいるのに。

 

「今日は仕事休みだったんだろ?どこほっつき歩いてたんだよ?」

 

「ま、昔のダチとな。らいはが待ってる。早く帰ろうぜ」

 

それには大いに賛成だ。早く帰って飯が食いてぇ。・・・にしても・・・このタイミングで三玖がなぜあんな話をしたのだろうか・・・?進路について話すのはもちろんだが・・・決してそれだけではないはずだ。真鍋や三玖が言っていた俺の番・・・。真鍋の言う通りかもしれないな・・・。俺の気持ち・・・俺が伝えなければいけないこと・・・。だがそれは、三玖だけに言うことじゃない。六つ子・・・あいつらが揃ってないと、意味がない。

 

♡♡♡♡♡♡

 

我が家に帰宅して早々、俺は思わぬ来客者にものが言えない気分になっていることだろう。

 

「・・・五月、なぜお前がうちにいる」

 

「あっ・・・」

 

五月め・・・何食わぬ顔で我が家でのんびりしやがって・・・。ここはお前の家じゃねぇんだぞ。

 

「お兄ちゃんお父さんおかえりー」

 

「よー、五月ちゃん。来てたのか」

 

「お父様、お邪魔しております」

 

「お邪魔すんな。帰れ」

 

ゴンッ!

 

「もー!失礼なこと言わないの!」

 

い、いてぇ・・・。俺、らいはにおたまで叩かれるのこれで何回目だ・・・?つーかお父様じゃねぇんだよお父様じゃ。お前が我が家にいると居心地が悪くなるんだよ。早く帰ってくれよ。っていうか・・・

 

「本当、何しに来たんだよお前」

 

「こちらです。四葉が上杉君に渡した覚えがないというので・・・」

 

・・・あ・・・完全に忘れてた・・・。

 

「学園祭の招待状です。中に出し物の無料券や割引券が入ってて便利ですよ」

 

「お、こりゃ助かるぜ。サンキューな、五月ちゃん」

 

「お兄ちゃん、なんでこんな大切なもの忘れてたの?五月さんにお礼言って・・・」

 

「・・・あ・・・あり・・・」

 

・・・だー!くそ!ダメだ!それ以上の言葉が続かねぇ!恥ずかしすぎる!

 

「学祭、俺たちも楽しみにしてるからよ。・・・ところで五月ちゃん。何もなかったか?」

 

?何もなかった?親父は何を言ってるんだ?

 

「?えっと・・・心当たりはありませんが・・・」

 

「何のことだ親父?」

 

「外はもう暗ぇから女の子1人じゃ心配なんだよ。おい風太郎、帰りはちゃんと送ってけよ」

 

「はーい、カレーできましたよー」

 

「い、いただきます!」

 

いただくないただくな。うちの食費を破綻させる気かお前は。

 

♡♡♡♡♡♡

 

こいつ結局カレーをドカ食いしやがった・・・。しかも俺がこうして帰りを送っていくはめになるわけで・・・はぁ・・・割に合わねぇ・・・。あ、つーか俺こいつに言わないといけないことがあるんだったわ。

 

「・・・お前・・・こんなことしてていいのか?二乃と六海から聞いたぞ、お前の判定・・・Dだったらしいじゃねぇか」

 

「うっ・・・」

 

このまま放っておいたら結果が聞けずじまいだったから、二乃と六海の情報提供には感謝だな。

 

「だ・・・だからと言って希望校を諦めたりはしません!学園祭返上の覚悟で勉強頑張りますよ!」

 

「マジで頼むぞ本当・・・。希望校には入ってもらわないと困る。これで落ちたりしたら俺のやってきたことが無意味になっちまうからな」

 

「・・・それは違いますよ」

 

「?」

 

「女優を目指した一花、漫画家を目指した六海、調理師を目指した三玖との時間は無意味だったのでしょうか?」

 

「!・・・そうは・・・思いたくはないな」

 

あいつらがいたからこそ、俺は勉強では知りえなかったことを知ることができた。あいつらがいたからこそ、人と関わる大切さを知った。その時間を、無駄だったなんてことはない。これは断言できる。

 

「私たちの関係はすでに家庭教師と生徒という枠だけでは語ることはできません。そう思ってるのは一花と三玖・・・六海や二乃、四葉だって同じはずです」

 

「・・・・・・」

 

「上杉君。たとえこの先、失敗が待ち受けたとしても・・・この学校に来なかったら・・・あなたと出会わなければなんて後悔することはないでしょう」

 

・・・そうだな・・・。確かにこいつらがうちの学校に来なければ・・・家庭教師なんてやらなければよかったなんて後悔も、一緒にいて楽しかったな、なんて気持ちも抱くことはなかっただろう。辛い思い出も、楽しい思い出も・・・全部こいつらが来てくれたから生まれた感情だ。・・・この関係は・・・決して無駄ではなかった・・・。

 

『本番くらい、自分の口でちゃんとしゃべりなさいよ?』

 

・・・わかってるさ、真鍋・・・。俺があいつらに伝えられる機会は・・・これ以外に考えられねぇ。・・・やってやる・・・今度は・・・俺の番だ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『ご来場の皆さまは体育館にお集まりください。第29回、旭高校「日の出祭り」開会式を執り行います』

 

ついに始まる・・・待ちに待った旭高校の学園祭・・・日の出祭りが。




おまけ

中学であった出来事

真鍋「上杉、あんた占いって信じる方?」

風太郎「なんだ突然?」

真鍋「よかったらあんたの未来を占ってあげる。感謝なさい」

風太郎「いや、別にいい。そんなことより勉強・・・」

真鍋「あんたつまんない人生送ってそうだから女運について占ってあげるわ」

風太郎「話聞いて?」

真鍋「ふむ・・・ほうほう・・・ほぉ~・・・。よかったじゃない上杉。あんたの女運はかなり恵まれてるわよ」

風太郎「・・・・・・」

真鍋「そう遠くない未来・・・高校生くらいにはあんたモッテモテよ~?しかも六つ子に愛されると出てる。いや~、すごいわね~。六つ子よ六つ子。その子たちにモテるのよ~?」にやにや

風太郎「・・・バカバカしい。この世に六つ子なんているわけねぇだろ。だいたいモテるとか興味ねぇし」

真鍋「ま、そうよねぇ。実際そんなの見たことないし。この占いは外れかしらね~」

しかし真鍋のこの占いが実際に当たっていたと知ることになるのは・・・まだまだ先の未来のお話である。

中学であった出来事 終わり
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