ハチナイ PM   作:ファルメール

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第15球 練習試合の目的

 

 みづきのホームランによって里ヶ浜高校側が2点を先取。

 

 その後、4番打者の翼が二塁打を打ったものの、続く夕姫がセンターフライを打ってツーアウト、智惠はピッチャーゴロで打ち取られて1回表はチェンジ。清城高校側の攻撃になった。

 

 投球練習が終わった所で、ナイン全員がマウンドに集まった。

 

「良い、みんな? 確認しておくわね」

 

 胸をどんと叩いて、落ち着いた様子を見せるみづき。

 

「今回の練習試合の目的はみんなの実戦練習。だからすずわか、まず投げる球種は全部ストレート。それとコースや緩急のサインはあなたが出す事。私はあなたのリードには絶対に首を振らないから。私を使いこなして、バッターを打ち取ってみせてね」

 

「分かったわ」

 

 実際には和香はまだ変化球は捕れないのだが、みづきはそこには言及しなかった。

 

「そして打たれた場合は、みんなに守ってもらう事になる。守りをしっかり頼むわ」

 

「はい、頑張ります」

 

「分かったのだ」

 

「そこでみんなには、良い守備のコツを教えておくわ」

 

「良い守備のコツ?」

 

「そんなのがあるの?」

 

 地道に練習を続け、経験を積む他にそんな方法があるのかと、特にマウンドに集まったナインの中では経験者である翼が興味津々という風な目を向けた。

 

「それはね、ピッチャーが投げて、バッターが打つ。その打球が、別の人の所じゃなくて、自分の所に飛んで来ますようにって思う事よ。特に、その飛んでくる打球は真っ正面のゴロとかイージーなフライじゃなくて、難しい打球が良いなって、そう思う事」

 

「……」

 

 みづきが語る良い守備のコツは、里校ナインの中で特に茜の心には来るものがあった。

 

 まだ野球を始めて二ヶ月程だし身体能力には個々人で差があるから仕方無いと言えば仕方無いが、練習でもトンネルやバンザイが多かったので出来ればこの試合でも自分が守るライトには飛んできませんようにと、そう心のどこかで思っていたのを、見透かされたような気がしたからだ。

 

「そうして、その難しい球を自分がファインプレーするの。そうすれば、みんなの視線は自分に釘付け。自分がこの試合のヒロインになる!! その気持ちよ!!」

 

 興奮した様子のみづきが、マウンド上でくるくる回りながら語る。

 

「「「……」」」

 

 集まったメンバーは少し引いた感があるが……しかし言っている事は心構えとしては、結構的を射ているかも知れないと思えた。自分の所に飛んできたら、そしてエラーしてしまったらと恐れるか、それとも来るなら来いという気持ちでプレイするかでは、天と地の違いであろう。

 

「勿論、みんなはまだ野球に触れて日が浅いからいきなり凄いプレーをしろなんて言わないわ。サポートはきちんとする」

 

 みづきは智惠と翼、二遊間コンビに向き直った。

 

「河北さんは、今日は守備の事だけ考えて。セカンドランナーへの牽制は、全て有原、あなたが入るように」

 

「うん」

 

「分かったよ」

 

「そして団長、中野さん、宇喜多さん。外野に打球が飛んだ時は、必ず前か後ろか指示するから、それに従って動くように」

 

「分かった」

 

「了解にゃ」

 

「う……うん。頑張る」

 

「頑張る必要なんかないわ。練習してきた事をそのまま出せば、それで良い」

 

 みづきがそう言って締めた所で、メンバーはそれぞれの守備位置へと散っていく。

 

 一回裏、清城高校の攻撃。

 

 今のみづきはモノマネを使わない。右のオーバースロー、ナチュラルな彼女の投げ方だ。

 

 初球に和香が要求したコースは、インコースへの速球。

 

「ふっ」

 

 のびもキレもある速球が、要求したのとほぼ同じコースに決まった。針の穴をも通す魔球0.0625を封印しているとは言え、コントロールの良さはみづきの体に染み付いたものだ。ミットが気持ちの良い音を立てて喜ぶ。

 

 二球目。続けてストライク。

 

 バッターは、まだバットを振っていない。

 

「ふむ……?」

 

 和香の返球をキャッチしたみづきだが、ここで一つの違和感を覚えた。

 

 二球まで投げて、このバッターからは打ち気と言うか、そういうオーラが感じ取れない。

 

 目に「打ってやる」という力が無い。

 

 エラーでもフォアボールでも良いから、ただ出塁しようというハラで打つ気力が無いのとは違う。

 

 ピッチャーには精度の善し悪しはあれ、みんなセンサーが付いている。打者の気持ちを読むセンサーが。

 

 みづきのセンサーは、段々と打つ気が下がっていったのではなく、最初から少なかったように反応していた。

 

「……先頭打者だから、早打ちはせずにピッチャーの球種を引き出して情報収集しようというのは自然な考えだけど……」

 

 それにしても、消極的に過ぎる気はする。

 

 まるで最初から、この打席は捨てているような……?

 

「……と、いう事は……」

 

 思考を巡らすみづき。

 

 和香がサインを出す。要求したコースは、三球続けてのインコース。二球続けて打ちだったので、次は外という打者の読みの裏を突くリードだ。

 

「……」

 

 頷いて返すと、みづきはインコースへ投球する。

 

 ただし先の二球に比べてスピードは遅く、コースも真ん中よりで甘い。

 

「!! 失投!!」

 

「……!!」

 

 絶好球が来て、バッターは思わず我慢し切れなくなったらしい。

 

 スイング。

 

 だが迷いがあったのでバットを振り切れていなかった。中途半端に当たったボールはゴロになって、ピッチャーとサードの間に転がった。

 

「私が行くわ。阿佐田先輩はカバーに」

 

「分かったのだ」

 

 投球から素早く捕球体制を整えていたみづきが走り出して、同時に指示を飛ばす。それを受けて、サード・あおいもボールを捕るべく一瞬だけ遅れて走り出した。

 

 ゴロをキャッチするみづき。

 

 ファーストの夕姫へと送球。夕姫のファーストミットの構えた所にボールが入ってバッターはアウト。

 

「野崎さん、鏡原さん、ナイス!!」

 

 ショートの翼が声を上げる。

 

「ええ、野崎さん。ナイスキャッチ!!」

 

 みづきも翼に続くようにして、声を出した。が、それで終わらなかった。

 

「しかーし!! 河北さん、宇喜多さん、そしてすずわか!! あなた達3人は減点!!」

 

「えっ!?」

 

「え?」

 

「どうして……?」

 

当の3名は戸惑い顔である。どうしてみづきが怒っているのか、理由が分からない。

 

 ちらりと、智惠が親友に視線を送った。翼なら、みづきの意図を理解しているだろう。

 

「あれ?」

 

 気が付くと、翼はいつの間にかセカンドベースに入っていた。

 

「ともっちが動かなかったからだね」

 

 流石に翼には分かっていた。苦笑いしつつ解説する。

 

「もし、鏡原さんの送球が逸れたり、野崎さんがエラーしたらその逸れたボールは誰かが捕らなきゃいけないでしょ。その時に、ともっちや宇喜多さんが定位置にいたらいつまで経ってもボールには追い付かなくて、バッターは簡単に二塁三塁に進塁してしまうからね。その前に、ファーストのバックアップに動いておかないと。でしょ、鏡原さん」

 

「そーいうこと。流石は有原」

 

 自分が言いたい事を全て代弁してくれて、みづきは気を良くしたようだった。

 

「すずわかも同じよ」

 

「分かったわ」

 

 定位置で動いていなかった和香も、納得行ったと頷く。

 

 それにしても、セカンドやライトだけでなくキャッチャーまでバックアップに動かすとは。これは練習試合だが、公式戦と同じ厳しさだ。みづきはこれをただの練習ではなく、実戦と同じレベルで考えているのだ。

 

「よーし、それじゃあみんな、次は頼むわよ!!」

 

「はい!!」

 

「分かった!!」

 

「は、はい!!」

 

 はつらつとしたみづきの声を受けて、気持ちを新たにナインは守りの準備を整える。

 

 続く二番打者。一番に比べてやや小柄に思える。

 

 二番打者の装備は、定番としては選球眼・ミートヒッティング・俊足。この辺りだろうと推測する。

 

 和香の配球は、今度は外角を続けて体を引きつけた所へ、インハイへ決め球を投げるというもの。

 

 二球目までは、快速球が外角に決まった。ツーストライク。

 

『やはり、イマイチ打ち気が薄いな』

 

 一番打者と同じく、みづきのセンサーはこの二番からも気を感じられない。

 

 二人まで続くとこれは単なる偶然や打席に立ったバッターの独断ではない。最初から球筋を見ていくように「待て」の指示が出ているのだろう。

 

 みづきとしても普段なら三振をプレゼントしてくれるのは大歓迎だが……

 

『こっちは実戦練習がしたいの。打ってもらわなくちゃ困るわ』

 

 三球目、要求されたインハイ気味に、だがやや甘い球を投げる。

 

 バッターは打ったが、右打者にインコース、左方向にゴロが転がった。

 

 先程と同じく、素早くダッシュしたみづきが処理。ファーストへと送球。

 

 狙いは過たず、やはり夕姫の構えたミットに球が吸い込まれて、バッターはアウトに。

 

 今度はセカンドの智惠、ライトの茜、そしてキャッチャーの和香もそれぞれバックアップに動いていた。

 

「ナイスフィールディング私!! ファーストもナイスキャッチ!! そしてキャッチャー、セカンド、ライト!! ナイスバックアップ!! それよそれ!!」

 

 顔をほころばせたみづきは外したグローブを脇に挟むと、拍手を始めた。

 

「はい!!」

 

「は……はい」

 

 ちょっとオーバーなのではないかと戸惑っているようではあるが、褒められて嫌な者は居ない。はにかむようにして、定位置へと戻る。

 

 翼はにやっと笑いつつ、その様子を見ていた。

 

 野球を始めたばかりの頃を思い出す。みんなこうして、少しずつ上手くなっていくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 清城高校のベンチからも、この光景は当然見えていた。

 

「良い球が来て、ついつい手が出てしまいましたか?」

 

「ごめん、小也香。一巡目は球筋を見極めろって言われてたのに」

 

 ピッチャーゴロに倒れた二番打者が戻ってきたが、神宮寺は「構いません」と一言。気にしている様子は見られない。

 

「全く打ってはいけないとは言っていませんからね。二球目まではちゃんと見れていましたし、甘い球が来たら打つ。好機を逃さない事も、野球には必要です」

 

「そ、そっか」

 

「どうやら里校側は、この試合を経験の浅いメンバーの実戦守備練習に当てるつもりのようですね」

 

 神宮寺の分析は的を射ている。そこまではナインへの注意やその後の拍手を見ていれば読み取れるが、彼女の推理には更に先があった。

 

「そしてこちらの、一巡目は捨てて球筋を見極める練習の狙いにも、向こうのチームの、少なくともピッチャーは気付いているでしょう」

 

「そう言えば一番二番とも、追い込むまでの球に比べて、三球目はコース・球威も甘かったね」

 

 女房役の花が、この推理を補足した。確信が深まったようで、神宮寺は頷きを一つ。

 

「三球目は甘い球を敢えて投げて、こちらに打たせたのです。チームの守備を鍛える為に」

 

「じゃあ、どうする?」

 

 予定変更か、それとも強行か。

 

 指示を求めるナインに対して、神宮寺の中で既に答えは出ていた。

 

「向こうもこちらに乗ってくれている以上、こちらも向こうに乗ります。二球目までは球筋を見ていって。三球目以降は好球必打。これで行きましょう」

 

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