Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
俺が変身する!!!
魔王とレジスタンスと未来を救う旅2015
カルデアの廊下をゆったりと歩くウォズ。
彼は歩きながらもその手にある『逢魔降臨暦』を開いていた。
誰一人姿の見えないその場において、果たして誰に向けて話かけているのか。
彼は口を開き始めた。
「この本によれば普通の高校生、常磐ソウゴ。
彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた……
だが、その未来に辿り着く前に。人の未来は何者かの手によって焼け落ちる」
絶望的な状況を語るというのに足取りは軽く。
その顔には余裕さえ漂わせながら、彼は目的地に向けてゆるりと足を動かし続ける。
「七つの特異点の内、四つ目。
ロンドンを攻略した彼らの前に遂に姿を現したのは、魔術王ソロモン。その圧倒的な力の前に成す術もなく見逃され、命からがら生き延びた彼ら。
彼らはしかし、それでも戦いを続けることを選ぶ。全ては己らが生きる世界を守るために」
ふと、彼の歩みが止まる。辿り着いた場所、そこは医務室の前。
魔術王に呪われた立香が寝かされている部屋だ。
そこで足を止めたウォズは、その扉を眺めながらゆっくりと逢魔降臨暦の頁を一枚捲る。
その内容を検め、彼は大仰なまでに手を振り上げて言葉を続けた。
「再び立ち上がる彼らが次に目指すのは1783年、北アメリカ大陸。
―――さて。命を救うために伸ばす手、それは一人で届く範囲はたかが知れている。
ではどうする? 届くまで誰かと繋いで伸ばす? 規則を変え、社会に働きかけ、人の意識を改革し、医療という概念さえも変革させてみせる?」
誰かに問いかけるように語り続けていた彼が、小さく笑い―――パン、と。
手の中にある本を勢いよく閉じた。
「―――我が魔王の手に届かぬ範囲はなく、その眼に行き届かぬ場所はない。
世界とはすべからく我が魔王の伸ばした手に覆われるべきもの。
では、獣の如き理屈で生きる王を相手に。魔術王ソロモンの前哨戦となって頂きましょう」
そう言って彼は振り向き、扉に向き合った。
まるで一瞬前まで時間が止まっていたかのように。
医務室の扉が、急に反応して開きだした。
直後。誰もが混乱しているような医務室の中に、布が奔る。
それはメルセデスの腕に巻き付いて、銃を握る彼女を腕を拘束してみせた。
掴まった彼女は振り向くと同時に、その相手を睨む。
「ウォズ……!」
「―――なるほど、そういうことか。まさか君とここで会う事になるとはね……
やあ、ツクヨミくん? 久しぶりじゃないか」
医務室の入口に立ち、そのストールをメルセデスに向け伸ばしているのはウォズ。
彼は旧知の間柄であるように彼女をツクヨミと呼び、ストールを軽く引いた。
「―――やっぱり、貴方が裏切り者だったのね……!」
メルセデスの返答もまた、彼の事をよく知っているというようなものだ。
彼がジオウを庇っている状況を見て、更に顔つきを険しく変えていく。
彼女は引きずられそうになる体を押し留めながら、拘束を振りほどこう動く。
が、ウォズは更に拘束を強めてその腕を封じてみせた。
「……なに? どういう状況?」
ジオウが首を傾げながら二人の顔の間で視線を行き来させる。
そんな彼の様子を窺いながら、ダ・ヴィンチちゃんが軽く顎に手を当てた。
彼女が言葉を向ける相手は事情を理解しているだろう唯一の人間、ウォズに他ならない。
「君の知り合いかい? どういった関係なんだい、ソウゴくんとの関係も含めて」
その問いに対して一度口を開こうとした彼が、しかし口を閉じて一瞬だけ眉を顰める。
そのまま数秒黙りこくった後、仕方なさそうに口を開く。
「……いや。まったく知らない相手だ」
そう言った瞬間、立香が寝かされていたベッドの下から少女が瞬時に這い出てくる。
まるで蛇のように地を這い、唸り声を上げながらウォズを目指して動き出す。
「と、言うのは冗談として。もちろん、知り合いだとも」
だろうね、とでも言いたそうな顔をして彼女から離れるように動くウォズを見て、床を這い回る清姫を上から押さえつけるジャンヌ。
ふしゅーふしゅーと火の粉の混じる吐息を漏らす清姫を押さえ込みつつも、彼女は肩を竦めているウォズの方から視線を逸らさない。
「―――私の知る限り、彼女の名はツクヨミ……
2068年、オーマジオウに対抗するレジスタンスに所属していた人間だ。
我が魔王との関係と言うのなら、それこそが我が魔王と彼女の関係さ」
「その彼女があなたを裏切り者、と呼ぶのは?」
オルガマリーの詰問する声。
彼は一瞬、地面に押し付けられている清姫に視線を送る。
トカゲのように地面で潰れている彼女の目は、見開かれたまま彼を睨んでいた。
「……まあ、言われた通りとしか言いようがないね。
私はレジスタンスに所属し、レジスタンスの反抗作戦を意図的に破綻させて追い込んだ。いわゆるスパイと言えるような存在だった、というわけだね。
私にとっては作戦通りだが、彼女たちにとっては裏切りだった。それだけの話だ。もっとも。彼女たちが何をしたところで我が魔王に何かが出来たとも思わないがね」
―――清姫からの反応は無い。
嘘発見器のように扱われているが、しかしそれはつまり彼女の感知精度の高さの証明だ。
その彼女が感知しないということは、彼の言葉に嘘がないということ。
盛大に溜め息を吐きながら、オルガマリーがメルセデス―――ツクヨミの前に出る。
「正直、あなたたちの状況はよく分かっていないわ。
けれど。少なくとも常磐ソウゴは今、世界を救う為に欠かせない存在なの。
一度状況を整理させてくれないかしら。お互いのためにも」
「常磐ソウゴが、世界を救う……?」
ツクヨミが周囲を見回して、そして起き上がってきた立香にも視線を向けた。
―――少しの間悩んでいた彼女がファイズフォンを下ろす。
ウォズが巻き付けていたストールが引き戻され、拘束から解放される。
「……分かったわ。騒がせてごめんなさい、私はどうすればいいかしら」
彼女が手にしていたファイズフォンを畳み、立香に渡そうとする。
が、立香はそのままツクヨミにそれを押し付けた。
怪訝そうな顔をする彼女に対して、立香は微笑み返す。
「メルセデス……じゃなくて、ツクヨミ? が持ってていいよ」
「……私はこれを今、常磐ソウゴに突き付けたばかりだけれど……」
「うん。大丈夫、多分。ねっ!」
何が一体大丈夫なのか、立香はそう言って彼女に渡したままにする。
それどころか今銃を突き付けられた当人であるジオウに同意まで求めだした。
―――困ったように周囲を見回す彼女だが、狙われているジオウ本人もいいんじゃないか、と言わんばかりに頷いていた。
「……じゃあそうだね、私の工房に行こうか。私と所長とツクヨミちゃんで」
「そうね……まずはそうしましょう」
オルガマリーは同意しつつウォズを見やる。が、彼は肩を竦めるばかり。
眉間に指を当てながら溜め息一つ。
彼女はツクヨミに向かって着いてこいと示すと、先導して歩き出した。
三人が出て行ったのを見送ってから、ソウゴに視線を向けるオルタ。
彼女が彼を上から下まで眺めて、ぼんやりとした情報を思い返す。
「……で、オーマジオウってアンタのことだっけ?」
「そうとも。時空を超え、過去と未来をしろしめす究極の時の王者。
その名もオーマジオウ―――我が魔王が歴史の最終章に辿り着いた証明である」
答えるのは訊かれた本人でなく、彼の後ろに侍るウォズ。
彼はその手に『逢魔降臨暦』を抱えながら、大仰に語り上げてみせた。
が―――
「違うよ。俺はオーマジオウにならないし」
ジクウドライバーを外し、変身を解除しながら答えるソウゴ。
当然のように否定する彼を前に、どっちよ、と。
オルタが呆れるように表情を崩した。
何度となくその名前、魔王と言う称号は聞いている。
が、直接にオーマジオウを知るのはウォズとソウゴと立香。
―――そしてウォズ以外は知っているということを知らないが、ダ・ヴィンチちゃんだけだ。
ジャンヌがちらりと己のマスターを見る。
彼女は第三特異点の最中、一度2068年だという場所に呼ばれて対面したと言う。
そんな立香は困ったような表情でソウゴの方を見ていた。
彼女がマスターたちを眺めているのを理解してだろう。
それなりの期間の演奏を続けていたダビデが、指を止めて竪琴を消す。
「とりあえず立香が起きた、ということを周知するべきじゃないかい?
まずは食堂に行けばまあ大体のサーヴァントは揃ってるだろう」
「……Dr.ロマニに体調を確認して頂いてからの方がいいのでは?」
もういいかと清姫を解放しつつ、ジャンヌはダビデ王に視線を向ける。
そんな彼女たちを背後に、清姫は幾分か普段よりも手加減しつつ、すぐに立香へと抱き着きにかかった。
「……あ、そうだ。清姫が普段攻撃してくれてる経験のおかげで結構助かったよ」
久し振りな気がするそんな感覚に、監獄搭で逃げ回っていた状況を思い出す。
結局のところ一級サーヴァントの戦闘速度についていけるはずもないが、しかしその経験は決して無駄で終わるものではなかったようだ。
その分の感謝をとりあえずしておく。事実は事実なので。
「? マスターに攻撃をしたことはございませんが……?」
腕を捕まえながら抱き着いて、不思議そうに首を傾げる清姫。
立香はそんな彼女に笑顔を返す。
角が生えている頭からの激突は割と普通に攻撃だと思う、などと思いつつ。
「……んで。どうするのよ、主治医を待つの? それとも食堂?」
オルタが急かすように立香に問う。
そんな彼女に対して首を傾げつつ、彼女は自身の腹部に手を当てた。
「うーん、お腹空いたし食堂に行こっか」
そう言って歩き出す立香。
帰還直後に倒れ、そのままだった彼女にとって食事は久しぶりだ。
そんな彼女の背中にジャンヌが声をかける。
「……そのうち所長たちからの連絡で、ドクターも戻ってくるでしょう。
私たちがここで待機して、その旨を伝えておきます」
そういう彼女の視線はダビデに向いている。
二人でここに残っておく、という意味だろう。
彼も肩を竦めているが、文句はなさそうだ。
「俺が残っててもいいけど。朝ごはんもう食べたし」
「もうお昼ですよ?」
ずっと立香についていたジャンヌたちを慮ってか。
ソウゴはジャンヌたちに提案するが、彼女の返答にきょとんと首を傾げた。
あれ、と時計を見上げるソウゴ。確かに時間的にはもう昼食の時間帯だ。
思ったよりも時間が経過していた。
普段はきっちりお腹が空くところなのだが……何となく原因も思い当たる。
「うーん……不思議とお腹が空いてない。フルーツいっぱい食べてきた気分」
「なんで?」
珍しい、と。立香こそそんなソウゴに首を傾げる。
「……果汁をいっぱい浴びたから?」
オレンジパインイチゴにチェリー、ピーチレモンにまたまたオレンジ。
飛び散る果汁を思い出してうーむと唸るソウゴ。
「フルーツ地獄なんてあったの? ちょっと羨ましいかも」
立香は自分の地獄めぐりを思い出し、次いでソウゴの行ってきた地獄を思い描く。
彼女が頭の中で描くのはバイキングみたいな地獄だ。
出されたものを全部食べなきゃいけない地獄だろうか、などと。
「でもデカいミカンとか頭の上に落ちてくるよ」
羨ましがられたソウゴは自分の手ででかい丸を描き、それを自分の頭に被せるようなジェスチャーをする。その絵面を見た立香が腕を組みながらそのサイズのミカンを思い描く。
そしてそれが人の頭に被さっている状況を思い浮かべ―――
「鏡餅みたいでおめでたい?」
「……あ、鏡餅って言うと割ともうすぐ2016年なんじゃない?
カルデアにお餅ってあるのかな。正月はやっぱお餅食べたいな」
そのまま餅をどうやって食べるかの議論に入るマスター二人。
それを傍から眺めていたオルタの眉が引き攣って揺れる。
「おめでたいのはあんたらの会話でしょ……」
「……そう? あ、オルタはお餅どうやって食べたい?」
「マスターのおしるこは私にお任せください。
……? もしや、私にあんこを塗せばマスターに美味しく召し上がっていただけるのでは?」
清姫が名案を思い付いてしまった、と顔を嬉しげに綻ばせる。
そんな提案を聞いていた立香が困ったように頭を傾けた。
「あんこを付けたまま歩かれたら掃除が大変だから止めてね。
そのまま抱き着かれたら服も汚れちゃうし。清姫はお餅じゃないよ」
「まあ……では別方向で検討いたします」
ならば、と。今度はお汁粉か雑煮かと飛び立つ話題の転換。
更に眉を引き攣らせたオルタが溜め息を吐きながら、バタバタと手を振って彼女たちの会話を強制的に打ち切った。
「もう何でもいいからさっさと食堂なら食堂行きなさいよ。
そっちで餅があるかどうかでも確認してから話せばいいでしょ」
言われてなるほど、と頷く立香。
そんな彼女が、再びソウゴに声をかけた。
「で、ソウゴはお昼食べないの?」
「いや、食べる。お餅の話してたら何かお腹空いてきた気がする。黒ウォズはどうする?」
自分の腹に手を当てながら意見を引っ繰り返すソウゴ。
そんな彼が医務室の入口近くで背中を壁に預けているウォズへと問いかけた。
問われた彼はダビデとジャンヌに一瞬視線を向け、しかしすぐに逸らす。
「……では君に着いていくとしようか。私が残っていてもやることはないからね」
「そう? じゃあ行こっか」
彼らが医務室から出て行く。
その背中を見送ってから、オルタは待機しているジャンヌとダビデを見た。
ジャンヌもまたダビデの方を注視している。
「どうかしたのかい? ああ、もしや……アビシャグだったことを思い出したのかい?
それは喜ばしいことだ。さあ、僕の胸に飛び込んで僕を暖めておくれ」
「ダビデ王。あなたには何が見えているのでしょうか」
両腕を横に大きく広げた彼の軽口をスルーし、彼女は詰問する口調。
問いかけられたダビデは片目を瞑り、首を傾げた。
「うーん。千里眼持ちのあいつじゃあるまいし、僕に大したことは見えてないよ。
ただ、まあ……そうだね。おおよその推測は出来ている、と思ってる。
本来だったら推測すらする気はなかったけど、後々笑い話に出来そうだしね」
彼はまるで苦笑するようにそう語る。
その言葉に対して、二人のジャンヌは顔を顰めた。
「……笑い話、ですか?」
魔術王、己の息子が相手だと確定したというのに。
彼は気の抜けた微笑み顔を浮かべながらそう言った。
「まあ気にしなくていいさ。実際、僕の思い至ったことは大した話じゃない。
―――どちらにせよ、きっと最後に決めるのは……今を生きる人間だ」
そう言い残し、彼もまた医務室から出て行こうとする。
直後、彼の目の前で扉が開いた。
「すまない。立香ちゃんが目を覚ましたって……うわ、ダビデ王!?」
扉が開いたすぐ傍にいた相手に仰け反るロマニ。
おや、とダビデはロマニの登場に足を止めた。
ダビデは軽く微笑むと、彼の目的である人物が向かった食堂の方を指し示す。
「マスターたちなら食堂に行ったよ」
「あ、ああ。そうか、食事する元気があるのなら後からでもいいか。
何にせよ立香ちゃんが目を覚ましたならよかった」
そのまま医務室に入ってくるロマニとすれ違いながらダビデが退出する。
ほっとしたような、困ったような、そんな不思議な顔を浮かべるロマニ。
そんな彼の顔と去っていくダビデの背中を見ながら、ジャンヌは微かに目を細めた。
「そう。私たちは2068年、常磐ソウゴ……オーマジオウに支配された世界で戦っていた。
レジスタンスは大規模な反攻作戦を立てて、満を持してオーマジオウに挑んだのだけれど……」
「ウォズの裏切りでその作戦がオーマジオウに露見。
待ち構えられていたレジスタンスたちは彼一人に迎撃され壊滅した、と」
ツクヨミの話を聞いていたオルガマリーが俯く。
彼女を疑うわけではないが、常磐ソウゴという人間の印象と一致しない。
とはいえ、その常磐ソウゴ自身が第三特異点攻略時にオーマジオウと顔を合わせ、そして決裂したという話も受けている。
オーマジオウという人物は、ソウゴ本人にさえ受け入れられない存在なのは間違いない。
「……過去への干渉、改変は禁忌。タイムパラドックスによって世界が崩壊する可能性もある。
けれど、それが分かっていても……私たちにはもう、常磐ソウゴがオーマジオウになる前の時代で彼を止める以外の手が残っていなかった。
私たちは残っていたタイムマジーンを使い、彼がオーマジオウになる2018年にタイムトラベルを強行したわ。その結果……」
「……恐らく、2018年が焼却されているがために、2018年には辿り着けなかった」
オルガマリーが額を手で覆う。
タイムマジーン、というマシンがある時点である程度分かっていたが、未来の人類は魔術にさえ頼らず時間に干渉するらしい。
時間移動ができる=時間の改変ができる、ではない。それこそが人理定礎という概念だ。だから彼女たちが実際に過去を変えられるかどうかは分からないが、少なくとも時間移動は一般的なものとなって未来世界に根付いているものであるようだ。
「……私はいつの間にか記憶を失い、どことも分からない牢獄に閉じ込められていた。それを助けてくれたのが、立香だったわ。
……そして、その彼女を助けにきたのが……」
「ソウゴくん、というわけだね」
うんうん、と首を縦に振るうダ・ヴィンチちゃん。
そんな彼女に対してオルガマリーが視線を向ける。
「ダ・ヴィンチ。今更ではあるけれど2068年が残っている、というのはどういうわけだと思う?」
「どうもこうも。単純に時代は焼却出来ても彼個人を焼却できなかった、と解釈すべきだろう。
オーマジオウが単独で特異点として成立するが故、時空の変動に左右されない。
“2068年”が残っているのではなく、“オーマジオウのいる時代”が残っただけさ。
つまりその時代はもう西暦2068年ではなく、“オーマジオウの特異点”と呼ぶべき存在になっていると言えるだろうね」
「常磐ソウゴ個人が聖杯の役割を果たして、時代を特異点化している?
……ただその理屈から言うと、オーマジオウが生まれるという2018年も消えない気がするのだけれど……」
ダ・ヴィンチちゃんの言葉にどこか引っ掛かりを感じつつ、天井を仰ぐオルガマリー。
恐らくこの答えを出せる者がいるとしたら、ここではウォズくらいだろう。
訊いたところで白状するとは思えないのでわざわざ訊かないが。
微笑んだままのダ・ヴィンチちゃんが、彼女の疑問に対する答えを投げる。
「……残っていてももう繋がりはない、と言える。
前提である2015年までが消失しているんだ。そこから未来が単独で成立したところで、それはもう人類史ではないよ」
「……2018年が残ってようが残ってまいが、それはただの特異点でしかないということ、か。
魔術王が時代が残っていることに目を向けないのもそういうこと……?」
「だろうね。2015年までをリセットするのなら、2018年だろうが2068年だろうがifの時代は隔離できる。一度特異点として隔離されてしまえば、もう人理の証明にはならないだろう」
本当に隔離されてるなら私やソウゴくんたちがあの時代に行けるはずもないけど。
いや、隔離されているのは事実だろう。
なんてセリフを飲み込んで、彼女はこの場に清姫がいないことに感謝する。
あと恐らくはあの仮面ライダーディケイド。あと、ディエンドもそういう存在か。
「あの……」
笑顔で誤魔化しているダ・ヴィンチちゃんと、溜め息交じりに考えていたオルガマリー。
そんな二人に対してツクヨミが声をかける。
「その、人理焼却ということについて詳しく教えてください。
―――それと。その中で常磐ソウゴがどんな風に戦ってきたのか……
貴女たちの目に、そんな彼の姿がどう映っていたかを」
今まで世界を救うために戦ってきたという常磐ソウゴ。
そして荒廃した世界に君臨し、己らを薙ぎ払ったオーマジオウ。
その二つの姿が重ならず、彼女は二人に問いかけていた。
―――オルガマリーが微妙そうな顔を浮かべる。
これは彼を褒め称え、彼女からの印象をよくしないといけない場面だ。
もちろん、実際に救われてきたから。幾らでも助けられた場面は浮かんでくる。
だからと言って、手放しで他人を賞賛するという状況にオルガマリーは慣れていない。
ちらり、とダ・ヴィンチちゃんを見る。
彼女の顔には―――
『私は天才だから賞賛するより賞賛される方が慣れてるんだよね☆』と書いてあった。
ああ、そうかい。どうせ私は誰にも賞賛されたことないわよ。
などと、眉を顰めるオルガマリー。
救われたのは事実だし、その感謝だって忘れていない。
だけど、それを口に出して褒め称えれるかと言えばそれは……
―――だからといって、ツクヨミの問いを無視していいわけがない。
大きく深呼吸して、ダ・ヴィンチ製のボディの頭部を赤く染めながら。
彼女は出来る限りソウゴのイメージがよくなるように彼女に対して語ってみせる。
レフに消されかけたところを助けられたところから、今に至るまでの旅路の全てを。
真面目に聞いているツクヨミと、にやにやと自分を見ているダ・ヴィンチちゃんに挟まれながら。
(オーズのキャッチコピーこれだったのか…)
超全集買いました。高岩さんの写真集いいゾ~これ。