Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
ツクヨミは考える。
Dr.ロマニに頼み見せてもらっているのは、これまでの特異点攻略時に撮影されてきた映像だ。全てが残されていたわけではないが、それでもそこそこの量になる。
それらを見た上で彼女が出した現時点での結論は―――
常磐ソウゴという人間は、変人の類であるが確かに善人である、ということだ。
「……本当に彼が、オーマジオウに……?」
顎に手を当てながら悩む彼女に、操作をしていたロマニが苦笑した。
「うーん。ボクにはそのオーマジオウ、という人物のことは分からないけれど……
―――もしかしたら、実はオーマジオウの正体は別人だったり?」
「別人……?」
ふと思いついたかのように、そう口にするロマニ。
言ってから彼は何か焦るように顔を引き攣らせて、やっぱり今の言葉は無しだと手を横にパタパタと振ってみせた。
「いや、ごめん。適当なことを言ってしまった。
うん。情報も持っていないボクが簡単に口を出すべきではなかった」
「いえ。そんなこと……もしかして、ロマニさんは魔術王という敵のことを別人だと?」
ツクヨミにそう問いかけられて、彼の顔は更に引き攣った。
「参ったな……所長が言ってたのかい?
流石にボクだってもう敵が魔術王である、という点に納得はしてるっていうのに」
「はい、所長さんからのお話で」
彼の反応を見て申し訳なさそうにするツクヨミ。
それに気にしなくていい、と苦笑しながらロマニは端末を操作する。
「ボクが勝手にそんなことはしない王だ、と決めつけて見ていただけさ。
魔術王と戦えない、なんて気持ちはさらさらないからそこは安心してくれていいよ」
彼女が閲覧していた戦いが、直近のロンドンのものまで辿り着く。
その地で彼らは魔術王ソロモンと邂逅したのだ。
だが直近の特異点だというのに、そこでの映像はほんの僅かしかなかった。
「敵の首魁である魔術王の情報を君に閲覧させてあげられないのは申し訳ないけれど……姿を見ただけで呪われる、とあっては映像を残しておくわけにもいかない。
どんな呪いがあるかも分からない以上、ロンドンの映像はほぼ凍結してしまったんだ」
「そうですか……いえ、貴重なお時間をありがとうございました」
そう言って頭を下げるツクヨミ。
「はは、本来無関係だった君にさえ戦うように頼んでいるんだ。ボクの時間なんか幾らでも使うとも。仕事ばかりしてる、と言われるがこれでも結構趣味に使う時間はあるしね」
「そうなんですか?」
ツクヨミがここカルデアに来てから日は浅いが、それでも彼はいつも仕事をしている印象があった。そう見られている、ということは理解していたのか。彼は困った風に頬を掻いた。
「うん、マギ☆マリっていうネットアイドルなんだけどね……ほら。休憩中でもデスクに向かってネットしてるから、仕事をしていると思われちゃう感じなんだ」
「なるほど……? ネットが……出来るんですか?」
人理焼却されているのにネットが繋がるのか、と首を傾げるツクヨミ。
この外に連絡が取れない、というならネットもできないのではないだろうか。
「ううーん。多分、AIによる運営だからなのかな?
あ、いや。今のは無しだ。マギ☆マリは電脳の海に生きるアイドル。中の人なんていない!
人理焼却だってネットの海ならなんのそのだからに違いない!」
一瞬だけ真面目に考えていたロマニは、即座になかったことにしてアイドル論を展開した。
その態度を見ていたツクヨミがなんとなしに問いかける。
「はぁ……そんなに面白いんですか?」
「もちろん! 今となってはこの状況におけるボクの最大の癒しだよ!」
訊かれるや、嬉々としてその趣味を語り始めるロマニ。
きょとんとしながら、ツクヨミはとりあえず彼の趣味の話に付き合う事にした。
「それで長々と話に付き合わされたってわけかい?
ロマニに仕事をさせたのだとして、対価としては払い過ぎだよそれは」
やれやれと肩を竦めるダ・ヴィンチちゃん。
「はぁ……」
ロマニの語りは尽きることなくひたすら続き、結果的には途中で現れたダ・ヴィンチちゃんによって中断された。
軽く疲労を表情に浮かべるツクヨミに対し、申し訳なさそうに謝罪するロマニ。
申し訳なさそうでありながら、しかし趣味を語り尽くした充足感すら感じる表情だった。
「いや、ボクとしても面目ない。ちょっと話をしようと思っただけであそこまで語れてしまうとは、自分としてもまさかだったよ……」
思ってもみなかった自分の姿に自分で驚くロマニ。そんな彼らの姿は召喚室にあった。
第四特異点が落ち着くのは確認され、そこから聖晶石の回収も完了。
使用された令呪の補填を終え―――召喚できるサーヴァントは一騎、といったところだ。
「今回はひとりだけなんだね」
今までは複数人召喚していたというのに、と。召喚時における念のためのガードに入っているソウゴが呟いた。
その彼の前に立っているクー・フーリンが肩を竦める。
「ま、聞いた話じゃ前回は魔術王とやらのせいで相当に場が荒れたんだろう?
資源として引っ張ってこれる魔力が減っても仕方ねえさ」
「そうなの?」
「コップに水を掬うのに川からと滝から、どっちが簡単かって話だ」
分かるような分からないような、と。首をしきりに傾げるソウゴ。
彼らがそんな話をしている間にツクヨミがマスターになるための準備は進んでいく。
もう見慣れた召喚サークルの展開。
その中から虹色の光を伴い現れた姿に、ソウゴが小さく声を漏らす。
―――全身を覆う鎧、その姿はまさにロンドンでともに戦った赤き叛逆の雷。
円卓の騎士、モードレッド卿に他ならなかった。
彼女は小さく視線を巡らせながら周囲の状況を確認し、不思議そうに声を上げる。
「―――召喚に応じ参上した。なんだ、今度はまた別の奴がマスターか?
っていうか、マスター増えたのかお前ら」
どういう状況だよ、と呆れながら兜を展開して顔を晒す彼女。
そんな彼女の前にツクヨミが踏み出して、その手を差し出した。
「私はツクヨミ、私があなたのマスターになるわ。
ええと……モードレッド、でいいのかしら?」
少ないロンドンにおける戦闘の映像にも、彼女の情報は残されていた。
その名を告げながら握手を求める彼女に片目を瞑るモードレッド。
「……ああ。セイバーのサーヴァント、モードレッドだ。
ま、お前がマスターとして認めるに足るかはおいおい確かめさせてもらうさ」
言いながらツクヨミの手を取り、軽く握手を交わす。
そんな彼女の視線は握手をしながら後ろのソウゴたちに向いている。
睨むようなその視線を見返しながら、彼は何度かうんうんと首を縦に振っていた。
「アメリカ合衆国が次の特異点? ウォズが言ってた通りに?」
特異点の場所が特定された、と聞いた立香。
彼女が管制室を訪れると、年代の特定までが完了していた。
マシュが小さく頷き、現時点で判明している情報を説明する。
「正確には、アメリカはまだ国家として成立はしていません。
特異点の時代は1783年……アメリカはこの時代におけるイギリスとの独立戦争を経て、国家として成立するのが正しい人類史です」
彼女の言葉を聞いてふむ、と首を傾げる立香。
国家間の戦争の時代、といえばフランスもそうだったのだけれど。
「イギリス軍が聖杯を手に入れて暴れてる、とか」
「可能性としては無視できないかと。ただ正直、これまでの特異点を鑑みるにそれだけで済むようなものではない、と考えておいた方がいいと思われます」
立香はマシュの言葉にだよねぇ、と返す。
第三特異点のような状況がありえるならば、レイシフトしたらアメリカ大陸自体が変なことになっていてもおかしくない。結局は、行ってみなければ分からない。
そんなことを話していると、管制室にオルガマリーが入室してきた。
彼女は小さく首を動かして周囲を見回すと、ロマニとダ・ヴィンチちゃんがいないことを確認して、まだかと軽く息を吐く。
「あ、所長。今回は……」
「あなたのサーヴァントはマシュ、ジャンヌ、ブーディカを選出しました」
言われて、立香が首を傾げる。
ブーディカが離脱してカルデアは大丈夫なのだろうか、と。
顔に言いたいことが全部出ていたのか、オルガマリーは小さく肩を竦めた。
「正直、ブーディカにはカルデアを任せたいわ。
ただ範囲が北アメリカ大陸なんて広範囲になると、彼女の戦車が欲しいのよ」
向こうに行った後に召喚サークルの敷設さえできれば、いつでもタイムマジーンを呼べるだろう。だがまず、召喚サークル自体がいつ確保できるとも分からないものだ。
―――それにそれ以上に、タイムマジーンを単純な移動マシーンにするのが憚れる。
足にするというならサーヴァントは全員霊体化した上で乗りこみ、更にマスター四人とも同乗することになるだろう。
だがそれは流石に避けたい。白ウォズと白ウォズマジーンが確認された以上、タイムマジーンの中にすし詰め状態はまずい。もちろん、それ以外の敵戦力のこともある。
タイムマジーンが咄嗟に戦えない状況はできる限り避けるべきだ。
「うーん。ブーディカを連れて行って大丈夫なのかな、カルデアが」
「……今まさに彼女に日持ちしそうな料理を手当たり次第作って冷蔵してもらってるわ。
ただの保存食よりはマシでしょう、精神的に」
たかが特異点ひとつ攻略にかかる時間くらいは我慢だ、と彼女は言う。
今のところはずっとブーディカが厨房の面倒を見てくれているおかげで大分余裕があった。そのおかげでカルデア職員内の空気は明らかにいい意味で緩くなったと言えるだろう。魔術王の呪いで緊張は一時張り詰めたが、それも立香が生還を果たした今は解けたと言っていいだろう。
「前回はヘンリー・ジキルという拠点を提供してくれる提供者がいたおかげで助かったけれど、レイシフトを実行するあなたたちの方がよほど環境は悪いのだもの。
この程度のことくらい我慢させるわよ」
そう言って彼女は軽く手を振り、話を終わらせた。
そうこうしている内に、ツクヨミの英霊召喚を終えた皆が管制室にやってくる。
ツクヨミの後ろについているのは立香たちにも見覚えのある顔。
円卓の騎士、モードレッドであった。
「あ、モードレッドさん。
ツクヨミさんの召喚に応じてくれたのは、モードレッドさんだったのですね」
「おう、盾野郎……じゃねえな。マシュだな、マシュ」
盾野郎、と呼ばれたマシュが首を傾げる。
そんな彼女に何でもないと言い切り、モードレッドは管制室を見回した。
「なんだ、よく分からん部屋だな。
……いや、魔術師の部屋なんてみんなそんなもんか」
「ここを魔術師の部屋、で片付けられても困るのだけれど―――まあ、いいわ」
オルガマリーの視線を受けて、ロマニが端末の方へと歩いていく。
彼の操作に従ってカルデアスの中、特異点の一か所がクローズアップされる。
それを確認した彼女が立香、ソウゴ、ツクヨミと順に視線を巡らせた。
どうやらウォズはまたどこかに消えたらしく、今はカルデアにはいないようだ。
一応今回の特異点特定がスムーズだったのは、食堂でアタランテがウォズから聞いたという彼の18世紀アメリカ発言のおかげだったのだが……
もしかしたら、早まったのかもしれない。
わざわざ情報を残し特異点攻略を早めるということが、彼の思い通りの可能性も考慮すべきだったか。もっとも、そんなことをしてなんになるかが分からないが。
「……今度の特異点は1783年、北米大陸。
まずはひとつ。今回の特異点における事実として、規模がとにかく広大です。
歴史の影響云々以前に、土地として」
「フランスやローマでも広すぎるくらいだったのになぁ」
「言うまでもなく交通の便など確立されておらず、移動手段が求められます」
「うーん、タイムマジーン?」
オルガマリーの言葉にそう問うソウゴ。
それを聞いた彼女は小さく首を横に振り、同じくそれを聞いていたツクヨミが眉を顰めた。
すす、と静かにマシュの傍によって小さな声で問いかける。
「……タイムマジーンがここにあるの?」
「え、あ、はい。ご存じなのですか」
「……うん。まあ、ね」
少し困惑するような様子を見せる彼女に、マシュは首を傾げる。
そんなことをしている間にも話は進み、オルガマリーはタイムマジーンを移動手段として利用することを却下していた。
「つまり、今回のレイシフトメンバーは機動力を優先した構成ということです。
―――藤丸立香。サーヴァントはマシュ、ジャンヌ、ブーディカ。
常磐ソウゴ。クー・フーリン、ネロ。ツクヨミは当然、モードレッド。
わたしが連れて行くのはアタランテ。以上のメンバーで第五特異点の攻略にかかります」
「機動力なのにアレキサンダーじゃなくてネロなの?」
ジャンヌは分かる。移動手段となる戦車全体の防御担当だろう。
だがソウゴが連れて行くのはアレキサンダーではなくネロだという。
一瞬言葉に詰まったオルガマリーだが、観念したように溜め息ひとつ。正直に話し始めた。
「……ブーディカを連れて行くと、こっちでサーヴァントを纏められるサーヴァントがいなくなるという判断です。
ダビデは隙を見つけては女性職員を口説く上、カルデアの魔力資産を増やしてみせるなんて言ってダ・ヴィンチと資産運用しようとする。清姫の暴走は止められない。ネロは職員を集めて食堂で慰問ライブを開こうとする。ドレイクは禁酒状態でだらけてる。ロード・エルメロイは口ばかり。
……オルタでは止められないでしょう?」
素直に疲れた風な彼女がそんな風にいろいろと並べる。
ふーむ、なんて腕を組みながら聞いていた立香とソウゴはその光景を思い浮かべ―――
「楽しそう」
「楽しくねーわよ」
即座にオルガマリーから却下をくらう。
まだ全てのサーヴァントと顔を合わせたわけではないツクヨミが、それらってどのような状況だろうと首を傾げてみせた。
クスクスと笑いをこぼしているのは、一番後ろで見ていたダ・ヴィンチちゃん。
それを軽く睨んだ後、彼女は咳払いして話を続行する。
「第五特異点へのレイシフトは明日を予定しています。
レイシフトする者は本日は早めに就寝し、きっちりと体を休めておくように」
「ん? なんだ、今からじゃねーのか」
黙って聞いていたモードレッドがそこで口を挟む。
そんな彼女に後ろからダ・ヴィンチの声がかかった。
「ツクヨミちゃんはいま君を召喚したばかりだろう?
念のために体調が変化しないかの確認をしておかないとね」
「はーん……へいへい、そういうことね。んじゃオレには飯でも食わせろよ。
サーヴァントでもなんか食っていいんだろ?」
「じゃあ食堂の方に案内しようか。あ、でもブーディカは保存しておく食事作ってるんだっけ?」
その名を聞いて何とも言えない、というような表情を浮かべるモードレッド。
「なあ、さっきからその名前聞くけどもしかしてブーディカって……」
「あ、そっか。モードレッドと同じ国の王様なんだよね、ブーディカ」
「いや同じ国っていうか……まあ、そういう認識でもいいけどよ。
……まあいいや。別にオレの方に思うところはねーし」
多分モードレッドさんの方に何もなくてもブーディカさんは凄く喜びますよ、と。
一瞬思ったが、マシュはそれを口にせず黙ることにする。
そんなマシュの頭の上で、フォウがぽこぽこと彼女の頭を叩いていた。
翌日、朝から始まるレイシフトの準備。
ロマニやダ・ヴィンチちゃんたちがコフィンの最終調整をしているのを背に、レイシフトメンバーが集まった。今からまさに戦いに出向くぞ、という覚悟の場面。
で、二人の人間がうつらうつらとしながら船を漕いでいた。
当たり前のように眠そうな二人に、オルガマリーが指をこめかみに当て顔を引き攣らせていた。
「……すっとぼけた連中だと思ってたがあれだ、鳥野郎みたいなことしてんな。
まああいつに比べりゃ寝てると分かるだけマシか」
呆れるように言うモードレッド。
そんな眠そうなマスター二人をフォローするように、マシュが声を上げた。
「いえ。その、お二人は次がアメリカだということで……
夜遅くまで現地の文明資料の確認を……」
「どーにかして餅食う手段がねえか探してたな」
けらけら笑うランサー。うむうむと頷くネロ。
「食堂のメニューが増えるなら喜ばしいことだ。余も食べたい」
「……まあ、あれだ。余裕があるのは悪いことではないだろう、マスター」
アタランテが目を逸らしながらフォローを入れた。
が、当然そんなものフォローになどなっていない。
ぴくぴくと口元を引き攣らせながら彼女が、一発怒鳴り飛ばそうと口を開こうとして―――
「しゃきっとしなさい!!」
ばん、と。二人の背中を張ると同時、ツクヨミの怒声が二人の鼓膜を揺らした。
ぐらぐらと揺れた二人がそのまま崩れ落ちようとして、しかしその襟を彼女に掴まれて、無理矢理に引っ張り起された。
「ふぁい……」
「二人揃っていつまで寝てるつもり!? さっさと起きなさい!」
そのまま掴んだ襟を上下に振り回すツクヨミ。
何度か上下運動したあと放されると、ぐえーと悲鳴を上げながら倒れこむ立香とソウゴ。
ツクヨミはそこから先に倒れた立香に近づき、装備を点検し始める。
「そんな寝ぼけててちゃんと必要な物は持ってるの? 簡単に行ったり来たりできない場所なんでしょう? しつこいくらい確認した?」
「ふぁーい……」
「は、はい! 先輩の装備はマシュ・キリエライトが何度も確認しました!」
「そう?」
転倒している彼女の背を軽く叩き、今度はソウゴの方へと向かうツクヨミ。
「ほら、次はソウゴ。ちゃんと装備は揃ってる?」
「揃ってる気がするぅ……」
「気がするだけじゃ駄目でしょ! ほら、ちゃんと確認して!」
ソウゴを引っ張り起こし、そのまま装備の確認をさせる。
そんな彼の確認作業が終わったのを確かめると、ソウゴの背中を軽く叩く。
彼女はそのまま取って返し、オルガマリーの前へと立った。
「オルガマリー所長」
「え? え、えぇ、何?」
「藤丸立香。常磐ソウゴ。ツクヨミ。三名ともに準備完了しました」
「あ、はい。いえ、ええ、その、了解したわ。うん」
そんな光景を眺めながら、ブーディカがくすくすと小さく笑う。
「なんだかお姉ちゃんができたみたいだね、皆に」
ブーディカの呟き。それを聞いていたジャンヌがぴくりと肩を震わせた。
悩むように顎に手を添え、考え込む彼女。
「姉にはやはり時に強引さが必要、ということでしょうか」
「……ジャンヌは既に結構強引だからエスカレートしすぎないようにね」
微笑みを苦笑に変え、ブーディカはそんな言葉をジャンヌの背中にかけていた。
そんな、日常の光景の延長の中。
彼らは新たな戦いの舞台へとレイシフトを開始した。
荒廃した大地、二十の像を前に黄金の王が空を見上げている。
まるで、空の向こうにある何かを測るように。
空の先に向けられた“ライダー”の文字で描かれた目が、少し揺れた。
「……また、近づいたか」
「近づいた? それはいったい……」
彼に傅いているウォズが、その王の呟きを拾って頭を上げた。
一瞬、彼に視線を向けるオーマジオウ。
だが彼は何かを言うこともなく並ぶライダーたちの像に視線を向けた。
「若き日の私が行っているウォッチ集めは順調なようだな」
「は……万事滞りなく。2019年、オーマの日に向けて全て順調に進んでいます。
本来、我が魔王がジオウの力を手にするのは2018年の予定でした……
ですが、少々の前倒しが発生したところで何ら問題はありません」
そこまで口にしたウォズが、微かに視線を逸らして眉を顰める。
「もっとも、現時点ではなぜこのような事態に発展したのかが不明なのですが……
タイムジャッカー……スウォルツもまた、この事態は予想外のようで……」
「さて、それはどうだろうな」
ウォズの言葉にそう重ねて、黄金の背中が再び空を見上げた。
しきりに空を見上げる王に対し、ウォズは怪訝そうな表情を浮かべる。
「スウォルツが関わっている、と?」
「関わっているか否かならば、奴自身は関わってはいない。
そして、同じ問いを私に投げかけられたならば―――私は関わっていると答えよう。
だが私は最後の最後に一助を担ったにすぎん。
ほんの僅か。楽しげに声を弾ませて、オーマジオウはそう語る。
「我が魔王……それはどういう……?」
顔色を変えて、オーマジオウに問いかけるウォズ。
そんな彼の態度に小さく、小さく黄金の王が笑った。
「ウォズよ、時の王を導く語り部が物語を聞かされるか?
お前はお前で探るといい。そうでなくては、若き日の私を導くことなどできまい。
実際のところ2015年の若き日の私は、スウォルツではない他の者に利用されているのだから」
黄金の王は像たちから踵を返し、そのまま歩き去っていく。
それを聞き届けたウォズが顔を顰め、オーマジオウが見上げていた空に視線を送る。
彼の目にそれがいったい何なのか、映ることはない。
「我々の知らないところで、いったい何が……」
呟いて、目を眇める。
そんな彼は数秒後にはストールを翻し、この時代から消え失せていた。
マギ☆マリなんかより心火を燃やしてみーたんを見ろ。
スウォルツ:直接関与していない。まったく関係ないわけではない。
オーマジオウ:流れも含めほぼ全部知ってる。最後にちょっとだけ手伝った。
オーマジオウが手伝った誰か:世界を救った。TVシリーズのソウゴとかそういう話ではない。
ウォズ(クォーツァー):わからん。なにが起こってる?
2015年のソウゴを利用しようとしている誰か:誰? オーマジオウの言う「近づいた」は半分こいつのせい。何が…?
この答えが先に知りたい方はみーたんの配信をチャンネル登録してください。
多分このSS内で答えが明かされるのは相当先でしょう。
「近づいた」何かは最速でキャメロットで出てくるでしょうけど。