Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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ライオンと電気と大統王1847

 

 

 

「ワシントンで戦闘があった? ―――レジスタンスが、ってこと?」

 

「戦闘と思しき魔力波形を感知しましたが、詳細は不明です」

 

 敬礼体勢の機械化歩兵からそう告げられ、彼女は小さく首を傾げた。

 流石に現状、ワシントンに対する攻勢や偵察を行う余裕がない。

 彼女は単体でケルトのサーヴァントに敵うべくもなく、大統王もまた似たようなものだ。

 

 当然、最高戦力である彼を本拠地であるデンバーから離しすぎるわけにもいかない。

 主戦力である機械化歩兵は増産の見込みを立てているが、しかしまだケルト兵士の増殖に追いついてはいない。

 つまりは防衛で手一杯、ということだ。

 

 一応もうひとり、所在を把握しているサーヴァントはいるが……

 恐らくそのバーサーカーは誰に何を言われたところで従うまい。

 下手にいう事を聞かせようと強要すれば、敵となる可能性すらあるだろう。

 

「レジスタンスもそれは変わらないはず……となれば。

 ついにこの時が来た、ということなのかしらね?」

 

 労働力の行使によってデンバーに築かれた、仮の城塞(ホワイトハウス)

 そんな中で窓から外を眺めながら、彼女は小さく溜め息を吐いた。

 

「人理継続保障機関、人類史における最後の砦。

 ………まあ、現状だと敵対するということになるんでしょうけど。

 そうね、もしそれと思しきサーヴァント反応が付近に来たら真っ先にあたしに連絡を。

 ケルトの連中と間違えて先制攻撃したりしないように注意してね」

 

「了解しました」

 

 敬礼を解除して振り返り、そのまま歩き去っていく歩兵。

 そんな歩兵とすれ違うように、黄金の鎧を纏った白い男が歩いてくる。

 

「? どうしたの、カルナ。同郷だっていうサーヴァントは見つかった?」

 

「いや、今お前が話していた件もある。捜索は一時中断だ。

 ―――カルデアという組織の協力が得られるならば、新たなサーヴァントの確保にこだわる必要はなくなるとも言える」

 

 それは恐らく彼を呼び戻しただろう大統王の言葉か。

 カルナという男。戦士である彼は、これまで戦い抜いてきたカルデアがこちらにつくなどと思っていないだろう。

 だから彼女もカルデアはこちらに協力すると思うか、とは問わなかった。

 

「……生きていると思う? ワシントンなんてケルトの本拠地ど真ん中に送られて、逃げ果せたとしても戦力としては壊滅していてもおかしくないと思うけれど」

 

「さて。神ならぬオレには分からぬことだが……オレ個人の考えでよければ開示しよう。

 カルデアは生きている。多少の損害はあれ無事逃げ果せている、とオレは考える」

 

「それはなぜ?」

 

 彼女に問いかけられて暫し考え込むカルナ。

 言葉を選んでいたのか、やがて彼は口を開き始める。

 

「彼らはこれまで四つの特異点を攻略してきた戦士だ。如何にケルトの軍勢とはいえ、損害なしに全滅させられる相手ではないだろう。

 だというのに観測された戦闘時間が短すぎる。恐らくカルデアは早々に撤退戦に移行したはずだ。であれば、まず目前の敵こそを殺すというクー・フーリンの性質上、逃げることが不可能ということはないだろう」

 

「敵は逃げ回る彼らをいちいち追い回したりはしないってことね」

 

 彼らはただ国を支配するために駆け巡り、会敵すればそれらを蹂躙する。

 その彼らの進行方向から外れればいちいち追ってくるような真似はしない。

 どちらにせよ国を丸ごと呑み込めば同じこと、という方針だからだろう。

 

 ―――逆に言えば、ここは支配するとケルトが決め込んだ土地を守るのは至難だ。

 どれだけの犠牲が出ようがケルトは止まらないし、何がいても退くことはない。

 

「―――こちらももはや時間の問題だ。東側が完全に支配された、となれば次は西側だ。

 兵士は奴が編成したアメリカ軍でどうにかなるだろうが、サーヴァントの数は如何ともしがたい。そしてこちらのトップの思想上、レジスタンスと歩み寄りの余地はない。

 カルデアとの協力が取り付けられなければ―――」

 

 そこまで言葉にして、カルナは口を開くのを止めた。

 言うまでもない上にわざわざ口にすることでもない。

 どちらにせよ、彼は助力を求められた際に最後まで戦い抜くと約束している。

 

 口を閉じた彼から目を逸らし、彼女は外を見る。

 遅くても数日、早ければ今日中にでも状況は大きく動くだろう。

 

「……せめて、あたしたちが潰し合う事でケルトが漁夫の利、ってのは避けたいものね」

 

 彼女はぼんやりとそう呟くと、小さく溜め息を吐き落とした。

 

 

 

 

「お城? デンバーってあんなとこなんだ」

 

「……本来はあんなもん無いわよ」

 

 ある程度近づいたあとは、戦車を降りて歩きながら近づくことになった。

 まだ距離はあるがそれでも目に映るのは、白い城塞だ。恐らくはあれがアメリカ側……反ケルトの勢力の本拠地なのだろう。

 どうしてあんな城塞が屹立しているのかは分からないが―――

 

「ということは、人理側として召喚されているサーヴァントによる仕業なのでしょうか」

 

 あのような城塞を建築するなど、現地人の行動としてはおかしい。

 色から言っても明らかにホワイトハウスを意識したもの、というのもそうだが。

 何よりこの時点であるはずもないアメリカ合衆国の国旗がそこかしこに設置されている。

 

「白一色か……ふーむ。余といえば情熱の赤であるが、無垢なる白もそれはそれで」

 

「なんの話だ」

 

 自身の赤いドレスのスカートを摘まみながら唸るネロと、呆れたような反応を示すアタランテ。

 そんな彼女をちらりと見たオルガマリーが視線を城塞に戻し、顎に手を添える。

 

「アメリカ合衆国としての主張が強すぎるというか……

 よほど近代の……アメリカ合衆国への思い入れが強いサーヴァント、なのかしらね。

 近代の英霊では戦闘力として考えるには少し難しいかもしれないわ」

 

 神話よりの軍勢であるケルト軍に対抗するには、同じく神話よりのサーヴァントの方が望ましかった。そう口にするオルガマリーに対し、ソウゴは首を傾げる。

 

「でもニコラ・テスラとか凄かったよ? 黒いクー・フーリンは分かんないけど、あっちのアーチャー相手なら戦えるんじゃないかな」

 

 言われて、言い返そうにも言葉が出ないオルガマリー。

 聞く限りの話だが、ニコラ・テスラは人類神話という名に負けぬ戦闘力……まさしく人の世に舞い降りた雷神のそれだったという。

 なので、とりあえず彼女は小さな声で言葉を返す。

 

「―――ここにいるのも、そういう例外ならいいのだけれどね」

 

『うーん、こちらではサーヴァントがいるということは分かるけれど……

 詳細に何騎なのかまでは分からないな……』

 

 ロマニの声、通信先でデンバーの状況をスキャンしているだろうカルデアからの言葉。

 もう少し近づけば判明するだろうが、同時に相手から発見されるリスクも高まる。

 ある程度の目星をつけたいところだが―――

 

 と、そんな彼女らの背を目で追いながら立香はツクヨミの隣に立ち声をかけた。

 

「……ところでツクヨミ、白い方のウォズが言ってた救世主ってなんのことかわかる?」

 

「いえ、何でウォズが二人いるのかも含めて私にはさっぱり……

 ただ……私と同じように、オーマジオウの支配する未来を変えるために2018年に向かった、ゲイツっていうレジスタンスの仲間がいたの。彼は私より先に過去に向かったはずなのだけれど……

 もし私と一緒に行動してる人間のことを言ったのなら、それは多分ゲイツのことだと思う」

 

「ゲイツ……」

 

 その名を反芻するように呟く立香。

 彼女たちの後ろを歩いていたモードレッドが、どうでもよさそうに口を開く。

 

「救世主だか何だか知らないが、あの白いのが臣下だってならきっとロクでもない奴だろうさ」

 

「でもソウゴもウォズが部下だし?」

 

「はっ、ロクでもないのはソウゴも変わんねえだろ」

 

 そんなことを言う彼女に対し、ブーディカの腕がモードレッドに伸びる。

 人差し指を彼女の眼前に突きつけ、叱るような口調の言葉が飛ぶ。

 

「モードレッド、そういうことは言わないの」

 

「……めんどくせぇ」

 

 ブーディカに前に立たれたモードレッドが溜め息を落とす。

 それを見ながらくすくすと笑っていたジャンヌが、一瞬目を細めた。

 

「―――サーヴァントの気配です。こちらに向かってきます」

 

「ジャンヌさんの感知の外から先に見つけられた、ということですか?」

 

 マシュが頭の上に乗せていたフォウを立香に差し出した。

 受け取ってもらったのを確認して、盾を構えなおす。

 

『ん、こちらでも確認した。こちらに向かってくるのとデンバーに残っているのに分かれたね』

 

「こちらに向かってくるのは……恐らく二騎、だと思います。

 アサシンのクラスのサーヴァントが混じっていなければ、ですけれど」

 

 その情報に身構えているうちに、城塞の方からどんどん何かが向かってくる。

 整列してこちらに迫ってくるのは、ネイビーブルーに塗装された機械のボディ。

 見た覚えのあるその姿に、マシュが首を傾げた。

 

「―――ヘルタースケルター、でしょうか。

 もしや近代の英霊とは、チャールズ・バベッジ氏なのでは……」

 

「だとしたらあんなアメリカンにはなってないと思うけど……」

 

 向かってくるヘルタースケルターは、ロンドンのものとは細部が違う。

 カラーリングはもちろん、ロンドンの物は手に剣を持っていたが、今回の物は片腕が肘から先は銃となっている。

 あの数に一斉射撃されようものなら、サーヴァントはともかく人間ではどうにもなるまい。

 自然と立香の前へと陣取り、盾を構えるマシュ。

 

 ソウゴの前にはネロが、ツクヨミの前にはモードレッドが。

 そして自身の前に出ようとしたアタランテを制し、オルガマリーは前に出る。

 これが生身なら生死に関わるが、体が人形な自分は気楽なものだ、と。

 彼女は恐怖を投げ捨てて陣頭に立つ。

 

 そんな彼女の前に出てくるのは、パールパープルの髪の女性。

 彼女は大量に並ぶヘルタースケルターらしきものの間を潜り抜け、オルガマリーたちの前に顔を出す。

 

「思った以上の数のサーヴァントね、喜ばしい限りだわ」

 

「……あなたは?」

 

 少し驚いた様子で喜ぶ女性。

 その魔力。彼女がサーヴァントである、ということに疑いはないだろう。

 念のために小さく視線を送れば、感知できるジャンヌも首を縦に振ってくれていた。

 

「あら、ごめんなさい。あたしはエレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー。

 アメリカ西部合衆国のサーヴァントよ。

 一応、確認させて欲しいのだけれど……あなたたちは人理焼却を阻止せんとする、カルデアという組織の人間とサーヴァント、ということでいいのかしら?」

 

『エレナ・ブラヴァツキー……19世紀に名を遺した女性だね。

 魔術協会とはあまり関与せず、独力で神秘学の編纂を行った才女だとか』

 

「―――? 不思議な魔力波ね、今の軽率そうなろくでなしっぽい男の声は?」

 

 どこからともなく聞こえる声に首を傾げるエレナ。

 そんな突然の口撃に対して、通信先でロマニは声を荒げた。

 

『対面すらしていないのにそれは酷くないかい!?』

 

「彼はDr.ロマニ。わたしたちのレイシフトをカルデア側から立証してくれている人員です。

 ……わたしはオルガマリー・アニムスフィア。人理を継続させるため、特異点を攻略しているカルデアの代表です」

 

 オルガマリーの自己紹介を聞いて、彼女は少し驚いたように目を瞠る。

 

「アニムスフィア……時計塔のロードね、関わりは薄いけどその名くらいは把握しているわ。

 ようこそ、1783年のアメリカへ」

 

「ええ、よろしく。

 ―――それで……もう一騎が姿を見せないのは、こちらとは敵対しているという姿勢と受け取っていいのでしょうか」

 

 続くオルガマリーの固い言葉。立香もソウゴも、彼女の背へと視線を送る。

 一瞬、きょとんとした表情を浮かべたエレナが、困ったように手を横に振った。

 背後に並んでいた機械の兵士たちが左右にずれて道を開ける。

 

「いえ、警戒をしていたのは事実だけれど―――ごめんなさいね」

 

「非礼を詫びよう。こちらにはケルトほどの戦力がなく、同時に指揮官であるエレナは戦闘に秀でているわけではない。

 故にこちらとしては、オレが彼女の護衛として動くしかなかった。オレに交渉ができるほどの話術があれば別だったが……そういうことには向いていないとお墨付きでな」

 

 そして、開けた道から霊体化を解除しながらひとりのサーヴァントが歩み出てくる。

 髪と肌の白い、黄金の鎧を纏った戦士。

 

 その姿を見たアタランテが少し驚いたかのように目を微かに見開いた。

 

「我が真名はカルナ―――今はこうして、アメリカ西軍のサーヴァントとして戦っている」

 

『カルナ……! インドにおける二大叙事詩のひとつ、『マハーバーラタ』において“施しの英雄”と称される太陽神スーリアの血を引く大英雄……!』

 

 闘志を見せずともその超級サーヴァントとしての風格は感じる。

 その彼もアタランテやモードレッド、ジャンヌにネロと。

 カルデア側のサーヴァントに視線を巡らせて少しだけ表情を崩してみせた。

 

「奇縁とはあるものだ。人類史をめぐる戦いに挑むものが、英雄に相応しき気質の知れた英傑たちというのは些か以上に安心を覚える。

 が、陣営が異なるというならば主の判断こそがオレの槍の標的を決める。この槍がお前たちに向くようなことがないことを祈るのみだ」

 

 む、と。ジャンヌとネロが何とも言えない不思議そうな顔で唸る。

 その前で、オルガマリーが彼の言葉に眉根を寄せた。

 

「―――それは、このアメリカ軍の指導者は人理側ではない、ということかしら?」

 

()()()()()()()()()()。それを計るのもまたお前たちだ、ということだ。

 ……これ以上はオレが語ることでもあるまい」

 

 そう言ってエレナの後ろにつくカルナ。

 そんな彼をちらりと見てから、彼女はオルガマリーに向き直る。

 

「彼の言う通り、あたしたちの行動方針はひとりのサーヴァント……大統王が決定しているわ。

 あたしたちはあなたたちを彼の元に案内するつもりでここに来た」

 

「大統領?」

 

 彼女の言葉の中に出てきたフレーズに首を傾げる立香。

 ただ聞き間違えたか、と思ったがすぐにエレナから修正が入る。

 

「大統王。ええ、言いたいことは大体分かるから言わなくてもいいわ。

 ちょっと並外れた方針とはいえ、少なくとも彼はケルトに蹂躙されたこのアメリカを再編し、逆襲しようというこの国のトップ。

 ―――あなたたちがまず対話を、と言うのならこの国の王に取り次ぎましょう」

 

 そう言うと代表であるオルガマリーへと視線を向けるエレナ。

 確かに会話に向かわねば話にならないが、だがそれは相手の本拠地ど真ん中に引き込まれることを意味する。

 逃げなくてはならない、となった場合は完全な悪手となるだろう。

 

 ―――どうにかして、その大統王とやらとの会談を外で行う方法はないだろうか。

 

「アメリカに王様なんていたっけ?」

 

「聞いたことはないわ……私はあまり詳しくないけど」

 

 顔に出さないように悩んでいる彼女の背後で、呑気に交わされる会話。

 ソウゴの疑問に自信がなさそうに答えるツクヨミ。

 うぅん、と首を傾げているソウゴが、そのままモードレッドへと目を向けた。

 

「どんな王様かなぁ、モードレッドはどう思う?」

 

「なんでオレに訊くんだよ。んなこと知るかよ」

 

「だってアメリカ合衆国で王様って名乗ってるんでしょ?

 きっと凄い王様じゃん」

 

 その威容を想像するように空を見上げるソウゴ。

 そんな反応に溜め息混じりに、適当に思い浮かんだものを返答するモードレッド。

 

「じゃあ竜だ、もしくは獅子。偉大な王ってったらそういうもんだ」

 

「ドラゴンとライオン?」

 

 言われて何となくウィザードとビーストのウォッチを持ち上げるソウゴ。

 

「そして偉大なる者の纏う色と言えば赤! となれば赤竜か赤獅子と言ったところだな!

 ―――と言いたいが、この国では白き城が国防の象徴なのだろう?

 であれば白竜か白獅子と見た!」

 

 続くように並べるように色を語るネロ。

 赤き竜、白き獅子と言われモードレッドが小さく口の端を引くつかせる。

 それはまさしく彼女の思い描く王のイメージそのものだ。

 

 適当に言い合っている彼女たちに苦笑しているカルデアの者たちの前。

 エレナが微かに肩を揺らし、その視線を横に逸らす。

 そんな彼女の様子を視界の端に見て、立香は小さく首を傾げた。

 

「―――それで、どうかしら。大統王に会う準備はよくって?」

 

「ちょっと待って、もう少し考えるから」

 

 エレナの問いかけに対してオルガマリーを差し置いて返答するソウゴ。

 考える内容とは当然のように入る、入らないではなく―――

 

「あれだけアメリカ合衆国の国旗をアピールしてるってことは、やっぱりアメリカが凄い好きなんじゃない?」

 

「金時もアメリカ凄い好きそうじゃなかった?」

 

「でも金時だったらお城も金色にしてそう。マシュはどう思う?」

 

「え? あ、はい。

 その、アメリカといえばハクトウワシ、かもしれないのではないでしょうか?」

 

 喧々囂々、と。そんな感じに話し始めるソウゴや立香。

 竜に獅子に鷲、大統王が彼らの中でとんだキメラとして構成されていく。

 

「……流石にもう少し、普通のサーヴァントが出てくるのでは?

 竜にしろ、獅子にしろ、鷲にしろ。それらの動物と特に結び付けられる英霊、といいますか」

 

 苦笑しながら大統王の話題を戻そうとするジャンヌ。

 そんな彼女の意見に、少し残念そうな反応を示すソウゴたち。

 

 うーん、とその様子を眺めていたエレナが咳払いをひとつ。

 背後のやり取りに小さく息を吐いていたオルガマリーに問いかけた。

 

「―――――それで、もういいかしら。ほら、どうするの?」

 

「……………ええ、そうね。行きましょうか。その大統王とやらに会わせて」

 

 こうまで執拗に()()()()()()()()()()()、とアピールされてはという話だ。

 踏み越え切れていない判断ミスの恐怖を勘定に入れなければ、悩む余地などどこにもない。

 大きく深呼吸をしてから回答を返すオルガマリー。

 

 そうして彼女たちはアメリカ西部城、ホワイトハウスの中へと踏み込んだ。

 

 

 

 

「王さまー、招きには応じてもらえたわよー」

 

 何やら電灯が大量に配置された城。

 各所を機械兵士が守る場所を通り抜けながら、その城の中枢である玉座の間に辿り着く。

 玉座、だと思われる場所の前にあるのは、乱雑にものが積み上げられたデスクだ。

 更に昼夜問わず働きづめられるように計算され配置された電球がそこかしこで光っている。

 

 とりあえずは相手の声を待とうと足を止めるオルガマリー。

 その目の前で、デスクが爆発した。いや、正確には爆音の衝撃でデスクに積み上げられていたものが爆破されたように四散した。

 

「おお! 大義である! よくぞ我らの招待に応じてくれた! はじめまして、おめでとう!」

 

 がたがたと崩れ落ちていく書類らしきもの、ガラクタのようなもの。

 その中からこちらの視界に現れる巨体。

 

 青いタイツに包まれた筋肉の鎧を纏った肉体。両肩に取り付けられたランプらしきユニット。

 そして――――

 

「ライオンだけかぁ」

 

「うーん。鷲の羽とかそういうのはなさそう?」

 

「ふふ、流石は余。白獅子はピタリと的中であったな!」

 

 彼の頭部はホワイトライオンであった。

 アメリカンコミックのヒーローの如き首から下に、頭として白獅子がついているような姿。

 残念ながら竜や鷲の意匠は見当たらない、と落胆する連中。

 

「……いや、どういうことだよ。

 歴史の浅い国だって理解だったが、この国は為政者の代わりに魔獣でも飼ってんのか?」

 

 竜や獅子と最初に言い出したモードレッドが溜め息混じりにそう言い出す。

 無論、気配でそれがサーヴァントだということは分かる。だが近代の人間らしきアメリカ合衆国のサーヴァントの頭がライオンとはどういう話か、と。

 神話のそれではあるまいし、半人半獣などの英雄がいるはずが……

 

「……外見が獅子のそれである、というだけで獣というわけではあるまい。

 いや、なおさら何故頭が獅子なのか分からなくなる話だが……」

 

 半眼でそれを見たアタランテがそう呟いた。

 獣()()()は彼からは感じない。

 つまりは中身は獣に程遠く、あくまで外見だけのものということだ。

 

 その反応を見たカルナが、彼の方こそ驚いたと言わんばかりに微かに笑う。

 

「……ふむ、あの男を見て外見が大人しすぎると落胆を見せる人間は初めてだな。

 なるほど。これまで四つの特異点を攻略してきたのは伊達ではない、ということか」

 

 それはそれでどうなのよ、と溜め息を吐くオルガマリー。

 彼女の後ろからソウゴが声を上げる。

 

「ねえ、あんたがこのアメリカの王様でいいの?」

 

「いかにもその通り。我こそは野蛮なるケルトどもを排除すべく、全米をこの両肩に託されし者……まさしく大統王、トーマス・アルバ・エジソンである!」

 

 ガオン、と一鳴き。肩の巨大ランプが明滅しながら彼の挨拶を演出する。

 ビリビリと腹に響く音波を浴びながら、立香がライオンを眺めた。

 

「エジソン……ってあのエジソン? 発明王の?」

 

「ははは、今の私は発明王ではなく大統王であるが!

 ふ、この外見に惑わされないのは流石だ。これまで世界を救ってきただけはある」

 

 ガオガオと笑う彼から目を逸らし、ツクヨミがカルナを見る。

 

「あの……なんで皆さんは私たちのことを知っているんですか?

 カルデアのこととか、これまでの特異点のこととか、ご存じなんですよね?」

 

「ああ、それは―――」

 

 問いかけられたカルナが返答するために彼女へ向き直り―――

 しかし、ライオンが声を荒げながら彼の言葉を遮った。

 

「そう、奴めが知らせてきたのだ! この世で最低最悪のろくでなし!

 憎っくきあのすっとんきょうめが……!

 “私はこんな戦いに身を投じてきたぞ。いやぁ、雷神の子を圧倒してしまった上に、はー、我が人類神話にすら打ち克つ人の輝きを見てきてしまったわー……おっと、別に星を開拓したりしてない君には私のこの気持ちは分からんだろうなぁ。分かる奴なら訴訟王なんて呼ばれることしないからな! いやぁ、失敬失敬”などと!!」

 

「……ニコラ・テスラでしょうか……?」

 

「その名を出してくれるな腹立たしい!!」

 

 彼が吠えている後ろでエレナが小さく肩を竦める。

 どうやってそんな連絡を取り合ったのか、と立香がブーディカに寄って問いかける。

 

「そういうことできるの?」

 

「うーん……神性よりの英霊なら神託に近い形でそういうこともできるかもしれないけど……」

 

 その声が届いていたのか、ブーディカの言葉に割り込みエジソンの大音量が轟く。

 

「うむ! 通常であれば不可能であるがそこはそれ!

 発明王とまで呼ばれたこの私にかかれば、霊界との通信くらいはちょちょいのちょいだ!」

 

「―――恐らくは、だが。雷神の域に踏み込んだニコラ・テスラの次元に干渉する雷と、エジソンの霊界通信機が奇跡的に噛み合い、二人の間で交信が通じたのだろう。

 つまりはエジソンとテスラ、二人のサーヴァントで成し得た奇跡というやつだ」

 

「私の! 霊界通信機が! 成し得た奇跡! いや、全然奇跡ではない!

 これこそが私の想定していた霊界通信機の機能だ!」

 

 カルナが補足するように語る言葉を訂正するエジソン。

 そのまま彼は大きく咳払いをひとつ。

 

「―――いや、すっとんきょうの話はいい。とにかく今はケルトの話だ。

 資本と合理によって生み出されたアメリカ合衆国は、知性によって運営されるべき場所。

 あの蛮人どもはどういったわけかプラナリアの如く増え、その物量差によって押されたアメリカ軍は敗北した―――が。ここにはこうして、英霊たる私が降臨した!

 私が発案し実行した新国家体制、新軍事体制によって戦線は回復。戦況は五分にまで引き戻された。大量生産は私の専売特許、そこで競い合おうとは正しく蛮人の所業、愚の骨頂!

 いずれは兵の数で上回り、やがてこの大陸の至るところには我らが合衆国の旗が立つことになるだろう! が、それでも懸念すべき案件がひとつある。将、つまりはサーヴァントの数が足りていないのだ、我々には」

 

「―――カルナは?」

 

 ちらりと、カルナに視線を向けながらソウゴが問うた。

 微かに口惜しそうに、ホワイトライオンは少しだけ音量を落としながら答える。

 

「無論、カルナ君は優秀な将である。

 だが現状では大きく広がった各地の戦線、彼ひとりで巡らざるを得ない状況。

 ―――残念なことに。私やブラヴァツキー女史では、ケルトどものサーヴァントと相対したときは撤退するのがせいぜい。撃破するような真似はできないのだ。だが―――」

 

「わたしたちが協力すればその状況を覆して有利に立てる、と」

 

「うむ」

 

 鷹揚に頷いてみせるエジソン。

 彼、大統王エジソンの言葉を聞いて微かに、しかし確かに安心に似た息を吐くオルガマリー。

 

「……こちらとしても、世界を救うために協力しあうことは望むところです。

 恐らく、ケルト軍における聖杯所有者は女王メイヴ。

 彼女を撃破し聖杯を奪取できれば、この特異点の修復が―――」

 

「いいや、時代を修正する必要はない」

 

 カルナが目を瞑り、僅かに体を動かす。

 まるでここから先に決裂が待っているのだと理解しているかのように。

 それを理解したのだろう、カルデアのサーヴァントたちも張り詰める。

 エジソンとカルナの後ろで、エレナが小さく息を吐いた。

 

「―――は? その……それは、一体どういう?」

 

「時代の修正は必要ない、と言ったのだよ。聖杯は我らが回収する。

 我が身に備わった概念の改造能力によって聖杯を改良し、時代の焼却は防ぐことが可能だ。

 既に聖杯改造のための設計も終わらせている。

 それが叶えばアメリカを人類史とは違う時間軸に独立させ、救い出すことができるだろう」

 

「違う時間軸に、独立……!?

 この状況でそんなことをすれば、人類史の焼却が決定的になるじゃない!?

 アメリカだけが独立して残っても、世界は滅びることになる―――!」

 

「そうとも。世界は滅びるが、アメリカだけは残る。

 今の我々―――私にとってはこの国こそが全て。王たるもの、まず何より自国を守護する責務があるだろう?」

 

 見当違いの方向に転がり始めた会談。

 そこでの彼の発言にぱくぱくと口を開閉するオルガマリー。

 ほとんど反射のように彼女は背後を振り返っていた。

 

 王、と。彼が語っていたからだろうか。彼女の視線は自然とソウゴに向かい―――

 しかし彼は特別何かを思っている様子もなく、普段通りの様子で彼女を見ていた。

 いきなり振り返った彼女に対し少し首を傾げて、しかし口を開くわけではない。

 立香が、ツクヨミが、ソウゴを見ても様子は変わらない。

 

 その様子で考えていることを察したのか、立香の顔がとても渋くなった。

 続けて理解したオルガマリーがきつく眉を寄せ、エジソンに向き直る。

 

「……その、責務のために世界を滅ぼしてもいいと?」

 

「いいことだと思っているわけではない。それはもちろんだ。だが純粋にそうせざるを得ない、という判断だ。私はアメリカ的に、合理的に、既に人理焼却は防ぎ切れないと算出した。

 ならば被害を最小限に抑えるのが為政者というものだろう? だからこそ、そのためにキミたちにも協力してもらいたい」

 

 エジソンがその筋骨隆々の腕を持ち上げ、オルガマリーに手を差し出す。

 

 ―――取ればいい。最終的にはどうなるにしろ、ここで拒否を選ぶ理由はない。

 彼の提案を受け入れ、共同でケルトを倒し、最終的にアメリカ軍も撃破する。

 それで問題ないとさえ言える。

 

 けれど―――

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 もしかしたら何のことはないかもしれない。

 きっと、彼女がそう決めたなら彼も彼女もそう言って、その道を受け入れるだろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()、と言って憚らない彼らの無上の信頼に対して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 答えは既にあるようなものだ。ノーと突きつければいい。

 わたしたちはアメリカだけでなく、世界を救うために戦っているのだと。

 そのためならば、藤丸立香も常磐ソウゴも、恐らくツクヨミも。

 アメリカの西軍、ケルトの東軍、その両方と戦うことをきっと厭わない

 

 けれどその無茶の代価を、戦う彼らの命で支払うことになったなら?

 自分が彼らの誇りを汚すだけで安全が買えるなら?

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 彼女は強く拳を握り、エジソンの差し出した手を見つめていた。

 

 

 




 
U.S.A.って美しくないか?
 
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