Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
―――ホワイトハウスに設けられた地下の牢獄。
その中に閉じ込められながら、オルガマリーは膝を抱え俯いていた。
部屋の隅に陣取り座り込み、顔を隠している。
「なんか最近牢屋に入ってばっかな気がする。ね?」
そんな中で勤めて明るく振る舞う立香。
同意を求められたツクヨミは、はぁ…と大きく溜め息。
彼女の溜め息に同意するように、粗末なベッドに寝転がったモードレッドが顔を上げる。
「で? こっからどうすんだよ。大人しく捕まって牢屋に入れられてみりゃ、対サーヴァント用の特製の檻ときた。この中じゃ魔力供給も絶たれてまともに動けやしねえ」
エレナ・ブラヴァツキー特製のサーヴァント封印のための結界。
それがこの牢獄の正体だった。
そのことを言い出した彼女の視線はオルガマリーに向かっている。
現状はサーヴァントが戦闘を行えない。だが、別段持ち物を没収されたわけではない。
つまりはこの檻自体はいつでも壊せるのだ。仮面ライダーの力ならば。
ただソウゴは、今回はオルガマリーの指示を優先するつもりのようだ。
彼女がそうすると決めなければ、彼も変身するようなことはしないだろう。
ツクヨミは小さく頭を動かして、オルガマリーを見る。
彼女の目の前ではあるが、それでもこの状況だ。
仕方なしに、ツクヨミは座っているソウゴに向けて問いかけていた。
「―――ねえ、ソウゴ。そこまで、所長さんに委ねる必要があるの?
もっと……私たちで決められることは、私たちで選んでしまった方が……」
「でも、それじゃ所長が嫌でしょ?」
「それは……」
ちらりと視線を向けるが、彼女は未だに俯いていた。
彼女の心を軽くするならば、結局のところ決断はこちらで受け持ってしまえばいい。
エジソンの言葉に身を竦めたオルガマリーの後ろから、嫌だと声を上げればよかっただけ。
だけどそれをしなかったのは―――
「今の所長は多分、そうしなきゃいけない立場が辛くて怖いのかもしれないけど―――
嫌ではないんじゃないかなって思ってるから」
決断するのが怖いとは思っているだろう。
だがそれは、決断すること自体を嫌がっているという話ではない。
だったらカルデアのトップとして、可能な限り彼女の指示で動くべきだ。
ソウゴはそう語る。
「……ソウゴはそれで、所長さんにどっちを選んでほしいと思ってるんだい?」
ブーディカの問いかけ。
それに対して少し悩むように彼は首を傾げ、困った風に笑った。
「どっちでもいいかな。だってあれだけ悩み込むくらいに考えてから出した答えなら、それってきっと所長にとって正しい答えになるだろうから」
その言葉に対して再び別のことを訊き返すためにも口を動かそうとして、しかしブーディカは口を閉じた。
選ばなければならないのは確かなのだ。選びきれないならば彼女はこれからはカルデアに残ればいい。それも重要な仕事であることに疑いはないのだから。
「……だからといってさっさと選べてしまうのは問題でもある。
それこそ、ジャンヌ・ダルクなどのようにな」
「―――そうなのですけど。なぜ私をいちいち引き合いにだすのです?」
壁に背を預けたアタランテの言葉に首を傾げるジャンヌ。
飾りげのない牢屋に辟易しているネロが格子に触れながら、外を見る。
監視も巡回も見当たらないのは、この牢屋の性能への信頼からか。
「どれを選ぶにしろ、それを英断だったと肯定できるのは全て終わってからだ。
結局のところ、ソウゴの言うようにどれでもよいのだ。オルガマリーめの意思だけは既に確認できるのだからな。あとは本人の納得だけだ」
そんな他の連中のやり取りも耳に入っていただろう。
微かにオルガマリーが頭を上げ、隣に座っているマシュへと声をかけていた。
「……マシュ。あんたは、藤丸がこうして特異点で戦うことをどう思う?」
「え? 先輩が、ですか……?」
問われた彼女は驚いたように表情を変え、言い返そうとして―――
しかし、すぐに言い返すことはせず一拍置く。
マシュは向かいに座っている己のマスターへと視線を送り顔を見て、静かに口を開いた。
「―――それは。いえその……怖い、という気持ちもあります。
守り切れなかったら、そう考えると。けれど―――この、人類史を守るための戦い。
多くの時代、多くの人、多くの空……とても多くのものに一緒に触れられることを、わたしは嬉しいと思っているのだと思います」
そう語りながら今まで出会ってきたもの、見てきたものを全て回顧しているのか。
彼女は手を胸に抱き、オルガマリーに視線を向けた。
「この旅の終わり……きっと、カルデアの外を……人を知らなかったわたしが、初めてわたしの命に向き合える。わたしはどういう人間なのか、という疑問に答えを出せる。
だからこそ―――はい、わたしは先輩たちと一緒に旅を出来て、嬉しいのだと思います。
わたしにとって、戦う理由にするには人類史は大きすぎるけれど。
それが先輩たちの生きる“明日”のためであると、先輩と一緒に戦うことでわたしは実感できる、と言いますか……その、分かりづらいですよね、すみません」
「いえ……ありがとう。もう、いいわ」
髪に隠された俯いた彼女の顔、そこにどんな感情を浮かべているのか。
マシュからの答えを聞いて、再び黙り込むオルガマリー。
自分が言った言葉に縮こまるマシュ。
そんな彼女の頭の上で、フォウが軽くぱたぱたと尻尾を振り回していた。
数分、そのまま静止していた彼女が再び声をあげる。
「常磐」
俯いたままの彼女の言葉に、ソウゴが向き直った。
「なに? 所長」
「―――エジソンに答えを返しに行くわ、お願い」
答えると同時に彼女は顔を上げ、立ち上がった。
別に涙など流した跡などあるはずもないのに、まるで盛大に泣き腫らした後のような、感情を爆発させきった後のような、そんな表情。
その声を受けて、ソウゴはジクウドライバーを取り出していた。
〈ジクウドライバー!〉
「うん。じゃあ、みんなは先行ってて」
〈ジオウ!〉〈フォーゼ!〉
腰に取り付けたドライバーに対し、二つのウォッチを起動し装填する。
ソウゴの背後に展開されるライダーという文字の入った時計。
拳でドライバー上部のリューズを叩き、回転待機状態へと移行させた。
左腕を右肩近くまで持ち上げ、止める。
「―――――変身!」
〈ライダータイム!〉
振り下ろす腕に合わせ、ジクウドライバーを回転させる。
ライドウォッチ内のエネルギーがジクウマトリクスの影響により物質化し、ソウゴの体を覆いつくしていく。時計を思わせる形状の装甲、仮面ライダージオウ。
〈仮面ライダージオウ!〉
〈アーマータイム!〉
瞬間。天井をぶち抜いて、白いロケットが地下牢の中に侵入してきた。
そのロケットは目の前の格子をついでのように吹き飛ばすと、分割されてジオウの各所に装着されていく。同時に“フォーゼ”という文字がジオウの頭部にはめ込まれる。
〈3! 2! 1! フォーゼ!〉
天井に大穴が開き、そして格子が薙ぎ倒された牢屋。
そこから全員が走り出した―――瞬間。
「―――やはり、そうなるだろうな。その選択を尊重しよう。
そしてオレの前でその答えを選んだ以上、オレがやるべきことはただひとつ」
地下通路に炎が溢れ、走り出したオルガマリーたちの前に殺到した。
ブースターモジュールを吹かし、即座にその前へと出るフォーゼアーマー。
彼の体に衝突した炎が吸収されてブースターのエネルギーに変えられていく。
炎に揺れる白い髪。黄金の鎧の戦士が、そこには立ちはだかっていた。
「そう? 奇遇じゃない? 俺もちょうどやるべきことはただひとつだったんだけど。
じゃあせっかくだし、俺とタイマン―――張ってくれない?」
炎を飲み込み、腕のブースターを構え―――フォーゼアーマーが爆進した。
カルナの手に槍が現れ、その一撃を迎え撃つ。
「宇宙ロケットパァ―――ンチッ!」
叩きつけられるブースター。
黄金の槍はそれを正面から受け止め、フォーゼアーマーの加速を押し留める。
カルナが放出する炎をその身で受け吸収しながら、ジオウはドライバーを操作していた。
ライドウォッチのリューズを押し、そのままドライバーを回転させる動作。
〈フィニッシュタイム! フォーゼ!〉
高まるエネルギー。コズミックエナジーの奔流に、組み合ったカルナが僅かに目を見開いた。
「宇宙ロケットきりもみクラッシャ――――ッ!!」
〈リミット! タイムブレーク!!〉
カルナと組み合ったままに回転を始め、竜巻となりながら天井へと突っ込んでいくジオウ。
それは地下の天井を破り、そのままもう一枚ホワイトハウス城塞の天井も破り、天空へと舞い上がっていった。
大穴を開けた天井を見て、モードレッドが軽く舌打ちする。
「マスター、オレたちはあっちに行くぞ」
「……そうね。所長さん、私たちはソウゴの援護に」
「ふむ、そうだな。あやつはかなりの強敵だと余の本能も言っている気がするところ。
余もマスターの援護に回ろう。よかろう?」
モードレッドの意見を聞くツクヨミと、それに追随するネロ。
彼女たちの顔を見回して、オルガマリーは首を縦に振った。
「―――ええ、お願い」
オルガマリーに許可を取るや、モードレッドがツクヨミを抱える。
そのまま三人は天井の穴を通じて上へと跳び上がっていった。
それを見送って、一度大きく息を吐く。そうして―――
「わたしたちはエジソンのところへ行くわ。いいわね?」
「了解!」
これだけの轟音を出せば、誰だって気付くだろう。
既に目の前にはどんどんと機械兵士の青いボディが迫ってきていた。
盛大な駆動音を立てながら並ぶ機体は、腕の銃口を持ち上げながら彼女たちに向けてくる。
「カルデアのマスター、及びサーヴァントの脱獄を確認。捕獲を優先せよ。
―――投降せよ。これは大統王閣下の慈悲である」
「要らぬ世話だ」
小さく、アタランテが笑う。
そんな彼女の背中にオルガマリーが声をかけていた。
「―――あの機械兵士たちは多分、もともとこの国の兵士……人間よ。
壊し切らずに、動きを封じる程度に済ませて」
「うむ、了解した。汝らは気にせず前に進め。
その手に“
攻撃態勢に入った敵を視認し、全ての機械化歩兵が同時に銃撃を行おうとし―――
同時に、並んでいた機械化歩兵の腕の銃が爆発した。
肘から先が吹き飛ばされた兵士たちが状況のエラーに警告音を喚き散らす。
動きの停止した機械兵士たちの中に飛び込み、弓と足で殴打して吹き飛ばし壁に叩きつけていくアタランテ。十を超える兵士を数秒で全て無力化し、彼女は軽く肩を竦めてみせた。
「侮るな。貴様たち如きの速度ならば、銃口を向けられてから射貫くこと程度は容易だ。
まして―――」
彼女の持つ獣の耳が微かに動き、同時に一矢を通路の先に放っていた。
直後、通路の先から飛び出してきた機械兵士の銃を射貫く矢。
ギギギ、と。悲鳴を上げて床に転がる機械。
「全身からそれだけ音を出していればな。聞き逃せ、というのが無理な話だ」
微かに笑い、そのままアタランテは疾走を開始した。
その後から遅れてついていくオルガマリー、立香、マシュ、ジャンヌ、ブーディカ。
彼女たちが地下からの階段を駆け上がれば、既に周囲の機械化歩兵は腕の銃を破壊され壁に叩きつけられて転がっている。
アタランテは足を止めることなく縦横無尽に駆け巡り、機械化歩兵から戦闘力を削ぎ取っていくつもりのようだ。
「流石は麗しのアタランテ、ですね。
―――行きましょう、サーヴァントの気配はあちらにあります……!」
その速度、狩人の腕前を称賛しつつ、ジャンヌが先導して走り出した。
彼女の気配は既にエジソンとエレナ。その二つが固まっている場所を感じ取っている。
と言っても、先に通された大統王の執務室だが。
『―――おや。捕まった、と聞いていたけど今まさに脱出しているところかい?
無理はして―――るんだろうね。まあ、君らしいといえば……
ああ、いや。
やけに楽しそうに通信機からダ・ヴィンチちゃんの声がする。
それだけ言って、彼女は黙り込んだ。
エジソンの玉座に辿り着く前に、引き返してきたアタランテとすれ違う。
もはや彼の周囲の機械化歩兵は全て無力化したということだろう。
あとは騒ぎを知りホワイトハウスに集まってくる兵士たちを全て対応するだけ、ということだ。
もう憂いはなく、オルガマリーは相手の前に立てる。
――――バン、と。盛大に扉を破り、玉座の間に雪崩れ込む。
エジソンはその後ろにエレナを控えさせ、椅子に座って待っていた。
「……意外と言えば、意外だ。特にキミ……アニムスフィア女史。
キミは最終的に私との協力体制に応じる、と考えていた。最終的にどうなるにしろね」
白獅子頭の大統王は椅子の背もたれに体重を預けながら、大きく溜め息をひとつ。
そんな彼の言葉に対して、オルガマリーは一度深呼吸して返す。
「そうね、それがきっと利口だったと思う。敵の強大さは理解しているつもりよ。
カルナという強力なサーヴァントの助力が得られるなら……そうも考えた」
「ははは、私たちアメリカ軍ではなくカルナ君か。正直だ、好感が持てる。
さて、ではなぜこのような道を選んだのか?」
「……ねえ、トーマス・アルバ・エジソン。逆になぜ、あなたはアメリカだけを選んだの?
霊界通信とやらで言葉を交わした二コラ・テスラは……世界を救うことをわたしたちに託したと言っていたはずでしょう? あなたは、テスラ以下の成果でいいの?」
小さく、くっと笑いを堪える声。
それがエジソンの背後のエレナのものであることは疑いようがない。
軽く表情を崩し、背後を睨むエジソン。
そんな彼が正面を向き直り、オルガマリーに視線を戻した。
「あのすっとんきょうと違い、私は現実を見ている。そういう話だ」
「そうよね。自分は彼に比べて劣る、その現実を見て諦めたのよね」
ピクリ、とエジソンがその瞼を吊り上げた。
「
この特異点でケルト相手に敗走して、わたしはずっと思ってたわ。それこそ、もしわたしじゃなくてキリシュタリアだったら、なんてそんな益体もないことを本当にずっと、ただ考えてたわ」
彼女の言葉に盾を構えたマシュがその体勢のまま視線を向ける。
エジソンの後ろからエレナの声が飛ぶ。
「それで、あなたの中でその答えは出たの?」
「ええ、そうね。きっと―――上手くやったんでしょうね。多分わたしよりずっと。
もしかしたら、藤丸や常磐の助力すら要らないかもしれない。ひとりで、世界を救う戦いを走り抜けることができたのかも」
「―――それほどの魔術師に憧れたかしら?」
ひとりで世界を救うに足る、という言葉も疑ってはいないだろう。
エレナはその言葉を信じたうえで、彼女にその魔術師に憧れるかと問うた。
疑問の余地すらなく、オルガマリーは静かに首を横に振るう。
「―――いいえ、わたしは魔術師だもの。世界は誰かが救ってくれればいい。
救ってほしいと願っても、救いたいとは思わない。だから、別に憧れる必要もなかったわ」
「あら? じゃああなたは世界を救うのを諦めるの?」
エレナが傍に浮かぶ謎の飛行物体を呼び出し、そしてその手に本を取る。
それが彼女にとっての戦闘態勢であると理解できる。
戦闘は不可避。だがそれは、彼女が出した答えを伝えてからの話だ。
「……そもそもわたしは挑戦さえしてなかったのよ。だから、簡単に膝を折れた。
今だって世界を救うための戦いなんて無理よ、わたしはそんなに強くはなれない」
規模が大きすぎる。彼女の器に納まりきらない問題だ。
無茶してどうにかなるレベルじゃない。
人理焼却という案件は、オルガマリー・アニムスフィアの処理能力を超えている。
それを恥とも思わないし、当たり前の話だろうとさえ開き直れるつもりだ。
「ではなぜ、あなたはここにきたの?」
自問自答で出した答えを、その問いかけに対してオルガマリーは返す。
「―――わたしは人理継続保障機関カルデア、その最高責任者。
わたしのカルデアに所属する者が、世界を救うために命を懸けると言っている。
だったら……わたしの立場なら、そいつがその目的を果たすまでは、わたしが責任をもって見届けなきゃいけないでしょう? わたしが願った。あいつらが応えた。だから……わたしはせめて、見届けることからはもう逃げない……最後まで」
一瞬、オルガマリーの視線がマシュへと飛んだ。
それを理解しつつ、少しだけ困ったように彼女が微笑みを浮かべる。
その様子を見て、エジソンが椅子から立ち上がった。
「―――なるほど。その覚悟は称賛するべきか。
あるいは先の挑発と合わせて宣戦布告と受け取り言い返すべきか」
「宣戦布告? 冗談言わないで、してきたのはそっちでしょう?
トーマス・エジソン。
エジソンを睨み付け、彼女は大きく手を振るい自身の後ろにいる者たちを示す。
その視線の強さを見て、白いライオンは微かに唸る。
「む……」
「エジソン。どうするの、あなたはどう言い返す?
あなたが選んだアメリカだけを生かす道で、どうやって彼女のわがままをねじ伏せる?」
開いた魔術書をふわりと浮かべながら、エレナはエジソンに問いかける。
二人の女性から視線をもらっているエジソンは、背後の味方に視線を向けた。
「ブラヴァツキー、キミはどっちの味方だね」
「もちろんあなたの味方よ、大統王。けれどねエジソン。
彼女がこの場で見せた感情は、本来はあたしたちが英霊として背を押してあげなきゃいけない意思だった。それをねじ伏せる以上、あなたはそれに足る扇動をするべきでしょう?
世界までは救えないからアメリカだけ逃がす以上、元からこちらが敗走者だもの。敗走を前進だと誤認させないまま彼女たちに挑めというのは、あまりにも酷というものよ」
「それは……」
エジソンが背後からかけられる言葉に歯軋りした。
その肩の電灯がちかちかと明滅し、彼の精神状態らしきものを表現する。
追い打ちをかけるようにエレナの言葉は続く。
「この際だから言ってしまうけれど、あなたはいつだって挑戦者だったじゃない。
何度失敗しても次に挑戦する。成功するまで挑戦する。それがあなたが世界を変えられた理由なのに―――今、あなたのその精神が正面から負けているのよ。
この国を代表しながら、フロンティアスピリットっていう面で完敗してる。
「本……格的に、どちらの味方だブラヴァツキー! 私を責めているようにしか聞こえないぞ!
言いたいことは分かる! だがそれは……!」
「失敗したので再挑戦、とはいかない。分かってるわよ、だからあたしだってあなたに従う。
だからせめて、彼女のように宣言して。アメリカ軍の王として。
あたしたちは唯一助かる可能性のある道を選んで、そのために戦っているのだと」
それができないのであれば、そもそも現時点で負けているということだ。
いや、
人理焼却が達成された時点で人類は敗北している。
だったら必要なのは負けない強さでも、勝利できる強さでもない。
敗北から立ち上がり、それを跳ね除けて前に進める強さだ。
少なくとも人理を救う旅をしている者たちの長である彼女はそれを示した。
「だが……いや、よかろう! ならば、そこまで言うならまずは見せてもらおう!
キミたちが世界を救える、などと思い上がるだけの力を!」
エジソンが叫ぶと同時、ホワイトハウスが震撼した。
同時に戦闘の余波で天空から降り注ぐ熱波が激突して、その場の窓ガラスが一気に砕け散る。
「カルナ君を倒せる、というのであればそれがただの戯言ではないと認識しよう!
だがそれすらできないのであれば、世界など救えるはずもないのだから!」
窓の外。二つの人影が大地に墜落して炎の柱を立てる。
太陽の熱量をもって立ちはだかる大英雄カルナ。
それとジオウらの激突を前にして、オルガマリーは引き攣り気味に笑みを浮かべる。
「勝つわ、絶対に」
強がるように。祈るように。信じるように。
そして同時に、確信をもって。
断言する彼女の姿を見て、エジソンが小さく息を呑んだ。
ぶっとばすぞぉ…(牢屋の中の幻聴)