Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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分散と合流と錬金術2010

 

 

 

「歴代大統領を併せた召喚?」

 

「……ああ、本来この地に召喚されるはずだったのはアメリカの象徴。

 歴代の大統領となった人物たちだったのだ。だが彼らはケルトとの戦争に関して考察した結果、大統領そのものが呼ばれても戦況は覆せないと結論した」

 

 うなだれているエジソンはそう言いながら、自分の胸に手を当てる。

 

「そこで選ばれたのが私だ。神話の存在でなく、世界の文明を繁栄させたアメリカの誇る英霊……その私に大統領たちの力を集約し、ケルトを打倒するためのアメリカの指導者とする。

 それこそが……」

 

「だから、発明王じゃなくて大統王?」

 

 立香がなるほど、と言いながら何となく頷いてみせる。

 そんな彼女が話を遮らない! とオルガマリーに軽く手を振るわれた。

 

「……うむ、そうだ。世界を照らした発明王ではなく、アメリカの国益を最優先する大統王……それこそが私だったのだろう。

 ……勝ち目がない、と思っているのは嘘ではない。今もその考えは拭えない。

 ―――だが、今に敢然と立ち向かう人間たちに対して諦めろと告げるのは……違う、恐らく違うのだ。そうだろう、ブラヴァツキー?」

 

「まあ、そうね」

 

 彼の後ろで背中をさすっているエレナが、問いに対して答える。

 それを聞いたエジソンがライオンの顔を大きく持ち上げた。

 

「そうだとも……! 既に時代が……道が途切れている、というのなら新しく作ればいい。

 一度掛けた橋が流されたならば、また新しく掛けなおせばいい……!

 その挑戦、その飽くなきチャレンジ・スピリッツこそが人の文明を強固にしてきたのだ! そうだろう、カルナ君!」

 

「そうだな」

 

 エジソンの背後に控えたカルナが、彼の言葉に頷いた。

 椅子でうなだれていた彼がいきなり立ち上がり、大音量を発声する。

 

「私たちこそが人理の、人の文明の礎だったのだと!

 それを私たちより未来の時代に生きる偉大なる若者たちが証明せんと戦うのであれば!

 偉大なる先達として我々は、その背中をきっちりと見せねばならなかった!

 ならば、今から私はそうしよう! これまでの道のりに失敗があった。ならばそれを修正し、新たな戦いへと挑むのがこの私だ!

 このトーマス・エジソン、誰よりも失敗した男であるが故に誰よりも成功した男であるのだから! なあ、ブラヴァツキー! カルナ君!」

 

「そうね」

 

「ああ」

 

 気炎を上げるエジソンから離れ、エレナがオルガマリーの方に近づいてくる。

 

「とりあえず、今日は休んでちょうだい。カルナと戦って疲れてるでしょ?

 こちらも修理や何やらやらなきゃいけないことがいっぱいできたし。

 案内するわ、ついてきて」

 

 そう言って答えも聞かずに歩き出すエレナ。

 少々戸惑いつつも、とりあえずついていくことにする一行。

 玉座の間から廊下に出ると、すぐさま彼女は謝罪の言葉を口にした。

 

「ごめんなさいね、急がせて。

 エジソンは多分今から自己嫌悪で頭を抱えて転がり始めるから……」

 

「転がり……?」

 

 まあ気持ちは分からないでもない、と。オルガマリーは追及することを止めた。

 

「―――とりあえず。我らも今後のことをきっちり決めるべきだろう。

 マスターたちには休んでもらってもいいが……

 この大陸の詳しい状況だけは、先に説明しておいてもらいたい」

 

 アタランテがそう言ってエレナを見る。

 

「それはいいけれど……あなたたちも休まなくて大丈夫?」

 

 そう言うエレナがサーヴァントたちを見回す。

 主に見るのはモードレッドだ。あからさまに機嫌が悪い、と伝わってくる。

 

 そんな彼女に対して、後から玉座の間から出てきたカルナの声が向けられた。

 

「必要とあらば、オレが直接話を聞こう。オレ個人との決着をつけたい、というならばもちろん喜んで応じよう。

 ただ、それはエジソンの願いである世界の救済を果たしてからになるが」

 

 ギロリ、と目を鋭く尖らせてカルナを睨むモードレッド。

 鎧と魔力放出だけでクラレントを凌いだ彼は、その戦闘後だというのに涼しい顔をしている。

 それが更に気に食わない。

 

「だがその目的の後に必ず戦える状態である、と確約するのは難しい。

 黒いクー・フーリンに関して言えば、仮にオレが一騎打ちに持ち込めたとして勝率は一割もないだろう。無論、他のケルトの戦士の介入があれば更に難しくなる」

 

「……あなたでも?」

 

 愕然とした様子で口を開くツクヨミ。

 地上に顕れた太陽そのものであった彼をして、一割すら勝率を確保できない相手。

 それがあの黒いクー・フーリンだという。

 

「ああ、故にオレたちは……」

 

「カルナ、ストップ」

 

 エレナに言われ、口を噤むカルナ。

 軽く溜め息を吐きながら、エレナは周囲を見回した。

 全員休む気は無さそうだと判断し、彼女は向かう先に全員座れるだろう大部屋を選択する。

 

「……まったく。とりあえず着いてきて、ちゃんと座れる場所で話しましょう?」

 

 

 

 

「黒いクー・フーリンには変身能力が備わっている」

 

 全員が座るや、早速とそう切り出すカルナ。

 それを聞いて頷くカルデアの面々の中、ソウゴはコダマスイカをテーブルの上に転がした。

 

〈スイカアームズ! コダマ!〉

 

「あら、かわいい」

 

 それを見たエレナにそう言われ、照れるように腕を振るコダマスイカ。

 彼はひとしきり照れると、頭から光を放ち映像を空中に投影した。

 それはクー・フーリンが黒いクー・フーリンに討ち取られる光景だ。

 

 そこには黒いクー・フーリンだけでなく、ケルト軍のサーヴァントが多く映っていた。

 その中にアーチャーの姿を見つけ、カルナが目を眇める。

 そもそも確認できる人数自体に驚いたのか、エレナが声を漏らした。

 

「……多いわね、ケルト軍」

 

「こちらが確認したのは、聖杯所有者である女王メイヴ。黒いクー・フーリン。

 そしてフィン・マックール、ディルムッド・オディナ、フェルグス・マック・ロイ。

 ―――それとあと、真名不明のアーチャー……」

 

「アルジュナだ」

 

 オルガマリーの声に割り込み、そのアーチャーの正体を明かすカルナ。

 その名を聞いたマシュが目を見開いた。

 

「アルジュナ……!? カルナさんと同じ、マハーバーラタの大英雄……!

 カルナさんの異父弟で……その……!」

 

「オレを殺した男だ。……そうか、奴があちら側か」

 

 彼にしては相当に難しい表情を浮かべ、カルナは呟くように言った。

 正体が判明したそのアーチャー……アルジュナの姿を見ながら、ネロもまた難しいという表情。

 

「……貴様と同格以上となれば、相当難しい相手だろう。その上、それらの頂点に立っているのは黒いクー・フーリン。

 うむ、どこから突き崩せばいいのかまるで分からぬ」

 

「まあ。順当に考えるなら狙うべきは女王メイヴ、なんだけど」

 

 肘をテーブルに突き、頬に手を当てるブーディカ。

 

 聖杯の所有者を負かし、聖杯を奪取できれば時代の修正は叶うはずだ。

 もっとも敵の陣容から考えるに、そんな簡単に行く話ではないだろう。

 

 片目を瞑りながら映像を見ていたエレナがふむ、と顎に手を当てる。

 

「……少なくとも金髪と黒髪の槍使い……フィン、ディルムッドね。彼らは前線に出てくることがあるわ。あとはクー・フーリン自身が動くこともある。その都度、カルナに迎撃してもらっているのだけど。

 まあ前者はともかく、クー・フーリンは止められないけれどね」

 

 彼女の説明に首を傾げるジャンヌ。

 

「ケルトのサーヴァントは余り動いていない、ということですか?」

 

「少なくとも現状、西側ではね。恐らく東側の地盤固めをしているのかも。

 ケルト兵士は無数にいるけど、戦うこと以外をする存在じゃない。

 だから多分、ワシントンの整備をサーヴァントにやらせているのじゃないかしら?」

 

「なるほど……女王メイヴがトップならば、戦争がケルト軍の第一目標になっていなくても不思議ではない、ということでしょうか」

 

 納得したように頷くジャンヌ。

 女王メイヴの人となりを完全に把握しているわけではないが、少なくとも戦いだけの人間ではないだろう。戦いだけが目的ならば、ワシントンという拠点を奪うことすら必要ない。

 それを聞いていたツクヨミが顔を上げ、オルガマリーを見る。

 

「だとしたら、まずはそこから切り崩していくべきじゃないですか?

 ワシントンから離れた相手を倒して、戦力を削いでいけばいずれ……」

 

「そう、ね。ただフィンとディルムッドはともかく、黒いクー・フーリンまで前線に出てくることがあるっていうのが気にかかるわね……

 戦力を分散するわけにはいかないけれど、戦場が広いせいで会敵自体が難しい」

 

 黒いクー・フーリンは敵の最大戦力。

 それを動いているということは、こちらも下手な戦力の運用はできない。

 できれば纏めて動きたい、というのが本音だ。

 

「でも時間をかけすぎたら……準備の終わったケルトに全軍で攻め込まれるかもしれない?」

 

 そう言って頬杖をつく立香。

 そんな彼女の隣でソウゴがエレナの方に視線を向け、口を開く。

 

「ここには戦えるサーヴァントはカルナしかいないんだよね?」

 

「ん……まあ、あたしやエジソンもあまり戦闘力は高くないから。

 一応、こっちの陣営にサーヴァントがあとひとりはいるんだけど……彼女は戦わない、というか必要なら戦うのかもしれないけれど……それでも、戦闘力は期待に沿えないかしらね」

 

「あとひとり、ですか?」

 

 映し出される映像を見上げながら、エレナが腕を組む。

 

「ええ、前線基地で傷病兵の手当てを行っているわ。

 真名はフローレンス・ナイチンゲール……バーサーカーよ」

 

「バーサーカーなのに怪我人の手当てをしてて、ナイチンゲールなのにバーサーカーなの?」

 

「それはまあ……会えば分かるわよ。明日にでもそちらに行けばいいし」

 

 なんと説明したものか、と虚空に視線を彷徨わせるエレナ。

 しかし彼女は口で説明してみせることを放棄して、そうやって話を投げた。

 その話題を変えるように、カルナが口を開く。

 

「……ナイチンゲールの件もだが、彼らとこちらが共闘をするのであればレジスタンスをこちらに引き込むことも考えるべきだな。エジソンの下にはつけないだろうが、カルデアを中心とした共闘ならば、彼らもまた手を取るだろう」

 

「レジスタンス?」

 

「ああ。アメリカとケルト、その両軍と敵対している人理側のサーヴァントたちを中心とした組織だ。恐らく彼らの中には、オレと同格のサーヴァントがひとりいる。

 ただ彼は、今はゲイボルクの呪詛を受けてまともに戦える状況ではないはずだが……」

 

 そこまで言ったカルナがジャンヌへと視線を向けた。

 聖女の力があれば、完全な解呪に至らずとも十分に戦力として数えられる。

 ジャンヌはそのような視線だと受け取った。

 

「―――最善を尽くします」

 

「ふむ。……流れから言うと、そやつもインド神話の英雄か?

 それほどの戦力があれば、十分正面から勝てる可能性もあるな……」

 

「とはいえ、正面突破する必要もない。

 こちらの陣営を盤石にし、かつ敵軍の力を削げるならそれに越したことはない」

 

 戦力の勘定を始めたネロのぼやきを、アタランテは切って捨てる。

 そのまま彼女に視線を向けられたオルガマリーは肩を竦めた。

 

「……レジスタンスとの合流。敵軍から離れ孤立したサーヴァントの各個撃破。基本的な流れはそれでいいわね。

 レジスタンスはわたしたちが顔を見せ、声をかけた方がいいでしょう。

 問題は全員で動くか、少数で動いてレジスタンスを集めるかなんだけど……」

 

「レジスタンスの方にカルナくらい強い人がいるなら、それと合流して戦力を強化できる前提で動いてもいいかもしれないんじゃない?」

 

「でも、レジスタンスだからって必ず私たちに協力してくれるとは限らないでしょう?

 もし戦闘になるようなことになったら、それだけ強い敵を相手にすることになるんだから」

 

 立香の言葉をツクヨミが諫める。

 ふぅむ、と悩むように首を傾げてから彼女はカルナに目を向けた。

 

「でもカルナは大丈夫だと思うんだよね?」

 

「ああ。彼らがオレたちと反目していたのは、エジソンの目的と相容れないからだ。

 お前たちが協力を要請するならば、間違いなく力になってくれるだろう」

 

 それを聞いて改めてツクヨミに視線を向ける立香。

 

「だって」

 

「だって、って……はぁ、ソウゴはどう思う?」

 

「カルナがそういうなら大丈夫じゃない? なんか、そんな感じするし」

 

 あっさりと同意を示したソウゴに対して、ツクヨミの方こそ目を細めた。

 

「ソウゴ。あんた、あれだけ言われてそれでいいの?」

 

「……言われる俺が問題だったんだと思うよ。

 うん、次からはもうカルナに何を言われても正面から跳ね除けるから。大丈夫」

 

 そう言って少し考えながら笑うソウゴに、カルナは謝罪の意を伝える。

 

「―――オレは一言多い性質だと理解はしている。

 普段は注意しているつもりだが、お前にはその遠慮こそが何よりも礼を失すると考えた。それを不快に思ったなら謝罪しよう。

 ただひとつ、付け加えるならば――――いや、何でもない。これは一言どころではないな」

 

「そうやって途中で黙られるのは余計に気になる……」

 

 気になる、という表情を向けられてもカルナはそこで黙り込んだ。

 これ以上は一切口に出すつもりはないという意思表示だろう。

 それを横目で見ていたオルガマリーが声を張る。

 

「……なら、チームを二つに分けましょう。レジスタンスとの合流と、前線基地での防衛。

 レジスタンス班が前線に合流した時点で、攻め込んでくるサーヴァントを討ち取りつつ前線をワシントンまで押し上げる。最終的にメイヴを撃破し、聖杯を奪取……

 黒いクー・フーリンへの対応はその都度やっていくしかないでしょう」

 

「考えた割には雑な作戦だな」

 

「モードレッド」

 

 オルガマリーの方針決定に口を挟むモードレッド。

 その彼女をブーディカが窘める。

 言われたオルガマリーは鼻を鳴らし、正面からモードレッドに言い返した。

 

「しょうがないでしょ。どうせ狙った通りにはいかないでしょうし。

 自信がないなら拒否しなさい。考え直してあげるから」

 

 そう言ってふんぞり返る彼女に対し、半眼で視線を送るモードレッド。

 

「……はっ、いいんじゃねえの? そんくらいで構えてた方がどうにかなるだろ」

 

「だったら口挟まない。

 ―――大前提として、レジスタンス組の中心は藤丸。ブーディカの移動力を活かしてレジスタンスを捜索しつつ、霊脈の探索もしてマシュの盾で召喚サークルの設置をする。レジスタンスとの合流ができれば、ジャンヌにその呪詛を受けたサーヴァントの治療をしてもらう。

 これらを果たすことを優先。もし万が一レジスタンスのサーヴァントと戦闘になったら、離脱して即こちらに合流するように。

 ケルトのサーヴァントと戦闘になったらできれば倒してほしいけれど……そこの判断は任せるわ。少なくとも黒いクー・フーリンとアルジュナとはまともに当たらないように」

 

「……その二人が確認されたならば、オレがここから出向こう。倒しきれずとも時間稼ぎくらいはできるはずだ。こちらに残る者たちとの連絡はできるのだろう?」

 

 オルガマリーの方針を聞いていたカルナが言う。

 確かに黒いクー・フーリン、そしてアルジュナに対する遊撃を任せられるのは彼しかない。

 だからと言って彼にレジスタンス巡りに同行してもらえば、今度は基地の方が手薄になる。

 ならばどちらかにしか置けないが、レジスタンスの合流が叶えばカルナ級のサーヴァントがいるというなら、彼はこちらに残しておいていいだろう。

 レジスタンスと最悪敵対してしまったにしても、カルナの口ぶりから呪詛が解けなければそのサーヴァントは戦力外なのだろうし。

 

 かなり危険だが、ここで亀になっているわけにはいかない。

 ただこちらのクー・フーリンが残っていればもっと手が―――

 と、そんな考えを軽く頭を横に振って追い出すオルガマリー。

 

「ええ、お願い。それで、そうね……常磐、モードレッドにバイクを貸してあげて。

 ツクヨミ、モードレッドもそちらに同行させ、モードレッドはバイクで先行。

 その後にブーディカが戦車を走らせる形で行動するように」

 

「だとよ。ほれ」

 

「はい」

 

 オルガマリーの指示に従い、手を差し出すモードレッド。

 その上にライドストライカーのウォッチを乗せるソウゴ。

 受け取った彼女はそれを軽く放り投げ、キャッチしなおした。

 

「わたしと常磐はこちらで状況を見ながら、防衛戦ね。

 サーヴァントが来ても来なくてもケルト兵が大量に湧いてることには変わりないもの」

 

「じゃあ明日から俺と所長たちが前線基地に向かって、立香とツクヨミたちが……

 適当に走りながらジャンヌの感知で捜索?」

 

「……まあ、それしかないわね。召喚サークルの設置が成功すればタイムマジーンも呼べるし、かなり状況はよくなると思うけど……」

 

 言われて周囲を見回すマシュ。立香も一応乗ったことがあるはずだが……レジスタンス班に、マジーンをまともに長時間動かしたことのある人間がいない。

 ブーディカの騎乗スキルが適用されるだろうか……と、困ったように首を倒す。

 

「……タイムマジーンの騎乗訓練を行っておくべきだったでしょうか……」

 

「どっちにしろデカすぎてカルデアでは乗り回せないわよ。

 それに、ツクヨミが操縦できるから問題ないわ」

 

「え? あ、はい」

 

「あ、そうだったのですね。

 では、もし召喚サークルを設置して呼べた場合はツクヨミさんに……」

 

 そんな彼女たちの言葉を聞いていたエレナが、そろそろというように声を上げた。

 

「さあ、とりあえずの方針は決まったようだし……まずは休んでちょうだい。

 こちらもそのうちに準備をさせてもらうから」

 

 そう言って立ち上がるエレナ。

 そのまま部屋に案内してくれるつもりだろう。

 テーブルの上でまだ映像を映していたコダマが引っ込み、ソウゴの方に戻っていく。

 

 ―――消えた映像があった場所をちらりと見て、エレナが感心したような声をあげた。

 

「それにしても……聞いてはいたけど、クー・フーリンの力は凄いものなのね。

 本人もそうなのでしょうけど……カルナが言うには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 エレナの言葉に、オルガマリーが目を見開いて彼女とカルナを見た。

 腕を組んだカルナは、エレナの方へと視線を向ける。

 

「オレが語ったのは、クー・フーリンと奴の持つ鎧の特異性だけだが」

 

「ええ。でも今の映像でオーズという名が出ていたでしょう?

 確か……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 カルナは知らないでしょうけど、時計塔の魔術師なら……知らないの?」

 

 そっちの方が不思議だ、という様子でエレナが首を傾げた。

 オルガマリーがソウゴを振り返り、当たり前のように知らないと首を横に振られる。

 ウォズを呼べ、とつい言いそうになりつつも落ち着いて―――

 

「……いえ、すみません。聞いたことが……

 よろしければ、どこで知ったか教えてくれませんか?」

 

「どこで、と言われると困るのだけど……うーん、何の本だったかしらね?

 ごめんなさい、何かの本で読んだことだと思うのだけれど。協会じゃなくてアトラス院の方だったら知っていたのかしら?」

 

 不思議そうに首を傾ぐエレナ。そんな彼女を前に、オルガマリーは頭を下げる。

 

「そうですか……いえ、ありがとうございました。

 ――――とりあえずは休息を。

 明日からは更に忙しくなるわ、あなたたちもしっかり休みなさい」

 

 険しくした表情を崩し、オルガマリーはカルデアの面々に声をかける。

 そしてエレナたちに部屋に案内され、彼女たちは本日は休息することとなった。

 

 

 

 

『オーズ……オーメダル……うーん、申し訳ない。ボクにはまるで聞き覚えがない。

 けど、エレナ・ブラヴァツキーの言うそれと仮面ライダーオーズがまったく違うもの、という可能性もあるんじゃないかい?』

 

 自身に与えられた部屋にある椅子に腰かけながら、オルガマリーは通信機を前にしていた。

 近くの窓枠の前では、アタランテが壁に寄りかかりながら待機している。

 

 先程までは通信はほぼとれていないかった。

 恐らくはカルナという太陽の顕現により乱れていた魔力波が、日が沈むまで待ってやっと安定したのだろう。ロマニの返答を聞いて、しかし彼女はまだ言葉を待つ。

 

『……私にも覚えがないね。時期が曖昧だから私より後の存在の可能性もあるけれど』

 

 続くダ・ヴィンチちゃんの声。

 そこまで聞いて彼女は大きく溜め息を吐き出した。

 

「……そう。一応、映像でもアナザーオーズの体に入った年代は確認できなかった……多分、背中の方に入っているのかしらね。

 ということは、現状では分からない。そう結論することにしましょう。ウォズがいれば確認できるのだけれど、今回はまだ白くない方のウォズの姿は見ていないし……」

 

『そうだね。まあ、多分ウォズは答えを持っているのだろうし焦る必要はない。

 今は大人しく休みたまえ』

 

「……ええ、そうするわ。流石に―――今日は疲れたもの」

 

 言いながら額に手を添え、俯くオルガマリー。

 そのまますぐに、通信は切られることになった。

 

 ―――そうして切れた通信の先、カルデアで。

 

「さて。では私はちょっと外すよ、ここはお願いね」

 

「え? それはいいけど……何かあるのかい、レオナルド」

 

「いや、ちょっとした興味さ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんはひらりと管制室から身を翻し、外へと出て行った。

 不思議そうにその背を見送るロマニ。

 

 そんな彼女の足取りは明確に決まっていた。

 行先は図書室。そこへと踏み込み、目的の人物を探すために視線を巡らせる。

 果たしてその目的の人物はすぐに見つかった。

 というか、彼は大抵の場合ここにいるのでわかりやすい。

 

「少しいいかい、ロード・エルメロイ二世」

 

「……無論だが。何かね、私が君に教授できることなど何もないだろうに」

 

 手にしていた本を置き、彼はダ・ヴィンチちゃんと顔を合わせた。

 そんな彼の様子に苦笑して、彼女は何のことはないと軽く手を振るう。

 

「なに、大した質問じゃないんだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 問われた二世は何を訊くのか、と神妙な顔をして―――

 

()()()8()0()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 詳しくはないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……だったか?」

 

 知っているのがどうかしたか、というように彼はそう語った。

 

「ああ……なるほど。ちなみにどこでその情報を得たか分かるかい?

 私も調べてみたいのだけれども」

 

「それは……いや、私がどこでこれを知り得たか……?」

 

 そして、ダ・ヴィンチちゃんからの追加の質問に対して彼は不思議そうに首を傾げた。

 当たり前のように知っていた事実を、どこで知ったのか首を傾げる。

 そんな事態に対して更に首を傾げたくなって余計にだ。

 

 ダ・ヴィンチちゃんはそれを見ると微笑み、ぱたぱたと手を振るう。

 

「いや、分からないのならいいんだ。ちょっと私の方で探してみるから」

 

「あ、ああ……」

 

 返答を待たずにダ・ヴィンチちゃんは書庫を出る。

 そのまま彼女の工房に向かって歩き出す彼女。

 

 ―――その途中に、通路の壁に寄りかかっているウォズがいた。

 彼の前まで歩いていき、そこで足を止める。

 

「……私が影響されていないのは、私が()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「―――流石はレオナルド・ダ・ヴィンチ。理解が早くて助かるよ。

 今、違和感が出るのは申し訳ないが我慢してほしい。

 ……最終的には、一切矛盾のない結末が用意されているからね」

 

 そう言って壁から背を放し、ダ・ヴィンチちゃんとすれ違うように歩いていくウォズ。

 彼女がその姿を追うように振り向けば、もう彼の姿はどこにも存在しない。

 

「……魔術の歴史に、オーズ誕生の歴史が組み込まれた―――

 そういうことでいい、ということかな?」

 

 小さく呟く彼女に答えるものは、当然のようにいなかった。

 

 

 




 
頭にチーズが挟まってるバガモンが頭突きすればメイヴを瞬殺できる説。
 

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