Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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精霊使いと少年悪漢王と顔のない王1909

 

 

 

「………いない? フローレンスが?」

 

 唖然とした様子で声を上げるエレナ。

 彼女にフローレンス・ナイチンゲールの居場所を聞かれた医師は、問われたことに対して困ったように首を縦に振った。

 

「ええ、はい。その……昨日、重症患者がいると駆け込んできた兵士に着いて行ってですね。

 そのまま……もしかしたら、別の戦場の方へ行ったのかと……」

 

「―――なる、ほど」

 

 彼女は頷き、手を頬に当てて考え込む。

 その後ろで一緒に話を聞いていたソウゴたちも目を見合わせる。

 

「……どゆこと?」

 

「―――バーサーカーだもの。まともに考えてもしょうがない可能性もあるわ」

 

 軽く息を吐きながらオルガマリーはそう言う。

 医師に礼を言って、エレナは彼を怪我人が詰めている天幕に返した。

 ある程度考えが纏まっていたのか、彼女はそのままオルガマリーたちに状況を伝える。

 

「多分、レジスタンスね。カルナが言っていた呪詛を受けたサーヴァントを延命したかったのでしょう。彼女は怪我人がいる、と聞けばそれが何であれ治療しに行ってしまうから。

 ……まあ、最終的に合流を目指している現状、そのサーヴァントの回復の可能性が高まったのだと前向きに考えることにしましょう」

 

「なるほど」

 

 溜め息混じりにそう言う彼女に対し、気の抜けた返事のソウゴ。

 そうした彼は、今朝から訪れている前線基地の様子を軽く一望した。

 機械化兵士たちが哨戒のために立ち並び、その後ろで兵士たちが忙しなく動き回る。

 

 ―――そんな中に、何かが見えた気がする。

 

「……?」

 

「どうかしたのか、マスター」

 

 ネロからかけられた声にはっとし、改めて周囲を見回す。

 何かが変わった、というわけではないはずだ。そういうわけではないはずなのだが……

 

「戦場の医師。彼らの覚悟に対して、何か思うところがあるのかい?」

 

「うーん……」

 

 当たり前のように出現するウォズの言葉に唸り声だけで返答する。

 登場方法を選ばない彼に対し、ネロの呆れたような視線が飛ぶ。

 そんな視線などまるで気にせずに彼は『逢魔降臨暦』を持ち上げ、高らかに言葉を続けた。

 

「その感覚もまた、オーズの歴史において重要な一要素だ。

 努々忘れないようにしておくと、ここぞという時に役立つかもしれないね」

 

「……そのオーズの歴史、というのは彼女が言っていたような錬金術師が作り出したものなの?」

 

 もはやどこから出てきたか、とか。今まで何をしていたのか、なんて。

 そんな訊いてもどうしようもないことは訊かない。

 だからこそ即座にオルガマリーは本題を彼に問いかけて―――

 

「ああ。オーズとは君たちの時代から約800年ほど前、当時の小国の王が錬金術師に作らせたメダルにより生まれた仮面ライダーだ。

 もっとも……我が魔王が継承すべき仮面ライダーオーズは、2010年の存在だが」

 

 彼はあっさりと肯定を示した。訂正すべき部分さえも添えて。

 

「2010年、オーズであった当時の王の末裔がメダルの封印を破った。

 その結果として復活したメダルの集合体である怪人、グリード。

 人々の欲望を利用する存在であったそれらを倒すため、仮面ライダーオーズとなった火野映司は、グリードのひとり……鳥類種のグリードであるアンクを協力者とし、戦い抜いた―――

 オーズの物語とは、おおよそこのようなものだ」

 

 言いながらそのまま歩いていくウォズ。その背を見ながら、カルナが目を細めた。

 一瞬だけ口を開こうとして、しかし黙り込む彼。

 ストールを流し、当たり前のように消えていくウォズを見送る。

 その後で彼は小さく、口の中で呟いた。

 

「……太陽に由来するものか……? 不思議な感覚だ、掴み切れんな」

 

 ウォズが消えたのを見届けたオルガマリーが、盛大に息を吐く。

 本当にちょっと出てきて一言告げて立ち去るのが好きな男だ。

 

「―――ということはわたしたちが知らないだけ……? 資料を漁れば見つかるのかしらね……まあ、とにかく。

 2010年が主体になるなら、800年前だかの話はとりあえずさておきましょう。メダルだかの力、どうやって手に入れればいいのかあなたには予想がつく?」

 

「ううん、全然?」

 

 あっさりと首を横に振るソウゴ。それを聞いて、もう一つ溜め息。

 だが彼はそのまま自身の手へと視線を落とし、呟くように口を開く。

 

「ただ……分からないけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「―――そう。なら、そこは任せるわ。どちらにしろ、あなたの感覚次第なのだし」

 

 そう言って彼女は、陣の外に立ち並ぶ機械兵士たちに視線をやった。

 

 

 

 

「……恐らくひとり、サーヴァントの気配があります。

 徐々にこちらから離れていきますが、それでも西側から出る様子ではないですね。

 恐らくレジスタンス……この速度は馬車、でしょうか……?」

 

 デンバーより出立し、西側を巡るつもりで移動を開始してそう時間も経っていない。

 そんな状況で、ジャンヌがサーヴァントらしき気配を察知していた。

 難しい顔をして感知している彼女の顔を見て、マシュが首を傾げる。

 

「レジスタンスの護衛、などでしょうか。

 状況だけ見ますと、その馬車らしきものを追いかければレジスタンスと出会えそうですね」

 

「ケルトのサーヴァントって可能性もあるけれど……

 もし仮にケルト軍だったとしても、ひとりで行動してるなら狙い目であることに変わりはないわね。とりあえず、可能な限りバレないように着いていくべきかしら」

 

 そういうツクヨミが立香に視線を送った。

 

「そうだね。こんなすぐに見つかるとは思ってなかったけど……

 向こうの方からアメリカ軍に近づいてた、ってことだもんね?」

 

「はい。恐らくはカルナさんの戦闘が切っ掛けだったのではないでしょうか。

 あの方の宝具解放は、よほど距離を取っていても分かるほどでしたから。

 それを確認した結果として偵察にサーヴァントを送り、そして今撤退しているところなのではないかと」

 

 マシュの推測に対してふぅむと顎に手を添える立香。

 相手が偵察の結果エジソンは方針転換したと理解してくれていれば、話が早く済みそうなのだが。最悪、カルナに負けた自分たちがエジソンについた、と。そう思われてる可能性も考えなければいけないのかもしれない。

 

「うーん、どうやって説得しようか」

 

「―――私見でしかないですが、わたしはいつも通りの先輩でいれば協力は得られると思います」

 

「……そっか。マシュがそういうなら、普通に行って普通に話せばいいか」

 

 うむ、と頷きつつそう決める立香。

 そんな彼女たちに軽く溜め息を落としながら、ツクヨミは走る戦車から流れていく風景に目を馳せた。

 

 

 

 

 のしのしと巨躯を進め、玉座の間へと辿り着く。

 そこにはひとつ豪奢な玉座と、天蓋付きの大きなベッドが並んでいた。

 玉座には黒い鎧の男、クー・フーリンが腰かけ目を瞑っている。

 必要のないときは彼は大体睡眠をとっているようだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「―――呼ばれて参上したが……この様子では、メイヴの方か?」

 

 声をかければ、ベッドに身を横たえていたメイヴが軽く体を起こす。

 

「ええ、フェルグス。あなたを呼んだのは私」

 

 ベッドの上で揺れる肉体美の黄金律。

 それをきっちりと眺めながら、フェルグスはうんうんと首を振る。

 その視線に対して微笑みつつ、彼女はより煽情的に見える体勢を取った。

 

「旧アメリカ軍の方でだいぶ大きな戦闘があったみたいじゃない?

 多分、ここから逃げたあの子たちとアメリカの連中の戦いだったでしょう、あれ」

 

「まあ、そうだろうなぁ」

 

 この部屋の隅で壁に背を預けているアルジュナ。

 そちらに対して一瞬だけ目を向けたフェルグスは、すぐにメイヴに視線を戻してから気の抜けたような軽い声で返事をした。

 

「別に放置したところで何の問題もないわけだけど、でもやっぱり……せっかく私たちがこの国を蹂躙してあげているというのに、関係ないところで争ってるなんて! 何か軽んじられてる気がするじゃない?

 ほら。私たちの侵略の前に痩せ細られちゃったら、踏み付け甲斐がなくなっちゃうでしょう? どうせなら一から十まで私たちできっちり潰してあげたいのに」

 

「ふむ、お前はそうなのかもしれんがな。そこのところはどうなんだ、王様」

 

 ベッドのシーツに指を這わせながら、語るメイヴ。

 それを苦笑交じりに見ていたフェルグスは、機能を停止しているクー・フーリンに目をやった。

 問われた彼はゆっくりと目を開き、どうでもよいとばかりに鼻を鳴らす。

 

「好きにすりゃいい。殺す相手の状態なんざ、オレには関係ない話だ。

 殺戮なんざオレにとっちゃ国を平らにするためのただの作業。

 作業に効率以外の何かを求めてどうする」

 

「ほほう。お前のやり方じゃないが、女王が求めるなら好きにしろ、と。

 そういうことならそれでいいが。いいだろう、承った」

 

 適当に笑いながら、彼は軽く肩を回す。

 

「フィンとディルムッドが先だってアメリカ軍に攻め立てているのだろう?

 なら俺は別口から切り込んでみるかな」

 

「そ、じゃあ先にまだ生き延びてるって話のコサラの王様を殺しにいってあげれば?

 あとはちまちま鬱陶しいレジスタンスたちもね」

 

「手負いの獅子か。それもまた一興ではあるな!」

 

 呵々と笑い、フェルグスは踵を返して歩き出した。

 どしどしと足音を鳴らしながら城の外を目指して歩いていく彼の背を見ながら、アルジュナは壁から背を離す。

 

「………よろしいのですか? フィン、ディルムッドもそうですが。

 これでは各個撃破してくれ、と言っているようなものです。

 勝利したいのであれば、サーヴァントを集中して動かすべきだと思いますが」

 

 彼の言葉を聞いて、女王は思わず笑い声を上げた。

 その声を受け、彼女へと視線を送るアルジュナ。

 

「逆よ。勝利したいだけなら、クーちゃん以外の戦力なんていらないもの。

 だから勝敗なんて考える必要はないの。

 どうかしら、アルジュナ。もし望むのであれば、あなたもその身の衝動に身を任せてみる?」

 

 ベッドの上で転がった彼女の視線が、アルジュナを捉える。

 蕩ける蜜のような、黄金の瞳。自身を見つめるその瞳を見返して、しかしアルジュナは微かに肩を揺らして視線を逸らす。そして彼もまた、城の外へと歩き出していった。

 

 それを見送ったクー・フーリンが再び目を閉じながら、小さく呟く。

 

「―――余計なことを。自分から手間を増やしてどうする」

 

 面倒、とさえ思っていないだろう口振り。

 真実どうでもいいと思っているだろう彼に視線を向け、メイヴは楽しげに声を上げた。

 

「そう? そのままカルナに勝っておしまい、ってこともあるかも」

 

「勝敗に納得できずに執着してる奴が、今更決着なんざ得られるかよ。

 まして、死んだ後まで引きずるような手合いにはな」

 

 そのまま玉座に体を沈める彼を見て、ベッドから起き上がったメイヴ。

 彼女が彼に寄り添うように歩み寄り、その体にしなだれかかる。

 まるで気にしていないように眠るクー・フーリンの頬に、メイヴが手を這わせた。

 

「―――ええ、ええ、そうね。分かるわ、クーちゃんの言っていること。

 クー・フーリン、私が望みながらも生前手に入れられなかった愛しいあなた。でもね、だからこそなのよクー。死ぬまで引きずり続けたからこそ―――

 この想いは……もう何より他の何にも代えられない、私自身の一部なのだもの」

 

 淫靡に微笑む彼女を前にしながら目を開くこともせず、無視してクー・フーリンは眠り続ける。

 次に起きた時に、再び目的のために疾走するために。

 そんな愛しい彼の疾走の前兆を眺めながら、彼女は小さく口角を上げた。

 

 

 

 

「……村、ですね。どうやら既に放棄されているようですが……」

 

 戦車を牽く馬がゆっくりと速度を緩め、やがて停止する。

 そこに乗っていたマシュは周囲をひとしきり見回すと、そう口にした。

 

 ジャンヌの感知で馬車を追跡した先、あったのは既に放棄された村。

 先にその前まで来て、バイクをウォッチに戻したモードレッドは肩を回している。

 彼女は同時にその手にクラレントを出現させ、その刀身を肩に乗せた。

 

「んで、この村の中にいるんだよな?」

 

 モードレッドの問いかけは当然、ジャンヌへのものだ。

 ここにサーヴァントの気配があるのか、と訊いている。

 

「はい。三騎……いえ、四騎でしょうか。かなり微弱な気配なのがひとり。

 恐らくこれがカルナの言っていた呪詛を受けたサーヴァントかと。

 そのひとりは奥の家屋の中、そこにもうひとり。あとは……」

 

「―――待て。お前たちは、どういった用件でこの地を訪れた」

 

 村の前に、霊体化を解除しながら一騎のサーヴァントが出現する。

 インディアンらしき民族衣装を身に纏う男。

 そのように出現したからには彼がサーヴァントであるということに疑いはなく、ジャンヌが感知していたひとりに他ならないだろう。

 

 彼は戦闘を持ち掛ける様子はないが、同時にこちらを歓迎する様子もない。

 場合によってはどちらもありえるという雰囲気だけ出しつつ、こちらの前に立ちはだかる。

 

 その彼と話し合うというのなら、一応この場では立香が―――

 と、彼女の様子を伺おうとしたツクヨミが立香と顔を合わせる。

 そして当たり前のように問いかけてくる彼女。

 

「どっちが話す?」

 

「え!? あなたが話すんじゃないの!?」

 

 この戦いをより知るのは彼女だ。ツクヨミは特異点攻略参加は初めてであり、現地のサーヴァントとの交流だってまともにしたことはない。

 当然、エジソンたちとの交流において一番前に立ったのはオルガマリーなのだから。

 

「うーん、ほら。私だと相手によってはもしかしたら所長みたいに怒らせちゃうかな、みたいな。そういう部分はツクヨミの方がしっかりしてない?」

 

「そうなるのはこの場でいきなりそういうこと言い出すところのせいだと思うけど!?」

 

 そうかしまった! という顔をする立香。

 彼女がはっとした様子で男を見ると、彼は瞑目して彼女たちの会話が終わるのを待っていた。

 少なくとも怒っている風には見えない。

 

「所長よりは怒らない人だった」

 

「……所長さんに怒られるわよ。いいわ、私が話すわよ」

 

 小さく息を吐きつつ、前に出るツクヨミ。

 そうしながら、地面にクラレントを突き刺してそれに体重をかけるように力を抜いているモードレッドを見る。彼女はぱたぱたと手を振って、もう気なんか抜けきってんだろ、とどうでもよさそうにしている。

 

「……君が代表で、ということでいいのだろうか」

 

 彼は問いかけながら、小さく横に向かって首を振る。

 その合図で民家の横に隠れていたもうひとりのサーヴァントが姿を現す。

 

 それは拳銃を手にした少年。

 彼はにこやかに微笑みながら肩を竦め、男の横まで歩み寄ってくる。

 

「―――はい。私たちは人理継続保障機関カルデア。

 今回の人理焼却を防ぐべく、こうして特異点を巡っている者たちです。

 こうして私たちがあなた方を追ってきたのは、力を貸して欲しいから―――

 エジソンさんとは既に話をつけてあります。どうかケルト軍を倒して聖杯を手に入れ、この時代を修正するために力を貸して下さい」

 

「―――――」

 

 言われ、微かに目を細める男。

 彼の隣で少年のサーヴァントが口を押さえ、笑いを堪えようとしていた。

 少しだけ漏れる笑い声を交えながら、彼は男に声をかける。

 

「話早いね、割と見習うべきかも?」

 

「―――そうかもしれないな」

 

 笑い混じりの少年の声に同意しつつ、小さく溜め息を吐き落とす。

 彼はすぐさま表情を引き締め、ツクヨミに返答した。

 

「私は……“ジェロニモ”、ジェロニモと呼んでくれ。

 真名というわけではないが、今の私が他者に呼ばれる名としてはこれが適当だろう。

 私の真名はそうおいそれと明かすようなものではないのでね。

 君たちがその目的を掲げているのならば、我が身とその戦いは君たちの助けになろう」

 

「ジェロニモ、とは……アパッチ族の英雄、精霊使い(シャーマン)の?」

 

 その名に驚いたように声を上げるマシュ。

 何に驚かれたのか、ということを理解している彼は言葉を続ける。

 

「私は厳密には精霊使い(シャーマン)から程遠い戦士だよ。クラスはキャスターだがね。

 だからこそ、私は奪いにくるものと戦うのだ。無論、だからと言って私たちが何かを奪ったことがないわけではないがね。今回は人理とアメリカを奪うものが敵となったというだけ。必要であれば、それと戦うためにかつて争ったアメリカとの共闘だったとしても受け入れるとも」

 

 彼の言葉を聞いていたマシュが、ふとブーディカの方へと視線を送る。

 その視線を感じた彼女が、僅かに困ったような顔を浮かべた。

 慌てて顔をジェロニモの方に戻すマシュ。

 

「まあ、どこでどんな風に生きてようと奪われることはあるものさ。

 奪ったり奪われたり、その辺りは柔軟にいかないとね?

 ただ今こうして僕たちはここにいて、目の前には助力を請う善良な命がある。ならまあ、僕たちがやることをわざわざ悩む必要はないってことじゃない?」

 

 彼女たちの間に視線を巡らせ、小さく笑う少年。

 彼は手の中の銃を軽く回してから腰のホルスターに戻しつつ、頭の上の帽子を押さえた。

 

「―――ああ、だろうな。そういうことだ」

 

「はいはい、分かってるよ」

 

 少年に同意を示したジェロニモが、立香たちの後ろに視線を送る。

 唐突に発生した声と、サーヴァントの気配。

 突然と気配が追加出現したことに、ジャンヌが目を見開きながら振り返った。

 

 彼女たちの背後。そこでバサリと深緑の外套を翻し、ジャンヌが一切感知していなかったサーヴァントが姿を現す。

 

「はい、“顔のない王(ノーフェイス・メイキング)”解除っと。

 悪いね、お嬢さん方。姿消して不意打ちできるように構えさせてもらってましたよ。

 オレ、アンタらみたいなのに正面から勝てるようなサーヴァントじゃないもんで」

 

 緑の外套を纏う、右腕に弓を備えた青年。

 彼の視線は特にモードレッドに向かっている様子で。

 しかしギロリと返ってくる睨みに大して肩を竦め、彼はすぐに視線を外した。

 

「アーチャーのサーヴァント。真名、ロビンフッド。

 ま、オレにとっての真名はジェロニモと同じようなもんですけどね」

 

「あ、なんか僕だけ仲間外れ? と言ってもまあ、僕も通り名といえば通り名か。

 ビリー・ザ・キッド、よろしくね。僕も一応アーチャー……

 ま、見ての通り本来はガンナーなんて呼ばれるべきサーヴァントなんだけどね」

 

 ぱたぱたと手を振りながら彼女たちの間をすり抜け、ジェロニモの方へと歩いていくロビンフッド。彼の背中を見送りながら、立香はふむと顎に手を当てた。

 

「アーチャーが二人……ジェロニモはキャスター。それに……」

 

 ちらりと彼女が村の奥の方へと視線を送る。

 その様子に頷いて見せたジェロニモが口を開く。

 

「……アメリカ軍に従軍していたナイチンゲールを連れてきたのは私たちだ。

 彼女に治療してもらっているサーヴァントは……セイバー。

 古代インドの叙事詩『ラーマーヤナ』におけるコサラの王、ラーマだ」

 

「ナイチンゲール?」

 

 エレナから聞いていた名前に首を傾げるツクヨミ。

 そちらの名に反応されたことにジェロニモこそが首を傾げた。

 

「彼女を追ってきたのではないのか?」

 

「彼女のサーヴァントとしての気配を追ってきたのは確かですが、その気配の正体を理解していたわけではなかったので……」

 

 ジャンヌの言葉を聞き、神妙に頷くジェロニモ。

 

「―――なるほどな。ああ、我らは召喚直後にケルトに襲われていたラーマを何とか連れ出し……これはカルナがケルトのクー・フーリンを抑えてくれていたから可能だったことだが。

 この我らの拠点へと連れ帰り、心臓を抉られていた彼の延命を試みていた。もっとも、我らの治療の甲斐、というより彼自身の生命力故に今までの延命が叶っていたのだが」

 

 そう言いながら彼は残る二騎の反応を感じられる家屋に視線を向ける。

 

「―――ただそれももう限界が見え始めた。心臓を砕いた槍の呪いの解呪は叶わず、体力も魔力も限界まで擦り減った状態。しかし、それでも彼には消えられない目的があるらしい。

 そこで我らは医療という概念に大きく貢献したという彼女に協力を仰いだ。

 ……本来ならカルナの巡回があるアメリカ軍に接近するのは難しいが、先日彼に長時間デンバーから動かないタイミングがあったのでね」

 

「なるほど」

 

 ジェロニモの説明にうんうんと頷く立香。

 そんな彼女を見ながらロビンが肩を竦める。

 

「とまあ、聞いての通りウチの内情も中々にボロボロなもんさ。

 はっきり言って、戦力としての期待はされても困るぜ。

 オレなんか好きに使ってくれていいが、ケルトにしろアメリカにしろ集まっている戦力はトップサーヴァント。唯一そっちの戦力になってやれそうなセイバーは脱落寸前。

 ゲリラ戦くらいしか取り柄のない小粒のサーヴァントにはちと荷が重い戦場なもんでね」

 

 彼のそんな軽口を受けて、立香はぽんと手のひらを打つ。

 その様子を怪訝そうな視線でロビンは見つめ、彼女の言葉を待つ。

 

「そう? じゃあさ、早速訊きたいんだけどこの辺りに大きな霊脈の心当たりない?」

 

「霊脈?」

 

 首を傾げながら訊き返すロビン。

 彼の前であ、と声を漏らしてから口を一度閉じてジャンヌの方へと向く。

 

「あっと、そっちはあとか。先に、ジャンヌ」

 

「―――はい。呪詛の解呪であれば、少しですが心得があります。

 私にそのセイバー、ラーマの治療の手伝いをさせてください」

 

「……聖女ジャンヌ・ダルク、か。なるほど、是非とも」

 

 マスターの視線を受け、前に立つジャンヌ。

 彼女の様子と、それ以上に立香の呼んだ名か。彼女の正体を理解したジェロニモは、ありがたいと表情を崩した。

 

「―――んじゃ、そっちには僕がついていこうか。

 あの看護師さん、外から消毒せずに入ろうとすると撃ってくるしね」

 

「撃って……? ナイチンゲールだよね?」

 

 先導して歩き出すビリー。その後からついていく立香。

 残り二騎のサーヴァントと顔を合わせておこう、という考えだろう。

 彼女はマシュとツクヨミに視線を送り、こっちはお願いという表情で行ってしまった。

 

「……頭が向いてんのか向いてねえのか、相変わらず分かんねえ奴」

 

 モードレッドがそう言って軽く笑い飛ばす。

 地面に突き刺していたクラレントを引き抜いて、肩に乗せる。

 そのままブーディカに視線を向けると、彼女は小さく頷いて立香の方へと走っていく。

 

 ―――マシュも同行したいのは山々だろう。

 が、こっちの話にこそ彼女が必要だ。

 

「―――わたしたちはカルデアとの連絡や物資の補給のために、各特異点において召喚陣を設置しているのです。それに使えそうな霊脈に心当たりがあれば、教えて頂ければ……」

 

 マシュの前で顔を合わせるジェロニモとロビン。

 ―――それは、大分険しい表情をしているように見えた。

 

「あるかないかと言えばある。が、ここに比べればだいぶ東よりだ。

 ケルトの勢力圏内と言っていい」

 

「別に探した方がいい、と言いたいところだがどうだろうな。

 西は西で確保できる霊脈はエジソンが工場に使ってるんじゃないか?

 リソースは多分残ってねえだろう……ぶっちゃけ、お前さんたちが戦ったカルナの補給のために全力稼働中だと思うぜ」

 

「え」

 

 聖杯の無尽蔵さに抵抗するアメリカ側に、資源を選んでいる余裕はない。霊脈まで資源として活用し、使い潰すまで搾り取る方針。ただそれも当然だ。

 そうでなくては、カルナという英雄は運用できないのだ。エレナ・ブラヴァツキーが発見したものを、トーマス・エジソンが資源として運用し、太陽の英雄カルナを動かす。それこそがアメリカが現時点で戦っていられる理由なのだから。

 それを聞いて、マシュがどうしたものかと眉を顰めた。

 

「どうしましょうか、ツクヨミさん……」

 

「……それは……私は攻め込んででも確保すべきだと思う。タイムマジーンがあれば多少の無茶が利くようになるっていうのもあるけど、やっぱり相手の戦力は積極的に削りたい。

 敵の勢力圏にこっちから入れば、相手から動いてくるかもしれないし……

 ジャンヌの警戒とブーディカさんの戦車、あとタイムマジーンがあれば何とか……」

 

 そこで気付いたかのように、彼女はロビンへと視線を向ける。

 

「さっきの宝具、誰にも見つからなくなって偵察を出来るんですか?」

 

「うん? ああ、まあな。誰にも絶対に見つからないとまでは言わないが、相手がケルトの兵士なら見つかるようなことは絶対にないだろうな」

 

 緑の外套を軽く叩き、彼はそう答えてくれた。

 その答えを考慮に入れて、ツクヨミは状況を考え出す。

 

「じゃあそこに予め偵察に行ってもらって、敵しかいないことを確認してもらってからモードレッドの宝具を撃ち込むとして……」

 

「おい、雑魚相手に宝具なんか使わねえぞ」

 

 当たり前のように聞こえた言葉に、即座に言葉を挟むモードレッド。

 だがその抗議に対してぴしゃりと言い切るツクヨミ。

 

「ワガママ言わないで。敵陣の確保から召喚サークルの設置は時間との勝負よ。

 ギリギリまで接近してからロビンさんに偵察をしてもらう。そこでモードレッドの宝具を撃ち、すぐにブーディカさんの戦車で接近。マシュに召喚サークルを設置してもらって、タイムマジーンと物資を出来るだけ確保……モードレッドの宝具に反応して集まってくるサーヴァントがいれば、対処する。クー・フーリンとアルジュナ以外の一騎、二騎ならそこで戦って減らしたい。

 だとするとラーマさんっていうセイバーが復帰できるとなおさら心強いのだけど……」

 

 ぶつぶつと今後の行動を立てていくツクヨミ。

 モードレッドはその姿に口元を引き攣らせ、マシュは困ったように首を傾ぐ。

 そして彼女の前に立っていた男二人が再び顔を見合わせた。

 

 

 




 
超人閻魔さえも発動前に止めなきゃたまったものではないアパッチのおたけびがあればもはや勝ったも同然。
 

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