Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「おーい、入っていいかい」
ビリーがゴンゴンと家屋の扉を叩き、訪問を知らせる。
返答はすぐに返ってきた。
「患者でないならば入る必要はありません。
治療の邪魔になりますので、入室は許可しません」
にべもない。
余りにもあんまりな態度に、声をかけながら扉を叩いていたビリーは苦笑する。
協力者の存在を告げるためにそのまま言葉を続け、
「その治療の助けになれるってサーヴァントが……」
「―――治療の助けに? 医療従事者のサーヴァントでしょうか」
扉の向こうで女性の声の調子が変わる。
確実な治療のために手が足りないのは間違いないのだ、彼女としても経験者が確保できるならばそれに越したことはない。
「いや、そのサーヴァントの呪いを解呪できるかもしれない、っていう聖女様なんだけど……」
ビリーがそこまで語ると、瞬時にぴしゃりと彼女は言い切った。
「必要ありません。心臓は半分以上失われていますが、まだ鼓動は止まっていません。両手両足を切除すれば血液を巡らせるだけの能力は確保できます。
早くしなければ彼の生存がより不確かなものになる。今からすぐに切除手術を開始しますので、邪魔をするようなことはしないように」
「うわお」
その反応にお手上げ、という風に扉の前で両手を上げるビリー。
すると同じ家の中でばたばたと誰かが暴れるような音がしてきた。
恐らくはそれが確保されているというラーマのものだろう。
「待て待て待て!? それは困る、余はまだ戦う術を失うわけにはいかんのだ!
心臓の呪詛が解呪できるというのならそちらをだな―――!」
「―――――」
その恐らくラーマのものだろう声の後に、数秒の沈黙。
何かを心の天秤にかけているのか黙っていた彼女、ナイチンゲールが再び口を開く。
「その解呪とやらができるものだけ入りなさい。入ったらすぐに扉を閉め、消毒を行います」
ジャンヌが立香の方へと視線を送り、小さく頷く。
そのまま彼女は急ぎ家屋の扉を開き中に入り――――
バシャーン、と。
「うひゃあ!?」
消毒用アルコールだろうか。
扉を開けた瞬間にぶっ掛けられた彼女は中へと消えていき、すぐさま閉まる扉。
消毒液が滴る扉を眺めながら、困ったように立香が口を開く。
「まだ顔を合わせてないのに凄い人な感じが凄いね」
「ははは、まあね。ここに連れてきてから数時間だけど僕たちも思い知ってるよ。
―――で、実際の所どうなんだい? あの呪いって解除とかできるの?」
問われ、少し悩む立香。できるかどうかで言えば、きっとできないだろう。
恐らく症状の進行を防ぐ、程度の効果しかないはずだ。
それでもそうやって先伸ばすしかないだろう。
「多分、完全には無理かな。
というか、ラーマっていう人が生きてられるのが凄い……んだよね?」
背後についてきていたブーディカを振り返り、そう問いかける。
話を向けられた彼女は神妙に頷いて肯定を示した。
「うん。あの槍に心臓を貫かれて生きている、なんて普通はありえない。
……まあそれこそあのカルナとか、彼くらいになるとどうにかしそうにも見えるけど。
それにしたって普通はまともに戦闘はできないと思う。ジャンヌの解呪にしたって多少マシにはなっても、戦闘に堪えるほどに回復するかと言えば……そんなことはないと思うけど」
「そっか、やっぱそうだよねぇ。カルナは復帰できそうな話で言ってたけど……」
「―――うーん……もし同じ状況に陥ったら、カルナならどうにかして戦ってみせる、ってことじゃないかなぁとあたしは思うんだけど。
まあカルナ級だっていうならラーマもできる、のかな?」
そういうことだって、と。ビリーの方へと視線を向ける立香。
彼はそれを聞いて肩を竦めてみせた。
「まあ僕から言ったら心臓が貫かれた時点で何で生きてるんだ、って話だけどさ。
戦力として復帰できるならそれに越したことはない」
そう言いながら彼はちょいちょいと隣の家を指差した。
そちらで待機しよう、という話だろう。
治療がどうなるにしろ、すぐに終わるということはないだろうから。
「……死ぬかと思ったぞ。いや、今も死にそうなことには変わりないのだが」
一時間もすれば、そう言って赤髪の少年はふらふらとその家から出てきた。
彼の手は強く胸を押さえている。外見上は修復しているが、呪いが完全に消えたわけではない。
彼女の後ろにいるジャンヌも、口惜しげに表情を歪めていた。
更にそんな彼女の後ろにいる赤い服の女性。彼女はより一層口惜しそうに顔を歪めている。
「へえ、ほんとに胸の穴が塞がってる。
凄いもんだね、ジェロニモがいくら治癒させてもすぐに傷を受けた状態に戻っちゃってたのに」
隣の家のバルコニーで椅子に腰かけていたビリーが驚いたように声を上げる。
その声に反応して視線を向けたラーマは、重々しく口を開く。
「うむ……ギリギリのバランスだ。これ以上酷くはならないが、良くもならない。
何とかその状態には戻してくれた。あとは余が気合で我慢すれば何とかなる」
溜め息混じりでそんなことを宣言する少年。
一瞬。軽く馬鹿を見る目を浮かべたビリーが、すぐさま顔を横に振ってそんな表情を消す。
だが律儀に彼は、今思い浮かべたことをきっちりと口に出した。
「一応白状しておこうかな……僕は今、君のことを凄い馬鹿だと思ってる。
普通、心臓を失くしたら気合で動けるもんじゃないよ」
自分が口にした理論の無茶苦茶さは自分で分かっているのか、ラーマ自身も微妙な顔だ。
「その辺りは……まあ、これでも余はヴィシュヌ神の
心臓のひとつやふたつくらいなら、気合でどうにかするさ」
「はは、神様ってすごいや」
同時にまともに考えるもんじゃないや、と笑い飛ばす。
ラーマはそれに小さく咳払いし、立香の方へと視線を向けた。
「話はおおよそジャンヌ・ダルクより聞いた。
この身、微力にしかならないがそなたらの戦いに全霊を尽くそう。
代わりと言ってはなんなのだが……」
「―――あなたの治療に携わるものとして、その戦闘は許可しません。
治療による回復と呪いとやらの傷害の吊り合いがとれている以上、戦闘行為によるこれ以上の傷は治療できないことを意味します。死にかけの人間にそのような行為は許可できるはずもない」
立香へと握手のために手を伸ばそうとしたのだろう。
腕を持ち上げていた彼の服の襟をナイチンゲールが掴み取る。
思い切り引き戻されたラーマがぐえーと悲鳴を上げた。
引き戻された彼は手を振り払いながら、余計に痛む胸を押さえつつ振り返る。
「……ぐ、ぬ……いや、ならば治療が叶えばよいのだろう?
手はあるのだ。むしろその過程が余の目的ですらある」
「なんですって? その状況を改善する方法を理解していたというのですか?
早く言いなさい。死にたいのですか?」
今度は肩を掴まれて引き寄せられるラーマ。
みしりと軋む肩の衝撃が胸に響き、少年はまたも悲鳴を上げる。
「いだだだだだ!? 手加減しろ! 余は死にかけの患者なのだろう!?」
「死にかけの患者だからこそ、死なないように早急な治療の必要があるのです。
死にたくなければただちにその治療法を白状しなさい」
そんなやり取りを眺めていたブーディカが、こそっとジャンヌの方へ訊きに行く。
「できるのかい? 解呪」
「どう、でしょうか。心臓を貫き、治療を阻害する呪いですので……
現状これだけ回復できているのが驚嘆に値する状況でしょう。
……仮にこれを修復するならば、恐らく心臓と霊基を
ジャンヌの上げた方法。それを聞き、ふむと考え込む立香。
思い当たったのはひとつの方法、カルデアも幾度か見た光景。
「霊基再臨?」
「そうですね、それに等しいものならば可能性は。ただ……」
『カルデアのサーヴァントは召喚時点で霊基がカルデアに記録される。
要するに、それは健常な状態のサーヴァントの設計図。霊基再臨はそれをベースにして、一段階の底上げを行うものだ。つまり現状ラーマの設計図を持ち合わせていないボクらに、彼を再臨する方法はない……そういうことだね』
唐突に声を挟んできたロマニ。彼の言葉を肯定するように頷くジャンヌ。
ナイチンゲールを振り払ったラーマがそこで、彼女たちの方を向いた。
「ああ、その霊基再臨というのは分からんが
……とにかく、余の正常な霊基を知る者がこの特異点に呼ばれているのは確かだ。
その者に協力を仰げば、余の霊基の補強は叶うはずだ。
―――なので悪いが、余の目的であるその者の捜索を手伝ってほしい」
申し訳なさそうに顔を伏せるラーマ。
その様子を流し、ジャンヌの方へと視線を向けるナイチンゲール。
「彼の言うことは信じてもよいのですか?
その霊基の修復とやらが、半壊した心臓を修復する手助けになると?」
「あれ、看護師さん。確認とるなんて大分話を聞くようになった?」
「事実として彼女は心臓が壊死する速度を弱め、彼の体調の回復に貢献しました。
私の知らない病魔の治療法を理解している、というなら協力を求めます」
茶化すビリーを軽く睨み、すぐに彼女はジャンヌへと視線を戻した。
事実として治療の助けになった彼女の言葉を待つ。
ジャンヌは少し悩みながらも、しかし確かに首を縦に振る。
「霊基再臨が可能かどうかはわかりませんが、その方の協力があれば呪詛の解除ももう少し進められるかもしれません。可能性はあると思います」
ジャンヌの返答に大きく一度頷いてみせるナイチンゲール。
彼女はそのままラーマの方へと視線を向けた。
その視線は言い淀んでいる言葉があるように思われるラーマを睨んでいる。
「そうですか、では早急にその相手を捜索しましょう。
誰を探せばよいのですか? 早く教えなさい。時間の浪費はあなたの寿命を削ります」
「待て!? にじり寄るな!」
再び、今度は情報を求めてラーマに迫るナイチンゲール。
それを見ながらううむ、と悩む立香。
そんな彼女に対してブーディカが問いかける。
「どうしたんだい?」
「―――東側はほぼケルトのもの、ってことはその人は西側にいるのかな。
だとすると……エジソンかエレナ、カルナが知らないはずはなくて……うーん?」
「どこかに隠れてる、か。それこそジャンヌに感知してもらうしかないかもね……
あたしの戦車よりは、タイムマジーンにジャンヌを乗せて空中から探す方がいいかな。
それも危険だからできれば避けたい方法だけど……」
「そう、だね。とりあえず他の物資やなんかのためにも召喚サークルの設置を優先して、そこからラーマの尋ね人探しをするのがいいかな?
あ、エジソンたちに分けてもらえれば食糧なんかもこっちからカルデアの方に送りたいね」
あとお酒、と。分かりやすくひとりを思い浮かべながら口にする立香。
「―――っ、その者の名はシータ。余の妻、シータだ。
……恐らく見れば、そうと分かる容姿をしているだろう」
ナイチンゲールに詰め寄られたラーマは遂にその名を白状する。
見れば分かる容姿、とか。妻を探すのになぜ言い淀んでいたのか、とか。
いくつか疑問を浮かべながらジャンヌは首をひねる。
『―――英雄ラーマの妻、シータ。確か彼女は……』
「ああ! 余の半身とさえいえる彼女と出会うことができれば、間違いなく余の正常な霊基は観測できる! そうすれば何の問題もない。余の快復が叶った暁には、どのような敵であれ余の刃で討ち取ってみせよう!」
そう言い切った彼の首根っこをガシリと掴む腕。無論、ナイチンゲールのものだ。
「いいでしょう。それが治療に必須、というなら議論の余地はありません。
すぐに捜索にかかるべきです。ですが、私では件の彼の妻を見つけてもその治療行為に知識が足りません。ジャンヌ・ダルク、あなたの同行を要請します」
言われたジャンヌはすぐに立香へ視線を向け、
「私だけではなく、マスターたちとともに。こちらも時間が多くあるわけではありません。
出来る限り効率的に問題の解決を図りたいと思っています」
返された彼女の言葉に立香たちをちらりと見るナイチンゲール。
「もちろんこちらも、効率的かつ迅速に対応できるのであればそれに越したことはない。
彼女たちがその助けになるならば、是非とも協力を。では行きましょう。必要であればアメリカ全土を巡る必要があるのです。一秒とて無駄にはできません」
「ちょ、まっ……!」
そのままラーマを引きずりながら歩き出そうとする。
彼が上げようとした悲鳴を無視して、彼女は進軍を開始して―――
「待って。まず……うん、どう回るかを決めよう。手分けして探せるならそれでもいいし。
まだ私たちの仲間がいるから、最初にきっちりと決めちゃおう」
手を挙げて、彼女のそう告げる立香。
言われた彼女は一瞬止まり、立香の方へと顔を向ける。
交錯する視線。目を合わせたナイチンゲールは一瞬だけ目を細め、しかし同意を示した。
「いいでしょう。では、まずその仲間という方たちとの合流を」
じゃあ着いてきて、と立香は先導しながら歩き出す。
と言っても向かう先は結局のところこの村の入り口なのだが。
「そうね……じゃあこのルートを通って、この位置まではブーディカの戦車で。
そこで一度待機して、ロビンさんに偵察を任せて……」
戻ってみると、入り口にどこかの家から引っ張ってきたのかテーブルがある。
その上に広げた地図を指差しながら、ツクヨミは指示を飛ばしていた。
一時間以上経っているはずだが、彼女たちがここで討ち入りの予定を立てていたのだろうか。
「あ、先輩。ラーマさんの呪詛は……」
「うん、完全には解除できなかった。それで、現時点からの目的にラーマの奥さんのシータっていうサーヴァントの捜索を含めたいんだけど……」
彼女に気付いたマシュの声に応え、そのまま状況を説明する。
ラーマの復調は完全でなく、それを可能な限り良い状態に持っていくために必要なことだと。
聞きながら悩んでいたツクヨミが地図を睨んでいた視線を外し、ロビンを見上げる。
「偵察中にそういう話を聞いたこと、ありますか?」
「いや? ケルトに反抗しながらアメリカに属さないサーヴァントがいるなら、こちとらレジスタンス。引き込むためにさっさと声かけて―――」
そこまで口にしたロビンが黙り込む。
その反応を見て、ツクヨミたちは首を傾げた。
「ああ、いや。絶対に違うがひとり放置してるサーヴァントがいるな、と思い出しただけですよ。
真名も分かってるからスルーしてくれ」
「? 協力を要請できるサーヴァントなら教えてください。
今はどれだけ戦力があっても足りませんから」
「私たちもその話は聞いていないが?」
ジェロニモにまでつつかれ、ロビンは嫌そうに天を仰いだ。
「あー……場所はそれこそこっからなら霊地までの通り道だ。
言うまでもなくケルトの勢力圏なんだが……やってることと言えば、あー……アイドル、だ」
「アイドル……?」
首を傾げる単語の登場を受けつつ、マシュはひとりのサーヴァントを思い出す。
真紅の少女。ドラゴンボイスでサーヴァント界の頂点(オリコンチャート)を目指す、幾つかの特異点で出会ったり、彼女自身が特異点まで作り上げたという存在。
少しこわごわと、彼女はその名を呟くように口に出した。
「エリザベートさん系サーヴァントでしょうか……」
「うわ、なんだオタクら。あれ知ってんのか。そうだよ、エリザベートだよ。
破滅的な音で物理的に飛ぶ鳥を落とす勢いで歌ってるアイドル気取りがいるんですよ、ここ。
まあ放置してるって言ってもあいつ、実際のところ音波兵器としてケルトの進軍を止めてるって言っても過言じゃないんで放ってるところもあるんですがね」
「フォ……」
その名前の登場にマシュの頭の上でフォウが耳を畳む。
尻尾もだいぶへたっているように見える。
流石のフォウも彼女の歌の直撃はかなり嬉しくないようだ。
なぜエリザベートがこうして特異点にまたもいるのか。
その疑問に至った立香が考えて、ある考えに辿り着いて小さく呟いた。
「アメリカはハロウィンだった……?」
「……? いやまあ、ハロウィンの時期といえばハロウィンの時期だが。
それが一体何か……ああいや、やっぱ言わなくていい。絶対ろくなことじゃない」
直感というより経験則で耳を塞ぐロビン。絶対に聞かない、という姿勢だ。
そのスタンス、かしこい。立香は素直にそう思った。
その会話を聞いていたジェロニモが訝しげな表情で、ロビンと立香たちに視線を行き来させる。
「―――共通の知り合いであるサーヴァント、ということか? どちらも信頼に値する存在であることは間違いないと考えているように見えるが、どうだろうか」
「エリザベートはいい子だと思うよ」
「いや完全に悪い子ですわ。相当な反英霊ですよ、あいつ。
まあ、一応今は邪悪ってわけじゃないだろうが……」
溜め息混じりに頭を掻くロビン。
そんな話をしている彼らの横をすり抜けて、ツクヨミがマシュの方にくる。
マシュに耳打ちするように小声で問いかけるのは、エリザベートのことについて。
「……エリザベートって、あのフランスとローマで協力していた子のことよね?」
彼女が映像記録として確認したものの中に、その少女の姿もあったはずだ。
角と尾、竜の属性を持つ少女。
「はい。ロビンさんの口振りからして、間違いないかと。
フランスでは清姫さんと一緒に自身と同一存在であるカーミラを倒し、ローマではネロさんとアルテラさんの決戦を、その……歌で、こう……
お、応援してくださって? 逆転の一手を導くほどに貢献してくれた方です」
その紹介を聞いていたジャンヌもだいぶ渋い顔をしている。
実際彼女の貢献がなければ、ローマにおけるアルテラの戦いは負けていたかもしれない。
もちろん、フランスにおけるアナザーウィザードの決戦とて同様だ。
歌のアレささえ気にしなければ。そう、歌を気にしなければ。
彼女はカルデアにとてつもなく貢献してくれたサーヴァントのひとりなのだ。
「……そのエリザベートが誰か知らんが、こっからどうすんだよ。
マスターが言うように霊脈の方にカチ込むのか?」
椅子に座り、頬杖をつきながら。機嫌の悪そうなモードレッドはそう立香にそう問う。
その様子にふむ? と小首を傾げつつツクヨミを見る立香。
なにか? という視線を返されて、放置しておこうと即座に決める。
「そうだね。霊脈がケルトの方にしかないなら……そうなるかなぁ。
タイムマジーンやラーマに使えそうな治療薬なんかを含む物資を呼んだら、シータの捜索を……いや、そこまで行ったら一回デンバーに戻ってアメリカ軍も動かしてもらった方がいいかな。ケルトのサーヴァントと戦う機会があるなら、知らないか訊きたいところだけど……
とりあえずは足であるタイムマジーンの確保のため、ケルトの領地にこの戦力で攻め込む。ナイチンゲールは何か問題があると思う?」
「―――いえ。その足になる乗り物、というのは移動力を改善するのでしょう? 物資を増やしつつそうする、というなら文句はありません。方針が定まったのならば、早急な行動を」
「うん。その道中でエリザベートに声をかけて、合流できるようならしてもらおう」
マジかよ、というロビンの視線を流しつつ立香はブーディカを見た。
移動は迅速に、というのなら彼女の宝具以外にない。
この特異点にきてから彼女の宝具の使用時間が途轍もないことになっているが……
場合によっては令呪を切ってでも使ってもらわなければならないだろう。
今の状況、移動時間の短縮はそれだけの価値がある。
あくまで移動だけで戦闘にはあまり使っていないから大丈夫だとは思うが。
「ありがとー! ありがとー! みんなー! アタシの歌のためにこんなにー!」
死屍累々。
女王メイヴが増殖させた兵士たちは、東側から西側に流れ込む途中。ルート上にあるからと通りかかった町に入るたび、そこで轟く怪音波に脳をやられて倒れ伏していた。
彼らにまっとうな思考能力はなく、ただ蹂躙すべく戦うだけの怪物同然の存在。
だからこそ目の前に立ちはだかるドラゴンの咆哮を前に集い、当然のように全滅することを繰り返していた。倒れた兵士たちはそのまま消えていくが、すぐに後続の兵士たちは流れ込んでくる。
―――実質的に満員御礼。リピーターも上々。
もはやエリザベートは世界を取ったとさえ言えた。
彼女の歌の歌詞が流行語として一世を風靡する日は近いとさえ思われる。
いつ彼女のファッションが流行ってもいいように、今回の彼女は普段以上にキメキメだ。
フリルたっぷりドレスのスカートを揺らしながらドラゴンブレスを町中に轟かせる。
「―――いや、うん。これが竜種か、なるほどな。
驚くほどの肺活量、いや声帯? うーむ、どちらかというとあれだな、神言の類だ。
言葉の持つ音自体に破壊力が満載だ」
などと。一周回ってワンチャンスカウトの可能性もある言葉が彼女に届く。
はて、と。エリザが自分が歌い始めると同時に倒壊した家――恐らく丁度たまたま偶然寿命がきたのだろう――の上から、声のする方へと視線を向ける。。
そこには巨大な棍棒かと思うような剣を肩に乗せた、半裸の偉丈夫が立っていた。
他に人はいない。自分が気持ちよく歌っているうちに、あーんなにいたオーディエンスはいったいどこへ行ってしまったのか。
むすっとしながら彼女は男の方へと声をかける。
「なによ、アンタ。アタシのステージを邪魔しようっての?」
「いやいや、そういうわけではない。まあ、サーヴァントを見かけたからには一応訊かねばならんという話だ。
―――ランサー? と見受けた。どうだ、俺たちの側につかんか? まあ生憎なことに、こちらは人理を滅ぼす側なんだがな」
いっそにこやかにさえ見える様子で彼―――フェルグスはそう告げる。
その言葉にぴくりと肩を揺らし、エリザはくるりとスタンドマイクを回す。
スタンドマイク―――即ち、槍と化した監獄城チェイテ。
「へえ! アタシをスカウトってわけね! アイドルを見る目だけは褒めてあげる!
でもお生憎様、アタシ地下営業って向いてないの! っていうかアタシ、狭いハコはトラウマ的にノーサンキュー! 人理焼却だのなんだの、暗いところのある事務所に所属なんてナシ!
アタシをスカウトしたいなら、大手のプロデューサーになって出直してきなさい!」
くるりくるりとステップを踏みつつ決めポーズ。
同時に向けられる槍の穂先を見ながら、困ったような顔を浮かべるフェルグス。
彼は手で軽く顎を撫でながら、今向けられた言葉を反芻する、が。
「うむ……うむ、言ってることが半分も分からんが……
まあ、拒否されたということは分かるのでよし。では殺すか」
さっさと思考を切り上げて、彼は勢いよく剣を振り下ろした。
剣圧で砕け散った地面が砂塵を巻き上げる。
一太刀でその力を見せつける彼を前に、エリザベートは眉を吊り上げながら槍を構え直した。
歌は気にするな!
ドラゴンのソニックブレスとアパッチのおたけびが合わさり最強に見える。