Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
柱か棍棒か、あるいはドリルか。というような形状の巨大な剣、カラドボルグ。
それが振り抜かれると同時に吹き飛ぶ彼女が立つ家の残骸。
竜の翼を広げ、空を舞うエリザベート。彼女の眼下で廃材のアスレチックは微塵に粉砕され、撒き上げられた。
「おお? 角に尾に翼に……そして超音波。
まさしく竜だな、うん。いやはや、もうちょっと成熟してれば楽しめたかもしれん。
どっちの意味でもな」
じろじろと少女の角の先から爪先まで見回して、そう口にするフェルグス。
「何よそれ、馬鹿にしてくれちゃって!」
それに反応してエリザは槍を返し、投擲の姿勢に入る。
槍であり居城であるチェイテ。その形状はともかく、本来の質量は城のそれ。
彼女が空中で振り抜きながら手を離すと同時、その槍は巨大に膨れ上がった。
「む」
城そのままとはいかずとも、槍にはありえない超質量。
上から迫りくるそれを、彼はカラドボルクを両腕で構えて受け止めた。
みしり、と咆哮するフェルグスの筋肉。
同時に彼は口の端を吊り上げて、巨大な槍を受け止める巨大な剣を思い切り振り抜いていた。
弾き返される監獄城チェイテ。それは大きく回転しながら無事だった家屋を消し飛ばしつつ、大地に墓標の如く突き立って止まる。
「ウソ、デジマ!?」
槍が解放されていた城塞を収め、再び槍のサイズに戻っていく。
家屋の中に沈んでいく己の槍を見ながら、エリザが眉を吊り上げる。
剣を構え直すフェルグスを睨み、竜の鱗を立てた尾を振るうべく撓らせて―――
「ぬぅん―――ッ!」
その前に、相手の巨躯が大地を砕き空へと舞い上がっていた。
咄嗟に体を揺らし、竜の尾を振り抜くエリザベート。
自身に向けられたその竜鱗の一撃を前に、フェルグスは悠々と剣を振り返した。
尾と剣が激突し、一瞬のうちに弾き飛ばされる少女の肢体。
それは家屋の残骸を薙ぎ払いながら地面に叩き落とされ、盛大に転がった。
「く、ぁ……!」
どかん、と。巨躯を支える足が地面を踏み砕く。
着地の衝撃で埋まった足を引き抜きながら、フェルグスは歩き出した。
必死に起き上がり、槍が放り込まれた残骸の方へと視線を向けるエリザ。
カラドボルグを肩に乗せ、彼女に対して歩み寄りながら口を開く。
「闘志が尽きていないならば槍を探り当てるまで待ってやるのも一興だが……
まあ、童女を甚振るような真似は―――」
そう口にしつつ、彼は足を止めて視線をずらした。
フェルグスが振り向いた先には、轟音を立てて疾走する鋼鉄の馬。
二輪の脚で砂塵を巻き上げ向かい来るその姿を見て、彼は楽しげに顎に手を当てた。
「おお、クー・フーリンの奴が逃がした連中か。ははは、命拾いしたな。
お前が立てた城を見て、どうやら助けに全力疾走―――」
瞬間、雷光が奔る。
赤い稲妻を纏ったクラレントが投げ放たれ、フェルグスに向かって殺到していた。
それを思い切り上から叩き落とす彼の振るうカラドボルグ。
だが次の瞬間には剣を振り抜いた彼の顔面に、モードレッドの蹴りが叩き込まれていた。
「――――く、フッ!」
「かっ飛んどけ―――ッ!」
そのまま魔力が雷光となって炸裂する。
顔面にその雷撃が直撃したフェルグスが大きく吹き飛び、瓦礫の山へと激突した。爆発したように上空に撒き散らされた残骸が雨のように落ちてきて、彼の姿を中へと埋める。それに続くように乗り捨てられたライドストライカーが瓦礫に突っ込み、転倒して滑っていった。
弾かれ地面に叩きつけられていたクラレントを拾い上げ、軽く振るうモードレッド。
払った刀身をそのまま肩に乗せ、鎧をガチンと叩いて鳴らす。
「……ちょうどいいぜ。テメェらにだけじゃなく色々としてやられたストレス解消にはな。
おら、立つまでは待ってやる。そっから先は、テメェの首を飛ばすまではノンストップだ」
ドガン、と。フェルグスの足が瓦礫を一部吹き飛ばし、その巨躯をのっそりと起こす。
モードレッドの全開の殺気を心地良さそうに浴びながら、彼は表情を崩した。
「それは楽しみだな。折角の戦場だというのに戦闘に恵まれないと思っていたが……
いやはや、流石はクー・フーリン。あっちの奴は随分と楽しんでいたと見える。
こっちの奴とは大違いだ」
彼はそう言って呵々と笑い、
次の瞬間突き出したカラドボルグがクラレントと激突して爆ぜた。
盛大に火花と雷を散らし、周囲に残った家屋の残骸を焼き尽くしていく。
「オォオオオオオ――――ッ!!」
「ハハハハハ―――ッ! ようやく滾ってきたな――――!!」
技巧はあえて尽くさず、正面から刃を叩きつけ合う決戦。
押し込まれるモードレッドは魔力を爆発させて強引に体を押し出し、逆にフェルグスの方を押し込まんと力任せに剣を振り抜いていく。
文字通りの一進一退。
その決戦へと視線を送りながら―――
置いてけぼりになったエリザベートが、瓦礫の後ろに隠れながら身を縮こめていた。
螺旋剣に引き裂かれた雷撃が周囲に散り、バチバチと空気が爆ぜる中。彼女は軽く涙目になりながら、その状況への疑問を思い切り吐き出す。
「もう! いったい何なのよぉ! アタシが何したっていうの!?
ただ歌ってただけじゃない!」
「―――いや、オタク。結構なことやってますよ?」
そんな彼女の背後から声がして、エリザはすぐさま振り返った。
が、当然のように誰もいない。
―――と思いきや、緑衣が軽くはためいてそこにひとりの男が姿を現してみせる。
気怠げな表情を浮かべながら、彼は手にしたエリザの槍を地面に突いた。
「アンタ……グリーン! グリーンな森ネズミじゃない!」
「人を色で判別しないでくれますかねぇ!」
グリーン呼びされたロビンを声を荒げ、彼女の槍を突っ返す。
それを受け取りながらエリザは自信満々そうに胸を張った。
「安心しなさい、ただ衣装が緑だからグリーンなんじゃないわ。
アンタの立ち位置の地味さがまさにグリーン! っていう感じだからグリーンなのよ」
「全世界の緑色に謝れドラ娘!」
「で、なんでアンタがここにいるのよ森ネズミ」
けろりと話を変える彼女に眉をひくつかせ、しかし話を続けてる状況じゃないと思いなおす。
「……さっきのモードレッドのバイクに同乗させてもらったんですよ、“顔のない王”で姿隠しながら。最悪、何かあっても二人程度なら十分姿隠してやり過ごせるからな」
言いながら彼は腕に装備した弓に矢を番える。向ける先はフェルグス―――ではなく、空。
その様子を見ながら目を細めるエリザベート。
「ちょっと、どこ狙ってるのよ。敵はあっち、あっちのマッチョでしょ?」
「んなこた分かってるっての。これはただの合図だよ」
一射。放った瞬間から煙の尾を牽きながら、彼の放った矢は曲線を描いて飛んでいく。
遠くから見ても分かるような、明確な合図。それが高度を得て、見える場所まで届いた瞬間。総員を乗せた戦車が砂塵を巻き上げながら疾走を開始していた。
町からはまだ離れているが、一気に遠くで砂が舞うのを見てロビンは戦場へと視線を戻した。
横薙ぎに振るわれるカラドボルグを体を倒し躱す。
そのまま前に踏み込み、足を斬り飛ばさん勢いでクラレントを振るう。
だがフェルグスには切っ先が届く前に大きく後ろに跳ばれてしまった。
届かなかった刃が空を切り、しかしその直後に体勢を戻しつつ返す刃で再び斬り付ける。
同時に返ってきたカラドボルグ。
両者の刃が空中で衝突し、またも大きく火花を撒き散らした。
空に上がった煙を出す矢を見たフェルグスが小さく唸る。
「ふむ、他の連中もくるか。ならば早々に……まずお前は討ち取らんとな」
モードレッドが啖呵を返す間もなく、クラレントとぶつけ合うカラドボルグが唸りを上げる。
大気を蹂躙する魔力の渦。それが彼の手にあるドリルの如き刀身の剣に渦巻いていた。
それを理解したモードレッドが魔力を迸らせ、赤雷と変えて吼え立てる。
「やってみやがれ――――ッ!」
互いに大きく踏み込んで相手を大きく弾き飛ばす。
お互い押し込まれ地面を滑りながら開いた距離で、奥義を繰り出すべく振り上げ合う得物。
振り上げたままに剣に魔力を注ぐモードレッドの前で、フェルグスはカラドボルグの刀身を思い切り大地に振り下ろしていた。
「真の虹霓をお見せしよう、いざ“
「“
赤雷を纏う血色の極光が奔ると同時、大地を割りながら虹が地上に立ち上る。
竜が天へ上るが如く空にかかる虹霓がモードレッドへ向け迸った。
虹色の輝きと血色の極光が激突し、拮抗。
その状況を迎えたフェルグスが楽しげに口元を上げた。
「はは! 俺のカラドボルグと撃ち合うか! 流石は円卓に名を連ねたる騎士といったところだが……機会があれば、その名轟く聖剣とも撃ち合ってみたいものだ!」
「余裕こいてんじゃ……!」
「では一気に押し込むぞ!」
彼の握る螺旋剣の刀身が、ドリルの如く回転を開始する。
噴き出す虹の光は更に増して、クラレントの光を押し流し始めた。
「ぐっ……! 舐めるな―――ッ!」
魔力が爆発し、雷と極光が迫る虹の津波を押し返す。
が、押し返したそばからすぐさま更に氾濫する虹に呑み込まれていく赤の極光。
それがモードレッドまで届くかという、その直前。
白馬の牽く戦車が彼女の後ろにつけ、そこからひとり飛び出していた。
持ち主の身の丈ほどにもなる巨大なラウンドシールド。
それを突き出し、虹霓の只中に飛び込む彼女はその銘を叫ぶ。
「“
光の盾が二人の前に顕現し、迫りくる虹の津波を受け流す。
マシュが展開した盾の後ろで、魔力を振り絞っていたモードレッドが片膝をついた。
「くそっ……!」
「モードレッド、こちらへ!」
魔力切れの近い彼女を引き戻すジャンヌの腕。
それを見送りつつ、カラドボルグの一撃を受け流し切った相手を見据えてフェルグスは笑った。
「間に合わなかったか。まあ、よし。全員纏めて叩き潰せばいい……
うん? なんだ、ベオウルフの奴。姫君を取り戻され―――」
彼の視線は戦車に同乗していたラーマへ向かって、しかしすぐさま口を噤んだ。
それに反応して身を乗り出すラーマ。
「―――貴様、シータの居場所を知っているのか!?」
問い詰められてやはり、と表情を渋くするフェルグス。
彼は軽く頭を掻き、仕方なさげに口を開く。
「……口が滑ったな、片割れの王子の方だったか。
似ている上に雰囲気が弱々しいから姫君だと思い込んだ。死にかけているだけか……
まあ、ここまで口を滑らせたらあとは同じようなものか。うむ、お前の女の場所は知っている。あれだ。教えて欲しければ俺を倒せ、的な感じでいこう」
そこまで語ってさっさと話題を打ち切るフェルグス。
彼はカラドボルグを担ぎ直し、軽く首を回す。
「―――よくぞ言った。ならば余が直々に……! ぐぇっ!?
おい、待て、なぜ縛る! おい!!」
戦車から飛び出そうとしたラーマの首根っこを捕まえ、縛り出すナイチンゲール。
物理的なドクターストップをかけられているラーマを横目に、立香が立った。
そのままフェルグスに対して、声を張り上げ問いかける。
「ねえ! 主に女が好きな人は、なんでこの世界を滅ぼす側についてるの!」
その呼び方に他のサーヴァントたちは目を丸くし、ツクヨミは呆れたように彼女を見る。声を向けられたフェルグスはそれが自分のことだと疑いもせず、気にした風もなさそうに笑い飛ばした。
「さてなぁ……無理矢理協力させられてるのかもしれんし、友誼かもしれん。
もしかしたらただ戦いたいだけ、ということもあるかもしれんな。
俺たちが人理より自分の享楽を優先するようなもの、と言われても否定はできんしなぁ」
「―――つまりあなたたちは異物であり、病巣である。それを認めるということですか?
そもそも大勢の怪我人・病人を生むこの戦いの首謀者であり、この世界の患部であると」
ラーマを完全に固定したナイチンゲールが戦車を降りる。
白い手袋をはめ直しながら地上に降り立つ彼女は、敵か否かを彼に問うていた。
無論、と。フェルグスはその問いに答えを返す。
「応とも。俺たちが異物でなくてなんだという。首謀者かというと怪しいが。
だがまあ、異物は異物なりに呼ばれたからには楽しくやる、その程度の話だ。お前たちには迷惑だろうが、残念ながらケルトの人間はそういう連中の集まりだったんでな。
まあ、今のうちの王様がどう考えているのかは……俺からは言うまい。親しき仲にもなんとやら、という奴だ」
彼はどうせなら楽しんで、という理由でそちらにつく選択を是としたと言う。
それを聞いたナイチンゲールは一切の迷いなく、動作を開始した。
「では、切除を開始します。あなたたちが王と呼ぶ病巣もすべて」
「適切な処置だと言えるだろうな。まあ、出来るならの話だが」
フェルグスの言葉が終わる前に、ナイチンゲールは銃を抜いていた。
即座の発砲。連続して轟く銃声を聞き、それを剣で弾こうとして―――
しかし彼は、大きく横に飛ぶことで回避することを選択していた。
着地しつつナイチンゲールと別の方へと視線を送る。
そこに立っているのは、残念そうな表情を浮かべたビリーの姿。
その手の中には今まさに発砲したことを示す、硝煙を上げる銃口。
ナイチンゲールの発砲に完全に合わせて銃声を被せる、発砲した事実を隠した銃撃。それがフェルグスが迎撃を選んでいたら弾けなかっただろう位置に着弾し、地面を抉っていた。
「ふむ……速い。が、銃弾の方はどうとでもなろう。
―――ああ、それとカルデアのマスター。お前にひとつ訂正がある」
事も無げにビリーから意識を外し、立香へと視線を送るフェルグス。
「俺は主に女が好きなのではない」
ピンが飛ぶ。その直後、即座にフェルグスを向けて舞う黒い球体。
ナイチンゲールの投擲した手榴弾だ。
安全装置は解除され、数秒後の爆発が見えているそれ。
そんな爆発物を前にフェルグスは悠々と手を伸ばす。
巨体に相応しい大きな手が、宙を舞う手榴弾を掴み取り、握りしめた。
当然のように手の中で爆発する爆弾。
何でもないように手を開き、その破片を手の中から放り捨てつつ彼は笑う。
「主に女が―――大! 好きなのだ! そしてそれと同等以上に、血の滾る戦いがな!」
迫る鉄拳。当たり前のように殴りかかってくるナイチンゲールを、彼は腕を振るって薙ぎ払った。同時に視界外から飛び込んでくる矢。ロビンフッドの援護射撃を受け、彼は離れた位置に陣取るロビンとエリザを見た。
まず彼の体がそちらへと向かって大きく踏み込む。
「ちょ! 何してんのよネズミ! こっち来ちゃうじゃない!?」
「予想外……! あ、悪いけど槍でどうにかしてくれない?」
まさかまずこちらを向くとは、と。
ロビンが射撃を継続しながら、エリザに対して迎撃を要請する。
どちらにせよそうするしかない現状、咄嗟に彼女は槍を持ち上げて構えた。
が、彼女たちに届く前のその間に白い旗が翻る。
振り抜かれるカラドボルグを受け止める、フランスを示す旗。
螺旋剣が旗と激突し、ジャンヌが踏み堪えた地面が激震する。
「っ……!」
そのまま旗を操り、受け流すための姿勢に入る彼女。
ギャリギャリと音を立てながら削りくるカラドボルグが逸らされ、地面へと叩きつけられた。
粉砕される大地が破片を巻き上げ、それに紛れるようにナイフが一閃した。
身を躱しながら振り抜く足が、ジェロニモの体を吹き飛ばす。
「くっ……!」
押し戻されてくる彼の体を避けながら、再びナイチンゲールが迫る。
突き出される拳を胸で受け止めたフェルグスが、一歩分押し込まれた。
そのままロビンの矢とビリーの銃撃から逃れるため大きく後ろに跳ぶ。
同時に螺旋剣に魔力が渦巻き、その破壊力を引き出すための前兆を見せる。
「ふむ、流石にそちらの手が多すぎてどうにもならんな。
その上、先に見た盾といい旗持ちといい守りには事欠かないと見える」
後ろで待機している戦車も守護のためのそれ。
あそこにいて戦場に加護を与え続ける以上、更なる守りと合わせればカラドボルグですら突破は困難と言わざるを得ない。
さてどこから崩すか、と。楽しげに笑みを浮かべるフェルグス。
そんなフェルグスを見ながら、歯軋りしながら魔力の回復に努めるモードレッドにツクヨミが小声で声をかけた。
「……宝具のために令呪を使うわ。行ける?」
「―――ったりめーだ。このまま引っ込んでられるか」
言って走り出すモードレッド。
攻撃力という点でフェルグスに追従できるのは、この場で彼女の剣だけだ。
彼女を送り出したツクヨミが立香と顔を会わせて頷き合う。
すぐさま戦車を降り走り出す彼女の背を見送って、ブーディカへと声をかける。
「ブーディカ!」
「ああ!」
手綱を引き、白馬を嘶かせ、彼女はその剣を振り上げる。
自然と引き寄せられるフェルグスの視線の前で、その剣は光を帯びた。
「“
放たれる無数の光弾。
真名解放の攻撃とはいえ、威力はそこそこ。彼の力と魔剣カラドボルグをもってすれば、容易に凌ぎ切れる程度の攻撃だ。
だがそれはフェルグスを狙うのみならず、地面へと無数に着弾して砂塵を巻き上げていた。
微かに眉を顰める彼に対し、その攻撃に合わせたナイチンゲールとビリーによる射撃も続く。剛力でもってカラドボルグを振り回し、それら全てを迎撃するフェルグス。
ある程度視界が晴れると同時に、彼は周囲に視線を巡らせた。
銃弾は来るのに矢が来ない。
エリザベートは槍を地面に突き刺しているが、先程まで一緒にいた緑衣のアーチャーは消えている。戦車から走り出した白衣のマスターの姿も消えた。
―――そのマスターだけをアーチャーが逃がした、ということはあるまい。
恐らくはアーチャーの力で身を隠しているのだろう、ということに予想はつく。
だがさて、こちらのカラドボルグの範囲を前に人間が前に出るなど自殺行為でしかないが……
砂塵を突き抜け、モードレッドが来襲する。
魔力はまだ戻っていないだろう。少なくとも宝具を解放できるほどには。
薙ぎ払うカラドボルグを正面から受け止めて、彼女は魔力を放出する。
無論、今の状態でこの方法による攻防を数度行えばそれだけで彼女の魔力は尽きるだろう。
「となれば―――逆転のための一手まで、二手も三手もかからんものと見た」
モードレッドと切り結ぶ内にも射撃は容赦なく彼を狙う。
カラドボルグの巻き起こす魔力の渦で弾き切れないものは、最早必要経費。
急所だけは避けつつ体で銃弾を受け止めながら、彼は凄絶に笑う。
「エリザベート!」
「ええ、よく分からないけど歌えばいいのね!?」
立香の声に応え、エリザベートはチェイテ城を現界させる。
大地に突き刺した槍の背後に聳え立つ監獄城。アンプでありスピーカーであるその居城を背負い、彼女は翼を広げて地面に突き刺した槍の上に飛び乗った。
「どんな状況だろうとオーディエンスに求められれば応えてみせるのが一流のアイドル!
さあ、リクエストナンバーよ! 盛大に魅せてあげる!」
そう言い歌う彼女の喉から轟くソニックブレス。
放たれる瞬間にモードレッドが飛び退り、同時に破滅の超音波がフェルグスを襲い来る。
周囲のサーヴァントたちまで耳を押さえながら顔を顰める地獄の中、フェルグスは堪えながらやはり周囲を見回してみせた。
この範囲攻撃の中、しかし姿を消した二人が見当たらない。
音圧は明らかにフェルグス周辺が最も強い。アーチャーはともかく、マスターの方は耐えられまい。忍び寄っているということは恐らく、ない。
「となれば……!」
「エリザベート、ストップ!!」
「ふぇ、もう!?」
ドラゴンブレスを引き裂く立香の声。
突然の静止に声を止め、バランスを崩したエリザベートが転がり落ちる。
彼女の背後で監獄城が沈んでいく。
突然の打ち切りに怪訝な表情を浮かべるフェルグス―――
その瞬間、彼の目の前でモードレッドの魔力が増大した。
増えた魔力は全てクラレントに。
膨れ上がる魔力はすぐさま刀身から溢れ出し、血色の光と赤い稲妻を纏う光の刃を形成する。
「令呪か―――!」
王剣を手にモードレッドが踏み出した。明らかに極光を放つための動作ではない。それは極光を纏った刃で直接フェルグスを斬り捨てるための踏み込み。
だがフェルグスのカラドボルグは常に臨界させたまま戦っていた。この程度の隙の作り方では、彼の宝具の発動の方がよほど速い。
天地天空大回転。極限まで加速したカラドボルグの刀身が虹を帯びた。
あとはそれを大地に突き立てれば、この町だった場所を丸ごと消し飛ばすほどの一撃の準備ができている。
「さて、戦車に盾に祈り。それほどの守りを備えたところで、この一撃を防ぎ切れるかな?」
持ち上げた剣の切っ先を大地に向け、正面から向かってくるモードレッドに対し笑う。
彼女はクラレントを構えたまま小さく舌打ちし―――
「“
「チッ……ああそうだよ、オレの一撃じゃ騎士王の聖剣にさえ匹敵するそれは止められねぇ。
だから……その前にオレの刃で斬り捨ててやるよ―――!」
モードレッドが咆哮する。同時、フェルグスの頭上で緑衣が翻った。
〈エクシードチャージ!〉
天上から放たれる赤い光。
それはカラドボルグを構えたフェルグスの腕に直撃し、彼の動きを封じてみせた。
あと振り下ろせばいいだけの腕が動かなくなったことに。そして頭上に現れた二人の姿に。
フェルグスがその眉を吊り上げた。
「な、に……!?」
彼に光弾を放った白い少女と、それを抱えたアーチャー。
彼女たちは勢い余って彼を飛び越えてそのままフェルグスの後ろに落下し、何とかアーチャーの方が受け身を取るように転がっていく。
その勢いこそ腑に落ちた。エリザベートの歌はただの目、あるい耳晦ましでしかないと。
本当に必要だったのは、この一瞬のための跳躍。
フェルグスとモードレッドが宝具を構え合い激突する寸前、その一瞬前にフェルグスに気付かれないよう辿り着くための――――
エリザベートの超音波を浴びせ、フェルグスの周囲の警戒を一段下げてから高所から落下する勢いも合わせてフェルグスに急速で接近。こうして動きを一秒の満たない間しか止められない一撃を当てて――――
「“
最後の一歩を踏み切って、下から上に振り上げる軌道で振り抜かれる王の威光。
ミシリミシリと悲鳴を上げる腕を強引に突き動かし、フェルグスもまた最後の一撃を放つべくカラドボルグを振り抜かんとし、
「
「
全ての魔力の乗せた刃が、彼の腰から入り肩まで切り裂いていった。
極光の熱量と赤雷に身を焼かれ、霊基を砕かれ、心臓を破裂させられる。
カラドボルグを掴んでいた腕から力が抜け、掴んでさえいられなくなり―――しかし、それだけは死力を尽くして握り締めた。
フェルグスの背中から突き抜け、天上へと昇っていく血色の光。
それが収まる頃に、彼はゆっくりとすっかりと停止したカラドボルグの刀身を肩に乗せた。
今に全身が砕け、魔力に還りそうになりながら彼はしかと二本の足で地面を踏みしめる。
「う、む……はは、やってくれる。負けたら聞かれたことを白状する、などと言ってなければ今のでそのまま消滅していたところだ」
「そうだ! シータのことを知っているのだな!? 貴様たち、シータに何をした!」
ぐるぐる巻きにされていたラーマが戦車から身を乗り出し、彼に対して叫んでいた。
口から溢れる血を飲み下し、フェルグスは微笑みさえしながら答えを返す。
「何も。と言いたいが、どうしているかなど俺は知らん。
ただ……その姫君は、西側の孤島、アルカトラズだったか……そこの牢獄に、捕えているという話だ。言った通り、そこは女王がベオウルフに任せている。くは、流石に辛いな。
訊きたいことがあるならなるべく早く聞け。敗者の義務分くらいは、答えてやるぞ」
「勝敗がつくまえに約束した分はそこだけだろ。それ以上は取り立てねぇよ。
―――敗者の義務なんてもんがあるなら、テメェはさっさとそれを果たしな」
未だに白煙を上げるクラレントを肩に乗せ、彼を切り裂いたモードレッドはそう告げる。
「ふ―――はは、そうか。では、敗者の義務として、そろそろ……死ぬか」
ぶわり、とその瞬間に彼の体が砕け散り、黄金の光となって散らばっていく。
完全に退去した彼の残骸を見つめ、モードレッドは小さく舌打ちした。
地面にとんでもない勢いで激突することになったロビンとツクヨミが起き上がり、こちらに向かってきていた。庇われたツクヨミはそうでもないが、ロビンは随分とダメージが大きく……
「あぁ、死ぬかと思った。正気かよ、このマスター……つーか痛ぇ……」
「ごめんなさい……大丈夫ですか? ナイチンゲールさん、治療ってできるでしょうか?」
「ちょ」
ラーマを縛り直していたナイチンゲールがツクヨミの声に反応し、ロビンの方を向く。
彼女がすぐさま脳内でトリアージし、ロビンに対しての治療のために動き出す。
当然のように銃を抜いた彼女を前に彼は声を張り上げる。
「いやいやいや! 全然大丈夫なんで! めっちゃ元気!?」
「それを判断するのは医師の仕事です、死にたくなければ大人しく診察されなさい」
そんな光景を見ながら、エリザは何が何やらと言いたげな表情を浮かべた。
「それで……これ、結局どういう状況なのよ?」
とりあえず敵は強いアピールのためにモードレッドとクラレントが大体犠牲になってる
はっきりわかんだね