Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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オーマジオウガチャに勝ったので初祝福の時です。
ソウゴの新録ボイスいいゾ~これ。
ライダーゲーの新作も出して。
 


空と薔薇と白い流星1864

 

 

 

「へー、どうせならアタシももっと都会的なところで出たかったのに」

 

 ロビンの案内を受け、霊脈として確保できる場所に向かいつつ説明を受けたエリザベートはそんなことを言った。雑談混じりのロンドンの話のせいだろうが、残念なことにあそこで文明的な体験はあまりしなかったような気がする。

 マシュは苦笑しながら言葉を濁し、周囲を見渡した。

 

 フェルグスの打倒を果たした彼女たちは、そのままの勢いで霊脈があるという近くの森へと向かった。当初の予定は、付近でフェルグスとの戦闘を行った以上、偵察や奇襲をしようと足を止めることの方がデメリットに繋がるだろうという判断だ。

 大々的な戦闘を行った以上、相手が集まってきて囲まれる可能性が大きくなった。ならば速攻で召喚サークルの確保をして、一度撤退するべきだ、と。

 

 一気に乗り込んだ霊脈の位置にケルト兵士は大した数はおらず、電撃的な突撃はあっさりと成功した。状況を見るに、こちら方面に流れていた兵たちは、エリザベートのライブでおおよそ昇天していたのだろう。

 

 そうして確保した土地に盾を設置しながら、今まさに召喚サークルを設置中。 

 

「アルカトラズ、ってなんか最近監獄に縁があるね」

 

 立香はそう言ってツクヨミに話を振る。

 そんな話を振られてどうすればいいのか、と彼女は眉を顰めた。

 

「縁がないにこしたことはないものでしょう」

 

「では……レディ・立香、レディ・ツクヨミ。

 今後の予定を煮詰めましょう。この場で移動手段を確保し、アルカトラズ島に向かう件についてです」

 

 そう言ってナイチンゲールは地図を広げた。

 フェルグスが残した情報、アルカトラズ島にラーマの探す人が囚われているという話。東側、西側どちらでもない大陸外の小島。船が必要になるところだったが、タイムマジーンさえあれば空から侵入できるだろう。

 

 とはいえ、行けば終わりで済む話ではない。

 周囲の警戒をしていたジェロニモが目を眇めながらひとつ名前を思い起こす。

 

「……だが、フェルグスはベオウルフという名を残していった」

 

「ベオウルフ……グレンデルという魔物や、竜を討ったという逸話を持つ英雄ですね」

 

「戦闘になる……のはしょうがないとして、飛んでる間に撃ち落とされる可能性があるのもあんまり嬉しくないっていうか。うーん」

 

 竜殺しの英雄、となれば飛んでる相手くらいどうにかできるだろう。

 そんな何となくのイメージで首を傾げる立香。

 

「そうなったらソウゴにタイムマジーンを動かしてもらうしかないんじゃないかい?」

 

 ブーディカはタイムマジーンの能力……

 ライドウォッチ変更による能力向上を考え、そう口にした。フォーゼなりビーストなり、飛行能力を上昇させる方法はあるのだ。それを活かさない手はないだろう。

 だがそうするには方法がひとつしかない。

 

「……一度アメリカ軍の方に合流し、チームを分け直す?」

 

「―――しかし、ここでエリザベート=バートリーが実質的に行っていた、ケルト兵の()()()を完全に無くすのもあまり上手くはない……即座に決戦に移行しないのならば、だが」

 

「アタシのライブを間引き呼ばわりしないでくれない!?」

 

 ジェロニモに対し吼えるエリザ。

 

 敵のサーヴァントは少なくともまだクー・フーリン、メイヴ、フィン、ディルムッド、アルジュナ。そしてベオウルフ。

 他はまだしも、クー・フーリンやアルジュナが前に来た場合を考えると、ケルト兵を間引くためだけの小さい戦力を孤立させておくのは少し難しい。

 そしてその二人に対抗するためには、ラーマの復帰は必須と言っていい。

 

「……うん。所長にも相談しなきゃだけど、でも三ヵ所に分散するべきじゃないよね。

 ラーマの回復を優先して、とにかく先にアルカトラズを落とすべきかな」

 

「―――あ、先輩。召喚サークル、設置完了です。

 こちらからカルデアへの通信を繋いで、諸々の物資を転送してもらい……」

 

『……いぞ!? 早く撤退するんだ! このままじゃ全滅する!』

 

 マシュがカルデアへの通信を実行した、その瞬間だ。

 ロマニの叫ぶような悲鳴が、この場に響く。その声を聞いた皆がぎょっとした様子で表情を変えて、ツクヨミはすぐさまその相手に問いかけていた。

 

「ロマニさん! 一体何が……!?」

 

『……っ! そちらは……ああ、いや。すまない、そちらの物資は後回しだ!

 所長たちの方で戦闘中で……今、ネロが心臓を貫かれた……!』

 

「……え?」

 

 切羽詰まったロマニの声に、エリザベートが小さく声を漏らす。

 その後ろで、話を聞いていたナイチンゲールが僅かに目を細めていた。

 

 

 

 

 基地から見える地平線に砂塵が立ち、ケルトの兵士たちが攻めてきたことを理解する。

 すぐさま基地内の動きは忙しくなって、迎撃するための機械化歩兵たちはいつでも銃弾を放てるように腕を構えだした。

 

 その光景を遠くに見ながら、正面へと視線を戻す。

 彼の目前に現れ、弓を携えている白衣の男―――アルジュナ。

 相対するカルナは槍を握りしめ、アルジュナを見据えた。

 だがその相手が弓を構えることはない。

 

「―――どういうつもりだ、アルジュナ。多くのことについて、そう問いかけたいところだが……今回は、その弓を構えない理由を問いたい」

 

「決まっている、おまえは先日のカルデアとの戦いで魔力を消耗し回復に至っていない。インドラの槍を解放したからには、貴様の纏う鎧はもはや外見だけのもの。挙句、その槍による一撃を放つだけの魔力も残っていないとなれば、勝負以前の問題だ。ならば、戦うべきは今ではない。

 私はおまえがあちらの戦闘に回らないようにするため、()()になるべくこの場にいるにすぎない。私がおまえを抑え、おまえは私を抑える。両軍にとって、理想的な状況になっているはずだが?」

 

 再び黄金の鎧を纏うカルナを見据える彼は淡々とそう語った。

 何ということはない、という風に。

 

「……そうか。オレに、お前との戦いに死力を尽くせと言うか。抗い難い魅力のある言葉だが……生憎、既にこの国を救わんとする人間の槍となる、と誓った後だ。

 オレのやりたいことばかり考えてはいられん」

 

 槍を握る手に力を籠め、カルナはアルジュナを睨む。

 それを正面から睨み返しながら、アルジュナもまた言葉を返した。

 

「……だからこうしたのだ。おまえがアメリカとカルデアのために動けば、俺もまたアメリカとカルデアという存在の抹消のために動こう。

 ―――おまえは動くな、互いのためにもな」

 

 静かな、しかし激情を孕んだ彼の言葉。そのためならばシヴァの怒りの解放さえ辞さぬ、と。彼の燃える瞳はそう語っている。

 微かに槍の穂先を下ろし、眉を顰めるカルナ。

 彼は横目でアメリカ軍の戦場へと視線を送り、小さく息を吐いた。

 

 

 

 

 剣林弾雨を潜り抜け、炎を纏った剣が閃く。

 そのたびにケルトの兵士がひとり、またひとりと切り伏せられて消えていく。

 背後から機械化歩兵たちがばら撒く弾丸もまた、兵士たちを蹂躙していた。

 

「一度退け、距離を詰められる前に一度私の宝具を使う」

 

 背後からアタランテの声。

 戦闘中のネロの背中を簡単に取ってみせた彼女は、ネロが振り向くと既に彼方の距離にいた。

 

「うむ、味方といえどこうも速さの違いを見せつけられるとムムッ、となるな!」

 

 言いながら周囲の兵士を纏めて斬り捨て、彼女は基地の方へと疾走する。

 

 それを見届けたアタランテが二矢を番えた弓を空へと向けた。

 銃弾の雨を強引に突き抜けようとしてくる彼らを一気に蹴散らすための宝具。

 

「―――“訴状の矢文(ポイポス・カタストロフェ)”!!」

 

 彼女の手より離れ天へと昇っていく矢。

 それは空の中に溶けて消え、次の瞬間には空から矢の雨が降り注いでいた。

 雲霞の如く押し寄せるケルトの兵士たちの数さえ凌駕する、天から放たれた矢が大軍を貫き蹂躙する。

 

 そうして薙ぎ払われる兵士たちの間をすり抜け、前進を止めない影が二つ。

 頭上から来る矢を槍で払いながら、二人の勇士が颯爽と躍り出た。

 

「フィン・マックールに、ディルムッド・オディナ……!」

 

 兵士たちをかき分け疾走する二騎のサーヴァント。

 矢を改めて番えながら、アタランテがその二人を睨む。

 

 既にエレナはデンバーまで下がっていった。カルナは先に戦場に出て、恐らくアルジュナだろう気配に対して行動を起こしている。

 現状、こちらのサーヴァントはネロとアタランテのみ。大きく削ったケルト兵士たちは、もう機械化歩兵だけでも止めきれるだろう。

 ならば、ネロとアタランテだけでそれぞれ一騎打ちに持ち込んでもいいが―――

 

 ちらりと彼女が後ろに視線を向ければ、オルガマリーはソウゴに指令を出しているところだった。彼は頷くと、ドライバーを持ち出している。

 もしもの備えとしての温存するのではなく、速攻でどちらかを撃破する方針を取るということだろう。

 

 再び戦場に駆け出すネロとも視線を交わす。

 あの二人のどちらを優先して仕留めるか。決まっている、司令塔でもあるだろうフィン・マックールだ。ではどうやって仕留めるか。こちらも決まっている、ジオウが合流した時点でその相手のみをネロの宝具に取り込み強制的に2対1に持ち込むのだ。

 

 ―――ならばアタランテが相手をするべきは、当然。

 

 番えた矢を放ち、放たれた矢は二槍の前に弾かれる。

 ディルムッドの視線が向けられると同時、アタランテの精神に微弱な干渉が走った。

 それに対して不快げに舌打ちをひとつ。

 その感覚を振り払って、矢を番えながらの疾走を開始する。

 

「貴様の相手は私がしよう」

 

 ギシリと軋む弦。そこから放たれた砲撃にも等しい射撃。

 それを魔槍でもって凌ぎながら、彼は小さく眉を顰めた。

 

「……いざ、我が魔槍でもって」

 

 槍の冴えに陰りはなく、その妙技でもって怒涛の矢衾を対応する。

 だが明らかに彼の表情が曇っていることにアタランテは目を眇めた。

 

 その様子を横目にしていたフィンが困ったように微笑み、そして向かってくるネロに対して向き直る。

 

「やれやれ、私の戦場に供をする機会が久しいからといって、そう拗ねるものでもあるまいに。少し会わぬうちによほど神経質になったようだ。

 槍を二本、というのが駄目かな。二槍では拘りすぎ、二刀では恐らく豪放にすぎる。やはりディルムッドには一槍一刀がよく似合うと、このようなところで再認することになろうとは」

 

 斬り込んでくる炎の刃。それを水流を伴う槍で迎え撃つ。

 炎と水は相殺し、残された剣と槍が激突して火花を散らした。

 擦れる鋼の音を響かせながらの鍔迫り合い。その中で二人が言葉を交わす。

 

「部下への愚痴か? そのようなことを戦場で語るとは!」

 

「ははは、むしろ上司への愚痴という奴だが……まあ、私がディルムッドに愚痴られる上司でもあるのは否定しようがないが。

 せっかくの殺し合いなら、どうあれ胸がすく終わりであれと思うのは私もそうだ。が、王が殺すことを優先しろというのならそうするだけさ。

 一応、謝っておこう。不意打ちをしてすまない、とね」

 

「何が不意打ちかは知らぬが、だったらこちらも謝罪しておこう―――!」

 

 剣と槍が弾け合い、互いに距離を開ける。

 その間に駆け込みながら、ソウゴは腰に装着したジクウドライバーの操作を完了していた。

 

「変身!」

 

 時計盤を背負いながら走る彼の体が、ジオウのスーツに包まれていく。

 “ライダー”の文字が背後の時計から射出されその頭部に収まると同時、ジオウは剣を取り出しフィンに斬りかかっていた。

 

〈仮面ライダージオウ!〉

 

「これよりは二対一、そしてその戦場こそ我が“招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)”!!

 早急に貴様を討ち取るべく整えた―――」

 

 周囲の空間を真紅と黄金に染め上げる彼女の宝具。

 兵士を吹き飛ばし、ディルムッドも引き離した今、彼に援護は望めない。

 孤立させたフィンを取り込み、ネロとジオウの二人で一気に撃破に持ち込む戦運び。

 

 ローマの栄華を象徴するネロ・クラウディウスの劇場が展開するのを見て、その場でジオウと切り結ぶフィンは僅かに目を細めた。

 

 ―――直後に、バヂリと何かが壊れる音がした。

 

 その音の音源は、ネロの背後。

 何が? と疑問を口にしながら振り返る前に、彼女の耳に声が届く。

 

「―――呵々。なるほど、世界を己に塗り替える術なれば、その世界では儂の圏境が破れるのは道理であるか」

 

「―――――な」

 

 何者だ、そう口にしようとしたネロの胸が弾ける。

 それは、彼女の背から突き抜ける槍の一撃が成したこと。

 

 展開した直後だった黄金劇場はあっさりと崩れ、何もなかったように消え失せる。

 槍を引き抜いた男はその姿を見て、微かに眉を上げた。

 

「いつぞやとは逆になった、と言いたいが。さて?」

 

「あっ……ぐ、!」

 

 心臓と霊核を砕かれながら、彼女は何とか動き出す。

 そのまま消えていなければおかしいような致命傷を、しかし彼女は凌駕する。

 死することは避けられずとも、それまでの時間を力尽くで引き延ばす。

 

 彼女の逸話のみならず、皇帝として得ることのできる致命傷からの延命効果を総動員し、ネロは思い切り回転するように背後に剣を振り抜いた。

 

 苦し紛れに振るわれた剣を躱し―――

 更に追撃に放たれた銃弾を躱すため、彼は大きく飛び退いた。

 ネロの援護のために銃撃をそちらに向けたジオウの背に、フィンの振るう槍が直撃する。

 

「ッ……ネロ!!」

 

〈スイカアームズ! コダマ!〉

 

 ジオウがフィンに吹き飛ばされながらも投げるコダマスイカ。

 それは空中で四肢を展開し、ネロの元へと飛んでいく。

 

〈コダマシンガン!〉

 

 スイカの種のような弾丸が男に向け無数に放たれる。

 少しだけ顔を顰めた彼はそれを躱すように更に下がり、その隙にコダマは片膝をついたネロのすぐそばに着地した。

 

 だが同時に、男の姿と気配は再び完全に消え失せた。

 

「何度見ても見事なものだ、残念なことに。

 これほど暗殺に長けた将が動かせるのでは、私たちは本当に時間を稼ぐだけでいいことになってしまう。まあ、王の目的を果たすためならそれでいいのだがね。

 戦士としては、残念至極という他ない」

 

 本当に残念そうに。しかし、それを止める気など毛頭無いと言うように。

 フィンはそうして槍をジオウに向ける。

 それを無視して彼は、ジュウモードのジカンギレードにフォーゼウォッチを装填していた。

 

〈フィニッシュタイム! フォーゼ!〉

 

 ジュウを構えに入るジオウに対して突き出されるフィンの槍。

 その寸前、彼の目前にルーンの輝きを灯す石が投げ込まれた。

 

「む」

 

 破裂し、衝撃を撒き散らすルーンストーン。出所へと視線を送れば、戦場を後ろで見ていたマスターのひとりの仕業とすぐに分かる。

 

 オルガマリーが作ってくれた一瞬。

 そこでジカンギレードはレーダー効果を発揮し、気を周囲と合一し消えている存在を科学的な見地による捜索により発見。その銃口を過たず男の方へと向けていた。

 

〈スレスレシューティング!〉

 

 消えたところで銃口を向けられれば発見されていると分かる。男は当然のように次にくるだろう攻撃に備え―――銃口から凄まじい勢いで噴き出した墨の水流に呑み込まれた。

 

「なんと……! そう来たか!」

 

 姿を消しているはずの彼が、墨の塊として黒い人影で浮かび上がる。

 

 ただの墨ではないだろう。その程度なら共に消えられるはずだ。

 が、彼の全身を浸した墨は、ペンで使うためにコズミックエナジーにより生成されたもの。そしてコズミックエナジーは宇宙に漂う未知のエネルギー。

 それを全身に浴びた彼は、彼自身の気をこの大地と合一させて姿を消しても、別のエネルギーである墨だけはきっちりと世界に異物として残ってしまう。

 

 圏境を打ち切り、彼は顔をも覆った墨を拭う。

 

「どうしたものか、これでは暗殺どころではない。どうする、フィンよ」

 

「ふむ? 私の水で洗い流してみる、というのはどうかな?」

 

「呵々。これを洗い流すために戦神由来の水を浴びては元も子もない。

 儂が消えたところで、神気が強くて浮いて見えるわ!」

 

 彼らが言葉を交わしているうちにコダマは必死にネロの体を引きずり、そして駆け寄ってきたオルガマリーが彼女の肩を担ぎ上げ、離れるために走り出す。

 

「す、まぬ……よもや、余が暗殺される側に回ろうとは……」

 

「喋らなくていいわ……! 自分の維持のために全力を尽くしなさい……!」

 

 肩を貸しているネロが、殊勝にも謝ろうとするのを止める。

 

 だが、心臓と霊核の完全破壊。もはや修復できる段階を超えている。致命傷を負ってなお存在できる戦闘続行系のスキルを有するネロだからまだ残っていられるだけだ。

 その上で今は逆にジオウが二対一を強要されている戦場。

 こちらがアタランテにディルムッドを足止めさせようとしたように、あちらも元からディルムッドはアタランテの足止めとしての運用だったのだろう。

 

「では、暗殺は取りやめようか。こちらの暗殺作戦を彼らは正面から打ち破り、仕方なく決戦にもつれ込んだ……これならば王にも面目は立つだろう。で、あるならば……」

 

 フィンはそう言って、軽く槍を振るう。

 その穂先から水が溢れ、男の被った墨を洗い流していく。ずぶ濡れになった体と槍を軽く振り回し、彼は滴る水を払った。

 

「墨よりは神気に濡れた方がサマになるだろう。

 では行こうか、李書文。作戦変更、正面突破だ。そういうわけだディルムッド! 今回ばかりは王と女王のためではなく、私のために存分にその槍を振るうがいい!」

 

 フィンが声を放つと同時、防戦に徹していたディルムッドが踏み込む。

 無数の矢を弾きながら前進する彼に、アタランテがその弓を武器として振り抜いた。弓と槍が激突し、もう片方の槍で追撃しようとしたディルムッドをアタランテの蹴撃が襲う。

 

 嬉々として動き始めたその槍兵を見て笑った書文が、己も槍を構え直す。

 

「呵々! そちらの方がよほど楽しめる。では、儂は仕留め損ないを始末しよう。

 一戦一殺、此度の闘争における儂の獲物は既に明確よ」

 

「させ、るか……ッ!」

 

 ジカンギレードが書文と呼ばれた男に振るわれる。

 彼が手にした槍がギレードの刀身を突き、いとも容易く受け流された。

 

 即座に切り返される穂先をギレードで受け止めたジオウの胴体を、フィンの槍が直撃。

 盛大に火花を散らして彼の姿が宙を舞う。

 

 その姿の直後、オルガマリーに今までよりだいぶ明確になった声が届く。

 明らかに通信状態が改善された声。

 もしや召喚サークルの設置に成功したのかもしれない。が、今はそれどころではない。

 

『っ……! サーヴァント二騎とソウゴくんが戦闘開始……!

 不味いぞ!? 早く撤退するんだ! このままじゃ全滅する!』

 

「分かってるわよ……! ただ仮にデンバーまで退くとして、こっちには……!」

 

 ロマニの声に必死に頭を回すオルガマリー。

 そのうちにロマニは立香たちからの方からも声をかけられているのか、受け答えをしている様子で―――

 

「―――ロマニ! 召喚サークルの設置は済んだのね!? 物資は!?」

 

『え? あ、いやまだ……!』

 

「だったらすぐに送りなさい! タイムマジーンだけでいいから! 早く!!」

 

 余裕もなく怒鳴り、彼女はすぐに振り返った。

 超絶技巧により攻撃すら許さぬほどの怒涛の槍捌き、李書文。

 それを装甲の堅牢さに任せて強引に打ち破ろうとするジオウを制し、押し返すフィン・マックール。

 

 通信先をカルデアからソウゴに切り替え、彼女はすぐに指示を出した。

 

 

 

 

『すまない! 所長の指示だ! すぐにそっちにタイムマジーンを送るから待っててくれ!』

 

 場合によっては速攻での霊脈攻略を考えていたため、タイムマジーンの転送準備自体は万全だ。

 数分とかからずそれはこっちに送られてくるだろう。

 だが、マジーンをここから全力で飛ばしても、現場に辿り着くためにかかる時間は恐らくは2時間弱。それほどの距離が、物理的に開いている。

 

 だからこちらにそれを送ったところで、向こうの状況は改善しない。

 今の状況を変えられる方法があるとするならば―――

 

「……タイムマジーンに乗るのは私とマシュ!

 他のみんなは先にジェロニモたちの拠点に戻ってて、お願い!

 ブーディカ、令呪を使う。多分それなら私が離れてても戦車の魔力に足りるよね!」

 

「立香?」

 

「心臓を損傷した患者がいると聞きました。あなたにそれがどうにかできる、と?」

 

 その状況を聞いて同道する気だったのだろう。

 ナイチンゲールは立香に問いかける。

 タイムマジーンの転送が始まる中、彼女はその問いかけに強く頷いて答えを示した。

 

「だから今から、どうにかしに行くんだよ」

 

「―――分かりました。私にはこの状況でそれを覆す手段がなく、しかしあなたには救う手段があるというならば、私もそれに従いましょう」

 

「ア、アタシもついてっちゃダメ!? ネロが死にかけてるって……! ちょっ!?」

 

 立香に詰め寄ろうとしたエリザの角をガシリ、と掴むナイチンゲールの手。

 彼女に最後まで喋らせることなく、そのまま引っ張っていく。

 

「―――状況ちょっとよく分かってないけど、スピード勝負って感じ?

 ならしょうがないね。そういうシチュエーションだと、頭数よりメンバーが重要だ。

 実際、君とカルデアの司令塔は通じ合ってるみたいだし」

 

 頑張ってね、と言ってビリーも踵を返していく。

 立香はツクヨミに視線を送り、一度首を縦に振る。

 その直後に転送されてきたマジーン目掛け走り出し、マシュに抱えられて飛び乗った。

 

 即座に出発するタイムマジーン。

 高速で飛翔するその飛行物体が目指すのは―――空。

 完全に上昇だけを考えた軌道。

 

「上空に……?」

 

 見送ったツクヨミが微かに首を傾げ、しかしそこで彼女たちが何をしようとしているのか理解した。だとするなら、後は向こうのソウゴ次第だ。

 

「ツクヨミ、こっちも下がるよ。いつまでもここにいて、他の兵士たちに襲われてもいけない」

 

 ブーディカの声に頷き、彼女も戦車の方へ行く。

 今ここであちらが失敗した時のことを考えるだけ無駄だ。

 成功させてきた彼女たちと一緒に、次のアルカトラズ攻略を行うことを考えていればいい。

 

「頼んだわよ。立香、マシュ……ソウゴ」

 

 

 

 

 オルガマリーからの指示を受けたソウゴは、ライドウォッチを手にしていた。

 

〈フォーゼ!〉

 

 ジカンギレードから脱着したウォッチを、そのままジクウドライバーへ。

 瞬時にそれを回転させると、彼はそのまま即座にドライバーのウォッチをリューズを押し込んだ。更に連続で回転させるジクウドライバー。

 

〈アーマータイム! フォーゼ!〉

〈フィニッシュタイム! フォーゼ!〉

 

 空中より飛来した白いロケットがジオウの鎧となると同時、両腕に装着されたブースターを前方へと向けるジオウ。

 それは盛大に炎を噴いて、ミサイルの如くそれぞれフィンと書文に向かって飛んだ。

 

〈リミット! タイムブレーク!!〉

 

 真正面からの突破に対して、容易にその攻撃を避ける二人。

 そのブースターは二人の脇をすり抜けて、そのまま軌道を変えて上空へと飛び去って行く。

 

「……? 飛ばしたら飛ばしたままか……?」

 

 反転して戻ってくることに備えていたフィンが眉根を寄せる。

 ブースターはその加速のまま天空へと翔け上がり、瞬く間に空の彼方へ消えていった。

 

 その攻撃を潜り抜けた書文の刺突がフォーゼアーマーを叩く。

 表面に切っ先が接触するや、破裂音と火花を散らすアーマーとスーツ。

 

 ブースターを手放し空いた手にジカンギレードを握りしめ、可能な限り書文の攻撃を逸らしながら、ジオウは意識を集中させる。

 フォーゼアーマーを解除される致命的な一撃だけは受けてはいけない。だが、それ以外の攻撃はギリギリ逸らすだけでも十分だ。

 

「―――――」

 

 コズミックエナジーを集中し射出したブースターモジュール。

 それら単体だけで空へと放ち、やりたかったこと。

 ここからの状況の逆転を叶えられる一手。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「―――――見つ、けたッ!」

 

 地上から空高く、数十キロまで飛べば最早動体は存在しない。

 同等に飛べるタイムマジーンさえいなければ、だが。

 1000キロ近い距離があろうとも、レーダーは大きな物体がそこにあるという事実だけは察知する。詳細は判別できなくても、答えはひとつしかないのだ。ならば、何の問題もない。

 

 ジオウの頭部アンテナユニット、クロックブレードAが情報を受信。

 情報集約ユニット、オウシグナルがその情報を瞬時に整理し、統括ユニットであるコアリューズに記録する。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 脚部のブースターを思い切り噴かし、炎を撒きながら大きくジャンプ。

 その場で銃撃を乱射する。

 

 乱雑に撒き散らされた銃撃を嫌ってか、書文が一歩退き―――そのままネロの方へと跳び込んでいった。

 しかしフィンはその場に残り、水流を伴う槍でジオウを制する。

 

 水流の直撃を受け撃墜されながら、ジオウは新たにウォッチを取りつつ視線で書文を追う。

 

「くっ……!」

 

「アーチャー!!」

 

 だが、ネロを抱えたオルガマリーはそれを制するように叫んでいた。

 

 槍と弓、その得物差でありながら至近距離で戦闘を受けていたアタランテが取って返す。

 一瞬の間に放たれるのは連続して三射。いずれも山なりの軌道を描く曲射であり、それは書文の前進を妨げるように彼の前へと突き立った。

 

「逃がさん―――ッ!」

 

 その隙を見せたアタランテをディルムッドの槍が襲う。

 咄嗟に掲げられた彼女の弓を朱槍で弾き、左手に構えた黄槍を突き出す。

 

「“必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)”――――!!」

 

「ッ……!?」

 

 そうして突き出された刃が、弓を握る彼女の腕の肩を引き裂いた。

 鮮血を散らしながら、一瞬だけ目を細めるアタランテ。

 正確な刺突は彼女の腕から力を奪い、片腕の動作が不能となった。

 

「チィ……!」

 

 吐き捨てつつ、ぶらりと右腕を垂らしながら即座に弓を左に持ち変える。

 片腕がこれではもはや矢は放てず、放てたとしてろくに狙いもつけれず威力も出せまい。

 

 だがそれでも、書文に一歩ブレーキを踏ませた時点で間に合った。

 

〈アーマータイム! ウィザード!〉

 

 撃墜されたジオウが地に落ちながら、その宝石の鎧を身に纏う。

 ジオウの処理ユニットが導き、認識される()()()()()()()()()()()

 

 彼が何とか着地すると同時。

 その背後に魔法の門が生じ、エアバイク型のマシンが中から凄まじい勢いで出現した。

 地面を削りながら力任せのブレーキで勢いを殺しつつ、オルガマリーたちの方へと向かっていく巨大な機械。

 

「なるほど」

 

 それを呼べたことに一瞬安堵したジオウの前で、フィンが小さく笑った。

 彼の手には穂先を向けるように突き出された槍。

 先端に水流が収束していくのを理解し、ジオウは即座にディフェンドの守りを展開する。

 

「―――っ!」

 

「それがこれまでの立ち回りを制限してでも呼び込みたかったものかな?

 では、それが逆転のための切り札という認識でいいのだろう……が。ならば流石に、みすみす見逃すわけにもいくまい―――――“無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)”!!」

 

 放たれるは水で造られる神をも殺す魔の槍。

 噴き出す水そのままに放たれるその刺突は、ジオウの広げた土の壁を容易に貫いて、ウィザードアーマーを纏うジオウも掠めただけで吹き飛ばし、そしてタイムマジーンに直撃した。

 

 後部。人型に変形すれば足になる部分を貫かれ、爆炎を上げるタイムマジーン。

 その勢いで滑るだけでなく、転倒して回転しながらオルガマリーたちに向かっていく。

 

「オ、オルガマリー……!」

 

「逃げてる暇はないの……!」

 

 酷い状態になって転がってくるそれを前に、直撃しようものならひとたまりもない。

 ならばオルガマリーでも逃がすべき、と。

 そう行動しようとしたネロを押さえつけ、彼女はその場に留まり準備を進める。

 

 中は一体どうなっているか。

 しかし回転するタイムマジーンがその場で変形を開始し、腕を地面に叩きつけ力任せのブレーキ。その勢いでスピードは落ちたが、思い切りきりもみ回転しながら吹き飛ぶ巨体。

 

「小っちゃいの!」

 

〈コダマビッグバン!〉

 

 オルガマリーの叫びと同時、コダマスイカが巨大なスイカ状のエネルギーの塊と変わった。

 落ちてくるタイムマジーンの巨体を受け止め、スイカが割れるように赤い果肉らしきものを撒き散らしながら砕け散るエネルギー体。

 

 直後。立香を抱えながら、マシュがその中から飛び出していた。

 彼女はオルガマリーの近くに着地すると同時、立香と盾を放り出す。

 

「所長、マスターをお願いします!」

 

「すぐにやるわ! 藤丸!!」

 

 その声のすぐ後に、タイムマジーンの墜落が巻き上げた砂塵を突き破る書文の姿―――と、同時。同じように砂塵を突き破り、ジオウが投げ放っただろうジカンギレードがマシュの足元に突き刺さった。

 

 書文の槍が届く前にそれを引き抜き、構えるマシュ。

 だがその構えを見て、書文は呆れたように声を上げた。

 

「呵々、剣を扱い慣れたような構えだけはしている。

 が、刃を振るうことにまるで経験はないと見た。それなら、無手の方がまだマシよ―――!」

 

 彼女の中の英霊が剣に長けていたとして、マシュ本人は剣を構えることにすら向いていない。自身でさえもそれを理解している。だが、今回ばかりはあの盾を構えられない事情がある。

 唇を噛み締めて剣を構えるマシュの前で、慣れぬ剣を構えるその少女を薙ぎ払うつもりで槍を構えた。その進攻が己に届く前に、マシュは思い切り剣を振り抜いた。

 

「やぁあああ――――ッ!」

 

〈ウィザード! ギリギリスラッシュ!〉

 

「ぬッ……!?」

 

 迸る炎の渦。彼女の前に、渦巻く炎が盾となって顕現する。

 大きく広がる熱量の壁を前に、微か書文の踏み込む速度が弱まった。

 目の前に迫った相手は、武器の打ち合いこそが本領の英雄。

 この盾で時間さえ稼げれば―――

 

「―――その剣の魔力がこの盾を支えるものと見た。

 ならば我が槍、“破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)”に破れぬ道理なし」

 

「え――――!?」

 

 炎の壁ごしに届く、静かな声。

 直後にそこを突き破り、紅槍がマシュを目掛けて突き出してきていた。

 咄嗟に剣でそれを受け止めると同時、ウィザードウォッチからの魔力供給が失せる。

 

 一気にかき消えていく炎の盾の向こうには、多少の炎を浴びてもものともしない、ディルムッド・オディナの姿があった。彼の体には矢襖、幾つもの矢が突き刺さっている。

 だが今のアタランテの放てる矢で彼に致命傷を与えることは困難だった。故に、その身に矢を浴びることになろうと、彼女が隙を作ることになっても稼ごうとした時間を詰めにきた。

 彼が槍を振るった勢いで、マシュの手からジカンギレードが弾かれる。

 

「あ……ッ!?」

 

 砕け散り、舞って、消える。炎の盾の残滓。

 

 周囲に広がって泡沫のように消える、真紅の灯り。

 ―――その中に、白の光が混ざった。

 

 条件が整ったのは、ギリギリの話だった。

 この特異点とカルデアの繋がりを強くし、場合によってはこの時代でも召喚行為を行えるようにする召喚サークルの設置。

 海、第三特異点以降に縁のなかったセイバークラスの敵騎、フェルグスの撃破。

 ラーマという存在のために行っていた―――()()()()()()()

 

「ダ・ヴィンチ!!」

 

「ダ・ヴィンチちゃん!!」

 

 設置したマシュの盾に身を沈めたネロを前に、二人が全霊の叫びをあげる。

 盾から迸る魔力が柱となって天を衝き、赤に塗れた薔薇の皇帝を呑み込んだ。

 

『―――行ける……!? ってこれ……いやそうか、霊基を一度完全に破壊されたから……!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?』

 

 舞い散る炎に白薔薇の乱舞が混じり、吹き荒れる。

 直後、赤き薔薇の皇帝が純白の流星となって光の柱より放たれた。

 

 突然立ち昇った光の柱、そちらに視線を送った書文の前に姿は現すそれこそが―――

 

「―――開け、“招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)”マリッジバージョン!

 即ち―――ヌプティアエ・ドムス・アウレアなり!!」

 

 真紅を白銀に染めた劇場が彼女の言葉で屹立する。

 そこに強引に取り込まれた書文に迫る彼女の姿は一変していた。

 ドレス、というより拘束具染みた純白の衣装。

 

 それに身を包んだネロ・クラウディウスは、同じく真紅から純白に色を変えた剣を手に流星の如く降り注ぎ、その剣を奔らせた。

 先に味わった彼女の劇場に取り込まれた場合の負荷を加味してなお動けると判断した書文がしかし、その身にかかる重圧で足取りを一歩遅らせた。

 

「なんと……!」

 

「―――“星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)”!!!」

 

 星さえも撃ち落さんと振り上げられる槍に先んじ、純白の流星は相手を斬り裂いていた。

 致命傷を受けたことに対して、見誤ったと笑う李書文。

 その一撃が終わると同時にすぐさま崩れていく純白の劇場。

 

 相手を斬り抜いた姿勢のまま息を荒げ、膝を落とすネロ。

 

「書文殿……!」

 

 二人の決着を見て声を漏らすディルムッド。

 そんな彼の目前で、

 

「マシュ!!」

 

 重量軽減の魔術か、盾をマシュに向かって投擲するオルガマリー。

 それをガシリと強く掴み取り、彼女はディルムッドに向かって突き出していた。

 

 マシュがその盾の目標とするのは、彼の背中に無数に突き立つ矢の一本。

 膂力が足りずに彼の筋肉を貫き切れなかった、アタランテの矢だ。

 そんな状況で放った矢であったのに、狙いばかりは正確無比であった。

 その矢を思い切り叩き込めば、そのまま心臓を破るだろうというほどに。

 

 狙いは即座にディルムッドに看破される。

 だが彼とてこの場で背中の矢を抜いている余裕はない。迅速にマシュを突破しようとした彼の前、構えられた盾の裏から―――投げられる前から引っ付いていたコダマスイカが飛び出した。

 

「な―――?」

 

〈スイカボーリング!〉

 

 その小さな機械が高速で回転し、エネルギーを纏った球体となり、ディルムッドの足へと突撃していた。

 咄嗟に振るわれる彼の槍―――を、彼方からの矢が直撃した。弾かれる、というほどの威力ではない。ただ本当に逸らすだけの、力の入っていない矢の一撃。

 だが小さな機械の体当たりを達成させるには、それだけで十分だった。

 

 足を打ち据えられ、一瞬だけ崩れるバランス。

 その隙を逃すような真似をしないほどには―――彼女が潜り抜けてきた戦いだって、かつての英雄が経てきた戦いにだって負けていなかった。

 

「はあぁあああああ―――――ッ!!!」

 

 全力でスイングされる盾の一撃が、彼の背にある矢を心臓まで叩き込む。

 その一撃を受け、称賛するようにディルムッド・オディナは小さく息を吐いた。

 

 一瞬の攻防で変化する戦場。

 己の放った水の槍で砕かれた土の壁が土砂となって降り注ぐ中、フィンが軽く目を眇めた。

 

 その直後。水煙と砂塵が入り混じる風景の中から、真紅のボディが飛び出してくる。

 

〈ヒッサツ! タイムブレーク!!〉

 

 直線に伸びてくる真正面からの一撃。それは確かに迎撃の難しい威力かもしれない。

 だが、このタイミングでの使用では幾らでも避けることが―――と。

 

 フィンが驚いたように自身の足を見る。

 彼の宝具で破壊された土壁。それが爆散して散らばるのは気にしていなかった。

 が、それに紛れた相手の仕掛けがあったらしい。

 

 ()()()()()()()()()()()()()。それを引き剥がそうとすれば、一秒とかかるまい。

 が、その一瞬だけ動きを止められれば良かったのだ。

 

「おぉおおおお――――ッ!!」

 

 ドライブアーマーの一撃がフィンを打ち砕く。

 彼を突き抜けた真紅のボディが地を滑り、急停車して白煙を上げる。

 

 ―――間違いなく致命傷。その傷を受けながら、彼は朗らかにさえ見える様子で微笑んだ。

 

「―――いや、中々良い戦いだった。だがこの勝敗自体には、どこか安堵さえ覚えてしまうのは私だけだろうかな」

 

「いえ、フィン・マックール。我が王……それは私も同じこと。

 生きるために、明日のために、命を懸ける。それの輝かしさの前に打ち伏せられると言うならば、それもまた我らの命の使い道として正しいものだったかと」

 

 膝を落とし、消滅の時を待つディルムッド。

 彼の言葉を聞いて、フィンは声を上げて笑ってみせる。

 

「ははは、だろうな。今生の王は生の喜びとは無縁だったからな。

 ―――だがその力ばかりは圧倒的だ。如何なる生への願望をもってしても、彼の前では死ぬしかない。さて、君たちのその意思が彼のクー・フーリンに届くかどうか……」

 

「届くよ」

 

 声をかけられ、フィンはジオウと視線を交わす。

 その兜の中に秘められたソウゴと直接目を合わせるかのように。

 

「―――そうか。では、我らはここで退場することとしよう。

 さて、死への壮途だ。ディルムッド、供にきてくれるかな?」

 

「は―――喜んで」

 

 光となって崩れ落ちる二人のランサー。

 同じく致命傷を受けている書文は、ちらりと未だ膝を落とすネロを見た。

 

「……逆転劇まで同じとは。だがまあ、これはこれで是とするか。

 我が身の恥を晒すつもりで残していくが……クー・フーリンは倒せん。少なくとも、今のお前たちでさえもな。そうと確信し、せめて世界が滅びるまでに槍の極致を、と彷徨っていた次第。

 そこでフィンと会い、ここでこうして死ぬわけだ」

 

「……それほどの」

 

「まあ儂とて世界に滅びてほしいわけでもない。お前たちが倒してくれるならばそれに越したことはないのだがな。だが努々忘れるな、あれは別格だ。

 今のままの戦力や、この世界にいるサーヴァントを全て集めればどうにかなる、などという思い上がりは捨てておけ……呵々、その戦力を削ろうとした儂のセリフではなかったか」

 

 そう言って、腕を組んだ彼はそのまま目を瞑る。

 はらりと崩れ落ちる李書文の体。彼はその言葉を最後に、この世界から退去した。

 

 

 




 
霊衣に卵を要求するのを止めろ。
繰り返す霊衣に卵を要求するのを止めろ。
 

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