Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
激突した勢いで弾け合うジオウとアナザーオーズ。
二人は玉座から離れ、揃って地上へと落ちていく。
その場に取り残されたメイヴが眼下へと顔を向け、クラン・カラティンを見た。
薙ぎ払われ、崩れ落ちていく魔神。
それらが散らしていくメダルを見て、メイヴは小さく肩を竦めた。
「頑張るのね。ええ、でも残念」
―――彼女が何という事はない、とその様子に対して微笑みを浮かべる。
すると、メダルが全て渦巻いて再び魔神の肉体を形成していく。
すぐさま聳え、並び立つ二十八の腐肉の柱。
「なんと……!」
「そいつらはただのメダルの集合体。核がある限り、何度だって修復する。
多少メダルが欠けたところで、地上を切り崩して消費すれば無限に再生可能なの」
言いながら。メダルの器は周囲の大地や木々、山を切り崩して消費する。
欲望は留まることを知らず、あらゆるものを己のために浪費していく。
例え―――いつか、この星の全てを喰らい尽くすのだとしても。
「“
再生したものどもを撃ち抜くべく、アタランテが弓を掲げて矢を放つ。
天に消えていく二神に向けた矢。それは地上に降り注ぐ矢の雨となり、魔神の蔓延る地上へと一息に降り注いだ。
その効果範囲には当然のようにメイヴも含まれて―――
全ての魔神の眼球が彼女の頭上に迫る矢を捉え、空中で爆発を巻き起こした。
魔神の眼に、肉に、突き立ち潰す矢の雨。
己らが矢を受ける事にはまるで構わず、魔神は全てメイヴを守るために動いていた。
「つまり……!」
モードレッドが地を蹴り、空中へと舞い上がる。
その彼女の背後から銀色の巨大な円盤型飛行物体が飛来した。モードレッドの頭上を取ったその飛行物体はトラクタービームを照射し、彼女の体を吸い上げていく。
円盤の上にはエレナ・ブラヴァツキー。彼女は吸い上げたモードレッドを自身の隣に召喚しながら、円盤を操作して敵の飛行物体へと加速させた。
「行くわよ、“
二大神の降らせた矢こそメイヴには届かなかったが、それでも魔神の眼の大半が潰れた。
今ならば迎撃を考慮せずに、彼女の元へと突っ込める。
同時に、そのUFOと追従するように飛ぶエアバイク形態のタイムマジーン。
そこに乗り込んでいるツクヨミが思い切りレバーを引き、人型に変形させた。
現れる巨大オーズウォッチが頭部に合体し、機体はオーズの力を得る。
腕からトラの爪を展開、更にバッタの脚力を発揮して跳躍ひとつ。
マジーンはメイヴを目掛けて躍りかかった。
「魔神たちの核になっているのは、召喚したあなた!」
「ええ、その通り。聖杯の所有者である私がメダルを糧に召喚した魔神だもの。
当然、私が消えれば維持できなくなるでしょう」
何体かの魔神が地上で崩れ、メダルの山に変わる。
ジャラジャラと音を立てながらそれらはメイヴの立つ器に回収されていき―――
彼女の立つその表面を、肉と眼の壁で塗り潰した。
迫りくるマジーン、そしてUFOに対して眼が輝き、熱線を発する。
その熱量を受け止め押し返されるタイムマジーンと、咄嗟に回避行動に移るUFO。
「……っ、近づけないわね……!」
エレナが小さく呟きながら、UFOから光線を発しメイヴに対して攻撃を仕掛ける。
だが魔神の放つ光芒に相殺され、目標である彼女にまで到達することはない。
トラの爪で熱線を切り払いながら、マジーンの中でツクヨミが顔を苦渋を浮かべた。
「先に魔神をどうにかしなくちゃ届かない……!
でも、魔神は何度でも再生する……どうすれば……!」
振り抜かれる強大な爪。
それをトラクローZが迎え撃ち、刃が噛み合って押し合うような姿勢に入る。
数秒の拮抗の後、弾き飛ばされるのはジオウの方だった。
クローを地面に突き立てて減速しながら体勢を立て直す彼に対し、アナザーオーズは肩を張る。
〈トリケラァ…!〉
撃ち出される肩の角。
それは因果逆転の効果を有して、ジオウの心臓を目掛けて殺到した。
〈フィニッシュタイム! スレスレシューティング!〉
迫る二本の角に対し、即座にギレードを取り出したジオウが銃撃を撃ち放つ。
そこに装填されたマッハのウォッチが力を発し、角の動きにストップをかける。
停止の標識を浮かべながら止まった攻撃に対してジオウは即座にジュウをケンに変え、装填しているウォッチも入れ替えた。
〈フィニッシュタイム! ドライブ! ギリギリスラッシュ!〉
黄金の光を纏った剣が停止した角を二つ纏めて斬り付ける。
―――が、それは角に傷ひとつ付けることはない。
そのまま剣を構え直したジオウの前で一時停止が終わり、再び角が動き出し……
角の上にルーレットが現れ、回り出してすぐに止まった。
まったくバラバラな絵柄を完成させたルーレットの運命に従い、
外された角を引き戻しながら、アナザーオーズが腰を落とした。
遠距離攻撃ではなく飛び掛かるための姿勢。
「ハ―――オレの槍は見慣れてる、ってか」
「うん、まあね。だからこそ……こんなところで負けられない」
ギレードを握る手に力を籠めるジオウの前で、クー・フーリンは更に腰を落とした。
直後の突進に備えて剣を振るうために構え直す。
そんな彼の前で、アナザーオーズはその腕をジオウではなく地面に向けて叩き付けていた。
「―――っ!」
割れた大地から引き抜いた爪は、明らかに形状が変化している。
ただでさえ巨大だった爪は更に肥大化し、最早爪というより斧のようなものだ。
それが更に変形し、彼の腕を砲身のような姿に変えていく。
息を呑むソウゴの後ろから、周囲に散らばっていた銀色のメダルがアナザーオーズを目掛けて飛んできて―――その腕の中に呑み込まれていった。
〈ゴックン…! プットティラーノヒッサーツ…!〉
「槍が通じねえなら別の方法で殺せばいいだけだ。やりようなんざ幾らでもある」
言うや否や、彼の掲げた腕が恐獣の咆哮とともに極光を撃ち放つ。
即座にドライバーに手をかけるジオウの前に、二つの影が割り込んでくる。
白い旗が翻り、その前には巨大なラウンドシールドが突き出された。
その影とは言うまでもなく―――
「“
「“
神の御業の再現と、光の盾が聳え立つ。
砲撃に伴い射出された因果逆転の魔槍であれ、けして攻撃を通さぬという守護の概念が立ちはだかったのならば、後は純粋な威力勝負。熱線と槍が同時に押し寄せる一撃は、相乗する守りの輝きに塞き止められていた。
撃ち終えたクー・フーリンが目の前で増えた敵に軽く肩を竦め―――
そうしてまた、セルメダルを自身の方へと引き寄せた。
「また……!」
「―――こうして、死ぬまで続けりゃいいだけだ」
光の壁に対して再び紫紺の砲撃が迸る。
その直撃に見舞われながら、マシュとジャンヌは自身の宝具に力を込めた。
メイヴがその足場にある程度引き寄せたとはいえ、その場の魔神は二十を超える。
一体、二体の話であれば死力を尽くして打ち破るという話になろう。
だが戦えば戦うほどに再生のためのメダルを生み出し、無限に再生し続ける魔神など、まともに相手ができるはずもなかった。
「だがそれでも、我らは諦めるわけにはいかん……!
我が偉業よ―――万人の明日を取り戻すために戦う英雄たちの道行を照らせ!
“
彼の足元からせり上がってくる『EDISON』のロゴマーク。
それは光を発して世界を照らし出し、大地を覆う神秘を剥奪する。
魔神さえもその光の中では動きを緩慢にし、再生速度が目に見えて落ちた。
そんな動きの鈍った魔神のひとつに、巨大なコヨーテが体当たりして薙ぎ倒す。
足跡を追ってくる太陽光で無数の眼を焼きつつ、その獣は雄叫びを挙げた。
コヨーテを支えつつ、短刀を投擲して眼をひとつでも多くと潰していたジェロニモが、EDISONロゴを見上げて声を漏らした。
「神秘の減衰、か?」
「否! 世界に隠秘されていたモノを白日の下に晒し、その上で私が接収するものである!
私は発明王エジソン! ならば例えそれが神秘などというものであろうが、オープンにした上で―――改良して普及させるまで!」
魔神のみが動きを鈍くし、サーヴァントたちはむしろ能力を向上させる。
そのロゴの上で胸を張りながら、更に彼は叫んだ。
「ついでにこれらの神秘などという概念について誰も特許を取っていなかったので私が取る! そこに神秘としてある以上、きっちりロイヤリティーを収めてもらう! 神秘としてこの世界に存在したいなら、私に場所代を払うがいい!」
目前の敵たちから更に魔力を奪いさえしようとするライオン。
―――だが、流石にそこまでは通らない。
生きている魔神の眼が一斉にエジソンを向き、そこから光を放射した。
その間に割り込む、守護の車輪。
剣から放つ光と合わせ、ブーディカが魔神の攻撃を何とか凌いだ。
「ぬぅ……流石にそこは審査が通らないか……!」
「それでもあいつらは確かに弱ってる……! そのまま維持して!」
手綱を引いて空を翔ける戦車を操り、彼女はEDISONロゴの前に陣取った。
ただ相手が多少弱っただけならここを守り切れるはずもない、が―――
魔神柱が三柱纏めて吹き飛び、メダルを撒き散らした。
黄金の輝きに包まれた槍の投擲が成した戦果。
エジソンの宝具を受けながらもしかし、遅々としながら再生を開始する魔神。
その間に弓を構えた彼は、そこに手にした剣を番えて別の魔神たちに向ける。
放される手。放たれた剣は黄金の矢となって、そのまま再び三つの柱を灰燼に帰した。
「満ち足りた今の余は―――誰が相手だろうと、負ける気がせぬ!!」
再生は始まる。だがその間に魔神は何度でも打ち砕かれる。
聖人ヴィシュヴァーミトラより授かった、神魔にさえも対抗する武装の数々。それを手にした荒ぶるラーマは、魔神であっても凌駕する戦神となって戦場を席捲していた。
ラーマの狙いから外れ、稼働する残りの魔神。
それらが攻撃を放つために眼を光らせる度、銃弾と矢がその眼を片端から潰していく。
「休む暇なしだ。まあ、楽な方の仕事回してもらってていう事じゃないけど!」
クイックドロウ、腕の動きが見えぬほどの早撃ちは、彼が視界に捉えた魔神の眼へと正確に叩き込まれていく。一撃で潰すにたる威力がない以上、ひとつの眼に対して三発の銃弾を。
ぐしゃぐしゃに潰れた眼が攻撃として放つつもりだった魔力を暴走させ、自爆するような形で炎を噴き上げる。
彼の手が回らない他の魔神に対しては、天穹の弓から放たれる無数の矢。
これもまた正確な狙いで、一撃ごとに確実にひとつ魔神の眼を吹き飛ばしていく。
「―――ここで押し留めるのが精々か……!」
間断なく放たれ続ける矢。
そうしながら視線を向ける先は、再び黒と紫の極光が爆発する戦場。
そちらに戦力を回したいが、だからと言って魔神たちを野放しにするわけにはいかない。ここで攻めを遅らせれば、再生速度と撃退速度が釣り合わなくなる。
剣と槍を重ねて魔神を斬り裂くネロとエリザベート。
二人は呼吸を揃えて手近な魔神を斬り付け、返り血の代わりにメダルを浴びながら戦い続ける。
「ああっ、もう! このメダル!
さっきからびったんびったん当たってきて鬱陶しいったら!」
「気にしている場合か! ひたすら斬り続けよ! 後は―――」
白い剣閃が魔神に深々と突き刺さり、そのまま振り抜かれる。
ジャラジャラと流れ落ちてくるメダルの波。
それを蹴散らしながら、彼女は砲撃の爆心地となった方向へと視線を向けた。
「……マスターたちが成し遂げるとも!」
剣を握り直し、更に一閃。
メダルの雨を浴びながらネロは更なる再生を終えた次の魔神の元へと駆け出した。
丘陵地が溶解し、流れ落ちていく。
互いの放つ熱量は留まることを知らずに高まり続け、交錯し続ける。
アルジュナが微かに指に力を籠め、一際魔力を注いだ矢を番えた。溢れ出す炎は矢羽から噴き出す推進力と変わり、カルナを目掛けて奔る必殺の一撃となる。
その一撃の予兆を見て取ったカルナが、槍を一度回して投擲の構えを見せた。
「“
「“
互いに放つ必殺の一撃。
ミサイルの如く推進力を得た矢は通常のそれを遥かに凌駕する速度で進み、カルナの投げ放った雷神の槍と激突した。
拮抗は一瞬。如何なアルジュナの矢とはいえ、放たれた槍の威力には届かない。炎の矢を打ち砕き、炎熱を纏った雷の槍は突き抜けていく。
だが次の瞬間、槍に更なる炎の矢が追突していた。アルジュナが放ったアグニの矢は十を超え、それら全てがカルナの投げ放った槍に直撃する。
―――度重なる着弾に勢いを削がれた槍を、遂には撃ち落とす彼の弓。
槍を止めた直後、次いで槍を手放し無手になった彼を目掛けて炎の矢は殺到する。
カルナを追尾しているかの如き、完全に彼を捉えた軌道を描く攻撃。
周囲に炎で槍を形成してそれらを迎撃しつつ、槍へと手を伸ばし呼び戻した。
アルジュナの弾幕を炎槍は止め切れず、突き抜けてきた矢は回避で凌ぐ。
掠めていく炎の矢に炙られながら、彼は魔力を見開いた眼に収斂させていき―――
次の瞬間、炸裂させた。
奔る光芒。薙ぎ払われる光線は迫りくる矢を纏めて撃ち払い、その勢いのままアルジュナにまで逆撃を飛ばす。
迫る閃光を見た彼が微かに眉を上げ、ふらりと体を揺らし、カルナに向かって加速した。
彼を光線が捉える、その刹那。アルジュナの体がぶれ、光線の軌道上から逸れる。
視線でアルジュナを追うカルナに連動し、ブラフマーストラは彼を追う。
だがその熱線を避けつつ、しかし彼我の距離を詰めるように躱しながら前進するアルジュナ。
カルナの視線を避けながら弓に矢を再び力強く番える手。
そこに炎神の加護が湧き、番えた矢は燃え盛る。
ギシリと軋む弓に力を込めて、解き放つ一撃はその弓の真骨頂。
「征け、我がガーンディーヴァ!!」
叫び、放たれる一矢。
放たれた直後に雷槍を掴み取ったカルナが、それを思い切り振り上げる。
「オォオオオッ――――!!」
炎波を迸らせながら振り抜かれる穂先が、ガーンディーヴァの矢と激突した。
砕け散る矢、対して押し込まれて吹き飛ばされるカルナ。
彼の足が大地を捉え、そのまま地面を盛大に削り取る強引なブレーキをかける。
そうして堪えた彼の目の前。
アルジュナの手からは弓が消え、その両腕を胸の前に掲げていた。
―――両の掌で囲うようにしたその間、膨大な光が溢れ出す。
その一撃の発生を見た以上は、カルナにも選択肢は存在していなかった。
雷光の槍に魔力を注ぎ込み、インドラの神威を呼び覚ます。
互いの宝具の前兆が周囲を巻き込み、全てを灰燼に帰していく。
「此処に我が宿業を果たさん……!
シヴァの怒りよ、我が嚇怒と共に崩壊を導く光輝となって押し寄せよ―――!!」
「―――もはや戦場に呵責なし。
我が父よ、許し給え。そしてインドラよ、刮目しろ―――!
空前にして絶後、我が槍の前に死に随わぬもの無し――――!!」
大地に二つ、同時に太陽が顕現した。
それは互いに神威をもって、眼前の敵に絶滅を与えんと必殺の一撃を構えてみせる。
雷と光が氾濫し、暴れ狂うそんな中で―――
ぎしぎしと軋みを上げる白い旗。
エジソンからの送電を受けてなお、魔力など幾らあっても足りない。
それだけではなく旗だって無制限に使い続けられるわけではないのだ。
限界はいずれやってくる。
「令呪を……!」
連続の砲撃を受け止めたジャンヌとマシュ。
彼女たちが膝を落とすと同時に、ジオウが即座に前へと飛び出していた。
その後から駆け寄ってくる立香。
「いえ……まだ。それは温存してください、回復の時間はあります……!」
肩を揺らしながら立香にそう伝えるマシュ。
ジャンヌもそれにひとつ頷いて、旗を握り直しつつジオウへと視線を送った。
砲撃を終えた直後のアナザーオーズに突撃するジオウ。
その右腕の爪、トラクローZは砲身を切り裂くように振り抜かれ―――
しかし砲身から斧の如き形状に変わった腕がそれと激突し、火花を散らす。
そんな体勢のままに、次いで左手に持つジカンギレードを奔らせる。
が、剣閃はアナザーオーズが伸ばした尾に絡め取られ、そこで止められた。
アナザーオーズの頭部で広がるプテラの翼。
その羽ばたきが周囲を凍結させる絶対零度の風を起こし、
「だぁああああ―――ッ!」
ブレスターの上がサイに変わる。
その体勢のままに強引に頭突きに行くジオウ。彼が凍り付きながらも、アナザーオーズの頭部を同じく頭で殴り飛ばした。吹き飛ばした相手にチーターの脚力で追い縋りつつ、ジカンギレードを構え、装填するダブルウォッチ。
〈ダブル! スレスレシューティング!〉
一度に多数吐き出される不規則な軌道を描く黄金の光弾。
それらはアナザーオーズを囲い込むように迫り、そしてジオウ自身は正面から突撃する。
撃ち放った弾丸を追い越して、先に辿り着いた彼がトラクローを振るう。
対抗するべく斧と化した腕を振るおうとしたクー・フーリンが、しかしその一撃を静止させた。
胴体を切り付け、火花を散らすトラの爪。
その衝撃に揺れた彼に、後から追ってきた光弾が全て直撃して爆炎を巻き上げる。
「―――ここだな」
「……っ!」
爆炎を突き破りながら向けられる砲身に変わった腕。
その砲口が向いているのは、ジオウの方ではない。
今しがた二つの太陽が降臨したこちらの戦場から外れた一角。
―――カルナとアルジュナが決戦をしている、もうひとつの戦場だった。
「カルナ――――ッ!!」
必殺の一撃が放たれる直前、ソウゴがカルナの名を叫んだ。
だがこれこそは放つと同時に因果を決定づける魔槍。
仮にその声が届き、彼が回避をしようとしたとして―――既に遅い。
〈プットッティラーノヒッサーツ…!〉
直後の咆哮。
黒と紫の入り混じる極光は、真紅の魔槍と同時に放たれた。
アルジュナだけを見ていた彼に声が届いた瞬間、カルナの視線の先で紫紺の爆発が発生した。
敵を殺すためにクー・フーリンが放つ必殺の一撃。
その軌道、この立ち位置が狙われていたものであるということに疑いはない。
―――それはクー・フーリンとカルナを直線で結ぶ上で、
こうしてカルナがクー・フーリンを正面に見れる以上、当然アルジュナはあの一撃に背を向けている。そしてこれは、その反応の遅れが許される一撃ではない。
カルナがアルジュナと対面している以上、アルジュナは必然的に巻き込まれる。
……魔力を注ぎ、臨界一歩手前まで到達したインドラの槍。
迷いはない。が、惜しくはある。そう感じながら、カルナは即座に槍を手放して残った魔力を自身の推進力となる炎の翼に残った魔力を注ぎ込んだ。
「―――何を!」
同じくシヴァの裁断を下さんとしていたアルジュナが当惑する。
カルナだけを見ていた彼が、その一瞬後に背後で炸裂した破壊の渦を察知した。
「……ッ、クー・フーリン……!?」
一秒と待たずに到達するだろう極光、そして魔槍。
それらが到達するより先に、カルナの腕はアルジュナに届いていた。
腕が彼を押し退けるのと同時、光は二人の姿を呑み込んだ。
着弾と同時にその場所に火柱が立ち昇る。
ギシリ、と。拳を握り締めながらジオウの顔がアナザーオーズに向かう。
「―――仲間だったんじゃないの?」
「ああ、仲間だったな。裏切りが許せねえ、ってならまずアルジュナの方に言え。
戦場にありながら大声で裏切りの算段を立てたのはあっちだ。敵に負けてもいい。敵から逃げ帰ってもいい。だが裏切られたら処分する。当たり前の話だ」
砲身を下ろし、再び斧に形状を変化させる。
ジオウはドライバーに手を添え、そこからオーズウォッチを取り外す。
そのウォッチに向かう先は、ジカンギレード。
「……それは、あんたが王様だから?」
「ああ」
〈フィニッシュタイム!〉
ウォッチが装填されたジカンギレードが必殺待機状態に入る。
対して、アナザーオーズは周囲に散らばるセルメダルを手に集め、腕の斧を振り被った。
「―――そっか。じゃあやっぱり負けられない。
クー・フーリンに……そんなんじゃない王様の姿を見せるまでは!!」
斧はあらゆるものを粉砕するほどの威力を帯び、対するジカンギレードには明らかに威力が足りない。撃ち合えばどうなるかは自明。
そんな中で、ジオウは大きく剣を振り上げた。
これ以上の戦闘は不能。直撃を免れてなお、アルジュナはそう判断する。
霊核こそ無事だが、左半身が吹き飛ばされていた。
この状況では弓をまともに放つことも叶わない。いや、やろうとすれば何とでもなるかもしれない。だが―――何より、そこまでする理由がどこにもない。
彼のすぐ傍には、既に魔力に還り始めているカルナの姿があった。
そちらの方は完全に致命傷だ。霊核をゲイボルクに撃ち抜かれ、極光に呑み込まれた。それでもなお、未だ消滅していないのが驚異的だ。
「カル、ナ……!」
だったら、もう彼が戦いを続ける理由がない。横槍のせいで決着はつけられない。この場で彼の額を撃ち砕き、勝利を宣言することに意味などない。
だからこそ彼は残っている右腕で、血溜まりを作りながら地面を叩いた。
「―――アルジュナ。悪いが決着は、
「なに……?」
いつ全身がばらけて消えてもおかしくないカルナが、それでも気合で現世に留まった。
強く歯を食い縛り、解れていく体を何としてもと固めてみせる。
次いで、掠れてきた視界の中にアルジュナを捉え、彼は至極申し訳なさそうな顔をした。
「……すまない、アルジュナ。オレはオレの恥をお前に晒そう。この時代で、お前と最初に会った時……オレはお前を一瞬疑った。
お前がそちらについたのは、もしやお前の中の“
「―――――」
「オレの不明……いや、嫉妬か。本来、こちら側に立つのがオレなどよりよほど上手いお前がそうしているのが、オレの中で相当に腹に据えかねたらしい。
だがお前は、ただオレとの戦いによる決着だけを望んでくれた。だからこそ、悪いが後はお前に任せた……お前が救うこの世界の明日で、再び相見え……」
カルナが薄れていく手を伸ばす。それがアルジュナに向けられたものであると疑いなく―――アルジュナは、震える手で彼の手を取った。
「……いつか、今回の戦いに決着をつけられることを、願っている―――」
手を重ねて数秒、そう言ってカルナの姿が崩れ落ちていく。
金色の霧、魔力の残滓が手の中から擦り抜け、零れ落ちて、何も無かったように消え失せた。
呆然とその光景を見送り、それでも動けないアルジュナ。
そんな彼に、人の影がかかる。
「アルジュナ。治療を受ける気はありますか?」
「……治療?」
彼が見上げた先、軍服の女―――ナイチンゲールの姿が見える。
吹き飛ばされた半身は極光によるもの。けして治癒不能の呪いがあるわけではない。
治療しようと思えば、できるだろう。だが―――
「必要ありません。最早、私がこの地の戦いに参加する理由など……」
その返答に当然そうするだろう、とナイチンゲールは息を吐く。
「そうでしょうね。あなたは生前の戦いの続きに終始し―――そして、カルナは生前の敗戦の雪辱に挑んでいた。あなたたちは最初から見ているものが違った。
踏み止まっていたあなたと、踏み出していたカルナ。だからあなたたちはそんなことになる」
ガチリ、と金属音。
ナイチンゲールが抜いた銃が火を噴いて、アルジュナの目前に着弾する。
「早急に目を覚ましなさい。あなたがあなたを生き抜いた時点で、その妄執はもう終わっている」
「妄、執……? この、私の―――この想いが、妄執だと?」
「妄執を抱いて動いた者こそが人類史に名を遺すのです。それはサーヴァントとして呼ばれる者は大なり小なり同じであり、あなただけがそうというわけではない。
……カルナが応えるというなら、その感情に私は敢えて何も言いません。ですが、あなたの後悔などで救える命が死ぬのを私は見逃さない。自分の先、妄執を抜けた先にあなたが辿り着きたいというなら今すぐに立ちなさい」
揺れるアルジュナの瞳を正面から見据え、ナイチンゲールは鉄の瞳で断言する。
彼に任せることのできる、最大の使命。
「―――そして、世界を救いなさい。生前そういう役割だったから、などという言い訳などいりません。あなたは、あなたのために、この世界の続きを望めるのでしょう?
治療であれ、戦闘であれ、命を救うための力を持つ者を私は遊ばせておく気はありません。
ごちゃごちゃ言ってる暇があったら動くのです。あなたが悩むのに使う時間を有効に活用するだけで、救える命が増えるのですから」
そう言ってアルジュナに向けられる銃口。
脅迫染みた状況になったその場で、小さくアルジュナが息を漏らした。
「…………そう、ですか。分かりました、
どうあれ……私には今、やらねばならないこと……つけなければいけない決着が増えた。そういうことですね……それが生前のものであれ、今の戦いであれ―――それは、奴との対峙がなければ、けして始まりも終わりもしないもの……!
だというなら……私は私の望み通り、奴との決着のために世界の存続を望む……ッ!」
軋む体を無理矢理立たせ、彼は戦場のクー・フーリン、そしてメイヴを睨む。
そのまま片腕を掲げ、掌に顕すシヴァの後光。
「……では、あなたにはクー・フーリンに隙を作ってもらいます。やれますか?」
「無論―――クー・フーリンと対峙する彼の突破口を開けばいいのでしょう。
我が霊基に懸け、成し遂げましょう」
血を止める暇もなく宝具の解放動作に入るアルジュナ。
けして軽くない傷。放てば無事では済まないだろう。
ただ一撃放ち、そのまま消滅するのでは次に繋がらない。
だからこそ―――
「すべての毒あるもの、害あるものを絶ち、我が力の限り、人々の幸福を導かん―――!
“
彼女はその体から光を放ち、白衣の天使のヴィジョンを背後に浮かべる。
それは両腕で構えた剣を思い切り振り落とす。
伸びる刀身は目の前の戦場、ジオウとアナザーオーズの元まで届き、青い光で覆い尽くした。
「―――――」
振り下ろされた青い光に包まれて、クー・フーリンは微かに視線を光の元へ送った。
斧を振り上げ、そして対するジオウが剣を振り上げているこの状況。
その攻撃のためのエネルギーが急速に萎んでいった。
―――小さく舌打ちひとつ。減衰を凌駕する力を籠め、その戒めを力任せに振り切る。
彼らがナイチンゲールの光に包まれている内に、アルジュナの手の中から光球が飛んだ。
「―――シヴァの後光を背負いし我が怒りを以て、今此処に解放する。
これぞ“
上空へと舞い上がった光球が巨大に膨れ上がり、無数に分かれて雨のように降り注ぐ。
その行先は―――空にある、メイヴの立つ魔神が取り付いたメダルの器。
「……ッ! 半分、いえ全部こっちに回りなさい!!」
彼女の号令と同時、戦闘を行っていた魔神が全て器を目掛けて殺到した。
腐肉の柱は全て彼女を守る布陣で配置し直され、降り注ぐパーシュパタからの盾となる。
着弾すると同時に滅びをもたらすシヴァの鏃。拡大していく滅亡に対して無限の再生をもって対抗し、魔神はその一撃で死と再生を繰り返す。
「ここだ!!」
モードレッドの叫び。
同時にぎゅいんとUFOが切り返し、そのボディを強く発光させた。
「ええ――――我が手にドジアンの書。
光よ、此処に。天にハイアラキ、海にレムリア。そして、地にはこのあたし!
古きこと新しきこと、すべてをつまびらかに!」
UFOから無数の光が放たれて、全てがメイヴに向かっていく。
その後ろから赤雷が迸り、血色の極光が放たれる。
「“
「……守りなさいッ! 両方よ! 三……ッ! 六柱を回しなさい!!」
消し飛んでいる最中の魔神がメダルを集め、光と雷が迫りくる方向に回す。
その場で再生を開始する魔神たち。
復活する肉の柱は攻撃に対する壁となり、宝具の威力を押し留める。
モードレッドとエレナだけならば六柱まで割く必要はない―――が。
「“
次いで、こちらに全部回収した結果手の空いたラーマの一撃が飛ぶ。
その一撃は先の二人の宝具と同時に来れば、今度は六柱では防げない。
だが防ぐ必要はない。ラーマの宝具が魔神に届いた瞬間に―――
「今よ! 自爆なさい!!」
その刃が肉に食い込んだ瞬間、魔神が全て爆裂した。
防ぐのは無理であっても、ただメイヴに届かなければいい。
爆発の威力で微かに軌道を逸れた螺旋刃がメイヴの腕を掠め、そのまま背後に飛び去っていく。
パーシュパタの雨の威力も徐々に収まってくる。
彼が万全で放ったのであればいざ知らず、クー・フーリンの一撃を受けた上での宝具などこの程度が限界に―――
「―――ちょっとヒヤッとしたわ。でもこれで終わり……すぐに魔神は再生―――!」
「けど、今なら!」
彼女の目の前でタイムマジーンが両腕をゴリラの如く振り下ろす。
その動きに連動するように、メイヴの周囲で重力が増大した。
メイヴの体はメダルの器に押し付けられ、その飛行物体も急激に落下していく。
ばら撒かれたメダルは未だ上空を舞っており、再生はそこで始まっている。
それが追い付いてくるまでの間、肉壁は用意できない。
「っ……! よくも私を這いつくばらせるなんてこと……!」
「メイヴ!!!」
「え?」
この現界で初めて聞く、クー・フーリンの張り詰めた声。
その直後、彼方で雷光が炸裂した。
雷光の爆心地はパーシュパタを放ち、恐らく限界だろうはずのアルジュナ。
―――その彼の手の中には、
「―――我が父インドラよ、あなたがカルナに与えし槍。
いまこの瞬間、ただ一度。奴から託された――――この俺が借り受ける!!」
その雷光の力を十全に発揮できるのは、唯一施しの英雄のみ。
彼にその真の姿は解放できず、またするつもりもない。これは彼の好敵手がその高潔さ故に与えられたもの。故にできるのはただひとつ。
直後に残る体が砕けるのを是として、残した力の全てを注ぎ込む。
炎と雷が噴き上がり、メイヴへと狙いをつけて行うのは―――全力の投擲。
「征け、“
魔神の壁は追いつかない。いや、追いついたところで柱が十はなければ止まるまい。
放つと同時に限界を超えたアルジュナもまた砕け散り、消滅を始める。
だがその槍が届くまでは彼は消えるまい。ほんの数秒とかからないことだ。
メイヴは眼前に迫る神の怒りを前に呆然とし―――
「オォオオオオオ――――ッ!!!」
飛来する槍を上から斬り付ける莫大なエネルギーを注いだ黒と紫の光の斧を見た。
雷光の槍に上から下へと叩き付けられる超常の一撃。
それは本来ジオウに向けられていたもの。また、ナイチンゲールの宝具の能力により威力まで大きく減衰された代物。だというのに、彼はその槍さえも押し切った。
完全に弾くには至らず、狙いを下にずらせただけ。だが確実にそれはメイヴを救った。
雷光の槍が突き立つのは、彼女が足場としていたメダルの器。
―――瞬時に解放される雷の神威。
それは内側からメダルの器を爆砕し、それがブラックホールの如く爆縮することすら許さない破壊の限りを尽くした。
砕け、拉げ、微塵となって吹き飛んだその残骸がセルメダルと変わって降り注ぐ。
「きゃ……!?」
上にいたメイヴが凄まじい勢いで吹き飛ばされ、放り出される。
それを見届けたアルジュナは目を瞑り、消え失せていった。
同時にその横で宝具を維持していたナイチンゲールが光を解除し、走り出す。
攻撃をメイヴに消費したが、どうとでもなる。
ジオウの攻撃の威力であれば十分に耐えると理解しているし、それ以外に彼に有効打を与えられるものはこの場に存在しない。カルナ、アルジュナの両名ならば或いは……だったが。
だがそこで、状況は変わる。
魔神。メダルの器。それらを構成していたメダルが空中にぶち撒けられている現状で。
「――――チッ!」
「―――魔神の再生も、メダルがなくちゃできないんだよね。
それで、あのメダルの塊がなきゃ新しく大量のメダルは作れない……だったら!」
ジオウが振り上げた剣―――否、その剣に取り付けられたオーズウォッチに、宙を舞うセルメダルが全て吸い込まれていく。
「この力が世界に満ちた欲望の力なら! 俺にその世界を背負う資格があるのなら!
俺にこれを全部使って、あんたを倒し切れる力が出せるはずだ!!」
ジカンギレードの刀身が光を帯び、空間を斬り裂きながら伸びていく。
圧倒的なエネルギーの奔流。それが自身を殺し得る、という確信などいちいち見るまでもなく抱けている。
メイヴを追っている場合ではなく、クー・フーリンは振り返り―――
「詰みだ、馬鹿弟子め」
緑衣がその場に翻り、血塗れの女がその場に突如出現する。
彼女を抱えてきただろうロビンが肩で息をしながら彼女を放り投げていた。
その場で瞬時に噴き上がる、ゲイボルクの呪力。
「スカサハ――――!」
「今の私では己のルーンで姿隠しもできぬ。ああしてナイチンゲールの宝具に少しでも巻き込まれて癒されなければ、槍もまともに振るえぬ。だが―――取ったぞ、クー・フーリン」
至近距離で既に待機状態の槍が相手では、先んじることは不可能。
肩も、尾も流石に間に合わない。
そもそもスカサハに対抗していてはジオウを見過ごす。そっちの方が致命傷だ。
「刺し穿ち、突き穿つ―――“
スカサハの手の中の双つ槍が解放され、アナザーオーズに叩き付けられる。
それを片腕で受け止めながら、しかし押し込まれる力の強さに彼は舌打ちした。
「死に損ないの槍なんぞに――――!」
「―――ああ。だが、それでもお前とは相性が良かった。
貴様の鎧―――属性は幻獣・神獣の類に属するものと見た。
故に……私の槍は
スカサハの放つ神殺しの槍は、アナザーオーズが主体とする紫の属性に対してより強い効力を発揮する。ダメージを与えられるか、といえば否だ。
だがその槍から伝わる神殺しの威力は、数秒クー・フーリンを押し留めた。
それで十分。その時間さえあれば―――
「オォオオオオオッ!!!」
決定的な一撃を構えているジオウが、彼を確実に仕留めることができる。
数え切れない、星の数ほどのセルメダルを取り込んだウォッチがスパークした。
同時にジオウの頭部、”オーズ”という文字を形成するインジケーションアイが赤熱し、赤みがかったピンクだった色が真紅の炎に染まっていく。
〈オーズ! ギリギリスラッシュ!〉
槍を放ちそのまま転がったスカサハをロビンが拾い、そのまま横へと跳ぶ。
直後に振り下ろされる必殺の刃。
それはスカサハの槍に縫い留められたクー・フーリンに回避し切れるものではなく―――
「……っ、走りなさい“
ええ、当たり前でしょう? 私が据えた、私の王様のためだもの」
横からクー・フーリンに激突する、ガタガタに歪んだ戦車。
彼が受け止めている槍ごと振り下ろされる剣の範囲外に吹き飛ばす体当たり。
器の爆発で吹っ飛んだ彼女はその戦車の重量で無理矢理地面に着陸し、そのままこの修羅場に突っ込んできていた。
「ッ―――――!」
剣の軌道は変えられない。そんな自由が利く一撃ではない。
激突すると同時にクー・フーリンに抱き付き、跳躍するメイヴ。
彼女たちの背後で、振り下ろされた空間さえ斬り裂く刃が戦車を瞬く間に蒸発させる。
斬り裂かれた空間がずれ、それが戻る勢いでその場に盛大な爆炎が巻き起こった。
―――爆炎に炙られて目を覚ます。
飛び込んだ瞬間に意識が飛んでいたようだ。
彼女が開けるのもだるい瞼を上げると、顔の前にはクー・フーリンの顔があった。
「……あ、クー、ちゃん……」
直撃は回避し、受けたのは余波だけだ。
それでもなお、彼は怪物への変貌を解除して全身の黒い鎧は粉砕されていた。
絶対堅固の鎧を着ていた彼でさえそれなのだ。
自分が今生きているのは奇跡か―――あるいは、彼が守ってくれたからだろう。
「……今のは受けたら死んでただろうな。
よくやった、テメェはテメェが立てた王を守ったわけだ」
「―――――うん。守るわよ、だってそれが私の……」
体が解けていく。光に変わっていく指先で、彼の頬をなぞる。
「―――お前は自分のことしか考えない女だ。それは何があっても変わらねえ。変わったらそりゃメイヴじゃねえ何かだ。だから聖杯なんてもんを使うなら、テメェの美貌のためだのテメェを称える何かのためだの、そんなもんに使うのが道理だろうよ」
「ふふふ、そうね。私は、私のために、私のものを使う女よ。けど、魔が差したのかしら……
私のものにならないあなた……そんなあなたのために、自分のもので尽くすなんて……
あなたを私のものにするためではなく、ただあなたの隣にいるためだけに……」
ほろほろと崩れ落ちていくメイヴに対し、クー・フーリンは静かな視線を向けた。
「お前が道理を通してオレに願った以上、お前に対して義理は果たす。
世界の王とやらはオレが獲る。その後が破滅であろうともな。
生きてた頃と変わりゃしねえ。いい女だと思った相手のために動いてやるってのはな」
いい女、と呼ばれたメイヴの頬が緩む。
最後の最後に彼女は満足したように微笑んで、彼女は最期の言葉を遺していく。
「―――ふふ、それ。私、それが欲しかったの……私の、クー……」
メイヴが果てる。天に昇っていく金色の光。
それを気にもせずジオウに向き直り、クー・フーリンは胸を押さえた。
恐らく霊核が半壊しているのだろう。それと融合しているウォッチとやらもだ。
だが別にそれで次の行動が変わるわけでもない。
全てを懸けた一撃を放ち、ジオウは膝を落としている。
「あんた……」
「メイヴは自分がやりたいこと、自分のためのことしかしねえ女だ。
だってのに、あいつは今回オレのために全てを使い果たした。
―――だからまあ、今回ばかりは、オレのために全て尽くすってのが……
ビシリ、と彼の体の中で罅割れたウォッチが悲鳴をあげる。
だがそれを気にせず、彼は再びアナザーオーズへと変貌した。
出現するのは黒と紫の恐獣。
―――その背に三対六枚の赤い翼が広がった。
恐竜と鳥獣の二種混合。冷気と炎熱、相反する二つの波動を纏う怪物。
その腕が振るわれると同時、今までとは更に比較にならない力が解放される。
「どうあれ、懸けられたからには応えるだけだ。そこを違える気はねえ。
――――オレが砕けて死ぬ前に、この世界を平らげる」
進化したアナザーオーズは右腕を斧に、そして左腕を盾らしき物体に変化させる。
火炎と吹雪を噴き上げて、その怪物は全てを壊すために産声となる咆哮を上げた。
お前がパワーアップするのか…