Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「モードレッド!!」
真っ先に動いていたのは、タイムマジーンの巨体だった。
その両腕に取り付けられたトラの爪を立てながら、ツクヨミは全力でレバーを押し込む。
彼女はエレナとともに宙を舞うモードレッドへと声をかけながら突撃していた。
アナザーオーズが相手ならばオーズの力を有する今のタイムマジーンこそ、彼の天敵であることに変わりはない。大抵の相手に対し必殺となる攻撃を有するクー・フーリンを相手取る以上は、彼に一切時間を与えてはいけない。
とにかく息も吐かせぬ波状攻撃で削り、そのままアナザーウォッチを破壊できる攻撃を―――
アナザーオーズが振り上げた右腕が奔る。
向けられた爪に対して振り抜かれたそれが、タイムマジーンの装備したトラクローとともに片腕を吹き飛ばした。拉げて潰れ、引き千切れて舞うマジーンの腕。
「きゃあっ……!?」
「マスター!!」
巨体が一撃で吹き飛ばされ、タイムマジーンは地面に落ちてあっさりと沈黙した。
そちらを視線で追ったモードレッドがしかし、自身に充足する魔力を感じて首を止める。
ツクヨミが令呪を切り、彼女に宝具を使えと指令を出した。
すぐさま彼女は視線を戻し、アナザーオーズを睨み付ける。
展開する王剣、“
そこから血色の刃を伸ばし、彼女はUFOを強く踏み締めた。
「野郎に寄せろ! 叩き込んでやる――――!!」
「っ……! ええ、エジソン――――!」
「心得ているとも!」
エレナはその機体の軌道を操りながら、己の名のロゴの上に立つエジソンに対して叫ぶ。
彼はその声が要求していることを正確に読み取り、彼の支配下にある電力を全てモードレッドに回した。彼女自身の赤雷とエジソンの送電がぶつかり、血色の刃は極彩色の雷を纏う。
頭上から迫る極光を見上げ、クー・フーリンが自分の右腕を掲げ―――小さく舌打ちした。
セルメダルは全てジオウが喰らい尽くし、1枚たりとも残っていなかった。
仕方なさげにそのまま対抗しようと彼の前に、淡い光が灯る。
『―――っ、聖杯の反応だ! クー・フーリンのすぐ傍……メイヴが持っていたものだ!』
光はゆるりと彼の前を漂い、そのまま彼の胸へと入り込んでいく。
そんなものに願うことなどない。が、それは前の持ち主の願いを叶え続けているらしい。
クー・フーリンが必要と考えていたセルメダルが数枚、彼の前に出現する。
もうひとつ、舌打ち。
そうしている間にもメダルは彼の右腕に食われ、エネルギーを充填する。流石にこの一撃の方にゲイボルクを仕込む暇はなく、ただ迎撃のためだけに極光のみを吐き出す攻撃。
〈プットッティラーノヒッサーツ…!〉
「“
振り下ろされるモードレッドの剣に対し、恐獣の咆哮が迎え撃つ。
雷を纏う血色の極光。炎熱を纏う紫紺の極光。
二つの光は丁度互いの中間で激突し、その威力を余すことなく発揮して周囲に破壊を齎した。
光の激突を避けながらアナザーオーズに向かいラーマが走る。
その腕の中には剣と槍。ヴィシュヌの神具を携えて、砲撃の体勢のままの敵に対しての強襲。そんな行動の中、迫るラーマに対してアナザーオーズが僅かに視線を向け、軽く鼻を鳴らした。
「ぬっ……!?」
アナザーオーズが翼を広げる。赤い鳥の翼ではなく、炎でできた孔雀の如き美しい羽。
ばさりと大きく広げたそれは羽の一枚一枚が分離して宙に浮き―――
それを見たラーマを戦慄させた。
「まずい……!」
足を止めたラーマの後ろ。それが攻撃だと即座に理解したビリーが銃を抜いていた。
「“
音より早く、彼の銃撃は孔雀の羽を無数に撃ち抜いていた。
恐らく炎弾となって襲い掛かってくるだろうそれ。
一瞬のうちに半数近い羽を撃ち崩したビリーは微かに口の端を上げて―――
「駄目だ止まらん! あれは全て……ゲイボルクだ!!」
ラーマの叫びと同時、孔雀の羽は撃ち落したと思ったものも含め全て、戦場に残る者たちの心臓を目掛けて奔る凶器と化した。
「うっそ……!?」
発動した無数の棘を前に、半死半生のままロビンに抱えられていたスカサハが身を捩る。
その動きにバランスを崩して焦るロビン。
「ちょ、オタク何を……!」
「私の、槍だ……! 私の槍を―――!」
「そんなもん……!」
先にクー・フーリンを吹き飛ばした時に投げ放った以上、彼の足元に転がっている。
新しい槍を呼び出す余裕、体力も魔力もスカサハには残っていない。
これから槍を投げ放つというならば、なおさら無駄遣いはできないのだ。
あの槍を取り戻さねば、防ぎ切れない―――
だがそのゲイボルクを防ぐために既に無数のゲイボルクが舞う死の空間と化したそこに槍を取りに行く、などと。本末転倒のような話だ。
しかしそうしなければこのゲイボルクの羽を防ぎ切れず、多くのサーヴァントが心臓を奪われるだろう。正面からの一撃ならいざ知らず、この範囲攻撃と化したゲイボルクが相手ではマシュとジャンヌでは守り切れない。
―――だったら、拾いに行けばいい。
あの羽を掻い潜り生存し、槍を手にして生還し、スカサハに届ければいい。
そんなことができるのならば、それが最善手なのだから。
つまり。
緑の風が吹き、弓を手にした獣が疾走する。
炎熱と呪力を纏い飛ぶ孔雀の羽の範囲の中に、無謀な突撃を慣行する。
反応した羽槍が全て彼女の心臓を目掛け加速。
矢が放たれ、槍を逸らし、逸らし、逸らし、アタランテが走り抜けた。
アタランテがその状況で加速を緩められるはずもなく、通りがけに槍を蹴り飛ばし、それを空中で握ると同時―――スカサハの槍を弓に番え、彼女に対して放つ。
自身に迫る羽槍を掻い潜りながらの一矢。
狙いなどつけている時間などあるはずもなく、乱雑に放たれるスカサハの槍。
「これで、いいのだろうッ――――!!」
放つと同時に再び回避に専念し、しかし数秒の後には串刺しにされるだろう状況に追い詰められる。それでも奇跡的なくらいに保ったという話だ。
放たれた槍を睨み、小さく唇を歪めるスカサハ。
「これ以上ないくらいにな……! 緑の! 私を投げろ!!」
苦痛に顔を歪め、蒼白な体が更に血を滴らせ、しかしスカサハが不敵に笑う。
そうなるだろう、と理解していながらもロビンが微かに眉を顰める。
「またかよ……! 半死人を投げ捨てさせられる身にもなれっつーの……!」
だがそれ以外にないと、ロビンフッドが彼女を抱えたまま上半身を捻った。
歯を食い縛りながら思い切り投げつけるのは、言われた通りにスカサハの体躯。アタランテが放った彼女の槍の方へ向け、思い切り、力の限り。
そうして投げつけられた彼女は体を捻り、空中で体勢を変えた。
撓らせた足は鞭の如く、空中でアタランテが送った槍と衝突。
―――彼女の振り抜く足に合わせ、再び戦場へと返される。
「“
死力を尽くし振り抜く四肢。
撃ち出された槍を蹴り返す彼女の技量でもって、それは呪いの槍として成就した。
蹴り返された途端に一振りの槍は無数の鏃に姿を変え、戦場に散っていく。
空中に舞う死棘の羽に対して次々と激突し、相殺していく死棘の槍。
それを見送り、小さく笑いそのまま地面に転がるスカサハ。
モードレッドの一撃と自身の砲撃とで相殺したアナザーオーズがそちらを見る。
変わらない怪物の表情に小さな呆れさえ浮かべながら、彼はスカサハを向け踏み切った。
「らしくねえ。生にしがみつくタマか、あんたが」
「―――まったくだ。まるで逆になったようだよ、お前と私が……!」
斧へと変じた腕を振り上げ、彼女を両断するべく振り下ろす。
その一撃が届く前に、スカサハを捕まえるべく走ったアタランテが辿り着く。
彼女の襟首を掴み、距離を離していく緑の獣。
「―――ランサーのお前に比べれば、足は遅くなっているな。
瞬発力だけなら増しているかもしれんが、随分と要らない重さを背負ったようだ」
挑発的なアタランテの言葉に鼻を鳴らし、再び斧を大砲へ―――
「させるかぁあああ――――ッ!!」
その横合いから、両腕に構えた武装をチャクラムの如く回転させながらラーマが飛来する。
ブラフマーストラを放つ構えのまま叩き付けられる両手の武装。
それを左腕の盾で受け止めて、小さく唸る。
「チッ……」
「クー・フーリン―――貴様の疾走は、ここで止める……!」
「―――そうかい。
オレが走るのは生きてるからだ。それを止めたいなら、オレの息の根ごと止めるんだな」
武装を衝突させるラーマの前で、アナザーオーズの胸が光る。
そこから赤い三つの光が放たれて、彼の左腕に吸い込まれていく。
〈タカ…! クジャク…! コンドル…!〉
その瞬間に彼の左腕の盾が高速で回転を開始し、炎の円環を描いていく。
膨大な熱量を纏った盾を前に、ラーマの方が息を呑んだ。
「ッ……! “
〈ギガスキャン…!!〉
至近距離で互いに解放する必殺の一撃。
それが弾け合い、その場で全ての威力を解放した。
「ッ、精霊よ……!」
「いけない……!」
爆心地となる二人の交差。それを前にジェロニモがコヨーテを差し向けた。
遅れて、そのあとに続くブーディカの戦車。気付いたマシュもまたその戦車に飛び込み、彼女の進撃に合わせて盾を構え直す。
互いの必殺の攻撃が衝突し、解き放たれた熱量。
それに呑み込まれながらもアナザーオーズはアナザーライダーの装甲で耐え切る。
そんな防御策は持っていないラーマだけが肌を灼かれ、苦痛に喘ぐ。
ブラフマーストラを支えながら、限界の見えてきた体力と魔力を振り絞り耐えて―――
もう片腕の斧が振り上げられるのを見た。
「くっ……!?」
二つの力が衝突する炎の渦に飛び込み、そのままアナザーオーズの腕に飛び掛かるコヨーテ。それを一瞥したアナザーオーズが容易に斬り捨て、消滅させる。
それを斬り捨てるための動作に時間を費やした隙に、突っ込んできたブーディカの戦車がラーマのすぐ後ろにまでつけていた。
「わたしが前に! “
〈プットッティラーノヒッサーツ…!〉
片腕で炎の円環を維持しつつ、彼は再びセルメダルを喰わせた斧を振り下ろす。
叩き付けられる斧を光の盾が塞き止めて、そのプレッシャーにマシュが膝を落としかける。
チャリオット・オブ・ブディカがその守護の力を最大限に発揮し、マシュとラーマに更に守りの加護を与えて力を奮わせる。
「今だ! とにかく大きな一撃を叩き込んで―――!」
「ちと足りなかったか」
両腕を封じている状況でラーマが叫ぶ。
ゲイボルクをどの状況でも放てる以上、最早とにかく力を削る以外にない。
逃げる、隙を窺うのは最悪手にしかならないだろう。
最早なりふり構わずとにかく相手の力を削るしかない。それが例え聖杯というバッテリーを背負った相手であっても、それ以外に道がない。一時的にでもアナザーオーズへの変身が解ければ、そこで致命傷を与えることができるかもしれない。
だからこそ攻め立てた彼の前で、アナザーオーズは盾の炎を掻き消した。
ブラフマーストラが対抗相手を失い突き抜け、彼へと直撃する。
その上で軋む体を無理矢理維持して、クー・フーリンは体内から更に光を解き放つ。
紫の光が三つ。更に左腕に入っていき、再び回転を始める盾。
〈タカ…! クジャク…! コンドル…! プテラ…! トリケラ…! ティラノ…!〉
「ぬっ……!?」
セイバーとして剣と仕立ててきた武装を引き戻す暇もなく、彼はヴィシュヌの武装をその手に呼び出した。限界まで振り絞る魔力を載せ、再び必殺の投擲の構え。
限界など幾度超えたか分からぬままに、しかし気合で持ち直して宝具を解放する。
「“
〈ギガスキャン…!!〉
先の一撃に倍する威力の赤と紫の炎が混じり、その場で炸裂した。
ラーマの渾身の一撃を凌駕して氾濫する炎の渦。
拮抗は一瞬で崩れ去り、まずは耐えきれなくなったブーディカの戦車が崩壊した。
「しまっ……!?」
「っ、ぁ……!」
その守護により援護も得ていたマシュの力が減じ、斧もまた止めきれなくなる。
魔力も底をつき、彼女の盾が崩れ始めた。
「令呪をもって命ずる、マシュ! 耐えて!」
立香の声とともに彼女の手に残された令呪二画のうちの一画が消える。
それと引き換えに補充されるマシュの魔力。
光の盾を再構築しながら、歯を食い縛って無理矢理彼女は体を持ち直した。
歯軋りしながら支え切れぬと知ったラーマが、己の前に無数の武装を呼び出す。
様々な神具をただ盾として、せめても威力を削らんと死力を尽くす。
だがそれを突き抜けてくる熱量を前に表情を歪め―――
そんな彼らの背後に、白い旗がはためいた。
「“
拡大する聖女の領域。
それらが仲間を傷つける暴威から、彼らを守護する結界を構築し―――
彼女の手の中にある旗が、ビシリという致命的な悲鳴を上げた。
それに対して驚いた様子で視線を向けるマシュ。
彼女が両腕で掲げた旗には火がつき、白い旗は瞬く間に焼け落ちていく。
「ジャン、ヌさん……!」
「―――――」
それは主の御業の再現であり、限度がある。今まで重ねてきた守りはそれを受け止める彼女の旗に負担をかけ続け、遂にはその時がやってきたというだけだ。
ビシリビシリと砕けていく持ち手が、彼女の手から欠片となって零れ落ちていく。
焼け落ちた白い旗が灰となり、風に乗って消えていった。
結界はやがて消えていく。だがそれでも、アナザーオーズの攻撃は止まらない。
赤と紫の炎は回転しながらその勢いを更に強めていく。
「エリザベートよ!!」
「分かってるわよ!!」
叫ぶとともにネロの剣が地面に突き立つ。
同時に顕現する彼女の黄金劇場、その中で声に応えたエリザが槍を地面に突き立てた。
劇場の中で更に顕現する監獄城チェイテの威容。
チェイテはアナザーオーズとラーマたちの間に強引に生えてくる。
物理的な壁となって立ち塞がり、あっという間に粉砕されていくチェイテ。
「アタシの城ぉ―――!」
分かってはいても悲鳴を上げるエリザべート。
ネロの意識がそのチェイテこそ己の宝具たる黄金劇場の装飾の一部と捉え、強引に修復する。直すと同時に焼け落ち、木端微塵に砕かれていくエリザの城。
「ぐっ……! 限度が、あるか……!!」
黄金劇場そのものも余波だけで吹き飛ばされそうな状況。
その状況でなお耐えつつ、彼女はマスターの方を意識する。
魔力経路はずたずた。正確に言えばパスの先にあるソウゴ自身の状態が、だが。
「すまぬ、マスター……! 立ち直る時間すら稼げなかった……!」
直後。円環が爆発し、周囲のサーヴァントを全て吹き飛ばした。
「やれやれ、どうするんだい? またあれだけ成長するのは更に予想外じゃないか」
遠く離れた丘の上、白ウォズがスウォルツに視線を送る。
彼は随分と渋い顔をして戦場を見やり、小さく舌打ちした。
「今の常磐ソウゴには過ぎた相手だったか。
オーマジオウの片鱗こそは見えたが……俺の見込み違い、といったところだな」
「―――勝手に我が魔王を見限ってくれては困る」
溜め息混じりのスウォルツの声に対し、背後から声がかかる。
おや、と驚いた様子で振り返る白ウォズ。
『逢魔降臨暦』を手にした黒ウォズがゆっくりと、彼らの方へと歩み寄ってきていた。
「やあ、もうひとりの私。魔王のおもりはいいのかい?」
「さて。白ウォズ、君こそ救世主とやらのおもりはしなくていいのかい?」
言い返されて肩を竦める白ウォズ。
彼はその手の中にビヨンドライバーを呼び出し、己のウォッチを取り出した。
「今この時、おもりが必要なのは君の魔王の方だと思うがね。
手伝ってあげようか?」
ライダーウォズのウォッチをひらひらと振り、協力を匂わせる。
その態度に対して小さく鼻で笑う黒ウォズ。彼の反応にぴくりと眉を吊り上げた白ウォズがビヨンドライバーを手の中から消し、再び大きく肩を竦めてみせた。
「必要ない、と言いたげだな。見ての通り、今にも瀕死な様子だが」
二人のウォズのやり取りを眺めていたスウォルツが戦場に視線をやり、地面に這いつくばり体を震わせているジオウを見た。アナザーオーズの攻撃の余波から守るため、ナイチンゲールが彼を地面に叩き付けて、何とかやり過ごした様子だ。
その言葉を否定せず、微かに眉を顰める黒ウォズ。
だがその表情をすぐに消し、彼は戦場で起き上がろうとしているジオウを見る。
「……既にオーズの力は極限まで高まっている。
我が魔王ならば恐らく、ここから十分に逆転が可能だろう」
「恐らく! 恐らくときたか!
なるほど。オーマジオウならばこの程度の苦境、何の障害でもないだろう。
だがさて、今の常磐ソウゴにそれほどの力があるものか……」
そのまま笑い飛ばすような様子を見せたスウォルツがそこでぴたりと止まる。
表情を渋くして空を見上げる彼の様子に、二人のウォズが怪訝そうな表情で彼を見た。
「……そうきたか。なるほど、オーズの力の極限―――か」
アタランテにスカサハと共に押し倒されたオルガマリーが起き上がる。
周囲一帯は全て吹き飛び、背後にあったアメリカ軍基地も完全に崩落していた。
死屍累々、といえばいいのか。
咄嗟に立香の姿を探した彼女は、ロビンたちに地面に押しつけられている立香に気付く。
彼女の目の前には墜落したエレナのUFOもあり、あれを盾に凌いだ様子だった。
エジソンが足場にしていたロゴも崩れ落ち、その下にはエジソンが転がっている。
「……ッ! これだけの攻撃をしたのよ、少しでも体力や魔力は削れてるはず……!
今が、好機のはずよ……!」
泣き言を零そうとして唇を噛み、すぐさま声を張り上げる。
アナザーオーズのすぐ傍で爆発を受けたマシュも、ジャンヌも、ブーディカも、ネロも、エリザベートも、ラーマも。彼女たちは地面に伏せ、身動ぎすらしない。
消滅していないということは無事だ。が、戦闘できるかどうかは別だろう。
『っ……魔力反応は全て微弱……! 無事だが、これは、もう……!』
ロマニの声を聞き流し、せめて戦力を探す。
アタランテは戦える。ロビンも、ビリーも、ジェロニモも。
それだけだ。この状況で、ただ彼らだけまだ立って戦うことが……
その状況をぐるりと一通り見回してみせるクー・フーリン。手近な奴から始末していこうと動きだす彼に対し、マジーンの傍にいたモードレッドが走った。
クラレントの刃が彼に対し叩き付けられる。
直撃し、火花を散らし、しかし動じずに視線だけを向けるアナザーオーズ。
「後は力も要らねぇな、死に損ないを潰していくだけの作業だ」
「―――やってみろ、テメェ!!」
クラレントが奔る、奔る。斬撃は全て彼に直撃し、火花を散らす。
だがそれに対し何の痛痒も見せずに、斧を振り上げた彼が振り抜いた。
剣で受け止めたモードレッドの体が大きく吹き飛び、タイムマジーンに叩き付けられる。
半壊のマジーンは爆心地の近くに墜落しているにも関わらず、損傷は少ない。
恐らくモードレッドが雷の魔力放出を使い果たし、守り抜いたのだろう。
最早彼女には戦闘をこなせるだけの体力も魔力もない。
クラレントを地面に突き刺し、必死で堪えるモードレッド。
彼女含めて全て一掃するために翼を広げようとしたアナザーオーズ。
―――その頭上で、突然雷雲が蠢いた。
面倒そうにそちらに視線を向けたアナザーオーズに、雷霆が叩き付けられる。
黒い雲間を突き破り、現れたるは現人神。アルジュナが投擲したインドラの槍の残り香を辿り、ここまで突き抜けてきた次元を揺るがす大雷霆。
「―――はて。この人の文明息づく時代に何故、
本来ならばそう言った疑問を出すことから始める私であるが。
ここはしかし、名乗り上げから入ろうとも。この度、どこぞのライオンが繋いだ通信経路にインドラの神威が影響した結果、こうして貴様の前に現れし人の世における大・天・才―――」
「す、すっとんきょう―――! その声、よもやMr.すっとんきょうか――――!!」
ロゴが崩れ落ち、地面に叩き落とされていたエジソンが叫ぶ。
「二コラ・テスラである――――!!」
名乗りを邪魔された雷霆が猛る。
それらは全てアナザーオーズに降り注ぎ、雷の熱量で全てを灼き切る威力を見せた。
―――“
ロンドンにおいてはカルデアに向けられた、神から雷を奪い去った人類の神話。
その暴威を全てアナザーオーズに対して発散した。
雷電を浴びたアナザーオーズが舌打ちし、その場から飛び退く。
流石にこれだけの熱量を浴び続けては、変身の限界が縮まるという判断。
相手は雲を割って登場するほどの上空。何も考えずに撃ち落すには、距離があり過ぎた。
もっとも―――
頭部の紫の翼と背中の赤い翼を同時に広げてみせる。
今の彼は飛行できる。空を行くテスラに追いつくなど、造作もない。
彼が何をしたところで稼げる時間など数分に満たないだろう。
「テスラ……!」
即座に空へと駆け上がるアナザーオーズ。
それに声を上げるエレナを見止め、テスラが微かに笑う。
「一度滅ぼす側に回った贖罪のつもりなど微塵もないが……
こうして地を這うライオンを見下ろしながら目的を果たせるというのであれば、まあよし!
さて、人の世を切り拓く英雄たちよ――――今一度、私の屍を越えて行け!!」
空中で雷が轟き、それを炎熱と冷気の怪物が斬り裂いていく。
おおよそ結果の決まった空中決戦。
それを頭上に、モードレッドがナイチンゲールに肩を借りて立っているジオウを見た。
彼女の視線を見返しながら、立ち上がったジオウは言う。
「……後は俺がやる。モードレッドはツクヨミをお願い」
「―――ああ」
モードレッドが転倒したタイムマジーンに取り付き、中に入ろうとする。
恐らくは中でツクヨミが気絶しているのだろう。
ナイチンゲールから離れ、ジオウがよろめきながらひとりで立つ。
彼は振り向き、ナイチンゲールにも声をかける。
「ナイチンゲールはみんなをお願い。まだ、治療すればみんな助かるでしょ?」
そのまま歩き出そうとした彼の頭を、ナイチンゲールのアイアンクローが捕まえる。
ミシリと軋むジオウの頭部。
思い切り引き戻された彼が困惑しながら彼女の方を見る。
「ええ……」
「―――あなたが。あなたがより多くの人を救いたいと願うなら、ここでやらなければならないことは理解していますね?」
顔のオーズの文字と視線を合わせ、彼女はじっと彼を睨む。
それに対してジオウは少し悩み、しかし自分を掴んだ彼女の手に自分の手を添える。
「ちょっと違うかな。
俺はより多くの人を救いたいんじゃなくて、全部の人と、世界を救いたいんだから」
その返答に微かに眉を上げたナイチンゲール。
彼女は小さく息を吐きつつ、更に言葉を続けてみせた。
「―――――ならばなおの事。あなたがやらねばならないことは……生還です。
あなたが命など懸けたところで、結果的に救う人数を減らすだけでしょう。
懸けるならば人生全てを懸けなさい。途中での脱落は、即ち失敗だと心得なさい。
命を救うものならば、誰より自身の命を最優先にしなければなりません」
「……そうかもしれない。
けど……俺は王様だから。悪い魔王を倒すのは、良い魔王の仕事でしょ?
……人を救いたい、って願いはきっと多くの人が持ってる。ナイチンゲールみたいに。俺が作りたいのは、そんな誰かたちの願いが叶う世界だ。それを壊そうとする悪い魔王は、俺が命を懸けてでも倒さなきゃいけないじゃない?」
彼に対して再び口を開こうとして、しかし彼女は額に手を当てて口を噤んだ。
「……そうですか。では、敵を倒して速やかに帰還しなさい。
死んででも生還しなさい。拒否は許しません。
あなたが生還さえすれば、死んでいても私が治療してみせましょう」
「―――うん。人の怪我とか、病気とか。そういうのは全部ナイチンゲールに任せた。
俺はそういうものを誰かに与える、あんたを止めるよ―――クー・フーリン」
ジオウの顔がクー・フーリンに向かう。
ズガン、と地面を踏み砕くながら着陸するアナザーオーズの巨体。
数十秒の交錯の果て。
人類神話二コラ・テスラですら、彼にそれだけの戦闘で葬られていた。
空では彼だった魔力が黄金の霧に還り、黒雲と共に散っていく。
自分の頭を掴むナイチンゲールの腕を放させる。
その動作の中で、バチリとスパークしたオーズウォッチから別のウォッチが剥離した。
新たに生まれたウォッチを手にしながら自身を睨み付ける彼に対し、アナザーオーズが腕の斧を振り上げその力を解放しようとする。
「……クー・フーリン。あんたに見せてやる、俺がどんな王様になりたいのかを!!」
なおもスパークし、明滅するオーズウォッチ。
その振り上げられる紫の刃。それを前に力を漲らせるジオウ。
―――たとえ力が漲ろうと両断できるという確信。
振り下ろされるアナザーオーズの斧はジオウの頭上へと殺到し、
盛大な音を立てながら激突してきた巨大なトラの爪に弾かれ、逸れて地面に叩き付けられた。
微かに困惑した様子でアナザーオーズがその爪の持ち主を見る。
それはオーズウォッチを装填したタイムマジーン。
当然のように両腕を持ち、新品同様に傷のないボディの。
「うそ、タイムマジーン……?」
「フォウ……」
立香が呆然としながら、モードレッドが守っていたマジーンを見る。
片腕がもげ、ズタズタにされたツクヨミの乗っているタイムマジーンだ。
目の前でこうなったのだから、そうなっているのが当たり前だろう。
彼女の頭の上にいたフォウも二体のマジーンの間で視線を行き来させた。
新しく登場したタイムマジーンのハッチが開き、そこから転がり落ちてくる影。
それは見間違いようもなく、仮面ライダージオウの姿だった。
「ジオウが、二人……!?」
唖然としたオルガマリーが目の前のオーズアーマー。
つまり彼女の知る常磐ソウゴと、新しく登場したジオウに視線を交互に送る。
地面に落ちたジオウがゆっくりと起き上がり、周囲を見回した。
「いったぁ……あ、いた! 昨日の俺!」
彼が起き上がり、そのままオーズアーマーに走り寄る。
本人ながらも困惑しつつ、それに応対する。
「えっと……昨日の俺?」
「いやいや。俺からすると、昨日の俺。つまり昨日の俺からすると、俺は明日の俺ね」
明日のジオウがぽんぽんと今日のジオウの肩を叩く。その説明に納得いったのかいっていないのか、首を傾げつつ明日のジオウを指差す今日のジオウ。
「明日の俺?」
「そう!」
「なんってことしてんのよあんたはぁッ!!
っていうか何で!? 何でそういうことができるのよ!
……ああ!? 嘘、タイムマジーンの時空転移システムが動いてる!?」
倒れている方のタイムマジーンからツクヨミの怒声が響く。
恐らく気絶していた彼女をモードレッドが乗り込んで起こしたのだろう。
起きた直後にこの光景を見て、そして叫んでいるのだ。
今日のジオウが明日のジオウを見て問いかける。
「すっごい怒ってるけど……」
「うーん。何かまずいらしいけど、特異点だから大丈夫だって最終的にそういう話になるから大丈夫なんじゃない?」
適当に腕を組みながら返してくる明日のジオウ。
その反応を見て同じく適当に腕を組み、何度か頷く今日のジオウ。
「ふーん……じゃあいっか。手伝いに来てくれたんだよね、よっし! 行こう、明日の俺!」
「あ、ストップ! 今日の俺!」
アナザーオーズに向け構え直す今日のジオウ。そんな彼を引き留める明日のジオウ。
静止した彼が首だけ明日の自分に向け、傾げる。
「なに?」
「ほら、まだいるから」
そう言ってちょいちょいとオーズマジーンを指差す明日のジオウ。
それを合図にしていたかのように、そこから―――
着地する六人の影。
―――無論、それが六人のジオウであることは言うまでもなく。
「おぉおおお! 俺がいっぱい!」
ガン! と頭をレバーに叩き付けたような音がタイムマジーンのスピーカーから響く。
ふらりと揺れたオルガマリーがアタランテに支えられ、呆れた様子のロビンの横で立香が彼らしいと苦笑した。
「手伝いにきたよ、この前の俺!」
「え、どのくらい未来からきたの?」
「ちょうど一週間後だけど?」
「三日後の俺が一番未来の俺なんだよね?」
「え? 一週間後がいるのに三日後が一番未来?」
「あ、俺からしたら三日後だけどここにいた俺からしたら一週間後ってことで……」
ばーん! と再びマジーンから大音響。
更にその直後にツクヨミの大音声。
「分かりづらい!! 今日のソウゴ!!」
「あ、はーい。俺」
「ソウゴ①! 明日のソウゴ!!」
「俺俺」
「ソウゴ②! 二日後のソウゴ!!」
「はーい」
「ソウゴ③! 三日後!!」
「俺だっけ?」
「いや俺。俺の明日の俺だからそっちは四日後」
「自分の時間くらい覚えときなさい!!
ソウゴ④! 四日後はソウゴ⑤! 五日後!!」
「俺だよ」
「ソウゴ⑥! 六日後!!」
「はーい」
「ソウゴ⑦! 最後の一週間後のソウゴはソウゴ⑧!!」
ソウゴ①から⑧までがツクヨミによって番号を振られる。
やっぱツクヨミがいたらこうなるよね、と全ジオウが話に花を咲かせ始めた。
この状況で、とオルガマリーが頭を抱え込む。
それを笑いながら見ていた今日のジオウ、ソウゴ①がアナザーオーズに向き直った。
「あんたは今日で終わるために生きるけど、俺たちには明日からずっと先が待ってるんだ。
俺たちはこんなところじゃ終われない。終わることを気にしないあんたには負けられない」
その言葉に応えるかのように、①以外の全てのジオウがオーズウォッチを取り出す。
スターターを押し込み、七つのオーズウォッチが同時に起動する。
〈オーズ!〉
七人のジオウがそれを装填し、ジクウドライバーを回転させた。
現出するタカとトラとバッタのアーマー。
それを装着しながら、全てのジオウがアナザーオーズに対峙する。
〈タカ! トラ! バッタ! オーズ!〉
ジオウ②が装着したアーマーのブレスターが、クワガタ、カマキリ、バッタに変わった。
オーズアーマーの更に上から緑色のオーラを纏った彼が、カマキリを思わせる構えを取る。
〈タカ! トラ! バッタ! オーズ!〉
ジオウ③が装着したアーマーのブレスターは、ライオン、トラ、チーター。
黄金のオーラを身に纏った彼が野獣の如く身構える。
〈タカ! トラ! バッタ! オーズ!〉
ジオウ④がアーマーを装着すると同時、ブレスターはサイ、ゴリラ、ゾウに変わる。
灰色の光を伴いながら両腕を打ち合わせた彼は、腰を落として重々しく構えた。
〈タカ! トラ! バッタ! オーズ!〉
ジオウ⑤の装着したアーマーのブレスターは、シャチ、ウナギ、タコ。
水の中を泳ぐような動作を見せた彼が、青い光を帯びながらゆるりと構える。
〈タカ! トラ! バッタ! オーズ!〉
ジオウ⑥がアーマーを装備すると同時に炎上する。
そのブレスターに刻まれる文字は、タカ、クジャク、コンドル。
羽ばたくように腕を広げた彼の背中に、赤い光が燃え上がった。
〈タカ! トラ! バッタ! オーズ!〉
ジオウ⑦が装着したアーマーが紫色に輝く凍気を身に纏う。
変化したブレスターの文字は、プテラ、トリケラ、ティラノ。
彼は暴れ狂う恐竜の意思のようなものを窺わせる、獲物を狙う捕食者の構えを見せた。
〈タカ! トラ! バッタ! オーズ!〉
ジオウ⑧はアーマーを装着するとともに、黄土色のオーラに包まれる。
ブレスターには、コブラ、カメ、ワニ。取るのは地に這うかの如く低い構え。
己のブレスターにはタカ、トラ、バッタ。
ジオウ①は自分の横に並ぶ七人の自分を見回すと、大きく一度頷いて正面に向き直った。
―――その瞬間。
「祝え!」
「あ、黒ウォズ」
八人のジオウの背後から、黒ウォズが『逢魔降臨暦』を持ちながら歩み出した。
ジオウを讃えるように片腕を大きく振り上げた彼の前に、ジオウ③と④が割り込む。
「やっぱりこれでもやるんだ」
「―――大魔王たる常磐ソウゴがひとつの時間、ひとつの時代においてこうして……」
「でも黒ウォズも何か怒ってた気がするんだけど」
「確かにそんな話をしたような……」
黒ウォズの前を遮りながら話し始めるソウゴ達。
わいわいがやがやと話し始めた彼らの前で、眉を吊り上げる黒ウォズ。
一向に収まらないソウゴの自分トークに業を煮やし、彼は思い切り本をバッタンと閉じた。
ソウゴたちが全員、その勢いにつられて黒ウォズを向く。
「我が魔王たち、少し静かにしていてくれないか!」
言われて顔を見合わせるジオウたち。
そんな彼らの後ろで再び本を開き、黒ウォズは腕を掲げる。
「祝え!! 大魔王たる常磐ソウゴがひとつの時間、ひとつの時代において、こうして八人揃い肩を並べ、王たちの力が持つ威容を敵対者に示す瞬間である!!」
彼の語りが終わるのを待っていたジオウたちが再び構えを取る。
アナザーオーズが炎と冷気を纏い、更にその力を増していく。
その圧倒的なエネルギーの発露を前に、先頭に立つ今日のソウゴが仮面の下で微笑んだ。
「なんか……行ける気がする!!」
増えることに定評のある魔王。