Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
二話同時投稿
アナザーオーズが翼を広げる。
赤い翼から放たれた孔雀の羽が分離し、その光が呪槍となって舞い踊った。
真っ先に駆け出すのはジオウ②。
その身に纏う緑のオーラを大きく広げ、自身の写し身を無数に展開しながらの疾走。
「ハァアアア―――ッ!」
数十にまで増えたジオウの姿を象る緑の光。
それらが全て、羽槍に向けて飛び掛かっていく。
空中で交差する赤い羽と緑の人型。
ぶつかりあったそれらは相殺し、同時に共に砕け散っていった。
分身は消え失せてなお、ジオウ②本人は腕に刃状の光を纏いアナザーオーズに斬りかかる。
斧と化した彼の腕と緑の刃を幾度か交わった、その直後。
「だぁああああッ!」
陽光を伴って、ジオウ③がアナザーオーズに向かって押し寄せる。
チーターの脚力で加速する彼は、トラの爪に帯びた黄金の光と共に殺到した。
狙いは当然アナザーオーズ。振り抜かれる爪の一撃。
それを迎撃するのは死棘の尾。
ジオウ③が自身に到達する直前、太く強靭な恐獣の尾は横合いからジオウの体に激突して、その姿を大きく吹き飛ばしていた。
「わっ……!」
弾かれたジオウ③がジオウ②を巻き込み地面に倒れ込む。
と、同時にアナザーオーズが翼を広げて飛び立った。
腕の斧は即座に砲身へと変貌し、数枚散らせたセルメダルをその中へと取り込んでいく。
空中から地上の一切を薙ぎ払うために放たれる一撃の充填。
頭上で瞬く紫光。その臨界を前にして、ジオウ④が両腕を振り上げ―――振り下ろす。
「ふん―――ッ!」
「……チッ!」
空舞うアナザーオーズに超重力が圧し掛かる。
灰色の光が滝のように彼の体に落ちてきて、天空を自在に舞う翼から軽さを奪いとる。
巨体が空から徐々に引きずりおろされていく中、砲口で狙う位置を即座に変えた。
無論、次に向ける先はその重力を発生させているジオウ④。
「やらせないよ!」
そんな砲口に絡み付く青い光。ジオウ⑤の持つ水棲属性の力。
ジオウ⑤が下から、腰に生やした水の触腕でアナザーオーズの腕を絡め取っていた。ギリギリと締め上げられる腕はジオウ④から向きを逸らされ、狙いを定めることを許されない。
「しゃらくせぇ――――ッ!!」
〈タカ…! クジャク…! コンドル…! ギン…! ギン…! ギン…!〉
それらを纏めて吹き飛ばすべく、もう片腕の赤い盾が駆動を開始した。
回転する盾が彼の胴体から吐き出された赤い光とセルメダルを取り込み、その熱量を増していく。燃え盛るアナザーオーズ自身の熱で水の触腕を蒸発させ、重力の結界をも吹き飛ばす。
〈ギガスキャン…!!〉
「くっ……!」
爆炎に巻かれ、大きく弾き返されていくジオウたち。
そんな相手を見据えながら、アナザーオーズは炎の翼で飛翔を開始する。
紫の光を湛える砲口と火炎の渦巻く盾を構えつつ舞い上がる巨体。
「オォオオオオッ―――!」
―――その頭上から、赤い翼を広げたジオウ⑥が殺到する。
手にしたジュウから炎弾を射出しながらの強襲、全身全霊の突撃。
それが全速力のまま相手の頭部から叩き付けられ、アナザーオーズの体が揺らぐ。
ぐらりとよろめいた彼が突撃した勢いで跳ね返ったジオウ⑥を追い、しかし。
直後に背後で膨れ上がった光にすぐさま振り返った。
〈フィニッシュタイム! オーズ! スレスレシューティング!〉
〈フィニッシュタイム! オーズ! ギリギリスラッシュ!〉
ジオウ⑦がジュウを構え、そこに装填したオーズウォッチの力を解き放つ。
ジオウ①がケンを構え、そこに装填したオーズウォッチの力を解き放つ。
あらゆるものを粉砕する恐竜の咆哮・砲撃と、空間すら斬り裂く人の欲望が作り出した剣撃。
―――二人のジオウが同時に大地を踏み締めて、踏み込むと同時にそれを放った。
「だぁああああ――――ッ!!」
「―――――ッ!!」
〈プットッティラーノヒッサーツ…!〉
ジオウ⑥を追う余裕はない。
放たれる必殺に反応したアナザーオーズが、両腕に纏っていた力を解放する。
恐獣の咆哮と炎の円環。
互いが放つ必殺を二つ重ねた攻撃が空中で激突し、周囲に威力を撒き散らしていく。
衝突する威力は互角―――だが、極光の衝突の中からジオウたちに向かう閃光が一筋。
虚空を斬り裂くゲイボルクの穂先が、更なる必殺を期してジオウ①に向かって迸る。
―――その前にするりと割り込む動き。
割り込んだ影は両腕を掲げ、カメの甲羅の如き盾を前方に浮かび上がらせた。
直撃する呪槍。それを正面から受け止めたカメの甲羅に罅が走り―――そのまま、衝突の勢いで押し込まれるように後ろに仰け反るジオウ⑧。盾を突き破ろうとする槍の直進に反って、そのままの勢いで地面から離した両足が振り上げられる。
次の瞬間、その両足を覆うワニの如きオーラが横合いからゲイボルクを挟み込んでいた。
「オォオオオッ!」
暴れ狂う槍を力尽くで抑え込む足で象るワニの顎。
喰らい付いた足でそのまま地面に叩き付けられるゲイボルク。
標的に飛翔し続けようと暴れる呪槍に噛み付きながら、更にカメの甲羅で挟み込む。
動きの封じられた槍が推力を削られ、力を落としていく。
―――矛盾している、というならそもそも放った時点で矛盾している。
ゲイボルクとは即ち不可避にして心臓を穿つ必殺の呪詛を宿す槍。
必殺を成立させるはずの今この場における因果の逆転を、生還を確約されたずっと先の未来が捻じ伏せる。
ジオウ⑧が地面に叩き伏せた槍にカマキリの刃が、トラの爪が、ゴリラの剛腕が、ウナギの如き鞭が、同時に直撃して折り砕いた。
向けられた槍が砕け散るのを見届けて、ジオウ①は轟音とともに着地したクー・フーリンを見る。彼が広げる炎の翼、彼が放つ力の奔流をその身で味わいながら―――
「……ちょっとだけ安心した」
ソウゴは、そう言って仮面の下で微笑んだ。
他のジオウたちが彼を見て、クー・フーリンは異形の貌の下で顔を顰める。
「形は違ってもあんたは俺が知ってるランサーだった、ちょっと走り方が変わっただけの。
―――でも、だからこそ。余計にあんたを止めなきゃって思う」
ただ破壊するだけの存在にあの翼は得られない。
それを持てるということは、彼だってクー・フーリンであることに変わりがないということ。
ソウゴが信じ、これまで助けてくれた英雄と同じだということだ。
「ハ―――人の走り方に文句をつけるってか?」
「―――勿論。ランサーと違ってあんたは自分じゃない誰かのために全部巻き込んで、そのまま走り抜こうとしてる。だから俺は俺の民を守るために、あんたのことだって止める。
―――それが、良い王様の務めでしょ? あんたが良い王様を知らないって言うのなら、ここで教えてあげないとね!」
ナイチンゲールとの会話の中分離したウォッチを手にし、そう言ってソウゴは笑う。
そのまま振り返った彼は、手にしたウォッチを思い切り投げ放った。
「ツクヨミ! これで手伝って!」
投げ放たれたウォッチはそのまま巨大化し、横転したボロボロのマジーンに装着された。
機内で推移を見守っていたツクヨミが焦りながら操縦桿を握る。
「ちょっと、いきなり何……!?」
〈バース!〉
既に大破している機体にどこからともなく追加装甲が合着していく。
エビ反りに曲がるタイムマジーンの揃えた脚がクレーンのようなアームに覆われて、更にその先端にドリルが装備。
胴体にキャタピラが装着され、無理矢理動けるように自走機能が追加された。
もげた腕には翼のようなユニットが接続され、ハサミの如く何度か動作してみせる。
残っていた腕にはショベルが現れ、遂にはマジーンの全身が覆われた。
目まぐるしくモニターに流れていく情報。
突然の事態にツクヨミが慌てながらそれらを操作し、目を通していく。
「一気に装備が……そうだ、時空転移システムが動作してるなら弾薬も補充できるかも……!」
大量のモニターを前に両腕を忙しなく動かし続ける彼女の後ろ。
その背中を眺めていたモードレッドが目を眇める。
そうして、そのまま彼女の横から操縦桿に手を伸ばした。
「……ちょっ、モードレッド!?」
「うだうだやってんなよ、こいつはまた動くようになったんだろ?
だったら……マニュアルなんざ読んでる暇もなく、やることはひとつだろうが!!」
止めようとするツクヨミの言葉を無視しつつ、彼女が思い切りレバーを突き出した。
その瞬間、高速で回転を始めるバースマジーンのキャタピラ。
巨体が一気に動き出し、アナザーオーズを目掛けて疾走を開始する。
「ああ、もう!」
揺れる機内の中、モードレッドの肩にしがみつきながら残りの情報に目を通す。
だが彼女の作業が終わる前に、マジーンはアナザーオーズに激突していた。
叩き付けられるのは、思い切り振り抜かれる腕のショベルアームとカッターウイング
迫る巨体に対し舌打ち。
彼はすぐさま翼を広げ飛び立うとして、己を吸い寄せる引力に蹈鞴を踏んだ。
向かう視線の先には、一際膨れ上がった灰色の光を纏うジオウ④。
「……チィッ!」
〈スキャニング! タイムブレーク!!〉
「セイヤァアアアアア――――ッ!!」
アナザーオーズと自身を引き合うように重力操作しているのか。
彼は己をひとつの弾丸と化して突っ込んでくる。
サイの如く頭から行うその突進は、同じく相手の頭を目掛けた渾身の頭突き。
迎え撃つプテラの嘴とサイの角が激突し、アナザーオーズがその上半身を仰け反らせた。
重力に捕まりかつ、ふらついたアナザーオーズ。
彼が動きを鈍らせた隙に、加速した勢いのまま叩き込まれるマジーンの腕。
ショベル、カッター、続けてドリル。その巨体が繰り出す武装が連続で彼を襲う。
「調子に乗んな――――ッ!」
肩からトリケラの角が伸びる。
串刺しにされるマジーンの両腕であるショベルとハサミ。
そのまま尾を振り上げて胴体も粉砕しようとした彼に届く、二つ目の必殺の声。
〈スキャニング! タイムブレーク!!〉
「セイヤァアアアアア――――ッ!!」
ジオウ⑦が頭部から紫色の翼を広げ、それを羽ばたかせていた。
大地を走り来る氷の柱がアナザーオーズの下半身を呑み込み、完全に凍結させる。
攻撃の軌跡、その氷上を滑るように走るジオウ⑧。
〈スキャニング! タイムブレーク!!〉
「セイヤァアアアアア――――ッ!!」
それがアナザーオーズに迫ると同時、脚で象るワニの口が彼の右腕を捕らえた。
ミシリ、と。悲鳴を上げる右腕の斧。
それを理解していながら、クー・フーリンは即断する。
舞い散るセルメダル。それが右腕に強引に呑み込まれ、光が迸る。
ワニの牙を粉砕しながら口の中から溢れ出す紫の刃。
噛み付かれた状態のままに力を解放することにリスクがないはずもなく、その威力は両者を吹き飛ばすほどに膨れ上がった。
〈スキャニング! タイムブレーク!!〉
「セイヤァアアアアア――――ッ!!」
その刃に向け、神速の踏み込みをもってジオウ③が迫る。
太陽の光を帯びたトラの爪が、ワニの口の中に秘められた刃に対して突っ込んでいく。
黄金と黄土の光が混じり合い、紫の光と拮抗し―――直後に爆発した。
③と⑧。二人のジオウが弾き返され、盛大に吹き飛ばされていった。
―――その代償に、アナザーオーズの右腕から斧が砕け、零れ落ちていく。
彼らを跳ね返してみせたアナザーオーズが足を動かし、凍った下半身を引きずり出す。
瞬間、彼と同じ色の光が再び目の前に過る。
振り上げられるアナザーオーズの尾と、ジオウ⑦の振るう光の尾が衝突した。
絡み合う互いの尾が伸び切り、唸る―――その直後。
頭突き合いで弾かれていたジオウ④が、上空からアナザーオーズの尾を目掛けて落ちてくる。
超重力で加速しながら落下してきたその体が、彼の尾を半ばから叩き折った。
「―――――!」
〈プテラ…! トリケラ…! ティラノ…! プテラ…! トリケラ…! ティラノ…!〉
〈ギガスキャン…!!〉
左腕の盾が回転する。
彼の胴体から飛び出した紫の光を喰らい、そのエネルギーを余すことなく発揮する。
④と⑦のジオウ、そして彼が折られた尾。
それらが盾の回転エネルギーに巻き込まれ、大きく吹き飛ばされていく。
解放された炎の円環はそのままジオウたちに向かって放たれた。
迫りくるのは、全てを破壊する喪失の力。
〈スキャニング! タイムブレーク!!〉
「セイヤァアアアアア――――ッ!!」
ジオウ②が跳び上がる。その身に纏う緑のオーラ、その全てを振り絞って行う最大数の分身。
一瞬のうちに五十まで膨れ上がったジオウ②の分身が、アナザーオーズを爆心地とする火炎の円環に対して突撃を慣行していた。
五十の蹴撃の中、雷光が弾け飛ぶ。だがアナザーオーズの一撃は僅かに減速されるだけ。
数秒の後、ジオウ②の分身が徐々に掻き消されつつ、薙ぎ払われていく。
目の前の衝突を画面越しに見て、マジーンの中で操縦桿を握るモードレッドが舌を打った。
「―――さっきのよりデケェ……! 止められなきゃ全滅だぞ!」
「……キャタピラ、ドリル、ショベル、クレーン、カッター……!
――――あった! これ!」
そのモードレッドの言葉に耳を向けず、ツクヨミは必死に画面を睨みつけていた。
そして声を張り上げると同時、その画面に向けてモードレッドの顔を無理矢理向かせる。
同時に彼女が握っていた操縦桿を自分も掴む。
「使う気があるならマニュアルくらいあなたも読みなさい!」
「―――ハ、そういうのはマスターに任せるさ!」
掴まれ無理矢理引き寄せられた首を軽く鳴らす。
次の瞬間、ツクヨミとモードレッドが同時にマジーンの操縦桿を引いていた。
巨大サソリといった風貌だったマジーンが装甲を外し、人型に変形する。
改めて装着されていくバースマジーン用のアーマー。脚部にキャタピラ、右腕にクレーンとドリル、左腕にショベル。背中にはカッター状のウイング。
そうして―――胴体に巨大な大砲が接続された。
本来腕にしっかりと固定されるだろうクレーンとドリルをぶらりと下げながら、胸部大砲にマジーンの全エネルギーを集約させる。
二人の搭乗員が同時にレバーを押し込む動作。
―――それとともに、彼女たちがマニュアルに書いてあった装備の名前を叫んだ。
「ブレストキャノン、シュート――――ッ!!」
マジーンが軋みを上げながら胸部大砲を解き放つ。
極光の向かう先には当然、アナザーオーズの放った炎の円環。
回転する円環の中心に叩き込まれた砲撃がジオウ②に助力して、押し返す勢いを強めた。
だが大出力の砲撃はマジーンに耐え切れるものではなく、照射は数秒に満たないもの。
すぐに勢いはひっくり返されるだろう。
けれどそれで十分。その砲撃が直撃し、勢いが緩んだ今。
今ならば、突き抜けられる。
〈スキャニング! タイムブレーク!!〉
「セイヤァアアアアア――――ッ!!」
舞い上がったジオウ⑤は、腰から生やした水の触腕―――タコの脚を捩じり、自身の下半身をドリルのように覆っていた。
そのまま勢いが僅かにでも弱まった炎を掘り進めるように、水のドリルが叩き込まれる。
炎の円環をぶち破り、アナザーオーズの元まで突き抜けるために。
果たして、その掘削は成功した。
結果は円環を突き抜けた直後に力尽き、アナザーオーズの直近に転がり落ちるジオウ⑤。
だがアナザーオーズにそんなことに気を向ける余裕は与えない。
掘り進めるジオウ⑤の後ろから追従したジオウ⑥が、アナザーオーズまで届く。
〈スキャニング! タイムブレーク!!〉
「セイヤァアアアアア――――ッ!!」
下半身の赤いオーラが形状を変え、猛禽の足を象った。
獲物を捕らえる爪と翼を広げ、彼はアナザーオーズの左腕に激突する。
メキメキと圧壊していく彼の左腕に装着された盾。
砕けていく盾を気にかけず、アナザーオーズはそのままジオウ⑥の足を掴んだ。
そのまま地面に叩き付け、振り上げ、叩き付け、そうして投げ捨てる。
地面をバウンドして転がっていくジオウ⑥。
振り下ろした彼の腕から、盾の残骸が崩れ落ちていく。
貫かれて弱まりながらも、しかし彼の放った円環が爆炎の柱を巻き起こす。
―――何とか残っていた分身体となっていた緑の光が消えていく。
その場に残されているのは、力を使い果たして地面に倒れ伏すジオウ②だけ。
そうして。
〈フィニッシュタイム! オーズ!〉
ドライバーを操作し、必殺待機状態に入ったジオウ①がアナザーオーズの前に立ちはだかる。
武装を悉く砕かれ、既に限界など超えているアナザーオーズはそれに向き直った。
―――もっとも。ジオウとて先のセルメダルの過剰摂取に反動で限界などとっくに超えている。
今にも砕けそうな体に無理を押して立っているのどちらも同じだ。
半壊している足で一歩踏み込み、クー・フーリンが口を開く。
「―――後はテメェで終わりだ」
「終わらないよ、俺たちは終わらない。
この力で伸ばす手は、誰かに、どこかに、届いて欲しいと願う手だ。
何かを壊したり、終わらせたりするための手なんかじゃない。
あんたにこの力の使い方を間違えさせたまま、俺は絶対に終われない――――!!」
〈スキャニング! タイムブレーク!!〉
「セイヤァアアアアアアアアアアァ―――――ッ!!!」
ジオウの腕がドライバーを回す。
バッタの脚力によって跳び上がるジオウの前に、解き放たれるオーズの力が三枚の巨大なメダルを形成した。タカ、トラ、バッタ。赤、黄、緑。三色三種のメダルがジオウとアナザーオーズの間に浮かび上がった。蹴りの姿勢のままメダルに激突したジオウが、そのメダルを押し込みながらアナザーオーズに向かって殺到する。
残された力を全て爪に注ぐ。
トラと、そして彼の鎧たるクリードの爪牙に全ての力を集中する。
蹴撃で押し込まれていくメダルは空中で三枚が合体し、そのままアナザーオーズを目掛けて叩き付けられる。対するのは彼が全霊を乗せた爪の一撃。
激突し、メダルに突き立てられる爪。それが―――先端から砕けていく。
蹴りつけたメダルを押し込みながら留まらず、アナザーオーズに迫るジオウ。
爪と腕を粉砕しながら迫るメダルとともに、その蹴撃は彼の体に最後の一線を越えさせた。
―――突き抜けた勢いで地面を滑るジオウ。
三つが混じった巨大なメダルが散り、“OOO”と横並びに揃ってみせる。
ボロボロに崩れ落ちる異形の体。
彼の背後で、霊核とアナザーウォッチが砕かれたクー・フーリンが姿を元に戻していた。
「……チッ、オレも焼きが回ったか」
変身を解除した彼の体から、黄金の杯が落下した。
からりと乾いた音を立てて地面を転がる聖杯。
それは汲めども尽きぬ魔力を湛えた願望器。
だが、人の欲を結晶化したセルメダル。
どれだけ果たされても満ちない、欲望の具現を溢れるほどに生み出し続けたそれは、一時的に力を使い切ったように渇いていた。
無尽の泉を枯らす人の欲望。
その力を使い果たしたクー・フーリンが、小さく鼻を鳴らす。
「魔神柱とやらを呼ぶのに足る力も残ってねえときた。
ここで打ち止め。ここがオレの幕切れってわけだ」
「―――そうとは限らないんじゃない?」
ジオウ①が重そうに体を立たせ、彼に対して向き直る。
「俺たちと一緒に戦ってくれた皆も、俺たちと戦ったあんたたちも。全部繋がってる。
手の繋ぎ方は人それぞれ。あんたと俺たちは、戦うことで手を繋げた。
そう考えたって、いいんじゃない?」
ちらりと一瞬だけクー・フーリンがジオウ①を見る。
そのまま彼は目を瞑り、消滅に抗うこともなく魔力に還り始めた。
「テメェがどう考えるかなんざ、テメェで勝手に決めておけ。
オレの中にあるもんは敵か味方かだけだ。テメェは敵で、オレが負けた。
結果、それだけだろうさ」
「そう? じゃあ……あんたに勝った分も、明日を生きる。あんたと手を繋いだままで、俺はずっと先の未来まで歩いていく。だからあんたも、今日で終わりになんてならない。
―――そのために世界を救ってくる。なんてったって俺は、そういう生き方の王様になるから。この世界にはそういう王様もいるって、これはあんたもちゃんと覚えておいてよ?」
舌打ち。
それだけを残し、黒いクー・フーリンの姿が消滅した。
―――それを見届けて、ジオウ①がばたんと地面に倒れる
「つっかれたぁ……」
疲労と、安心と、色々な感情を乗せて吐き出す言葉。
ほぼ全員が地面に倒れることになった戦場で、彼は寝転がりながら思い切り体を伸ばした。
一話で終わらせるつもりが長くなったので