Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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二話同時投稿


昨日と今日とまた明日2015

 

 

 

「ふぅ……」

 

「お疲れ様ー」

 

 倒れ込んだソウゴ①の耳に届くそこかしこで上がる声。それは全てソウゴのもの。

 アナザーオーズを撃破した彼らが、気の抜けるような声をあげた。

 がやがやと騒ぎ出す八人の同一人物。そんな光景を目の当たりにして、壊れた槍を杖代わりに上半身を起こしたエリザが唸る。

 

「アタシも分身してライブしたらファン爆増じゃない……?」

 

「爆殺の間違いだろ……」

 

 襤褸布のようになった顔のない王を叩きながら、げっそりと。

 ロビンはエリザを半眼で見つつ、そう言った。

 自分が分身していることを想像したのか、ネロは地面に横たわりながら難しい顔をする。

 

「うーむ、確かに至高の美である余が増えれば……む?

 まったく同じ美が複数存在する場合、それを至高の美と呼ぶのであろうか?」

 

「オンリーワンの美と、普遍的に認知された美。

 まったく同じ美しさであっても、それは前者の方がより美しいと感じられるのだろう。そういうところある。つまり孤高の天才気取りが、天才性を世界に広く知らしめた天才よりも優れている、と誤認されてしまう、というようなことがね」

 

 同じく地面に転がっているエジソンの言。

 それを聞いて、立香の横で墜落したUFOを見ていたエレナが苦笑した。

 

「けれど、今回はその孤高の天才に助けられたわね。

 まさか、カルナの槍でアルジュナが残した雷神の神威を辿って助けに来てくれるなんて」

 

「あれは私の霊界通信機やカルナ君の槍、そして槍を扱ったアルジュナの功績と言える。

 すっとんきょうの功績は微々たるものだ」

 

 鬣を揺すりながらがおがおと首を振るエジソン。

 そんな彼が貧乏ゆすりを止め、空を見上げる。

 

「……まあ、あれだ。少しは助かったが」

 

 強情なエジソンを見ながら立香が立ち上がり、小走りにマシュの元へと急ぐ。

 彼女は肩で息をしながら、寄り添いにきたマスターを見上げた。

 

「先輩……」

 

「マシュ、大丈夫?」

 

 立香の手で抱き起された彼女が、息を整えつつ自分で体を起こす。

 体力も魔力も消耗が激しい。体を起こすのがやっと、というほどに。

 フォウが立香の肩から飛び降りて、マシュに寄り添うように身を寄せた。

 

「フォウフォウ……」

 

 彼の頭を撫でつつ、彼女は近くに倒れたジャンヌを見る。

 

「はい、わたしは……ですが、ジャンヌさんが」

 

「―――私も、大丈夫です……

 ですが申し訳ありません、マスター。旗が……」

 

 そのジャンヌもゆっくりと身を起こし、砕けた旗の破片を見やる。

 

 彼女の主武装・宝具であった白き旗。

 それが、主の御業の再現の行使に耐え切れず損壊した。

 つまり、彼女は戦闘と守護を行う手段を喪失した、ということだ。

 

 そんな言葉を立香は軽く笑い飛ばす。

 

「大丈夫だよ、何とかなるって。ダ・ヴィンチちゃんは天才だから」

 

『おや、言ってくれるね。武装を仕立て直す、というならそれこそ霊基再臨の領分だけれど……

 さて、そのためにはルーラーの霊基の確保が難しい。まあ、言われたからには何とか考えてみようじゃないか。私は天才だからね!』

 

「ほら、大丈夫だって」

 

 言質をとって微笑む立香。それに苦笑を返し、立ち上がるジャンヌ。

 彼女のすぐそばに倒れていたブーディカも体を起こし、一息ついた。

 その視線がちらりと既に魔力に還った、自身の戦車があった場所に向けられる。

 

『ブーディカも再臨が必要だろう。戦車は破壊されてしまったからね。けれどライダーならば問題ない。それこそ直近のメイヴもライダーだったようだし、十分資源は足りているよ』

 

「それは良かったけど……はは、凄いねあれ」

 

 自身の宝具は修復可能と聞き、胸を撫で下ろすブーディカ。

 そんな彼女が地面に転がる八体のジオウを見る。

 向けられた視線に気づいたジオウ②が、何かを思い出したかのように体を起こした。

 

「そうだ。俺たちも早く帰らなきゃ。ほら、未来の俺! 早く早く!」

 

 言って、未来のジオウたちを集め始めるジオウ②。

 彼らの姿が一週間後のタイムマジーンの元まで集められていく。

 

「ちょっと、常磐……常磐たち!」

 

「今日の所長の言うことを聞くのは今日の俺の仕事だから! 頑張ってね!」

 

 声をかけるオルガマリー。それをそのままジオウ①にスルーパスし、ジオウ②はどんどんと他のジオウをマジーンに押し込む。

 

「えー、なんでそんなに急いでるの?」

 

「すぐに分かるよ!」

 

「これから頑張って、一週間前の俺!」

 

 押し込まれながら最後にジオウ⑧が声をあげる。

 マジーンのハッチはすぐに閉まり、タイムマジーンは時空転移システムを起動。

 そのまま時空のトンネル、ジェネレーションズウェイに入り、消えていった。

 消えていく彼らを見送って空を見上げていたジオウが、首を傾げる。

 

「すぐに分かるって……何が?」

 

「………もう正直、何となく想像はつくけれど……いえ、もういいわ」

 

 溜め息混じりにそう言って、そのまま地面に転がった聖杯に向け歩き出すオルガマリー。

 彼女がただの金杯にしか見えないそれを拾い上げ、目を眇める。

 

 特異点が維持されている以上は絞り尽くした、というわけではないはずだが……

 それでも、それに近い状態になっているのだろう。

 

「―――聖杯の力が不足させるほどに絞り出すなんてね。

 マシュ、盾にこの聖杯も収納してちょうだい」

 

「はい、いま行きます!」

 

 所長の声に応え、何とか立ち上がって走り出そうとしたマシュ。

 そんな彼女が一歩を踏み出して―――よろめき、転んだ。

 

「あっ……!」

 

「わわ、大丈夫? マシュ」

 

 すぐさま支えに入る立香。

 マシュの手から盾が滑り落ち、がらんがらんと盛大な音を立てて転がった。

 ふらつく彼女に対して、オルガマリーの目を薄く細める。

 

「マシュ……?」

 

「患者ですね」

 

 揺れるオルガマリーの声。

 しかしそれを引き裂く、獲物を見つけた鉄の看護師の声。

 

 いつの間にかマシュの前に、ナイチンゲールが立ちはだかっていた。

 彼女は手袋をしっかりと嵌め直して、マシュの体に手を伸ばす。

 そうして開始される触診。診察をすること数秒。

 

「あ、あの……少し疲れただけですので……

 わたしは大丈夫です、ナイチンゲールさん……」

 

 マシュの強がりに無言で返し、そのまま診察を続行する。

 重ねて数秒、一瞬だけ顔を顰めた彼女がマシュから手を放し―――

 彼女が理解した結果を口にした。

 

「―――そのようですね、()()()()()()()()()()。疲労はあっても極めて健康的です。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「―――――はい。いえ、その……はい。ですから、大丈夫ですので」

 

 そう言って歩みを進めようとするマシュに、連続して銃声。

 彼女の足元に撃ち込まれた弾丸が、その足を止めさせる。

 

「黙りなさい。体力の減少は免疫力を低下させます。

 著しく体力が下がった状態で、普段通りに活動しようなどということが許されるとでも?

 あなたはここで一時休息しなさい」

 

「い、いえ。わたしはデミ・サーヴァントですので……免疫力も人並み以上で」

 

 銃声。銃声。銃声。終わらないリボルバーの動作。

 マシュの言葉を強引に中断させる銃撃音。

 その後、ナイチンゲールがマシュの肩を力尽くで拘束して歩き出す。

 

「あっ、ちょ、ちょっと待ってください……!」

 

「黙れと言っているのです。Mr.エジソン、さっさと動き出してください。

 半壊したとはいえ、この基地の司令官はあなたです。早急に指示を出しなさい。

 この地に衛生的な環境の施設を整備し、病院とするのです」

 

「あ、はい……」

 

 エジソンを無理矢理伴い、ナイチンゲールはどかどかと進んでいく。

 それを見送りつつ、アタランテは肩を竦めた。

 マシュを連れていかれては、聖杯の完全な回収ができない。

 特異点の修正が始まるまで、今しばらくの猶予が生まれてしまったということだろう。

 

「まあ、マシュも疲労していて当たり前か。

 私たちも休息をとるべきかな、マスター……マスター?」

 

 アタランテが訝しげにオルガマリーを見やる。

 凄まじく苦い顔をして、どこに目を向ければいいのか分からないと彷徨わせる視線。

 そんな様子にアタランテが眉を顰めた。

 

 半壊していたマジーンから降りてきたツクヨミもその様子を見て、首を傾げる。

 その様子を問いかけようとする彼女の肩を、モードレッドが掴む。

 

「え?」

 

「―――止めとけ、マスター。今訊くことじゃねえよ。

 マシュにしろ、オルガマリーにしろ、問い詰めるのは腰を落ち着けてからにしとけ」

 

 そんな言葉を言うだけ言って、彼女は壊れたマジーンに寝転がるように寄りかかった。

 ―――まるで、マシュの休息は長くなると分かっているかのように。

 

 困惑しているツクヨミの後ろで、微かにジェロニモが目を細めた。

 

「……ふむ。では、せっかくだ。戦勝を祝う宴でも開こうか。

 私たちはここで終わりだが、君たちはまだまだ戦い続けるのだろう。

 ならば、戦友を送り出すに相応しい祈りを……」

 

「はい! はいはい! 宴会なら1番! エリザベート、歌います!」

 

「待て! 1番と言えば余だろう!? まず歌うのは余だろうに!」

 

 どこにそんな体力があるのか、すぐさま復帰してくる二人。

 ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てるエリザとネロを見ながら、ビリーは大きく背を伸ばした。

 

「うーん! 終わった、って言いたいけど……まあ僕たちはともかく、君たちの戦いはまだまだ続くわけだから、そんなこと言ったら怒られちゃうか。とはいえ……何はともあれ、ここではこうして勝ったんだ。少しくらい気を抜いたってバチは当たらないかな」

 

「いや、今まさに目の前で魔神レベルの修羅場が幕を開けようとしてるんですがね」

 

『―――うん、特異点の修正は始まっているけれど、緩やかなものだ。

 聖杯を完全に回収していないからだろうね。マシュが復帰するまで、少しゆっくりする暇はあるだろう。流石に日を跨ぐほどではないだろうけれど』

 

 騒ぎ立てる二人の歌姫を見ながらげっそりとした表情を浮かべるロビン。

 やり取りを聞いて苦笑したロマニが、現状を現場に通達する。

 彼は数時間であろうが、ここである程度自由にできるという。

 

『というわけだ。お疲れ様、皆。ここで少し休息をとってくれていい。

 ところでオルガマリー、打合せは必要かい?』

 

「……要らないわよ。帰ってから、わたしがやるわ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんからの声。

 オルガマリーに対する問いかけに対し、彼女は難しい顔のまま返す。

 その様子に目を見合わせる立香とツクヨミ。

 彼女たちは事情を理解していそうな様子を見せたモードレッドを見て、首を傾げた。

 

 そんな中で、つい先程まで死にかけていたスカサハはゆっくりと立ち上がる。

 自身の体を確認しながら、血塗れの姿のままで。

 

 彼女の視線が横を向き、未だに転がっているラーマを見る。

 宝具の乱用、と言って差し支えないほどに力を絞り尽くした彼。

 どうやらラーマはまだ、意識を失っているようだ。

 

 ゲイボルクに穿たれた心臓を無理矢理維持し、その状態のまま戦闘まで行った。

 それが治療できるや否や、此度の戦闘。

 流石に無理が祟った、ということなのだろう。

 

「スカサハは大丈夫なの? マシュと一緒にナイチンゲールに診てもらう?」

 

「―――よい。あやつが消えたことで、治癒を妨げていた呪詛は消えた。

 今ならば私自身の魔術だけで十分に足りる」

 

 立香の言葉に応えつつ、クー・フーリンが消えた場所に視線を送る。

 一瞬だけ瞑目した彼女は、そのまま踵を返した。

 

「あれ、どこ行くの?」

 

「……さて、どこに行くかな」

 

「あ、じゃあ悪いけれどあたしの手伝い、頼めるかな」

 

 立ち去ろうとするスカサハにかかる声。

 足を止める彼女に対して、ブーディカは言葉を続ける。

 

「基地の方も凄いことになってるし、何かを食べるにしても料理のために手間がかかっちゃいそうだし……」

 

「……なんだ、私のルーンを調理器具扱いか?

 ―――まあ、よかろう。

 あれを倒した勇者に振舞われる料理だ、薪扱いも今回ばかりは我慢しよう」

 

 大きく息を吐き、再び戻ってくるスカサハ。

 彼女の足がその途中で寝転がっているラーマを通りがかりに蹴り起こす。

 

「ぬ、ぬ……? ああ、意識が飛んでいたか……?

 終わった……勝った、のだな……ぬ、ぐ……! 流石に、疲れた……」

 

 一度顔を起こし、しかしまたがくりと落ちるラーマ。

 皆が疲れ切った体を何とか動かし、戦い抜いた健闘を讃え合う。

 そして、次の戦場に向かうものたちへ幸運を祈る。

 

 ―――ほんの数時間、この特異点で戦ってきたものたちで行う宴会。

 

 ようやっとナイチンゲールから解放されたマシュも合流した、その少し後。

 彼女が聖杯を盾に回収すると同時にサーヴァントたちは退去を始め、皆もカルデアへと戻ることになった。

 

 

 

 

 ―――カルデアに帰還して、そのままその日は解散。

 休息に休息を重ねるようで渋ったマシュも強制的に休まされた、その次の日。

 

 朝ごはんを食べに食堂を訪れたソウゴが見たのは、配膳を手伝うジャンヌの姿。

 彼女は普段の鎧姿ではなく、武装を解いた服装だ。

 

「なんでジャンヌが?」

 

「宝具を失っているうちは戦闘にも参加できないから、せめてこちらの手伝いを……っていうことで手伝ってくれてるんだよ」

 

 戻ってくるや否や、すぐに食堂業務に復帰したブーディカが教えてくれる。

 彼女もまた今回の戦いの中で宝具を失った。

 だが彼女の場合は、修復した第五特異点の推移を観察しているダ・ヴィンチちゃんの手が空き次第、霊基再臨を行うことで復帰することができるだろう。

 

「ふーん、そっか。じゃあ俺も朝ごはん……」

 

『常磐ソウゴ、早急に管制室に出頭するように。今すぐによ』

 

 前置きもなしに、カルデア内のスピーカーが彼の名を呼ぶ。

 それは当然のように所長の声。

 聞いたソウゴは首を傾げつつ、ブーディカと顔を合わせてみた。

 

「呼ばれちゃった。ブーディカ、俺のごはんも作って置いといて」

 

「はいはい、いってらっしゃい」

 

 食堂から小走りに去っていくソウゴ。

 その背中を見送りながら少し考え込むブーディカ。

 彼女は何かに気づいたように目を開き、困ったように微笑んだ。

 

「あー……そっか。明日からお弁当、作ってあげようかな……」

 

 

 

 

 管制室に辿り着いたソウゴの前には、異物があった。

 無論、それはタイムマジーン以外にありえない。

 当然のように、中にソウゴが6人すし詰めになっているタイムマジーンだ。

 

 持って帰ってきたマジーンは当然、ボロボロ。

 大破したままなので、こんな風に乗ってこられるはずもない。

 

「あ、やっと来た。二日目の俺」

 

「ほら、早く早く。今日から、昨日に行くよ」

 

 到着するや否や、そうやってソウゴたちに声をかけられるソウゴ。

 

「えー……もしかして、今日から一週間毎日ってこと……?」

 

「そういうこと」

 

 管制室にいるオルガマリーは頭痛を堪えるように頭を抱えている。

 そんな彼女の横で、ダ・ヴィンチちゃんが楽しげにソウゴ軍団に問いかけた。

 

「ところでそのタイムマジーンは誰のだい?」

 

「最後の日……一週間後の俺のだよ」

 

「ほうほう、つまりこれから一週間以内にタイムマジーンも修理して、一週間後には今日のソウゴくんが前の日のソウゴくんたちを迎えにいかなきゃいけないわけだね」

 

 なるほどなるほど、と首を縦に動かすダ・ヴィンチちゃん。

 つまりソウゴはこれから一週間、マジーンの修理も行わなくてはならないわけだ。

 これから、アナザーオーズと戦いに行った後に。

 

「まだ俺、朝ごはん食べてないんだけど……」

 

「あ、やっぱり? 俺もそうだった」

 

 元ソウゴ②、つまりこれからツクヨミにソウゴ③を振られることになるだろうソウゴが大きく頷いた。彼はブーディカに朝ごはんの依頼をしたまま過去に飛び立ち、急いで戻って朝ごはんを食べた過去を持つ。

 彼にとっては過去でも、これからソウゴ②になる予定の元ソウゴ①にとっては未来の話だが。

 

「だったら教えといてくれればいいのに……」

 

「えー。でも未来の出来事は教えるべきじゃないって黒ウォズが……」

 

 そう言って何番かも分からないソウゴがソウゴの後ろを見る。

 そこには本を携えたウォズが、いつの間にか立っていた。

 肩を怒らせてウォズに対して声をかけるソウゴ。

 

「黒ウォズ、俺が朝ごはん食べるかどうかくらい変えてもよくない?」

 

「―――我が魔王、残念ながら君の食事の有無程度であっても、本来の歴史からずらすべきではないよ。君は魔王にして時の王者。もしかしたら君が食事をしてしまったことにより、世界が滅びるかもしれないのだから」

 

「そんなわけないじゃん……っていうか、過去って簡単に変わらないんでしょ?」

 

 溜め息混じりにそう言うソウゴ。

 そんな彼に対して、大仰に腕を広げた彼が『逢魔降臨暦』を掲げる。

 

「大筋は、ね。彼らの言葉を借りるなら人理定礎、あるいは量子記録固定帯(クォンタム・タイムロック)。時代の流れの特定の位置で固定されるそれらの隙間……前回それが固定された時間から、次の固定が訪れる瞬間までの間ならば、変動は未来の方向、時間の本筋さえ変え得るかもしれない。ごく最近への時間渡航はそれだけの影響を与え得る。

 だから本来、我が魔王と言えどそのような危険な行為は避けるべきなんだが……まあ時代から隔離された特異点ならば、それを気にする必要は余りないだろう」

 

「うーん……つまり特異点でのことなんだから、やっぱ俺のごはんにそれ関係ないじゃん! ちょっと、ウォーズー!」

 

 他のソウゴにマジーンの中へと引っ張り込まれていくソウゴ。

 彼が押し込まれると同時にハッチが閉じ、タイムマジーンが強引に渡航を開始する。

 時空の彼方に消えていくそれを見送って、ウォズが踵を返した。

 

 すぐさま管制室を出ていこうとする彼の背中にかかるロマニの声。

 

「―――聞いていいかな、ウォズ」

 

「……何かな、ロマニ・アーキマン。私の説明に何かおかしなところでも?」

 

「おかしい、というよりは何故そのような説明を、という気持ちはないではないね。

 その時間干渉の方向性は、第二魔法のそれだ。確定していない未来が変わり、分岐していく世界。そこへの干渉は並行世界の運営に当たる」

 

 第二、そして第五。結果的に時間を渡る二つの魔法。

 時間という縦軸への干渉のうちはそれは第五魔法の領分だが、横軸の並行世界への干渉となればまた話が違う。時間旅行によって並行世界が発生するという話は、第二魔法の領分。

 

「それがどうかしたかい? 残念ながら私にとっては魔法の区分など重要じゃない。

 我が魔王の力の前では、どちらも同じようなものであって―――」

 

「ちなみに。私には君が並行世界への干渉を嫌っているように見える。

 だからソウゴくんに釘を刺したと感じたのだが、どうだろう?」

 

 ウォズの言葉を遮るダ・ヴィンチちゃんの言葉。

 言われても大した反応も見せず、彼は小さく肩を竦めた。

 

「そうかもしれないね。

 何せ、恐らく並行存在であろう白い私なんてものが出てきたばかりだ。

 我が魔王の力は大きすぎるが故に、時空に歪を生み出す。

 少しは気を付けてもらわないと、君たちだって困るだろう?

 私はいつだって臣下として、我が魔王に忠言を行っているつもりだからね」

 

 そう言って彼は大きくストールを翻し、再び歩き始めた。

 離れていく背中を見て、目を細めるオルガマリー。

 そのまま彼に質問を飛ばしていたロマニとダ・ヴィンチちゃんへ視線を送る。

 

「……何か分かったの?」

 

「いや、そういうわけではないんだけれどね……少し違和感があるんだ。

 もう第二や第五魔法の領分に足を入れていることに突っ込む気はないけれど……

 だからこそ、レオナルドの言った通りの感覚を覚える」

 

 軽く頭を掻いて、椅子の背凭れに体を預けるロマニ。

 その答えを聞き、オルガマリーが目を眇めて顎に手を当て思考に入る。

 

「並行世界の干渉に成り得る事態を控えている?」

 

「うーん、まあでも彼の言い分にもおかしいことはない。

 ボクたちからすればウォズ……黒ウォズも正体不明だけど、黒ウォズからすれば白ウォズが正体不明だ。その上、彼の目的は明確にソウゴくんの打倒らしい。不確定要素を増やしたくない、というのは十分に理解できる理由だろう」

 

 まあ白ウォズが並行世界に由来する存在かさえ不明だけど、と。

 ロマニは目頭を押さえるように手を当て、溜め息を吐いた。

 

 いつぞや彼の口にした言葉を思い出しながら、ダ・ヴィンチちゃんもまた目を細める。

 

「……矛盾、ね。可能性の統合? 並行世界の編纂?

 ―――まあ、今考えてもしょうがないだろうけど……」

 

 そう言って彼女はぱん、と両手を打ち合わせながら思考を打ち切った。

 

「さて! じゃあとりあえず私たちは特異点の推移を観測。

 それと所長には心を決めてもらわないとね!」

 

「……まあ、所長がどうしても難しいというなら主治医であるボクからでも」

 

 ぐ、と表情を固めたオルガマリーがすぐさまロマニに鋭い視線を飛ばす。

 

「―――馬鹿にしているの、ロマニ。

 あなたはいつわたしの仕事を代行できるほど偉くなったのかしら?」

 

「所長がレイシフトしている間は割とボクが代行してると……

 あ、いえ。なんでもありません……」

 

「途中でやめるなら最初から言わないで。

 常磐が落ち着くのが一週間後と言うのなら、そこでわたし自身の口から話します。

 アニムスフィアが行った試みだもの。よその魔術師に語らせるなんてありえないわ」

 

 言いながらどかりと椅子に腰を下ろすオルガマリー。

 そんな彼女の様子に肩を竦めたダ・ヴィンチちゃんも座りつつ、ぱたぱたと手を振った。

 

「ふむ。時間干渉は恐らく、オーズという仮面ライダーの力が極端に引き出されたもの。

 多分、この目的を果たす一週間後にはここまでの力は失われているんだろうね。再現度といえばいいのかな、それが高いとより力……()()を引き出せる。

 私たちにその再現度の高低を判断する術はないけれど……ジオウが手にしたライダーの力は基本的に手にした直後、その特異点で最も発揮されていると思われる。今回も恐らくそういうケースであり、これからもそういうことになるだろうね」

 

 

 

 

 オルガマリーたちがそんなことを話している管制室を後にして、ウォズはカルデアの通路をゆったりと歩んでいく。

 彼は片手に『逢魔降臨暦』を広げ、その頁に記述を検めていた。

 

「かくして、我が魔王は仮面ライダーオーズの力を手に入れた。

 我が魔王の力はどんどん増大している。この私にさえも推し量れぬほどに……その力をもって第五の特異点を攻略した彼らが次に向かう地は、西暦1273年のエルサレム王国。

 彼の地で待ち受ける次なるレジェンド……その名は……?」

 

 そこまで言葉を発したウォズが止まる。

 彼は片手に開いた『逢魔降臨暦』に何度か目を通し、困惑の表情を浮かべた。

 その手が頁を捲り、前後の内容を幾度も確認する。

 書かれた文面は変わることなく、彼の抱く困惑の感情を強めていく。

 

「まさか、私の知らない歴史が……? まさか、また葛葉紘汰が……?」

 

 目を細め、本の記述を睨むウォズ。

 そんな彼の手の中で、『逢魔降臨暦』の表紙に描かれた歯車が回り出す。

 

 

 




 
閏年先輩のおかげで2月中に五章が終わりました。
閏年先輩ありがとナス!来年もまたよろしくお願いします!
 

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