Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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時間の先で潜む者!2015

 

 

 

「今回、召喚のために確保できた魔力資源は多くなかった。

 と言っても、二度は召喚できるけれどね」

 

 そう切り出し、掌に乗せた聖晶石を転がすダ・ヴィンチちゃん。

 第五特異点の修正は完了し、そこから魔力資源をサルベージした結果だ。

 彼女は片目を瞑り、顎に指を当て、可愛らしく首を傾げる。

 

「まずサーヴァントが一騎しかいないツクヨミちゃんは当確。

 後はまあ、クー・フーリンの再召喚に臨みたいところだろう?」

 

 実質的に一度分の自由枠。それをソウゴの召喚に使う、と。

 その確認の意もこめて周囲を見回しても、反対の意見は出てこない。

 ジャンヌの実質離脱がある以上、立香の召喚も選択肢ではあるのだけれど。

 ただクー・フーリンの再召喚が陣営全体として望むところなのは確かだ。

 

 カルデアの召喚システムでは狙い撃ちは出来ないが―――

 ソウゴなら何となく引き寄せそうな気はする、という……行ける気がする、という奴だ。

 

「では、まずツクヨミちゃんの召喚からやっていこうか」

 

「はい」

 

 ダ・ヴィンチちゃんから石を受け取り、召喚システムの前に立つツクヨミ。

 いい加減見慣れてきたシステムの動作。

 石が砕けて、魔力光を放つサークルが展開されていく。

 回転する光のリングはその勢いを増し、黄金の光を迸らせた。

 

「あ、色変わった」

 

「時々あるけどどういう基準なんだろうね、これ」

 

 後ろでそれを眺めていた立香とソウゴが小声を交わす。

 

 そんな中で召喚サークルの中から現れたのは、金髪の美丈夫。

 彼は金色の長髪をかき上げて払い流すと、にこやかに微笑んだ。

 

「サーヴァント、ランサー。

 我こそはエリンの守護者。栄光のフィオナ騎士団の長にして、ヌアザに勝利せし者……」

 

 槍を携えた戦士はそう言って、ツクヨミに向き合う。

 先日敵対したばかりの顔に、彼女は少し困惑した様子を見せた。

 

「あ、この前の黒いランサーの部下の人」

 

「おや、そういう君はあの仮面の戦士かな?」

 

 はっはっは、なんて笑いながらソウゴと言葉を交わすフィン。

 すぐに視線をマスターであるツクヨミに戻した彼が、礼をする。

 

「フィン・マックール。召喚に応じ、今ここに現界した。

 よろしく頼むよ、美しき我がマスター」

 

「はぁ……」

 

 敵だったのにこんな感じなのか、と。

 ツクヨミの目が細くなり、彼の様子をじぃと見つめる。

 その有様に何を考えたのか、フィンは辛そうな顔をした。

 

 そんな反応に自分が失礼をしたと、ツクヨミが焦って謝罪しようとし―――

 

「あ……ごめんなさい、別に疑ってるわけじゃ……!」

 

「ああ、私は何と罪深い男だ……! 余りにも、美男子過ぎる……!

 こうして顔を合わせたマスターの視線と心までも早々に奪ってしまうとは……!」

 

「は?」

 

 申し訳なさそうにしていたツクヨミの顔が一瞬で崩れる。

 フィンは天井を仰ぎながら、悲痛な表情を浮かべてみせていた。

 彼女は微かに眉を引き攣らせながら、その場で踵を返す。

 そのまま彼を放置し、召喚サークルから出ていくツクヨミ。

 

「ダ・ヴィンチさん、終わりました」

 

「はいはい、辛辣だねぇ」

 

 さっさと報告を済ませて次の召喚を促す彼女。

 天井を仰いでいたフィンが、苦笑気味にその姿勢を止める。

 そのまま彼はツクヨミに顔を向けて、ゆっくりと跪いた。

 

「おっと、私のケルトジョークはウケなかったかな? 失敬失敬。

 私が絶世の美男子であるということは疑いようもないが、今のは流石に冗談だ。

 召喚早々に失態を重ねてしまうとは……これは戦働きにて返すしかないかな。

 是非、私に槍を預けさせてほしい」

 

「はあ……その、よろしく?」

 

 彼女たちの様子を見ていた立香が、ふむと小さく頷いた。

 

「ケルトのランサー、流れが来てる感じがする」

 

「流れがあるの?」

 

「あまり関係ないと思います……」

 

 狙い目はケルトのランサー、クー・フーリン。

 類似のひとりを引き当てたのを目の当たりにしたそんな言葉。

 それに対してソウゴは首を傾げ、マシュは苦笑した。

 

 召喚に際した護衛としてついているモードレッドが壁に背を預けながら鼻を鳴らす。

 

「―――おい、ランサー。ちっとばかし後で付き合え」

 

「おや、レディからの……失礼。

 円卓の騎士からの誘いとあれば、乗る以外にはないというもの」

 

 レディ、などと呼んだ瞬間にひり付く空気。

 雷鳴が轟く様を幻視して、素直に彼は謝罪してみせた。

 それはそれとして誘いには応じる。

 

 アメリカでは最終的に決着をつけられなかった。

 だがカルデアにきたというなら話は別だ。

 あそこでの決着をつけない限り、同じマスターの元で肩を並べるなんて出来っこない。

 

「ちょっと。ほどほどにしておいてよ?」

 

 血気に逸る二人を前に腰に手を当て、諫める姿勢を見せるツクヨミ。

 そんな彼女にこそこそと近づいたソウゴが、小さな声で囁いた。

 

「ナイチンゲールみたいに銃で威嚇してみるとか?」

 

「私がナイチンゲールの真似をした場合、一番撃たれるのはソウゴだけど。

 それでいいなら、そうしてみようかしら」

 

 カチャリ、と。手の中でファイズフォンを鳴らすツクヨミ。

 それを見たソウゴがススス、とモードレッドの方に寄って行く。

 

「ツクヨミ、怖いから怒らせない方がいいかも?」

 

「わざわざ怒らせに行くお前の問題だろ……ま、ウチのマスターは容赦ねえからな。

 やりすぎねぇよ、お前と違って怒られねぇようにな」

 

 ピリピリし始めた空気が弛緩する。

 一応雰囲気は変わったが、今の流れに微妙に納得できていないようなソウゴ。

 そんな彼の手に、ダ・ヴィンチちゃんが石を握らせた。

 

「はいはい。仲が良いのはいいことだけど、やるべきことはちゃちゃっと終わらせちゃおう!」

 

 そんな空気の中で、いつも通りにさっさと召喚システムを起動してしまう。

 手慣れるほどの工程もない作業だ。

 召喚サークルはあっさりと起動し、白い光を溢れさせる。

 白い光はそのまま柱となり、その中にサーヴァントを現出させた。

 

「……あん? 随分と辛気臭ぇな、何やってんだお前ら」

 

 顕れるのは、朱槍を軽く振るう青い槍兵。

 彼は軽く周りを見回してから呆れたようにそう声を上げた。

 

「おかえりー」

 

 そんな彼に向かって手を振るソウゴ。

 久しぶりでもない、退場して即帰ってきたような気分の彼が軽く笑った。

 

「はっ、召喚されて早々にそんな声をかけられたのは初めてだぜ。

 ―――おう。そんでお前はあっちのオレときっちり決着つけてきたわけか」

 

「うん。ランサーはランサーだったな、って思う」

 

 彼と戦い、そして結果的に勝利した。

 そんな経験を元にソウゴは思ったことをそのまま口にする。

 それを聞いてけらけらと笑うクー・フーリン。

 

「そりゃそうだ。根っこなんざそう簡単に変わるもんじゃねえよ」

 

「だが根は変わらずとも咲かせる花が変わることはある。

 より美しくなることもあれば、醜くなってしまうことも」

 

 モードレッドから視線を逸らしたフィンが言う。

 カルデアに新たに参加した彼を見たランサーが楽しげに笑った。

 

「お、フィンか。よくあんな面倒そうなオレとメイヴに従ってたな。

 面白いもんでもなかったろうに」

 

「いやいや、中々の戦場だったとも。

 久方ぶりに戦士として我が槍と共に戦場を駆け、それなりに満足いく結末だったさ」

 

 その我が槍、という言葉が一体何を指すのか。

 いちいち言及することでもないと、彼の返答に肩を竦めたランサー。

 彼はサークルの中から歩き出し、外へと出る。

 

「そうかい。そんじゃまあ……

 まずは飯でも食いながら、あっちのオレがどうなったかでも聞きますかね」

 

 

 

 

 召喚を終えた皆を見送ってから、ダ・ヴィンチちゃんは自室に帰還した。そこで待っていた、というか彼女の机に山積みになっている書面を見ていたのはエルメロイ二世だ。

 

「どうだい、ロード・エルメロイ二世。まあ私の発明が失敗するわけないんだけど」

 

「……まあ、カルデアからすればそれほど難しい装備ではないだろう。

 問題は最初から作るための素材だけだ。

 今回のマナプリズムとやらを合わせてもまだ足りないのではないか?」

 

 ちらりと彼がダ・ヴィンチちゃんを見る。

 彼女が抱えた今回の召喚で発生したマナプリズム。

 それを合わせたところで、彼女が作ろうとしている装備には足りない。

 まったくもってその通りな指摘に、大きな溜め息を返す。

 

「そうなんだよねぇ、令呪の回復を削るわけにもいかないし。

 まあそれでもこの特異点の後には流石にカタチにできるくらいにはなってるかな?

 それなら多分、ギリギリ間に合うか……」

 

「確かにあった方がいい装備だろうが……実質、出番は最後の特異点だけか」

 

「―――さて。そうだといいんだけどね」

 

 ダ・ヴィンチちゃんのぼかした物言いにエルメロイ二世が片目を瞑る。

 今から捜索し、特定次第攻略するのは第六特異点。

 であれば、残るは第七特異点と魔術王だけだ。

 魔術王との戦いがどうなるかは分からないが、その戦いは最終決戦になるだろう。

 そこで使えるタイプの装備ではないと思うが。

 

「ま、序盤に作ったところで資源を無駄にしただけだろうしね。

 そこはしょうがない部分もあるだろう。

 とにかく最後の特異点だけでも役に立つなら、作る価値は十分にあるさ」

 

「そこはまあ、そうだが」

 

「さてさて! 君にもまだ手伝ってもらうからね?」

 

「―――議論ならまだしも、私に作業を手伝わせるのは止めておけ。

 道具の精度を低下させるだけだ」

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチに混ざって魔術具の製作などできるものか。

 凄まじく苦い顔をしながらそう断言する彼。

 だがダ・ヴィンチちゃんはそんな彼を簡単に笑い飛ばした。

 

「もちろん。そこはパシリとして使うだけだからご安心を」

 

「……いや、別にいいがね」

 

 溜め息混じりに受け入れたエルメロイ二世。

 そんな彼の様子に何度か頷き、心中で加速していく焦燥感を誤魔化しつつ―――

 それをどうにかするための作業に取り掛かった。

 

 

 

 

「ふむ、オルタは気合が入っているな。

 いつもはこの時間、書庫にこもっている頃だろうに」

 

 オルタとアタランテの勝負を見ながらぼんやりと呟くネロ。

 先程まではこちらにいたモードレッドたちも出ていき、手持無沙汰なようだ。

 

 絡まれて面倒そうにしているアタランテに、オルタは攻め入っていく。

 宝具こそ使っていないが全力だ。

 彼女の炎は呪力のそれなので、模擬戦では使用自体を避けるべきものなのだが。

 

「次の特異点には連れて行ってもらいたい、って感じじゃないかな?」

 

 シミュレーションルームでブケファラスを走らせていたアレキサンダー。

 彼が愛馬に足を止めさせて、地に足を下ろす。

 

「まだどこでの戦いになるかも分からぬと言うのにな」

 

 オルタに負けず、不機嫌そうなネロに肩を竦めるアレキサンダー。

 つい先程、この場所で一度模擬戦をして負けたせいで機嫌が悪いようだ。

 まあ中々いい勝負になっていたとは思うのだが。

 

 いちいちそこに言及することもなく、会話を続ける。

 

「まあ、いい事じゃないかい? 僕だってそういう想いはある。

 もちろんレイシフトに同行せず、こちらのスタッフの手伝いでもいいけれどね」

 

 既に状況は安定し、問題なくカルデアは運用されている。

 だがレイシフト中に余裕があるわけではない。

 レイシフトに同行しなかったサーヴァントは、手伝える範囲で手を出している。

 

 まあ、最新鋭の機器揃いのカルデアでできることは雑用くらいなのだが。

 時間の空いたタイミングである程度教わっているが、そう簡単にその道のエキスパートとして集められたカルデアスタッフの負担を軽減できるまでには成長しない。

 

 とはいえ広いカルデア。

 常人よりは力仕事に向いているサーヴァントがいるだけでも役に立つ。

 最近は一週間連続で管制室にタイムマジーンが突っ込んできたので、その後片づけで大活躍していたりもする。

 

 そんなことを話していると、シミュレーションルームの扉が開いた。

 入ってくるのは、姿を変えたブーディカ。

 マントを羽織り、王冠を被り、そして一番目を引くのは纏めていた赤く長い髪を解き、腰まで下ろしているところだろうか。

 

「む、珍しいなブーディカ。こちらに来るとは」

 

「ああ、霊基が新しくなったから最低限は動いて試しておかないとね。

 今はジャンヌが手伝ってくれてるおかげで、手が空いた時間も作れるし」

 

 霊基再臨を済ませた彼女の姿を上から下まで眺めるネロ。

 ブーディカはその視線に苦笑を返す。

 

「そんな見つめられてもあんたほどは変わってないよ」

 

 鮮烈な真紅のドレスから、清純にして純白なウェイディングドレスに着替えたネロ。

 それほどに変化した相手から見られても、反応に困るだけだ。

 

「うむ、まあ余ともなればお色直しでさえ常識では計れぬものだ。

 もっと褒めて良いぞ、むしろ褒めよ。余は喜ぶぞ、凄く喜ぶ」

 

「別に褒めてはいないよ」

 

 むむ、と肩を落とすネロ。

 そんな彼女の横から、アレキサンダーが声をかけた。

 

「戦車の調子も確かめるんだろう? なら僕が相手をしようか?」

 

 ブケファラスを撫でながらの問いかけ。

 騎馬戦となれば、模擬戦であっても対応できる相手は限られてくる。

 今まさに縦横無尽に駆け回っているアタランテのように、馬より速いものもいるが。

 

「じゃあちょっとだけお願いしようかな。

 少し動いたらまた戻るよ、もうすぐ夕食の準備も始めなきゃだしね」

 

「戦車の調子を見るというなら、戦車に乗る兵も必要だろう!

 ならばそこは余に任せておくがよい!」

 

 宝具を起動し、愛馬と戦車を呼び出すブーディカ。

 その戦車が出現すると同時、ネロはその中に飛び込んだ。

 それに困ったようにしているブーディカの前。

 アレキサンダーは苦笑しながら、ブケファラスの手綱を捕まえつつ飛び乗った。

 

「じゃあ、この状態で……」

 

「ちょっと! その戦車に私も乗せなさい! そんであの緑追いかけて!」

 

 返答も待たず、黒いのはブーディカの戦車に飛び込んでくる。

 そして手にした剣の切っ先を呆れた顔をしているアタランテに向けてみせた。

 

「はぁ……子供ではあるまいし、汝もいい加減にしたらどうだ。

 子供ならばそう拗ねている様子も可愛らしいやもしれないが……」

 

「うっさいわね倒錯者!」

 

 言い合いを始めた黒と緑を見て、ブーディカはアレキサンダーに目を向ける。

 どうする? と言いたげな彼女の視線を受けて、彼は小さく肩を竦めた。

 

「じゃあ、僕とアタランテが組んで君たち戦車組に仕掛けるとしようか。

 アタランテ、よろしくね」

 

「この状況で続けるんだ……」

 

 溜め息混じりのブーディカの声。

 戦車から身を乗り出す勢いで構える黒いのと、赤いの改め白いの。

 アレキサンダーの言葉にぱたぱたと手を振って返したアタランテが、速度を出すために軽く身を沈めてみせた。

 

「さあ、行こうかブケファラス!」

 

 彼がそう叫ぶと同時に嘶く巨躯の馬。

 その英霊馬の突進を皮切りに全てのサーヴァントが動き出した。

 

 

 

 

「おや、ダビデ王だね?」

 

「ん? やあ、キミがフィン・マックール。

 今回召喚されたサーヴァントか」

 

 管制室でカルデアスを見上げていたダビデの後ろからかかる声。

 それは此度の召喚でカルデアに招かれた新たなランサーの姿だった。

 彼はダビデの隣まで歩いてくると、朗らかな笑みを浮かべる。

 

「これからよろしく頼む、と。皆に頭を下げて回っているのさ。

 何せ、一応は敵だった新参者なものでね」

 

「それはそれは。モードレッドとネロには難儀するだろうね」

 

 モードレッドもそうだが、ネロが一度霊核を撃ち抜かれた戦いは彼の指示だ。

 別に遺恨はないがそれはそれとして、剣を突き付ける理由にはなる。

 実際に顔を合わせたら戦わない、という選択肢はないだろう。

 特にモードレッドの方は。

 

「ああ、したとも。だが麗しき戦士たちとの戦いなら望むところ。

 あれはあれで楽しませてもらったよ」

 

 二大赤セイバー……片方はもう白くなったが。

 そんな彼女たちと切り結んだうえで、彼は涼やかに笑いつつここにいるようだ。

 勝ったかどうかまでは分からないが、少なくとも叩き伏せられた様子はない。

 

 多分セイバー組の様子を確認すれば分かるだろうが……

 彼女たちが負けていた場合、絶対に面倒くさいのでスルーが上策か。

 

「ところでダビデ王。

 カルデアス、だったか。この装置を見ていたのは何故だい?」

 

「……ふむ」

 

 問いかけられて、視線を宙に彷徨わせる。

 理由があると言えばあるし、ないと言えばない。

 ただ何となく、でしかないタイプの感覚だ。

 

 どう言おうか少しだけ悩んでいた彼は、しかしさっさと思考を打ち切った。

 どれだけ考えたところで、正しい理由は出てこないだろう。

 

「予感がしたのさ。何か、今まで以上の波乱がありそうだなってね」

 

 神託でもあれば理由は明確なのだけれど。

 しかしそれがない以上はもう勘としか言いようがない。

 

「―――なるほど、同感だ」

 

 今までの波乱のこともよくは知らないだろうに、訳知り顔で同意するフィン。

 カルデアスの表面。第五特異点修復の影響が落ち着き、次なる特異点の捜索を開始しているその星の縮図を見上げ、二人のサーヴァントは共に目を細めた。

 

 

 

 

 無人の荒野、そこに屹立するのは歴史の証明。

 19の仮面ライダーと、己のものを合わせて20の像。

 黄金の王はその場で悠然と佇んでいた。

 

 ただ像を見上げていた王が小さく反応を示し、振り向く。

 

「―――ウォズか」

 

「は……」

 

 振り向いた王の目には自身に頭を垂れる者の姿。

 彼は本を手にしたままオーマジオウへと跪き、顔を上げていた。

 

「―――我が魔王。

 若き日のあなたの前に、メガヘクスが立ちはだかる……

 そのような夢を見た、とお聞きしました」

 

「メガヘクス? ほう……」

 

 オーマジオウは頭を上げ、像のうちの二つを見上げる。

 仮面ライダー鎧武。そして、仮面ライダードライブ。

 まるでそうなることを知らなかった、という反応。

 そんな王の様子に対して、黒ウォズは訝しげに眉を顰めた。

 

「ご存じではないのですか?」

 

「お前がいま目の当たりにしているのは、私の知らぬ歴史の話だ。

 若き日の私がその時代に変身して戦っていること自体がそうなのだ。

 ならば、その時代で起こることを私が知る由もない」

 

「では、メガヘクスは若き日の我が魔王を利用する者とも関係ないと……?」

 

 問われ、微かに顎を上げるオーマジオウ。

 少しだけ悩む風な様子を見せた彼は、何かに気づいたように顔を上げた。

 呆れたかのような雰囲気さえ漂わせる王の姿に、黒ウォズも目を細める。

 

「……我が魔王?」

 

「ふむ……奴の方がそう動くか。

 ウォズよ、どうやらお前が画策している仮面ライダーゴーストの継承。

 これも一筋縄で行く状況ではなくなってきたようだぞ?」

 

「は? それは一体どのような……」

 

 困惑する彼の前で黄金の腕がすい、と。

 虚空を切り取るように動き、その場に無数の時計の針が蠢いた。

 

 カチカチと音を立てながら高速で回転する時計。

 その時計の中の時空間が歪み、こことは別の時代が映し出される。

 

 そこに映った光景に、思わず黒ウォズが顔を顰めた。

 ビルなどの近代的な建造物の並ぶ光景。それは正しく日本のものだ。

 

 彼がいる場所は消失したはずの時空、2015年。

 ウォズがゴーストの歴史を表面化させるために計画していた特異点化。

 そのために出向く場所として準備していた時代に間違いない。

 

 準備の段階で止まっていたそれに、彼は勝手に干渉を始めていた。

 確かに彼ならば不可能ではない、が。

 焼け落ち、不明瞭になっていたはずの時代に踏み込むその男の名こそ―――

 

「海東大樹……!」

 

 思わず黒ウォズが上げた声。

 それに反応して、時空の彼方でビルの屋上に着地した彼が振り返る。

 

『やあ、年老いた方の魔王―――と、その腰巾着。覗き見とは趣味が悪いね』

 

 彼は手にしたシアンカラーの銃、ディエンドライバーをくるりと回す。

 2015年に辿り着いたその姿を見ながら、黄金の王は微かに笑った。

 

「……その世界の宝を奪いに行くか」

 

『さあ? この世界に僕が手にするに足るお宝があればそうするけどね。

 そうじゃなければ次の世界に旅立つだけさ』

 

 オーマジオウたちに背を向けて、海東は歩き去っていく。

 その姿を追うこともせず、王は腕を軽く振るった。

 

 特異点化している2015年と繋がる時空間を途絶させる。

 再び2068年の空に視線を戻したオーマジオウ。

 咄嗟に立ち上がっていた黒ウォズが、強張った表情で思考を始めた。

 

「あの世界で彼が狙う希少価値の高いもの……

 究極の眼魂、天空寺タケルの肉体か……? まったく振り回してくれる……!

 だが丁度いい、海東大樹に奪われたディケイドの力を取り戻す好機だ。

 こうなれば私がカルデアに情報を与え、エルサレム王国の前にゴーストの歴史を……」

 

「止めておけ」

 

 踵を返そうとした彼を止める、オーマジオウの声。

 足を止めて困惑した様子を見せる黒ウォズ。

 それに対して、魔王は顔も向けずに回答を示した。

 

「単純な話だ。そちらを先にこなしては、状況は更に悪くなる。

 早いか遅いかだけの話ではあるがな」

 

「状況が悪く……?」

 

 空を見上げ続けるオーマジオウ。

 彼は空のずっと彼方、星の外に臨みながら状況の推移を見る。

 

「―――ふ、しかしまさか……ここまで同時に訪れるとはな。

 流石に、私も予想外だった」

 

「我が魔王ですら、予想外?」

 

 黒ウォズは顔を渋く染め、オーマジオウの視線を追う。

 空の彼方に彼は何が見えているのか。

 それと同じものを見ることは出来なかった。

 

 視線を下げたオーマジオウの顔が、19の戦士たちではない像に向かう。

 常磐ソウゴ初変身の像。

 そう銘打たれた己の像に視線を送った彼が、小さく笑う。

 

「……若き日の私が私に辿り着くのも、早いか遅いかだけの話でしかないだろうが。

 さて、若き日の私よ……お前は私に何を見せてくれるのか」

 

 振り返り、黒ウォズに顔を向ける。

 

 メガヘクスは始まりだ。

 ディエンドがゴーストの歴史に干渉しだしたのも、無意識に引き寄せられているからだろう。本来ならば門矢士も干渉してきてもおかしくないが、恐らくディケイドの力を半分持っているのが海東大樹なせいだろう。むしろディケイドの力の片割れを海東大樹が持っているせいで、彼はより強く引き付けられたと思われる。

 

「ウォズ。お前が導くまでもなく、あの特異点は若き日の私を導くだろう。

 既にあの世界はそこまで膨れ上がっている。お前はいつも通り、若き日の私とともにカルデアが見つけるだろう、次なる特異点に着いていけばいい」

 

「は―――我が魔王がそう仰られるのであれば……」

 

 黒ウォズがストールを翻すと、延長した布が彼を呑み込む竜巻になる。

 一瞬後、その姿は2068年のどこからも存在を消していた。

 

「……干渉しようとする者がいるという事を置いても、まさかこれほどとはな。

 だがこの歴史の始まりを考えれば、それも当然か―――」

 

 赤茶けた大地の上、独りで立つ黄金の王はいっそ感心したかのように呟く。

 そうしてから、彼は像と向き合いながら思考に耽っていった。

 

 

 




 
ゴースト編にはディケイドウォッチを持ったディエンド襲来。
ディケイドは来ない。
ディエンドを起点に多分メガヘクス襲来に比べて三倍くらい酷いことになるでしょう。
 

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