Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

124 / 245
特異点攻略開始!砂漠に住まう者!1273

 

 

 

「第六特異点の割り出しが完了した。時代は十三世紀―――

 場所は『聖地』として知られるエルサレムだ」

 

 管制室に集ったメンバーを前に、ロマニはそう言って話を切り出した。

 その場所を聞いて、自然とダビデが視線を集める。

 とはいえ、当人は大して気にしてもいないようではあったが。

 

「正確に言うと、西暦1273年……

 第九回十字軍が終了し、エルサレム王国が地上から姿を消した直後。

 いわゆる『中世』の終わりの始まり、といえるタイミングだ。

 人類史の変遷において、特異点に選ばれるのに相応しい時代のひとつと言えるだろう」

 

「が、特異点に相応しいながらもおかしな状態になっていることが確認された」

 

 途中で割り込んでくるダ・ヴィンチちゃん。

 皆の視線を集めた彼女が、続きの内容を語り出す。

 

「シバの観測結果が一致しないんだ。時代証明ができない。

 つまり、1273年を見ているのに、1273年を見れていない状態だね」

 

「うーん、つまりどういう?」

 

「そうだね。これまでで一番近い事態は……うん、あれだ。

 エリザベートの特異点、チェイテの怪事件。

 時代から切り離され、もはや独立した泡沫世界。方向性としてはあれが一番近い」

 

 これを例えに使うのは自分でもどうかと思う、という顔をするロマニ。

 

「そんな顔をするくらいなら、最初から例えに使わなければいいでしょうに……」

 

 立香にくっついている清姫が呆れたような声を出す。

 例えが例えだったせいで発生する微妙な空気。

 彼はそんな状況で咳払いをして、話をそのまま続行した。

 

「ただし、規模が桁違いだ。チェイテのあれは放置しても消え去る泡沫だった。

 けれど今回のものは、放置すれば人理焼却を防げたとしてもこの特異点だけが人類の歴史から独立し、そのせいで生まれる()()()()が原因で人類史が崩れ落ちる、それほどのものだと理解してほしい」

 

 人類の歴史という積み上げてきたもの。

 その半ばを強引に引き抜いた上で維持するという力業。

 それが達成されれば、そこから先まで積み上げていた歴史は崩れ落ちるだろう。

 

「後は、方向性としてはエジソンが画策していたアメリカだけを救う方法と同じだ。

 ただエジソンの計画が成功したとしても、これほどの規模にはなってないはずだけどね」

 

「つまり……次の特異点でもエジソンみたいにその時代だけ救おうとしてるサーヴァントが聖杯を持ってる、ってことなのかな」

 

 特異点の状況がそうとなっていることは、聖杯の持ち主の望みは滅びではないだろう。

 恐らくは人理焼却の回避の方法がカルデアが望む方法と違う、というだけだ。

 そういう相手が聖杯の持ち主なら、もしかしたら説得が可能かもしれない。

 

「じゃあまずは、聖杯の持ち主を探して話しに行く感じかな?」

 

「敵対するよりもそっちの方がいいものね」

 

 ちらりと立香とツクヨミの視線がまたダビデに向かう。

 彼の選出理由はエルサレムだからでもあるだろうが、もしや話術も理由だろうかなどと。

 

 彼女たちの前でオルガマリーが肩を竦め、ロマニの説明を引き継ぐ。

 

「第六特異点の状況は今まで以上に不明瞭よ。

 まあ元から、きっちりと把握できていた状態だったことなんてないのだけれどね。

 けれど、その一際特異と言えるこの状況。気は抜かないように」

 

「はーい」

 

「遠足の引率も慣れてきたこと」

 

 元気な返事にオルタが軽く鼻で笑う。

 いちいち言い返すのも面倒、とオルガマリーは軽く手を振って返すだけだった。

 流石に慣れ切っている、ということだろう。

 

「レイシフトメンバーはわたしとアヴェンジャー。

 藤丸立香のサーヴァントは、マシュ、清姫、ブーディカ。

 常磐ソウゴのサーヴァントは、アレキサンダー、ダビデ。

 ツクヨミのサーヴァントは……そもそも選択肢もないけれど、モードレッド、フィン。

 今回は以上のメンバーで、特異点攻略を行います」

 

「ランサー、せっかく復活したのに入らなかったね」

 

 聞かされた時のランサーの様子も思い出しつつ、ソウゴがぼんやり呟いた。

 それを聞いたオルガマリーが片目を瞑り、ダ・ヴィンチを見る。

 しかしすぐに視線を戻し、それに対する答えを返した。

 

「理由はまあ色々あるけれど……大きいのは、ダ・ヴィンチとダビデからの要望かしらね」

 

「要望?」

 

 ダ・ヴィンチちゃんはまだしも、ダビデまで。

 そう聞いて首を傾げるソウゴ。彼の視線がダビデの方へと向く。

 と、ダビデの隣にいたアレキサンダーの方が口を開いた。

 

「ダビデ王の方は勘、だそうだけどね。

 まあ、フィン・マックールもその方がいいと思う、と言ったんだろう?」

 

 アレキサンダーに視線を向けられるフィン。

 彼は鷹揚に頷くと、説明を始めた。

 

「さて……私の分に関しては、ダビデ王からの要望により我が叡智を披露した結果だ。

 恐らくそれが最善なのだろう、とね」

 

「フィン・マックールの叡智を与える鮭の逸話だね。

 何でも彼は、その鮭の脂が付着した親指を舐めることで、あらゆる謎への最善の答えを得ることができるとか」

 

 フィンの口振りに彼の有名な逸話を口にするロマニ。

 それに対して彼は困ったように苦笑した。

 

「ははは、そこまで万能なものではないがね。

 とはいえ、私が知り得る情報の中で最善を示してくれる宝具には違いない」

 

「ランサー……クー・フーリンが外れたというより、アレキサンダーが必要だった。

 そういう理解でいいのよね?」

 

 ダビデが感じ、フィンにある程度裏打ちしてもらったという意見。

 そこまでされては信じざるを得ないだろう。

 アレキサンダーの力を必要になる事態がある。そう考えておくべきだ。

 

「まあ、そうだね。ただの勘ではあるけれど。

 僕の勘は中々のものだよ? 美女の存在ならばかなりの精度で察知する」

 

「今回は美女関係あるの?」

 

「全然ないね」

 

 そっかー、とそんな調子で話を流すソウゴ。

 だがまあフィンも同意しているのならば、ある程度は信じられるだろう。

 溜め息を交えつつ、話を戻すオルガマリー。

 

「レイシフト完了後はいつも通りまずは霊脈の捜索。

 物資や、足になるタイムマジーンの召喚を優先します」

 

「そういえばソウゴは毎日第五特異点に通ってたけど、第六特異点にはそのまま行けたりしないのかな?」

 

 連日過去にタイムマジーンで通勤していたソウゴ。

 その様子を思い出して、ブーディカがそう口に出した。

 対して、ツクヨミが首を横に振る。

 

「時空転移システムはまた機能を停止してるわ。

 多分、一時的に復旧しただけだったのね」

 

「状況から見るに、恐らくはソウゴくん……()()()()()()()()()()()()()

 その『歴史を再現』するために、特定の期間だけ力が増していたんだろう。

 タイムマジーンがというよりオーズウォッチが、だろうけど。

 まあ何の状況を再現していたのかは、ボクたちには分からないことだけれどね」

 

「そりゃ残念だ。

 あれでいければ食料なんかの物資も最初から積み込んでいけるのに」

 

 最低限の装備以外は、現地調達か霊脈確保後の補給。

 その状況を変えられるのであれば、召喚直後がとても楽になったろうに。

 残念そうにするブーディカに対し、オルガマリーが肩を竦める。

 

「つまり霊脈を探さなければ、タイムマジーンも呼べない。

 それだけのことよ。いつも通りでしょう?」

 

「最近所長って考え方が大雑把になってきてない?」

 

「大体あんたたちのせいよ」

 

 失礼なことをのたまうソウゴをぎろりと睨み、きっぱりと言い返す。

 そうしないと日常生活の中ですらストレス過多になるのだ。

 

「……ま、つまりは行ってみなけりゃわかんねぇってだけだろ。

 なら行ってから決めりゃいいさ」

 

 面倒そうに頭を傾けるモードレッド。

 そう言われて何となく表情を渋くするオルガマリー。

 視線を向けられたモードレッドが訝しげに彼女を見返した。

 

「なんだよ?」

 

「……別に。それしかないと自分で言っておいてなんだけど、他人から言われるとそれでいいのかって気分になると思っただけよ」

 

「なんだそりゃ」

 

 オルガマリーが何とも言えない表情で天井を見上げる。

 そんな彼女を見て、立香とソウゴが目を見合わせた。

 

「やっぱ所長はそっちの方が似合ってる感じするよね」

 

「それでこそ所長、みたいな?」

 

「所長さんに失礼でしょ、二人とも」

 

 二人の頭をツクヨミが小突く。苦笑しながらその二人の背中を見ていたマシュが、凄い形相のオルガマリーに少しだけ口元を引き攣らせた。

 

「ええと、はい。所長は所長らしくいてくれると、その……わたしたちも安心というか」

 

「……はあ。ホント、いつものことね。

 ロマニ、ダ・ヴィンチ、他に何かあるかしら?」

 

 呆れ混じりに首を振るオルガマリーが、背後の二人に話を振る。

 ダ・ヴィンチがお先にどうぞ、とばかりにロマニを手で示していた。

 それに頷いて、口を開く彼。

 

「ボクからは特に。ああ、いや……

 ―――魔術王は七つの特異点を攻略して初めて相手をする、と言った。

 途中で邪魔をするような真似はしないと思うけど、細心の注意を」

 

「ああ……もしかしたら僕を狙い撃ちする、くらいはあるかもね?」

 

 しみじみとそう呟くダビデ。

 それに小さく口元を引き攣らせて、ロマニは苦笑してみせる。

 そんな彼の後に、今度はダ・ヴィンチちゃんが口を開く。

 

「さて、私からはひとつ。

 ぶっちゃけ、今回は私もレイシフトに着いて行ってやれと思っていたんだ」

 

「―――いや、レオナルドにカルデアを抜けられるのは流石に困るんだけど……」

 

「だが残念なことに、私が今取り掛かっている発明が佳境でね。

 なるべく形を整えておきたいんで今回はスルーさせてもらうことになった」

 

 ロマニをスルーしてそんなことを語るダ・ヴィンチちゃん。

 至極残念そうな顔を浮かべる彼女を、ロマニは何か言いたげに見つめている。

 この天才が本気でやろうとしたら止めようもないので、結局残ってくれるというなら素直に喜んでおくべきだろうか。

 

「と、いうわけで。

 この特異点の攻略を無事に終えた暁には、新装備をプレゼントしよう。

 各員、頑張ってくれたまえ」

 

「おー」

 

 ビシ、と。指を立てて自慢げに主張するダ・ヴィンチちゃん。

 そこに何となく拍手など送ってみて、所長に呆れられる。

 

「……以上ね?

 ではこれより第六特異点、1273年のエルサレム王国へのレイシフト実証を開始します」

 

 慣れた手順で進められていく準備。

 各員がクラインコフィンへと搭乗し、レイシフトに向け待機をし―――

 

『アンサモンプログラム スタート。

 霊子変換を開始 します。

 レイシフト開始まで あと3,2,1……』

 

 恙無く進んでいく工程。

 

『全工程 完了(クリア)

 グランドオーダー 実証を 開始 します』

 

 全てをクリアして発生する、時空を遡っていく感覚。

 その流れに意識を委ねて、彼らは新たな戦いの場に身を投じ―――

 

 

 

 

「砂漠じゃないの!!」

 

 想像とは違う着地点に、砂塵の中で悲鳴が上がる。

 すぐに砂嵐の中に呑み込まれて消える声。

 もっと文明を感じる土地にレイシフトする予定だったのに、早速躓いていた。

 

〈アーマータイム! プリーズ! ウィザード!〉

 

「よっと」

 

 吹き付ける砂混じりの風の中、さっさとジオウに変身したソウゴが地面に手を置いた。

 砂の中から土の壁がせり上がり、周囲を囲いこんでいく。

 とりあえずそこを壁にして、全員が突風から身を隠す。

 

「ひゃー、凄い風と砂……エルサレム王国ってこんななの?」

 

「いやぁ? そんなことはないと思うけどね。

 見たところ、この砂塵は明らかに自然のそれではないんじゃないかな?」

 

 服から砂を払い落としながら、立香がダビデに尋ねる。

 その疑問に対し、彼は周囲の風の流れを見ながらそんなことを言う。

 ツクヨミもまた砂を払いながら、土の壁を打ち据える突風へと意識を向けた。

 

「つまり特異点の首謀者が作った砂漠、ということなのかしら」

 

 こんなものをわざわざ作るとなれば、それは砂嵐の中に隠したいものがあるからだろう。

 それが聖杯であり、自身の維持する特異点ということは十分あり得る。

 

「恐らくこの砂漠を襲う突風は魔術的な守り、砂漠の奥に踏み込ませないための風だ。

 これを逆行することで本拠地に辿り着けるのだろうね」

 

「つってもどうすんだ、これ。オレたちはまだしもソウゴ以外のマスターだぜ。

 オルガマリーも別に問題ねえか……まあどっちにしろ、ウチのマスターと立香はどうしようもねぇ。そりゃ死にはしねえだろうけど、まともに歩ける状況じゃねえ。

 オレたちで運ぶにしろ、馬も戦車も走らねえだろこれ」

 

 フィンの言葉にモードレッドはそう言い、アレキサンダーとブーディカを見た。

 砂漠では馬の機動力は活きないだろう。

 飛ぶことのできるブーディカの戦車も、この砂塵の中では危険だ。

 空高く飛んでみれば晴れている可能性はあるが……

 

「不用意に誰かを飛ばしたくはないわね……」

 

 先の特異点でゲイボルクによる迎撃を受けたことを思い出し、顔を顰めるオルガマリー。

 何が出てくるか分からない現状、概念的に強固な守りを有するマシュが対応できる状態は保っておきたい。つまり集団を分けるのはよろしくない。

 

「別に俺だけで飛んでみてもいいけど。

 すぐ戻ってこれる……あれ? これなそう?」

 

 ジオウがテレポートを使おうとして、首を傾げる。

 テレポートが使えない、というよりは転移できる場所が見つからない。

 どうやら侵入者を阻む砂嵐はジオウのセンサー類も阻害するらしい。

 

 通信機に手を当て通信を試みていたマシュも首を横に振る。

 

「カルデアとの通信も繋がりません。

 この砂嵐が原因かどうかまでは分かりませんが……」

 

「通信できないのも割といつものこと、って感じするよね」

 

 ソウゴの言葉に確かに、と同意を返しそうになるマシュ。

 しかし目を細めて彼を見ているオルガマリーを見て、その同意を呑み込んだ。

 マシュの何とも言えない表情を見つつ、オルタが風を塞き止めている土壁に背中を預ける。

 

「とにかく別行動はなし、ってわけね。

 で、とりあえず大きな判断としてどっちにするの?

 砂漠の奥に進むか、砂漠の外を目指すか」

 

 指を左右に振りながらマスターに問いかけるオルタ。

 問われたオルガマリーが顎に手を当て悩み込む。

 

「……問題は位置関係すら分からないことね。この砂漠に入ってすぐかもしれないし、あるいはゴールがすぐそばにあるかもしれない。

 基本的には一度外を目指すべきだと思うけど……何日も歩かなきゃいけない距離があるなら、レイシフト時に持っている最低限の物資じゃとても足りない」

 

「現状がそういう状況だとしたら、もう飛んでの脱出に切り替えるしかないだろう。

 となれば、どのタイミングでその判断を下すかだが……」

 

 数日歩きまわってから結局飛ぶなら、危険を承知で今飛んだ方がいい。

 どのタイミングで損切りをするかはある程度考えておくべきだ。

 そう言って肩を竦めたアレキサンダーの背に、清姫の声がかかる。

 

「しかし最終的に空を飛ぶ判断を下すにしろ、流石にブーディカの戦車に全員を乗せて飛ぶ……というのは難しいのでは? わたくしはマスターとぴったりとくっつくとしても」

 

 今も立香にくっついている彼女に苦笑しながら、ブーディカが困った顔をした。

 

「まあ、ねえ……

 この砂嵐だし定員オーバーまでしたら……ちょっとまともに動かせそうにないかな。

 少なくとも、あたしの口からやれるとは言えないよ」

 

 勿論、緊急時にその判断が下るなら全力を尽くす、と。

 けれどそれを作戦の中に組み込まれても危ういとブーディカは断言した。

 

「……進むにしろ、戻るにしろ、空からの確認はやっぱり必須……

 けど偵察から戦闘に発展した場合の逃げ道が確保できてないのが……だからと言って、現状でそもそも相手がこちらを補足していないという、希望的観測をしているわけにもいかない」

 

 相手の正体、規模すら把握できていない状況で偵察はさせたくない。

 そういう感情がもたげて、オルガマリーの眉が顰められた。

 だがそもそも、この砂嵐が相手の布陣だとするなら既にこちらを把握されてる可能性もある。

 物資のこともそうだが、のんびりしている暇はまったくない。

 

 悩み込む彼女に対し、フィンが笑みを浮かべながら推測を口にする。

 

「外敵を排斥するには優しく、旅人を迎え入れるには厳しい天候。

 これを相手が意図して発生させているのだとすれば、個人的にだがこの砂嵐を発生させているものとは、交渉の余地があるのではないかと思う。

 少なくともいきなり攻撃はしてこないのではないかな?」

 

 フィンは逆巻く風で長髪を揺らしながら、砂埃に鎖された空を見上げる。

 アレキサンダーもまた空を見上げながら溜め息をひとつ。

 

「ただ、こちらが砂漠を飛行して抜けようとした場合だ……その場合にも攻撃してこないかどうかには疑問が残る。普通に考えたらこの奥にある本拠地を守るための防壁だろうからね。

 害される可能性を認識した瞬間、この土地が牙を剥かないとは限らない」

 

 確かにその可能性もある、と。フィンは同意するように頷いた。

 

「あー……メンドくせぇ、もう適当に進んでぶっ飛ばせばいいんじゃねえか?」

 

 砂漠の中での作戦会議に飽きたのか。

 手にしたクラレントでガチガチと己の鎧を叩くモードレッド。

 そんな彼女を窘めようとしたツクヨミの前で、

 

「あ!」

 

 ソウゴが声を上げて、腕のホルダーからウォッチをひとつ取り上げた。

 スターターを押し込むと同時に放り投げれば、展開されていくウォッチ。

 

〈サーチホーク! 探しタカ! タカ!〉

 

「それって……」

 

 ウォッチは展開すると小さなタカになり、空を舞う。

 いつぞや見たそれにオルガマリーが目を見開いた。

 

「忘れてた。これに空から見てきてもらったらどうかな?」

 

「あんた……それ、いつの間に持ってたの?」

 

 多分、元はウォズの持ち物だったのだろうタカライドウォッチ。

 本当にウォズのものだったかすら判然としないが、恐らくは。

 それをいつの間にか持っていたソウゴを半眼で見つめる。

 

「うーん、いつの間にか?」

 

 その返答に額を押さえるオルガマリー。

 新たな飛行可能な偵察手段を見て、立香が唸る。

 

「うーん。それを飛ばして、空から周りの状況を見てもらって……

 でもそうしたら攻撃を受ける可能性もあるんだよね?」

 

「偵察をしつつ、万が一に備えてこの場で防戦の構えでしょうか。

 進むべき方向と距離さえある程度見えれば、動きようもあるでしょうし……」

 

 マシュの上でへたれていたフォウが飛び降り、身を震わせて砂埃を体から払う。

 ひとしきり砂を払った彼が、ふと黙って何事か考えているダビデを見上げた。

 

「フォウ?」

 

「……なるほどね。神託、ではなくてご先祖様からの導きだったのかな?

 奇妙な感覚だと思ってはいたけれど……ふむ、だとすると……」

 

 彼の視線がちらりとアレキサンダーを見た。

 今のダビデの呟きを拾っていたらしく、彼が少し納得したように片目を瞑る。

 

「ああ、そういうことか。妙だとは思っていたけど……

 ダビデ王がそういうものを受け取った、というならこの人選も納得か。

 つまりここは――――」

 

『――――不敬な。聖都の円卓の騎士が、こんな場所まで来ていようとは。

 ですがこの太陽王の治める神域に踏み込んだ以上、生きては帰れぬと知りなさい』

 

 天から届く冷たい声。その台詞にピクリと肩を揺らすモードレッド。

 

「思わぬ答え合わせを得たね。太陽王、あとは聖都の円卓の騎士、ときた」

 

 何がおかしいのか明らかに友好的でない声に微笑むダビデ。

 

「エジプト、だけではなく円卓……? やれやれ、混迷してきたね。

 …………? これは……」

 

 早速の情報量に溜め息をひとつ、苦笑したアレキサンダーが剣を執り―――

 砂の大地から伝わってくる気がする振動に、表情を変えた。

 

 ツクヨミがモードレッドを見て、しかし何かに気付いたように立香を見る。

 彼女の腰にくっついていた清姫も流石に戦闘態勢だ。

 その状態で耳を押さえることもできないだろう。嘘で誘導して情報収集はちょっと難しい。

 

「そうとも! 今ここに立つ雄姿を見るがいい!

 花のキャメロットにその名を馳せた円卓の騎士のひとり―――モードレッド卿!

 この勇名を聞いて思うことがあるというのなら、何か言ってみると良い!

 この際何でもいいぞ! 君にそれを口にする勇気があるのならな!」

 

「お前……」

 

 勝手に叫ぶフィンを呆れたように見るモードレッド。

 しかし天の声は、あっさりとフィンの挑発に乗ってきていた。

 

『何を! エルサレムを滅ぼし、聖都などというものを興し―――

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

「―――――あ?」

 

 モードレッドが静止する。

 聖槍を持つ獅子王、などという存在がいきなり出てくればそうなる。

 

『来たれ、王の御使いよ!

 聖都の者が我らの神都に攻め込もうなどと、その思い上がりをここで糾しましょう!』

 

 その宣言と同時、砂塵の中にひとりの少女の姿が浮かび上がってくる。

 更に砂嵐を突き破り現れる人の顔を持つ巨大な獅子。

 それは現れると同時、ウィザードアーマーが出現させた土壁を粉砕した。

 

 武装を展開してその神獣に対して向き直るサーヴァントたち。

 その威容を前にマシュが盾を構えながら、神獣の名を口にした。

 

「―――人頭の獅子、スフィンクス……!」

 

「まだ来るよ――――もうひとり、サーヴァントがね」

 

 そう言って剣を握るアレキサンダー。

 そんな彼の言葉に眉根を寄せる、スフィンクスを従える少女。

 

「なにを……! っ、まさかファラオ……!」

 

 アレキサンダーの言葉を反芻し、少女は何かに気付いたように目を見開く。

 はっとした様子で振り返る少女の背後で、同時に砂漠が爆発した。

 

 ―――大量の砂を掻き分け、進軍してくるのは巨体。

 黄金の象牙を持つ、漆黒の巨躯。

 不死の軍勢の象徴たる、死の戦象。そしてそれを従えるのは―――

 

Iskandar(イスカンダルゥ)ッ……!」

 

 死の戦象の上に立つ、3メートルを優に超すその男の威容。

 彼の顔がアレキサンダーを捉え、理性の残っていない眼が大きく見開かれた。

 

「Iskandarrrrrrrrrrr――――――ッッ!!!」

 

 戦象が加速する。

 砂地を踏み締め、鼻を振り回し、緑の炎を噴き上げて―――

 ただ一点、アレキサンダーだけを見て直進を開始した。

 

「ファ、ファラオ・ダレイオス……!?」

 

「ははは、だから僕か!

 僕がアレキサンダーであることが少々残念だろうが……いいよ、受けて立とうダレイオス!

 我が名は征服王イスカンダル! 君をかつて征服したものだ!!」

 

 ゼウスの雷霆が唸りを上げる。

 砂地であるなどと言っていられず、ブケファラスが顔を出す。

 

 巨大な馬と言え、巨象と比較すれば小さく見える体躯の差。

 しかしそれを正面に見据えて鼻を鳴らし、主を背に乗せた英霊馬が疾走を開始した。

 

 

 




 
二章では忘れててごめんなさい問題。
鎧武と組み合わせることによって「だれ?」要素と化すの巻。
私だ、コウガネだ!
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。