Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
翼を広げる。
羽ばたき風を荒らす、獅子の体から生えた鷲の翼。
砂塵の中で大きく羽ばたいたそれが、突風の勢いを加速させた。
熱砂が風と共に荒れ狂い、嵐となって襲ってくる。
その砂嵐を纏いながら共に、スフィンクスの巨体が突撃してきた。
迫る巨体を前にして、立香が叫ぶ。
「マシュ、宝具を! 清姫も準備を!」
目前に現れた怪物に、出し惜しみは悪手だと本能的に理解する。
各々が回避を選択して集団が散らされれば、状況が一気に悪くなると想定する。
ならばこの初撃は確実な防御だ。過剰であっても構わない。
絶対にここで戦線を崩してはいけないのだから。
「了解しました、マスター!」
「お任せください、引きずり倒します!」
清姫がごうと火を帯びながら、マシュの後ろで待機する。
殺到する人頭の獅子を見据えて、シールダーはその盾を振りかざした。
「“
光の盾が屹立する。
砂嵐とともに殺到したスフィンクスがそこに激突し、盾を揺らす。
崩れる砂の足場に倒れそうになりながら、しかしマシュは耐え切った。
マシュの顔が苦渋に歪む。
足場がもろい、力が入れられない、盾を支え切れない。
宝具を使っていなければ、踏み締めた地面ごと砂の中に沈められていたかもしれない。
そのマシュの思考を感じ、押し込めば潰せると考えたか。
スフィンクスは退くことなく盾を押し込む。
前脚を叩きつけて、光の盾に爪を突き立てる神獣。
だが突撃を止められて動きが停止したその身に対し―――
「いざ、“転身火生三昧”――――!」
その宝具を解放し、清姫が青い炎の竜と化す。
炎の竜は砂地を滑り、スフィンクスの後ろ脚へと絡みついた。
炎熱の塊となった体で獅子の体を焼きながら、巨体を転がすために蛇の如く締め付ける。
鬱陶しげに顔を歪めるスフィンクス。
それを前にオルガマリーが己のサーヴァントへと声を飛ばした。
「アヴェンジャー!」
「分かってるわよ!」
砂混じりの熱風の中、黒い竜の描かれた旗が暴れるようにはためいた。
清姫の青い炎が更に増し、周囲に黒い炎の剣が浮かび上がる。
続けてスフィンクスの足元から突き出す数え切れない漆黒の槍。
足場から突き出してくる槍。空から降り注ぐ剣。締め付けながら焼く竜。
焼かれ、裂かれ、串刺しにされ―――
「“
―――その場で、スフィンクスが漆黒に炎上した。
悲鳴染みた咆哮を上げ、体を揺する人頭の獅子。
体勢を崩した巨体を、青い大蛇がここぞとばかりに引き倒す。
転倒の衝撃で砂の柱を立てながら、地面に埋まるスフィンクス。
スフィンクスの巨体を倒した清姫がすぐさま宝具を解除し、離脱にかかる。
それを見届けたオルタは火力を全開に。
一気に黒い炎が噴出し、獅子の体を一気に呑み込んでいく。
空中で戦場を見渡していた少女が視線をあっちへこっちへ。
挙動不審な様子を見せながら、何度も顔を動かした。
「ファラオから預かりしスフィンクスを……!
ああ、いえ、ええ……? ファラオ・イスカンダル……?
なぜファラオが聖都の者と共に……?」
彼女の眼下でイスカンダル―――
アレキサンダーがブケファラスの手綱を引く。
砂漠を踏破する英霊馬が主とともに雷光を纏い、嵐より荒れ狂う戦象と交差した。
雷光の刃が象に掠め、その身に傷を刻み込む。
象の動きに鈍りはなく、しかしその傷が広がりボロボロと崩れ落ちていく。
―――戦象から剥離した一部が骸骨の腕と変わり、アレキサンダーへと伸ばされる。
“
戦象を構成するのは、ダレイオス三世の従える
一万からなる不死の兵隊の集結した群体こそが、彼が操る戦象の正体に他ならない。
不死なる軍隊にして、群体。
その身にとって傷は傷でなく、損傷も損耗もしない不死身の存在だ。
アレキサンダーを目掛けて伸びる不死兵の腕。
だがそれは彼の背後から押し寄せた水に飲まれ、崩れ落ちた。
「さて。輝いてしまいたいのは山々なのだが……」
くるりと槍を回し、構え直したフィンの目前。
振るわれる戦斧に纏う緑の炎が軌跡を描く。
対する剣には稲妻が奔り、炎とぶつかり火花を散らした。
その衝撃で崩れ飛ぶ骸骨たちが、再び象の中に戻り群体の一部と還っていく。
幾度か衝突を繰り返し、しかし攻めあぐねる。
距離を取り直してもダレイオスの猛追はアレキサンダーを逃がさない。
「Iskandarrrrrrrr―――――ッ!!」
アレキサンダーがブケファラスを下がらせて、それを追うダレイオスが戦象を走らせる。
そうして、
スフィンクスが黒炎を振り払い、立ち上がる。
熱砂の獅身獣はその身を呪いの炎に焼かれながらも、しかし致命傷には程遠い。
復帰したそれを前にして、清姫が扇を広げ、オルタが剣を構え直した。
「火の通りが悪いったらないわ……!」
「効いていないわけではないでしょうが―――」
太陽の化身たるファラオの神殿を守護する者。
再始動した神獣スフィンクスが二人を目掛けて突撃してくる。
同じく前に出たマシュが踏み込みと同時、盾を振り上げ迎撃にかかる。
―――激突。
拮抗はなく、流れる流砂の足場でマシュの体勢が崩れた。
そのまま潰そうと圧し掛かろうとする巨躯を、二色の炎が押し流す。
一瞬怯んだものの、即座に切り替えして踏み込んでくるスフィンクス。
砂に掴まった足を引き上げながら、マシュは何とか盾を構え直す。
「くッ……!」
ぐらつきながらもギリギリ体勢を立て直したマシュ。
だがそんな彼女にスフィンクスの突撃が届く前に、フィンが躍り出て槍を長槍を振るった。
しなやかにうねる槍の穂先。
それは獅身獣の突撃を受け流し、獅子の腕をそのまま砂地に叩きつけさせる。
巻き上げられた砂に埋もれ、姿が見えなくなるスフィンクス。
姿の隠れた敵を見据えながら、フィンが背中に庇うマシュに声をかけた。
「こちらの前衛は交代だ。マシュはマスターたちの守りを」
「す、すみません……! お願いします―――!」
マシュが注意を払いながらも後退を始め―――
その瞬間、砂塵のカーテンを突き破る獅子の爪が振るわれた。
しかしそれに対して奔る槍が、腕を叩いて向きを変える。
狙いを逸らされた攻撃は地面を打ち据え、砂の柱を立てるだけ。
スフィンクスはすぐさま腕を引き戻し、再度突撃を慣行する。
だがそれにも、フィン・マックールは涼しい顔を崩さない。
槍の一振りで容易に受け流し、スフィンクスと正面から組み合わず処理。
フィンは攻め手に回らず、流水の如く捉えきれない動きで防衛に終始する。
だが当たらない攻撃の際に出来た隙に、彼の後ろから二つの炎が何度となく押し寄せる。
直撃したところで大きな傷を受けるような攻撃ではない。
だがスフィンクスは、確実に消耗を強いられる戦いに持ち込まれていた。
「――――まずあいつを引きずりおろすぞ」
言って、クラレントの刀身を翻す。
鎧の兜を閉じたモードレッドは、完全に空の少女へと狙いを定めていた。
飛び込むために砂の足場を強く踏み締めるグリーブ。
今にも獲物に飛び掛からんとしている肉食獣が如き様子のモードレッド。
そんな彼女に対してダビデが嘆息する。
「力任せに引きずりおろしたら話は訊けないだろう?
ここは自分から降りてきてもらうとしようじゃないか」
「何か手があるの?」
飛ばすには不安だが砂嵐からの盾にはなる、と。
マスターたちの前に戦車を出していたブーディカがダビデを見る。
聞かれたダビデは肩を竦めて、宙を舞う少女を微笑みながら見上げた。
「何も考える必要なさそうだろう?
素直に状況を説明したら、それで終わりそうじゃないか。
詐欺とかには気を付けて欲しいタイプだね」
騙し晦ます必要すらないと彼は言う。
見上げた先には、空中でおろおろと困惑している様子の少女。
確かに、彼女に何か特別な対応が必要そうだとは思えない。
「……ならモードレッドのマスターである私が説明しに行くわ。
ソウゴ、私をあそこまで運んでちょうだい。
モードレッドは……アレキサンダーの援護をお願い」
真っ先に名乗りを上げたのはツクヨミだった。
彼女は自身がそうするとともに、モードレッドには別件を指示していた。
兜ごしに交差するモードレッドとツクヨミの視線。
「………チッ、仕方ねぇな―――!」
ツクヨミの言葉に兜を開き、金色の髪をガシガシと思い切り掻き回す。
聖槍の獅子王にしろ何にしろ、とにかく話を聞かなければ何もできない。
頭のクールタイムを設けるために、彼女はダレイオス三世に向けて駆け出した。
「じゃあ行くよ、ツクヨミ!」
ウィザードアーマーがツクヨミを抱え、空に飛び立とうとする。
流石にそれには気付いたか、天空の少女はようやく正気を取り戻した。
そうしてすぐ、ジオウに向けて杖を振るう。
「っ……出ませい!」
ジオウの足元の砂場から包帯に巻かれた腕が無数に飛び出した。
それは彼らを拘束するために掴みかかろうとし―――
ポロン、と。
いつの間にかダビデの手にしていた竪琴の音色を聞いて、静止した。
死霊を従える少女の呪力と破魔の竪琴の音色が相殺。
ジオウに掴みかかろうと現れたマミーの腕が、砂になって消えていく。
「な、――――くっ!」
驚愕している内に、ウィザードアーマーが飛び立った。
少女は即座に魔術を切り替え、扱う使い魔をマミーから黄金のスカラベに変えた。
周囲を舞う金色の甲虫が弾丸となり、ジオウたちに向け飛来する。
「やらせない……!」
ジオウに抱えられながら、ツクヨミがファイズフォンXを抜いた。
赤と金の弾丸が空中で激突し、スカラベは地面に落ちていく。
ここからどうやって会話に持ち込むんだろうと思いつつ、ジオウが風の中で加速する。
「小癪な真似を……!」
再び周囲に黄金スカラベを展開する少女。
その光景を見た彼女は思い切り体を振り上げ、ジオウの肩に立つ。
足場にされた状態で飛行を続けるソウゴが、何となく困ったような声を出した。
「ねえ、ツクヨミ? もしかしてさ……」
〈エクシードチャージ〉
「跳ぶわ! 私とあの子のキャッチ、お願いね!」
言うや否や、思い切りジオウを蹴って跳ぶツクヨミ。
踏み台にされて反動でぐらつくジオウ。「これって力ずくで下ろしてることになるんじゃ?」などと思いつつ、落下し始めた彼は即座に別のウォッチを手にしていた。
「そうなるよね……」
〈フォーゼ!〉
ウィザードアーマーが魔法陣に還り、赤い光となって消えていく。
追加装甲を失ったジオウは、ドライバーに装填したウォッチを交換して回転させた。
ジクウマトリクスがウォッチのデータをジオウのアーマーとして形成。
彼方の空に、コズミックエナジーの使者が生み出される。
そんなジオウを背中に、ファイズフォンXを手にツクヨミは少女に向けて飛び掛かる。
少女は向けられた銃口を睨み、自身の前方に盾とするべく魔力障壁を展開した。
更に迎撃行動も止まらない。
同時に黄金のスカラベを召喚、を弾丸として射出して迫りくる敵を撃ち落とさんとして―――
「ここ!」
放たれる赤い弾丸が、彼女の至近距離まで迫ったスカラベの一体に直撃。
甲虫は赤い光に包まれて、空中で完全に静止した。
ツクヨミがその静止したスカラベに足をかけ、踏み場とする。
続けて再びの跳躍。
飛んでくる他の黄金スカラベより更に高く跳んだ彼女が、少女の頭上に舞い上がった。
「なっ……!? くっ―――!」
一瞬驚き、しかしすぐに表情を引き締めて彼女が腕を空に翳す。
頭上からの銃撃に備えて展開する魔力の盾。
それがしかし―――
〈アーマータイム!〉
「なんと!?」
天空から砂の天蓋をぶち抜いて突っ込んでくる、白いロケットに見舞われた。
展開したばかりの彼女の盾に激突し、弾き返されるロケット。
だが代わりに、少女が展開した魔力の盾は大きく罅割れて砕け始める。
その盾に向けられ、再び銃口に赤い光が瞬いた。
〈バーストモード〉
「しまった……!」
放たれる赤い連弾。
それが大破していた魔力の盾を硝子のように割って崩し、守りを壊す。
そうして一瞬怯んだ彼女に対して、落下してくるツクヨミが掴みかかった。
思い切り組み付いた状態で、全力で目を合わせて会話しに行くツクヨミ。
「聞いて! 私たちはあなたたちの言う、聖都というのとは関係ないの!
モードレッドは私のサーヴァント、私たちと一緒にこの時代に来たばかりなんだから!」
「くっ……! そのような言い逃れを、この不敬者……!
ってそれどころではありません! このままだと落ちます!
放して、放しなさい、この……! 天空の神が落下死なんて洒落になっていませんから!」
掴み合う二人の少女が、砂漠に向けて落ちていく。
あわや大惨事、というそんな二人の落下。
それは地面に到達する前に、ギシリと思い切り網を揺らしながら空中で止まった。
「え?」
少女が網目の紐か何かに受け止められたことを背中に感じ、ツクヨミから視線を外して頭上を見上げる。そこには、飛行する白い鎧の姿があった。
〈3! 2! 1! フォーゼ!〉
右足から巨大な虫取り網のようなものを展開するジオウ。
両腕のブースターモジュールを噴かし滞空する彼が、二人の少女を空中で拾っていた。
白雷と赤雷が揃って奔る。
両腕の戦斧が炎を纏い迎撃に振るわれ、衝突して弾け合う。
邪魔者を弾き飛ばそうと、鞭の如く振るわれる戦象の鼻。
迫りくるそれに対しクラレントの白刃が閃き、斬り飛ばしてみせた。
宙を舞い、地に落ち、転がってから崩れていく象の鼻。
だが崩れたそれはそのまま亡者の兵士と変わり、武器を持って立ち上がり出す。
「鬱陶しい死霊どもだぜ……!」
立ち上がるとともに走り出し、迫ってくる不死者たち。
迫ると同時に両断されてバラバラになり、吹き飛ばされる雑兵。
だがその死骸は再び不死の兵士を形作り、即座に復帰してくる。
容易な相手とは言え、湧き続ける敵にモードレッドは舌打ちした。
「けれど……」
ブケファラスの手綱を握り直しつつ、視線を後ろに向ける。
アレキサンダーの見る先にいるのは竪琴を弾くダビデの姿だ。
彼の奏でる破魔の音色が持つ効力は折り紙付き。
ダレイオスの従える不死者にまで及び、その性能を大きく低下させていた。
「不死の兵隊たちの性能は、だいぶ落ちているようだ。
弱くても不死の兵であれば使いようで幾らでも脅威になる、とは言えるだろうけど……残念ながら今の狂気に落ちた彼には、効果的な用兵はできない」
戦斧を揺らし、ただ戦意と狂気だけでアレキサンダーを見据えるバーサーカー。
それこそが今のダレイオス三世だ。
その彼自身の身体能力ひとつだけで十分以上に脅威だが、この状況ならば間違いなく勝てる相手と断言してもいいだろう。
このまま戦闘が続くのであれば、だが。
『―――もうよい、ホルスの眼とスフィンクスの問いかけに応えたのだ。
余に拝謁する栄誉くらいは与えてやろう』
空に声が響く。どこから届く声なのか、億劫そうで尊大な声。
その声を聞いた途端、網の中で少女が凄くもがきだした。
「ファ、ファラオ! 申し訳ございません、このような無様を!」
ぐにゃぐにゃと動くネット。
同じ網の中、ツクヨミはそれを止めさせようと声をかけた。
「ちょっと、暴れないで……! 狭いんだから」
「誰のせいでその狭いところに捕まっていると!」
スフィンクスもまた戦闘態勢を解除し、翼を畳んだ。
その獣は槍を下ろしたフィンの前を悠然と歩いていく。
主人に止めろと言われた以上、彼らは従うということか。
スフィンクスが目指す先は、体を震わせているダレイオス三世の元。
声に反応して必死に停止している彼を、無理矢理に背中へ乗せる。
そのままスフィンクスは砂漠の奥に向かって行ってしまった。
「……へえ、ダレイオス三世がね」
アレキサンダーは微かにそう呟き、連れ戻されていくダレイオスを見送る。
彼は相手が自分以上の王だからと言って、そう簡単には従わない男なのだが。
声がする空を見上げながら、ダビデがその声の主に対して話しかける。
「やあ、空からする声の君。君が太陽王、と呼ばれるこの土地の支配者でいいのかな?」
『さて。少なくともこの地を己の領土とし、エジプトに染め上げた王であることには違いない。何か言いたい事でもあるか? 元の国の王だった者として』
エジプトに染め上げた、などという発言。
国を国で塗り潰すという事象を何でもないように語り、天の声は鼻を鳴らした。
その物言いに肩を竦めて、ダビデは逆に空へと問いを返す。
「逆に君の方に思うところがありそうだけれど?」
『何のことはない。懐かしい顔を思い出させる男、と感じただけのことだ。
―――まあよい、ニトクリス』
「は、はっ!」
声に反応して蠢くネット。
跪こうとして暴れ、しかし網の中でもごもごと動いて終わる。
それをさほど気にした様子もなさそうに、天の声は彼女に告げた。
『その者たちを余の神殿まで導くことを許す。
玉座まで連れてくるがいい』
「承知致しまし……この者たちを玉座まで、ですか?」
ぶらぶらと揺れていたネットから、ぴょこりと頭だけが出てくる。
そんな体勢のままで疑問の声を上げる、ニトクリスと呼ばれた少女。
彼女に対する返答は、天から下る冷ややかな声。
『―――二度は言わぬ。
問い返すことは、余が下した沙汰に異議を唱えるに等しいことと理解せよ』
「……っ! はっ―――!」
ジオウがゆっくりと高度を下げて、右足からネットを切り離す。
砂の上に落ちた網の中から飛び出したニトクリスは、天に向かって跪いた。
『では、任せたぞ』
最後まで何か億劫そうに、天からの声が消え失せた。
数秒置いてから少女、ニトクリスは頭を上げて納得してなさそうな顔で振り返った。
「……ファラオのご意思です。
あなたたちが神殿まで同行することを許しましょう」
一目で分かる不機嫌さにオルタの口端が吊り上がる。
「不満そうね。王サマの指示が不服なの?」
「そんなはずがありましょうか!
ええ、ファラオが沙汰を下した以上、これも我が勤め!
あなた方を完璧にご案内してみせましょう!」
立ち上がった彼女は手にした杖で砂地を叩く。
むん、とふんぞり返るような姿勢を見せる彼女。
その姿に対して、ダビデが微笑みながら声をかけた。
「それはよかった、流石はファラオ。
ところで道中の話になるが、どうせなら砂嵐ではなくファラオの威光たる太陽の輝く空の元で歩きたいのだけど」
「……むむむ、確かに。
山の民や聖都の騎士避けにこうして砂嵐を起こしていますが……これよりファラオの元に参じるものたちに、太陽の元を歩かせないのはファラオの名折れ……
いえ! 折れるのはオジマンディアス様の名ではなく、この私の名なのですが!」
言われた彼女は、頭から生えた獣の耳のようなものを動かしながら考え込む。
そんな様子を見ていた清姫が、扇で口元を隠しながら小さく呟いた。
「様々な国にエリザベート枠の方がいらっしゃるのですね……」
世界の広さを再確認している清姫。
そのエリザベート枠とやらの日本担当はお前だろ、という顔をするオルタ。
ブーディカの戦車の陰で砂嵐を防ぎながら、立香が呟いた。
「新しく出てきたね。オジマンディアス様と、山の民?
さっきの声がオジマンディアス様?」
「恐らくは。オジマンディアスと言えば、建築王と呼ばれた古代エジプトのファラオ……」
「ラムセス二世だよね」
砂嵐からツクヨミの盾になりながら歩いてくるジオウ。
フォーゼアーマーの幅は、こういう時にも便利に働くらしい。
楽しそうにそのファラオの名を上げるソウゴに、ツクヨミが首を傾げる。
「嬉しそうだけど、好きなの?」
「好きっていうか、最近色んな王様を見れて楽しいって思ってるけど」
ブーディカの戦車の背後にツクヨミが移る。
盾になる必要がなくなった彼が、フォーゼアーマーを解除した。
「確かに王様は多いよね。
そのオジマンディアスに、アレキサンダーと戦ってたダレイオス三世。
ニトクリスって子もファラオだよね?」
「はい。ラムセス二世よりも更に旧い時代の女王ですね」
首を傾げる立香に答えるマシュの声。
ちらりとそちらを見ると、ニトクリスは頭を抱えて悩んでいた。
砂嵐を解除するべきか悩んでいるのだろう。
出来れば解除してくれるとありがたいのは事実なのだが。
「ブーディカもそうだし、女王様も多いよね」
戦車を維持していたブーディカを見て、軽く首を縦に振る立香。
そんな風に話を振られた彼女はしかし、難しい顔でニトクリスたちを見ていた。
「ブーディカさん……?」
「え? ああ、ごめん。ちょっと獅子王っていうのが気になってね」
そう言ってモードレッドに視線を送るブーディカ。
彼女は兜を閉じて、ダビデたちとニトクリスの話の行方を眺めている。
―――聖都、獅子王……そして、円卓の騎士。
ニトクリスの口から出てきた、どう考えてもブリテンとの繋がりがあるものたち。
「もしかしたら、この特異点は……」
一瞬だけ、彼女の視線がマシュに向けられた。
が、すぐに逸らされるブーディカの顔。
マシュはそれに首を傾げながら、どうかしたのかと問いかけようとして―――
「し、仕方ありません! いいでしょう、砂嵐は止めましょう!
ファラオの慈悲に感謝なさい! そして降り注ぐ太陽の威光に頭を垂れなさい!
いいですね? 今回ばかりは特別ですよ? 分かっていますね!?」
半ば叫ぶようにそう言い放ったニトクリスが、杖を掲げる。
止まる風。晴れていく砂。砂塵のカーテンに隠されていた太陽が姿を現す。
―――同時に、空に奔る光の帯もまた。
光帯が横断する空を見上げ、自然とマシュは己の盾を握り締めていた。
メジェド様が登場してないんだが?