Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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聖都開門 はじまる聖罰1273

 

 

 

「あなた方も聖都へ? そうですか、もしやこの国の外もこのような状況に……?」

 

「……そうですね。わたしたちが見てきた限りではおおよそ。

 近くに現れた砂漠はまだ大丈夫だったようですが……」

 

「砂漠に行かれたのですか? あの砂漠には踏み込んだ者を食い殺す魔物が出ると聞いていましたが……大丈夫だったのですか?」

 

「……人を食べるかどうかまでは分かりませんが……確かにその、魔物はいました、ね」

 

「ああ……やはり。だからあなた方も砂漠からは出て、聖都に向かっているのですね。

 聖都に辿り着ければ、民族や信仰に関わらずどのような人間でも受け入れられ、何の心配もしなくてよくなると聞いてはいたのです。

 半信半疑でしたが、村が焼けてしまった以上はどうしようもなくて……色々な場所を回っている旅の方でも同じ話を聞いているなら、聖都の噂は本当だと信じられそうです。

 ありがとうございます、この先の不安が晴れました」

 

「それは……その、何よりでした」

 

 聖都に向けて移動し始め、顔を合わせる事になったこの時代の人間。

 現地人の女性と顔を合わせながら、オルガマリーは視線を小さく後ろに送る。

 はいはい、と。心得たもので清姫をくっつけた立香が距離を離していく。

 清姫がいると世間話に誤魔化しをいれることも出来ない。

 

 砂漠越えのためにニトクリスから提供された全身を覆うマント。明らかに時代にそぐわない衣服をその布で隠しながら、彼女は可能な限り情報を引き出すために世間話を始めた。

 

「……ニトクリスさんの話によると、難民の保護は山の民が行っているはず。

 聖都に向かっているこの方たちにも、彼らからの接触があるのでしょうか……?」

 

 そう呟くマシュの頭の上で、鬱陶しそうに身を捩るフォウ。

 結果、彼女の頭を覆っていたフードが外れて顔が露わになる。

 慌ててフードを戻そうとするが、フォウが邪魔して被り戻せない。

 

 立香が清姫の頭を抱えて耳を塞ぎつつ、離れる前に少しだけ聞けた難民の言葉に首を傾げる。

 

「聖都に保護してもらえる、って噂があるみたいだね。

 どこから流れた噂なんだろう」

 

「聖地を奪って聖都を建てた時じゃないかしら。

 そこで大々的に示して、人を集めようとした……けど、あのミカンのせいで出来なくなった」

 

 所長が情報収集してくれている中、少し離れた位置で言葉を交わす。

 聖都ミカンの遠景を見上げながらそう言うツクヨミに、通信機からの声も届く。

 

『噂の域を出ていない、ということは聖都から帰ったものはいないんだろうね。

 だがそうなると……』

 

「多分、難民は相当数いるはずだ。周囲の環境がこうだからね。というか全ての民が難民、という規模だと言っていい。―――聖都による受け入れも排除も実行されていないなら、山の民が受け入れているという事なのだろうけど……」

 

 どこまで行っても不毛の荒野。

 地面には消えない炎がちらつく、生命が息づくはずのない環境。

 そんな光景を見渡したダビデが視線を逸らし、顎に手を添える。

 

「それほどの人数を、山で生活する集落が抱えきれるわけがない。

 となると、どこかそれを覆すための現象が必要なわけだ……まあ、大体予想はつくけど」

 

「まあ、仮面ライダー鎧武という存在の手引きだろうな。聞けば星をひとつ生物の住める環境に変えたが故の神なのだろう?

 山の環境を変えたのか、或いは自身の星に人を導いたのか、はたまた己の星から一国を支えられるほどの物資を持ち込んだのか。

 この状況でさえもちゃぶ台返しを成し得る反則技も考えられる以上、考察してもあまり意味はないことだろう」

 

 苦笑しながらそう語るフィン。

 相手が神に属するものであるのなら、その行動を測ろうをしても意味はないと。

 そんなことを口にした彼も、遠くに見えるミカンを眺めた。

 

「……どうせ情報は足りてねぇんだ、いま考えたって無駄だ無駄」

 

 鎧をすっぽりと覆うマントで身を隠したモードレッドが投げ槍にそう言った。

 彼女自身も何を思えばいいか図り兼ねているかのような、そんな調子で。

 

「……そうね。どちらにせよ、もうあそこに向かうと決めたんだもの。

 何があってもやり遂げる。今はそれだけ考えましょう」

 

 思考するよりも、今は周囲の状況に注意するべき。

 ツクヨミがそう割り切って、モードレッドの言葉に同意する。

 ダビデによれば、このまま行けば夜には聖都周辺に辿り着けるという。

 

 聖都に着き次第、周辺を調査。

 状況如何によっては夜闇に乗じて撤退することを選択する。

 その後は山に入り、山の民を保護しているものを捜索。

 

 そう方針は示されているのだから。

 

 

 

 

「このような夜更けにご足労願い、まことに申し訳ございません。

 これも我ら円卓の騎士の力不足が招いた事態。

 事が成された暁には、我らはどのような処罰でも……」

 

「よい、そのような話を聞きに来たのではない」

 

 玉座の前で傅く五人の騎士。

 アグラヴェイン、ガウェイン、ランスロット、トリスタン、モードレッド。

 

 彼らが前にするその玉座に腰掛けるのは、白の王。

 獅子を思わせるたてがみの兜。白銀の鎧に、白いマント。

 穢れなき純白の獅子王、アーサー王。

 

 彼女に促されたアグラヴェインは、即座に話を進める。

 

「は―――獅子王陛下。

 行き場を求めた民らが、聖都の門の前に集まってきております。

 どうやら既に山の翁どもの手は足りていないようで。

 今宵、この聖都に収める民の聖抜の儀を執り行いたいと思っております」 

 

「そうか。では―――あれを撃ち落とすか」

 

 獅子王が立ち上がる。

 彼女は自身の騎士にそれぞれ視線を送ると、腕を掲げた。

 その手の中に現れる聖槍、ロンゴミニアド。

 

 神威を宿したその槍を引っ提げて、彼女は天井を見上げる。

 

「本来ならば姿を見せ、民に聞かせるべきであろうが―――

 致し方ない、私は外に声のみを届けるものとする。

 我が騎士たちよ。それが終わり次第、この被膜を打ち破り聖罰を開始せよ」

 

「は!」

 

 太陽の騎士、湖の騎士、叛逆の騎士。

 三人の騎士が立ち上がり、進軍を開始した。

 目指すのは聖都正門。

 合図があり次第、王の意思を執行するための剣になるために。

 

「……王よ。異星の神性が民の方ではなく、こちらに降りる可能性もあります。

 私とトリスタンはこちらに」

 

「よかろう。供をせよ」

 

 傅いたままにそう進言するアグラヴェイン。

 王は天井を見上げたままに、彼に対して許可を出す。

 

「ありがたき幸せ。御身の無事は我が身命を賭して守り抜きましょう」

 

 アグラヴェインが立ち上がり、トリスタンに視線を送る。

 トリスタンもまた立ち上がり、愛弓をその手に顕す。

 今宵、神を撃ち落とすため。円卓の騎士が動き出した。

 

 

 

 

「……何で、こんなに?」

 

 夜の闇の中にあっても、その人の群れの数が尋常でないことに気づく。

 千に届くだろうか、という人々。

 それだけの人間がミカンと化した聖都の前に群れを成している。

 正門らしき場所、地上からすっぽりとミカンに包まれた聖都。

 

 この暗闇で表情は見えないが、様子から言って皆一様に疲れ切っているのだろう。

 いつ聖都に入ることができるのかと救いを求めている。

 

「……まあ、山の民も誘導しきれないということだろうね。

 仮に物資が足りても、面倒を見る人手と土地は用意できてない。

 難民が別の惑星に移民してる説は消していいかな?」

 

 フードの中で困った顔をしながら、ダビデがそう呟く。

 山の民がこれ以上の民の誘導を諦めていた場合、接触が困難になる。聖都への偵察と、そこに山の民が接触してくる可能性。その両方を考えてのこの選択だったのだ。山の民の方からこちらを見つけてくれない限り、最終的には山の中で目印もなく探し回る羽目になるだろう。ある程度近づけばカルデアの生命反応探知で見つけられる以上、絶望的に困難というわけでもないだろうが。

 

「それでどうする? このまま放置する、わけにもいかないんじゃないかな?」

 

 これだけの人数、はっきり言って何かが出来るわけでもない。

 だが、だからと言って放置もできないとブーディカは言う。

 今はまだしも、聖都付近はこの先どうあっても戦場となる場所だ。

 その周辺に彼らを置いておけば、どうなるかは目に見えている。

 

「はい……ですが難民の方々も、持ち合わせている物資が多いわけがありません。

 ここからどこか別の場所に避難してくれ、と言っても……」

 

 口惜しげに唇を噛み締めるマシュ。

 彼らを支えているのは僅かな水と僅かな食糧。

 あとは焼け落ちた自然の中で、僅かに残された動植物を狩っているのだろう。

 

 それでこの人数を延々と支え切れるはずもない。

 難民たちはこの状況を打開してくれる救いを求め、鎖された聖都を見上げている。

 

「―――こうなったら皆、砂漠の方に連れてくとか?

 山の民の方に足りないのが土地だとしたら、オジマンディアスに頼んで……」

 

 オジマンディアスは世界を救う戦いに協力すると明言した。

 つまりソウゴたちが戦いに必要だと感じたことは、幾らでも押し付けていいはずだ。

 難民たちを放置すれば決戦に支障をきたす以上、完全にセーフのはず。

 それ以外にないと判断し、ソウゴは彼らを砂漠に誘導するための話をしようとして―――

 

『―――人の根とは腐るもの。故に、最果てに導かれる者は選別する。

 限られた席に座ることを許されるのは、決して穢れず、あらゆる悪に打ち克つ魂のみ。

 不変にして、永劫。純真無垢な人間だけに、聖都の門は開かれる』

 

 空から、その潔白を疑いようがないほどに清廉な声が響き渡る。

 

「――――父上……!」

 

 空を見上げたそのモードレッドの反応。

 そこだけでこの声の主がアーサー王であることに疑いはない。

 

 オルガマリーも、立香も、ソウゴも、マシュも。

 少し調子は違うが、確かに聞いた覚えのある声だった。

 特異点F、冬木の地で確かに。

 

 その瞬間、夜闇を引き裂く強い光が難民たちの中から立ち昇る。

 数は三つ。難民の中で、三人だけ。

 

「なんだ、何の光だ!?」

 

「不思議……こんなに光っているのに眩しくない」

 

 不可思議な現象を前にして、難民たちが声を上げる中。

 ソウゴはジクウドライバーを装着して、聖都の方を見た。

 

「アレキサンダー、ダビデ、ブーディカ。

 この人たちを砂漠まで逃がすのに先導してくれる?」

 

「了解したいところだけど……無理だろうね。

 僕たちが誘導するために戦線を離れたら、間違いなく止めきれずに潰れる」

 

 アレキサンダーがマントを脱ぎ捨て、抜剣する。

 彼らの目の前で、聖都を覆うオレンジ色の球体が揺らめいた。

 内側から膨れ上がり、球体が歪んでいく。

 

 その光景を見て、モードレッドも同じくマントを脱ぎ捨てた。

 聖都を覆うミカンの罅、そこから溢れ出してくるのは()()()()()

 あれほどに邪悪な刃を振るうのは、円卓の騎士にはひとりしかいない。

 

「……まあ、そうなるわな」

 

 ミカンの皮が剥がれ落ちる。

 血色の刃の残光と、噴水のようにオレンジ果汁のような光が空に噴き出す。

 そうしてその瞬間、()()()()()()()()()

 

「――――空が……!?」

 

「太、陽……!?」

 

 日が暮れてまだ3時間も経っていない。

 夜明けどころか日が変わるのでさえもまだ先だったはずだ。

 だというのに、あの果実が破られた瞬間、()()()()()()()()()()

 

「……どーいうイカサマか知らねえが、ひとりしかいねえだろうよ……!」

 

 クラレントを抜き、聖都を見据えるモードレッド。

 そんな彼女の前で聖都から真っ先に踏み出す、金色の髪の騎士。

 太陽の輝きの下でより輝く白銀の鎧。

 彼は陣頭に立ち、難民に向き合いながらにこりともせずに口を開いた。

 

「皆さん。自らこの聖都に集まっていただいた事、感謝します。

 人の時代は焼け落ち、この小さな世界もまた同じように燃え尽きようとしている。

 主の審判は下りました。もはや地上に人の住まう余地はありません。

 ――――この、聖都キャメロットを除いて」

 

 踏み出してきた先頭の騎士に続き、紫の鎧の騎士、そして―――モードレッドが姿を見せる。

 更に後ろに続くのは、全身を鎧で覆った整然と列を成す騎士たち。

 

「我らが聖都は完全にして完璧なる純白、獅子王陛下による千年王国。

 この門を抜けた先には、万民にとって理想の世界が待っています。

 我が王は民族も宗教も問わず、あらゆる民を受け入れます。

 ―――赦しを得られた人間は、一切の例外なく」

 

 ガチャリ、と。

 構えた武器を鳴らして、整列していた騎士たちが歩みを開始する。

 聖都の治安を維持し、獅子王の意思を実行するための騎士。

 彼らが全て、選ばれなかった民を罰するため、粛清の騎士となって動き出した。

 

 それを前にした難民たちが、動揺して悲鳴を上げ始める。

 

「え、なに……!? 何で剣を私たちに向けるの!?

 聖都は私たちを受け入れてくれるのではなかったの!?」

 

「選ばれた……何人だ? 三人か? そいつらだけはな」

 

 円卓側のモードレッドもまた、そう言って歩みを開始し―――

 次の瞬間、全力で地面を踏み締めて突撃した。

 進行を開始した粛清騎士たちを追い越し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 盛大に激突音を響かせて、二振りのクラレントが絡み合う。

 撒き散らされる火花越しに、全く同一の顔が付き合わされた。

 

「ハ―――サーヴァント、ってのはこんなこともあんのか。

 まあ、殺す相手の事なんざどうでもいいけどよ」

 

「……ッ! は、“燦然と輝く王剣(クラレント)”を持ってアーサー王の騎士ごっこか?

 忠節の騎士ごっこがしてえなら、得物くらいは選べよ叛逆の騎士!」

 

 轟音を上げ、刃が弾け合う。

 切り返す剣が二度、三度と打ち合って互いの体を後方へと吹き飛ばした。

 体勢を立て直しつつ、円卓のモードレッドが鼻を鳴らす。

 

「まあ言われりゃそうだな。オレがこいつを手にしたのは、王に反旗を翻す時……

 こいつを手にして王の騎士、ってのは少し無理があるわな」

 

 同じく体勢を立て直し、クラレントを構え直すカルデアのモードレッド。

 その彼女の前で、赤雷が轟いた。

 

「チッ……!」

 

「ま、細かいことはいいから死んでおけ。

 これは慈悲だ。父上……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 “我が麗しき(クラレント)―――――!!」

 

「“我が麗しき(クラレント)――――ォッ!!」

 

 全力を注ぎ込む。もし押し込まれれば、難民ごと消し飛ばされる位置だ。

 魔力を総動員して、赤い稲妻と血色の光を刀身に帯びさせる。

 二人の叛逆の騎士は全力で剣を振り上げて、それに倍する速度で振り下ろしていた。

 

「――――父への叛逆(ブラッドアーサー)”ッ!!」

 

 

 

 

 戦車の上で剣と盾を打ち合わせる。

 そうして銅鑼の如き音を立て、難民たちの視線を自分に引き付ける。

 

「聖都は危険だ、皆ここから逃げるんだ!

 あたしたちが頼れる場所を知ってる! こっちに着いてきて!」

 

 ある程度注目は集められる。だが対抗馬は血色の極光の衝突だ。

 多くの難民たちはその光景に呆然とし、腰を抜かしている。

 これでは半分も逃がせない。

 その事実に歯噛みするブーディカの前、難民たちに粛清騎士が雪崩れ込んでくる。

 

「くっ……!」

 

 戦車を走らせては難民を轢くことになる。

 すぐさま宝具を跳び降りた彼女が、盾を構えて粛清騎士たちに立ちはだかった。

 振るわれる刃を盾で打ち返し、光を纏った剣で騎士たちを薙ぎ払う。

 

 直後、その騎士たちに吹き付けられる炎の渦。

 が、粛清騎士たちはそれを意にも介さず、すぐさま体勢を立て直した。

 炎を浴びせた清姫とオルタが苦い顔でその様子を見つめる。

 

「どっかで似たようなことあったわね……!」

 

「―――ですが、それにしても反応がありません。

 肌と肺を焼かれても気合で迫ってきたスパルタ兵士たちとは、明確に違います」

 

 粛清騎士たちは兜の炎を浴びても何の反応も示さない。

 恐らく、呼吸をしていないのだ。

 炎に炙られて熱された鎧に対して、何の苦痛も感じているように見えない。

 恐らく、温度を感じてさえいないのだ。

 

「中身空っぽってわけ? つまり―――叩き壊すしかないわけね!」

 

 復帰し、迫ってくる伽藍洞の鎧。

 それに対してオルタは剣を納め、竜の描かれた旗を振るって殴打することで対抗した。

 殴り飛ばされて地面を転がる粛清騎士。

 だが痛痒を感じてさえいないのだろう、それは即座に復帰しようと立ち上がり―――

 

 瞬間。空を翔ける白馬の牽く戦車が、その騎士の頭上から思い切り叩き付けられた。

 難民たちの頭上を飛んできた戦車。それは鈍器となって、騎士を完全に粉砕する。

 

 騎士たちは即座に対応を開始した。

 剣と盾の騎士、槍の騎士は足を止める。

 その後ろ、弓を手にした騎士が戦車を牽く白馬に向けて狙いを定めた。

 

 一瞬置いて放たれ、飛来する矢の群れ。

 だがそれは戦車の前に張られた青い炎のカーテンで焼き払われる。

 

 白馬の守りになるため、戦車に乗り込む清姫。

 ブーディカとオルタが殴り倒し、戦車が後から踏み潰す。

 これならば少し時間はかかるが、粛清騎士たちを殲滅することは可能だ。

 

「―――その戦車、勝利の女王とお見受けする。本来であれば礼節に則りたいところだが……既にこの地に集まりし者たちに、聖抜は行われた。

 選ばれなかった者はひとつの例外もなく、聖罰によって処断されるものである」

 

 ―――そこに、円卓最強の騎士が存在しなければ。

 紫の鎧を纏った騎士は、無手のままに粛清騎士たちの前に出てきていた。

 腰に剣を下げてはいるが、彼は戦場においてもまだ抜いていない。

 

「湖の騎士……!」

 

「ランス、ロット……!」

 

 オルタとブーディカが同時にその名を出す。

 狂戦士として召喚された彼を見知ってはいた。が、セイバーとしての彼を見るのは初めてだ。

 当然だがバーサーカーとはまるで違い、理性的に行動するランスロット。

 彼は軽く手を振るいながら粛清騎士たちに指示を出す。

 

「ランスロット隊は五名を私の後ろに配置し、聖罰の執行に戻れ。

 まずは選ばれし聖都の民を無事に確保せよ。

 一切の傷をつける事のないようにな、選ばれた者は既に獅子王陛下の臣民である」

 

「――――は!」

 

 粛清騎士たちが動き出す。

 彼の言った通り五人を残し、残りの騎士たちは彼女たちが背中に庇う難民たちへ向かうため。

 

「―――行かせると!」

 

 清姫が熱量を最大まで上げた炎を噴き出す。

 それを見て表情ひとつ変えず、ランスロットは腕を後ろに伸ばした。

 突き出される粛清騎士の槍。それを掴み取り、彼は己の宝具を起動する。

 

 粛清騎士の持っていたただの槍が、彼が手にした瞬間宝具と化す。

 ―――“騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)

 彼の逸話から発生した、手にした物を全て自身の疑似宝具と化す宝具。

 

 宝具と化した槍を半ばで掴みながらプロペラの如く回転させる。

 大火力の炎を当たり前のように受け流し、彼は残火を軽く振り払った。

 更に後ろから剣を受け取り、剣と槍。

 二つの宝具を備えて、ランスロットがブーディカたちを見据える。

 

「ご存じのようだが改めて名乗らせて頂こう。

 獅子王が円卓の騎士にして、聖都の遊撃騎士―――ランスロット。

 愛剣アロンダイトを抜かぬ不作法、どうかご容赦を願いたい」

 

 彼が踏み込んだ瞬間、地面が爆ぜた。

 紫の弾丸と化して大地を疾走するランスロット。

 盾を構えてその前に立ちはだかるブーディカ。

 宝具と化した槍の一撃が、彼女の盾を打ち据えた。

 

 

 

 

「変身―――!」

 

 この場において、最も危険で最も止めなければならないもの。

 直感的にそれを理解したソウゴは、変身しながらそこへ駆け込んでいた。

 

〈仮面ライダージオウ!〉〈アーマータイム! フォーゼ!〉

 

 空より飛来する白いロケットが合身。

 ジオウ・フォーゼアーマーとなった彼が、ブースターで加速しながら突進する。

 全力で加速した彼を前に、太陽の騎士はその場でただ剣を構えた。

 

 その反応を見て、悪い予感は更に加速する。

 ソウゴは即座にただの突進を別の攻撃方法に切り替えた。

 

〈フィニッシュタイム! フォーゼ!〉

 

 加速しながらのドライバー操作。フォーゼアーマーは変形し、ロケットモードへ。

 きりもみ回転を加えた突撃はフォーゼアーマーの誇る必殺の一撃となり、立ち誇る太陽の騎士に向けて解き放たれた。

 

〈リミット! タイムブレーク!!〉

 

「宇宙ロケットきりもみキィ――――ック!!」

 

 迫るジオウを前に、太陽の騎士が瞑目する。

 

「―――なるほど、星見(カルデア)の……見事です。万難を排し、こうして聖都まで辿り着いたあなた方のこれまでの戦いに称賛を。ですが……」

 

 目を見開き、目前まで迫っていたジオウの一撃に剣を振り下ろす。

 炸裂する熱波。剣撃の衝撃が大地を割れる。回転と加速で尋常ではない破壊力を有していたはずのジオウが、その一撃で地面に叩き付けられた。

 

「ぐ、ぁ……ッ!」

 

「―――獅子王が円卓の騎士。聖都の守護騎士、ガウェイン。

 聖都の門を乱し、聖罰の執行を妨害した罪。あなた方は私が処断します」

 

 全身各部のブースターを吹かし、強引に復帰した。

 ガウェインの振るう剣が振り下ろされる直前、両腕のブースターモジュールを交差し盾とする。

 直撃に盛大な火花を散らし、吹き飛ばされるフォーゼアーマー。

 地面を転がる中でアーマーが解除され、ジオウは通常形態に戻っていた。

 

 小細工のない純粋に圧倒的なパワー。

 それを体で味わい、歯を食い縛りながら何とか立ち上がる。

 

「っ、この……!」

 

〈ダブル!〉〈アーマータイム! ダブル!〉

 

 立ち上がりつつウォッチの装填。

 ドライバーが回転すると同時に二体のメモリドロイドが出現し、変形してジオウに合体。

 ダブルアーマーを装着し、ガウェインと向き合う。

 

 取り出すジュウ形態のジカンギレード。

 すると緑のアーマーは黄色に染まり、黒のアーマーは青に染まった。

 

「……俺たちがあの人たちを守ったことが罪だって言うなら、あんたたちに罪は無いの?

 ねえ、あんたの罪を……教えてよ」

 

「―――無論、あるとも。生前犯したものも、この地において犯したものも。

 数え切れぬ我が罪、それが贖い切れぬものだとしても―――この選択もまた罪だとしても。

 せめて今生は、我が王のために全てを――――!!」

 

 ジオウの放つ不規則な軌道を描く黄金の弾丸。

 それを正面から全て粉砕しながら、ガウェインが殺到する。

 そうして、ジオウとガウェインが再び交差した。

 

 

 

 

「……モードレッドが開けた穴は既に修復されたようです」

 

 円卓の騎士の出陣を見届け、戻ってきた粛清騎士。

 彼の報告を受けたアグラヴェインが王にそう伝える。

 あの壁は宝具で打ち破ることは叶うが、すぐに直るのだ。

 つまり、現状だと出陣した円卓に退路はないことになる。

 

 帰還するときはどうせまたモードレッドが宝具を撃ち込む気だろう。

 それを察して、弓の弦を鳴らしながらトリスタンが呟いた。

 

「帰還する時は私が穴を穿つのでも構いませんが……」

 

「不要だ。私の騎士たちの帰還する頃にはあの壁は消えているだろう。

 ――――()()()()()()()

 

 王が告げた言葉に、二人の騎士が眉を上げた。

 何が来るかなど聞くまでもない。

 

 数秒後、聖城キャメロットの天井が砕け散った。

 そこから黄金の林檎のような形状をしたエネルギー体が落ちてくる。

 張られたオレンジの結界を擦り抜けてきたそれは、着陸すると同時に解けていく。

 中から姿を現すのは、白銀の鎧。

 

〈極アームズ! 大・大・大・大・大将軍!!〉

 

 兜に輝く極彩色の複眼が槍を持つ王に向けられた。

 獅子王もまた兜の奥から覗く視線。

 互いの兜ごしに、両者の眼光が交差する。

 

「―――異星の神性よ、なぜ貴様はこの星の行く末に関わらんとする。

 貴様の出自がどうあれ、もはや貴様はこの星にとっては来訪者。

 当事者の決定に異論を挿む資格はあるまい」

 

「―――ろくでもない計画ばかり立てといてふざけんなッ!!

 勝手に救う奴を決めて! それ以外の奴を焼き払って!

 ……俺はそんな世界を変えるために、この力を使うって……そう誓ったんだ!!」

 

 鎧武の手が極ロックシードに伸びる。

 彼がそれを揺らすと同時、鎧武の手の中には武装が出現した。

 

〈ソニックアロー!〉

 

 創世弓ソニックアロー。それを引き絞り、獅子王へと解き放つ。

 だが放たれた光の矢は彼女にまで届かない。

 空中で音の刃が光の矢を斬り捨てる。

 

「―――ッ!」

 

「では、同じです。私たちもまた、あなたと。

 方法が相反し、敵対してしまう事は悲しい。ですが、私たちは退けません。

 世界を救うためにこうすると―――そう、誓ったのですから」

 

 アグラヴェインは無言で獅子王の前に立つ。

 その上で、トリスタンのみが鎧武に立ちはだかるように前に出てきた。

 

「……救いを求めている人たちを切り捨てて、一体何を救うって言うんだ!

 誰かの救いを求めて戦えるなら! 俺たちが本当に戦わなきゃいけないのは、犠牲を払わなきゃ守れない世界のルールだろ!!」

 

 ソニックアローを構え直して叫ぶ鎧武。

 それを聞いたトリスタンが、小さく口に手を当てて笑みを零した。

 

「―――ふふ、持つ力の割りに青臭いことを言いますね」

 

「あんたが笑う、その青臭いことを貫き通すために―――俺はその力を手に入れたんだ!

 例え何があろうと、俺は俺の信じた道を進み続ける!!」

 

「いえ、失敬。馬鹿にしたわけではありません。

 ああ……意図しない言葉で誰かを傷つけてしまうのは、私の性格のせいでしょうか」

 

 弓を手にしたトリスタンが悲しげにそれを鳴らす。

 突然、悲痛な表情と声を浮かべる彼。

 その態度の変化に対して鎧武が鼻白んだ。

 

「私は不思議でならないのです、人の心が分からない“嘆きのトリスタン”。

 人の心が分からず、王を傷つけた不忠者。

 人の心が分からない者が“反転”したならば、人の心を理解できるはずなのでは?

 だというのに、私に改善は見られない―――でしたら、ええ。やはり最初から、“嘆きのトリスタン”は人の嘆きなど理解してはいなかったのではないのでしょうか。

 最初から人の心を持っていないのであれば、“反転”した所で心を得られるはずもない。

 非道にして冷酷、情など持たぬ獣。貴様が人型であることさえ、何と烏滸がましい……」

 

「お、おい……!」

 

 ―――妖弦“痛哭の幻奏(フェイルノート)”。

 騎士トリスタンの宝具が哭く。音に添って空気の刃が迸る。

 ソニックアローの迎撃を抜け、刃が鎧武の体に幾つか直撃した。

 火花を散らしながら一歩下がる鎧武。

 

「ぐっ……!」

 

「―――獅子王が円卓の騎士が一。聖都の守護騎士、嘆きのトリスタン。

 民の嘆きも、騎士の嘆きも―――王の嘆きさえも。

 醜き獣であるこの私の心には、小波ひとつ起こせない。

 ああ、なんと……だからこそ――――私は、とても悲しい」

 

 トリスタンが閉じていた瞼を開く。

 光の消えた、何も映さない眼が鎧武を正面に見据える。

 音の刃が乱れ狂う地獄に呑まれながら、鎧武は息を呑んだ。

 

 

 




 
私は、とても悲しい(アイアンメイデン・ジャンヌ感)
その内出て来るかなと思ってましたが称号:シャーマンキング取得RTAとか走る兄貴中々出てこないっすね。
巫力125万!?うせやろ?ぼったくりやろこれ!
 

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