Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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バーサーク・ラッシュ1431

 

 

 

 バーサーク・サーヴァント。

 魔女ジャンヌ・ダルク―――カルデアにおいて黒ジャンヌと渾名された彼女が従える、この国を三度焼いてもお釣りがくるだろう屈強なるしもべたち。

 

 その先駆けとして先行するのは白髪鬼。戦場に似合わぬ黒い貴族風の衣装に袖を通した男。

 手にした槍にこそ神秘の気配は感じないものの、対して彼自身にはむせ返るほどの血と夜の臭気が染みついている。

 当然の如く手練れであることは言うまでもなく、得体の知れなさを考慮すれば、黒ジャンヌ軍サーヴァントの中でも彼がもっとも危険な存在である事は疑いようがない。

 

 ならば、カルデアサイドから迎え撃つために前に出る者は決まっている。

 

 朱色の魔槍が奔る。衝突する血濡れの槍と真紅の魔槍。

 瓦礫と化した家屋の上、高所からの急襲を彼は愛槍をもって難なく受け流した。

 弾き返された黒衣の男が、その勢いのままに後ろに跳ぶ。

 

「―――ほう。聖女の血と魂こそを求めるべき戦場とばかり思っていたが……余と打ち合うことに不足無き槍の名手と出会うとは。

 これは、迷う。美しき魂もよいが、強き魂もまたよいものだ」

「ハッ、バーサーカーでありながらオレと槍で競うってか? よくぞ言った、吸血種。

 貴様のその心臓、我が槍が貰い受ける――――!」

 

 悠然と着地した相手。それが血を啜るものと看破したランサーが、速攻の構えに入り―――横合いから襲撃してきた白き閃光に対応するべく大きく跳んだ。

 一拍遅れてくる奇襲は神速の刺突。その細剣(レイピア)特有の剣撃を、彼は槍の穂先で丁寧なまでにきっちりと受け流してみせる。

 

「―――粗野に見えて精緻。その槍の冴えを見ては、生憎だが誰かひとりでかかるような侮った真似はしない。幸いにも数はこちらの方が勝っている。バーサーク・ランサー、彼には私とふたりで当たってもらおうか」

「バーサーク・セイバー……」

 

 ランサーを横合いから強襲した麗人の姿は、既にバーサーク・ランサーの隣にあった。

 速い、いや上手い。立ち振る舞い、足運び。根本的な性能を凌駕する技量の冴えこそ、バーサーク・セイバーの真骨頂であるとその一瞬で理解できる。

 

 その事実に内心舌打ちするランサー。これは突破には時間がかかりそうだ、と。

 

「バーサーカーのクラスを二重取得……いや、狂化の後付けか? どっちにしろロクでもねえ」

「……竜の魔女(マスター)の指示とあれば仕方あるまい。だが、彼奴の血と魂は私が貰い受ける」

「好きにするといい。私は勝利の栄光を戴こう」

 

 泰然と構えて王道の槍を振るう(バーサーク)・ランサー。

 その足回りで相手を掻き乱し、B・ランサーの進軍を補佐してみせるはB・セイバー。

 さながら移動要塞染みた二人のサーヴァントを前に、クランの猛犬は凄絶に笑った。

 

「ハッ……やれるもんならやってみな。

 ―――先にテメェらがくたばらなきゃの話だがな!」

 

 

 

 

 

「敵サーヴァント、来ます! マシュ・キリエライト、戦闘を開始します!

 マスター、指示をお願いします! ジャンヌさん、一緒に!」

「は、はい―――サーヴァント・ルーラーとしてマスター・藤丸立香、並びに常磐ソウゴに協力を要請します。私にもどうか指示を!」

 

 マシュが盾を前に構え、ジャンヌが旗を振り翳す。

 そんな彼女たちの前で悠然と歩みを進めるのは一人のB・サーヴァント。

 その衣装で外を歩くか、と言いたくなるほど扇情的にキめた女性が立ちはだかった。

 

 目元を覆う黒い仮面をしているが、しかし趣味の悪い嗜虐的な表情は余すことなく口元だけでも十分なほどに表現されている。挙句、彼女が手に持つ杖から延びる鎖に繋がれているのは、金属で出来た聖母の像。

 信仰のための偶像などではないのは、見れば誰もが理解するだろう。

 

 それこそは鉄の処女(アイアンメイデン)

 ―――彼女のライフワーク、処女の血を絞るための日用品なのだから。

 

「ふふ、運がいいわ。殿方は殿方同士で殺し合うようだし、こちらの聖女たちは全部私の獲物、ということでしょう? 一人余計な男もいるようだけど……まあ、よしとしましょう」

『そのサーヴァントの霊基を確認した! この……なんだ、これ、バーサーカー?

 いやアサシンのはず。どっちか、というわけじゃないぞこれ。まさか、どっちもか!?』

 

 B・アサシンは鎖を引きずると、それを当然のように思い切り振り抜いた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 咄嗟に盾でそれを防ぐマシュ。

 だがそれが余りにも予想外の鈍器だったからか。そして直接殴り合うような手合いには見えないにも関わらず、その膂力が想像を越えたものだったからか。

 盾のサーヴァントは衝撃を堪え切れず僅かに態勢を崩して、蹈鞴を踏んだ。

 

 弾かれて宙に浮いた聖母像が、再び力任せに引き寄せられて突っ込んでくる。

 それに盾をかち合わせ、再び弾け飛ぶマシュと聖母像。

 

「っ……!」

「あら、頑張るのね。ええ、ええ、それでこそです。目の前にあるのは新鮮で傷一つない瑞々しい果実。ならば刻み潰して血を嗜み、肉を捨てる。これぞ夜の貴族らしさと言える趣味。

 喜びなさいな、まずはあなたの血を絞り出してあげましょう」

 

 再びアイアンメイデンが宙を舞う。鉄の塊が余りにも簡単に空を行く。

 そんな中、ロマニからの報告が耳を叩いた。

 

『気を付けてくれ! 敵サーヴァントは恐らく『狂化』している! 理性を喪失させる代わりに、ステータスが1ランク上昇するという特性だ! 完全に理性を失っているわけではないみたいだけど、嬉々として破壊活動を行うようになるように理性の一部だけを意図的に崩壊させて、かつステータス上昇の恩恵をある程度受けられるようにしているんだ!』

「―――白ジャンヌはあのハンマーの鎖を狙って! マシュはそのために!」

「……っ、はい! 敵武装、()()()()()!」

 

 B・アサシンの腕が鎖を振るう。差し向けられる鉄の処女(アイアンメイデン)

 それを前にしながら、マシュが体に力を込めた。マスターの指示に応えるため、彼女の盾が攻撃的に迫りくる超重鈍器を迎え撃つ。

 大盾は迫りくる凶器を受け止めるためではなく、弾き飛ばすために横薙ぎの軌道で振るわれる。激突と同時に弾ける、鋼がぶつかり合う盛大な不協和音。

 盾の殴打を受けたB・アサシンの武装が、その衝撃で地面へと叩きつけられた。

 

「あら?」

「はぁっ―――!」

 

 聖女の反応は即座のもの。旗の穂先が弧を描き、杖と聖母像を結ぶ鎖を引き千切った。

 そのままの勢いでジャンヌはB・アサシンへと向けて疾駆する。

 間の抜けた様子で地面に転がった聖母像を見て首を傾げている敵サーヴァント。

 そんな隙だらけの女を撃破するべく走り―――

 

「ハンマーだなんて、そんなものと一緒にしないでくださいな。

 ―――ええ、確かにそれは……クルミの油を搾るように、処女の血を搾るためのものだけれど」

「っ、ジャンヌ! 後ろ!」

「――――!?」

 

 B・アサシンを目掛けて疾走を開始したジャンヌの前で、彼女の手にする杖の先端が輝き出す。その途端、ジャンヌの背後で薙ぎ倒されていた聖母像がひとりでに立ち上がっていた。聖母の胴体は大きく観音開きになり、内部に設けられた悍ましい針山を曝け出している。

 そして、死の抱擁でジャンヌを包むべく、尋常ではない速度での駆動を開始していた。

 

 驚愕によって反応の遅れたジャンヌが、鉄の扉に今にも包まれようとする―――その瞬間。

 

〈仮面ライダー! ジオウ!〉

 

 空を舞う、四文字の片仮名がアイアンメイデンを吹き飛ばした。

 

「――――何かしら、それ」

 

 地を滑る聖母像を吹き飛ばした文字が、飛んできた方向へと引き返す。

 そこに立つのは黒と銀で構成された時計を思わせるアーマーを纏った戦士。

 『ライダー』の四文字が顔へとはめ込まれ、彼の変身シークエンスは完成した。

 

〈ジカンギレード! ジュウ!〉

 

「俺も戦うから指示は立香に任せた!」

「わかった!」

 

 手にしたジュウで、B・アサシンを目掛けて発砲する。

 顔を顰めた彼女が杖を一振りすると空に黒い穴が開き、吹き飛ばされていた聖母像が戻ってくる。それを銃撃への盾としながら、その陰で彼女は顔を大きく歪ませた。

 

 

 

 

 

「あら、あれは知りませんでしたね。あれもデミ・サーヴァントのようなものかしら」

 

 それらの戦場を高見の見物しながら、黒ジャンヌはそう呟く。

 そして背後に侍る最後のサーヴァントへと視線を向けた。

 

「相手のマスターが戦える、というならば今は3対4。

 数の不利はむしろこちらが負ってしまったようです。だとすればこれは、あなたが宝具を使う展開でしょう? バーサーク・ライダー」

「―――ええ、そういうことになるのかしらね。では、私に祈れというのね? マスター」

 

 十字架の杖を手にしたB・ライダーは、眼下の修羅場を見ながら気のないように答えた。

 それを聞いた黒ジャンヌが鼻で笑う。

 

「まさか! だって私の口からそのような事が言えるはずがないでしょう? 相手はこの身より余程由緒正しき()()()()なんだもの、そんなこと恐れ多くて言えるわけないじゃない?

 ―――私はただ、竜を従える狂気の聖女がするべきことを、あなたから後学のために学ばせて頂くだけ。ええ、ですから期待はしますとも。

 だって、あなた以上に竜が似合う聖女なんて他にいないでしょう?」

「よく言うわね。ああ……けれど、従うしかないわけね。

 だってこの身は狂気に染まったもの。だったら、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 黒ジャンヌの言葉を受け、大きく表情を歪めたB・ライダー。

 しかし彼女はそこで溜息を噛み殺して、きつく目を瞑る。

 

「神が五日目に創りたもうたリヴァイアサン。

 ――その仔にして、数多の勇者を屠ってみせた狂猛の怪物。愛を知らぬ哀しき竜……」

 

 彼女の口上は呼びかけるように。今は自分と共にあるものを呼び寄せるために。

 自分は仕方ない。けれど、彼をそれに付き合わせる事に大きな罪悪感を抱きながら。

 

「ここに……星のように―――! “愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)”!!」

 

 そうして、告げられる宝具の名。

 己の戴く彼女とともに戦うため、彼は空を裂き、この戦場に流星の如く飛来する―――!

 

 

 

 

 

「一気に決める!」

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

 3対1という不利な状況に陥ったB・アサシンには、防戦一方以外の回答がなかった。本来は相手を食らい血を啜るアイアンメイデンも、銃撃の盾として運用されれば何もできない。

 攻撃には秀でていないマシュ、サーヴァントとして不完全な状態であるジャンヌ。彼女たちの火力の不足をジオウは完全に補って、今にもB・アサシンを撃破する寸前まで追い詰めていた。

 

 ジオウライドウォッチをジュウモードのジカンギレードに装着。

 彼女に銃口を向けて一気に決着をつけようとした―――その瞬間。

 

『ソウゴくん! 今すぐその場から逃げるんだ! とてつもない魔力の塊が、君を目掛けて空から落ちて―――!』

「え? ぐぁッ、――――!?」

 

 ロマニの声が終わる前に、ジオウの防御能力が全力で稼働する。天から落ちてきた回転する円盤状の何かが、隕石の如く落下してきてジオウを直撃していた。

 

 回転は止まらない。それどころか加速する。ガリガリとジオウを丸ごと削り節にでもしようかというような、途轍もない掘削音が内部まで響いてくる。ジオウの装甲が限界が迫っていると悲鳴を上げている。意識が消し飛びそうな衝撃もソウゴを襲ってくる。

 だが、このまま大人しく意識をトばされれば、その後どうなるかなど考えるまでもない。

 

「が、ぐ……! こ、んのぉッ――――!」

 

〈ジオウ! スレスレシューティング!〉

 

 ソウゴはそれを回転する円盤型のノコギリのような、自分に接触している敵だと判断する。まるで洗濯機の中のぶち込まれたような極限状況であっても、ジオウ頭部のクロックブレードAが現状の状態を収集し、オウシグナルによって正確な状況の割り出しを可能としたのだ。

 

 だからこそ、この衝撃の原因である円盤らしきものは()()()()()()()であり、その回転の力が一番弱い腹を撃ち抜く事こそが、この状況を打開できる唯一の可能性であると結論した。

 必死に伸ばした手の先、何とかトリガーを引くことで迸らせた銃撃。それが円盤に炸裂し、大きく軌道を変えさせて吹き飛ばした。

 

 解放されつつも同じように吹き飛ばされたジオウが、家屋の残骸に直撃して体を沈める。

 亀らしき生物もその突破力で多くの瓦礫を巻き込み削り飛ばし、その巨体を巻き上げた粉塵の中に沈めて、見えなくなってしまった。

 

「ぐっ、ぅ……! はぁっ、はぁっ……今の、なに……? でかい亀……?」

『―――こちらでも反応を確認した……! その反応は亀でもなければ、先程のワイバーンのような魔獣レベルの存在でもない……!

 正真正銘、神代にのみ生きた幻想の生命……! その頂点に立つ()()だ―――!!』

 

 ロマンの緊張に固まった声。それと同時に舞い上がった粉塵を吹き飛ばしながら、幻想種がその顔を見せた。

 生物とは思えぬ巨体。棘に覆われた堅牢な甲羅。太く強靭な六本の足。毒針のささくれ立つ長い尾。そして巨大な角が生えた頭。

 

 自然界にはあり得ないだろう大怪獣が、今このフランスの地に降り立ったのだ。

 

「やっぱでかい亀じゃん……!」

「グォオオオオオオオッ――――!!」

 

 姿を見たソウゴが、自己主張の強い甲羅を見て断定する。

 それに怒ったのか関係ないのか、超常生命たる竜種は戦場全てを竦ませるほどの咆哮を放った。

 

 

 

 

 

 細剣の軌跡は最小限に。その剣は確かに、槍の刺突を受け流すためだけに振るわれていると示す。ランサーであってさえもその守勢を突き崩すは容易ではない。

 だというのに、彼? 彼女? とにかくB・セイバーは刺突を防いだかと思えば体を引く。

 

 その背後から黒き槍が苛烈なる威力でもって突き出してくる。

 小さく舌打ち。体を捻り、その槍を横合いから蹴りつけることで横に逸らす。その瞬間、足が浮いた彼を目掛けてレイピアの刺突が殺到した。

 朱槍を繰り石突で地面を叩き体を跳ねさせ、その間合いから外れる。

 

 切り返された黒の槍が、今度は空中に投げ出されたランサーを狙い突き出される。せっかく宙で回転している体だ。そのままの回転を槍に乗せ、相手の槍を()()()()

 殴りつけた勢いのまま、弾き飛ばされるランサー。

 

 両の足と片手で着地し、距離を取った敵二人に視線を向ける。

 最初の印象に反して特にB・セイバーが厄介だ。B・ランサーは後付けの狂化と()()()()()()()()()。狂化の度合いが他の連中よりも高く、技量という点が大きく欠けている。

 ……とはいえ、突破できていない時点で強がりでしかないか、と自嘲する。

 

 ランサーの戦場のすぐ近くで、竜が咆哮を上げている。

 明らかにこの戦場の最強存在だ、これほどのものは流石に予想外のジョーカーだった。とにかくランサーはすぐにあちらに回らなければならない。

 だが当然、B・セイバーもB・ランサーも放置するわけにはいかない。

 

「―――これ以上のんびりもしてられねえな。行くぜ」

「ほう。宝具か」

 

 B・ランサーが彼の纏う魔力の奔流を見て息を呑む。

 

 朱槍に食わせた魔力が呪いを起動するための呼び水となり、魔槍はその真価を発揮する。強大な呪力。たとえどれほど鈍感なものであれ、これが死を招くものだと理解できない筈がない。

 だが、それを見たB・セイバーが前に出る。

 

「私が迎え撃とう。宝具には宝具―――この身が抱く王家の百合をもって」

「遊んでる暇はねえ、さっさと決めさせてもらう」

 

 ランサーの足が大地を踏み砕くほどに沈み―――

 瞬間。圧倒的な踏み込みの速度が、彼の姿が喪失したと錯覚させた。

 

「――――“刺し穿つ(ゲイ)

「――――“百合の花咲く豪華絢爛(フルール・ド・リス)”」

 

 待ち受けるB・セイバーの宝具。

 展開された宝具はB・セイバーの姿を覆うほどの百合の花弁となって顕現し、周囲を舞う。

 

 だがそれごと貫くつもりでランサーは更に加速する。

 相手の宝具で迎撃する事に怯えて、自分の宝具を引くことなぞできるものか。

 自分の宝具こそを真っ先に信じずして、何が英霊か―――!

 

死棘の槍(ボルク)”―――――!!」

 

 因果逆転の魔技が奔る。

 これが発動した以上、既に“相手の心臓を貫いた”という結果が確定している。ならば、今ここで放った槍の軌跡はB・セイバーの心臓を目掛ける以外にあり得ない。

 

 真紅の魔槍は過たず、舞い散る白百合の花弁に身を隠すB・セイバーを確実に捉えた―――

 

「ッ――――!」

 

 だと言うのに、何の感触も得られぬまま、彼の槍は()()()()。ランサーが撃ち込んだ刺突の衝撃で、白百合の花弁が周囲に撒き散らされた。

 けれどそこにはB・セイバーの姿は既にない。確実に捉えた、というのにそこに何もなかった。その事実に一瞬、ランサーの意識が奪われる。

 

 その間隙、見過ごすなどという甘さはない。

 

「――――捧げよその血、その命」

 

 黒きランサーは白百合に紛れながらか、既にこちらを射程に捉えていた。

 あのB・ランサーの速度はそれほどだったか、という疑問が沸く。

 まるでこちらがB・ランサーの位置取りを()()していたかのような不自然―――

 

「“血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)”――――!!」

 

 B・ランサーの胴体を突き破り、縦横無尽に(はらわた)―――否、“杭”が溢れ出してくる。彼の体内からだけではない。その宝具を発動した瞬間に、周辺の地面からも大小無数の杭がこの空間を埋め尽くすべく氾濫を始めていた。

 

 そしてその杭が目指すのは、槍を放ち硬直したランサーの血肉に他ならない。

 

 

 

 

 

「―――バーサーク・ライダーに感謝をしなくてはね。よくぞ邪魔な殿方を消してくれました、と。ええ、本当に……今までよくもやってくれた、と普段以上に力が入ること。

 とはいえ、あんな子供は知ったことではない。彼がやってくれた分は、あなたたちに血と悲鳴を捧げさせることで償って頂きましょう」

 

 銃撃の盾となっていた聖母像が始動する。

 血を吸う牙を腹の中に抱えたそれは、B・アサシンの怒りに応えるように小刻みに震えていた。

 彼女の総身に魔力が充足していく、それが宝具の起動の予兆であることに疑いはなく―――

 

「くっ……!」

「マシュ! 宝具での防御を―――!」

「了解しました! ジャンヌさん、下がってください!」

 

 マシュが前に出る。

 彼女が構えるその盾こそ、騎士王の聖剣さえも跳ね除けた人理の盾。

 

「全ては幻想の内……けれど少女はこの箱に。“幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)”―――!!」

「宝具展開――――! “疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)”―――!!」

 

 その場に光の盾が聳え立ち、その盾に少女を貪り食らう死の牢獄が激突した。

 大きく開いた聖母像の腹には、血に飢えた鋭い棘が不規則に並んでいる。

 それを突き立てるように突撃してきた鉄の聖母像はしかし、純粋な守護の意思こそが支える光の盾により進軍を完全に塞き止められた。

 

「今なら……!」

「白ジャンヌ!?」

 

 アイアンメイデンと光の盾の拮抗を見たジャンヌが、その衝突を飛び越えB・アサシンを討ちとるべく跳躍の姿勢に入っていた。

 止めようとする立香の声は、既に遅い。

 

 旗を武器とし跳びかかってくるジャンヌを見たB・アサシンの顔が愉悦に歪む。彼女は手にした鮮血の魔杖を振り上げると、自身の頭上へとスイングされた聖女の旗を易々と防御してみせた。

 

「っ……!?」

「ふふ、サーヴァントとしての意識なんてまともに持てていない。けれどサーヴァントとして動こうとする。サーヴァントとしての成果は求める。

 そんなことが上手くいく、なんてことがあるわけないでしょう? その点だけで言うのなら、あっちのデミ・サーヴァントの方がまだマシ、という話よ」

 

 B・アサシンの空いた手、その爪に血が滴る。指先を濡らす血が光を帯びた瞬間、彼女はそれをジャンヌに向けて振り放つ。

 放たれるのは赤黒い閃光となって奔る鮮血の波動、血の刃。ジャンヌはもろにそれの直撃を受けて、大きく吹き飛ばされて地面に転がった。

 

「くっ―――!? ッ……!」

「だって貴女、うちのマスターを見て、ほんの少しでも思ってしまったのでしょう?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ―――そんなのあるわけないでしょう? 成立した私は私以外の何者でもないし何者にもならない、なれない。ああ、頭が痛い。だって、そんなのおかしいでしょう? おかしいわ」

「―――っ、狂化……っ? ぐっ……!」

 

 狂気に侵され動きが止まる女。その隙にジャンヌが旗を支えに何とか立ち上がり―――その瞬間。仮面の下のB・アサシンの瞳がぐりんと蠢いて、ジャンヌの姿を捉えた。

 

「頭痛がする。頭が痛い。頭痛が止まらない。足りないからだわ―――少女の血が。美しいモノの血が。ああ、早く浴びないと。だってこれが、私の……」

「っ……! 敵宝具、軌道変更……!? ジャンヌさん!!」

 

 鉄の処女が大人しくなり、マシュの盾によって弾かれ―――その勢いのまま、今度はジャンヌに向けて疾走を開始した。

 未だ態勢を崩したままであるジャンヌの背後から、血を絞る吸血拷問具が迫る。

 

「っぁ、くっ……!」

 

 それを旗で迎撃しようとすれども、体が言う事を聞かない。

 しかしせめて迫るアイアンメイデンから目を逸らさずに待ち受けて――――

 

 そのアイアンメイデンが、横合いから硝子の暴れ馬に強襲された。

 盛大な激突音を響かせながら腹の開いた聖母像を横倒しにする硝子の馬。

 

「え……!?」

「ごきげんよう! そして、ごめんなさい? 優雅さにかける操縦でいきなり激突してしまったけれど、悪気があったわけではないの。ただ、わたしはこちらの白い方のジャンヌさんの味方をしたいと思って、身を乗り出してしまっただけなのですから!」

 

 硝子の馬に腰かけて声をかけてくるのは、赤い衣装に白百合の如き髪の女性。

 その女性は言い終わると同時に、はっと気づいた風に新たな言葉を続ける。

 

「ええ。悪気はないのだけれど、わたしが愛する国を焼くあなた方には、わたし、きっちりと敵意をもって接します。

 だって、それこそがわたしの―――この国の王妃としての、わたしの役割なのですから!」

 

 にこやかに竜の魔女との敵対と宣言する彼女の周囲に硝子の薔薇が咲き誇る。

 まるで彼女が立つ場所こそが花園であると謳うがごとく。

 混迷する戦場に、蝶よ花よと()()()()()()()新たなサーヴァントが舞い降りた。

 

 

 

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