Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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祝福されし騎士539

 

 

 

「―――ダビデ! モードレッドの方へ!

 ……アレキサンダーは騎士たちを抑えて!」

 

「……そうだね、それしかない」

 

 立香からの指示が飛ぶ。

 それを受け、アレキサンダーがブケファラスと共に疾走を開始する。

 途中まで同行するため、ダビデもブケファラスへと腰をかけた。

 

「っ、フィンはソウゴを!」

 

「ああ、心得た」

 

 オルガマリーと立香、ツクヨミ。

 彼女たちを守るマシュを残し、そうして全員が送りだされる。

 故に手が足りない。

 

 この状況に怯え、逃げ惑い、神に祈る。そんな千人近い難民。

 彼らを誘導できるだけの指揮能力を持つサーヴァントは残らない。

 

 ブケファラスの疾走能力は全ての戦場を追い越し、粛清騎士軍団の中へと即座に突っ込んでいった。一気に乱される整列した騎士の群れ。英霊にまで至る巨大馬に踏みつけられた鎧は拉げ、粉砕される。アレキサンダーがあの騎士たちに遅れを取るようなことはないだろう。

 だがそれでも彼ひとりで抑えきれる数ではない。

 

 抜けてきた騎士、ランスロットが通した騎士たちが難民へと向かっていく。

 

「前に出よう!」

 

「出るにしてもあんたは後ろよ……!」

 

 走り出す立香を他の面々が追い抜き、そのまま戦場に突入する。

 動き出す彼女らの前で、騎士が難民の直前まで達した。

 振り上げられる粛清の剣。それを―――

 

「はぁッ―――!」

 

 剣を振り上げた粛清騎士の足を、ツクヨミがスライディングで刈り取った。

 腕を振り上げる勢いのまま後ろにひっくり変える騎士。

 同時に赤い光弾がその鎧を打ち据えた。

 その威力で、騎士の巨体は倒れながら背後へと吹き飛ばされていく。

 

「逃げて! 早く逃げて!!」

 

 先頭の騎士を崩したツクヨミが背後の難民たちに叫ぶ。

 彼らは目の前の惨状に着いていけず、反応は鈍い。

 しかし、自身らに振り上げられる凶器に怯え何とか逃げ始めた。

 

 難民たちに声をかけていたツクヨミに迫る後続の騎士たち。

 それらの前に立ち塞がるマシュの盾。

 

 振り下ろされる剣、突き出される槍、放たれる矢。

 あらゆる武装を前に、マシュは強く歯を食い縛った。

 

 奔る剣閃を正面から盾で殴りつける。軋むのは直剣。

 力押しで押し返された騎士が足を止めた。

 打ち破る事を即座に諦め、彼女の盾を制するための押し合いに移行する。

 

「―――――!」

 

 そうして力比べの体勢に変わった状況。

 その隙を突く為に、槍持ちの騎士が横合いに回り込もうと動き出す。

 

「下から行くわよ、マシュ!」

 

「―――了解!」

 

 背中に届くオルガマリーからの声。

 地面を跳ねるルーンストーンが彼女の股下を潜り騎士の足元まで転がり―――炸裂。

 直撃したところで騎士の鎧を壊すことは叶わない。

 だが踏みしめていた地面が突然崩れたことで、その騎士は体勢を僅かに崩した。

 

 盾を振り上げながら足を振るう。

 片足を置く地面を失い、体勢を崩した騎士に残されたもう片方の足を蹴り抜くため。

 互いのグリーブが激突して、ぐらりと。

 蹴り飛ばされた剣騎士の体が地面から離れ、大きく浮いた。

 

「たぁあああああ―――ッ!!」

 

 浮いた騎士の体を盾の縁が殴る。

 鎧を歪めながら吹き飛ばされた粛清騎士が、そのまま槍の騎士に激突した。

 絡み合い、纏めて転倒する二人の騎士。

 

「正面!」

 

 マスターからの警告に、視線を向ける。

 既に弓の騎士から放たれた矢は目前まで迫り、盾を振り上げなおす猶予はない。

 全力で振り抜き、地面に突き刺さった盾から手を離した。

 

 拳を握り、腕を翳す。

 集中するのは一直線に飛来する鏃の先端。

 それがガントレットの曲線に乗るように、確かな位置で受け止める。

 

 それはガントレットに中りながら、しかしそのまま軌道を逸らされていく。

 彼女の後ろにはけして届かない、届かせない。

 マシュの手が再び盾に伸び、確りとその武装を掴み取った。

 

 確認するのは、転倒している二人の騎士。

 痛みも何も感じていない様子のそれらはすぐさま復帰しようとしている。

 完全に鎧を破壊しなければ、あれらは止まらない。

 

「――――跳びます!」

 

 大地を蹴り付けるマシュの踏み込み。

 即座に、ツクヨミがファイズフォンXを弓騎士に向けて連続して発砲した。

 直撃したところでダメージは薄い。が、それでも空に舞うマシュへ矢を放てなければ十分。

 

 マシュは空中で盾を振り上げ、回転しながら落下を開始した。

 目掛ける先は当然、立ち上がらんする二体の粛清騎士の下。

 彼女は盾の縁を刃に変えて、流星の如く墜落する。

 

「ハァアア――――ッ!!」

 

 迎撃に振り上げられる剣、槍。

 マシュの盾はそれらも巻き込みながら、二つの鎧へ全力で叩き付けられた。

 二つ揃って胴体の半ばから爆砕され、千切れ飛ぶ白銀の鎧。。

 そのまま鎧は破片が撒き散らしつつ、魔力へと還っていく。

 

 着地の直後に体勢を立て直し、更に続いてこちらに向かってくる騎士に向き直る。

 

「マスター! ここで食い止めます、その間に―――!?」

 

 そう叫ぶマシュ。

 その直後、モードレッドが向かった戦場で雷が盛大に爆裂した。

 

 

 

 

「ははは――――! そりゃそうなるだろうさ!」

 

 撃ち合いを互角で終わらせ、どちらにも被害を齎さず血色の光は消え去った。

 その光景を見て、円卓のモードレッドがからからと笑う。

 そうしながらも彼女の手の中にあるクラレントには再び雷と光が噴き出す。

 

 霊基を軋ませながら、全力の魔力放出を呼吸の如く当然のように。

 カルデアのモードレッドが顔を歪め、その様子を睨み付けた。

 

「テメェ……!」

 

「同じ宝具を、同じ奴が使ってるんだ。だったら、先に撃ち損なった奴が死ぬだろうよ―――!」

 

 先の宝具衝突の残光が消える事さえ待たず、彼女は再び宝具を振り上げた。

 迸る血色の極光。王への叛逆を示す、憎悪の刃。

 

 同じく振り上げ剣を構えたところで、カルデアのモードレッドには魔力が足りない。

 それでもなけなしの魔力を注ぎ、王剣の輝きを呼び起こす。

 

「ガウェインのためのカラクリと同じ……! 何か授かってるってわけかよ……!」

 

 カルデアのモードレッドの視線が僅かに揺れ、空を見る。

 夜にも関わらず太陽を空に上げた異常。

 彼女の様子に円卓のモードレッドが口の端を吊り上げ、凶悪に笑う。

 

「ああ、オレが獅子王から授かった祝福(ギフト)は“暴走”。

 暴れて、暴れて、暴れ尽くしてそしておっ死ぬ。テメェらしいだろ?」

 

「―――かもなぁ……ッ!!」

 

 死力を絞り、注ぎ込んだ魔力。

 放出する雷ともそれを剣に纏わせて、二人のモードレッドは再び宝具を振るった。

 

「“我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)”―――――ッ!!」

 

 二度目の極光。二度目の衝突。

 だが拮抗からの相殺に至った一度目とはまるで違い、一瞬で形勢が傾く。

 カルデア側が一気に押し込まれ、そちらのモードレッドは歯を食い縛った。

 

「く、そっ……! ―――?」

 

 そうして口惜しげに顔を歪めた彼女の中に、魔力が雪崩れ込んでくる。

 原因など一つしかありえない。こんなことが可能な方法は限られているのだから。

 小さく笑い、強く強く地面を踏み締め、彼女は咆哮を上げた。

 

「オォオオオオオオッ―――――!!!」

 

「――――ッ!」

 

 形勢不利から一気に互角まで引き戻す。

 令呪の後押しを得たモードレッドの宝具は、祝福を得たモードレッドに匹敵する、

 弾ける光と雷の渦が、再びの衝突の中で同じように吹き飛んだ。

 

「……ああ、令呪か。まあマスターがいりゃそういうこともあるわな。

 で、今のと同じことが出来るのはあと二回か? なら、後三発で終わりだな」

 

 宝具激突の余波の爆風を浴びながら、円卓の騎士はそう言って再度剣を振り上げた。

 霊核の軋みなど何ともないように、彼女は凄絶に笑う。

 

 カルデアの騎士は小さく舌打ちする。

 残念ながら彼女のマスターの令呪はあと一画だ。

 仮に撃ち合いを続行した場合、二発でこちらが押し負ける。

 

「―――もう撃たねえよ、必要ねえ」

 

 だから彼女は走り出した。クラレントを構え、敵を斬り捨てるべく。

 呆れるように鼻を鳴らした円卓の騎士が光と雷を噴き上げる。

 迸る熱量は敵が接近する前に薙ぎ払うに十分な威力を持っていて―――

 

「“我が麗しき父への(クラレント・ブラッド)……ッ!」

 

 振り下ろせば終わりだ、という状況への確信。

 それを遥かに上回る死の予感に、彼女の直感が全力で警鐘を鳴らしていた。

 勘だ。だがそれは、このまま行けば確実に死ぬという確信。

 その予感に全力で従って、モードレッドは体を捻っていた。

 

 ガン、と。頭部を襲う衝撃。

 十分の一秒反応が遅れていれば、そのまま意識昏倒まで持っていかれただろう攻撃。

 それは、カルデアのモードレッドの背後から行われた投石の結果だった。

 

「“五つの石(ハメシュ・アヴァニム)”。

 ……うーん、直感と幸運による回避じゃどうにも詰め切れないね?」

 

 揺れる投石器は石を投げたという証左。

 モードレッドの援護に訪れたダビデは、少し困ったようにそう呟いた。

 

「十分!!」

 

 雷が爆ぜる。

 ぐらりと揺れた円卓の騎士に向け、クラレントの刃が奔る。

 こめかみから滂沱と血を流しながら、しかし円卓の騎士も復帰した。

 

「―――ッ、舐めんじゃねえッ!!」

 

 雷光が瀑布となって炸裂した。

 体勢の無理を、魔力放出による力押しで拮抗まで持ち直す。

 その瞬間、彼女の足元で警告のための石弾が弾け飛んだ。

 

 再び直感の警告。死の予感。

 円卓のモードレッドが強く歯を食い縛り、決断する。

 

 ダビデの放つ投石が殺到し、それをモードレッドは角によって迎撃した。

 急所への必中と昏倒の確定を、運と勘だけで頭への必中までに落とし込む。

 頭への必中までその影響を抑え込めるならば……

 

「くそったれ……!」

 

 “不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)”。

 宝具でもある鎧の兜を展開し、顔を隠したモードレッドが毒づく。

 その兜に生えている角で、彼女はダビデの投石を迎撃していた。

 本来意識を刈り取る一撃を、頭で受け止める事で凌駕する。

 

「ッ、巨人狩りの宝具なんぞがオレに効くか―――!

 巨人なんぞアーサー王も狩ったもんだ、そんなもんでオレが狩れると思うなッ!!」

 

 雷鳴が奔り、投石を続けるダビデに差し向けられる。

 困ったような顔をしながら回避に映る彼。

 

「そこまで考えて石を投げてるわけじゃないんだけどね」

 

 意識を他所に割かざるを得なくなかった円卓の騎士。

 そんな彼女に対して、カルデアの騎士は更に踏み込んだ。

 互いのクラレントが火花を散らし、睨み合う視線が交差する。

 

「頭守りたきゃそうするしかねえよな……!

 んで、それ被ってりゃクラレントは使えねえ……んじゃあ、続けるとしようぜ!

 どっちかが死ぬまでよ―――!!」

 

「……上等ッ――――!!」

 

 カルデアのモードレッドもまた兜を展開する。

 兜に覆われた頭部を叩きつけ合って、彼女たちは剣閃を加速させた。

 

 

 

 

「―――なるほど」

 

 立ち上る赤雷が小さくなったのを見て、ガウェインが片目を瞑る。

 敵にもモードレッドがいる以上、抑えられるのはおかしくない。

 だが形勢不利に傾けられるほどにやるのは驚きだ。

 

 彼らもここに至るまで、幾度も死線を超えてきたのだと。

 その立ち回りから感じる、彼らの確かな経験を理解する。

 

 他の戦場に意識を割きながら、しかし手が緩むことはない。

 確実にジオウを粉砕せんと、太陽の剣閃は迸る。

 

〈フィニッシュタイム! ダブル! ギリギリスラッシュ!〉

 

 アーマーを赤色と鋼に変えて、ジオウは剣を構え直した。

 鉄壁の硬度を得たジカンギレードがガウェインの剣と鍔競り合う。

 撒き散らされる陽光に身を焼かれながら、しかし何とか踏ん張ってみせる。

 

「こ、んのッ……!」

 

 全力で踏み止まるジオウに対し、ガウェインにはまだ一歩余裕が残る。

 そのまま押し込むだけで潰せそうな力の差。

 

 ―――太陽の騎士、ガウェイン。

 日中、日輪の下において彼は能力を三倍に引き上げる。

 ただでさえ特級の英霊である彼が、更に三倍の能力を得ているのだ。

 既に時刻は夜中。日中の筈がないというのに。

 

 回り込んでくる水流に意識を向け、ガウェインが回避に移った。

 ジオウを力任せに吹き飛ばし、背後から襲う水を蒸発させる。

 

「日中限定で三倍。なら戦場を常に日中にすればいい、という考えか。

 中々どうして分かりやすい。故に対処のしようがないね、これは」

 

 苦笑しながらぼやきつつ、フィンは常にガウェインの後ろを取りに行く。

 正面から突っ込むジオウに踏み込み切れないよう、常にその首を狙い続ける。

 

「―――私が獅子王より授かりし祝福(ギフト)は“不夜”。

 我が戦場において太陽が沈む事はなく、故に私が敗北することはない」

 

 つかず離れず、意識を逸らし踏み込ませないことに終始するフィン。

 そちらに向かい斬り捨てようとすれば、体勢を立て直したジオウが鋼の刃を振るう。

 太陽の剣でそれと何度となく剣を交わしつつ、ガウェインが眉を顰めた。

 

 時間稼ぎの動き。

 難民を逃がしたいカルデアにとっては、そうおかしい動きではないだろう。

 ただフィンに多少時間を与えても、彼は宝具を解放する様子を見せない。

 痛打を与えられる可能性すら無視し、純粋に時間稼ぎに終始しているように見える。

 もっとも、仮に宝具を解放されたところで纏めて斬り捨ててみせるが。

 

「……と、なると」

 

 彼はモードレッドとランスロットの戦場を意識する。

 未だ聖都に収められるべき民は迎え入れられていない。

 よって、聖剣の発動は論外。

 モードレッドはギフトによる恩恵を潰され、泥仕合の様相。

 ランスロットは勝利の女王の守りに対抗している。

 

 ―――ランスロットが動くタイミングでないとする以上、現状のまま続行だ。

 一切の油断も躊躇もしない。確実に、崩すべき時に崩し切る。

 そのタイミングを待つように、ガウェインが大きく踏み込んだ。

 

 太陽の熱と共に振るわれる聖剣。

 鉄の頑強さをもって盾となる剣と、水を撒き散らす槍。

 二つに凌がれ、攻めあぐねるようにガウェインは眉間に皺を作り出した。

 

 

 

 

 モードレッドとの戦場が最も勝算がある、と判断した。

 ガウェインはジオウとフィン、二人がかりで足止めにしかならない。

 ランスロットはブーディカ、清姫、オルタ、三人がかりでさえ押されている。

 だからこそ。円卓のモードレッドを早期撃破することで、こちらのモードレッドとダビデをどちらかに回すことを当然のように考える。

 

 アレキサンダーが掻き乱し、それでも抜けてきた粛清騎士はマシュが止める。

 それだって長く保つ話ではないのだ、状況の改善は早急に求められた。

 

 モードレッド同士の一騎打ちなら互角。

 ダビデの援護が入れば、カルデアのモードレッド有利。

 その不利を、溢れる魔力で互角まで引き戻すのが、円卓のモードレッド。

 

 ならばもう一つその戦場のバランスを崩す援護を行えるならば、そこに勝機がある。

 だが同時に、問題はそこだ。

 この戦場で最も不意打ちが通用しない相手……それがモードレッド。

 ダビデの援護すらも何とか突破し、そのまま自身の同一存在と戦闘しているほどの相手だ。

 

 だから何か、それほどの行動を可能とする彼女の直感を上回る何かを―――

 

「―――! フォウ!」

 

「フォウ? ―――フォ、キャーゥ!」

 

 立香が自分の肩にいたフォウを投げ放つ。

 そうして投げられた彼が()()()()()()()()()を把握し、自分の仕事を理解した。

 着地して、そのまま地面を走り出すフォウ。

 

 その直後、彼女は叫んだ。

 

「ダビデ、モードレッド! これで決めて!!」

 

 振り被り、続けて投げる更なる物体。

 それは空中で開くように変形し、鳥の姿を模したかたちへと変わっていた。

 

〈ブリザードホーク! 凍っタカ! タカ!〉

 

 冷気を纏い飛来する飛行物体。

 それを差し向けられた円卓のモードレッドが兜の下で目を細める。

 直感は変わらず警鐘を鳴らし続けていた。

 が、それはダビデがこちらに構い続けている以上、消しようがないもののはず。

 

「チィッ……!」

 

 ダビデに脅威を感じても、あの小さい鳥のようなものには脅威は感じない。

 敵のマスターの一人がそう宣言したからと言って、必要以上に意識を割く理由はない。

 そうして気を散らすことが目的の可能性もあるのだから。

 

 カルデアのモードレッドが踏み込み、剣を振るう。

 割り振る意識はそれに6、ダビデに3、新しい飛んでくるのに1。

 

 クラレント同士を打ち合わせ、僅かに押し込まれる分は魔力放出の勢いで押し返す。

 視界の端でダビデが再び投擲の姿勢に入った。

 警告代わりに確定で外れる投石が彼女の足元に幾つか刺さり―――

 

 ―――視界の端でちょろちょろ飛ぶだけの鳥が鬱陶しい。

 だが切り払うだけの余裕はない。

 苛立ちながらもう一人の自分と切り結び、直後に来るだろうダビデの攻撃に意識を向ける。

 

「モードレッド!」

 

 その名を呼び、ダビデが必中の一撃を投げ放つ。

 過たず中るだろう軌道を描き、魔弾はモードレッドの頭部へと殺到した。

 しかし彼女はそれを、斬撃を交わしながら首の動きだけで迎撃する。

 直感、幸運。その相乗効果により、兜の角で投石を打ち払う。

 

「――――あ?」

 

 ガシ、と。兜の上で音がする。

 ダビデが投げ放ったものを、彼女は確かに兜の角で迎撃した。

 そうして……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

〈スイカアームズ! コダマ!〉

 

 円卓のモードレッドの兜の上、角にしがみついたコダマスイカが動き出す。

 心底から溢れてくる直感による警鐘が最大限に膨れ上がった。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 フォウが背に乗せ運んだコダマスイカ。

 それを受け取ったダビデが、ウォッチを石の代わりに投げた。その結果。

 ダビデの投擲それそのものが致命傷になりえるものであったが故、見過ごした可能性。

 

「ッ……!?」

 

 投げられるものに細工があるからこその直感の警告だったという事実。

 

〈スイカボーリング!〉

 

 コダマスイカが球体になり、兜の上を転がった。

 速度も威力も大したことのない顔面への体当たり。

 しかし赤いスイカの果汁を撒き散らしながらのそれは、目晦ましには十分だ。

 

 風を焼く雷電を纏わせて、カルデアのモードレッドがクラレントを投げ放った。

 片腕で剣を乱雑にスイング、飛来するクラレントに叩き付けて打ち払う。

 更に全力で魔力を放出。コダマスイカごと周囲のものを赤雷で薙ぎ払ってみせる。

 

「こんな小細工で――――!」

 

 そう叫ぶ彼女の顔の先。

 吹き飛ばされたコダマスイカに、空中でタカウォッチロイドが激突した。

 衝突の勢いで吹き飛ばされ、再びモードレッドに向かってくる球体。

 

〈コダマビックバン!〉

 

 それが空中で実際のスイカサイズのエネルギーボールと化し、兜の顔面に激突した。

 直撃すると同時に砕け散り、果肉と果汁を撒き散らすエネルギー体。

 

「ガッ……!?」

 

 兜の上からとはいえ、それなり以上の衝撃。()()()()()()()()()()

 それはつまり、

 

「オォオオオオオオッ――――!!」

 

 雷光一閃。カルデアのモードレッドが、彼女の殺す瞬間に他ならない。

 魔力を赤雷に変え、大気を焼き切りながら王剣が振り抜かれる。

 狙うは当然、円卓のモードレッドの頸。

 次の瞬間には、致命的な隙を晒した者が息絶えるというその刹那。

 

 勝者となるはずだったカルデアのモードレッドが兜の下で目を見開いた。

 自然と視線が横に向かう。その遥か先……

 

 ブーディカたちに粛清騎士をけしかけて、代わりに弓を持ちこちらを見る―――

 湖の騎士、ランスロットがいた。

 

 

 

 

 後ろに残していた騎士四人を同時に動かし、ブーディカたちに差し向ける。

 残していた一人の武装、弓を受け取ったランスロットが見るのはただ一人。

 離れた戦場で戦闘をしているモードレッド。

 

 モードレッドの戦場がカルデア側の突破口ならば、こちらもそれに注視するのは当然だ。

 ガウェイン、ランスロットとの戦場では彼らは無理をしない。戦闘を長引かせるように守勢に徹する。先にモードレッドを攻略し、その上での逆転を狙うからだ。

 

 ―――逆に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そうしなければ突破口を開くことができないからだ。

 なら話は簡単だ。ガウェインとランスロットは守勢に付き合い、モードレッドの戦場で無理に決めようとしたところを横から崩せばいい。

 

 己の腕で掴み、疑似宝具とした弓を放つ。

 その危機感を察知し、カルデアのモードレッドがランスロットの方を見る。

 だが既に遅い。宝具化した矢は既に放たれ、彼女の肘へと突き立っていた。

 

 ―――疑似宝具如きでモードレッドの鎧を貫通させるのは不可能だ。

 故に鎧に守られていない関節の撃ち抜く程度が限度。

 こちらのモードレッドとの勝負の中で兜を展開していなければ、頭を撃ち抜けたのだが。

 

「こん、のォッ――――!!」

 

 オルタが騎士を旗で殴り飛ばすと同時、剣を地面に突き刺した。

 粛清騎士の間を抜いて、地面から黒い槍が無数に突き立ち向かってくる。

 

 ランスロットは弓を背後に投げ捨て、粛清騎士に返す。

 そのまま無手になった彼は、地面から突き出してくる呪いの炎の槍を掴み取ってみせた。

 

「なっ……!」

 

 驚愕するオルタの前、彼はそれさえも己の宝具として染め上げた。

 

「―――私が獅子王陛下より授かった祝福(ギフト)……属性を“凄烈”。

 如何なる呪詛も、我が身を侵すことは叶わない」

 

 ランスロットという肉体への負の干渉、その全てを破却する守護―――“凄烈”。

 ジャンヌ・オルタの放つ呪詛の炎の一切を無効とし、彼は炎の槍を我が物とする。

 けして汚せない湖は掴み取った呪いの槍を構え直す。

 そうして、即座にオルタへと向けて投げ放った。

 

「オルタ!」

 

 剣から放つ光弾と盾でそれを撃墜するブーディカ。

 彼女がそれで体勢を崩したのを見て殺到する粛清騎士たち。

 白馬が嘶き、その鎧に対して自分が牽く戦車を鈍器の如く叩き付ける。

 

 一緒に振り回された清姫が戦車にしがみつきながら口惜しげに表情を歪めた。

 

「不味いですね……あちらも……!」

 

「―――今までの非礼を詫びよう。

 この戦場以外に意識を向け、弓を扱うために本来の得物を封印していたことを」

 

 ランスロットが腰に下げていた剣の柄に手をかける。

 すらりと何の抵抗もなく引き抜かれる彼の鎧と同じ色の剣。

 その剣は別の戦場でガウェインが振るっているそれに何ら劣るものでなく―――

 

「その銘を“無毀なる湖光(アロンダイト)”。いざ、改めてお相手を願おう」

 

「―――こちらも……!」

 

 先程までとは桁違いの気迫でもって、ランスロットが始動する。

 既に彼らの戦場に憂いはない。

 彼らは、ただ聖都を乱した獅子王の治世への叛逆者を処断する騎士なのだから。

 

 

 

 

 腕に矢を受け、もんどりうってモードレッドが地面に落ちる。

 致命傷には程遠い傷。だが、全く性能が同じ相手にこの傷は致命傷だった。

 舌打ちしながら起き上がろうとする彼女に、円卓の騎士は剣を振るう。

 

「ガラじゃないんだけどねッ……!」

 

 その前にダビデが立ち塞がり、杖でクラレントを受け止める。

 乱雑に振り抜かれた刃は彼の杖を断ち切ることはなかった。上手く受け流したダビデは背中でモードレッドを巻き込んで、後ろに吹き飛ばされて距離を取る。

 

 それ以外に斬り捨てられない方法がなかった。

 だが距離を開けるという行為は結局の所、致命的な失策だ。

 

 円卓のモードレッドが兜を開く。

 露わになった表情は、今の状況への大きな不満で強く歪んでいた。

 霊核を軋ませながら、彼女は魔力を解放する。

 

「くそっ……!」

 

「チッ……! よりにもよってランスロットに助けられたかよ……!

 この不快感、テメェらで晴らさせてもらうぜ――――!!」

 

 “暴走”のギフトが彼女の魔力を臨界させる。

 注がれた魔力でクラレントが展開、血色の刃が形成され極光となって立ち昇った。

 ダビデが頭を狙うのも、モードレッドが相殺を狙うのも、間に合わない。

 

「“我が麗しき(クラレント)……!?」

 

 だからこそ彼女が宝具の解放を中断したのは、突然の事態に対応したからに他ならない。

 今まで何かがあると思ってもいなかった難民の中から、突然飛び出した何者か。

 マントを羽織り、フードを目深に被った誰かが、彼女に向かって一直線に疾走していた。

 

「まだ仲間が居やがっ……! は―――?」

 

 疾走するその者の被っていたフードが風で外れる。

 フードに隠れていた白い髪を靡かせて走るその姿を見間違うはずがない。

 モードレッドの表情が歪む。“暴走”で軋む霊核が更に強く軋む。

 

「なんッ、で……! テメェが今更出てくるんだ……ッ!

 今更、ノコノコと……ッ! 獅子王(ちちうえ)の許に!! ベディヴィエェエエエルッ!!!」

 

 鎧のような右腕―――義手で握った剣が奔る。

 宝具を解放することも忘れ、モードレッドがクラレントを振り下ろす。

 王剣と直剣が激突する。

 

「オレたちの中で唯一! お前ひとりだけが得られた瞬間を!! 踏み躙ったお前がッ!!!」

 

 形勢は一瞬でモードレッドに傾いた。

 べディヴィエールと呼ばれた騎士はいとも簡単に押し込まれながら、それでもきつく表情を引き締めてモードレッドを睨み返す。

 

「―――そう、思われるのが当然でしょう。ですが……!

 それでも……! 私は、その使命を……今度こそ果たすためにここへ来たのです―――!」

 

「させねえよ、させるわけねえだろ―――!?

 どの面下げてぬかしてんだ、テメェはァ―――――ッ!!!」

 

 赤雷が爆発する。

 怒りの全てを乗せたモードレッドの咆哮が戦場に轟く。

 

 ―――そうして混迷していく戦場の中。

 聖都の中心、キャメロットから光の柱が立ち昇った―――

 

 

 




 
タカウォッチロイドくんってこの性能、もしや体当たり以外に能が無いのでは…?
 
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