Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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聖都に送り込まれた男1273

 

 

 

「よーし、まあこんだけ離せば大丈夫だろ!」

 

 難民たちの最後方につけているブーディカの戦車の上。

 アーラシュと呼ばれた男は、からからと笑いながら手の中から弓を消した。

 そのままひょいとそこから飛び降りる。

 

「悪いな、もう戦車もしまってくれていいぞ」

 

「そうかい? なら、そうさせてもらおうかな」

 

 一息吐きながらブーディカが白馬を撫でる。

 数秒そうしてから、彼女は戦車を維持する魔力を打ち切った。

 維持していた動力を失った彼女の宝具が光となって消えていく。

 

「お疲れ様、ブーディカ」

 

 そう言って声をかける立香の背に、アーラシュが問いかける。

 

「それでどうする? 移動はまだまだ時間がかかる。

 俺たちとの情報交換でもいいが……最初にそっちが必要か?」

 

 そう口にしたアーラシュがちらりと後方を見た。

 視線の先にいるのは難しい顔をした騎士、円卓の騎士べディヴィエール。

 立香もまた彼を見て、次いでオルガマリーに目を向ける。

 小さく頷き、肯定の意思を見せる彼女。

 

「……はい、よろしければ私も。お話をさせて頂きたいと思います」

 

 べディヴィエールが難しい顔を崩さぬまま同意を示した。

 彼の返答を受け、ツクヨミが視線を前に飛ばす。

 

「だったらモードレッドも呼び戻すべきかしら」

 

 彼の出自は円卓の騎士の一員。だとすれば、モードレッドと同僚。

 いま彼女はライドストライカーで難民の先頭を護衛している。

 縦に伸びた難民の行列を護衛するには、サーヴァントを分割して配置するべきとの判断だ。

 

 更にアレキサンダー、ダビデ、オルタ、フィン。

 そしてモードレッドたちに加勢した女性の山の翁。

 彼らはある程度の間隔で行列の中間に配置されている。

 

「ブーディカ、ごめん。モードレッドの代わりに先頭をお願いできる?」

 

「もちろん。任せてくれていいよ」

 

 立香の指示を受けたブーディカが走り出す。

 縦に伸びたと言えど千人ほど、サーヴァントの能力なら追い越すのはすぐだろう。

 

 そうしてモードレッドがこちらに戻ってくるまでの時間。

 ソウゴが難しい顔をしているのを見て、マシュが声をかけた。

 

「どうかしましたか、ソウゴさん。……あれ、そういえば白い方の……」

 

 状況が混沌としていたが故に気にかける暇がなかった。

 が、ふと思い出すのは先の戦場でジオウと共闘した白ウォズの姿。

 前回、前々回の特異点ではむしろ敵対していた相手だ。

 なのに突然味方のような動きをしていたのは、一体どういうことだろうか。

 

「白ウォズはまたどっか行っちゃった。

 そんなことより決めなきゃいけない事があるんだけど……」

 

 珍しく眉間に皺を寄せているソウゴを見て、マシュはパチクリと目を瞬かせた。

 一切行動指針の読めない白ウォズよりも重要なこと。

 それが一体何なのか思いつかず、マシュは小さく首を傾げた。

 

 ―――そんな彼の態度に特に何の反応も示さず、オルガマリーが難民の列の先頭を指差す。

 

「赤」

 

 それを聞いた立香が聖都の方を指差した。

 

「白かな?」

 

 突然、別々の方向を指差しながら色を口にする二人。

 何の話かと、マシュは視線を所長とマスターの間で行き来させる。

 

「決定ね。こっちのは赤モードレッド、あっちは白モードレッドよ」

 

 溜め息混じり。どうせこんな話だろう? という視線が送られる。

 ソウゴはむむむ、と悩みを一発で当てられた事に何とも言えない表情を浮かべる。

 なるほど、と。それを聞いたマシュも、また何とも言えない顔をした。

 

「ははは、なるほど。確かに二人いれば呼び分けも必要か。

 いちいちどっちの勢力のか、なんて言ってられないのは確かだもんな」

 

「もう少し凝ってもいいと思いますけれど……」

 

 笑うアーラシュに扇で口元を覆いながらそう呟く清姫。

 そうしながら彼女は、べディヴィエールの方に微かに視線を向けた。

 聖都の円卓の陣容が瓦解するほどの衝撃。

 あれは真実、彼らがあの時感じていたことのように思う。

 

 ―――だとしたら、たった一騎のサーヴァントに何が……?

 

 そんな事に思考を回していた清姫の前。

 同じように色分けで分別された人間の話になる。

 

「それで? 白い方のウォズは何か言ってたの?」

 

「何も? いつの間にか消えてたけど」

 

「黒い方も出てこないし、何なのかしらねあいつら……」

 

 考えたところで大した答えなど出てこないだろう事。

 まあそのうちどっかから黒い方も生えてくるだろう、という諦観。

 それに溜め息を吐きながら、もう一つの事実に思考を向ける。

 

 聖槍―――恐らく獅子王の宝具。

 その解放の結果、聖都から吹き飛ばされてきて消滅した存在。

 あの存在こそが恐らく仮面ライダー鎧武だろう。

 

「仮面ライダー鎧武は消滅……けど何かを残して、円卓の騎士に回収されていたようね。

 聖都内でどういう状況だったのかは分からないけど」

 

 ちらりとソウゴに視線を向ける。

 仮面ライダーの力の回収、継承のために動くはずの黒ウォズも一切反応がない。

 ということは、仮面ライダー鎧武の消失は問題にはならないということか。

 

 ―――いや、今までの仮面ライダーも消滅していたところを常磐ソウゴがサルベージしていたのだ。本人が消滅していても、彼が力を手にすることには関係ないだけかもしれない。

 

「ああ……紘汰は今回、真っ先に獅子王を抑えに出ていった。

 奴らが聖罰と呼ぶものを阻止するためにな」

 

 オルガマリーの疑問に答えを返したのは、アーラシュだった。

 紘汰、という名前を口にした彼に対し、立香が問いかける。

 

「知り合いなの?」

 

「ん? ああ、集落にがっつり食料を届けてもらってたからな。

 あいつは獅子王相手にこの状況になるのも半分わかってたみたいだが……」

 

 頭を掻きながら軽く空を見上げる彼。

 その言い方に対して、ソウゴが重ねて問いかけた。

 

「半分わかってた、って。自分が負けることを?」

 

「あー、いや。うーん……何と言ったらいいかな。わかってたけど、わかってなかった……か?

 誰かに何がどうなる、って前もって教えてもらってた感じか。

 教えてもらった通りにはなってるけど、何でそうなるかは分かってなかった、みたいな」

 

 アーラシュからしても言葉にし辛いのか。

 彼の煮え切らない鎧武の話をしている最中、ちょうどモードレッドがやってきた。

 

 彼女は到着するや否や、とりあえずべディヴィエールに蹴りかかる。

 何となくそうくると分かっていたのだろう、回避する彼。

 

「……さっさと話せ、べディヴィエール。どういう状況だ、これはよ……!」

 

 蹴りを回避されていっそう表情を渋くするモードレッド。

 自分との殺し合いなら何とも思わない。円卓の連中との殺し合いだって別に気にしない。騎士王との殺し合いだって自分はそういうものだと分かってる。

 

 だが、獅子王だなんてものに対しては疑念しか湧いてこない。

 名前が違うだけじゃない、あの円卓の様子を見れば知らずとも分かる。

 奴らは、もっと根本的な何かがズレているのだ。

 

 今にも噛み付きそうなモードレッドの態度。

 それを前にしながら、べディヴィエールは微かに視線を伏せた。

 

「……そのつもりです。もっとも、私の知る限りの話になりますが。

 私はマーリン殿に導かれ、この地に召喚されたのです。

 ―――獅子王による聖都建立が終わった後に、でしたが」

 

『マーリン……キャメロットの宮廷魔術師、マーリンだね。アーサー王を導いた希代のキングメイカー。伝説通りなら彼本人は楽園(アヴァロン)の端に幽閉されているが、確かに彼ほどの魔術師ならば特異点にサーヴァントを送りこむことも可能かもしれない』

 

 通信先から聞こえるのはロマニの声。

 マシュの頭の上に乗っているフォウが、それを聞いてケッと舌を鳴らす。

 砂嵐か何かでフォウが喉を不調にしたか、と驚いて見上げる彼女。

 

「どうかしましたか、フォウさん。どこか怪我を……?」

 

「フォッ」

 

 何でもないと言うようにマシュの額に触れる肉球。

 特に不調というわけではなさそうだったので、意識をべディヴィエールに戻す。

 彼は悩むように、言葉を選ぶように、少し表情を歪めて考えこむ。

 

「……マーリンが語るには、獅子王とは騎士王アーサーのifの存在とのことなのです。

 聖槍を手にした嵐の王(ワイルドハント)。人の理から外れ、現象……神にまで昇華された騎士王。

 それが獅子王アーサー。彼の王は人ならざる精神性のまま世界を救わんとし、立ち上がった……立ち上がってしまった。その結果がこの世界なのだと……故に私は、そうなってしまった王を止めるべく、マーリンの手によってこうして此処に送られたのです」

 

「なるほど……他に何か知っているのかしら?

 アーサー王のifが出現してしまった理由だとか……特に欲しい情報と言えば、あなたを見た聖都の騎士の反応に関してとか。分かれば教えて欲しいのだけど」

 

 彼の参戦から、明らかに聖都の円卓の騎士は乱れていた。

 あの防衛体制、べディヴィエールひとりで何が変わるとは思えないのだが。

 彼はその質問に対し、少し困惑の表情を浮かべる。

 

「すみません。獅子王に関しての話はこの程度のことしか……」

 

 話を聞いていたオルガマリーが、小さく視線を横に振る。

 清姫はいつも通り立香にくっつきながら、何の反応も示していなかった。

 

 ―――妙に悩んでいたから何か隠しているかと思ったけれど……

 

 拍子抜けの結果を目撃して、オルガマリーは肩を竦めた。

 ただ単に彼の心情として、この事変に騎士王が関与していると認めたくないだけだろうか。

 まあ、もしそうだったとしても理解できなくはないか。

 

 同じようにモードレッドも清姫を眺めていた。

 彼女に反応は一切ない。間違いなく嘘ではない、と判断している状況。

 反応がないのを確かめ、彼女は次いでマシュに視線を向け―――すぐに顔を伏せた。

 

 そうして伏せたモードレッドの視線が、今更ながら見たことのないものを見る。

 円卓の騎士べディヴィエールは隻腕の騎士。右腕がない騎士だ。

 だというのに、彼はいま右腕が繋がっていた。

 

「……おい、テメェのその腕は?」

 

「―――これはマーリンから送られたものです。獅子王を止めるために彼が作った人工宝具。

 ケルトの戦神、ヌァザが持つ銀の腕(アガートラム)を模したもの。

 元から私の騎士としての技量は他の円卓に大きく劣ります。それを何とか埋めるため、彼の花の魔術師が一計を案じてくれたのです」

 

 モードレッドの突き刺すような視線を受けながら、その腕を撫でるべディヴィエール。

 

『人工の疑似神器……! マーリンのやつ、そんなことまでしていたのかい!?』

 

 感心する様子を見せるロマニ。

 そんな腕を見つめていたモードレッドが、ふと視線を逸らす。

 

「……馬鹿かお前。

 そんなもん持ったところで、テメェ如きが他の円卓を相手できるわけねえだろ」

 

 盛大に溜め息を吐いて、モードレッドが踵を返した。

 それ以上訊くべきことはない、とでも言うかのように。

 ―――最後に一度だけ清姫に小さく視線を送り、確認を取るような動作を見せて。

 

 そうして確認されていることに目を細めつつ、清姫が首を傾げる。

 彼女は今、嘘吐きを見ると感じるこう―――焼かねば…! 的な精神を一切感じていない。

 少なくとも一切嘘の言葉は聞いていないはずだ。

 

「……どうしたのかしら、モードレッド。やっぱりアーサー王が相手だから……?」

 

「うーん……そっかぁ」

 

 何かが分かったかのように首を傾げるソウゴ。そんな彼に対してツクヨミが顔を向けた。

 彼は一体何が分かったのだろうか。この状況にはあまり関係ないかもしれないが、モードレッドの心情を考えるために聞いておきたい。そんなことを考えている中でふと、モードレッドの心情を考える上で重要なケースを思い出す。

 

「そういえば……ねえ、ソウゴ。あなた、ロンドンでは確か―――」

 

「どうだろ。多分、あの時とは結構違う気持ちなんじゃないかな?」

 

 ツクヨミが言い切る前に遮る、誤魔化すような物言い。

 その態度にますます首を傾げるツクヨミ。

 彼らのやり取りを横目にしつつ、オルガマリーがべディヴィエールに向き合う。

 

「とにかく、あなたの目的は獅子王を止める事。

 わたしたちと協力できる、と考えていいのかしら?」

 

「それは……はい」

 

 返ってくるのは歯切れの悪い返答。

 何を迷ったのか、と。オルガマリーが小さく首を横に倒す。

 少しバツが悪そうに視線を逸らした彼は、右腕の義手に手を添えながら口を開く。

 

「……この銀の腕(アガートラム)は対獅子王を想定したもの。

 お恥ずかしい話ですが、私にこれを何度も解放するほどの力はありません。

 通常の戦力としては、あまり役に立つことはできないかもしれません」

 

 申し訳なさそうにそう告白するべディヴィエール。

 そんな彼に対し、銀色の腕に視線を向けながら悩み込む立香。

 

「でもそれは獅子王を止めるための切り札、なんだよね。

 なら私たちがべディヴィエールを獅子王の元まで送り届けられれば……通用する?」

 

「……はい、それに関しては間違いなく。マーリンのお墨付きです。

 彼は人格に関しては一切信用するべきではないですが、能力に関しては信頼できる。

 彼の王をよく知るマーリンが通じる、と言った以上間違いなく王へと届くものです」

 

 立香の問いに間違いない、と首を縦に振るべディヴィエール。

 彼女に引っ付いたままの清姫に反応はない。彼の言葉に一切虚偽はない。

 彼がマーリンの嘘を信じていた場合は見抜けないだろうが。

 

「―――だとすると、円卓の騎士が焦っていたのはその腕を見たから……?

 その腕を授けたのがマーリンで、持ってきたのがべディヴィエール。そうなる可能性があると理解していたのであれば、獅子王のために絶対通せないと考えるのもおかしくないかしら……?」

 

「……そうですね。今考えれば、そうかもしれません。獅子王を打倒し得る可能性があるものを私が有していれば、彼らは当然マーリンの犯行を疑うでしょう。

 そうなれば私……マーリンの作戦を阻止するために動くことは不思議じゃない」

 

 そう言って、オルガマリーの言葉に追従するように頷く彼。

 彼女はその言葉を聞いて、顎に手を当て悩み込みだした。

 ―――それにしては、円卓の騎士も焦りすぎているような気がしたのだが……と。

 

 その横で、ソウゴがアーラシュに問いかける。

 

「ねえ、神様は結局この状況をどう見てたの?」

 

「神様? ―――ああ、紘汰か。んー……正直分からん。ぶっちゃけ、難しいことは考えてなかったんじゃないか? 難民が襲われれば助けに行き、食料がなくなれば持ってきてくれる。だが状況を根底からひっくり返すための手段は多分、持ってなかったんだろう」

 

 アーラシュは後頭部を掻きながら、彼とのやり取りを幾つか思い出す。

 その場その場での対応はインチキ染みた結果を齎した。

 だが、彼には状況を逆転させることだけはできなかった。

 彼自身それを分かって活動していたように見える。今回の結果も想定済みだったろう。

 

 ―――難民を逃がすだけではなく、停滞を止めて状況を動かすに踏み切った理由。

 それはきっと……と、彼はちらりとソウゴを見る。

 

「食料……それではやはり、その神様の力で食料を得ていたんですか?

 これから山の民の住処に向かう彼らの分は……」

 

 マシュからの問いに、アーラシュは更に難しい顔を浮かべる。

 

「―――ま、無理だわな。これ以上の供給はない。

 難民を受け入れれば、そう遠くないうちにどこの村も破綻する。

 今までのペースで消費すれば、崩壊まで一週間くらいか?」

 

 溜め息混じりそう白状する彼。

 つまりそれは、一週間でこの地に残された民の破滅も始まるということだ。

 

「食事をもうちょっと切り詰めればまだ伸びるんだろうが……それはちょっと不味い。

 村側には馬鹿みたいな人数の難民のために場所を提供してもらってる。難民には当然家屋もなく、寝泊まりしてる環境はよくはない。それを食事を渋らないことで何とか調子を取ってたんだ。そこが崩れたら、ってのはあんま考えたくないな」

 

 救った難民の暴動で村が焼ける、などという結末は見逃せない。

 彼はそう言いながら、誤魔化すように苦笑した。

 

「ちなみに村までの移動は難民の歩調に合わせて、ここから二日ってところだ。

 そっから十数に集団を分割して、あの百人に増えてるハサンがそれぞれの村に連れていく。

 お前たちはとりあえず、ハサンたちの統率をしてるハサンがいる村でいいよな?」

 

「……ハサン。ハサン・サッバーハね」

 

 思考から帰ってきたオルガマリーがその名を呟く。

 その山の翁の中には、オジマンディアス王に不調を与えた存在がいる可能性もある。

 それほどのサーヴァントの助力が得られるならば、聖都攻略は捗ることだろう。

 

 アーラシュは一週間で破滅というが、ならば一週間で聖都を攻略すればいいのだ。

 難民の歩調に合わせて二日の道程なら、自分たちが村から聖都に進軍するのは半日かかるまい。

 

「……アーラシュ・カマンガー。

 あなたも聖都の攻略を手伝ってくれる、と考えていいのかしら?」

 

「うん? 今更だな、もちろん手伝うさ。ハサンたちだって首を横には振らんだろ。

 まあ膨大な数の民の監督のために大抵のハサンは離れられんだろうが。

 人理の話もそうだが、難民を助けてくれた紘汰への借りもある」

 

 それはどちらかと言えばハサンの立場の話だろうか。

 あの状況を支えてくれた鎧武への借りを返す。

 そのためにハサン・サッバーハは動いてくれるだろうと言う。

 

「大抵のハサン……ハサンって人があの毒の人と増える人以外もいるってことだよね」

 

「おう。俺も全員は会ってないが、十人以上いるみたいだな。そいつら全員、抱えた難民でパンクしそうな村の世話のために山の中ずっと駆け回ってるよ。

 静謐は人口密度が高い場所でうろつくと事故が怖いからってそっちに近づかないが」

 

 円卓さえも警戒するアーラシュ・ザ・アーチャー。

 獅子王に匹敵する太陽王オジマンディアス。

 そのオジマンディアスに対し何らかの攻撃を成立させただろう山の翁たち。

 そして獅子王に対抗するためにマーリンから切り札を授けられたべディヴィエール。

 

「―――確かに円卓の騎士たちは強力だったわ。

 獅子王だってそれ以上の怪物なのでしょう。けど、これならきっと―――!」

 

 話を聞いていたオルガマリーがそう言って拳を握り締める。

 一週間というタイムリミット。それを破ることもなく、きっと勝利することができるはず。

 そう強く信じ、とにかくまず一度山の民の村に向かうために地平線を睨んだ。

 

 

 

 

 極彩色の輝きを宿す鍵。

 それをトリスタンから手渡された獅子王が、兜の下で目を細めた。

 

「―――なるほど。こうして力を蓄え、また戦場に出ようというか」

 

 休眠状態に入り、力を回復させることに集中しているそれ。

 だが彼女はすぐさまそれを放り投げ、光の膜で覆い隠してしまう。

 ふわりと浮いた極ロックシードは何重もの光に包まれ、見えなくなっていく。

 

「我が聖槍の内で眠りにつくがいい。

 この惑星が残っている内に、お前が目覚めることは二度とない」

 

 玉座の間にそのまま封印されたロックシード。

 それを見上げている獅子王の前で、トリスタンがアグラヴェインに意識を向ける。

 

 トリスタンのその様子。

 一切の報告を受けていないが、彼は余程の緊急事態に遭遇したと見える。

 アグラヴェインが跪いたままに視線を上げた。

 

「……聖槍の一振りで終わらせたものとはいえ、王を戦場に駆り出したことは事実。

 我らの無能、どのような罰でも」

 

 アグラヴェインの隣で同じく跪くトリスタン。

 王は視線をロックシードから下ろし、眼下の騎士たちを見やった。

 

「―――よい。元より我が騎士たちの使命はこの地の平定。

 空の彼方からやってくるものに関しては、そもそも卿らの管轄外だ。

 私が処理すべきものを処理しただけと知るがいい」

 

「はっ……では、王よ。

 せめてこの地の平定が上手く進んでいるか、私も確認をしてきたいと思うのですが」

 

 深々と、アグラヴェインは頭を垂れてそう願う。

 ガウェイン、ランスロット、モードレッド。

 三騎を差し向けた戦場がどうなったか、自分の目で確かめるためにと。

 

「許す」

 

 獅子王が玉座に腰かける。

 そのまま光を見上げて静止する彼女に礼を取り、二人の騎士が退室した。

 しばらくそのまま歩き、大概玉座の間から離れた後―――ぽつりと。

 

「―――湖に剣を返しにきたものが」

 

「なんだと……!?」

 

 歩きながらもトリスタンの言葉に絶句する。

 そんなことをする人間は一人しかいない。

 

 聞いた瞬間、思いつく言葉は()()()()()()()()

 そう考えた自身に小さく舌打ちし、首を何度か横に振る。

 

 眉間に皺を寄せながら、彼らは足早に聖都の正門を目指し歩いていく。

 

 ―――到着したそこに回収するべき民はいなかった。

 そこにあったのは、口論している円卓の騎士たちの姿だけ。

 

「おい、クソ野郎。どういう判断だ、えぇ?」

 

 モードレッドがランスロットの鎧を掴み、引き寄せる。

 今にも噛み付きそうな態度の彼女。

 ランスロットは目を逸らし、ガウェインはただ神妙な顔で待機していた。

 それを軽く見回して、彼は静かに声をかける。

 

「―――状況を説明しろ、サー・ガウェイン。サー・ランスロット」

 

「……敵軍は星見の者(カルデア)たち、山の翁……そして、彼だった。

 奴らの最優先目標は難民の救助。あの状況では見逃す方が安全だと判断し、そうした。

 今後は我ら四人を常に外壁に配置すべきだと進言する」

 

「……ええ、敵軍にはアーラシュ・カマンガーもいました。

 あの場で宝具決戦にまで発展させるのは不利と判断したのです」

 

 アグラヴェインの眉間に更に皺が寄る。

 アーラシュ・カマンガー、アーチャーを体現する大英雄。

 彼の放つ大地を割った一矢ならば、確かに王の聖槍にさえ匹敵するだろう。

 

「……それで、どうするつもりだ?」

 

「―――我らの失態、その罪を王に裁いて頂きたい。

 次の戦場の中で、敵ごと我らを全員……聖槍の一撃を以て」

 

 ランスロットがアグラヴェインと視線を交差させる。

 彼が本気で言っているということは明白。

 その言葉を聞いてガウェインとモードレッド、トリスタンが考え込む。

 

 べディヴィエールの確実な抹殺を優先しつつ、他を削れるのなら悪くない。

 継戦を必要としないならば、ガウェインも聖剣を一切温存する必要がない。

 ランスロットが前に出て、ガウェインとモードレッドが蹂躙。

 トリスタンが遊撃に回れば、恐らくあの軍勢に太陽王が入っても十分時間は稼げる。

 

 だが―――

 

「王の手によって裁かれることを自ら望むか。

 思い上がりが過ぎるぞ、ランスロット」

 

「……分かっているとも、恥知らずにも程があると。だが、それ以外にないのだ。

 王にその存在を伝えず、べディヴィエールを確実に防ぐための選択肢は」

 

 円卓の騎士が打って出る事は不可能。

 一度交戦した今、敵について分かっていることがある。

 彼らはギフトを得た円卓の騎士さえ、撃破し得る集団ということ。

 

 ならばこちらから戦力を分散することはできない。

 いや、もしべディヴィエールがいなければそれでも良かっただろう。

 

 円卓の騎士の存在は獅子王にとって余分。

 獅子王アーサーにとって、円卓の騎士は戦力としての必要性が既に薄い。

 だが彼が出現したことによって、状況は完全に変わった。

 会わせてはならない。獅子王とべディヴィエールを。

 

 恐らくべディヴィエールは彼らと協力し、何としてでも玉座に辿り着こうとする。

 それを完全に防ぐためには、サーヴァント四人だけでは流石に難しい。

 

 それは分かっている、と顔を顰めるアグラヴェイン。

 

「……異星の神性は封印した。難民の救助はこれ以上できまい。

 そして犠牲を出さぬ戦いを敢行するならば、次の敵軍の攻めは数日中にあるはず。

 遅くとも一週間程度で決着をつけねば奴らの方が崩壊するだろう」

 

「防衛に徹して敵の自壊を待つべき、と?

 そのような戦運びでは、獅子王陛下が玉座から腰を上げることもあるでしょう」

 

 アグラヴェインの意見に対し、トリスタンはそちらにも危険はあると訴える。

 時間はこちらの味方になるが、だからと言って過信はできない。

 

 戦闘が開始されたとして、獅子王に辿りつくのが目的のべディヴィエールは、基本的に前に出ないだろう。だとすると、戦線を維持しつつ確実な撃破は難しい。

 そしてそうなった場合、動かない戦場を動かすために王が出陣する可能性もある。

 つまりは、べディヴィエールが王の御前に至る可能性を得る。

 

「……別にランスロットのそれで成立するならそれでもいい。どうせ父上なら、オレたちが死んでも目的はやり遂げるだろうしな。パシリにアグラヴェインが残れば問題もねえ。

 だが上手く行くか? オレたちが消し飛んでべディヴィエールは助かりました、なんてことになったら笑い話にもならねえぞ。べディヴィエールが聖槍の範囲に含まれてねえからちょっと待ってくれ、なんて言い訳で途中で止めることは出来ねえんだぜ?」

 

 モードレッドは一応は賛成。だがあまりに杜撰な話だ、と口にした。

 

「ですが、恐らく次の戦闘は相手にとっても決戦。そして全てを振り絞り目指すのは獅子王の打倒。その戦場において、獅子王に向ける刃であるべディヴィエール……彼を前線から遠ざけると言っても限度がある」

 

 ガウェインはそれでも彼は前に出てこないといけない立場だ、と。

 賛成の立場を示した。

 

「仮に離れていたとしても追い込めばいいだけでしょう。

 ―――その手段を取った場合、それは遊撃という立場に当てられる私の仕事かと」

 

 続けてトリスタンもまた反対せず。

 微かに目を細めたアグラヴェインが一通り彼らを見回して、小さく息を吐く。

 

「……いいだろう。だがその罰が与えられるとして、それは聖罰における失態。

 聖抜によって選ばれた民を聖都に迎えられなかった事に関する裁きは別だ。

 ―――まずは獅子王陛下に許しを乞え」

 

 彼の言葉に騎士たちが目を伏せる。

 引き返し、玉座の間に向かっていく円卓の騎士たち。

 

 彼らの背後で聖都の正門が完全に鎖される。

 ここより先、誰も通すことのないように。

 

 

 




 
赤モーさん、白モーさん。

円卓は聖都から動けないので聖都外での円卓戦はカット。
当然静謐も捕まってないので牢獄もカット。勿論トリスタンの村襲撃もカット。
ズェピアのようなカットの嵐。まるでRTAやってるみたいだぁ…
 

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