Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「それ見たことか。拙者は言ったぞ、無駄使いするなと」
呆れ顔で正座する女性を見下ろすのは、米俵を担いだ偉丈夫。
そんな彼に見られているのは、水着かと思うような袈裟を着た女性。
彼女はしゅんとして正座しながら、背後の水場を見た。
この灼熱の大地に残された数少ない地上の水場。
この環境においては、枯れるのも時間の問題だったろう。
だがそれはそれとして、今回水を無駄遣いしたのは誰あろう彼女に他ならなかった。
「野生の獣が困らない程度に水場を独占したのは認めるけども……
それは、ほら……ねえ? はい、ごめんなさい……
でもこんなことになるなんて予想外だったんだもの……ぎゃてぇ……」
泣きそうな彼女―――
三蔵法師は千人ずらりと並んだ難民の列を見て、より泣きそうになった。
「……どうあれ、今日はここで休息だ。
思ったよりは確保できなかったが、完全に水が枯れているというわけでもない」
まだまだ続く三蔵への説教。本来説教する側だろう彼女が、完全にされる側に。
そんな様子に溜め息を吐きつつ、髑髏面の女性がそう口にする。
その言葉と同時に、百人近い人影が難民たちの間を縫って動き出した。
この地の水場ならばギリギリ、という判断で夜営の場所に選んでおいたのだ。
が、生憎と予定外の先客が水場を占拠していた。
別に彼女たちに場所を譲ることを渋られたわけではない。
むしろ快く譲り渡してくれるという。
だが……人ひとりが普通に使ってしまうだけで後に響くほど、水の量が少なかっただけだ。
溜め息混じりに動き出す分身能力を持つハサン―――百貌。
毒に秀でたハサン―――静謐は既に周囲の警戒に当たっている。別に百貌は彼女がそこまでのミスを犯すとも思っていないが、この状況で彼女は難民にも水場にも一切近づかない。彼女は全身が毒性を持っており、接触するだけで人を殺すのだ。
当然のことながら、彼女が万が一にも水に触れてしまった場合、その水は生物が飲める水ではなくなる。それを恐れた結果、難民の世話は百貌ひとりの仕事になってしまうわけだ。
もっとも、一人であっても百人なのが百貌のハサンなのだが。
「水が欲しいんだよね? 少しは出せると思うけど、あの池に出せばいい?」
流石に千人分にはならないだろうが、と。
百貌の背後から、ウィザードアーマーが周囲に水流を展開しながら問いかける。
この程度でも、少しの足しにはなるだろうと。
「……ああ、民への配給はこちらでやる。水はその池に貯めておいてくれ。
……ちゃんと飲み水として使えるんだろうな?」
問い返されたジオウが一瞬静止して、自分が出している水の塊を見上げる。
悩むこと数秒、百貌に向き直った彼が何となく言い切った。
「多分、大丈夫!」
微かに口元を引き攣らせつつ、空中に浮いている水の塊に指で触れ一度舐める。
まあ普通に水だ。どうやって出しているかは知らないが、池の水よりも澄んでいる。
問題はないと判断してから、水場の中にそれを放り込ませた。
「あと水出せるのは……えーと、オーズとフォーゼも行けそうな気がする……」
「フォーゼ? 水出せるの?」
ライドウォッチを色々持ち出しながら悩むソウゴ。
そんな彼を後ろから覗き込みながら立香が問いかけて、その直後に思い出す。
そういえばイアソンは船から水を出してたような、と。
だとすると、ちゃんと水を出せるのだろう。
「あ、ドライブも消火できそう」
十割ほど勘でライドウォッチを適当に選択しにいくソウゴ。
消火という言葉に、ちょっと待ったをかけるツクヨミ。
「それ、水じゃなくて消火液じゃない? 大丈夫?」
「放水、って感じするから多分水じゃないかな」
ファイヤーブレイバーによる放水なら恐らく飲み水にも耐えるだろう。
一切根拠はないが、多分。
そんなことを考えながらドライバーのウォッチを交換しようとするジオウ。
「とりあえず全部、別の場所に一回出して確かめた方がいいね」
「水筒ひとつ空けた方がいいかしら」
ツクヨミがそう言ってひとつ水筒を取り出した。
水を確かめるのならば、一応どこかに貯めて確認したい。
ならば水筒に入れて、と。そう考えるツクヨミ。
ただ万が一飲み水に使えない水だった場合が問題だ。
流石にないと思うが……人体に有害な水だったら、それを入れた水筒は洗っても使いづらい。
水筒くらいならダ・ヴィンチちゃんが幾らでも作ってくれる。
が、カルデアとの召喚サークルが無い今、水筒だって減らしたくはない。
そう考えた立香が、ソウゴに向き直った。
「ねえねえソウゴ。
そのままウィザードで穴掘って、ドライブのコンクリートで固めた貯水池作ってよ」
「それなら穴開けるのもドライブでいい気がする」
〈ドライブ!〉
そうして始まる土木工事。
ランブルダンプがドリルで穴を掘り、スピンミキサーがコンクリートを撃ち出して固めて、造成された貯水池にファイヤーブレイバーが放水する。新たに作り出される小さな水場。
それが大丈夫な水か立香が確認しようとして―――
「立香って毒? 酸? の霧も大丈夫なんじゃないっけ。判断できるの?」
「言われてみれば確かに」
「そのこと忘れてたのに飲めないかもしれない水飲もうとしたの?
もうちょっと気をつけなさい」
多分毒でも分かんない、と。彼女はぽん、と掌を拳で叩く。
そんな彼女に呆れながら、ツクヨミが百貌の判断を仰ぐべく彼女に声をかけに動き出す。
「……ふむ。即席で泉を作れるとなると、私の宝具も使いどころがあるやもしれないな」
地面を掘り返し、コンクリートで固めた人工の池。
その土木工事の結果を眺めながら、フィンは軽く顎を撫でる。
『ああ、君の手で掬った水は癒しの力を得る、という逸話の宝具かい?
なるほど。確かに水を手で掬える状況が任意で作れるなら……』
「別に泉からではなくてもいいのだがね、落ち着いて水を掬える泉からの方がいいのは確かだ。まあ泉から掬っていたにも関わらず盛大に零し、ディルムッドを死なせているわけだが!」
果たしてそれは笑い飛ばしていいものなのか。
ケルトジョークを飛ばす彼に、通信先で微妙に口元を引き攣らせるロマニ。
百貌の主体、女性のハサンがツクヨミに連れられ戻ってくる中。
そんな彼らの様子を目にした彼女が、仮面の下で眉を顰めた。
一度軽く首を横に振った彼女が、新たに出来た泉の水を検める。
「……問題ないな。使わせてもらうぞ」
自由に動かせば水場に殺到するに決まっている。
人手はある(百貌ひとり)のだから、きっちりと締めるべきだろう。
彼女の意思に従い、規律を定めて難民を誘導し始める百貌たち。
そうして百貌たちが水を難民たちに分けている中で―――
「ふむ。千人か……こちらも流石に足らんだろうが、やらぬより余程マシか。
ほれ、三蔵。炊き出しの準備だ、手伝え」
「え、あ、はい」
水場への誘導を見ていた男が、担いでいた俵をどかりと下ろす。
そうして他の連中の手も借りるために、彼はカルデアの人間たちに向き直った。
「拙者、アーチャーのサーヴァント。真名を俵藤太と申す者。
縁あってそこの坊主、玄奘三蔵のお守りをしながらこの世界を巡っていたのだが……こやつ自堕落な生活に慣れきって、水場を占拠するような真似をしおってな」
「しーてーまーせーん! 占拠まではしていません!
ちゃんと野生の獣と分け合える程度には分別がありました!」
藤太からの雑な紹介に反論を唱える三蔵。
「そもサーヴァントなのだから、この状況では生きているものに譲れという話だ」
そんな意見に取り合わずに溜め息ひとつを返す藤太。
彼女はぐぬぬ、と唸る。が、百貌が配る水を心待ちにしている難民たちを見て消沈した。
そして彼らの自己紹介を聞いたロマニが、通信先で声を弾ませる。
『俵藤太と言えば東方の“
ここで合流できたのは心強いんじゃないかい!?
アーサー王は言うまでもなく、竜の属性も持つブリテンの赤き竜だからね!』
竜殺しという話を耳にして、というよりもその名を聞いてか。
清姫がすすす、と立香に更に強く寄り添うように移動した。
何となく楽しくなってきたのか、二ヵ所目の追加水場の工事に入っていた面々。
その中で立香が、清姫の態度に小さく首を傾げた。
もはやそこに理由はない。
恐らくは化生変化にとって、本能的な行動だったのだろう。
そうなるほどの英傑が、俵藤太という男だ。
「……俵藤太。あなたたちは聖都の者ではなく、野良のサーヴァントということでいいのかしら」
だからと言って考え無しに喜んでいられない、と。
オルガマリーは彼に対して問いかける。
「野良……うむ、まあ野良という奴だな。
二ヵ月ほど聖都の中で世話になっていたという事実があるが」
言いながら腕を組み、地面に置いた米俵の前にどかりと腰を下ろす彼。
そんな行動を前にしてから、何かを探すように周囲を見回す三蔵。
だが当然のように目当てのものなど見当たるはずもない。
「トータ、あたしのお椀はあるけどでかいお鍋なんかはないわよ?」
「む? そうか、しまったな。他に―――」
「―――聖都の中に入られていたんですか?」
悩む藤太に、驚愕に目を見開くマシュが問いかけて。
そうして、彼の目が彼女の持つ盾に向かう。
「おお、いい盾だ。何よりタイミングがいい。
すまんがその盾、少しばかり貸してはくれないだろうか」
「え? あ、はい。どうぞ……?」
言われて咄嗟に盾を渡すマシュ。
状況が判然としていなくても、彼に一切の邪悪さを感じないせいか。
己の武装さえもあっさりと渡せてしまえた。
彼はそれを受け取ると、持ち手を上にして地面の上に大皿の如く設置する。
その動きを理解して、通信先でロマニがあっ、と声を漏らす。
『あ、ちょっと待って。俵藤太の米俵と言ったら多分……!』
「悪虫退治に工夫を凝らし、三上山を往来すれば。
汲めども汲めども尽きぬ幸―――お山を七巻き、まだ足りぬ。お山を鉢巻、なんのその。
どうせ食うならお山を渦巻き、龍神さまの太っ腹、釜を開ければ大漁満席!
さぁ、行くぞぅ! 対宴宝具、“無尽俵”!
そぉれ―――美味いお米が、どーん! どーん!」
ロマニの声は遅かった。
その静止の声が届くことはなく、藤太は米俵の宝具を起動する。
瞬間、彼が目の前に置いた俵から白米が噴水のように飛び出していた。
噴き出す米は自然とマシュの盾に積もって、白い山を作っていく。
「―――え?」
「は?」
「あぁ……! えぇ……!?」
気の抜けた声を出すマシュやオルガマリーの背後。
べディヴィエールがその光景を見て、悲鳴染みた声を上げた。
まるで聖杯を飯の釜にするような所業を見たかの如く。
「あ、骸骨のお面の人! 順番を守らせて、取りに越させてあげてね!」
そう言って三蔵が百貌の一人に声をかける。
彼女の手が凄い勢いで米を取り、そのままどんどん握りに変えていく。
あまりの速さに腕が分裂したように見える様は、まるで千手観音のそれ。
米の山がどんどんとおにぎりに変わっていく様。
それを見た百貌のひとりはどう反応すればいいのか、と。
少し間抜けに答えを返した。
「あ、ああ……?」
分身と意思疎通し、十人一組にして順番に取りに行かせ始める百貌。
その光景を呆然と眺めながら立香は、はっと目を見開いた。
「ねえねえ、それって……もち米も出る?」
「うん? そりゃあ出る。だが、無尽であっても無制限ではないのでな。
流石に今回はこやつらに配る握り飯分で限界一杯だ」
そろそろ年明け。おもちの時期。いつぞやそんな事を話していたな、と。
できればおもちを確保したいと思いつつ、空を舞う白米の噴火を見上げる。
とはいえ、最優先は難民の食糧だ。
三蔵も心なしかおにぎりを小さめに握っている。
それくらいに、流石に一度に賄う人数が多すぎるのだ。
「……その、レディ。あれは、大丈夫でしょうか……?」
マシュの背後でぽつりと呟くべディヴィエール。
それが彼女の盾の話だろうということは、その視線で分かる。
―――確かに盾を大皿扱いされることには驚いたが、彼女を支える英霊の霊基は拒否感を示していない、と思う。
「はい、多分大丈夫です。ちょっと驚きましたが、きっとこうして人を救うためならばわたしの中の英霊も……あ、すみません。
わたしはわたし自身が英霊というわけではなく、デミ・サーヴァントと言って……」
その説明はしていなかった、と。
マシュが慌てて補足しようとするのを、彼は微笑みながら制する。
「―――ああ、大丈夫です。それもマーリンから聞いています。
ただ、そうですか。レディがそう仰るのでしたら、きっと大丈夫なのでしょう。
あなたの中の英霊も、そう思っているに違いないのです……食事をして、今日を存えて。ずっと、民にそう在り続けてもらうための―――円卓だったのですから」
「べディヴィエール卿……?」
何かを追想するように目を細めるべディヴィエール。
だが彼はすぐに表情を戻し、歩き出す。
既に目の前では配給の行列が大分伸びていた。
「我らも手伝いましょう。
女王ブーディカも手伝っているというのに、見ているだけというのは問題です」
「あ、はい! それは確かにその通りでした!」
いつの間にかおにぎりの製造に携わっているブーディカ。
更にその手に引っ張られ、強制参戦させられる清姫。
手慣れた様子の千手観音や彼女たちに混ざって調理係は難しい。
だが難民の整列は幾ら手があっても足りないはずだ。
少しでも助けになるため、彼女もまた歩き出した。
「…………何か、御用でしょうか?」
「いやいや、そういわけではないのだが。ただ私は、喧噪から離れて独り佇んでいる少女を、見逃さない程度の甲斐性は持っているだけのこと」
そう言ってフィンが夜の中でキラリと輝いた。
何を言ってるのか、と首を傾げる静謐のハサン。
恐らく円卓の追撃はないが、それでも警戒は必要だ。
聖都やエジプトの存在。土地自体が神代に回帰しているせいで、魔獣や幻獣、精霊の域に入った野生動物が出てくることもあるのが今のこの土地だ。
そんなものたちが出現した場合、難民に近づける前に処理する必要がある。
サーヴァントにとって大した脅威でなくとも、難民がパニックを起こせば惨事が起きかねない。
「―――あちらは盛り上がっているようですので、向こうに参加した方が……」
なのでそういう処理は自分に任せてくれていい、と彼女は言う。
彼女の暗殺手段は毒殺。
魔獣程度ならば、毒に侵されたと気付く間も与えず殺せる程度の。
断末魔さえ上げさせず処理するつもりなので、難民に気づかれる恐れもない。
「ははは、ではもし魔猪でも出てくれれば、それを狩って大手を振って参加しにいくとしよう。千人ともなると、それなりの大きさのを二十、三十は狩らねばな!」
「はぁ……」
本気なのかジョークなのかもよく分からないフィンの発言。
首を傾げていた静謐が、他者の接近を察知して顔を別の方向へ向ける。
―――そちらから現れたのは、モードレッドだった。
彼女はちらりと静謐を見て、しかしすぐにフィンに向き直る。
「おい、一応聞いとくが……どうなんだよ、あれ」
開口一番、単刀直入にフィンに聞き込むモードレッド。
何が訊きたいか分かってるだろ、と言わんばかりの直球。
揶揄う場面でもないと肩を竦めて、フィンもそれに返答した。
「確かに戦神ヌァザは私と縁が深い……が、流石にヌァザの“
べディヴィエールが告白した自身の右腕、“
彼はそれをマーリンの手による人工宝具とした。
人工と言っても、彼の魔術師も純粋な人間ではない存在だが。
祖神ヌァザの腕そのものであれば、フィンに感じる所もあるだろう。
が、それを模しただけの別物では流石に分からない。
「そうじゃねえよ」
その前提を語るフィンを急かすモードレッド。
彼は小さく肩を竦めて、続きを語る。
「では、あの腕から感じる妖精の寵愛のことかな?
確かにあれほどの加護が人工の宝具に宿るのは不自然だ。が、彼の花の魔術師の手によるものだから……と言われれば、ある程度は納得せざるをえまい?」
それを聞いて、モードレッドは顔を小さく伏せた。
今の言葉で、もう欲しかった答えは得たようなものだから。
態度を変えた彼女の前で、フィンは軽く髪を掻き上げた。
彼は逆にモードレッドを見返して、問いかけてみせる。
「別に今回、私は智慧を借りたわけではないが……というか基本、借りなくても私自身の知恵で大抵のことは解決するのだが。
それはそれとして、君があそこに疑念を感じるのは何故だい? はっきり言って、あの花の魔術師の幻術に綻びはない。感知はできないだろう?」
清姫の耳にも、
当然、モードレッドの直感もまた誤魔化しているはず。彼女たちのような本能で事実を見極めるタイプは、その本能に信を置けば置くほど騙され易くなる、という手段になっている。
フィンからの質問。彼女はそれに対して鼻を鳴らす。
そんな当たり前のことを訊くんじゃねえ、と言わんばかりに。
「―――馬鹿かお前? 父上はな、オレが殺して、あいつが看取ったんだ。
そこに違いが生まれたなら……オレが分からないわけねえんだよ」
彼女はそう吐き捨てる。
妖精の寵愛を得たフィン・マックールが、べディヴィエールの持ってきた義手は妖精に愛されたものだと言った。ならもう、全部繋がったようなものだ。
モードレッドが踵を返す。これ以上、話すべきことはないと言うように。
そうして離れていく彼女の背中に、フィンは再度問いかけた。
「ちなみに、どうする気だい?」
「決まってんだろ。あいつが看取り損ねたのなら、つまりオレが殺し損ねたってことだ。
オレはオレのやるべき事をする。あいつはあいつがやるべきことをする。それだけだ。
後はその内、あのクソ野郎のマーリンをぶん殴る」
一切の迷いなく言い放つ。そのまま歩き去っていくモードレッド。
いつの間にか何やら始まって、いつの間にか終わっていた二人の会話。
それに小さく首を傾げて、静謐はフィンに視線を向けた。
「……どういう事ですか?」
「どうもこうも、彼女もカルデアに召喚された者とはいえ円卓の騎士。
獅子王は必ず自分が討ち取る、という決意表明だろうさ」
にこやかにそう語るフィン・マックール。
確かに獅子王の撃破を目的とした話にも聞こえはしたが、と。
静謐は彼の物言いに対して、仮面の下で小さく眉を顰めた。
そこでモードレッドと入れ替わり、別のサーヴァントの接近を感知する。
やってきたのはアレキサンダーとジャンヌ・オルタ。
「やあ、話はついたかい?」
「まあおおよそはね。
私とて結局のところ、幻術越しでは推理は出来ても確実なことは何も言えない。
流石は花の魔術師の魔術の冴え、と言ったところだろう。
おっと、そうして推測に至っている君のことも流石は征服王、と褒めておくべきかな?」
「ははは。生憎だけど、僕はマスターから聞いた話を膨らませただけだよ」
べディヴィエールは、獅子王を“
別に間違っているわけではないだろう。そういう性質に昇華された存在なのは間違いない。
けれど、ソウゴは根本的に行動方針が違うワイルドハントを既に見ていた。
―――第四特異点、ロンドンの地で。
黒い槍を携えた騎士王は、嵐の王でありながら騎士王だった。
細かい違いは幾らでもあったのだろう。
だが、ただ“
けして獅子王を名乗り、聖槍による選別を行うような“現象”ではない。
「……何よ、何の話?」
アレキサンダーに着いてきていたオルタが二人を睨んだ。
彼女の威嚇に二人揃って肩を竦める。
マーリンがべディヴィエールに虚偽を教えた、という可能性もなくはない。
だがそうだとすれば、幻術で彼を保護する必要もない。
とすれば、これが異常だという事実はぼんやりとではあるが見えてくる。
「大した話ではないよ。結局のところ作戦は変わらない。円卓の騎士を打ち破り、聖都へと突入してべディヴィエール卿の秘密兵器を獅子王へ突き付ける。この方針には何ら影響しない、その程度の話だ」
「……?」
勝手に納得している男二人を見て、眉を顰めるオルタ。
そんな三人の様子を傍から眺めながら、静謐は小さく首を傾げた。
「攻め込んでない?」
「……ああ。お前たちが何を勘違いしているかは分からんが、我らにそんな余裕はなかった。我らは常に難民の救助、整理に追われてエジプト領に踏み込んだことなど一度もない」
食事を終えた民たちは、疲労と命を拾ったという安堵から例外なく眠りに落ちた。そうして、ようやく気を抜いた百貌は、オルガマリーからの問いにそう返した。
オジマンディアス王の不調。それは恐らく獅子王や円卓が原因のそれではないだろう、と予測していたというのに、もう一つの勢力である山の翁から否定されてしまい、難しい表情を浮かべる彼女。そんな彼女に対して、髑髏面の下で百貌は小さく眉根を寄せる。
山の翁の協力があればまず万全、と思っていたが―――しかし、戦力としてはこの状況にオジマンディアス軍が加わるだけでも、十分に円卓に対して優位を取れるのではないか。
オジマンディアス、ニトクリス、ダレイオス三世。更に玄奘三蔵に俵藤太。
彼らの戦力を加える代わりに、相手にトリスタンが追加される形だろう。
その背後には獅子王と、藤太の話に出たアグラヴェイン……
「……三騎を相手に今回の状況で、実際の敵戦力は六騎……
流石にもう少し余裕を持ちたかったけれど……」
事実として、円卓の騎士がこちらを逃がしたのはアーラシュの存在が一番大きい。
ガウェインもランスロットも足止めすらギリギリだったのだ。
唯一、優勢を取れたのはモードレッドとの戦場だったが―――
「うーん……実際問題、次回の戦いではガウェインはともかく、モードレッドが前に出るかは怪しいね。彼女に完全に砲台に徹されたら流石に守り切れないよ?」
白モードレッドを制するにあたり、宝具を封じたダビデがそう言う。
前回白モードレッドを制圧し動きを封じられたのは、赤モードレッドと衝突したからだ。
次回の戦闘で前に出ず、宝具解放に徹する動きをされたら被害は甚大になる。
ガウェインも当然、隙あらば聖剣の解放を狙うだろう。
もちろん、ランスロットやトリスタンはそれをサポートするはずだ。
粛清騎士とて数が揃えばサーヴァントにとっても脅威になる。
聖都外に展開するだろう円卓四人の軍だけでも、エジプト勢の協力込みで五分。
だとすると、獅子王まで相手にする余裕が……
「……それにオジマンディアスを害したのが山の翁でないとすると、そいつも敵として新たに出てくる可能性が……」
「…………」
口を手で覆いながら思考するオルガマリー。
そんな彼女の横顔を見ていた百貌が、きつく眉間に皺を寄せているような様子を見せる。
もっとも、髑髏面でよくは見えないが。
だがそれに気付いたダビデが、彼女に対して話を振ってみせた。
「どうかしたかい?」
「―――いや、私の言うべきことではない。
その件については、村についてから当世のハサン……呪腕のに訊くがいい。今のハサンたちに役目を振っているのは奴だ。奴ならば、私の知らぬ情報を持っているかもしれんからな」
「へえ」
探るようなダビデの視線から目を背け、百貌が歩き出す。
彼女の影から一人、また一人と増えていく姿。
それは夜の闇に溶けるように消えていき、難民の様子を見回るために動き出した。
べディヴィエールは嘘つき。ホモも嘘つき。マーリンも嘘つき。
この符合は一体何を示すものなのか…真実は一体どこにあるのか。
その答えを探しに、私はオリュンポスへと旅立つのであった。
オリュンポス閉まって…おっ、開いてんじゃーん!
獅子王に湖の騎士に征服王の少年期にディルムッドの縁者に何か変なのが粘着してた聖女(黒)。あの金ぴかもどっかから生えてこないだろうな…!
とか思ってる百貌さん。