Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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砂漠の中の真実!1273

 

 

 

「この本によれば、普通の高校生常磐ソウゴ―――

 彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた」

 

 時間を刻み続ける大時計。

 暗闇に閉ざされた空間の中には、その大時計だけが浮かび上がっている。

 

 足音と共に闇の中、時計の横から姿を現す黒ウォズ。

 彼は大時計の前でそのゆったりとした歩みを止めた。

 そうしてその手の中にある一冊の本、『逢魔降臨暦』へと視線を送る。

 

「魔術王の策略により焼失した人類の歴史……

 だがそれは我が魔王らの活躍により、第五までの特異点が攻略された。

 修正するべき人理の礎は残り二つ。

 そして彼らがいま取り掛かるのは、西暦1273年のエルサレム……」

 

 そこまで語った彼の前、一部で闇が晴れて幾つかの人影が姿を現す。

 それは、これまでに継承を終えた仮面ライダーたちのもの。

 ウィザード、ドライブ、フォーゼ、ダブル、オーズ―――

 

 そうして、更にもう一人。

 果実を鎧とした仮面ライダー、鎧武の姿が浮かび上がった。

 

 合わせて六人。

 それらのライダーたちの後ろ姿を一通り眺めた後、ぱたりと。

 彼は手にしていた『逢魔降臨暦』を閉じる。

 

「……それはそれとして。

 人理が燃え尽きていなければ、もう少しで2016年の年明け。

 例え世界が窮地であっても、それがおめでたい行事であることには変わりません」

 

 そのまま閉じた本を横に抱え、彼は大きく片手を掲げた。

 軽く微笑みながら、黒ウォズは声を大にする。

 

「ちょうどこの特異点の修正が終わる頃に、2016年はやってくるでしょう。

 ―――祝え! 新年の到来を!」

 

 闇の中、祝福の言葉を叫んだ彼。

 それを終えると彼は腕を下ろし、踵を返して闇の中へと消えていく。

 

 ―――ゆっくりと、ゆっくりと。

 彼が先程まで背にしていた時計の針が回り続ける。

 

 黒ウォズが姿を消せば、六人のライダーたちの姿もまた消え去って―――しかし。

 その暗闇の中に、オレンジ色の光がぼんやりと浮かび上がった。

 

 まるで人魂のように暗闇の中で燃えるその顔。

 それこそが、仮面ライダーゴーストの姿。

 暗闇に浮かぶオレンジ色が、やがて熱を増したかのように赤く染まる。

 

 燃え上がる炎のように、全身が赤く染まったゴースト。

 彼の腕が動き出し、その手がゆるりと印を結んでみせた。

 

 先程まで六人のライダーが立っていた場所。

 そこに同じ数の、まったく別の人影が炎のように浮かび上がり―――

 すぐに、何事もなかったかのように消え去った。

 

 

 

 

「……なるほど、なるほど」

 

 右腕を呪布で完全に覆った髑髏面、呪腕のハサン。

 現状動いているハサンを統率しているらしい立場の彼は、村の中央で盾を設置しているマシュを見ながら、低い声で状況を確認するように何度もそう呟いていた。

 

 そんな彼の様子に対して、オルガマリーが目を細める。

 彼女は現状の確認をし、一週間待たずに聖都を攻略するという方針を話した。

 その上で、一応オジマンディアス王に干渉した存在に心当たりはあるか、と問いかけている。

 

 なければ即座に否定できる類の質問だと思う。

 それだけあのファラオは強靭な存在だ。

 やったかどうか以前に、やれる技量を持つ存在がいるかどうかという篩があるのだから。

 

「……確かに聖都正門での決戦は拮抗するでしょう。

 ですが、それでは何ともならないのはご存じかな?」

 

 考え込んでいた呪腕が髑髏面越しに彼女と視線を交わした。

 彼が口にする言葉の意図が分からず、問い返す。

 

「何ともならない? それはどういう……」

 

 視界の端で、マシュたちが地脈に召喚サークルの設置を完了していた。

 そのままの流れで、タイムマジーンその他を送り込む準備が開始される。

 マジーンがあれば移動、戦闘。どちらにも貢献するだろう。

 呼び出した後のマジーンの初仕事は、エジプト領への連絡になる予定だが。

 

 それを横目にしながら、呪腕は言葉を続ける。

 

「……異教の神の助力により、聖都を覆っていた光の壁。

 あれは円卓の騎士の出陣だけでなく、聖槍を防ぐためのものでもありました」

 

 口を開いた呪腕が語るのは、聖都を覆っていたオレンジの話。

 既にそれは鎧武の撃破と共に破られ、消え失せてしまった。

 今の聖都―――獅子王に聖槍を放つ事への枷はない、と。

 

「それが消失した以上、獅子王の槍はこの大地の全てが射程距離。

 もちろん、獅子王がアーラシュ殿のような“眼”を持たぬからには、どこにいる相手でも狙い撃てるというような状況にはならないでしょうが……少なくとも聖都直近の荒野ならば、いとも簡単に吹き飛ばせることでしょう」

 

「それは、つまり……」

 

 今後の聖都正門前の戦場は、玉座にありながら獅子王の射程距離。

 その一撃は聖都の外壁が吹き飛ばされた時に見ている。恐らく鎧武からの反撃との激突で減衰したにも関わらず、鎧武を撃破してその上で聖都の壁に孔を穿つほどの破壊力。

 それが常に戦場を狙っているという状況で、決戦しなければならないということ。

 

「仮に止められる者がいるとするならば、それこそアーラシュ殿くらいなもの。

 それもたった一撃だ。勿論、獅子王側には弾数制限などありますまい」

 

「でも、それって自分の仲間も巻き込むことになるんじゃ?」

 

 つまりは円卓を足止めに使い、獅子王が敵諸共に吹き飛ばすという話だ。

 そんなことをするだろうか、と。ツクヨミが疑問の声を上げる。

 

「……恐らくはやるでしょう。むしろ、円卓の方からそれを望むかもしれません。

 前回の彼らの様子を見るに、彼らも私を絶対の脅威と見ているようですので」

 

 だが、その意見に対してべディヴィエールは肯定を示した。

 円卓は獅子王のためならば、全てを擲つ。

 各騎士たちの反応を思い出しても、そこに疑いの余地はないだろう。

 

「つまり……正門前で時間を稼がれたら、そこで全滅しかねない?」

 

 先の戦いでそれがなかったのは、難民の中から聖抜に選ばれた民を確保するため。

 そして仮面ライダー鎧武の乱入があったためだろう。

 次にあの場で決戦を行う機会は、聖槍を防ぐ防波堤は何もなくなる。

 

「ですな。それを考慮して……ひとつ、提案がございます」

 

「提案?」

 

 呪腕は小さく息を吐き、数秒。

 それ以上を言葉にすることを躊躇うように、黙りこくった。

 

「―――もしや……アズライールの廟、という?」

 

 はたして、その名を挙げたのはべディヴィエールが先だった。

 少し驚いた様子で肩を揺らす呪腕。

 

「……ご存じでしたか」

 

 彼の反応は、気が抜けたような苦笑交じりの声。

 皆で揃ってその名に首を傾げる。

 

「アズライールの、廟?」

 

「ええ。我ら山の翁の始まりにして終わり。初代山の翁の御座す霊廟です。

 ……恐らく、オルガマリー殿の言うエジプト領のファラオに傷を負わせたのもあの方かと」

 

 彼はそう、微かに硬くした声で語る。

 出てきた情報に目を見開いて反応するオルガマリー。

 

 本当にそれが出来るだけのサーヴァントであったなら、状況も変わる。正門の短時間での攻略ははっきり言って無理だろう。円卓の騎士の個々の戦闘力もそうだが、それ以上に彼らはただ時間を稼ぎさえすればいい。それだけで、獅子王による裁きがこちらを全滅させるシチュエーションだからだ。円卓に聖都を背に防衛戦の構えに徹されては、崩しようがない。

 

 こちらは無理にでも攻めなければならず、相手はただ守るだけでいい。

 この状況である時点で、こちらの圧倒的な不利は否めない。

 だとするならば、一番現実的な手段として、同時攻略を行うしかないだろう。

 

 正門の戦力を抑える部隊。聖都内で獅子王を撃破する部隊。

 その二つに戦力を分け、同時に仕掛けるしかない。

 こちらが聖都内に侵入していれば、獅子王も外を狙う余裕はないはず。

 いや、余裕が出来ないほどに攻め立てなくてはならない。

 

 その方法を取るためにはべディヴィエール含む戦力を聖都内に送りつつ、正門の騎士を押し留められるだけの戦力を用意しなくてはならないのだ。

 

「アズライールの廟までは私の案内でもって往復二日といったところ。

 できれば早い内に、彼の地に向かいたいのですが……」

 

「……この村に来るまでに二日。ここから更に二日……流石に休みなしじゃ決戦もできないわ。

 帰ってきてから村で一日休み、この村から再び聖都まで半日……」

 

「ギリギリかな?」

 

 決着までの猶予期間は約一週間。

 ―――とはいえ、一週間経った瞬間に世界が滅びるわけではない。

 だがどちらにせよ、それが最初で最後の反撃の機会になる。

 

「そうね。だとしたらもう、二手に分かれて片方はエジプトに行かせましょう。

 余裕を取って六日後の……そういえば、ギフトが消失するケースってあるのかしら……?」

 

 今の時間から見て、六日後の正午から戦闘を始めようとしたオルガマリー。

 が、彼女は考え込むように途中で違う話を始めた。

 

 円卓の中でも最大の壁、太陽の騎士ガウェイン。

 彼のギフト、“不夜”は何時如何なる時間帯でも空に太陽を昇らせる。

 だがそのギフトが消失する場合があるとしたら、実際の時間は昼からずらすべきか。

 

「獅子王が与えたもの……だったら獅子王を倒さなきゃ消えないんじゃ?」

 

 現実的に考えて、と。

 ツクヨミはそのケースの想定は無駄だろうと語る。

 

「うーん。でも折角だし、もしもの時を考えて日暮れに始める?」

 

 対してソウゴは、どっちでも変わらないなら、別に夜を待ってもいいのでは、と。

 その意見に対してツクヨミが少し悩むように俯く。

 

 どっちでも変わらないなら、人間はパフォーマンスが低下する夜を待つのはマイナスだ。

 夜にきっちり休み、昼に戦闘をした方がいいに決まっている。

 相手も能力が落ちるならともかく、サーヴァントに昼夜は関係ない。

 無理をすることになるのは人間のマスターだけだ。

 

 だが万が一ギフトの効力が消えるようなことがあれば、という話だ。

 あまり意味のない想定だろう。が、もしもの時に得られるリターンが大きすぎる。

 ツクヨミは小さく息を吐き、そのままオルガマリーに視線を送った。

 どっちにも選ぶ理由がある。なら、後の判断は指揮官である彼女に一任するべきだろう。

 

「……まあ正午でも夕方でもどちらにせよ強制的に昼になるのだろうけど。

 でもそうね。決戦の開始は六日後。日暮れを待ってからよ」

 

 決定を下したオルガマリーに対し、ソウゴとツクヨミが首を縦に振る。

 丁度そうと決めた時、向こうで召喚が終わっていた。

 

 地上に降臨するタイムマジーン。

 今の流れから行くと、あれにはエジプトまで飛んでもらうことになるだろう。

 それを見て、オルガマリーは呪腕に声をかけた。

 

「悪いわね、少し時間を頂戴。

 どんな風にメンバーを分けるか、こちらで決めてしまうから」

 

「ええ、構いません。こちらも引継ぎをして準備をしておりますので」

 

 こちらにいたカルデアの人員が、マシュたちの方へ向かっていく。

 一緒に送られてきた物資は全部マジーンのコックピットの中だ。

 突然現れたエアバイク型の機械に、周囲で子供たちが騒ぎ出した。

 

 その喧噪に取り残された呪腕の背後から、静謐がぽつりと小さく呟く。

 

「……その、よろしかったのでしょうか。呪腕の翁」

 

「―――よろしいも何も。この状況、覆すにはこれしかあるまい?

 何、この世界を守るためだ……」

 

 小さく、小さく、小さく。

 静謐にさえ悟られぬ静けさで、呪腕がその視線を巡らせる。

 彼の視線が捉えるのは、百貌がこの村の預かりとして置いていった百の難民。

 その中に混ざった、一組の母子。

 

 少年は多くの子供たちに混じり、突然現れた機械にすごいすごいと騒ぎ立てている。

 その少年を落ち着かせようと、少年の母が苦心していた。

 

 ―――この地で、一応の安寧を得られたこと。

 彼女たちはそれに酷く安心しているように見えた。

 

「―――今更この首ひとつ程度、彼の御方の持つ天秤に乗せるには軽いものだ」

 

 静謐からの問いへの返答に似合わない、酷く優しげな声が出た。

 それにハッとして、小さく咳払いする。

 

「………?」

 

「アーラシュ殿に留守を頼んでくる。何かあったら呼んでくれ」

 

 そう言って風景に溶けていく呪腕の姿。

 それを見送って、静謐はカルデアの面々に視線を向ける。

 毒の身でひっそりと彼らに近づくのも失礼だろう。

 難しい話だと、彼女は仮面の下で困り顔を浮かべた。

 

 

 

 

「オジマンディアス王は常磐に任せるわ。なんか相性よさそうだし」

 

 状況の説明をおおよそ終えて、開幕一言。

 オルガマリーはそう言って大体決定、と言わんばかりの態度を示した。

 

「それはいいけど。

 エジプト行きは俺とアレキサンダーとダビデ、ってこと?」

 

 マスターとサーヴァントを分ける意味はあるまい。

 が、あくまで同盟地への伝令だと考えるなら戦力も必要ない。

 

「―――あとツクヨミ、モードレッド、フィンもそっちにね。

 こちらはわたしと藤丸、そのサーヴァントと道案内のハサンね。

 あなたたちはどうする? 村で待機してくれていてもいいと思うけど」

 

 だが彼女はそちらにも戦力を割いた。

 

 そこまで口にしたオルガマリーが、三蔵法師と俵藤太を見る。

 今回はどちらも一応は戦闘を前提とした活動ではない。

 仮に戦闘を行うことになるとしても、道中にでてくる魔獣相手の話だろう。

 

 何なら彼らは食料班として残ってくれてもいいのだが―――

 藤太は最初に会って以降、“無尽俵”を使っていない。

 最初の時に出しすぎて、ほとんど充填がされていないらしい。

 彼の存在で食糧事情を改善するのは、流石に無理だったようだ。

 

「うむ。そうさなぁ……」

 

「よく分からないけど、エジプトまではその大きな機械でひとっ飛びってことよね?

 ―――ええ、それすっごく楽しそう。楽しそうだけど……あたしたちは、御山に登る方に同行させてもらいます。多分、そっちの方にあたしたちが必要とされていると思うの!」

 

 悩もうとする藤太を遮って、にこやかに断言する三蔵。

 そうした彼女を見て、確認するように藤太に視線を送る。

 彼はその態度を見て溜め息ひとつ、軽く片目を瞑った。

 彼女の言葉に一切迷いはなく、そういう時の彼女の頑固さを彼は知っている。

 

「―――だそうだ。こうなったこやつは泣き喚いてでも意見を通す。

 拙者も着いていく他ないだろう」

 

「何よ、嫌なの? トータってば、ちゃんと弟子の自覚はある?」

 

「どうだろうなぁ」

 

 ぷんぷん、と。腰に手を当てながら怒りを示すジェスチャー。

 藤太はそれに対して首を傾げてみせた。

 

「……では玄奘三蔵と俵藤太はこちらに参加、ということで。

 呪腕のハサンが戻り次第、アズライールの廟という場所に向かいましょう」

 

「じゃあ俺たちも行こっか。オジマンディアスに準備してもらって……

 一回こっちに戻ってくるべき?」

 

 通信機もあることだし、ソウゴたちは開戦までエジプト側で待機―――

 という選択肢もなしではないだろう。

 こっちに所長と立香、向こうにソウゴとツクヨミ。

 その状況で通信を取り合い、動くタイミングを合わせられる。

 

 相手には砲台のような聖剣使いが二人もいる。

 正面から突撃よりは、囲うような陣形の方がいいだろう。

 もっとも、それを撃たせないために今から動くのだが……

 

「そうね……とりあえず目的を果たしたら通信で連絡を。その時点の状況で決めましょう。

 不測の事態で通信が取れなかった場合は、村での合流を最優先して」

 

「分かりました」

 

 通信が取れないだけならば、村に集合を決めておけば解決する。

 村にも帰ってこれない状況だったなら大問題だが。

 だが今の段階からそれを考えていてもしょうがない。

 

 ツクヨミが了解の意を示し、動き出す。

 タイムマジーンに乗り込んでいくエジプト行きのメンバー。

 

 ―――そうして飛び立つ飛行機械が、空の彼方へ飛んでいく。

 それを見送った立香が、三蔵へと向き直った。

 

「ところで、三蔵が山の方を選ぶ理由って?」

 

「理由? んー……別に理由というか……何と言うか、ね。

 正直に言うと、あたしとしてはどちらにも味方をする気はなかったんだけど……あ、このどちらにもっていうのは、聖都にも御山の民にも。もちろんエジプト領にも、ってことね」

 

 この時代に残る勢力、その全てに対し協力する気がない、と。

 不思議な話だがそれはそれとして、だ。

 その話が山とエジプトの行先選びに何の関係があるのか。

 

 そう言いながら、彼女は少しだけバツが悪そうな表情を浮かべた。

 そしてどう言うべきか、と。

 口の中で言葉を選びながら、何とか外に出してみせる。

 

「―――ええ、彼らがただ民を救うための為政者であったなら。

 あたしは彼らの取捨選択という悪に、口を出そうとは思わなかったでしょう。

 けれど彼らが世界の為でなく、己の心の救いを求める者であったならば……

 きっと御仏の掌は、彼らにこそ差し伸べられるべきものでしょう?」

 

 三蔵の言葉を聞いて、微かに目を伏せるべディヴィエール。

 

「うーん……それは円卓の騎士に、ってこと?」

 

「そ! その上できっと、()()()()()その為の道だと御仏が言っている気がするの!

 というわけで、御仏の掌の上に乗った気分でどーん! と構えていなさい!」

 

 そう言って大きい胸を叩き、逸らす玄奘三蔵。

 彼女の宣誓に対してそう上手くいけばいいがな、と藤太は胡乱げな表情を浮かべた。

 

 

 

 

「タイムマジーンなら多分、往復で半日かからないわね。

 オジマンディアス王との話がすぐに終わればだけど」

 

 ツクヨミがモニターに映る周囲の状況を見回しながら、マップを確認する。

 

 到達するのは砂漠、オジマンディアス王の直轄するエジプト領。

 その場にはもう既に、ニトクリスによる攪乱の砂塵が復活していた。

 魔術的な砂塵の中に突っ込むよりは、と選んだ機動は雲の上からの接近。

 直上から大体の位置を決め、ゆっくりと降下していくつもりだ。

 

「つーかせめぇよ。こんなに乗る必要あったか?」

 

 搭乗したのは六人。

 すし詰め状態のマジーンの中で、モードレッドが文句を出した。

 フルアーマー姿の彼女が、恐らく一番場所を取っているのだが。

 確かに狭いとは思っているのか、フィンも肩を竦める。

 

「まあ致し方あるまい。恐らく円卓が出陣することなどありえないが、絶対ではない。

 各個撃破されるリスクは極力排するべきだろうさ」

 

「全員載せてたら撃墜された時、逆に危ねーと思うけどな」

 

 そう言って軽く鼻を鳴らすモードレッド。

 他の連中ならまだしも、獅子王の聖槍やガウェインの聖剣は特にその恐れがある。

 あの両者の攻撃は、ウォッチで防御行動をとっても致命傷になりかねない威力だろう。

 

「まあ魔力の消費もないマスターのバイクで一人は下を走って追いかけてくる、でもいいかもしれないけど……結局砂漠は越えられない。

 戦闘の気配を感じたらすぐに飛び降りて戦線を展開、対応するしかないね」

 

 結局のところ、最大の敵は時間だ。

 この手段以外ではあまりに時間が掛かり過ぎるからこうしている。

 その上で、もしも戦闘になった場合を想定してしょうがなくこの人員の詰め込みだ。

 

「展開もクソも今のこの高度じゃ飛び降りも出来ねえ……?」

 

 そう口にしたモードレッドが言葉を切り、静止する。

 未知の感覚に静止したのは、彼女の直感故だろうか。

 その様子を目にした瞬間、ダビデが声を上げた。

 

「マスター、下だ! ()()()()()()()()()()!」

 

「――――白ウォズッ!」

 

 彼の言葉を聞いた瞬間、ソウゴがマジーンの操縦桿を引いた。

 そうして機首を上げようとしたマジーンの下。

 雲を下から突き破り、白いタイムマジーンの腕が彼らの機体を掴んでいた。

 

「やあ、魔王。この前は協力したけれど、今度は敵対させてもらうよ。

 ()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()。まったく、感謝して欲しいものだ」

 

 頭部にウォズのウォッチを装備したマジーン。

 その馬力はソウゴのマジーンの推力を凌駕し、思い切り引きずり込んでいく。

 雲を裂き、砂嵐の中にまで引っ張り込まれる。

 途中でツクヨミがソウゴから操縦桿を奪い、彼に向かって叫んだ。

 

「ソウゴ、変身して! このままのタイムマジーンじゃパワーが足りない!」

 

「分かってる―――!」

 

 ソウゴが即座にジクウドライバーを装着する。

 その間にもツクヨミの手により、タイムマジーンは人型に変形。

 頭部にブランクウォッチが装着された。

 

「流石ツクヨミくん。手慣れているね」

 

 白ウォズが引っ張り込んでいる相手が変形したのを理解し、掴んでいた手を放す。

 そのままの勢いで足を振り抜かせ、地面に向かって蹴り飛ばした。

 

 砂漠の大地に着弾し、盛大に砂の柱を立てるタイムマジーン。

 

「くぅうう……ッ!」

 

「チッ、だが地面に降りた! まずオレたちを下ろせ、地上からでも撃墜して―――」

 

 外へと出ようと身を乗り出すモードレッド。

 吹き飛ばされそうになっていたソウゴを支えていたダビデが彼女を止めようとする。

 ハッチを開いて無防備を晒すのは、せめてライドウォッチが使えるようになってからだと。

 

「残念。私の目的は既に達したよ」

 

 だがその前に。

 タイムマジーンが着地した砂漠が割れていく。

 その大地に立つもの全てを呑み込むように。

 

「流砂……!?」

 

「いや……なんだ、落とし穴……!? こんな砂漠の真ん中に―――?」

 

 推力を発揮する間もなく埋もれていく機械の巨人。

 その巨体が砂まみれになって、奈落の底へと落下を始めていた。

 ツクヨミがすぐに体勢を立て直さんと操縦桿を握り締め―――

 

 連続する爆音、絶え間なく押し寄せる振動。

 ウォズのマジーンから発射された無数のミサイル。

 その爆炎が彼らのマジーンを一息に包み込んでいた。

 

 ―――体勢を立て直すこと叶わず、落下していくタイムマジーン。

 それを見送って、白ウォズは自身のマジーンを着陸させる。

 ハッチを開けてそこから姿を現す銀色の影、仮面ライダーウォズ。

 

 彼は地面に残った大穴を覗き込み、魔王たちが戻ってこないことを確認。

 そうしてから肩を竦め、マジーンへと戻っていく。

 

「さて、まあこれで時間稼ぎにはなるだろう……話が長そうだからね、彼は」

 

「時間稼ぎをしてどうするつもりだい?」

 

 その途中、自分と同じ声が耳に届いた。

 もはや確認するまでもなく誰なのか分かる相手―――

 

 白ウォズが向き直った先には、黒ウォズがいた。

 彼はストールを翻して砂塵を弾きながら、砂漠の上に立っている。

 

「どうもしないさ。いま時間が必要なのは、君たちの方だったと思うけどね?

 待っているんだろう? 年明けを」

 

「―――仮に私がそうだったとして、君がそうする理由はあるのかい?」

 

「ははは、だから私の行動は全て我が救世主のためだと言っているだろう?

 魔王にも最低限、我が救世主に対抗できる程度の力はつけさせるさ。

 そうでなくては私の目的も果たせないからね……」

 

 そう言うと白ウォズはそのままタイムマジーンに乗り込んだ。

 すぐさま飛行し、この場所から離れていく彼。

 

「ではね、もう一人の私。君たちは君たちで頑張るといい」

 

 飛び立ち、砂漠を突き破り消えていく機体。

 それを苦い顔で見送った後、黒ウォズもまたストールを渦巻かせてその場から消え去った。

 

 

 




 
デメテルが一番全能の神みたいな強さだったんですがそれは。
全能より全農、はっきり分かんだね。
ファーマーズフェスティバル、デメテルパーフェクト。

U-所長のUは恐らくウラタロス憑依ということでしょう。
その正体は異星の神ではなく異星の亀だったというわけだ……謎は全て解けた。


このSSにおいてゴースト以降のライダーは基本「まだ始まっていないもの。始まっているけど終わっていないもの」として扱われます。

つまり今後書くつもりである、
・特異点G:生命破却侵略(インベーダー・オブ・デストラクション)
 ■■■■■■■・■■・■■■2016「命の叫び」(改名)
・亜種特異点LEVEL.XX:命運裁決運営
 クロノス・クロニクル2017「EX-AID消失」(セイレムの前)
・Lostbelt another Phase:創造表裏破壊
 エボルテック・アナザーワールド2018「匣の中の真相」(アトランティスの前)

とかいういつ読めるかも分からん話の中では、物語の中心に置かれる主人公はソウゴ以外のライダーになるでしょう。たとえば特異点Gでは物語の中心は天空寺タケルになり、ソウゴの目的は特異点Gを戦い抜いた彼から最終的にライドウォッチを受け継ぐことになるということです。
 

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