Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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決死の聖都突入作戦!1273

 

 

 

 聖都に迫りくる機動大神殿。

 それに続くように、サーヴァントの群れ。

 

「―――――初撃は私が」

 

 その到来を聖都正門で迎えた騎士が、聖剣を掲げる。

 ――――太陽が昇る。

 “不夜”を約束された彼の戦場に落陽はなく、常に日差しが降り注ぐ。

 

 聖剣が空を舞う。

 放られた聖剣が、彼の頭上で円を描いて太陽を象った。

 内包する疑似太陽から溢れ出す熱量が戦場を照らす。

 

「我が剣は太陽の具現。王のため、地上の一切を灼き払うもの―――!」

 

 熱が地上を焼き払うほどに高まっていく。

 剣はやがて騎士の手元に戻る。その熱を帯びたままに。

 振り上げられる、圧倒的熱量を乗せた刃。

 

 まさしく太陽の具現。

 その聖剣を振るうと同時に、彼は高らかにその銘を叫んだ。

 

「“転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)”――――!!」

 

 ―――聖都正門。

 そこを王より任された太陽の騎士は、輝き続ける陽の光の許。

 誰よりも先に、全てを焼き尽くす熱量を解放した。

 

 

 

 

「フ、ハハ――――ッ! この余を前に太陽の具現を名乗るか!

 やはり聖剣使いにろくな奴はおらぬな―――

 よかろう、真の太陽の輝きというものを余自ら見せてくれるわ!」

 

 空舞う神殿“光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)”。

 エジプト領から飛び立ち、そのまま飛来したファラオの城。

 その玉座に腰掛けながら、ファラオ・オジマンディアスは盛大に笑った。

 

 ひとしきり笑ったあと、彼の表情が凶悪に歪む。

 

「―――大神殿開眼! デンデラ大電球、起動!

 これより、不遜にも余の前で太陽の騎士を嘯くものに裁きを下す!

 聖槍による反撃に対する対粛清防御は維持しつつ、主砲装填!

 この大灼熱こそが我が怒りにして神威である!」

 

「は―――! 大電球、魔力圧縮加速儀式、開始します!」

 

 ニトクリスが彼の指示に応え、大神殿の舵を切った。

 彼女の復唱とともにデンデラ大電球への魔力充填が執り行われ―――

 空中神殿外部、ピラミッドの目が開く。

 

 開かれた目から溢れる神罰の雷。

 確保しておかなければならない魔力を残し、残る全てがその神威に込められる。

 この戦場における大神殿のもっとも大きな役割。

 獅子王の聖槍による神威を阻むという、大偉業のための力だ。

 

 聖剣を前にそのハンデを負っていること。

 そんな事実を鼻で笑い、太陽王が玉座に腰かけたまま叫ぶ。

 

「円卓の騎士ガウェイン。余の光輝の許、片手間に始末してくれるわ―――!!」

 

 ―――聖都近郊、上空。

 

 空中に浮かぶ黄金の神殿の目から、神罰が下される。

 太陽の似姿から降り注ぐ灼熱の大熱波。

 それは一直線に聖都に向かって放出され―――

 

 

 

 

 二つの太陽の輝きの激突と共に。

 この特異点における、最後の戦いの幕は切って落とされた。

 

 

 

 

「――――」

 

 ブーディカの戦車の上で、目前に迫ってくる聖都の門を見る。

 戦場は二つの太陽の激突により、地獄のような熱量が撒き散らされていた。

 人の身でこの場に同行している立香も、相当辛いだろう。

 

 けれど、べディヴィエールにとっては大した熱と感じなかった。

 右腕から伝わってくる熱が、彼の目を覚ましてくれている。

 聖都を前にして、万感の想いが自然を口を衝く。

 

「やっと……あなたに……」

 

 そんな彼に対し、雷鳴の如き怒声が叩き付けられる。

 

「見つけたぜ、べディヴィエール!!

 テメェだけは、行かせねえんだよ―――!!」

 

 戦場に奔る雷光。

 地獄の熱量の中、赤雷が熱波のカーテンを食い破りながら躍り出る。

 戦車目掛けて飛んでくる白モードレッド。

 

「白モードレッド、来ます―――!」

 

 戦車の上でマシュが盾を構え、彼女に対して備えた。

 この戦車に同乗するサーヴァント。

 清姫、オルタ。そして当然、ブーディカが身構える。

 

 だが彼女たちがここで戦闘を行うことにはならなかった。

 遥か後方から、全力で加速してくるもの。

 その上に掴まった騎士が、彼女たちに迫るモードレッドに対し吼え立てる。

 

「テメェこそ引っ込んでろ、オレが相手してやるからよ―――!」

 

 戦車に迫る白モードレッドに対し、殺到するタイムマジーン。

 その上に乗っている赤モードレッドが、もう一人の自分に叫んでいた。

 

「揺れるよ―――ッ!」

 

 ブーディカの注意が飛び、彼女が手綱を引いてみせる。

 白馬の嘶きとともに戦車が思い切り揺すられた。

 戦車がその衝突に巻き込まれないように軌道を変え、その次の瞬間―――

 

 空中で激突する、二人のモードレッド。

 それが放つ赤い稲光が戦場一帯へ盛大に轟いた。

 

 彼女たちの衝突を見ながらも、人型に変形して着地するタイムマジーン。

 そこからツクヨミの声が立香たちに届く。

 

「ここは私とモードレッドが!」

 

「お願い!」

 

 そのままスピードを落とさずに走行を続ける戦車。

 聖都正門を目掛けて、脇目も振らずに。

 手綱を握り直したブーディカの指示に従い、白馬は全力疾走を継続した。

 

 舌打ちする白モードレッド。

 彼女が即座に、べディヴィエールたちの追撃にかかろうとする。

 が、それを赤モードレッドは逃がさない。

 

 ギリギリと刃金が削り合う音を立てながら言葉を交わす二人。

 

「テメェ……!」

 

「すっこんでろよ、叛逆の騎士―――!」

 

「ッ、うるせぇ―――ッ!!」

 

 雷光が弾ける。赤雷が衝突し、爆散する。

 タイムマジーンが放つレーザーの援護射撃を受けながら、二つの雷が交差した。

 

 

 

 

「チィ……!」

 

 アーラシュの展開する弾幕が、全て一人の騎士を目掛けて放たれる。

 その中に更に混じるのは、アーラシュのそれに負けぬ強弓、俵藤太の矢。

 それを疑似宝具と化した剣二振りで弾きながら、ランスロットは集中する。

 

 ―――放たれた。

 ダビデ王から放たれる必殺必倒の投石。

 それは回避も許さず、確実に相手を仕留めるための一撃。

 

 だからこそ、ランスロットは回避は選ばなかった。

 一瞬剣から手を放し、()()()()()()()()()()

 その瞬間、それはダビデ王の宝具からランスロットの宝具へと切り替わる。

 

 とはいえそれはダビデ王が投げたからこそ宝具となったもの。

 支配権を奪ったところで、投げ返す頃には既にただの石だ。

 それでも宝具化された石の投擲。

 当たればただでは済まないだろう一撃を、フィン・マックールが受け流す。

 

 即座に手放した剣を再び掴み、矢を切り払い続ける。

 

 射手への踏み込みは水の槍が阻む。

 槍の勇士の打倒は矢の雨が阻む。

 

「おのれ、これでは――――!」

 

 時間を稼がれている。

 大英雄三人に古代イスラエルの王。

 それをランスロットが一人で止めている、とも言える。

 だが時間は今、円卓の騎士に味方しない。

 

 苦渋の顔で頭上を見上げる。

 ファラオの神殿がゆっくりとこちらに近づいてくる。

 ガウェインの聖剣と撃ち合い、相殺した上での侵攻。

 

 聖槍の一撃でさえ一度だけなら耐えられるだろう、王墓という名の天蓋。

 それが戦場の上に陣取れば、上から来る聖罰はあれが受け止めることになる。

 いや、そのつもりでファラオはこの軌道を選んでいるのだ。

 

 だから、動かなければならない。

 べディヴィエールを目掛けて、何としても。

 

 だというのに、この制圧射撃。

 下手に動けば死ぬのはランスロットの方だ。

 死ぬのはいい。だが、今度こそ無意味に死ぬわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

「聖都に接近! 聖城において魔力反応増大―――!

 これは、聖槍のものです!」

 

 ニトクリスが叫ぶ。

 聖都から溢れ出す膨大な魔力は、太陽の聖剣とさえ比較にならない。

 これが戦場に降り注げば、一帯が消滅することに何ら疑いもない。

 

 移動に使える出力さえ惜しまなければならない中。

 しかし大神殿は聖都の戦場の上に陣取った。

 ここならば、聖槍の一撃をこの大神殿が受け止めることが出来る故に。

 

「は、見れば分かるわ! 対粛清防御を全開!

 ふん、下も手が足らんと見える! ダレイオス及びスフィンクスを投下!

 ガウェインの奴めに自由を与えるな!!」

 

「は! ファラオ・ダレイオスを投下……!

 ということなので、その、よろしいでしょうか。ファラオ・ダレイオス……?」

 

「…………」

 

 同じく玉座の間にいるダレイオスに確認をとるニトクリス。

 無言で鎮座する彼に困ったような表情を浮かべる彼女。

 そんな二人に対して、黄金の王は早々に怒声を浴びせた。

 

「さっさとしろ莫迦者! いつまで遊んでいるつもりだ!」

 

「は、はい! 申し訳ございません!

 では失礼して、ファラオ・ダレイオス。並びにスフィンクス―――投下!」

 

 ニトクリスの手により転移する複数の巨体。

 複数のスフィンクスと、ダレイオス三世。

 

 彼は大神殿外の空中に投げ出され、その眼下を見た。

 ガウェインを制圧するために戦場を駆けるアレキサンダー。

 その風に靡く赤い髪を空から見て、全身に力を漲らせる。

 

「I、s、kandarrrrrrrr―――――ッ!!!」

 

 大地が啼く。そこから漆黒の波が立ち、無数の死者が湧いて出る。

 地面に着弾したダレイオスの巨体を弾き返す、死者の群れ。

 不死の兵士は絡み合って戦象となり、ダレイオスを乗せ進軍を始めた。

 

 彼の進軍に続き、スフィンクスたちが戦場に舞う。

 薙ぎ倒されていく粛清騎士たち。

 

 ―――その頭上で、黄金の神殿に聖槍の裁きが突き刺さった。

 

 

 

 

 壮絶な爆音が周囲に轟き、天蓋となっていた大神殿から炎と煙が上がる。

 聖都、玉座より王が展開した聖槍の力だ。

 

 その槍の一撃は天に昇り、降り注ぐことで大神殿を震撼させた。

 だが、それだけだ。

 

「――――ッ!」

 

 ガウェインが顔を歪める。

 王より下された裁きは、オジマンディアスが受け止めてみせた。

 如何な大神殿とはいえ対粛清防御は貫通。

 その被害は恐らく甚大。既に戦闘に割く力は残っていないだろう。

 

 もはやガラティーンの相殺も不可能なはず。

 もう一度放つことができれば、相手の全滅は必至。

 

 そもそも、あのエジプト領の大神殿がそのまま攻め込んでくる。

 その時点で想定外だった。

 確かにあの大神殿ならば聖槍に一時的にでも対抗できる。

 だが、その行為を行った時点でエジプト領は人理焼却を逃れる術を失う。

 もはや博打のような一手を、あの太陽王が望むとは―――

 

 いや、もはやそんなことはどうでもいい。

 ブーディカの戦車は目前まで迫ってきていた。

 そこにはべディヴィエールも同乗しているのだ。

 確実に、ここで斬り捨てる。

 

 ガラティーンに魔力を込める。

 一切の加減はない。

 その命、真名解放による威力でもって、確実に灰燼と帰す。

 

 そうして意識を完全に戦車に向けていたガウェインの後ろ。

 空間が歪み、そこからウィザードアーマーが出現した。

 

 転移を察し、しかしそれでもガウェインは動かない。

 

「――――」

 

 同時に、戦車上で清姫とオルタが身を乗り出した。

 宝具を解放し、青い竜と化す清姫。

 その炎を後押しする黒い炎。

 

 ―――それを見た上で、一切対抗する必要なしと判断する。

 

 更に背後からジオウの攻撃による挟み撃ち。

 前回の戦いを思い出し、その攻撃力を推測する。

 それに対応せず鎧で受け止めながら、ガラティーンを振るう事。

 

 ―――可能だ。それを成し遂げれば、そこでこちらの勝利と……

 

〈フィニッシュタイム!〉

〈アーマータイム! オーズ!〉

 

 背後でジオウが装備を変え、手にした剣に力を纏わせる。

 感じるプレッシャーを考慮してなお、彼の確信は動かない。

 一秒先。確実に聖剣を放つために力を籠め続ける。

 

 青い竜が口腔の中に炎を溜め、一息に吐き出す。

 それに乗せられる竜を援護する黒い炎。

 炎の津波は一気にガウェインの許へと雪崩れ込み―――

 

 ―――そこから更に、白と黄土の炎を纏ってそれが加速した。

 

「――――なに!?」

 

 想定を遥かに上回る爆炎。

 彼のガラティーンには届かずとも、並の宝具を凌駕する圧倒的な爆熱。

 身構えていたガウェインさえも押し込むほどの熱量の氾濫。

 その炎の渦に押し込まれながら、横に逸れていたジオウとすれ違う。

 

 彼の纏うオーラは黄土に輝き、その頭部から蛇のような形状の光が揺れていた。

 同時に手に持つ剣が白い光に包まれ、形状を変えてみせている。

 まるで、笛と槍を組み合わせたかのようなフォルム。

 

 あるいは、仮面ライダービーストが逆境を跳ね除けた時の一瞬の記憶。

 名を、ハーメルケインとも。

 

「―――――ッ!?」

 

 ビーストウォッチを装着したジカンギレードが、笛として音を奏でる中。

 コブラ、カメ、ワニと変わったブレスターが黄土に輝く。

 笛の音に合わせて蛇を操るコブラ。音色に乗せて力を発散する笛。

 それらが全て、炎の大蛇と化した清姫に上乗せされていた。

 

 挟み撃ちではない。最初から全て彼女の一撃に乗せるつもり。

 清姫の力を竜の魔女が増す。

 その上にライドウォッチ二つ分、オーズとビーストを加勢させた。

 そうして放たれた極彩色の炎の渦は、一瞬とはいえガウェインを凌駕する。

 

 ―――結果としてその一撃は、ガウェインを炎の氾濫で押し流した。

 

「ぐ、ぅうう……ッ!」

 

 最初から対応するつもりであればまだ違っただろう。

 が、聖剣に全て込めていた彼の対応では遅すぎた。

 炎に吹き飛ばされ、太陽の騎士が隙を晒す。

 

 力を使い果たしたオーズアーマーが消えていく。

 が、ジオウはすぐさま次のウォッチを装着していた。

 天上より飛来する白いロケット。

 それが、彼を包み込む新たなアーマーとして装着される。

 

〈アーマータイム! フォーゼ!〉

 

 手に握ると同時、即座に噴出するブースター。

 フォーゼアーマーが空を舞い、ブーディカの戦車まで飛んでいく。

 

「こっちの後は任せて。行ってらっしゃい」

 

 彼女が戦車を僅かな間停止させる。

 そのまま剣と盾を構えた彼女に一度頷き、立香たちは立ち上がった。

 

「うん! 行こう、マシュ、べディヴィエール! ソウゴ、お願いね!」

 

「べディヴィエールさん、ソウゴさんに掴まってください!」

 

「―――はい」

 

「じゃあ、行くよ――――!」

 

 ジオウの右足からロボットハンドが出現し立香を捕まえた。

 マシュとべディヴィエールはそれぞれ彼の足に掴まり―――

 二基のブースターモジュールが全力で炎を噴いた。

 

 聖都正門の無敵の守り。

 太陽の騎士ガウェインは今はそこにいない。

 だがそれでも、まだもう一人―――

 

 妖弦の音色が空気の刃となって彼らを撃墜せんと奔る。

 

「―――私は悲しい。

 べディヴィエール卿、あなたという友人をこの手で誅殺せねばならないこと。

 ですが、その悲しみですらまやかし。私に悲しみなど……」

 

「トリスタン卿……!」

 

 空気を振動させて宙を舞い、空を翔けるトリスタン。

 それがフォーゼアーマーに追い縋ろうと弦を弾き―――

 

 直後に、ドカンと。

 圧壊する空気の壁が、虚空に走る音の刃を薙ぎ払った。

 

「――――!」

 

 空気という翼を砕かれ、トリスタンが地に落ちる。

 そんな彼の前に、見知った顔が姿を現す。

 

「玄奘三蔵……」

 

「ええ! あなたの悲しみならあたしが聞きましょう!

 彼の旅路の邪魔はさせてあげられないわ!」

 

 聞く耳など持たぬ、と。妖弦は彼女目掛けて刃を放つ。

 しかし彼が放った刃は、空気を圧し潰すかのような掌底に全て砕かれた。

 合間を縫って飛行するフォーゼアーマーが、聖都へと翔け抜けていく。

 その間に、彼女に対して礼の言葉が飛んだ。

 

「三蔵、ありがとう!」

 

「べディヴィエールだけでなく、あなたたちの旅路にも御仏の加護がありますように!

 ここはあたしたちに任せて、頑張っていってらっしゃい!」

 

 トリスタンの反応は即座のもの。

 彼は玄奘三蔵になど取り合わず、すぐさま取って返してジオウの追撃にかかる。

 

 そんな彼に放たれる、無数の短剣。

 総じて黒い刃は雨の如く、トリスタンの前に降り注ぐ。

 彼が一歩を踏み出し損ねた隙に、ロケットは正門へと接触していた。

 

 本来彼らに入れるはずのない場所。

 ―――だというのに、マシュが手を添えて門を押せば。

 その重厚な扉を開かれて、彼女たちをあっさりと迎え入れてしまっていた。

 

 それも当然だ。彼女には、彼女だけにはその資格がある。

 ギシリ、と。歯を食い縛り、トリスタンはその下手人を見た。

 

「―――山の翁」

 

 声は低く。呪腕、百貌、静謐。

 三つ並んだ髑髏面を光無き眼で睨む。

 

 もはや。もはや、円卓の騎士の無能は拭えない。

 拭う必要などないし、どうでもいい。

 通った人数は四人。それもどうでもいい。

 たった一人、べディヴィエールさえ道中で処分できれば。

 

 最後まで無能を晒したが―――

 あそこから先は、アグラヴェインに恃むより他にない。

 

「もはや何も言葉にすまい。早々に葬るだけ―――」

 

 そう言って、トリスタンは敵対者に音を奏でる。

 全てを切り裂く孤独の音を。

 

 

 

 

 聖都侵攻の切り札として得たのは、まさしくエジプト領の要。

 オジマンディアス王の大神殿だった。

 聖杯を動力とし全力駆動する“光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)”。

 それは結果として、ガウェインの聖剣を防ぎ、獅子王の聖罰をも防いだ。

 

 太陽王の力もまた、オルガマリーは小さく見積もっていたということになる。

 そうして始まったこの戦場の中、彼女は―――

 

「っ―――! アレキサンダー!」

 

 正門を突破してなお、立ちはだかるこの怪物。

 太陽の騎士ガウェインに圧倒されていた。

 

 構えた剣にその一撃が掠めただけで、アレキサンダーの矮躯が宙を舞う。

 即座にそれを拾いに行くブケファラスの巨躯。

 

 スフィンクスがガウェインを取り囲み、彼を引き裂こうとする。

 サーヴァントさえも容易に切り裂く爪の嵐。

 それをしかし、彼は剣の一振りで突破してみせた。

 腕を飛ばされて転がり、吼えるスフィンクス。

 

 その合間を抜け、再度ブケファラスが疾走する。

 ゼウスの雷霆。それをまるで小雨でも受けているかのように無視。

 踏み込むと同時に走る剣閃が、咄嗟に剣を構えた彼をまたも吹き飛ばした。

 

 直後ガウェインの下から無数の骸骨が蔓延する。

 掴みかかる死者の群れ。足のみならず腰まで。

 下半身が一気に拘束されて、微かに眉を顰めるガウェイン。

 

 そうして拘束した彼を轢き潰さんと、ダレイオスの戦象が殺到する。

 

「■■■■■■■―――――ッ!!」

 

 戦象がガウェインに激突すると同時に跳ぶ巨体。

 跳び上がりながら振り上げて、頭上から叩き付けにいく二振りの戦斧。

 

 ―――それを太陽の騎士は、一撃で打破してみせる。

 

 象の形を得ていた不死隊が砕け散る。

 ついでとばかりに戦斧ごとダレイオスが吹き飛ばされる。

 

 彼が剣を振り抜いた瞬間、殺到するのは黒い炎。

 地を這う呪怨の炎が太陽に届き、しかし彼の放つ陽光に引き裂かれた。

 

「っ……! 何なのよ、あれ! ホントに三倍止まりなわけ!?」

 

 こちらにはブーディカの戦車から得た加護がある。

 その守護の加護があってなお、彼と切り結べるサーヴァントはいない。

 だというのに、下手に離れるわけにはいかない。

 太陽の騎士には接近戦のみならず、太陽の聖剣があるからだ。

 

 彼女が援護しようにも、オルタ単体の火力ではまるで足りない。

 清姫は先程の初撃で限界まで酷使され、ほぼリタイヤ。

 それも当然だ。あんな化け物を吹き飛ばせるほどの攻撃をしたのだから。

 

 戦場の全てを圧倒しながら、ガウェインが一瞬だけ聖都に視線を送る。

 

「―――今度こそ、私は……!」

 

 ―――太陽の輝きは陰りを知らず、燦々と戦場に降り注いでいた。

 

 

 

 

「円卓の最高とも謳われた騎士、ランスロット卿。

 貴卿は何故このような戦いをするのだ」

 

 アーラシュと藤太、ダビデの射撃の嵐。

 それを凌ぎながらフィンと打ち合うランスロット。

 並の英雄であれば、すぐに撃ち抜かれていただろうその戦場。

 彼の湖の騎士の圧倒的な技量にのみ許された戦闘。

 

 そんな戦いの中、フィンが槍を構え直しながら問いかける。

 フィンには構え直す余裕があるが、ランスロットにそんなものはない。

 終始放たれ続ける矢の雨。

 それに対応し続けている彼に、余裕を気取る暇などなかった。

 

 だが―――

 

「―――そんなことは、決まっている。全て、我が王の為である……!」

 

 ランスロットが地面を踏み締め、加速した。

 フィンに接近して振り抜くのは、粛清騎士の持っていた剣。

 それを受け流し、付かず離れず、フィンは弓兵の攻撃の邪魔をせず、弓兵への攻撃の邪魔になる位置を保ち続ける。

 

 彼が抜いているのがアロンダイトだったならば、こうも簡単ではないだろう。

 だがこの場に限り、アロンダイトでは彼は対応しきれない。

 

 ―――ダビデの投石がランスロットを襲う。

 それを掴み、絶えず放たれる矢に投げ返しながら、他の矢を切り払う。

 

「そうとも……! 我らは全て裏切り者……!

 最期の供であったべディヴィエールでさえ、王を裏切った……!

 その結果が獅子王、()()()()()()()()()()―――!」

 

「…………ッ!?」

 

 ランスロットが両手に持った剣を投擲する。狙いはダビデ王。

 二振りの剣の飛来を、アーラシュの放つ矢が両方とも撃墜する。

 一瞬、ほんの僅か。緩んだ弾幕の中でランスロットが愛剣を引き抜く。

 他の宝具を全て破棄し、彼は聖剣であり魔剣たるアロンダイトを解放した。

 

「どのような戦いだろうと、してみせるとも―――!

 その果てに我らが地獄に落ち、円卓の騎士の名が悪魔のものとなろうとも!

 この魂を地獄にくべれば、我らが望みが叶うというのならば―――!」

 

 フィンが一気に身構え直し、その突撃を迎え撃つ。

 彼はもはや矢の迎撃すら考えない。

 祝福(ギフト)たる“凄烈”によって彼の性能が劣化することはない。

 性能が落ちなければ、彼の発揮する力は“無窮の武錬”によって保障される。

 

 腕を喪おうと、足を喪おうと、何を喪おうと。

 彼は動き続ける限り、王のための無毀なる湖光となる。

 

 

 

 

「どっちみち、オレたち円卓は全員この戦いの果てに死ぬ―――!

 父上の理想都市に戦いを知るものなんぞ要らねぇからな!」

 

 クラレントの激突。

 互いに兜を開けた二人のモードレッドが、何度となく刃を交差させる。

 至近距離で切り結ぶ彼女たちに、タイムマジーンの大味な援護が働かない。

 

「……お前らは……!」

 

「―――オレたちはこの世界なんぞとっくに切り捨てた! オレたちが救うことを考えている世界とは、これからも永遠を彷徨う父上の魂の安息所に他ならない!!」

 

 弾き飛ばされる赤のモードレッド。

 即座に宝具解放の様子を見せる白のモードレッドに、レーザー光線が見舞われる。

 舌打ちしながらそれを切り払い、彼女はタイムマジーンを睨む。

 

「あの方がただ安らかに、眠りにつける場所。

 それすら奪ったオレたちに出来ることは、それだけだろうが!

 今更おせえんだよ、べディヴィエールの野郎は!!」

 

 剣の一振り、赤雷が刃となってタイムマジーンを襲う。

 マジーンの表面装甲の上で弾ける雷光。

 

「きゃあ―――っ!?」

 

 雷に撃たれたその巨体が転倒し、地面に沈む。

 

「その点において。初めてオレやランスロット、アグラヴェインの意見すら一致した。オレたちに既に円卓の騎士の誇りはなく、騎士王の誇りを踏み躙った国賊として力を合わせる事ができると理解した」

 

 血色の極光が迸る。

 展開された“燦然と輝く王剣(クラレント)”が邪悪なまでに輝きを増す。

 その刃を振り被り彼女は。

 同じ存在でありながら決定的に立場が違う、もう一人の自分に対し―――

 

「…………!」

 

「“我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)”――――ッ!!」

 

 ―――振り下ろした。

 

 

 




 
ブラカワニと清姫でコンボを思いつくものの笛のネタが思いつかずにハーメルケインに逃げるの巻。
ビーストも一回使ったしままえやろ。
 

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