Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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彼の王が目指した未来は2015

 

 

 

 押し寄せる粛清騎士。

 ほぼ全軍外部に配置されていたのだろうが、それでも。

 聖都内に残っている騎士たちも少なくない。

 

「宇宙ロケットきりもみキィ――――ック!!」

 

 その中にロケットモードに変形したジオウが突っ込んでいく。

 集結して進撃を阻まんとした騎士たちが薙ぎ払われる。

 防衛線に大穴を開けながら、ジオウは敵軍の中心に着陸した。

 

 彼の後方、マシュが走りながら別の粛清騎士を殴り倒す。

 

「マスター! わたしの後ろに!」

 

「いえ、レディ・マシュ、前方には私が立ちます。

 あなたこそレディ・立香の背後への守りを――――」

 

 べディヴィエールが奔らせる銀色の閃光。

 それが粛清騎士を切り伏せ、床に叩き付けた。

 

 まだまだ湧いて出る敵の騎士たち。

 その最中を、ジオウを先頭に聖城を目指して走り続ける。

 

〈アーマータイム! ウィザード!〉

 

 赤い魔法陣が輝いて、ジオウに宝石の鎧を纏わせる

 その周囲に更に展開される三色の魔法陣。

 

 緑色の風が吹いて、その中に生じる雷。

 雷撃は竜となり、周囲の騎士に喰らい付きながら薙ぎ払う。

 続けて、その衝撃で体勢を崩したものたちの足ごと床が凍り付く。

 動きが止まった鎧たちが超重力に潰された。

 

 潰れた騎士の残骸を足場に、氷の床を踏み越えてくる後続。

 粛清騎士は無感動に、ただ敵を排除するために動作する。

 

〈アーマータイム! ダブル!〉

 

 宝石の鎧を脱ぎ捨て、緑と黒のメモリドロイドと合体。

 その身にダブルアーマーを纏うと同時、右半身を黄色に染める。

 

 くるりと翻す掌の動きに合わせ、うねる右腕。

 それはまるで、ゴムか何かのように伸びながら撓る。

 鞭の如く振るわれる腕が、駆け寄る粛清騎士たちを薙ぎ倒していく。

 

〈フィニッシュタイム! ダブル!〉

〈マキシマム! タイムブレーク!!〉

 

 左半身を青に染め、ジカンギレードを取り出しながら。

 ジクウドライバーに装着されたウォッチにそのエネルギーを解放させる。

 ギレードの銃口から迸る黄金の弾丸。

 それは不規則に、無軌道に、縦横無尽に駆け巡りながら粛清騎士を粉砕していった。

 

 大量の粛清騎士を一息に撃破して、再び走り出す。

 

 全力を尽くして道を拓くジオウ。

 それに走って追い縋りながら、立香は彼へと声をかけた。

 

「ねえ! そんなに力出して大丈夫!?」

 

 道中、ガウェインへの牽制のためにオーズとビーストの力も使い果たしているはずだ。

 その上、ここから先で恐らく最強の敵である獅子王が待っている。

 べディヴィエール……マーリンの秘策である、彼の右腕があるとはいえだ。

 

「―――俺がこの特異点に来る前の夢さ、多分ここの景色だったんだよね」

 

「……うん。その夢の中で見た事に、何か思うところがあったの?」

 

「多分……神様の力が必要になるんだ、きっと。だから出し惜しみはしない。それに……」

 

 そこまで口にして、ソウゴは押し黙った。

 彼が黙り込んだのを見て、立香もまた口を閉じる。

 

 ―――黒ウォズはこの戦いを終えてカルデアに帰還したら話す、と。

 そう言ってアトラス院から姿を消した。

 ホームズもまた、まだ調べなければならないことがあると。

 それは別にいい。だが、何だろうかこの感覚は―――

 

『―――ストップ! 近くにサーヴァントの反応がある!』

 

 そう悩んでいたソウゴの耳に、通信越しにロマニの声が届く。

 それを聞きとった瞬間、ジオウは足を止めた。

 すぐさま立香の前を遮るように腕を広げ、彼女にも足を止めさせる。

 

「―――――」

 

 聖城の前。最後の門。

 そこから歩み出してきたのは、漆黒の鎧を纏った騎士だった。

 彼を視認したべディヴィエールが、その名を口にする。

 

「アグラヴェイン卿……」

 

「久しいな、べディヴィエール卿。真っ先に死んだ私と、最後まで生き延びた貴様と。

 こうして獅子王の玉座の前で顔を合わせることになろうとは」

 

 アグラヴェインが最後の門の前に立ち塞がり、剣を執る。

 それに応えるように、べディヴィエールも剣を手に。

 何を言われるまでもなく、ジオウの前に踏み出した。

 

 アグラヴェインの巌の如く堅い表情が、僅かに歪む。

 

「まさか、当たり前のように私を前に剣を執るとはな。ガウェインやランスロットのように誇る武勇はないとはいえ、これは貴様如きが落とせる首ではないぞ」

 

「―――でしょうね。私の剣が貴卿に届くとは思っていません」

 

 そう口にしながらも、べディヴィエールは銀の剣を構える。

 そちらに注意を払いながらも、黒騎士は残るものたちに視線を向けて―――

 マシュに目を留め、微かに眉を顰めた。

 

「――――っ」

 

 マシュが息を呑む。

 自分の中のギャラハッドが覚えた感覚に戸惑うように。

 そんな彼女から、アグラヴェインはすぐに視線を外した。

 

「なるほど……して、お前たちはどうする?

 既に獅子王陛下は聖罰の第二射、その準備に取り掛かられている。

 もはや太陽王の大神殿に防衛能力はなく、放たれれば勝敗は決するだろう」

 

 彼はそう、涼やかにさえ感じられる声で状況を口にした。

 立香に、ソウゴに、マシュに。緊張が走る。

 初撃はオジマンディアスが大神殿を盾に防ぎ切ってみせた。

 だが言われるまでもなく、次はありえない。

 

『―――聖都の外では、当然まだ戦闘中だ。

 何とかあちらのモードレッドとトリスタンは撃破できたけれど……

 ガウェインが一切止まらない。外の皆を退避させることは、できないだろう』

 

 彼らだけに届く声で、そういうロマニ。

 アグラヴェインに外の状況を観察する術があるかどうかは分からない。

 こちらの状況を伝えないに越したことはない。

 

「―――私以外は通す、と?」

 

 そんな言葉を送ってくる理由は一つしかない。

 ここでべディヴィエールの謁見を阻止したいアグラヴェインの思考。

 それは、絶対に通せない彼以外を通すこと。

 

「苦肉だがな。日中のガウェインと打ち合える者を止めつつ、お前を確実に処断できると考えるほどに思い上がってはいない……その盾の娘も通したくはないが、貴様に比べれば些末事だ」

 

 アグラヴェインの敵意はべディヴィエールに集中している。

 彼は意識を絶対にべディヴィエールから外さないだろう。

 

「……先に行っていてください、皆さん。

 アグラヴェインの防御は堅牢。守りに入らせては、我ら全員でかかっても簡単には崩せない。

 それでは獅子王は止められない。ここは、私ひとりで相手をします。

 必ず――――後から追いついてみせますので」

 

 そう言って彼はアグラヴェインと睨み合う。

 獅子王を止める切り札は彼の右腕。

 その彼をおいて前に進むことに、不安も生じる。

 

「分かった。じゃあ先に行って、足止めしてるから」

 

 だが、それでも。ジオウはそう言って立香とマシュを振り返った。

 彼女たちも一瞬だけ逡巡して―――しかし、頷く。

 

「べディヴィエール卿、ご武運を」

 

「ええ、あなたたちこそ。キリエライト卿」

 

 不意をつくようなそんな呼び方に、少し困惑して。

 しかしもう一度強く頷いて彼女たちは走り出す。

 自身を避けて聖城に踏み込んでいく連中に、アグラヴェインは目も向けない。

 

「―――通していただきます、アグラヴェイン」

 

 銀閃。

 白いマントを翻し、べディヴィエールの剣が奔る。

 それを不動の姿勢で受け、片腕で凌いでみせるアグラヴェイン。

 

「……実のところ私は、貴様にそう恨みはない。

 ランスロットやモードレッドに比べれば、貴様に怨念など抱くはずもない」

 

 駆ける白銀。不動の漆黒。

 攻める側は全霊を尽くしてその攻めに当たっている。

 だが、守る側には余裕さえあって。

 

「貴様の裏切りにも一定の理解は示そう。

 その選択に思うところはあれど、けして理解できない話ではない」

 

「…………ッ!」

 

 静かに語りながら、黒い剣閃がべディヴィエールを押し返す。

 彼は表情ひとつ変えずに攻めを受け切って。

 そして、反撃にかかると同時に顔に怒りを浮かべた。

 

「だが死ね。一度でも王を裏切った者に、ただの一つも例外はない」

 

 鉄の騎士は粛清する。裏切りを働いた騎士は悉く。

 それが円卓であろうとも、その裏切りが王を案じてのものであったとしても。

 一切、赦さずにその首で贖わせる。

 

 

 

 

 ―――辿り着く。

 聖なる玉座。聖都の中心。聖城の中心。この特異点の中心。

 その玉座の下には、ラウンドテーブルが置かれていた。

 

 騎士王と共に円卓を囲う騎士、ではなく。

 獅子王の下に集う円卓の騎士、なのだと主張するように。

 

「獅子王……アルトリア・ペンドラゴン……!」

 

 玉座にある女性を見て、震えるように。

 マシュが自然とその名を口に出していた。

 その声に応えて、彼女は閉じていた瞼をゆっくりと開く。

 

「―――答えよ。おまえたちは何者か」

 

 口を開き、その声を鳴らす。

 それだけで神威が放たれ、周囲に圧迫感がのしかかる。

 すぐさまマシュは立香の前に出て、それから彼女を守ってみせた。

 

 彼女のすぐ傍には、床に突き立てた聖槍の姿。

 それは徐々に力を増して、解放されるのを待ち侘びている。

 

「何をもって我が城に。何をもって我が前に。その身を晒す理由は何か。

 此処は聖城、人の価値を保存する最後の城。我は獅子王、嵐の王にして最果ての主。

 聖槍ロンゴミニアドの力をもって、人類史を救うものである」

 

「俺は人類史も人類も、全部ひっくるめて救ってみせる……

 あんたより凄い王様、ってのはどう?」

 

 ジオウが獅子王を前に身構え、そう口にした。

 彼女はその場で小さく瞑目して、玉座からようやく立ち上がる。

 

「その展望は叶わない。おまえこそ私の同類だ。

 既に敗北した歴史の中で、価値あるものだけを遺す神―――

 だからこそ、おまえに私を止めるだけの価値は示せない」

 

「…………!」

 

 ゆるりと獅子王が腕を上げる。

 直後、彼女の指先が瞬いた。

 

 咄嗟に左半身を銀色に染め上げていく。

 鉄の鈍い輝きがその光を阻むための壁となる。

 ―――が。その光の槍にとって、それは何ら障害になりもしない。

 

 獅子王の指から放たれた光の槍が、ジオウの胸を撃った。

 

「ぐ、ぁッ……!?」

 

「ソウゴ!」

 

『―――っ、一工程で宝具レベルのエネルギーを観測……!

 聖槍ロンゴミニアド……あれでか!?』

 

 ダブルアーマーが炸裂した。

 砕け散った鎧の中から何とか無事で済んだジオウが飛び出し、床を転がっていく。

 そのまま壁に衝突し、回転を止めて停止する。

 

 吹き飛ばされ、白煙を上げる彼に駆け寄っていく立香。

 彼女たちと獅子王の射線を切るように立つマシュ。

 

 マシュの姿を見て、獅子王は微かに目を細めた。

 ―――その数秒に満たない静止の後、彼女は再び動き出す。

 

「―――円卓を解放する。最果てを見るがいい。

 これこそが世界の表面を剥いだ、この惑星(ほし)の真実だ」

 

「なっ……!?」

 

 王の手が槍を取り、その場から引き抜いた。

 同時に、玉座の間が剥がれ落ちていく。

 彼女を中心に聖なる広間が砕け散っていく。

 

 ―――その下から現れたのは、世界の果てだった。

 虚無の波が押し寄せる、無間の水平線。

 

「……これは、この星の……!」

 

「人が居座るために惑星(ほし)に覆わせた外殻。

 それを縫い留めていた槍を緩め、その真体を僅かに露出させた。

 見よ、惑星(ほし)の真実を。この真実の前に、ヒトというか弱い命に何が出来る」

 

 槍を手にした獅子王が残っていた玉座を後にする。

 円卓は消え、しかし玉座だけは消えない。

 騎士がいなくなっても、王だけはここに遺るのだ、というように。

 

「何も出来はしない。だが、それはヒトの価値を貶めるものではない。

 力を持たぬ貴さを守護するために、私がそれを庇護するのだ。

 盾の騎士よ。おまえは、それの何が間違っているという」

 

 彼女は一歩、また一歩とマシュに向かって歩んでいく。

 聖罰のために充填された神威が臨界する。

 獅子王はこの瞬間、三人を一撃で消し飛ばすだけの力を蓄えた。

 

 それを前にマシュは一度小さく俯いて―――

 大きく目を見開き、思い切り顔を上げた。

 

「何も出来なくても。何を成せなくても。その力が今はなくとも……! それでも、何ともならないと感じながらも、けれど何かしたいと―――何かをしようと! 人が前に進むための、その気持ちの貴ささえも、今のあなたは否定している!

 ―――アーサー王……! 貴方が見失ったその想いは、貴方の中にあったもののはずだ!」

 

 奮い立つ。マシュ・キリエライトの中で、霊基が吼える。

 だって、彼らが信じた王は。

 今なお地獄に落ちると知りながら、彼女のために剣を捧げた騎士たちが信じる王は。

 

 その国の先に、滅びしかないと知りながら。

 ―――それでも、と。

 選定の剣を執った、誇り高き王なのだから。

 

 獅子王が瞑目した。

 彼女はそれをただ、決裂の言葉と受け取った。

 マシュの叫びは、ギャラハッドの想いは、今の彼女に届かない。

 

 槍が振るわれる。神に達した王の権能が発露する。

 聖なる槍が全てを引き裂く嵐を引き起こし、マシュの盾に激突した。

 

 

 

 

 アロンダイトを抜いた彼は全ての能力を向上させる。

 その恩恵により彼がもっとも期待したのは、耐久力だった。

 雨の如く降り注ぐ矢を、死力をもって耐え切ってみせる。

 死にさえしなければ、“凄烈”は彼を維持し続けてくれるのだから。

 

 一撃一撃がサーヴァントの霊核を砕くに足るアーラシュ、藤太両名の矢。

 それを全身に浴び、矢を体に生やしながらそれでも彼は止まらない。

 

 フィンでさえも援護を受けながら、数秒の足止めが限度。

 一合交わした時点で、今の彼と斬り合えば十秒保たずに斬り伏せられると直感した。

 

「これは……! 不味いな―――!?」

 

「何という気迫―――止まらんぞ!」

 

 射の体勢を崩し、フィンの援護に入るべきか。

 そんな思考が藤太の意識を掠める。

 弾幕を幾ら浴びても一切足は止まらず、また剣速も緩まない。矢を浴び続ければいずれ命に届くだろうとはいえ、このままではこちらが全員斬り伏せられるのが先になる。

 

 アーラシュの矢がランスロットの腕を穿つ。

 大砲染みたその一撃は、並みのサーヴァントであれば弾け飛ぶ。

 だというのにそれは筋肉で止まり、貫通すらしなかった。

 

「―――おいおい、これは……!」

 

「行くよ、“五つの石(ハメシュ・アヴァニム)”―――」

 

 その逆境を打開すべく、必中必倒の巨人殺しが放たれる。

 如何にその気迫がどれほどのものであれ、意識を奪えば終わりだ。

 宝具の性質を強引に凌駕する“騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)”は彼自ら封印した。

 アロンダイトを抜いた以上、その能力は使えない。

 

 モードレッドと違い、兜もない彼にそれを止める手段はなく―――

 

「がッ――――!?」

 

 ダビデの投石が直撃した。

 強制的に意識をシャットダウンさせる彼の宝具。

 その結果として、爆ぜるようなその気迫が確かに薄れていく。

 

 実際に意識を飛ばせたことに、不安を覚えるほどあっさりと。

 だが気を緩めている暇などあるはずもない。

 その隙をついて確実に仕留めるべく、彼が意識を失った瞬間。

 ランスロットの心臓を目掛け、フィンの槍が放たれて―――

 

 ―――次の瞬間、フィンが切り裂かれていた。

 

「ッ……!」

 

 今の動きがまるで、攻撃を誘うことで隙を作る事が目的だったかのように。

 彼は当然のように反撃に動き、フィンに逆撃をくれていた。

 

 反撃の瞬間に察知し、一歩退いたフィンは致命傷を避けはした。

 だが、一文字に切り裂かれた彼の腹から血が噴き出す。

 

「下がれ、フィン殿!」

 

 ランスロットが追撃に動く。()()()()()()()

 間違いなく、一瞬とはいえ気絶している。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 “凄烈”はランスロットにの戦いに異常を許さない。

 頭部に投石を受け、意識不明。

 宝具の効果である以前に、頭部への衝撃による当然の帰結。

 その意識の喪失であっても、ランスロットが戦場を離れることを許さない。

 

 その上で、彼の刃は鈍らない。

 狂化しようと、気絶しようと、その技量を間違いなく発揮する。

 無窮の武錬に一切の淀みなく。

 彼はもう二度と、何があろうと、その武勇と命を王のために使い潰す。

 

 藤太が射を止め、疾走を開始した。

 携えていた刀を抜きながらのポジションチェンジ。

 

 援護射撃が減ったとしても、フィンのカバー以外に手段がない。

 アロンダイトを槍で受け止め、しかしそのまま薙ぎ倒される。

 地面を転がるったフィンが、そんな藤太に対して叫んでいた。

 

「来るな! こちらじゃない―――!」

 

 彼の言葉に藤太が足を止める前に、意識のない湖の騎士は取って返す。

 藤太が前に踏み出したことで、後衛の人数が減った。

 まして離れたのは、接近戦にも長けた俵藤太。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ランスロットが跳ねる。

 フィンを置き去りに、蹈鞴を踏む藤太を抜き去り、アーラシュを目掛け。

 ダビデでさえ壁になれはしない。

 

「しまっ……!」

 

 意識を失っている彼に、投石が与える意味は大きくない。

 湖の騎士がアーラシュへと肉薄する。

 だがその侵略を前にして、弓兵は矢を番えたままに迎え撃つ。

 

「感服するぜ、湖の騎士。だが、お前の願いは本当にそれか?

 それとも円卓の騎士が席を並べる円卓、ってのはただの飾りか?

 お前たちはただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 整然とした刃を振るう獣が迫る。

 如何にその技量が保証されたところで、意識不明に負けるつもりはない。

 ランスロットの動きを正確に視て、足を吹き飛ばすために放つ矢。

 この速度の交錯では、彼の技量をもってさえ躱し切れない一撃。

 

「―――最早そこに意味はない。

 ただ、()()()()()()()()()という事実だけがある」

 

「―――――!」

 

 だからこそ、彼はその瞬間に意識を取り戻した。気迫を取り戻した。

 技量だけでは足らない現実を、気迫を以て覆す。不可能であってもなお凌駕する。

 全て王の剣である自分が果たすべき使命のために。

 

 交錯の直前、アーラシュの手から放たれる矢。

 矢はランスロットの脚を抉っていく。だがそれは足を完全に奪うには至らず。

 それどころかすれ違いざま、彼はアーラシュを斬り付けてみせた。

 

「くっ……!」

 

 ほんの浅い傷。軽傷としかいいようのないダメージ。

 たったそれだけの一撃に、しかし彼は表情を顰めた。

 傷を覆う、アロンダイトの発した青白い光。それが傷口に纏わりついていて―――

 

「…………こいつ、はっ!」

 

「――――“縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)”」

 

 炸裂する。アーラシュ・カマンガーの肉体が。

 軽傷でしかなかったはずの傷口が、一瞬のうちに広がった。

 

 それは本来、放出するべき光の斬撃を“無毀なる湖光(アロンダイト)”の刀身へと押し込めたもの。限界を超えた負荷をかけられた剣は、斬撃を圧縮した湖面の輝きにも似た光を纏う。その光こそが、アーラシュの体に纏わりつき、そして斬撃の後に続く斬撃を見舞ったものの正体。

 

「が、っぁあああッ――――!?」

 

 自身の体の上で、直接解放される対軍宝具の衝撃。

 裂傷がアーラシュの体を割る。

 盛大に噴き出す血液が、地面を赤く染めていく。

 

 それでも。アーラシュ・カマンガーは踏み止まった。

 頑強なる体が倒れぬように、ギリギリのところで踏み止まり。

 そうして弓を構え直す。

 

 当然のようにランスロットも切り返す。

 今の一撃で仕留めきれていないのは分かっている。

 確実に首を落とし、王の憂いを一つでも減らす。

 そのために―――

 

「“無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)”―――――ッ!!」

 

「“八幡祈願(なむはちまんだいぼさつ)―――――大妖射貫(このやにかごを)”!!」

 

 放たれる神殺しの水の槍。それと合わせるように、一矢。

 その威力を受け止めなお突き抜ける覚悟でもって、ランスロットは疾走し―――

 

「フィン殿! 失礼!」

 

 藤太の放つ矢に込められた水を司る龍神の加護。

 それは水の槍と絡み合い、巨大な水龍を象ってみせる。

 龍神と戦神ヌアザの加護を重ねた二重の水流。

 二つの神性を束ねた一撃は、大きく顎を開けながらランスロットに殺到した。

 

「―――――!」

 

 食い千切られる、と判断する。

 だが彼は一切速度を緩めぬままに疾走した。

 アロンダイトを手放して、両腕を上げ、放した剣の柄は口で掴む。

 

 津波のように押し寄せた水龍の牙に正面から激突する。

 守りに使った両腕が砕かれ、そのまま食い千切られて呑み込まれていく。

 ―――だがそれと引き換えに、彼は水龍を潜り抜けてみせた。

 

 そのまま斬り込む。速度は一切落ちない。

 剣は銜えた口と首で振るう事になりながら、それでも彼の技量に支障はない。

 アーラシュの反撃の矢を頭ごと振るった剣で撃ち落とす。

 衝撃で頭が裂ける。二度も三度もやれば、致命傷までそう遠くないうちに辿り着く。

 

 それでも、まだ終われない。

 大英雄アーラシュとはいえ、アロンダイトの傷は致命傷のそれ。

 本来既に全身砕けていなければならない負傷のはず。

 だというのに一射反撃を放ったことを心中だけで賞賛する。

 

 しかしその直後。

 彼が顔を歪め、次の矢を番える指が一瞬鈍ったことに勝機を得る。

 踏み込む速度が限界をもう一枚超えて加速。

 銜えたアロンダイトの刃で、アーラシュの首を落とすために―――

 

「こういうのは、僕のがらじゃないけど……! 最近そういうの多いね!」

 

 ダビデ王の割り込みがかかる。

 杖でアロンダイトの一刀を受け止めた彼。

 しかし杖を両断されて、そのまま胸を一文字に斬り裂かれた。

 

 ―――だが、命にまでは届かない。

 直後に米俵が飛来する。その背後について疾走するフィンもまた。

 剣の柄を噛み締めて、背後に跳ぶ。

 

 地面に叩き付けられる俵。

 その着弾を見届けて、湖の騎士は再度の疾走を開始する。

 そうして、そんな状況でなおフィンと強引に切り結ぶ。

 

 ただ。ただ。この命を今度こそ、王のために。

 

 

 

 

 べディヴィエールの体が舞う。

 柱に叩き付けられた彼が、吐血しながら地面に転がった。

 アグラヴェインに彼は届かない。

 何をしたところで、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「がっ、はぁッ……!」

 

「最早、貴様の役割に果たすべき目標などない。

 既に獅子王は独立した存在と成り果てた。

 その腕を今更王に返上したところで、彼の王の変質は巻き戻るようなことはない」

 

 既に嵐の王と化した彼女は、妖精郷に辿り着くことはない。

 だから―――ただ安らかな眠りを、と。

 円卓が揃って誰ひとり、王に与える事の出来なかった、その心地をと。

 彼はそう言う。この場に残った円卓は皆そう言う。

 

 ―――もしかしたら。

 今の王のことを思うなら、それが最も……と。

 そんな諦観がいつだって湧いてくる。

 

 けれど。

 そんな逃避のように湧いて出る夢を、右腕の熱が否定する。

 右肩を左手で掴み、その熱を確かめるように。

 そうして歯を食い縛って、彼はまた立ち上がる。

 

「―――それでも。私は騎士王の騎士だ……!

 こんな閉じた世界を騎士王は望まない―――

 その確信だけは、一度たりとも失ったことはない……!」

 

「―――――」

 

 鉄の騎士が微かに眉尻を上げる。

 

「あなたならば知っているはずだ、アグラヴェイン―――!

 騎士王は―――あの方は、己の安らぎではなく、誰かの幸福に笑う方なのだと……!」

 

 べディヴィエールの眼光がアグラヴェインに突き刺さり。

 しかし彼は不動のままに彼の言葉を受け流す。

 歯を食い縛り、彼は叫び続けた。

 

「貴様は……! 私たちは―――!

 あの方を、己以外に誰もいない、そんな安寧という孤独に追いやるというのか!?

 誰かの笑顔のために全てを擲った彼の王は、孤独の中でいつ笑うことができるのだ―――!

 二度と笑えない……! そんなこと、貴卿とてわかっているはずだ……!」

 

 崩れ落ちそうな膝を支える。

 いつか見た、王の微笑みが脳裏をよぎる。

 永い永い時間をかけて、幾つも欠けてしまった心の中で、それでも。

 いつまでも忘れずに、脳裏に刻まれた光景が。

 

「……今度こそ、私が殺すのだ。あの方を―――!

 王が私のせいで得た永遠の彷徨を、今度こそ私が終わらせる……!

 1500年の旅路に、今度こそ終止符を討ち果たす――――!」

 

 べディヴィエールがその腕の熱を解放する。

 その瞬間、熱は腕のみならず全身に巡っていく。

 全身が灰になっていく苦痛を浴びながら、彼はアグラヴェインを見据えた。

 

「1500年……?」

 

 時代が合わない。アグラヴェインが眉を顰める。

 彼ら円卓が現世を去ったのは、この特異点から見て約700年前。

 その時から彷徨える王が迷っていたのは、当然―――

 

 アグラヴェインが一瞬視線を外し、自分が斬り付けた彼の傷の血を見た。

 自分の足元に散らばった彼が撒き散らした血痕を、黒いグリーブで踏み躙る。

 ―――血が魔力に還らない。そんなことに、今更思い当たる。

 

「―――マーリンの仕業か……べディヴィエール、貴様。その体―――」

 

「我が身、我が魂を喰らいて奔れ―――銀の流星!

 “剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)”――――!!」

 

 肉体が銀色の光を纏う。魂が黄金に炎上する。

 とっくに燃え尽きていた魂の灰を、また燃やす。

 右腕に星の光の刃を纏い、べディヴィエールが鉄の騎士に対峙した。

 

「―――円卓の中で最も重い罪を犯した私が、今また最も重い罪を犯しに行く……!

 貴卿からの処罰を待つまでもなく、その果てに我が魂は永劫の虚無へと還るだろう―――!

 この旅路、邪魔をするなサー・アグラヴェイン―――!!」

 

 

 




 
アグラヴェインの宝具が分かれば戦闘考えられるんだけどなー俺もなー
 

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