Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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金と黒のキカイだー!2014

 

 

 

「――――!?」

 

 その光景は、突然現れた。

 聖城に突き立つ巨大な金属。そこから広がっていく空間。

 聖都を呑み込み外にまで広がっていく波。

 

「―――陛下!」

 

 同じ光景に気を取られたモードレッドたちの隙をつく。

 アグラヴェインは即座に剣をツクヨミに向け投げ放った。

 ツクヨミもまた空を見上げ、その光景に呆然としている。

 彼女自身が撃ち落すには、間に合わない。

 

 魔力も体力も底のモードレッドとて、真っ当には弾けない。

 

「マスター!!」

 

「きゃ―――!?」

 

 だから彼女は、主を突き飛ばすという手段を取るしかなかった。

 彼が投げた剣はモードレッドの腹を突き破る。

 彼女はそのまま倒れ、血の海を広げていく。

 

「―――モードレッド!」

 

「く、そったれ……!」

 

 そんなものどもにこれ以上構っている時間はない。

 アグラヴェインはそれに最早振り返ることすらなく、玉座を目指す。

 

「治療の魔術……! 所長さんのところに―――!

 そうだ! 確かフィンには癒しの力があるって……」

 

「いらねえよ、この程度……! そんな場合かっての……!

 そんな、ことより……!」

 

 彼女は強引に突き刺さった剣を抜く。

 自分の血に染まったその剣を投げ捨てて、彼女は近くの柱に背を預けた。

 元から全部、こっちのモードレッドとの決戦で使い切っていた。

 今更この程度、大して変わりはしない。

 

「……分からねえが、状況が変わった。オレたちもアーサー王のところへ……」

 

 荒い呼吸を繰り返しながら、彼女はそう言いながら聖城を見上げた。

 ―――直後、何かに気付いたように振り返る。

 更に何があってもすぐ立ち上がれるように、身構えようとした。

 

「ちょっと、モードレッド! 少しは休んで……」

 

「…………」

 

 モードレッドが視線を送る方向。

 そちらから、姿を現す人影。

 

 外で響く轟音を背にしながら雪崩れ込んでくる、半身を失った男。

 それは太陽の如き容貌を血と灰で汚した、ガウェインだった。

 彼はふらつきながらも、剣を握ったまま聖城を目指している。

 

「ガウェイン……!?」

 

 ツクヨミの驚愕の声に反応し、彼の意識が初めて彼女たちを向く。

 彼はモードレッドたちの顔を見ると、すぐさま戦闘態勢へと入った。

 

「―――モー、ド……レッド。あなたが、私を、ここで、阻むか……!」

 

 無敵の壁として立ちはだかった彼の面影はもう感じない。

 これから戦闘に臨むとは思えないほどに、緩慢な動作。

 半身を吹き飛ばされ、体内までも神雷で焼かれ、無事なところなどどこにもない。

 

 それでも、此度こそは王の許に馳せ参じるべく。

 彼はこうして、ここまでやってきていたのだ。

 

 そんな彼の様子を見て、モードレッドは微かに目を細める。

 クラレントの切っ先を彼に向けることは、しなかった。

 少しだけ考え込んで、そのまま柱に背を預けるモードレッド。

 

「―――なあ、マスター。オレ、今からすげえおかしな事、言っていいか?」

 

「おかしな事……?」

 

 モードレッドは、もうまともに動ける状態じゃない。

 仮にアーサー王の許に向かうとして、彼女はツクヨミに肩を借りなければ届かないだろう。

 それは恐らく、ガウェインも同じだ。だから―――

 

 

 

 

 ―――二人の神が対峙するその空間に、彼は遂に辿り着いた。

 惑星の表層を剥がし、世界の果てを露出させたその空間に。

 

「―――ああ、やっと。貴方の、許へ」

 

「べディヴィエールさん!」

 

 右腕を押さえ、顔色を土気色に変えながら。

 彼はそれでもここに辿り着けた。

 彼自身が、その旅の終と定めた約束の場所へ。

 

「―――――」

 

 新たなる侵入者を自覚し、獅子王の首が横に振れる。

 その騎士の姿を認めた瞬間、女神はその動きを止めた。

 自分でも理解できない理由で、槍を携えたその腕が凍る。

 

「……ッ、貴様。何者だ……? 何故、私の城に私の預かり知らぬ騎士がいる―――」

 

「知ら、ない……? そんなはずはありません―――!

 円卓の騎士、べディヴィエール卿……彼は、あなたの騎士なのですから―――!」

 

 マシュが告げたその名を聞いて、兜の奥で揺れる獅子王の瞳。

 彼女は兜を押さえながら、小さく一歩後退った。

 その様子を見て鎧武は、少し困惑を浮かべながら、しかし構えた剣を下ろして一歩下がる。

 

 代わりに、べディヴィエールはゆっくりと、一歩ずつ前へ進んでいく。

 

「……ええ、そうでしょうとも。私のことなど、貴方の中に残るはずがない。

 ですが。これを見て頂ければ、その記憶も晴れましょう。

 ―――この、不忠の騎士の名とともに」

 

 そう言って彼は、熱を帯びた右腕を差し出した。

 先程まで解放していたそれは、黄金の輝きの残滓を纏っている。

 その輝きに見覚えがある。覚えがないはずもない。

 

 星の内海で精製された神造兵装にして、最強の幻想(ラスト・ファンタズム)

 常勝の王の手の中にありし、最強の聖剣―――

 

「―――エクス、カリバー……

 べディヴィエール……その、名は……まさか―――貴卿、は」

 

 ―――その声。獅子の兜ごしでも、彼女の大きな動揺が伝わってくるようで。

 何故、獅子王がその名を忘れているのか。

 それが分からず、マシュが困惑しながら彼を振り返る。

 

『……嘘だろ。どうなってるんだ、どうして今までこんな誤作動を……!?

 ―――まさか、()()()()()()()()()()()()……!?

 べディヴィエール卿から霊基反応がない! 彼はサーヴァントじゃない、ただの人間だ!』

 

「――――え?」

 

 ロマニの声が、その事実を告げる。

 カルデアが観測していたサーヴァント・べディヴィエールなどどこにもいない。

 そこにいるのは、ただの人間でしかないのだと。

 

 けれどそれはおかしい。ここがブリテンの時代ならそうもなろう。

 ここは円卓との縁は薄い。生前の彼が迷い込む余地はない。

 だというのに。彼はその言葉を聞いて、申し訳なさそうに、困った風に微笑んだ。

 

「すみません、私は皆さんに嘘を吐いていました。

 マーリンの魔術で誤魔化していたのです。彼から送られたこの腕も同じ。

 彼の魔術で聖剣を、こうして私の腕に変えていたものなのです」

 

 一歩、彼が再び獅子王に向けて踏み出した。

 それに反応して、獅子王もまた一歩後ろへと足を下げる。

 

「―――私は罪を犯しました。

 王を失いたくないという思いで、あまりにも愚かな罪を。

 あの森で私は貴方の命に躊躇ったのです。聖剣を湖に返せば、貴方は死んでしまう。

 それを怖れて―――()()()ですら、聖剣を返還できなかった」

 

 ―――アーサー王の末期。

 カムランの丘での戦いで王はモードレッドと相討ちし、致命傷を負った。

 それを何とか永らえさせようと力を尽くそうとしたべディヴィエールに、王は言う。

 自分の代わりに湖の妖精に聖剣を返還せよ、と。

 

 一度目、彼は聖剣を返還しないまま王の許に戻り、聖剣は返還したと嘘を吐く。

 王は彼に今一度、聖剣を返還せよと命じた。

 二度目、やはり彼は聖剣を返還しないまま王の許に戻り、聖剣は返還したと嘘を吐く。

 王は彼に今一度、聖剣を返還せよと命じた。

 そして三度目――――

 

『―――伝説では、三度目にべディヴィエールは聖剣を本当に返還した。

 そして、アーサー王は妖精郷での眠りに……

 三度目も返還しなかったって、それは―――!』

 

「三度。王命を破るという禁忌を犯した私に、二度と王命が下る事はなかった。

 私が森に戻った時、王の姿は既に消えていた……その後に、知ったのです。

 聖剣を返還しなかった事で、王は死ぬ事さえできなくなった。

 王は手元に残った聖槍を携え、さまよえる亡霊の王になってしまった、と」

 

 彼がまた一歩。そうして、彼女もまた一歩。

 距離は近づくことも離れることもなく。

 

「……私は残された聖剣を手に、貴方を探し続けた。

 円卓の中で、他の誰より貴方に背いてしまった、その罪を償うために」

 

 三度。彼は赦されぬ罪を犯した。

 その果てに、彼は王から死さえも奪ってしまった。

 だから、彼は自分の死も返上して、王を探し続ける事を選び―――

 

『そんな馬鹿な!? それが本当だとしたら、1500年間だぞ!?

 それほどの間、ただアーサー王を探して彷徨っていたってことじゃないか!

 人間の魂がそんなに保つ筈がない! 人はそんな精神構造はしていない!

 確かにエクスカリバーは所有者の成長を止める! ただそれは肉体の話だ!

 今までそんな旅をしてきたっていうのか、キミは!?』

 

「はい。辛くなかった、といえば嘘になる―――

 けれど、ああ……良かった。最期に、貴方の前に立てて―――」

 

 一歩、再び彼が踏み出して。

 下がろうとした獅子王の足が、己の玉座にぶつかって止まった。

 

「っ、思い出せない……!

 べディヴィエール、確かにその名は円卓にあったのやもしれん。

 だが、その騎士がどのような騎士だったかなど―――何一つ、私の記憶には……!」

 

 押さえていた頭から手を放す。

 一歩ずつ歩み寄ってくる彼に対し、獅子王は確かにその騎士を見た。

 人間。間違いなく人間だ。だというのに、何故ここまで、と。

 罪を犯し、悪を成し、それでも歩みを止めなかった何者か。

 熱に焼け、爛れ切った魂が、それでもと前に進み続けた結果。

 

「―――いいだろう、貴卿が私の騎士というのなら、その剣は捨てよ。

 それは私には不要なものだ。我が騎士だというのなら、我が声に従え―――!」

 

「いいえ、それは叶いません。獅子王、聖槍の化身よ。

 貴方にとって、私は討つべき敵だ。貴方は私に、復讐する理由がある」

 

 彼は罪人だ。

 王命に背き、王の道を歪めるという背信を示した悪行。

 聖なるものである獅子王には、彼を裁かなくてはならない理由がある。

 

「そして―――そして、私には貴方を止める義務がある!

 騎士王の円卓、最後までその席から離れられなかった私が―――

 その一員として、貴方に告げる!」

 

 腕の輝きが増していく。

 黄金の光、星の輝き、聖剣は彼の体を焼きながら、その熱量を解放した。

 

「私は円卓の騎士、べディヴィエール!

 善なる者として、悪である貴方を討つ者だ!」

 

 

 

 

 ―――そうして、いつか夢で見た光景が再現される。

 

 この場に辿り着いたべディヴィエールが、獅子王と対峙する。

 その腕を解放すると同時に訪れる機械の侵略、メガヘクス。

 発生するアナザー鎧武。失われる鎧武の歴史。

 

 そうしていずこからか現れる、金色の戦士。

 

「アーマードライダー……いや、キカイダー?

 まあ、どちらでもいいだろう」

 

〈レモンエナジースカッシュ!〉

 

 デュークがゲネシスドライバーを動かし、ロックシードの力を解放する。

 ソニックアローに集中するエネルギー。

 構えた弓が形状を変化させ、大弓へと変わっていく。

 

 膨大なエネルギーを迸らせる矢。

 それを向けるのは、やはりまた葛葉紘汰を目掛けてだ。

 キカイはそれから彼を守るために動けない。

 多少防御力が高かろうと、このまま続けていればいずれ壊れるだろう。

 

「―――まずは一人。これを待っていたよ」

 

〈フィニッシュタイム! 一撃カマーン!〉

 

「――――!?」

 

 構えた大弓を引っ掛ける鎌の一撃。

 それが突然横合いから放たれ、デュークのソニックアローをもぎ取っていく。

 放り捨てられたそれが、床に叩き付けられて滑っていった。

 

 動きを止めたデュークの胴に叩き込まれるシルバーの足。

 レモンのライダーを蹴り飛ばした仮面ライダーウォズ。

 彼が、ジオウたちを振り返った。

 

「やあ、魔王。お疲れ様だね。

 ああ、安心するといい。今回は、協力する方向だからね」

 

「白ウォズ……!」

 

 ジオウの言葉を待たず、白ウォズはそのままデュークに追撃をかける。

 武装を失ったライダーに対し、振るわれるジカンデスピア。

 無防備に受けて何度となく火花を散らすデューク。

 

「やってくれるね!」

 

 デュークの腕がデスピアを掴み取る。

 彼はそのままライダーウォズとの力比べに移行して―――

 駆動音と共に振るわれる金色の剛腕が、デュークの頭部に突き刺さっていた。

 

「ガッ……!?」

 

 弾き飛ばされるライトブルーの体。

 デュークがキカイのパワーに直撃し、盛大に床に転がった。

 獅子王と対峙しながら、メガヘクスがそちらに視線を送る。

 

 彼は立ち上がって体勢を立て直す。

 そして視線を向けるのは、ウォズとキカイ。

 こちらに向かってくる二人の敵を見ながら、彼は小さく舌打ちした。

 

 手の中に新たなロックシードを取り出す。

 それは赤い果実を模したエナジーロックシード。

 一目見た白ウォズはそれをすぐさま看破する。

 

「ドラゴンフルーツエナジーロックシードか……

 まあ、その程度で私に通用すると思わない方がいいがね?」

 

「どうかな? 私の―――」

 

 デュークの指がドラゴンフルーツエナジーを開錠―――

 せず、その手の中からロックシードを取り落とす。

 その行動に怪訝そうに、白ウォズは顎を引く。

 

「な、にを……! メガヘクス―――!!」

 

「……戦極凌馬の戦闘レベルの低さを懸念。

 個体・戦極凌馬にとって、もっとも戦闘力の高い状況を検索―――完了。

 躯体の換装を実行――――」

 

 メガヘクスが呟くように告げる言葉。

 その直後、デュークの姿がブレて全く違うものに切り替わっていく。

 己の変調に対して、戦極が振り絞るように怒りの声を発した。

 

「馬鹿な……! 私の価値は、この頭脳だ―――!

 これでは、私である意味が、ないだろう……! メガヘクス―――ッ!!」

 

「形態名、ハカイダー。

 これが戦極凌馬にとって最も戦闘に長けた形態だと判断する」

 

 ―――ライトブルーのボディは、いつしか漆黒に染まっていた。

 共通している形状などどこにもない。

 漆黒のボディに走る、稲妻のような黄色いライン。

 透明のカバーに覆われた頭部には、人の脳がそのまま覗いている。

 それはゆっくりと動き出し、赤い瞳をぼんやりと輝かせた。

 

「破壊―――破壊、破壊だ――――ァッ!!」

 

 ハカイダーが太腿のホルスターから銃を抜く。

 ハカイダーショット。その銃口が瞬くと同時、白ウォズが吹き飛ぶ。

 同じくその攻撃を浴びながら、キカイは走り出した。

 

「ふん―――ッ!」

 

 黄金の拳が振り抜かれる。

 純粋に圧倒的なパワーを発揮するそれが、ハカイダーを襲う。

 その拳を、彼は上から撃ち落すように打ち払った。

 直後にハカイダーショットを相手の腹に押し付ける。

 

「破壊だ!」

 

 火を噴く銃口。

 至近距離で破裂した弾丸に、キカイの体が宙を舞う。

 

 倒れ伏す神様を一度確認して、ジオウが走り出した。

 床に落ちて転がった彼に対し、駆け寄って声をかける。

 

「あんた、大丈夫!?」

 

「ああ、大丈夫だ。任せておけ、ソウゴ」

 

「え?」

 

 彼はそんな状況でなお、すぐに立ち上がった。

 

 白ウォズがハカイダーと交錯する。

 ジカンデスピアによる攻撃を、ハカイダーショットは正確無比に迎撃していく。

 槍を掴み取り引き寄せ、そのまま白ウォズの胸に連射される火炎弾。

 

 すぐさま駆け出さなければいけない状況。

 けれどキカイは、両手をジオウの両肩に乗せる。

 そのままこの状況、周囲を見回した。

 

 膝を落とすべディヴィエールに寄れず、しかし離れることもできない立香。

 彼女たちを背に庇い、踏み出すことのできないマシュ。

 倒れ伏す神様―――葛葉紘汰。

 

「えっと。俺、あんたと知り合い……?」

 

「みんな、命を懸けても守りたい友達なんだろう?」

 

 そう問いかけられて、ジオウが動きを止める。

 いきなりそんな事を訊かれるとは思っていなくて。

 キカイはその様子に一度、大きく頷いてみせた。

 

「だよな。友達は、命を懸けてでも守らないと。

 だからここは俺に任せておけ。たとえ機械(ココロ)が壊れても、俺が守ってみせるから」

 

「えっ、ちょっ……!」

 

 ジオウを突き飛ばしながら立ち上がるキカイ。

 既にハカイダーはこちらを向き、ハカイダーショットを構えている。

 放たれる火炎弾。連続して吐き出される破壊の嵐。

 それを前に、彼の両腕が腰のドライバーの両端を叩いてみせた。

 

〈キカイデハカイダー!〉

 

 キカイの右足に雷光が集う。

 超エネルギーによって覆われた機械の脚部が、床を蹴る。

 回し蹴りの要領で放たれる蹴撃。

 それは殺到する火炎弾を一気に打ち返してみせた。

 

 跳ね返された弾丸と続く弾丸が相殺し、空中で爆炎を撒き散らす。

 その爆炎のカーテンの中に突っ込むように、彼は走り出した。

 

 メガヘクスがそちらに向けていた意識を外す。

 改めて注目するのは、獅子王。

 

「―――――」

 

 消し飛ぶ、消し飛ぶ、消し飛ぶ。

 獅子王の抑えに消耗されるメガヘクスの端末たち。

 それはメガヘクスにとって何の意味もないが、アナザー鎧武が微かに首を揺らした。

 

 葛葉紘汰たちの処分は戦極凌馬にやらせている。

 そして、彼はここで獅子王とやらとの戦闘を観察していた。

 

 ―――聖槍ロンゴミニアド。

 他はともかく、あのエネルギー体は興味深い。

 メガヘクスと調和し、その一部として取り込むべき存在だ。

 

 この空間を満たすほどのメガヘクスを出し、早々に磨り潰したいところ。

 だというのに、メガヘクス本星からその承認がでない。

 共有される情報の中では、この場の外の空間での戦闘を優先しているという。

 メガヘクスがたかが惑星ひとつを相手に、何を優先する必要があるというのか。

 

 葛葉紘汰などという存在でさえ、メガヘクスが構う必要はない。

 既にあれはただの人間。下等な知的生命体同士の争いで死ぬまで待てばいい。

 神にも等しいメガヘクスが直接手を下すことは、その名を汚すに等しい行為だ。

 

「そうとも……我らはメガヘクス。この世界における絶対の知性。

 その存在、大いなるシステムに一つの瑕疵も許されない」

 

 本能に似た感覚が訴えかけてくる、葛葉紘汰を最優先で殺せという意識。

 それをたかが人間への対応を優先する必要がないという理屈で捻じ伏せる。

 理由がないならば、それを可決するわけがない。

 

 何故ならばメガヘクスは完璧なるシステムだから。

 計算上で脅威なし、と判断した以上は絶対に脅威とならないのだ。

 その計算を否定することは、ひいてはメガヘクスの完璧性を否定すること。

 

 だから、彼は絶対に葛葉紘汰を優先しない。

 ただあれの記憶の中から彼と敵対する存在を製造し、任せるだけでいい。

 あれはただ、この場に居合わせただけの非力な人間でしかないのだから―――

 

 

 

 

 一体落ちる。

 それを察知したメガヘクスが数十、脚を止めて腕を構え―――

 その次の瞬間、それら全ての上半身と下半身が泣き別れる。

 

「―――神託は下った。

 貴様が出した貴様だけの結論で、他者の歩みを踏み躙ってきた旅路。

 その行いに報いを受ける時だ―――」

 

 幾万と―――

 どれほどか数え切れぬ機械の体が絶命していく。

 積み上がっていくガラクタ。

 その一体一体が化け物であると、まともな戦闘を見るまでもなく分かると言うのに。

 

「―――なによ、これ。ガウェインよりもよっぽど……!」

 

 あまりにもな光景に絶句していたオルガマリーが、そう呟く。

 ブーディカが戦車の手綱を握りながら、息を呑んだ。

 

「これが、“山の翁”……」

 

 数千、数万からなる怪物の軍団さえ歯牙にかけぬ死の刃。

 それこそが初代“山の翁”、ハサン・サッバーハ。

 

 ―――そんな光景を死に体で見ていた、三人の翁たち。

 彼らの前で地面に突き立てられる、初代翁の剣。

 大きく割れた地面。それに対し、盛大に身を竦ませる翁たち。

 

「しょ、初代様……!?」

 

「―――働け。貴様ら、一体いつまで寝転がっているつもりだ」

 

 一言。そう告げると、再びその体が消え去った。

 同時に斬り伏せられる無数のメガヘクスたち。

 初代翁が斬り裂くたびに、それ以上の数のメガヘクスが現れる。

 無限に製造され続ける兵士と、それを殺し続ける暗殺者。

 

 けして余裕があるわけではないのだ、と。

 三人のハサンたちはすぐに動き出した。

 呪腕は腕と足を一本ずつ失い、静謐は片腕を失い、百貌はその人格の半数を失っている。

 それでも、少しでもこの戦場を維持するために。

 

 それを見て。

 アレキサンダーが。オルタが。ブーディカが。ダビデが。フィンが。藤太が。アーラシュが。

 既に限界を迎えている身でありながら、全員がメガヘクスにかかる。

 一体でも多く撃破し、現状を打破する鍵とするために。

 

 

 

 

「―――――」

 

 焦燥感。あるいは、苛立ち。

 メガヘクスという完全なる知性にそんな感情はないが。

 アナザー鎧武の感じている感覚をどんなものかと言葉にすれば、それだ。

 

 メガヘクスへの増援要請は、外を優先し続ける。

 こちらに送られるのは少数。

 ロンゴミニアドの女神を止めるには、あまりにも少ない戦力ばかり。

 

 ―――だが、まあいい。

 この戦場が仮に十年続こうが、百年続こうが。

 メガヘクスには何ら影響などないのだから。

 

〈アルティメタルフィニッシュ!〉

 

 爆炎を突き抜けてきたキカイが腕を振り上げる。

 それを迎え撃つハカイダー。

 彼はキカイの動きを読んでいたかのように、正確にハカイダーショットを向けている。

 

〈爆裂DEランス!〉

 

 だがその銃口に、投げ放たれたジカンデスピアが激突した。

 ハカイダーの手から離れたハカイダーショット。

 それがデスピアと共に、背後へと吹き飛んでいく。

 

「破壊――――ッ!!」

 

「ハァ――――ッ!!」

 

 キカイとハカイダーが拳を交わす。

 圧し負けるのは、無理な体勢のまま拳を放っていたハカイダー。

 彼の上半身が思い切り仰け反り、蹈鞴を踏んだ。

 

「グゥ……! ォ……ッ!?」

 

「ソウゴ!」

 

 そうして隙を晒したハカイダーに、キカイが両腕で組み付いた。

 そんな状態のままに、背後のソウゴへ声をかけるキカイ。

 

「え?」

 

「ソウゴ―――WILL BE THE BFFだ。それを忘れるなよ?」

 

〈フルメタル・ジ・エンド!〉

 

 ソウゴがその言葉の意味を問い返す前に、キカイが光に包まれた。

 圧倒的な冷気。それが彼と、彼が掴むハカイダーを凍結させていく。

 互いに限界まで力を籠め合う掴み合い。

 

 その決着がつくまえに、キカイとハカイダーは共に凍結して沈黙した。

 

「…………WILL BE THE BFF……?」

 

 ジオウが彼が遺した言葉を呟きながら、凍り付いたキカイに歩み寄る。

 が、その肩を掴まれて、思い切り引き戻された。

 引っ張られた彼が、その相手へと顔を向ける。

 

「白ウォズ……!」

 

「安心したまえ、敵対はしないさ。まだ、ね。

 だが目的は果たさせてもらうよ」

 

 そう言いながら、白ウォズはブランクウォッチを取り出した。

 それを凍結したキカイに翳して、スターターを押す。

 するとそれは金色の光を帯びて、ミライドウォッチへと変貌を遂げてみせた。

 

「ウォッチ……!?」

 

「手に入れたぞ、まずは一つ。仮面ライダーキカイのウォッチを……!」

 

 そのままキカイの姿が消失する。

 互いの体を支え合っていた氷像の片割れを失ったハカイダー。

 凍結した黒いボディが倒れ、ガシャンと盛大な音を立てる。

 

 それに反応し、アナザー鎧武の視線が獅子王から外れた。

 彼の視線は無様に転がるハカイダーに向かい、そして白ウォズとジオウに向かう。

 

「―――やはりメガヘクス以外の存在に期待するだけ無駄か。

 所詮、下等な生命体の知性……メガヘクスには順応するはずもない!」

 

「やれやれ、知性を自分で奪っておいて酷い言い様だね。

 まあ、私には関係のないことだが」

 

 獅子王に差し向けられていた中から二体。

 メガヘクスの端末が、二人に向けて差し向けられた。

 身構えるジオウの横。

 

 ―――白ウォズは、今し方手に入れたウォッチを持ち上げる。

 

〈キカイ!〉

 

 彼の手がビヨンドライバーに装着されていたウォッチを入れ替えた。

 キカイのウォッチを装着し、展開。

 そのままウォッチを装着したハンドルを、ドライバーの中央へと叩き付ける。

 

〈アクション! 投影! フューチャータイム!〉

 

 ウォッチ内のエネルギーが実体化。

 そうして展開されるのは、キカイのそれに似た黄金のアーマー。

 それがライダーウォズの上から、覆い被さるように装着されていく。

 頭部の“ライダー”の文字が、“キカイ”へ変わった。

 

〈デカイ! ハカイ! ゴーカイ! フューチャリングキカイ! キカイ!〉

 

「祝え! 巨悪を駆逐し、平和を取り戻す真の救世主―――

 その降誕への第一歩が、今此処に踏み出された瞬間である!」

 

「―――来るよ!」

 

 片腕を掲げて祝いだす白ウォズを無視し、メガヘクスに対峙する。

 その二機は高速で二人に迫り来て―――

 

「残念。私のフューチャリングキカイには通じない」

 

 彼が祝うために掲げていた手を、ふいと返す。

 その瞬間、二機のメガヘクスは完全に停止。

 白ウォズがもう一度手を振ると同時、その二体は即座に取って返した。

 

「おお!?」

 

「――――なに?」

 

 アナザー鎧武への攻撃に入る二体のメガヘクス。

 彼は刃と化した両腕で即座にその二機を破棄してみせた。

 両断されて転がる機体。それを見下ろしてから、顔を上げた時。

 初めて、アナザー鎧武は白ウォズたちを脅威とみなした。

 

「―――メガヘクス本星に通達。

 メガヘクス端末にハッキングを確認。対策の適応を要請する」

 

 その直後に再びアナザー鎧武の許に、メガヘクスの増援が送られる。

 間髪入れずにジオウと白ウォズに向かってくるメガヘクス軍団。

 

「白ウォズ! もう一回!」

 

「やれやれ。――――おや?」

 

 彼がふい、と動かした掌。

 先程はそれと連動するようにコントロールを奪ってみせていたのだが。

 突撃を仕掛けてくるメガヘクスの一体さえ、それでは止まらない。

 

「どうやら対策されてしまったようだ」

 

「ちょっと、なにそれ!?」

 

 そのまま押し寄せる機兵たちに、ジオウと白ウォズの姿が呑み込まれる。

 そんな光景を見て、呆れるような所作をみせるアナザー鎧武。

 

 二人揃って多少の抵抗はしているが、そもそもの数が違う。

 数分もあれば容易に磨り潰せるだろう。

 

「所詮は猿知恵。大いなるメガヘクスに、そんな小細工は通じない」

 

「―――いや、それで十分だったとも」

 

 声は下から。

 視線を向ければ、凍って這いつくばっていたハカイダーからのものだ。

 どうやらまだ稼働していたらしい。

 

「戦極凌馬。まだ動けるのであれば、他の連中をさっさと始末せよ。

 これは大いなるシステムの―――」

 

「私はね、大いなるシステム……メガヘクスの有用性は認めている。

 素晴らしい機能だ。これ以上ないくらいに、ね」

 

 ギシギシと軋みながら、ハカイダーが動き出す。

 そんな当然の言葉を口にして、何の意味があるのか。

 そう醒めた視線を送るアナザー鎧武の前で、ハカイダーが小さく笑い声を発した。

 

「だが、一点。どうしようもない欠陥があるんだよ、メガヘクスにはね」

 

「なに?」

 

 発声が上振れる。まるで苛立っているかのように。

 ハカイダーの顔がアナザー鎧武を向く。彼を嗤うように。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 世界の、宇宙の王となれるほどの性能を持ちながら、その性格は下品極まりない」

 

「―――――」

 

 アナザー鎧武が無言で腕を振り上げる。

 その先に集約する光。

 ハカイダーを容易に消し飛ばせる威力の光弾だ。

 それを早々に撃ち放とうとして―――

 

「ガ、ガガガ、ガガッ、ガガガガガガガ――――ッ!?

 ハ、カイ! ハカイ―――破壊、破壊、破壊ッ!?!?」

 

「なに……ガッ、ギィ――――!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 まるで、先程までの戦極凌馬―――ハカイダーのように。

 咄嗟にそのハカイダーの方へと視線を送るアナザー鎧武。

 

 仕掛けが実ったことを見た彼は、盛大に笑い声を放っていた。

 

「ハハ―――! これが貴様が甘く見た、私の知性だ―――!

 メガヘクスから私に強制する機能はあっても、私からメガヘクスに干渉する機能はない。本来なら、ね。だが先程のハッキング、あれの情報は助かった。それを見たお前がすぐに本星に通信を入れてくれたおかげで、その通信に乗せることで、こうして……ほんの一部だが、私はメガヘクス本星に逆襲できた……!」

 

「な、にを……! 何をした、戦極凌馬ァ――――ッ!!」

 

 アナザー鎧武が踏み込み、地面に這いつくばるハカイダーを蹴り飛ばす。

 そうされたところで、彼の笑い声は止まらない。

 

「ははははは! 送っただけさ! たった一つ! 君たちの中枢に!

 私の、ハカイダーの情報を―――! さあ、耐えられるかなぁ?

 私に影響を与えた悪魔回路によって、その知性が戦闘回路に書き換えられることを!!

 ふは、ははははははははははは―――――ッ!!!」

 

「き、さぁ―――――ッ!?」

 

 アナザー鎧武以外のメガヘクスが停止する。

 ただ破壊という言葉を繰り返しながら。

 その中で。メガヘクス本星が決定した事実をその発声機能が繰り返し、告げる。

 

「地球の調和を中止。全て、全て、破壊する。

 破壊、破壊、破壊、破壊、破壊。

 これよりメガヘクスは全戦力をもって、地球を破壊、破壊破壊破壊破壊破壊―――!」

 

 一体を除き、全てのメガヘクスが上を向く。

 その方向にあるのは、当然本星だ。

 同時に全てのメガヘクスが飛び立ち、聖城の天蓋を吹き飛ばしながら空へと飛び立った。

 

 惑星の最果てと化した玉座の間に、星の明かりが降り注ぐ。

 撃ち抜かれた天井の先に広がっているのは、ゲートを挟んだ向こうにある機械化惑星。

 ――――メガヘクス本星だ。

 

「ぐぅ……ギ、ガッ―――!」

 

 悪魔回路の思考侵略を受けなお、彼だけは耐える。

 アナザー鎧武と化し、明確な別物としてメガヘクスと連絡が弱くなっていたその個体だけは。

 そうして取り残された彼が、転がっている戦極凌馬を睨み付ける。

 

「戦極凌馬ァアアアッ!!!」

 

 刃と化した腕を振り上げ、殺到するアナザー鎧武。

 そんな彼に対し、ハカイダーは即座に笑い声を引っ込めた。

 

「おっと。悪いね、嘘を吐いていた。

 私が君の通信に混ぜていたバグはそれだけじゃないんだ……

 あと二つ、メガヘクスの物質創造能力に干渉していた」

 

「―――――!?」

 

 ハカイダーの腕が、ソニックアローを持ち上げる。

 デュークだった時に白ウォズに叩き落とされたものを拾い上げたのだ。

 そうして、そこに装填するのはエナジーロックシード。

 

「―――君には品性が欠けている、と言ったね。だが恥じることじゃない。

 私が世界の王に相応しい、と認めた品格を持つ人間は……

 後にも、先にも、ただ一人だ―――!」

 

〈メロンエナジー!〉

 

 至近距離まで迫っていたアナザー鎧武の腹に放たれる。

 オレンジ色のエナジーアロー。

 それが彼の腹に突き刺さり、火花を散らした。

 

「だまれぇえええ――――ッ!!」

 

 振り下ろされる腕。

 それに両断されたハカイダーが、今度こそ完全に停止する。

 沸騰し、発狂する思考の中。

 戦極凌馬の言葉を何とか考えようと意識を向ける。

 

 二つ、メガヘクスに何かを作らせたと言っていた。

 一つはメロンエナジーロックシード。ではあと一つは。

 メガヘクスに確認しようとしても、本星の思考回路が破壊の濁流と化している。

 

「ぐっ、う、ぐぅ……! おのれ、下等な……! 生命体どもが……ッ!」

 

「その下等な生命体どもに、貴様は敗北する」

 

 その声に心底憎しみが湧いてくる。

 破壊衝動とはまた別の、メガヘクスが持つはずのない感情。

 

 こちらに歩み寄ってくるのは、赤い鬼だ。

 造形だけならば騎士然としていて、しかしてそれは人を捨て怪物と化した赤い鬼。

 思考のノイズが最大限まで膨れ上がる。

 

「駆紋、戒斗ォ……ッ!! 敗北するのは貴様たちだ―――ッ!!」

 

 アナザー鎧武の腕が唸る。

 刃となったそれが駆紋戒斗―――ロード・バロンに放たれた。

 床を踏み締め、その一撃を片腕で受け止める。

 発生する衝撃波が周囲を揺らし、しかし彼は踏み止まった。

 

「ああ、そうだ。俺は運命を懸けて戦い、そして敗北した。

 そうして、俺は敗者として勝者が創る歴史の礎となった。だが―――!」

 

 バロンが拳を握る。そこに集う赤黒い炎の渦。

 反応しようとするアナザー鎧武を置き去りにして、その一撃は放たれる。

 ―――アナザー鎧武の頭部に突き刺さり、その顔面を砕く拳。

 衝撃で吹き飛ばされ、床に転げる怪物の体。

 

「ガッ……!」

 

「俺が敗北したのは貴様にではない!

 俺が運命を賭して戦った相手は、貴様のような弱者などではない!

 そうじゃなかったのか――――葛葉ァッ!!!」

 

 メガヘクスと対峙しながら、彼が背後に檄を飛ばす。

 倒れ伏していた勝者の耳には確かに。

 彼が放った言葉が届いていた。

 

「ぅ、ぐぅ……! あ、あ……!

 そうだ……俺には、信じて託してくれた奴らがたくさんいる……!

 だから、俺が願った世界を! 望んだ未来を! 守り抜かなきゃならない理由がある……!」

 

 葛葉紘汰が立ち上がる。

 力は全て失われた。歴史は全て編纂された。

 けれども―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふん――――!」

 

 立ち上がる。戦うための力を手に掴む。

 この力の使い道は、ずっと昔に選んだまま変わらない。

 腰に現れる戦極ドライバー。手に現れるオレンジのロックシード。

 それを構え、ロックを解除する。

 

「――――変身!!」

 

〈オレンジ!〉

 

 ロックシードを握った腕を大きく振り回し、その動きの中でドライバーを装着する。

 拳で叩き、ロックをかけ、ブレードを下ろし、果実を切り落とす―――

 

「オラァッ!!」

 

〈ロックオン! ソイヤッ!〉

 

 彼の姿が濃紺のスーツに包まれて、その頭上にオレンジの果実が形成される。

 それが頭の上に落ちてきて、鎧として広がっていく。

 オレンジの鎧を纏う、仮面ライダーの姿。

 

〈オレンジアームズ! 花道オンステージ!〉

 

「ここからは……! 俺たちのステージだッ!!」

 

 仮面ライダー鎧武が、今再び立ち上がる。

 

 その状況を前にして、アナザー鎧武が全身を怒りで軋ませた。

 葛葉紘汰が小さな脅威として復帰した。駆紋戒斗までもが現れた。

 それだけの事実が、抑え込んでいた破壊衝動を爆発的に増加させる。

 

 その意思を汲むかのように、星の果て。

 頭上に輝くメガヘクス本星が動きを見せた。

 

「――――ッ、本星! 何をしている!?

 地球との調和を停止。地球との融合を破棄。地球との調和を拒絶。

 これより地球という存在を、塵一つ残さず破壊する。

 破壊、破壊、破壊、破壊、ハカ―――ぐ、ぅうう、ガァッ!!」

 

 ―――彼方に見える機械の星。

 そこが大きく展開して、中心から砲台らしきものが伸び始めた。

 数千キロ離れたここからでも視認できるほどの、巨大なもの。

 その砲台が、少しずつ輝きだす。

 

「―――あいつ、地球ごと木端微塵に吹っ飛ばすつもりか!」

 

 この距離からすら感じるエネルギー。

 それは恐らく、惑星一つ消し飛ばして余りあるものだ。

 一切の理性を失ったメガヘクスによる、後先考えない超砲撃。

 

「だったら止めないと―――!」

 

 メガヘクスが一体を残し離脱したことで解放されたジオウたち。

 地球を粉々にされるなど御免被ると。

 ジオウが宇宙に上がるために、フォーゼウォッチをその手に出した。

 どうやって止めればいいかはまだ分からないが―――と。

 

「……いや、チャンスだ!

 あそこに地球をぶっ飛ばせるほどのエネルギーがあるなら……

 直接行ってあそこをぶっ壊せば、逆にメガヘクス自身が粉々にぶっ飛ぶはずだ!!」

 

 鎧武が間違いない、と言わんばかりにそう断言する。

 

 理屈は分かる。理屈は分かるが、と。

 囲まれていたジオウたちの援護に入ろうと、こちらにきていたマシュ。

 彼女が困ったような顔で、鎧武の横顔を窺う。

 

「…………えっと、それは、その……考え方としては、分かるのですが……」

 

「えっ……俺、何か変なこと言った?」

 

「んー、でも何か―――行ける気がしてきたかも!!」

 

〈アーマータイム! フォーゼ!〉

 

 飛来するロケットと合身し、フォーゼアーマーに換装する。

 その直後、アナザー鎧武が彼らに向かって殺到した。

 

「葛葉、紘汰ァアアアア――――ッ!!」

 

「―――貴様の相手は俺だ!!」

 

 直剣、グロンバリャムがその突撃を遮った。

 そのままアナザー鎧武と鍔迫り合いに持ち込むロード・バロン。

 

「私も、やられっぱなしで帰る気はないのでね」

 

 横合いからアナザー鎧武の足を刈り取るジカンデスピア。

 バランスを崩した機械と果実の怪物。

 その胴体に、バロンと白ウォズの蹴りが同時に叩き込まれる。

 そうしてから、彼は背後を怒鳴りつけた。

 

「行くならさっさと行け!!

 ―――俺が眠りについた未来は、お前が創った未来だ。さっさと取り戻してこい!」

 

「――――おう!!」

 

「行くよ、神様! マシュ、所長にこれから宇宙行くって連絡しといて!!」

 

「は、はい!」

 

 そう言って、ジオウとそれに掴まった鎧武が空へと飛び立った。

 ブースターモジュールを全開に。

 宇宙の果てを目指して一直線に突き進んでいく。

 

 その加速を見て、アナザー鎧武が蒼い眼光を明滅させた。

 

「ぐ、ぅうううう……ッ! メガヘクス本星……!

 地球の直接破壊を延期……! 一度主砲を格納し、全隔壁を閉鎖ァッ!!」

 

 ノイズの嵐。破壊衝動と、防衛意識が衝突する。

 遅々と進まず、しかし少しずつ防衛のための動作が始まった。

 そうしている彼を、バロンの振るう剣が斬り裂く。

 

 火花を散らしながら蹈鞴を踏み、一歩後ろに下がるアナザー鎧武。

 

「ッ、駆紋、戒斗ォオオオ……!」

 

「フン。頭の悪い話だったが、貴様の反応を見る限り効果はありそうだ……」

 

「黙れ……! 黙れ、黙れ黙れェッ―――!!

 所詮、貴様は戦極凌馬が干渉できた僅かなリソースから再現されたデッドコピー……!

 我らメガヘクスにとって、何の脅威でもない――――!!」

 

 全身から蔦が触手となって放出する。

 それ自体が凶器と化して、バロンたちの許へと殺到した。

 

 今にも倒れそうなマシュを盾の上から蹴り飛ばす。

 そのまま無数の触手を斬り捨て、赤黒い炎をもって焼き払い。

 しかしそれでは処理が間に合わず、彼は串刺しにされる。

 それでも耐え、自分を穿つ蔦を引き千切りながら動き続けていく。

 

 白ウォズの槍もまたそれらを払う。

 が、対応が間に合わず、全身を打ち据えられる。

 キカイの装甲によって耐えてみせているが、そう長くないのは明白だ。

 

「チィッ……!」

 

「これが現実だ! 本星の隔壁ももう閉鎖する―――!

 貴様たちは、我らメガヘクスにとっての脅威などではなかったのだ―――!!」

 

 

 

 

 彼女を抑えていた機兵は全て退いた。

 そのことに槍を微かに下げた獅子王が、周囲を見渡す。

 異形となった怪物の一体は向こうにかかり切りで、こちらに意識さえ向けない。

 もっとも、今更あれ一体をどうにかしたところで、状況は変わらないのだろうが。

 それでもあれをまず砕くために、槍を構え―――

 

 ―――土に還りながら、彼女に歩み寄る一人の騎士に動きを止める。

 

 彼は今なお、星の光に灼かれ続けている。

 触れられない。触れれば死ぬ。

 だから、ただ後ろにつくことしかできない人間の少女。

 彼女はただどうしようもないことに歯を食い縛っている。

 

 けれど、それでも、前に歩き続ける彼を応援するように。

 何の意味もない、はずの旅路を。ただ、遂げられるようにと励ますように。

 その顔がそう言っているように見えた。

 

 その目は虚ろ。今は、もう何も見えてはいないのだろう。

 騎士とは思えぬほどに優しげで、哀しげで、今にも泣きそうなその瞳を―――見て。

 

「―――ああ」

 

 いつか。そんな瞳で、自分を見ていた騎士を思い出す。

 木に寄りかかった彼女をそんな目で、誰かが見ていたことを思い出す。

 

 やっと、彼の顔と名前が繋がって、思い出せた。

 その名前を、いつかのように口に出す

 

「―――べディヴィエール」

 

「―――――あ」

 

 少しだけ、彼の瞳に色が戻る。

 彼は動かない体で、僅かに頭を下げた。

 

「―――申し訳、ありません。少し、夢を、見て……」

 

「夢……?」

 

「はい……いつかの、キャメロットで――――

 私は、夕暮れを、前に……物見の、塔で、黄昏れていて……そこに、王が。

 あの時、貴方が、どれほどの絶望を、抱いていた、かも知らず……

 私はただ、不和はあれど、それでも、キャメロットも、円卓も……いつも、そこに……

 貴方とともに、ずっと……ずっと……」

 

 回らない口で、涙の枯れた瞳で、騎士はただ啼く。

 1500年。巡ってきて、燃え尽きた魂の残滓。

 獅子王の感覚で言えば、きっとこれは不要になった魂だ。

 だというのに、彼女はそれを不思議と切り捨てる気にならなかった。

 

 ―――獅子の兜を外す。

 放り捨てたその兜が、床を転がっていった。

 

 膝を落とした彼に合わせるように、屈むことで視線の高さを合わせる。

 彼女の碧の瞳が小さく微笑んで。

 そうして、彼が果たしにきた使命に手を添えた。

 

 星の熱は彼女を灼かない。

 本来の持ち主である彼女に、その熱は届かない。

 けれど人が抱えられるはずのない熱を、彼はここまで運んでみせた。

 

「―――まったく、貴卿はいつまでも貴卿らしい。

 その純朴さは、なにものにも代え難い貴卿の美点だ」

 

「―――――」

 

 黄金に輝く銀の腕と手を合わせ、彼女は騎士の帰還を歓ぶ。

 

「ええ、あの時の円卓がそのまま続いていたら、と。

 そんな夢を見る円卓の騎士が、一人くらいはいてもいいでしょう。

 ―――サー・べディヴィエール。あなたは今度こそ、王命を果たした。

 もう休みなさい。卿には、少し考え込みすぎるきらいがある」

 

「―――――」

 

 もう、彼には声もない。

 腕を本来の持ち主に届けた以上、彼に延命の加護はない。

 既に風前の灯火だった命は、更に消えていく速度を加速する。

 閉じていく瞼、薄れていく意識。

 そんな彼に対して、王は最期の言葉を送る。

 

「よく、眠りなさい。あなたの王命を果たすための旅路は果たされた。

 どうか。あなたが望んだ夢の続きが、見れますように―――」

 

 

 




メガヘクスくんwwww全部私のせいだwwww

見ているのですか、べディヴィエール。
夢の、続きを―――

これが今回の二大要素です。普通だな!
流石にあと二話で終わるやろ

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