Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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玉藻を貰いました。
絆と骨を稼いできます。
 


怪盗!盗まれた眼魂!2009

 

 

 

「タケル、どこいってたのよ」

 

「アカリ? 来てたんだ」

 

 帰宅し、居間に戻ると顔を出してくる月村アカリ。

 彼女はタケルの幼馴染で、物理学を専攻している大学生だ。

 顔を合わせながら中へと入り―――御成と武蔵がその後に続く。

 

 突然現れた初見の女性。しかも刀を引っ提げた着物姿ときた。

 その姿を見てすぐ、彼女は思わずぎょっと目を見開いた。

 武蔵に軽く会釈してから、小声でタケルに問いかけるアカリ。

 

「あっ……タケル、この方は?」

 

「えーと。説明すると長くなるんだけど……」

 

 正直、タケル自身も分かっていない状況。

 ついでに武蔵にだって細かいことは分かっていない。

 要するに、この状況については誰も何も分かってなかった。

 

 そんな説明を受けながら、アカリが難しい顔を浮かべた。

 彼女が一人俯き、ぶつぶつと自分の思考内容を呟き始める。

 

「それってつまり……“もし宮本武蔵が女だったら”っていうパラレルワールドってこと? でも仮にそんな世界が実在したとして、その世界の住人が別世界を認識すること……まして行き来するなんてことありえないはず……いえ、そもそも時代までずれているんだもの。単なる並行世界で済ませられる状況じゃないわ。

 もしかしたら、眼魔の世界とも何か関係があるのかしら……そうだ、この前の一件で世界の境界が不安定に? だったらこの世界にはまだ、きっと他にも何らかの影響が……」

 

「アカリ殿、アカリ殿!

 とりあえず考えるのは後にして、武蔵殿からも詳しいお話を聞きましょうぞ」

 

 居間の入口を塞いでいたアカリを押し込み、中へ運んでいく御成。

 そこで正気を取り戻したのか、彼女は同意して中へと入っていく。

 

「面白いお友達ね」

 

 何やら満足そうに笑う武蔵。

 先に歩いていく彼女に後ろから、曖昧に微笑んだタケルが続く。

 

「ええ、まあ……はは」

 

 彼らが居間へと入ると、シブヤとナリタが昼食をテーブルに並べているところだった。

 一見して分かるほどに豪勢で、しかも大量の料理。

 そんな光景を前にしておぉ、と驚く武蔵。そして、ぽかんと口を開くタケル。

 

 ―――ゴーストであるタケルは、食事をとることが出来ない。

 なのでどんな料理があったところで、見ているだけになるのだが……

 こんな料理を皆が食べてるのを見ているだけになるのか……と。

 お腹は空かないのに、腹の虫が鳴った気がして手を自分の腹に当てる。

 

 先に入っていた御成も、そんな状況に目をぱちくりと瞬き。

 豪勢な料理が並ぶ食卓と、それを並べている二人の間で、視線を交互に行き来させた。

 

「これは……昼食ですかな?

 その、今日はぁ……誰かのお誕生日、だったり……しましたかな?」

 

「全然違うわよ。

 そう、タケル。あんたにお客さんが来てるのよ?」

 

 御成の疑問を一言でばっさり切り捨てるアカリ。

 そんな彼女は後ろにいるタケルにそう言って、台所の方を指差した。

 

「今呼んできます!」

 

 自分を押し込んできた御成をぱっぱと振り払い、アカリは椅子に座る。

 料理を並べ終えたシブヤが踵を返した。そのまま台所の方へと小走りに駆けていく。

 

 ―――お客さんが台所に。そしてこの豪勢な料理。

 

「お客人が作った料理、なのですかな?」

 

 恐る恐る、と言った風に問いかける御成。

 

「ええ。なんか、タケルにお礼がしたいって人が来て……

 自分で食材を持ってきたので、それでお昼ごはんを作らせて欲しい、って」

 

 そう説明しながら溜め息を吐くアカリ。

 彼女の言葉を聞きながら、自分の腹を何となく撫でるタケル。

 よく分からないが、せっかくお礼に作ってもらっても食べられない。

 作ってくれたのに食べられないじゃ、こっちの方が失礼になるだろう。

 非難がましくアカリを見つめ、彼はそれを口にする。

 

「……俺、ごはん食べられないんだけど」

 

「ちゃんと言ったわよ。今のタケルはちょっと普通のごはんを食べられない状況なんで、って。だったら私たちだけにでも食べてもらって、タケルと直接話すだけでも、だって」

 

 どういう理屈はよく分からない、と。アカリの方こそ肩を竦めた。

 料理自体はとても美味しそうだが、何とも微妙な状況だと。

 そんな雰囲気を吹き飛ばすように、御成が腕をまくって自分の椅子を引く。

 

「そういうことでしたら、食べないのも失礼ですな!

 ああ、そうでした。武蔵殿にはお茶をお出しせねば……」

 

 テーブルに置かれた料理を指差し確認していた御成。

 彼はそう言って、もうひとりの客人へと茶を出そうとし―――

 

「あ、じゃあせっかくだし私も食べていい? いっぱいあるし」

 

「うどん六杯食べてきたのにですかな!?」

 

 タケルに送られた料理なら、タケルに訊くべきだろう。

 そんな視線を武蔵から向けられた彼が、顔を少し引き攣らせながら椅子を示した。

 

「どうぞ……」

 

「ごちそうになります! いやぁ、ほら。こちとら寄る辺を持たない無頼者でして。食べられる時に食べておくのは基本、っていうか。あ、もちろんうどん代は返すのでそこはご心配なく。なんか古銭買い取ってくれる場所とか知ってる?」

 

 鼻歌を歌い出しそうなくらいに機嫌よく、彼女は食卓に席を並べた。

 人数分のお茶を入れながら、本日の料理人を待つ一同。

 さっぱり状況は分からないが、とにかく料理への礼からだろう。

 

「タケルさん、この方です」

 

 やがて、シブヤが連れてきたのは一人の青年だった。

 白い上着を着た彼は、エプロンを外しながら台所から出てきて微笑んだ。

 その彼と顔を見合わせて、曖昧に微笑み返すタケル。

 

 タケルに世話になった、というからにはタケルの知り合いであるはずなのだけど。

 彼の思考が真っ先に考えたことは、一つ。

 『まずい。誰だかさっぱり分からない……!』であった。

 

「えっと! あの……この度は、こんな豪華な料理を……」

 

 とりあえず、最初に料理の事への感謝を。

 あとは流れでどうにかするしかない。

 頭を下げたタケルの肩を、その青年の手が叩いた。

 

「よしてくれ、このくらい大したことじゃないさ。君に食べてもらえないのは残念だが、ちょっとした感謝の印として受け取ってくれればいい。さて。じゃあ僕は目的も果たしたことだし、ここで失礼するよ。君たちも僕の心尽くし、存分に堪能してくれたまえ」

 

 感謝をされる理由が思い当たらず、必死に頭を回転させる。

 そうしているうちに、彼は大した話もしないうちに居間から出ていこうとした。

 会話が終わった途端に開始される彼らの昼食。

 

「え!? そんな、こっちも何かお礼を……!?」

 

「いただきます!」

 

 大きな声でいただきます。

 ちょっとそっちを睨みつつ、去ろうとする青年の背中を追う。

 と、

 

「おっと」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは一気に空を翔けぬけて、食事をしている武蔵の許へ飛んでいく。

 飛んできた赤い眼魂を武蔵の箸がキャッチ。

 箸使いだけでばっちりと捕獲して、彼女は軽く首を傾げてみせた。

 

「なにこれ?」

 

「おお、それはムサシ殿の眼魂! 盗まれたのでは、と心配していましたが―――」

 

 御成がそう叫び、自分の箸でムサシ眼魂を指し示す。

 そうして、そこで言葉を止めた。

 

 タケルと御成が揃って視線を青年へと飛ばす。

 彼はばれてしまった事に苦笑しつつ、肩を竦めてみせていた。

 それを盗もうとしたことに対する後ろ暗い感情など、どこにもないかのように。

 

「これがこの世界の私ねー、不思議な感覚。

 けど私なら分かるでしょ? 私的に、食事の邪魔は完全に()()

 どんな事情があれ、何であれ、私は私の食事を邪魔するものは許さないのです」

 

 ぽい、と。箸からそのまま投げ捨てられるムサシの眼魂。

 あ、と。声を漏らしたタケルがそこに手を伸ばそうとして。

 しかし届かずに眼魂は青年の許まで飛んでいく。

 

 だから青年はそれを掴むために手を伸ばし。

 ―――そこに、白刃が煌めいた。

 

 盛大な激突音。

 武蔵が抜いた刀の峰と、ディエンドライバーが交差する。

 火花を散らす衝突に、武蔵が微かに目を細めた。

 

「峰打ちとは随分と優しいね」

 

「ええ。だってここ、殺す殺さないの時代じゃないでしょう?

 だったら、そこに合わせます。ついでに言うなら、後であなたが作ったご馳走を頂けると思えば、手加減する労力くらいなら御釣りがくるもの」

 

 刃が奔り、青年―――海東大樹が押し込まれる。

 彼はそのままの勢いで、自分から外へと吹き飛ばされた。

 それに追撃を仕掛けるべく、疾走する二刀を抜き放った武蔵。

 

「―――どどど、どーいう状況ですかな、これは!?」

 

 状況の変化の連続。それが原因で襲い来る、情報の津波。

 御成がえらいこっちゃ、と部屋を右往左往し始めた。

 茶碗と箸を持ったままの彼の動きと、呆然とそれを見ているシブヤとナリタ。

 同じく茶碗を持っていたアカリがそれを置き、テーブルを叩いた。

 

「もしかして……眼魂盗まれてたの!?」

 

 そんなこと聞いてない、と。アカリが激昂する。

 絶対に説教が長くなる奴だと、タケルが視線を彷徨わせた。

 

「えっと、ああー……多分、そう? すぐ取り返してくる!」

 

 言うや否や、返事を待たずに二人を追うように走り出すタケル。

 状況を整理しきれぬまま走り出し、とりあえずムサシの眼魂を拾う。

 盗人が拾いそびれた眼魂。

 

 とりあえずは一つ、手に戻ってきたこと少し安堵して。

 そうしてから、彼はすぐに全力で走り出した。

 

 

 

 

「変身!」

 

〈カメンライド! ディエンド!〉

 

 シアン&ブラック。

 彼はディエンドライバーによる変身シーケンスを即座に完了。

 仮面ライダーディエンドとなり、その銃口を武蔵に向けた。

 

「一飯の礼はとりあえず果たしましょう!

 よくわからないけど、あなたが持ってるものは返してもらうってことで!」

 

「一飯の礼というなら、君には僕にも礼をする理由があると思うけどね?」

 

 大天空寺の庭に飛び出すと同時、その銃口から光弾を連射する。

 不規則な軌道を描きながら暴れる青い光。

 ―――それをなぞるように、二つの剣閃は撃ち落としていく。

 

「それはそれ。これはこれ。

 それはそうと、結構な腕前です! とは言っておきましょう!

 まだちょっとしか食べてないけれど。あなたの料理、好い味してたわ!」

 

「それは何より。会心の出来だったからね!」

 

 弾ける銃口。跳ねる切っ先。

 放たれる光弾を正確無比に斬り捨てる鋼の刃。

 それは銃撃を斬り捨てるに留まらず、ディエンドをも打ち据えていく。

 彼は全身から火花を散らしながら、少しずつ後退る。

 

「かったい! 何で出来てるの、その鎧!

 変な立て方したら、刃の方が簡単に駄目になりそう―――!」

 

 そんな口を叩きながら、刃の奔りに乱れなく。

 幾度も斬り付けられたディエンドが、吹き飛ばされるように後ろに跳ぶ。

 距離をとった彼が、そこで白煙を上げる自身の装甲を軽く叩く。

 

「さて、なんだろうね。少なくとも……君には斬れないものさ」

 

「―――へえ。ええ、私はまだそういう位階に至ってはいないけれど。

 そういう物言いはかちんとくるわ」

 

 バックステップを踏むディエンドに追撃する剣。

 全身から火花を散らし、それでも彼には余裕さえ見える。

 ディエンドの指でカードが滑る。

 それがディエンドライバーに差し込まれ、読み込まれた。

 

〈アタックライド! イリュージョン!〉

 

 ディエンドと全く同じ姿を持つ分身が二体出現。

 三つの銃口が同時に、彼女に向いた。

 

「―――――!」

 

 目を細めて、その銃撃の軌道を天眼にて見定める。

 ディエンドの銃撃は縦横無尽、軌道予測は意味をなさない。

 が、彼女の眼であれば話は別―――

 新免武蔵がその眼で捉えて斬って捨てる、と決めたのであれば。

 

〈ゴーストドライバー!〉

 

 だが銃口が火を噴く前に。

 その声に、武蔵とディエンドが共に視線をそちらに送る。

 視線の先にいるのは天空寺タケルに相違なく。

 

 彼は腰に手を添えて、一つ目のお化けのような形状のベルトを出現させていた。

 

 左手を平手で掲げ、右手に取り出すのは一つの眼魂。

 右の手に持つ眼魂を、左の掌に叩き付け。

 押し込まれるのは起動スイッチ、ゴーストリベレイター。

 眼球の如き形状の眼魂、その瞳。クアッドアイリスが示すのは変身の瞳孔。

 

 開いたゴーストドライバーのスロットに眼魂が装填される。

 ドライバーの眼、グリントアイ。

 それはタケルがドライバーを閉じると同時、眼魂を眼球としてその瞼を見開いた。

 

〈アーイ! バッチリミナー! バッチリミナー!〉

 

 ゴーストドライバーの瞳から、一着のパーカーが浮かび上がる。

 オレンジの線で紋様が描かれた黒いパーカー。

 それはフードの中に顔を持っており、布一枚の姿のまま飛び出した。

 

 突如飛来するパーカーの体当たり。

 その直撃を受け、ディエンドの分身のうち一人が弾き飛ばされた。

 ノイズがかって消えていく分身の姿。

 

 そのままパーカーはタケルの元へと舞い戻り、腕を振り上げ踊り出した。

 右腕を振り上げその指先で空を切り、胸の前で印を結ぶ。

 左手で掴んだドライバーのハンドル、デトネイトリガーを引いて押す。

 その瞬間、彼の変身ルーティンは完成した。

 

「変身!」

 

〈カイガン! オレ!〉

 

 タケルの体が黒い人型。トランジェント体に変わっていく。

 全身にオレンジのラインを浮かべた、黒いのっぺらぼう。

 

 その上から空舞うパーカー、パーカーゴーストが覆い被さった。

 フードとともに被せるように、トランジェントに顔が張り付いていく。

 オレンジの顔面。黒い双眸。そして額から生えた大きな角。

 

〈レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ! ゴースト!〉

 

 オレンジのラインを、炎が揺らめくように輝かせる。

 その腕がゆるりと動き、頭部を覆うフードを外しながら歩みだす。

 彼はディエンドを見据え、咆哮と共に駆け出した。

 

「―――命、燃やすぜ!」

 

 ―――仮面ライダーゴースト。

 そう呼ばれる戦士が、いま此処に現れた。

 

 ディエンドが軽く手の中で銃を回す。

 残った分身体の方がすぐさま動き、彼の前へと飛び出して―――

 

「よっと!」

 

 逸れた意識の合間に差し込むように、二刀が刺さる。

 あっさりとノイズを立てて崩れ落ちていく分身。

 彼を討ち取った武蔵が、刀の峰を肩にかけて申し訳なさそうに笑った。

 

「ごめんなさいね。いけそうだったから、つい」

 

「あ、いえ、そんな。どうも……?」

 

 今にも衝突しそうな相手を横合いから掻っ攫った彼女。

 良し悪しは置いといて、今からぶつかり合う感じだったのに。

 

 見守ってられなくてごめんね、と。

 雰囲気を壊してしまったことを彼女は謝罪した。

 何とも言い返すことが見当たらず、ゴーストもとりあえず頭を下げる。

 

 そうしてから、彼はディエンドの本体へと向き直った。

 

「―――あんたは一体、何者なんだ!

 英雄の眼魂を盗むってことは、あんたも眼魔の仲間なのか!?」

 

「僕に仲間なんてものはいない。

 英雄の眼魂を盗んだのは、これがこの世界のお宝に通じているからさ」

 

 返答とともに銃撃。

 反射的にそれを切り捨てる武蔵の刃。

 

「この世界のお宝……? まさか、あんたも眼魂を15個集めて願いを!?」

 

「教えてあげる理由はないよ!」

 

〈アタックライド! ブラスト!〉

 

 ディエンドが手首を撓らせ、更なる銃撃を見舞う。

 無数の光弾は蛇のようにうねり、縦横無尽に殺到してくる。

 それを迎撃するため、ゴーストはドライバーへと手を翳した。

 

〈ガンガンセイバー!〉

 

「武蔵さん!」

 

「―――なるほどなるほど。ええ、了解。

 二天一流、新免武蔵。我が第五勢にて泥棒退治に加勢つかまつる!」

 

 ドライバーの眼、グリントアイが召喚する大剣。

 その剣を握り締め、ゴーストが宙を舞った。

 同時に走る二刀の剣閃。雨の如く降り注ぐ光弾を通さぬ、剣の結界。

 助成を受けたゴーストが距離を詰め、ディエンドに一撃叩き込む。

 

 装甲が爆裂するような衝撃。

 それに吹き飛ばされ、飛んだ先は大天空寺の庭。

 寺の敷地から降りるための、石段近くにまで吹き飛ばされる。

 地面に転がったシアンの鎧を前に、ゴーストは別の眼魂を手にだした。

 

 赤と白の眼魂。彼が盗り逃したムサシの眼魂だ。

 それを起動しながら、タケルがその名を呼ぶ。

 

「ムサシ!」

 

「なに!?」

 

 地面に転がりながらも絶えない銃撃。

 それを切り払い続ける武蔵が、ゴーストの呼びかけに反応する。

 そうだった、とゴーストが手にしたムサシの眼魂を持ち上げた。

 

「あ、そっちじゃなくて! この……眼魂のムサシさんのことで!

 えっと、ああ、もう。ややこしいなあ……!」

 

〈カイガン! ムサシ!〉

 

 オレゴースト眼魂から入れ替えるのは、ムサシゴースト眼魂。

 オレンジのパーカーゴーストが離れていく。

 トランジェント体に戻ったゴーストが、再びドライバーのトリガーを操作。

 今度は赤いパーカーゴーストが、先程と同じように現れる。

 

〈決闘! ズバッと! 超剣豪!〉

 

 赤い羽織を身に纏い、ゴーストが剣豪の姿に変わる。

 大剣だったガンガンセイバーが、二つに分割されて双剣に。

 二刀を構え直したゴーストは、すぐさまディエンドに向け疾駆した。

 

 起き上がりながら攻撃を継続するディエンド。

 だが武蔵がその攻撃を捌き続ける。

 ムサシ魂と化したゴーストの疾走は、容易に彼にまで届いた。

 

「やれやれ、そろそろかな……?」

 

「他の英雄たちの眼魂も返してもらう!」

 

 起き上がるディエンドを、双つの刃が打ち据える。

 刃が叩き付けられた部分から盛大に火花を散らし、ディエンドの足が蹈鞴を踏む。

 そうして彼の銃撃が中断された、その瞬間―――

 

「叩き伏せるわ! 合わせて――――!」

 

「わかった! 行くぞ、ムサシ――――!」

 

〈ダイカイガン! ガンガンミナー! ガンガンミナー!〉

 

 武蔵が加速し、二刀を振り被る。

 同時、ゴーストがグリントアイにガンガンセイバーを翳す。

 光を帯びる二刀流。

 

 ―――合わせて、四閃。

 全く同時に振るわれる二刀一対、二人で四振りの刃。

 

「いざ!」

 

〈オメガスラッシュ!〉

 

 四つの軌跡が重なる一点。そここそ、二人の剣豪の狙う場所。

 ディエンドの姿を寸分の狂いなしに重なる刃が打ち据える。

 超鉱石ディヴァインオレ製のアーマーさえ揺るがし、大きく吹き飛ぶ彼の姿。

 

 石段を飛び越えて寺の下へと落ちていくディエンド。

 そんな彼が空中で、七つの英雄眼魂をばら撒いた。

 

「眼魂……!」

 

 降ってくる眼魂をキャッチする姿勢に入るゴースト。

 

 彼をその場に残して、武蔵が石段の縁を滑りながら降りていく。

 ディエンドは地面に落ちて転がって、拘束するにはいい状態だ。

 だからこそすぐさま彼女はそれを追撃し―――

 

「やるね、流石は()()の宮本武蔵」

 

「―――――!」

 

〈アタックライド! バリア!〉

 

 彼の言葉に一歩出遅れ、光の壁にその刃を阻まれた。

 弾かれ、石段に足を下ろす武蔵。

 追撃を凌いでから地面を叩き、起き上がってみせるディエンド。

 彼の手にはまた、一枚のカードが握られている。

 

 武蔵は刃を翻して構え直し、目を細めながら相手を見た。

 

「……ふぅん。そういう言い方するってことは、何か知ってる系の人?

 まあ私自身、自分のことなんてよく分かってないのだけれど」

 

「さあね? 僕は君に興味なんてないから」

 

 彼の手は淀みなくドライバーにカードを滑らせる。

 その状態で銃身のグリップに手をかけ、腕を止めた。

 

 先程までの攻撃を見れば、カードが特別な攻撃の予兆だとは分かる。

 何がくるかは分からないが、彼女は構えたまま腰を落とし―――

 

「そう、私もあんまりあなたに興味は湧かないからお相子ね。

 私もあなたも性根は下衆で、けれど善人が示す輝きはそれなりに好きで―――

 しかし、その輝きに対する向き合い方が違うものと心得た」

 

「やめてくれないか、僕のことを分かったような言葉で語るのは。

 僕が好きなのはお宝だけさ」

 

「ええ。あなたはその輝きの価値を、盗むだけの価値があるもの、と解釈するのでしょう。

 けれど私はどちらかというと、そういうのは本人に抱えていてほしいかなって。

 だってそっちの方が尊くて、価値ある感じがするでしょう?」

 

「そういうものには盗む価値なんてないだろう?

 お宝は誰が持ってもお宝さ。だからこそ、それはお宝と呼ばれるんだから」

 

 軽口を叩き、言葉を交わし、苦笑して。

 ディエンドが呆れるように肩を竦め―――

 その瞬間、隙ありとでも言うかように、武蔵の刃が彼へと向け迸った。

 

〈アタックライド! インビジブル!〉

 

 そうしてその瞬間、ディエンドはその場から完全に消失した。

 空ぶる刃。何も斬らずに虚空を走る剣閃。

 剣が素通りした空間をちらりと見て、彼女は溜め息を吐く。

 

「あらら、そりゃそうよねー……私も逆の立場なら逃げるもの。

 譲れないものが懸かってるわけでもないのなら、戦う必要ないものね。

 さって、そんなことよりごはんごはん。迷惑料としてきっちり食べておかないと!」

 

 何が目的だったのかは知らないが、少なくとも盗みが目的じゃなかったのだろう。

 あの手の人間のやり口はよくわかる。わかっちゃう。

 多分、あっちもこちらのやり方は何となく察していただろう。

 自分の興味のあること以外どうでもいい流れ者の破落戸。それが彼で、それが自分。

 いるとこにはいるもんだなぁ、と。武蔵は軽く首を回しながら納刀した。

 

 そこに、変身を解除したタケルが階段を下りてくる。

 

「武蔵さん!」

 

「あ、ごめんね。逃がしちゃったわ」

 

「いや、ありがとうございました。おかげで他の眼魂を取り戻せました」

 

「いえいえ」

 

 チン、と。納刀で鍔を鳴らす。

 そうしてから、柄に手を乗せて()に備える。

 そんな彼女の前で、タケルはあまりにも分からない相手の行動に首を傾げていた。

 

「でもあの人、結局何がしたかったんだろう……

 眼魂を盗んでおきながら、わざわざここでご飯なんか作ってて……

 逃げようと思ってれば、そんなことする必要なかったのに」

 

「おんしが天空寺タケルか!」

 

「え?」

 

 タケルがそちらを見ると同時に。

 おや、と。武蔵も同じようにそちらを振り返った。

 

 そこにはのしのしと歩いてくる、スーツ姿の男が立っている。

 その後ろには、一人の少年と三人の少女。

 後ろにいる四人はいまいち状況が分かっていないような顔をしていた。

 

 ディエンドの時間を稼ぐような動きは、誰かを待っているようだと思っていたが―――

 彼らだろうか。いや、彼らの方からはそんな感じはしない。

 

「え、っと……?」

 

「しっかしおんし! そんなことも分からんのか?

 男が何かをやろうと企んで動いている……ということは、それ即ち―――

 そいつの夢のためのことに決まってるじゃろう!」

 

 スーツの男はずかずかとタケルに向け歩み寄っていく。

 いきなり詰め寄られ、そんなことを言われ、タケルは少しずつ後退する。

 それより早く距離を詰め切る男。

 彼は指先をびしりと伸ばしタケルの鼻先に突き付けて、思い切り凄んでみせた。

 

「ええっと、その……?」

 

「天空寺タケル――――おんしの夢は何だ!」

 

「…………はい?」

 

 いきなり現れたサラリーマン風の男にそう言われ、タケルは全力で首を傾げた。

 

 

 




 
あホ。
食べられないと分かっててタケル殿に飯を作る男。
一点狙いしてるお宝以外はそこまで気にかけないジオ~。

無限の剣、無空の剣。
ムゲンの可能性、極限の昇華。
 

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