Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「それでその……人理焼却、でしたかな。実際、どうなのでしょうな……?」
食後のお茶を啜りながら、御成はそうして言葉を切り出した。
大天空寺を訪れた五人の客人。
藤丸立香、常磐ソウゴ、マシュ・キリエライト、ツクヨミ―――そして、坂本龍馬。
タケルは彼らも招き、余るほどに作られていた昼食の席を一緒にした。
その席で語られたのは、世界は既に滅亡しているという状況。
彼らは昼食の席でそれぞれの情報を一通り交換。
そうして、今カルデアから来たと言う彼らは大天空寺の離れで休んでもらっている。
全員が疲労困憊。とりあえず寝かせてあげよう、と。
「いっくら何でも嘘でしょ。話を盛り過ぎですって!」
同じように茶を啜りながら、ナリタはそう否定する。
自分たちは普通に生きていて、普通にいつも通り生活しているのだ。
そんなことを信じろなどと、土台無理な話と言っていい。
そんな風に言うナリタの言葉。
だがそれに、湯飲みを両手で覆っていたシブヤが反論する。
「でも、嘘を吐いているようには見えませんでしたよ」
「そりゃあ……いや、そう簡単に信じちゃいけないんだって!
今まさに何か変な奴に眼魂盗まれそうになったばっかじゃん!」
それも確かに、とシブヤが考え込む。
「アカリ殿、アカリ殿はどう思われますかな?」
「…………」
完全に無言で考え込んで、御成の言葉に反応を示さないアカリ。
駄目な奴だこれ、と彼はすぐに彼女から視線を外す。
次に視線を向ける相手は、タケル。
「タケル殿はどう思われますか?」
「どうって……いきなりそんな話されたって分かんないよ。
全然頭がついていかない、っていうか……
ただ、みんな嘘はついてないってのは俺もそう思うし……」
ばん、と。そこで部屋の隅からテーブルを叩く音がする。
揃って目を向ければ、小テーブルで食事していた龍馬が箸を置いた音だったようだ。
彼は食事を終えて手を合わせると、突然立ち上がってみせた。
彼の対面に座っていた武蔵は、頬杖をつきながらそんな様子を見上げていた。
「本当にこんまい事ばっか気にする奴だ!
ほいで? おんしの夢は? おんしは一体どんな夢のために戦っとる」
「いや……いきなり夢とか言われても。
俺は生き返るための眼魂集めに精一杯だし、眼魔からこの世界を守らないといけないし。
夢とか言ってる場合じゃなくて……」
「かーっ! つまらんのう!
こんな有様で本当に英雄たちの心を繋げることなんかできるかぁ?
これじゃあ龍の奴も報われんだろうに!」
そう言いながら頭をがしがしとかき回す龍馬。
そんな彼の言葉に、今度はタケルの方が思い切り立ち上がった。
すぐさま龍馬に詰め寄りにかかるタケル。
「龍馬さん、どうして父さんのことを!?
もしかして知り合いなんですか、父さんと!」
自身に詰め寄ってくるタケル。
それを、彼は両手を振り上げて肩を押さえ付けた。
「そんなら、まずは薩長同盟を成してみろ!」
「―――はい? わ、わわっ!?」
突然切り替わる話題。
全くよく分からない内容をいきなり話され、タケルが困惑を浮かべた。
その瞬間、龍馬の体ががくりと崩れ落ちる。
突然意識を失って倒れ込んでくる成人男性。
それに巻き込まれて、一緒に押し倒されてしまうタケル。
「あら?」
「龍馬殿!?」
それをそのまま見守る武蔵と、はわわと立ち上がって動き出す御成。
特に合わせたわけでもなく、同じタイミングでアカリもまた席を立ちあがる。
そのまま周囲の状況を気にもせず、彼女は自分の鞄を手に取った。
そうして、外に出ていこうとすぐに動き出す。
「アカリさん? どこに……?」
「一回帰るわ。どういう仕組みか分からないけど、マシュちゃんが着れる服も必要でしょ?
マシュちゃんだけじゃなくて、他の人も替えの服はないだろうし……
ソウゴくんはタケルの服を貸してあげるとして、私の古着で悪いけど準備してあげないと」
そう言い放ち、彼女はすぐさま行動を開始した。
止める暇もなく出ていった彼女の背中は、すぐに見えなくなった。
突然の行動に目を見合わせるシブヤとナリタ。
そんな彼女を見送ってから。
龍馬に押し倒されていたタケルが、一度姿を消失させた。
彼をクッションにしていた龍馬が床に落下する。
そうしてから、別の場所に再出現するゴーストであるタケル。
「いきなりなに……? 龍馬さん、龍馬さん?」
倒れている龍馬の肩を揺するタケル。
数秒後、気絶していた彼がゆっくりと目を覚ました。
「龍馬さん? 大丈夫ですか?」
「りょう、りょうま……? ええ、と。ここは……一体、どこでしょうか……?」
「え?」
今まで頭の上に引っかけていた眼鏡をかけなおし。
目を覚ました男は、何が何だか分からないと疑問符を山ほど浮かべた。
「私の中に、坂本龍馬が……?」
「はい、信じられないとは思うんですけど」
彼は坂本龍馬本人ではなかった。
普通の人間、名を田村長正。
彼はリョウマゴースト眼魂に憑依され、一時的に龍馬の人格になっていただけだったのだ。
そんな彼と一緒に歩きながら、タケルは少し表情を曇らせる。
薩長同盟を成せ、と言い放ち意識を消した坂本龍馬。
彼の真意がさっぱりと分からないから。
「確かに意識が無くなったままに動いていたみたいですが……
でも私、坂本龍馬好きなんですよ! 子供の頃から! 本当だとしたら、なんか光栄です!」
「はは……」
仕事中に意識を失い、いつの間にか坂本龍馬になっていた彼。
そんな彼は行かなければならないところがある、ということで。
いつまた龍馬が顔を出すとも分からない以上、タケルが着いて行くことなったのだ。
タケルはゴースト。
場合によっては幽霊のように姿を消すこともできるので、何らかのフォローには向いている。
「彼みたいに世界を変えてやるって夢を見て!
でっかいことをやりたい、ってずっと……」
「夢……?」
そこまで語った長正。
彼はそこで何かを思い出したかのように急に、口を重くして黙り込んだ。
そうして、そこで立ち止まって空を見上げる彼。
「……私の夢は、宇宙なんです。
宇宙開発っていう、私たちが知ることのできる世界を広げる、人類全体のでっかい夢。
そして、その夢をくれたのは私の父……田村薩之進。
人工衛星開発という分野では、結構知られた名前なんですよ」
「田村、さつのしん、さん……」
薩之進、そして長正。二人の名前を合わせて、薩長。
まさか、と思いつつ彼の言葉に耳を傾けるタケル。
「今、私も人工衛星開発のプロジェクトに関わってまして……
どうしても、父の協力を得たいと思っているんですけど。
今の父は絶対に宇宙開発には関わらない、って意固地になっちゃってて!」
笑っているのか、泣いているのか。
彼は空を見上げながら、そう言った。
「どうして。長正さんにその夢をくれたのは、お父さん……なんですよね?」
「……はい。私と、兄。
二人してずっと、子供の頃から宇宙開発に携わるあの人の背中に憧れてきましたので」
「お兄さんも……その、お兄さんもそのプロジェクトに?」
長正がゆっくり、足取りを再開した。
その後ろに歩幅を合わせてついていくタケル。
「―――いえ、兄は亡くなりました。
昔は私たち三人で、父の会社で、人工衛星のプロジェクトに関わっていたんです。
ただ兄の死を切っ掛けに父は二度と宇宙の話をしなくなって……
私は一人でも夢を追い続けるために、今の会社に転職しました。
でもこうしてやってみて……やっぱり父は偉大だったな、と」
零れる笑い声。
それは父を誇るようでもあり、今の父を悲しむようでもあり。
「その……そのプロジェクトで、何か、事故が……?」
「いえ、そんなこと! ……ただ、すれ違ってしまっただけなんです。あの頃の私たちは全員、全力で宇宙という夢に立ち向かっていて。だから、違うと思ったことは認めず、いっつも自分が正しいと思う意見をぶつけあってました、ほとんど喧嘩です。
その日も真夜中まで意見をぶつけあっていて……激しくなった論争で頭に血が昇った兄は、会社を飛び出しました。同じように頭に血が昇った父に追い出されて。正直、いつも通りの光景だったと思います。けれど、兄は二度と帰ってこなかった。頭に血が昇った兄は周囲の状況が見えていなくて、車に轢かれて帰らぬ人になりました」
「それは……」
「自業自得といえばその通りです。誰が悪いかといえば、注意を怠った兄が一番悪い。
けど、だからこそ父は二度と夢に向き合おうとはしなくなりました。大きすぎる夢に向き合えば向き合うほど、普段は目に入るはずの見落としてはならない何かを見落としてしまう。周囲の確認を怠るほどに頭に血を昇らせる夢なんかなければ、兄は死ななかった」
大きく溜め息を吐いて、空を見上げていた彼が顔を伏せる。
「夢ばかり見ていたせいで、本来は失うはずがなかったものを失った時……父は、夢を見ることを止めた。私だって兄を失って、思うところはいっぱいあった。父の変化だって分からないわけじゃない。でも私も、兄だって、ずっと夢を追ってるあの人を追いかけて同じ夢を見てきたんです。今の父を見ても、絶対に兄は喜ばない。そのくらい、父に憧れていたんです。
あの日飛び出していった兄が、もし帰ってきていたら。絶対にまた怒鳴り合いながら、夢に向かって私たちは進んでいたはずだ……そう信じているから、私はこの夢を諦めない……」
そこまで続けた長正が、ふと気づいたように顔を上げる。
そうしてタケルに向き直り、髪を掻き乱しながら頭を下げた。
「―――はは、すいません。なに語ってるんだろ。
変なこと言っちゃったな……忘れてください」
「……俺に長正さんみたいな夢はないけど、一つだけ分かることがあります」
「え?」
驚いたように頭を上げる長正。
彼と視線を合わせながら、タケルは自分の胸に手を当てた。
首から下げたペンダント、宮本武蔵の刀の鍔。
父の遺品を握り締め、浮かんでくる感情と共に彼と目を合わせる。
「―――俺も、死んでしまった父さんを尊敬しています。俺にとって父さんは英雄で……いつか、その背中に追いつきたいと思ってるんです。父さんが懸けてくれた期待に応えたいし、父さんがやり残したことは、いつか俺が果たしたい……だから俺、応援します!
長正さんが挑み続けてる……長正さんとお兄さんの夢! お兄さんは亡くなられてしまったかもしれないけど、その夢はきっと長正さんが受け継いでると思うんです。お父さんと一緒に、三人で宇宙開発に挑みたいっていうでっかい夢!」
「私と兄の夢……父と、一緒に……」
少し、彼がぼんやりとその言葉を呟いて。
はっとした様子で首を軽く振った。
「そう、ですね……父とはもう少し話してみます。
私と兄の夢は、ただの人工衛星じゃなくて……父と一緒だからこその、って」
「はい! それがいいと思います!」
長正の歩調が元に戻る。
その後ろから着いて行くタケルも同じ速度で歩き出し―――
ふと、今度は長正が街頭でニュースを映しているテレビを見上げた。
何かの速報か、画面の中は随分と騒がしいように見える。
その画面の中に、一つの物体が映し出された。
「あ、あれ……」
「どうかしたんですか?」
「ああ。丁度あれが、兄が亡くなる前に父が設計に参加してた人工衛星なんですよ。
私も兄も、あれが打ち上げに成功した時は大はしゃぎして……父がやった仕事の中でも一番大きいもので、父にとっても、私や兄にとっても一番の誇りで……」
「へえ……」
そう言って長正はそのテレビを指差す。
タケルが見上げると、ニュースではその人工衛星に関する事を話していた。
何かのトラブルが起きたのだろうか、と心配げに見上げる長正。
そんな彼らの前で、ニュースキャスターは口早に内容を繰り返す。
『つい先程、人工衛星が何らかの手段によりハッキングを受け―――
こ、この地球への何者かからのメッセージを受信しました! それは……!』
―――街頭モニターにノイズが走る。
そのモニターだけではなく、全てのモニターに映る映像。
あらゆる電波を塗りつぶし、たった一つの光景が映し出された。
玉座にある何者か。その前で控える三つの人影。
ノイズが落ち着き、映像が安定したころ。
恐らく一番立場が上だろう玉座の何者かが、ゆっくりと口を開き始めた。
『はじめまして、地球の下等生物諸君。
私たちは君たちからすると、異星人というべき存在。デスガリアン、と呼んでくれればいい。
そして私の名はジニス、そのデスガリアンの
彼は手にワインのような液体の入ったグラスを持ち、軽く回しながらそう告げる。
―――異星人。
そんな突拍子のない発言を信じざるを得ないほど、画面に映る生命体は異形だった。
ジニスと名乗ったもの。
彼の傍に控える、スライムを纏った女性型。
キューブ状の何かが組み上がって作られた青い化け物。
機械でできた黄金のマントを纏う人型ロボット。
『今日は君たちにゲームの開始を告げるため、こうして連絡をさせてもらったんだ。
―――ブラッドゲーム、私たちの遊びさ。君たち下等生物をどれだけ面白おかしく殺せるか、それを競う遊びだと思ってくれればいい。さて。説明されても分からないだろう? 安心してくれていい。実際見てもらえればすぐに分かるさ。アザルド、チュートリアルを始めようか』
『了解だ、オーナー。
まず最初のプレイヤーは……ハルバゴイ、お前だ!』
ジニスの呼びかけに応え、青い怪物が両腕を打ち合わせる。
それと同時、今までテレビに映っていた映像が一気に乱れた。
―――
昼間の空の上で、ぽつぽつと小さな光が瞬いた。
その瞬間に完全に途絶える映像。
まるで、その映像を発信していた衛星が完全に消滅したかのような唐突さで。
「――――あ」
空に瞬いた人工衛星の断末魔。
それに、長正が呆然とした直後。
「長正さん!」
槍の雨で粉砕されていく建造物。
そこかしこから上がる火の手。
ほんの数秒で地獄絵図と化す街。
降ってきた槍を躱すため、長正を押し倒したタケル。
彼がすぐさま周囲を見ると、全てが悲鳴と助けを呼ぶ声で塗り潰されていた。
「長正さん、逃げてください! 長正さん!?」
「え、あ、は、はい……」
彼の動作は遅い。
怪我をしたわけではない。歩けないわけでも、走れないわけでもない。
彼が気を取られているのは、星の外で消滅したただの人工衛星にだ。
ふらふらと立ち上がる彼。それを支えるタケル。
そんな彼らの傍に、槍に遅れて着地してきたものが姿を現した。
「―――お、下等生物二匹発見っス!
ほらほら、逃げないんスかぁ? 逃げなきゃすぐに死ぬっスよぉ?
ま、逃げてもすぐに死ぬんスけど!」
けらけら笑いながら、槍を携えた怪物はそう言った。
槍をふらふら振り回し、脅迫するようにその切っ先を向けてくる。
けれど、長正は逃げようとしながらそれでも。
「父さんの、人工衛星が……」
「あれぇ? ホントに逃げないんスかぁ? やれやれ、たまにいるんスよねぇ。逃げもせず、抵抗もせず、ただ死ぬ面白くもない馬鹿なだけな奴! 頭の中身が下等すぎて何やってるのかさっぱり分からんっス! ま、所詮は下等生物ってことっスね! はははははははは!」
腹を抱えて笑い始める槍の怪物。
恐らく、ハルバゴイと呼ばれた存在。
長正を支えながらタケルはそれに向き直り、睨みつけた。
「―――なに、笑ってるんだよ」
「あぁ?」
ハルバゴイが笑みを消し、タケルを睨む。
下等生物と断ずる生命体に反論されたことさえ許せない、というように。
そんな相手を睨み返し、タケルは声を振り絞り叫んだ。
「大切な人が作った夢の結晶を……こんな形で奪われて。
そうやって傷ついた人の心を、どうしてそうやって笑えるんだよ!!」
「……下等生物の言うことはさぁーっぱり、分からんスー!」
タケルの声を一言で切り捨て、嗤い。
ハルバゴイが自身の上空に黒い雲を発生させた。
照準を合わせるように、手の中の槍でタケルを指し示し―――そうして。
轟くエンジン音。
タケルを睨みつけていたハルバゴイの横から、青い車体が飛んできた。
激突する青いマシンとハルバゴイ。
その衝撃で吹き飛ばされた怪物が、地面の上を転がった。
「ぐえっ―――!?」
「マコト兄ちゃん!」
化け物を轢いた後に着地し、ブレーキ音。
愛車マシンフーディーを停止させた男が、ヘルメットを外しながら飛び降りる。
マコトと呼ばれた青年は、一度ちらりとタケルの方を見るとすぐ正面に向き直った。
彼の腰にはタケルのものと同じゴーストドライバー。
そして右手には眼魂。
眼魂を起動し、その手から落とす。
落とされた眼魂は、確かにドライバーの中に滑り込んで収まった。
右手を大きく横に振り上げながら、左手はドライバーを閉じつつ右肩の位置まで上げる。
〈アーイ! バッチリミロー! バッチリミロー!〉
グリントアイから放たれるパーカーゴースト。
飛行するその力を纏うために、そうやって求める強ささえも握り潰すように。
拳を握る。どこまでも強く、強く、強く―――
そうして力を込めた腕が、ゴーストドライバーのトリガーへと伸びた。
「変身」
〈カイガン! スペクター!〉
トリガーを引けば、彼の体はトランジェント体へと換装されていく。
ゴーストのそれとは違い、全身に走るラインは濃青色。
スペクターパーカーゴーストが彼に憑依し、のっぺらぼうに顔を与える。
青い紋様の顔に、二本の角。
〈レディゴー! 覚悟! ド・キ・ド・キ! ゴースト!〉
仮面ライダースペクターが、己の頭を覆うフードを外す。
彼はそのまま拳を握り、ハルバゴイへ向け駆けだしていた。
「珍しい! こうして歯向かってくる下等生物は久しぶりっス!」
「貴様に歯向かう存在は俺で最後だ……!
お前が二度と何も壊せないように、ここで俺が消し去ってやる!」
ハルバゴイが振り抜く槍。
それを掴み取り、スペクターの拳が相手の顔面を撃ち抜く。
彼は槍を制したままに、拳の連打を見舞い続ける。
何度となく殴られたハルバゴイが、苛立つように足を振り上げた。
それはスペクターの横っ腹へと激突し、彼の姿を蹴り飛ばす。
「はははは! これからも下等生物を狩り続けるっスよぉ?
お前のような奴を、さっさと始末してからね!」
振り上げられる長大な槍。
それは振り上げられた状態で巨大化して、スペクターを頭上から襲う。
巨大質量と化した槍。それを見上げながら、スペクターの手が動く。
〈カイガン! ツタンカーメン!〉
取り出した眼魂をドライバーの中で交換。
再びトリガーを引き絞り、彼はパーカーゴーストをチェンジする。
飛び出すのは水色のパーカー。
古代エジプトの少年王、ツタンカーメンの魂が彼へと憑依する。
〈ピラミッドは三角! 王家の資格!〉
同時に出現するのは、長大な銃身の先に拳を持つ武装。
グーパー拳銃・ガンガンハンド。
それは彼が持つ携帯電話型ガジェット、コブラケータイと合体した。
現れる武装はガンガンハンド・鎌モード。
〈ガンガンハンド!〉
握り締めたその武装で、スペクターは槍の穂先を絡め捕った。
槍を押さえ付け、地面へと叩き付けてみせる。
そのまま踏みつけられる槍。
そうされたハルバゴイが、槍を引き戻そうと力をかける。
「放すっス―――!」
〈ダイカイガン! ガンガンミロー! ガンガンミロー!〉
「ああ、すぐに放してやる―――!」
スペクターがガンガンハンドをドライバーに近づけ、その力を解放する。
ツタンカーメンの力を帯びた鎌を、彼は全力で振り抜いていた。
鎌から発生するのは、黄金のピラミッド。
それは高速で飛んでいき、しかしハルバゴイの背後に辿り着いた瞬間に停止した。
ピラミッドの表面に浮かぶ、スペクターのクレストである瞳。
〈オメガファング!〉
「ひょっ!?」
そのピラミッドが展開した瞬間、スペクターが槍を解放する。
引き抜こうと後ろに力をかけていたハルバゴイ。
彼はいきなり放されて、同時にピラミッドからの吸引を受けて―――
一気にそのピラミッドの中へと吸い込まれていった。
ツタンカーメンの魂による王墓の呪い。
それは取り込んだものを切り刻む斬殺空間。
ピラミッドが幾度も明滅する。中での呪詛が、ハルバゴイを蹂躙する。
数十秒ののち、ピラミッドが爆発する。
その爆発に吹き飛ばされ、地面に転がるハルバゴイ。
ファラオの呪いから生還した彼は、怒りの眼差しでスペクターを見上げた。
「ぐ、が、が、―――下等生物如きに……!
もういいっス! 下等生物どもは、さっさと絶滅するっス!!」
ハルバゴイが槍を掲げる。
頭上に開く暗黒の雲。それは先程も行おうとした槍の雨。
真っ先に街に降り注いだ、彼の持つ圧倒的な破壊力。
槍の雨はすぐ降り注いだ。
数十、数百、数千。
それだけの数が休まずに降り注ぎ続ければ、街と人はすぐさま滅び去る。
―――それが、彼の思い通りに街に降り注げば、だが。
〈カイガン! ニュートン!〉
ツタンカーメンのパーカーによく似た、水色のパーカーゴースト。
それを天空寺タケルのトランジェントが身に纏う。
〈リンゴが落下! 引き寄せまっか!〉
ゴーストが左腕を上げる。
その腕を纏うアトラクショングローブが引力を制御する。
街に向かって射出された槍、その全て。
それが彼の左手に向かって強制的に集められていく。
「なんス――――!?」
ゴーストが右腕を上げる。
その腕を纏うリパルショングローブが斥力を制御する。
ゴーストの元に集まってきた槍、その全て。
それがハルバゴイに向かって強制的に射出された。
「グゲ、ゲ、ゲ、ゲゲ――――!?」
己の槍で串刺しにされていくハルバゴイ。
ゴーストが左腕を上げる。
当たらずに彼を過ぎ去った槍が、またもゴーストに引き寄せられハルバゴイの背中を襲う。
ゴーストが右腕を上げる。
まだ残っている槍が再び射出されハルバゴイを槍の塊、剣山に変えていく。
「な、に……が―――! 下等生物如き、に……!」
「マコト兄ちゃん」
「ああ」
槍の塊となった相手を前に、二人が同時にドライバーを操作する。
ドライバーのトリガーが引かれ、押し込まれ。
二人の足に、必殺の一撃のためのエネルギーが集まっていった。
〈ダイカイガン!〉
〈ニュートン! オメガドライブ!!〉
〈ツタンカーメン! オメガドライブ!!〉
スペクターがガンガンハンドを投げ捨てる。
そして背後に浮かぶ、目を思わせる二人の紋章。
ニュートン魂の生み出す引力が、今度は槍ごとハルバゴイを引き寄せる。
串刺しの体が一気に二人の元まで引き寄せられ―――
同時に。ゴーストとスペクターがその足を振り上げ、蹴り抜いた。
「グァアアア――――ッ!?!?」
炸裂するエネルギー。
無数に刺さっていた槍を吹き飛ばし、二人の蹴撃はその怪人にトドメを刺す。
爆発しながら吹き飛ばされたその体が、完全に動きを止めて地面に転がった。
―――サジタリアーク。
その玉座の間にあるモニターが映す、地球の状況。
ファーストプレイヤーであるハルバゴイが、今まさに息絶える様。
「おや。ジュウオウジャー以外にも面白そうな連中がいたようだ……
しかし……随分と早く、ゲームオーバーになってしまったね。アザルド」
玉座の上で軽く笑いながら、ジニスはそう言ってアザルドを見た。
大して破壊も殺戮も行えないうちに原住民に撃破。
せっかくのブラッドゲームの開幕がこれでは、面白くないにもほどがある。
「フフッ……」
チーム・アザルドが行ったのはつまらないゲーム。
そう言われたのに等しい状況に、チーム・クバルのトップが軽く笑いを零す。
「チッ!」
ジニスの言葉。クバルの態度。
それを前にしたアザルドが、テーブルをキューブの拳で思い切り叩いた。
続けて叫ぶ言葉はひとつ。
「ナリア、コンティニューだ!」
そんなアザルドの声に応えるのは、ジニス。
彼は玉座の横に積み上がっている無数のメダルの中から、一枚を拾い上げた。
ジニスの力を注ぎ込まれるメダル。
注がれた力によって表面が割れたそれを、彼はナリアに投げ渡す。
丁寧にキャッチしてみせたナリア。
彼女はジニスに一礼すると、自分の体を光のコインに変えて消えていく。
サジタリアークから消失するナリア。
そうしてから彼女が即座に出現した場所は、地球。
―――事切れたハルバゴイのすぐ傍だ。
ジャラジャラと音を立てて積み上がっていく光のコイン。
コインの山は再びナリアへと姿を変えた。
到着するや否や、すぐさま彼の死体に向け歩み寄る彼女。
「ジニス様の細胞から抽出したエネルギーです。無駄遣いせぬように励みなさい」
ナリアが歩みが目指すのは一点。
槍に串刺しにされなお残っている、ハルバゴイの体のコイン投入口。
彼女はジニスに託されたコインに一度口付けし、それを投入した。
―――その瞬間、溢れ出すエネルギーがハルバゴイを変質させていく。
その役目を果たすと同時。
ナリアは来た時と同じように光のコインとなって消えていく。
残されたハルバゴイは、数秒後には新たな姿で復活を遂げていた。
「サンキュー、ナリアっス!」
―――全長40メートル近い身長の巨人として。
巨大化しての復活。
それを見上げる二人が、その光景に息を呑む。
「巨大化しただと……!?」
「そんな……! こうなったらキャプテンゴーストで……!
ユルセン! ユルセーン!? ―――なんでこういう時すぐ出てこないんだよ!!」
眼下で騒いでいるゴーストたちを睨むハルバゴイ。
自身を倒した連中を彼は真っ先に踏み潰そうとして―――
―――殺到する五つの巨大キューブに激突され、薙ぎ倒された。
「っス――――!?」
〈3! 2! 1!〉
赤、青、黄、緑、白。
ハルバゴイの巨体に激突し、吹き飛ばした五つの巨大キューブ。
その内の赤、青、黄の三つ。
それが倒れるハルバゴイの前で縦に積み重なった。
縦に重ねて三つ、それだけで相手と同じ40メートル近い全長。
更に上から、積み上げたキューブを貫き通すように棒が刺さりに来る。
「え?」
ゴーストたちが見上げる前で。
キューブを貫いた棒の頂点が顔に変わる。
赤いキューブが開き、腕を出す。
青いキューブが半分割れて腰になる。
黄色いキューブは完全に割れて足になる。
そうして、赤の胴体から鷲の頭部が顔を出し。
積み上げたキューブが、瞬時に人型巨大ロボへと変形していた。
『完成! ジュウオウキング!』
〈ジュウオウキング!〉
「ロボットになった……」
呆然とその光景を見上げるゴースト。
巨大キューブ三つで、巨大人型ロボットに変形。
一体何がどうなっているのか、誰が答えられるのかも分からない疑問が湧いて出る。
巨大になったハルバゴイと同サイズ。
見上げるタケルたちの前で、キューブの巨人はハルバゴイへと駆け寄った。
自分を倒したゴーストたちに気を取られていた彼が、そのまま掴みかかられる。
「こいつら、ジュウオウジャー……! ええい、邪魔するなっス―――!!」
『何が邪魔だ! 俺たちがこの星で生きてることを、お前たちこそ邪魔すんな―――!』
獅子の咆哮とともに、更に力を籠めるジュウオウキング。
体を掴んでいる腕を振り解くために、必死に身を捩るハルバゴイ。
だがキューブの巨人が持つ剛力が、彼の腕から槍を奪い取り地面へと投げ捨てた。
落下して、轟音と土砂の柱を巻き起こす巨大な槍。
そのまま無手となった怪物に対して、幾度も振り上げられる脚部。
何度も蹴り付けられたハルバゴイの体が、火花を噴き上げ後退した。
「こんの……!」
『キングソード!』
体勢を立て直そうとする侵略者の前。
ジュウオウキングの手の中に、剣が握られた。
光と炎を噴き上げる直剣が、円を描きながら振りかざされる。
『ジュウオウ斬り!』
息も吐かせぬ内に振り抜かれ、放たれる斬撃。
刃とともに奔る光のキューブ。
三つの光を伴う一閃が、ハルバゴイの体を両断した。
「グ、ガァ―――! ゲームオーバーっスぅううう――――ッ!?!?」
斬り裂かれた場所から火花を噴き上げて、槍の魔人がくずおれていく。
膝を落とし、倒れ込もうとするその巨体。
だが地面に崩れ落ちたその体は、地面に倒れ切る前に爆炎と共に、粉々に消し飛んだ。
―――撃破したデスガリアンが上げる爆炎を背に、ジュウオウキングが剣を下ろす。
その巨神の眼が、眼下にいるゴーストたちに向けられた。
ハルバゴイが叫んでいた名前、ジュウオウジャーという名を思い返す。
「……デスガリアンに、ジュウオウジャー……あの人たちは、一体……」
「やれやれ、どうやらちくと状況が変わったらしい」
その声に振り向く。
長正がかけていた眼鏡を頭の上に押し上げ、彼は軽く首を回した。
憑依していた龍馬が顔を出した長正が、ゴーストの方へと歩いてくる。
「……龍馬さん……」
「ワシはこいつの夢にも興味があったが……仕方ない。
だが、おんしの言葉は確りと聞いた。
ワシが聞きたいでっかい夢は出てこなかったが……それでも」
長正からの体から、眼魂が分離する。
それがゴーストの方へと向き飛んでいき、力を失った長正の体が倒れ始めた。
すぐにその隣に近づき、倒れそうな体を受け止めるスペクター。
『おんしは、誰かの夢のために本気になれる男だと見込んだ。
だからこそ言っておくぞ、タケル。ワシら英雄の心を繋ぐということは、ワシら英雄眼魂として集められた全員が、おんしの夢のために本気になれるかどうか……っていうことぜよ―――』
青い眼魂がふわりと、タケルの手元に滑り込んでくる。
それを握り締め、彼は周囲の破壊痕を見渡す。
長正の体をゆっくりと近くの壁に寄りかからせ、スペクターがタケルを見た。
「それは……リョウマ眼魂か?」
「うん……」
目の前の巨神が分解する。
三つのキューブに戻ったそれが、瞬時に姿を消していく。
そのロボットがいたところに残っているのは、五人の戦士の姿。
―――今までとは比較にならないだろう戦いの予感。
それを全身で感じながら、ゴーストは彼らに向けて一歩踏み出した。
ジャグドくんはもう死にました。