Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

149 / 245
同盟!未来を守る戦士!2016

 

 

 

「え、ええと。そのー、ではまず自己紹介からですかな!?」

 

 御成がそう言うと、黄色い服のドレッドヘアの男がむん、と腕を組んだ。

 タケルたちの目の前にいる人物たちは一人……いや二人。

 二人だけを除いて、どこかの民族衣装風の服装を着ている。

 その上で、赤い服の青年以外には動物の尻尾までもが生えている。

 

「俺はレオ! よろしくな、人間!」

 

 真っ先に応えた獅子の尾を持つ男。

 黄色を主体とする服装の彼は、大音量で挨拶の声を発し―――

 横にいた、青い服の女性に叩かれた。

 

「レオ、うっさい! ……私はセラ、よろしくね」

 

 彼女の持つ尾は鮫の尾びれ。

 そんな青い女性の隣。

 動物の尾を持っている者の中でも、妙に現代風の白い服装をした女性。

 白虎の尾を持つ人物がそれに続いて名乗り上げる。

 

「アムです、よろしくね?」

 

 名乗ったアムは隣にいる緑の服の青年の背中を、ぽんぽんと背中を突っついた。

 催促された青年は、仕方なさげに口を開く。

 

「タスクだ」

 

 彼がすぐにそっぽを向いたことに顔を少し引き攣らせて。

 赤いジャケットの青年が最後に、申し訳なさそうにその名前を名乗る。

 

「風切大和です。なんか、すみません……」

 

「なるほどなるほど!

 レオ殿にセラ殿にアム殿、それにタスク殿と風切大和殿……と。

 ではこちらも順に自己紹介をしましょう! まず拙僧は御成と申す者でして―――」

 

 大天空寺の広さで一カ所に集まった総員。

 御成からタケル、シブヤ、ナリタ。続いて、武蔵。

 起きていた立香、ソウゴ、マシュ、ツクヨミも挨拶を済ませてしまう。

 

 街はあの大破壊で未だ混乱の最中だ。当然と言えば当然の話だが。

 長正もリョウマ眼魂が抜け、意識を失うような事はもうないだろう。

 だからこそ安全な場所まで送って別れ、タケルはここへ戻ってきた。

 

 彼が夢に見ていた人工衛星の開発計画は―――研究はともかく。

 少なくとも地球の外から異星人が襲ってくる間は、打ち上げなど出来ないだろう。

 彼らの夢を果たすためには、地球を守り、デスガリアンを追い払わなければならない。

 

 リョウマ眼魂を握りながら、タケルは彼が言っていたことを思い出す。

 英雄たちの心を繋ぐ、英雄たちの心を一つにするということは―――

 タケルの夢に力を貸してもいい、と。英雄たちが認めるのと同義なのだと。

 

「自己紹介はそれくらいでいいだろう。今は少しでも早く、現状の確認を行うべきだ」

 

 全員が名前を告げ終わるや否や、タスクがそう言った。

 

「確かにそうですな。ではまず、我々から。

 我らはこの大天空寺の坊主にして、不可思議現象研究所の所員!

 今まで我らは眼魔と呼ばれる怪物と戦い、眼魂を集めておりました……」

 

 突然現れた眼魔と呼ばれる怪物。

 18歳の誕生日に奴らに殺されてしまったタケルは、仮面ライダーゴーストとなった。

 その力を授けに彼の前に現れた仙人と名乗る男は、こう言った。

 15個の眼魂を集めれば生き返ることできる、と。

 

 そうして彼は一度、15個の眼魂を集めて願いを叶えることに成功する。

 ―――幼少のころ眼魔の世界に送られ、肉体の失い眼魂になっていた女の子。

 マコトの妹、深海カノンの肉体を生き返らせるという願いを。

 

 その戦いの中で再び飛び散った眼魂を探し出し。

 そして、同じように眼魂を集めている眼魔たちを倒すこと。

 これがタケルたちの戦いだ。

 

「そう言えば、マコト殿はどちらへ?」

 

「病院にカノンちゃんを迎えに行ってる。

 こんな状況だし、うちにいてもらった方がきっと安全だって」

 

「確かに……先程の爆撃で、怪我人も……大勢いるでしょう。

 病院もきっと手が足りないでしょうし、大丈夫そうなら退院した方がいいかもしれせんな」

 

 うんうん、と御成がそんな風に言って頷く。

 そうしてから、彼は大和たちの方を見て問いかける。

 

「拙僧たちの事情はこのようなところ。今度はそちらの……

 どうかされましたかな、大和殿?」

 

「―――えっ!? あ、いや。特に何かあるわけ、じゃ」

 

 御成の前で挙動不審気味に視線を彷徨わせる大和。

 突然そうなる理由が分からず、揃って皆で首を傾げる。

 

「フォウ?」

 

 マシュの頭の上で、フォウも同じように頭をこてんと横に倒す。

 彷徨っていた大和の視線が、丁度その小動物に合わさった。

 彼はいきなり立ち上がり、マシュへと―――彼女の頭の上のフォウへと駆け寄った。

 

「う、うわぁあ! 凄い、初めて見る動物だぁ!

 リス? ネコ? キツネ? いや、まったく違う! 一体どんな動物なんだろう!」

 

「フォッ!?」

 

 大和の手が彼女の頭の上からフォウを抱き上げる。

 突然抱き上げられたフォウが、びくりと体を揺らす。

 そのまま小動物の手が振り抜かれ、大和の手を思い切り引っ掻いた。

 

「あいった!?」

 

「あっ、大丈夫ですか!?」

 

 ひょい、と彼の拘束を擦り抜けて抜け出すフォウ。

 彼が着地したところに伸ばされる腕。

 アムの腕が、ゆっくりとフォウの頭に触れて撫でる。

 

「フォフォウ」

 

「そうだよねぇ。いきなりあんな風に触られたらびっくりするよねぇ?」

 

 何度か彼の頭を撫で、そうしてから抱え上げるアムの腕。

 彼女の腕の中に納まったフォウが、当たり前だと言わんばかりに鼻を鳴らす。

 

「いきなり抱き着かれたら当たり前の反応だ」

 

「大和、あんた常識ってもんがないの?」

 

 タスク、セラから続けてそう言われる大和。

 そんな彼らを見回したレオが立ち上がり、大和の後ろに回る。

 そうしてぽんぽん、と肩を軽く叩き。

 

「だってよ!」

 

 そう言って、快活に笑った。

 

「あ、はい。ごめんなさい……」

 

 フォウに向かって頭を下げて、正座で座り直す大和。

 そんな彼のすぐ横に座り、思い切り肩に手を回して密着するレオ。

 慰めるように肩を叩きながら、レオはぎゅうと大和を抱き寄せる。

 

「なるほどなるほど、やさしーく触ってあげればいいのね?

 フォウくん? 撫でさせてもらうわよー?」

 

 アムの腕の中のフォウに嬉々として、しかしゆっくりと手を伸ばす武蔵。

 そんな優しげな手つきに対して、フォウは。

 

「フォーウ! フー!!」

 

「あれ?」

 

 全力の威嚇でもって対応した。

 抱えていたアムも困惑するような、完全な攻撃態勢。

 

「なんで!?」

 

 そんな外野を放っておいて、タスクが語り出す。

 大和を除き彼らは人間ではなく、ジューランドと呼ばれる異世界の住人、ジューマン。

 リンクキューブと呼ばれる巨大なオブジェに、王者の資格と呼ばれる六つのキューブを嵌め込むことで、人間界とジューランドは行き来が可能になるという。

 それはタスクたちが偶然ジューランドに迷い込んだ大和とともに、一度人間界に出てきた時だった。丁度そのタイミングでデスガリアンが地球に降り立ち、攻撃を開始した。リンクキューブは爆撃され、王者の資格が一つ行方不明になってしまったのだ。

 王者の資格が足りなければ、彼らはジューランドに帰ることができない。

 

「僕たちはジューランドに帰るため、失われた王者の資格を探している。

 もちろん、この星の生き物全ての敵であるデスガリアンとも戦うつもりだ」

 

 そう言って言葉を締め括るタスク。

 次は、ということでメンバーを一通り見回した結果。

 ツクヨミが真っ先に口を開いた。

 既に大天空寺の者たちには話したが、同じことを。

 

 そうして皆が情報を語り終えた頃には、もう日が暮れていた。

 

 

 

 

 大天空寺から電話を借りて、同居している叔父に連絡を取る。

 日も暮れてしまった事もあって、彼らは大天空寺に寝床を借りることになった。

 他にも色々話したいことがあったし、流石にとんでもないことが多すぎた。

 説明しあうには、いくら時間があっても足りなかったのだ。

 

 人理焼却という世界の終わりと言われていても漠然としている。

 だが、デスガリアンのような分かり易く星を滅ぼそうとしている化け物は別だ。

 そういうものが出てきたからには、人理焼却だってありえてもおかしくない。

 

「病院、忙しいんだろうな」

 

 叔父、森真理夫への電話連絡を終えて。

 自然と。そんな言葉が自分でも驚くほど低い、と感じる声が沸き上がってきた。

 そんな自分を否定するように、首を大きく横に振る。

 

 たったあれだけのことで、だいぶ頭が茹っているのだろう。

 少し頭を冷やそうと夜風に当たるため、ちょっと庭に出させてもらう。

 

 ―――庭に出ると、そこには大きな石に腰かけたタケルがいた。

 彼は眼魂を眉間に当てて、何か瞑想でもしているようだ。

 邪魔しちゃ悪いかな、と踵を返そうとして。

 

「何してるの?」

 

「わっ……!? あ、ソウゴくん……」

 

 いつの間にか背後にいた、常磐ソウゴに驚く。

 彼も夜風に当たりに来たのだろうか。

 何をしているのだろう、という疑問が伝わったのか。

 ソウゴは自分が何故いるのか、という答えを返してくれた。

 

「あ、俺? 俺はなんか皆が色々着替えてみるから、って追い出されただけ」

 

「ああ……」

 

 あの後帰還した月村アカリが持ち込んだ大量の古着。

 それをとりあえずの服にするため、女性陣は色々話をしていて―――

 なぜかそれにアムと……彼女に巻き込まれたセラも混じっていたが。

 更にその後に来た深海マコト、カノン兄妹。

 カノンもその騒ぎには巻き込まれていたと思う。

 

 昼間の騒動の規模の割に気が抜けている。

 が、色々あったからこそ。多分こういう空気の方が救いになる。

 

「大和さん? ソウゴ?」

 

「あ」

 

 そうやって話していると、タケルに気付かれてしまった。

 仕方ないので、二人揃って彼の元へと近づいていく。

 

「ごめん、邪魔しちゃったかな?」

 

「いえ、特に何かをしてたわけじゃないので……あの。

 二人とも……夢、って。何か特別な夢を持ってたりしますか?」

 

「夢?」

 

 取り出していた眼魂をしまい、そう問いかけてくるタケル。

 彼の隣にさっさと腰かけ、同じように大和を見上げてくるソウゴ。

 とりあえず自分から、ということなのだろう。

 ソウゴの反対、タケルを挟むように座って少し悩む。

 

「俺は……色んな生き物に出会うっていうのが、夢……だったのかな。

 地球で生きている動物はみんな、どこかで繋がってる。

 だからこそ、俺たちと繋がってくれてる色んな生き物の事を知りたい。

 そう思ってこうして、今は動物学者になったんだ、と思う」

 

「大和さんって学者さんだったんですか?」

 

「へぇー、じゃあ大和先生? 大和博士?」

 

 ソウゴから向けられるそんな呼び方に苦笑して、今度は彼に話を振る。

 すると彼はすぐに答えを返してくれた。

 

「俺の夢は王様! 最高最善の王様になって、世界を全部良くすること!」

 

「王様……王様って、あの王様?」

 

 自信満々に、己の夢をそうやって誇る彼。

 ある意味では子供っぽく。

 しかし、彼らから聞いた話によれば、何度も世界を救うための戦いに身を投じてきて―――

 それでも何の衒いもなく、彼は己の抱いた夢だけを誇った。

 

「世界の全部を良くしたい……でっかい夢、か」

 

 ソウゴの言葉を聞いて、タケルが空を見上げる。

 そうやって空を見上げた彼に、何か思うところがあるのか。

 ソウゴが彼を見て口を開いた。

 

「そんな気にする必要ないんじゃない?

 世界は俺が良くするし、タケルはタケルがやりたい事やった方いいと思うけど」

 

「俺の、やりたいこと……」

 

 自分のやりたいことで、英雄の心を繋ぐ。

 そんなでかい夢なんて全く思いつかず、タケルは再び空を眺めた。

 

「その通り。我が魔王のような事は誰にでも出来る事じゃないからね」

 

「―――誰!?」

 

 唐突に背後から聞こえてくる、初めて聞く声。

 すぐさま振り返ると、そこに豪奢な装丁の本を抱えたロングコートの男が立っていた。

 ソウゴだけはそれに大した反応も見せず、呆れた顔を見せる。

 

「黒ウォズ、いきなり現れる前に俺たちに言わなきゃいけないことない?」

 

「知り合い……?」

 

「はは、悪かったね我が魔王。あちらには説明してきたから、安心してくれていい」

 

 さほど悪びれた様子もなく、そう返す黒ウォズ。

 そんな説明を受けて。彼はどうかなぁというような表情を受かべた。

 

「ホントにぃ? 

 ダ・ヴィンチちゃんだけに説明して、他の人とは話してないとかやってない?」

 

「流石は我が魔王。私の行動はお見通しのようだ」

 

 やはりまるで悪びれることもなく、彼はにこやかにそう返す。

 やっぱりねー、と納得するソウゴ。

 そんなやり取りに、大和が首を傾げて問いかける。

 

「えっと、知り合い?」

 

「うん」

 

「私はウォズ。我が魔王の家臣にして、その覇道を導くもの。

 どうぞお見知りおきを。天空寺タケル、そして風切大和」

 

 怪しいことこの上ないが、ソウゴがこの反応ならたぶん問題ないのだろう。

 自分たちのことまで知っているのは何故か、という疑問はあるが。

 彼を眺めていたタケルが、そんな掴みどころのない彼を見てぽつりと呟いた。

 

「……なんか、おっちゃんみたいな」

 

 小さい声だったが、それでも聴こえたようで。

 黒ウォズはそんな台詞に、何故か小さく眉を上げる。

 だがすぐに、ソウゴから声をかけられて表情を取り繕った。

 

「ところで黒ウォズ、あのデスガリアンっていうのさ。

 あいつらって宇宙にいるんでしょ? 宇宙に行けば直接追い払えるのかな」

 

「―――まあ、方法としてはそういう考え方もあるだろうけどね。ただその方法、私としてはオススメはしないな。

 デスガリアンのブラッドゲームには、一応はルールがある。細かい決まりはないも同然だが、プレイヤーとなったものだけが地球に来て暴れる、というルールがね。こちらから仕掛けて、ルール無用の戦闘になった場合、一番損をするのは戦場にされる地球だ。複数のデスガリアンに各地で暴れられたら、君たちでは手が足りないだろう?」

 

「じゃあ少しずつ相手の戦力を削るしかない―――ってこと?」

 

「地球に被害を出したくない、というならそれが無難だと私は思うけどね。最終的に攻め込むにしろ、出来る限り戦力を削ってからにした方がいいとは進言しておこう」

 

 何故かデスガリアンのことまで知っているらしい彼。

 流石に怪しさが爆発だ、と。大和がそんな彼の姿を訝しげに見つめる。

 それがどうしたのか、とばかりに肩を竦めるだけの黒ウォズ。

 

 ―――懐のリョウマ眼魂を握り締めながら、タケルは天を仰ぐ。

 彼らが夢を叶えるためには、惑星(ほし)の外を取り戻さなければならない。

 そうすればきっといつか、墜とされた衛星に代わる―――

 彼ら親子の夢が、この惑星(ほし)を巡る人工衛星(ほし)になる。

 

 英雄の心を繋ぐほどの夢は、今の自分には思いつかない。

 けど、そういう風に夢を取り戻すためになら―――自分は、きっと戦える。

 

 

 

 

 先程までの話を聞いて、思った。

 もし、その15個の眼魂を集めて得られる力があれば―――聞いた限り、深海カノンと同じような状態になっているオルガマリー・アニムスフィアは、と。

 

「ねえねえ、マシュちゃん。今度はこれ着てみない?」

 

「は、はぁ……」

 

 そんな思考を遮るアムの声。もうかれこれ一時間以上はこれだ。

 あくまで鎧のアンダーウェアの上に着る服。

 しかも緊急武装する場合は、その服は吹き飛んでしまうだろう。

 なのでもし頂けるのだとしても、本当に不要な古着だけで、と言ったのだが。

 

「やっぱ古着だけじゃ足りないわよね。明日買いに行きましょうか」

 

 これらの服の所有者である月村アカリが、そんな風に溜め息を吐く。

 

「お店、やってるんですか? こんな状況で……」

 

「それは明日になってみないと分からないけど、きっと大丈夫よ。確かに凄いことになったけど、どうしようもないくらいの被害が出る前に何とかしてくれたもの」

 

 ツクヨミの疑問をさっさと切り捨てるアカリ。

 確かにデスガリアンの破壊は凄まじかった。

 が、眼魔とて被害を出していないわけではないのだ。

 それでも今まで通りに生きていた皆は、ちょっとやそっとじゃへこたれないだろう。

 

「あ、そうだ。明日、カノンちゃんの快気祝いするって御成が言ってたわよ。

 あなたたちも一緒にどう? 食べに行くのはたこ焼きだけど」

 

「え? もしかしてフミ婆の?」

 

 いきなり自身の退院祝いがある、と言われてカノンが目を瞬かせる。

 そんな彼女は内容を聞いて、良く知るたこ焼き屋の名前を出した。

 アカリがそんな彼女言葉に肯首で返す。

 

「そうそう」

 

「参加しまーす!」

 

 ノータイムで手を挙げるアム。

 現状で言うなら、彼女たちの目的はデスガリアンと眼魔に対応しながら、王者の資格と眼魂を集めることだ。マシュたちの目的は不明だが―――恐らく仮面ライダーゴーストの物語。

 眼魂や眼魔と連動しているだろうことは想像に難くない。つまり能動的にとるべき行動は、まずは捜索活動ということになる。

 

 だというのにいきなり話を逸らしたアムの姿。

 部屋の隅のテーブルで頬杖をつきながら、そんな同郷の者の姿をセラが眺めている。

 随分と渋い顔をしているのを見て、彼女の対面に座っていた立香が話しかけた。

 

「セラは帰りたいんだよね、今すぐにでも」

 

「……まあね。でも現実的に考えて、そんなの無理だもの。

 どこにあるかも分からない王者の資格を、数日中に探し出すなんて。

 デスガリアンや……その、眼魔? っていうのがいつ出てくるかも分からないし」

 

「うん……そうだね。

 でもいつか帰れるよ。帰るために、戦うチャンスがあるんだから」

 

 立香の声に、セラが視線だけで彼女を見る。

 それは、帰る場所がある人間の顔じゃなくて。

 不思議に思ったセラが問いかける。

 

「あんたは人間だからこっちの世界に家があるんじゃないの?

 それともそのカルデア、っていう帰れなくなったところがあんたの家?」

 

「うーん……ちょっと私もよく分かってないんだけど……」

 

 立香が窓から空を見上げる。

 いつか空を仰いで感じた違和感。

 それは、空にかかっているはずの光帯から感じているものだった。

 光帯が無いわけではない。だが、光帯が()()のだ。

 

 まるで曇り硝子の壁を一枚隔てたかのように見えるその光景。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それを見て、直感してしまえた。

 

 恐らくはソウゴも分かっているだろう。

 だから彼女も、彼も、自分の実家なんかに連絡を取ろうとも思わなかった。

 きっとそこに、彼女たちの居場所は存在しないから。

 

「……うん。でも、たぶん戦わなきゃ帰れないと思う」

 

「……そう」

 

 嘘だとは思わない

 彼女自身も分かっていない理屈かもしれないが、そうなのだと。

 立香を見ていたセラも納得して、部屋を見回した。

 

 ―――家族と会えないのは寂しいが。家族と会えないのが申し訳ないが。

 それでも。迷子がこれだけいるのに、自分だけへこたれていられない。

 まして自分よりも子供なヒューマンがそうしているのだ。

 むしろ、自分は彼女たちを安心させるような―――

 

 瞬間、立香が思い切り伏せた。

 いきなり何を、と思った途端にセラは凄い勢いで抱き着かれる。

 

「んもー! 二人だけそんな難しい顔して!

 ほら、こっちきてみ、きてみ? 色々と着せ替えてしんぜよー!

 せっかくなんだから楽しまなきゃ損でしょー!」

 

「はい!?」

 

 有無を言わさぬ武蔵の突撃。

 振り解こうとしても、力のかけ具合が見事すぎて外せない。

 しかも突撃の前兆すら感じ取れなかった一撃だ。

 ヒューマンなのにこんな力で拘束してくるなんて、と。

 

「なんであんたこれ避けられたの!?」

 

 衝撃的すぎて何故か立香に怒鳴るセラ。

 どう考えても今のは二人纏めて捕まえる攻撃だった。

 なのに自分は気付けなくて、立香は見事避けてみせた。

 

「慣れ、かな?」

 

 自己分析するように悩みながら、そんな答えを口にする。

 こんな攻撃に慣れるような激戦が、彼女を育てたというのか。

 

 自身の力量に自信を持っていたセラが愕然とした。

 立香と手合わせをすれば、数合とせずに打ち倒せるだろうという確信がある。

 事実として、戦えばそうなるのは紛れもない事実だ。

 だが、彼女はこれだけの不意打ちを避けるスキルを持ち合わせていた。

 けっして、ただの弱い人間などではなかったのだ。

 

「ちょ、振り解くの手伝いなさいよ……!」

 

 立香が二人から距離を離していく。

 そんな彼女の目の前で、本気で抵抗しても全然振り解けないセラ。

 彼女がもがきながら、武蔵にどんどん引きずられていく。

 

「よいではないか、よいではないか」

 

「くっ、そんな……! ただの人間がこんなに強いだなんて……!」

 

「ふふふ、人間というものはね。目的のためならどこまでだって強くなれるものなのよ!」

 

 多分一番盛り上がっている武蔵。

 その様子を見守りながら、立香は―――

 そろそろ寝支度をしようと、みんなの布団を敷き始めるのだった。

 

 昼間に積み重なった疲労で気絶するように随分と寝こけた。

 それはそれとして、やはり夜は寝るものである。

 

 

 

 

「タスク殿は勉強熱心ですなぁ。タケル殿もこのくらい勉強してくだされば……」

 

「別に勉強に熱心というわけじゃない。こうなってしまったものはしょうがない、だったらせめてその機会を活かそうするのは当然のことだ」

 

 御成の案内で大天空寺にある蔵書を眺めていたタスクはそう言う。

 彼は本棚の中の物品を確認しながら、何冊か手に取って中を検める。

 

「人間の世界の本を読む機会なんて、ジューランドではほとんどないからな」

 

「ほとんど、ということは。時々は人間の本を読む機会もあったのですかな?」

 

「ああ、何冊かは見た事がある」

 

 彼は人間の歴史、あるいは人間社会についての本を選び出しているようだ。

 

「ははぁ……では、我らの知らないところで、ジューランドに人間が行ったり、ジューマンが人間の世界に来たりと言う事があったのでしょうなぁ」

 

 本がある、ということはある程度の関わりはあったのだろう。

 自然とそう思い、呟いた御成の言葉。

 それを聞いたタスクの指が、本にかけられたまま止まる。

 

「……大昔にはそういうこともあった、と聞いているが」

 

「ほー、何で交流を止めてしまったのでしょうな」

 

「いやぁ、まったくだぜ!」

 

 御成の言葉に悩み込もうとしたタスクの耳を、レオの大音声が叩く。

 眉を顰めながらそちらを見ると、レオがマコトと共に入ってきたところだった。

 後ろにいるマコトは、連れ回されてか微妙な顔をしている。

 

「まさか人間がこんなに強い生き物だったなんてな!

 いやー、こんな強ぇ奴ジューランドにもなかなかいないぜ!」

 

 どうやら連れ回されただけでなく、戦っていたらしい。

 流石に互いに変身はしていないだろうが。

 ジューマンに比べて人間の体は弱いだろうに、よくジューマンの中でも戦闘力に長けた獅子のジューマンであるレオと戦えたものだ、とタスクは内心で感嘆した。

 

「なあなあ、もしジューランドが人間界と交流してりゃあ、両方の世界での最強を決める武術大会とか開けるんじゃねえか? うぉおお! やってみてえ!」

 

「……やってみたいなら好きにすればいい。俺は出ない」

 

「え? 何で? お前超強いじゃん」

 

 溜め息混じりにそう返すマコトに、どうしてどうしてと纏わりつくレオ。

 鬱陶しそうにそれを押し返しながら、マコトは御成に向き直る。

 

「御成、明日はすまないがカノンを頼む。

 俺は……フミ婆に挨拶だけしたら、別の用事を果たさせてもらう」

 

「……マコト殿は参加されないのですか? カノン殿もきっと……」

 

「ああ。悪いが、俺にはやらなきゃいけないことがある」

 

 そう言い切って、彼はレオをタスクの方へと押し付けた。

 迷惑だと言いたげなタスクの表情を無視して、さっさと出ていくマコト。

 押し付けられたレオは、本を抱えているタスクの肩を軽く叩く。

 

「一匹狼、って感じだな!」

 

「……まあいい。レオ、本を運ぶのを手伝ってくれ」

 

「仕方ねえなぁ!」

 

「どれ、では拙僧もお手伝いしましょうかな」

 

 これだけの本があるのだ。時間がどれだけあっても足りない。

 確かに不測の事態に巻き込まれた。これからどうなるかも分からない。

 だからこそ、自分に出来る努力を緩める気は、タスクには一切なかった。

 

 

 

 

 ―――大天空寺の地下。

 そこに秘された、巨大な目の紋章が描かれた石柱。

 “モノリス”と呼ばれるその石柱の前に、一人の壮年らしき男が立っている。

 

「まさか、このような事になろうとはな……」

 

「なあなあ、どうすんだよ? あんな変なのまで出てきちゃってさぁ」

 

 男の横に、小動物くらいの大きさの一つ目お化けが湧いて出る。

 それはまさしく幽霊の如くふわふわと浮き上がり、男の周りを回っていた。

 そんな怪しいものに話かけられた男は、特に驚くでもなく平然と答えを返す。

 

「……いや、見ようによってはチャンスかもしれん。

 あのデスガリアンと名乗った連中の目的は、地球人類の抹殺だ。つまりアデルやイゴールは、デスガリアンを見逃すわけにはいかない。

 連中はあやつらが集めようとしている、人間の魂のエネルギーを消してしまうのだからな」

 

「大切なエネルギーを消されちゃたまらない、ってことか?

 なるほどなー、そう言われりゃそうかもな」

 

 ひらひらと舞う一つ目。

 

 デスガリアンと眼魔は目的が根本的に違う。

 それぞれの目的。デスガリアンは殺戮であり、眼魔は言うなれば搾取だ。

 殺害自体を目的とするデスガリアンに対して、眼魔は結果的に殺害することになっているだけ。

 デスガリアンは恐らく嗜好であり、眼魔は一応は必要だからやっている。

 

 だからこそ、眼魔もまたデスガリアンと敵対するしかない。

 眼魔にとっての資源である人類を守るため、デスガリアンと戦う必要がある。

 

「恐らくアデルはアドニスに……

 共生する地球を守るためにと、デスガリアンとの戦闘を提案するはずじゃ。

 遂にネクロムが投入されることにもなるだろう……」

 

「遂にも何も、お前が創ったんだろー」

 

 ぶわっ、と着物の袖を翻しながら男が腕を振り上げる。

 思い切り叩かれて吹き飛ばされる一つ目。

 

「なにすんだよ!」

 

「うるさい! お前が余計なことを言うからだ!

 わしがこうして仙人をしていることを悟られぬためには、そういう駆け引きも重要なんじゃ!

 ユルセン、お前はそういう機微が分かってない!」

 

「おれに人間の機微なんて分かるわけないだろー! このバカ仙人!」

 

「なんだとこの野郎! こんにゃろ、こんにゃろ!」

 

 ユルセンと呼んだものに掴みかかる、バカ仙人と呼ばれた男。

 彼らはそんな感じでひとしきりすったもんだする。

 

 そうしてから、咳払いしつつ再びモノリスに向き合う仙人。

 

「んんッ! ―――ここから先、眼魔のとる方針が重要になってくる。

 アドニスは地球を守るための戦いならば、許可を出すはずだ。

 眼魔世界におけるアデルの力は、より強固なものになっていくじゃろう……」

 

「実際は太ってる羊を狼から守るためなのになー」

 

「じゃが、逆境を覆すだけの時間は出来た……あとは、全てタケル次第じゃ―――」

 

 そう言って仙人はモノリスを見上げる。

 

 積年の計画であっても、多くの逆境がそれを妨げてきた。

 だが、もしかしたら。

 計画外の逆風が彼らを阻んできたように、計画外の神風が彼らを助けてくれるかもしれない。

 

 もはや全ては神のみぞ知る次元に至ったのだと。

 男は、モノリスに描かれた瞳を睨み付けた。

 

 

 




 
忙しい病院がブロックワードな男。
手捌きがインクレディブルな妹。

あとはタケル次第じゃ…!(責任転嫁)
たぶん仙人は基本諦めモード。
眼魔だけでも手一杯なのに変なのまで増えたら、
すぐに「あ ほ く さ 止めたらこの計画ぅ?」ってなるのがこの男。
タケルがユルセンを呼んでもこなかったのは、仙人がデスガリアンの登場で完全に諦めてたから。
ジュウオウジャーが出てきたので、ちょっと気を持ち直している。
まだアルゴスの方でワンチャンあるかも? いやーでもなー? くらいな感じ。
アルゴスあんたのせいでキレてますよ。

お願い、諦めないで仙人!
あんたが今ここで諦めたら、大帝や龍さんとの約束はどうなっちゃうの?
ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、ガンマイザーに勝てるんだから!
次回「城之内死す」ネバーギーブアーップ!

街は滅茶苦茶破壊されましたが皆元気です。
ジュウオウジャー世界は街中をデスガリアンの砲撃で火の海にされた日の夜に、花火大会して盛り上がるくらいには絶対的勝者の街なんでな…この星を、なめるなよ!
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。