Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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襲来!宇宙の破壊神!2016

 

 

 

『キューブキリン!』

 

 ジュウオウキングの額。

 コックピットに通じるそこから、ジュウオウキューブが飛び出した。

 大和が持っていたそのキューブは外に出るや、巨大なキューブアニマルへと変形する。

 

 その名の通り、キリンの姿に。

 更にそのキリンはまるで大砲のような形状に変わり、ジュウオウキングの手に飛び込んだ。

 

『キリンバズーカ!』

 

『これで終わりだ!』

 

 レオが叫びを向けるのは、ジュウオウキングの前に立つ無数の敵。

 デスガリアンが送り付けた、戦闘機による編隊だった。

 キリンの砲口を向けられた敵は、それでもこちらに進軍を続ける。

 

『キリンバズーカ! ジュウオウファイヤー!!』

 

 噴き出す炎。吐き出された弾丸が、過たず戦闘機を撃墜していく。

 空中で爆散し、空の一画を炎で染め上げるデスガリアンの部隊。

 ―――その中から、ひとつの影が地表に向かって落ちていく。

 

「このガブリオ様がこんなところでやられるかー!」

 

 戦闘機から身一つで飛び降りた影。

 爆炎に紛れてすぐに見えなくなったその姿に、アムがキューブタイガーの中で立ち上がった。

 

『ああ、逃げられた!?』

 

 巻き上がる爆炎を前に、ジュウオウキングは砲口を下ろす。

 その中を落ちていく影は、どこに行ったか判別できない。

 だがちょうど森の上だ。恐らくあの辺りに落ちたのだろう。

 

『すぐに探そう!』

 

 ジュウオウキングの合体を解除する。

 飛び降りたジュウオウジャーたちは、逃したデスガリアンの追跡を開始した。

 

 

 

 

「ガブリオの野郎、なにやってやがんだ!」

 

「フフフ、ゲームを始める前にジュウオウジャーに見つかるとは……

 流石は能無し揃いのチーム・アザルドですね」

 

 モニターを見上げていたアザルドが怒る。

 そのまま彼は、テーブルの上に乗っていたものを薙ぎ払った。

 吹き飛ばされたコインの山が、床に盛大に散乱する。

 

 そんな彼に対してかけられる、クバルの言葉。

 

「うるせぇ! ゲームはまだ終わってねえ!」

 

「どちらへ?」

 

「地球だ!!」

 

 怒声で返したアザルドは踵を返し、玉座の間から出ていこうとする。

 彼の背に視線だけ向け、問いかけるナリア。

 それに更なる強い調子で言葉を返した彼は、振り返りもせずに出ていった。

 

 見送ったクバルが、呆れたように肩を竦める。

 

「ゲームはまだ始まってすらいないでしょうに。

 無能なプレイヤーのおもりも大変ですねえ」

 

「……いや。案外、面白いことになるかもしれないよ?」

 

 クバルの嘲笑を、玉座から放たれた声が否定する。

 胡乱げな様子でオーナーを見上げるクバルの前。

 彼はナリアからグラスを受け取り、その中の赤い液体を回しながら小さく笑った。

 

 

 

 

「……今のでデスガリアンは倒せたのでしょうか?」

 

 土手の上を歩いていたマシュが、そう言ってジュウオウキングが消えた戦場を見上げる。

 

 彼らの目的は大きくは変わらない。

 眼魂を集める事。王者の資格を探す事。

 それらの中で、更なる発見があったことは一つ。

 

 王者の資格ではないが、この世界にはジュウオウキューブというものがある。

 先程のキューブキリンのような存在がそうだ。

 それもまた捜索するべきものとして考えるようになったことが、新たなる発見だ。

 

「でも今のは戦闘機だけだったね。デスガリアンはいなかったのかな」

 

「乗ってたけど降りる前に墜としちゃった、とかじゃない?」

 

 立香の言葉に、たこ焼きを食べながら答える武蔵。

 どうやら彼女は結構気にいったらしく、足繁くフミ婆の屋台に通っているようだ。

 立香も自分で稼ぐ方法があるなら通いたいくらいなのだが。

 彼女は古銭の換金でそこそこの軍資金を得ているらしいので、立香には真似できない。

 

「それならまだそいつが巨大化する可能性はあるのかしら。

 だとしたら、一度捜索を打ち切って帰るべき?」

 

 あの後も二度、デスガリアンのブラッドゲームは行われた。

 その途中で手に入れたものが、あのキューブキリンでもある。

 奴らとの戦いは人間サイズの怪人を撃破すると、巨大化しての再戦。

 そのパターンが今のところ崩れたことはない。

 

 ツクヨミは一瞬だけ一緒にいるカノンを見て、確認を取る。

 

「……英雄眼魂を所持しているのは、タケルさんが9個、マコトさんが3個、眼魔が2個。

 行方も分からないのは、1個になります。

 眼魔より早く発見したいのはそうですが、無理は禁物かと」

 

 現状の最優先は眼魔も狙っている眼魂。その残り1個。

 王者の資格もそうだが、デスガリアンはあれの入手を狙っているわけではない。

 だとすれば、優先するべきは争奪戦になる眼魂だろう。

 何せ、あちらにはついでに海東大樹の影もあるのだから。

 

 もっとも、現状何のヒントもないので結局は虱潰しの捜索になるのだが。

 

 どうあれ、これから戦場が広がる可能性を考える。

 そうなるとカノンは大天空寺に返した方がいいかもしれない。

 

「ごめんなさい、私は戦うことができなくて……」

 

「いーのいーの、戦うなんてやりたい奴にやらせておけば!

 カノンちゃんには他に色々やってもらえることがあるから!」

 

 そう言って声を上げる武蔵。

 彼女とカノンの間に、自然と割り込む立香。

 

「カノンちゃん襲ったら駄目だよ?」

 

「襲いませんー。せっかく美男子に囲まれてるのに、イマイチ誰にも悪戯できない感じで溜まった鬱憤を、ただちょーっと色々と……」

 

 武蔵の手が自然と下がり、刀の柄にかけられる。

 言葉を打ち切って細めた視線が向かう先は、河川敷。

 そこに眼の紋様が浮かび上がり、人影が出現してくるのを彼女は見た。

 

 その様子に気付き、残りの人間もそちらを向く。

 現れたのは、黒い軍服を着た青年。

 前に見た男ではないが、軍服の意匠は明らかに同じもの。

 ―――眼魔だ。

 

「下がってて。マシュは悪いけど、念のために武装を―――」

 

「アラン様!」

 

「あ、ちょっ……!」

 

 カノンがその青年の名らしきものを呼びながら、彼に向かって駆け出した。

 彼もすぐにそれに気付き、視線をこちらに向けてくる。

 

「カノン……?」

 

 自分に近づいてくる少女を訝しげに見る彼。

 彼女はアランの近くにまで歩み寄ると、小さく頭を下げた。

 

「アラン様、今までありがとうございました。

 私、お兄ちゃんやタケルくんのおかげで、こうして体を取り戻すことができました」

 

「…………世話をしていたのは姉上だ。私が礼を言われる筋合いはない」

 

 アランの視線が後ろから続いてくる立香、マシュ、武蔵に向かう。

 立香やマシュに対しては特に感情を見せず、武蔵を見た時だけ僅かに目を細め―――

 しかし、気にするでもなく。アランはカノンに意識を戻す。

 

「それで、それだけか。だったら……」

 

「はい! 私、こっちの世界をアラン様に見てもらいたかったんです!

 どうでしょうか、私たちの世界。

 眼魔の空は赤かったけれど、こっちの青い空は綺麗だと思ってもらえるかなって!」

 

 彼女の言葉を聞いて、アランの視線が空に向かう。

 釣られて、マシュも一緒にその空に視線を見上げていた。

 薄れていても、未だに光帯で両断された空だが―――

 やはり、その景色には圧倒されるものがある。

 

「―――わたしも、この空は綺麗だと思います」

 

 ふと呟いた声に、振り返るカノン。

 あ、と。漏れてしまった声に恥ずかしがるように、慌てて言葉を付け足す。

 

「えっと、わたしは最近まである施設の屋内だけで生活していたので……

 実は、ちゃんとした空を見たのは半年前が最初だったりして……」

 

「そうなんですか? 私も、やっぱり10年ぶりに見たこの空はすっごい綺麗だなって! 子供のころは全然気にしたこともなかったのに。私たち、同じ風に感じてるのかもしれませんね!」

 

 カノンがマシュの手を取って微笑む。

 手を取られたマシュが目を白黒させて、しかし同意するように小さく微笑む。

 そんな彼女たちを見たアランが、微かに目を伏せる。

 

「空の……色……」

 

 その反応に片目を瞑り、武蔵が刀の柄から手を下ろす。

 どういう人物かはまだ分からないが、何か戦意が薄れている様子は感じたから。

 

 そんな様子を後ろで見ていたツクヨミ。

 彼女の懐の中で、ファイズフォンXが揺れた。

 訝しげにそれを取ったツクヨミが、それを耳に当てる。

 

「もしもし?」

 

『俺! タケル! あの飛行機が飛んでた下にある森の中に、デスガリアンが逃げちゃったみたいなんだ! 皆で探すから、こっちに来て!』

 

 通話はタケルから。恐らく、コンドルデンワーでの通信だろう。

 

「デスガリアンが森の中に!? 分かった、すぐに行く!」

 

 ツクヨミがその場の全員に伝えるため、声を大にして。

 そうして周囲を見回して、カノンのところで視線を止めた。

 彼女自身も、眼魂や王者の資格ならともかく、自身が怪人の捜索では足手まといになると理解しているのだろう。小さく頷いて、口を開く。

 

「私は一人で帰ります。タケルくんたちを手伝ってあげてください」

 

「ごめんね。はいこれ、残りは食べていいから!」

 

 武蔵が持っていたたこ焼きのパックをカノンに押し付ける。

 そうして走り去っていく連中を見送ってから、アランが眉を微かにあげた。

 ちょうどいい、と。

 

 彼もまた森の方へと歩き出そうとして―――

 カノンに一度視線を送り、彼女が串に刺した丸いものを口に運ぼうとしているのを見た。

 食事というもの自体が理解不能な彼が、ぎょっと声を上げる。

 

「なんだそれは、眼魂? 眼魂を口に入れるのか?」

 

「これですか? これはたこ焼きです。フミ婆のたこ焼きは美味しいんですよ?」

 

 そう言ってカノンはたこ焼きを頬張り、笑顔を浮かべた。

 まるで理解不能な行動に、アランが顔を引き攣らせる。

 

「……理解不能だ」

 

 そう言いながら踵を返して、アランもまた森へ向かいだし―――

 ふと思い立って、空を見上げるために彼は足を止めた。

 青くて澄んだ空。赤く濁った眼魔の空とは正反対の、美しい空。

 

「…………馬鹿馬鹿しい。空の色が世界の出来不出来と何の関係がある」

 

 そう吐き捨てて、アランは足早に動き出す。

 彼の価値観において、人間の世界にはまるで価値がない。

 善き世界とは、眼魔世界のことをいうのだから。

 

 

 

 

 ―――彼らがデスガリアンを探し、入り込んだ森の中。

 その森の中で出会ったのは、デスガリアンでもなければ、ましてや人間でもなかった。

 

「新しいジューマンに出会った、ですか?」

 

「……うん。ゴリラのジューマンで、ラリーさんって言うんだけど……」

 

 合流しにきてくれたタケルと御成、そしてソウゴ。

 彼らに対して、大和だけがそのラリーさんから離れて話をしにくる。

 

 ジューマンである他のメンバーがラリーに聞き出してくれたこと。

 それを大和が聞いて、改めてタケル達に説明してくれる。

 

 ラリーはジューランドで人間学者をしていたジューマン。彼は人間の生態を調べるために人間の世界にフィールドワークに訪れていた。そうして人間界を一通り回った彼が帰ろうとした時、二つの世界を繋ぐリンクキューブから王者の資格が失われていたのだ。

 

「王者の資格が失われていた、って今回のじゃない……んだよね?」

 

 リンクキューブが爆撃され、王者の資格が失われた。

 それはごく最近の話だ。

 

「……その時に失われていた王者の資格は、俺が子供の頃から持ってたものなんだ。

 俺はその王者の資格をリンクキューブに嵌めて、ジューランドに行って……

 みんなに出会って、一度人間界に帰ってきた時にデスガリアンに襲撃された」

 

「つまり、大和殿が子供の頃からずっと……ラリー殿は帰れなかった、と。

 ちなみに、その。大和殿は何故子供の頃から王者の資格を持っていたのですかな?」

 

 大和がそれを持っていたせいでラリーは帰れなかった、と。

 そういうつもりでなくても、そういう意味になってしまう言葉。

 出来る限りそこに配慮する姿勢を見せながら、御成は大和に問いかけた。

 

「―――貰ったんだ、俺が子供の頃。山で怪我して、死にそうになってた時に。

 その人から『もう大丈夫だ。きっとこいつが、お前を守ってくれる』……そう言われて」

 

「つまりその人が、リンクキューブから王者の資格を盗……いやいや。

 何か目的があって、リンクキューブから王者の資格を外した、と?」

 

「そう、なのかな」

 

 視線を下げて、声を落とす大和。

 そんな彼を見てタケルと御成が目を見合わせた。

 だがソウゴは、話の続きを促してみせる。

 

「それで、そのラリーさんがどうしたの?」

 

「あ、うん……」

 

 御成の肘に突かれつつ、ソウゴは調子を崩さない。

 

 少し気を取り直した大和が、話を続ける。

 ラリーは人間界に取り残された以上、人間と共存しようとした。

 だが彼は人から見れば、ゴリラそのものでしかない。

 交友をしようとしても、顔を見せただけで悲鳴を上げられ、逃げられ―――

 そして、発砲さえもされた。

 

 それ以来、彼はずっとこの森で一人で誰とも関わらず生活しているという。

 人間が怖い。もう関わりたくはない、と。

 

「……タスクは、人間の気持ちも分かるって言ってくれたけどね。

 俺もジューランドに迷い込んだ時、みんなに警戒されたし。

 それと同じだ、自分たちと違うものを怖れないはずがない……って」

 

「それは……確かに、何とも言い難く……」

 

「それで、大和先生はどうしたいの?」

 

 さらっと。ソウゴは彼に対して問いかける。

 

「俺が、どうしたいか?」

 

「ジューランドに帰らせてあげたいなら、ここで待っててもらえばいいし。

 時々ジューマンのみんなに様子を見てもらえばいいでしょ。

 わざわざ怖がらせたくないなら、それでいい感じじゃない?」

 

「それはまあ、確かにそうですな。

 トラウマを無理に刺激するような真似は、あまりしたくないところ」

 

「怖がらせる……か」

 

 大和が手を合わせながら、木に背中を預けた。

 言われれば、きっとその通りだろう。

 これ以上傷つけたくないなら、これ以上彼に関わらなければいい。

 それが双方にとって、これ以上傷つかないやり方には違いない。

 

「俺は……動物が好きだから、動物学者になれたと思うんだ。

 だから、向こうで人間学者をしてたラリーさんだって……きっと。

 元は人間のことが、好きだったんじゃないかなって」

 

 彼が自分の王者の資格を取り出す。

 それを自分に託してくれた誰かを思い出し、大和が目を細めた。

 

「人間がラリーさんを傷つけた事実は変わらないけれど。

 それでも、俺は伝えたいのかもしれない。この世界に生きている人間の中には、あなたを傷つけない……あなたを助けたいと思っている人間だっているんですよ、って。

 ただの自己満足で、ラリーさんにとっても迷惑なだけかもしれないけど」

 

「じゃあそう言いに行こうよ。どうなるかは、やった後に考えればいいでしょ?」

 

「えっ」

 

 ソウゴが大和の手を取り、そのままずんずんと歩き出す。

 そんな彼の後ろに、タケルと御成が慌てて追従する。

 

「そんな簡単に済む話じゃないと思うけど……!」

 

「ですが言わねば伝わらないは真理……!

 それはそれとして、空気を読むことは別問題で必須事項だと思いますぞ!」

 

 

 

 

「なあ、あいつらは良い奴だって。あんたを傷つけたりはしねえって!」

 

「……別にユーたちの言葉を疑っているわけじゃないさ」

 

 纏わりついてくるレオから視線を外しながら。

 ゴリラのジューマン、ラリー。彼は川を眺めていた。

 

 人間が全て自分を傷つけた者と同じだなんて思っていない。

 彼を排斥するだけの理由が人間側にもあったとも理解している。

 だから、彼が思う言葉はたった一つ。

 

「もういい。もう、いいんだ」

 

「よくねえって!

 俺たちを受け入れてくれたダチが勘違いされたままじゃ、俺たちがよくねえ!」

 

「レオ!」

 

 纏わりつく彼を、セラが強引に引き剥がす。

 彼を思い切り投げ飛ばした彼女が、ラリーに頭を下げる。

 

「すみません、ラリーさん」

 

「……ユーたちも、もうミーには会わない方がいいかもな。

 もし、リンクキューブが直ったら一報をくれたら嬉しいよ」

 

 そう言いながら川辺に腰かけ、彼は完全にセラたちから意識を外した。

 まだ言い募ろうとするレオをタスクが捕まえる。

 獅子の眼光を受け止めながら、彼はレオの動きを完全に拘束した。

 

「タスク……!」

 

「僕たちが口を出すべき問題じゃない―――それより、デスガリアンを探そう。

 ラリーさん。ここに落ちたと思われるデスガリアンを探すため、この森には大和以外に今から奴らと戦う人間たちが入ってきます。それだけは許してください」

 

 ラリーから返答はなく、しかしそれを了解と受け取る。

 

 デスガリアンを引き合いに出されて、レオはたてがみをぐしゃぐしゃと掻き乱す。

 処理しきれない感情をしかし押し潰し、彼はラリーから視線を外した。

 とりあえずデスガリアンへの対処。それには了解せざるを得ない。

 だが、彼らが敵を探し始める前に――――

 

「なんだ? 誰か集まってるか思えば、ジュウオウジャーどもじゃねえか。

 チッ、ガブリオの野郎はどこ行きやがった……!」

 

 ―――ジューマンたちの尾が総毛立つ。

 今まで一切感知していなかった殺気が、体を震わせる。

 ラリーが転び、他の四人が一斉に戦闘態勢に入った。

 

 彼らの前に現れたのは、青いキューブの塊。

 それが人型になった怪物だ。

 ―――デスガリアンの宣戦布告の映像にいた化け物の一人。

 

「デスガリアン!」

 

「あん? 見りゃ分かんだろ……ああ、眼魔とかいう奴らもいるんだったか。

 しっかしあいつ、どこに落ちたってんだ」

 

 めんどくさそうな様子を見せ、戦闘態勢のジュウオウジャーに背中を向けるアザルド。

 ジューマンたちが感じていた殺気が消える。

 

 そこで理解する。

 今までのデスガリアンと比較にならない今の殺気は、目の前の怪物にとってはただの苛立ちだ。

 探し物が見つからない不満を、少し外に出しただけの。

 

「―――逃がすと思ってんのか! 本能覚醒!」

 

「っ、本能覚醒!」

 

 背を向けたアザルド。

 それに対して、光とともに姿を変えたジュウオウライオンが飛び掛かる。

 彼に続いて後の三人もまた、ジュウオウジャーへと変身した。

 連続して飛び掛かってくる戦士たちに対し、アザルドが足を止める。

 

 足を止めども振り返ることすらせず、彼は襲い来る獣に対して無防備を晒す。

 連撃は留まることなく、無防備なアザルドを打ち据える。

 全身から火花を散らしながら、彼は大きく溜め息を吐いた。

 

「はぁ……まだブラッドゲームは始まってねえんだ。

 ゲームが始まるまでテメェらは……すっこんでろ――――ッ!!」

 

 怒号とともに一閃。

 振るわれる腕の剛力が、四人の戦士を一撃でもって薙ぎ払った。

 衝撃に見舞われ、岩壁まで吹き飛ばされて衝突するジュウオウジャーたち。

 ただの一撃で彼らの変身が解除され、生身で地面に転がった。

 

「ぐ、ぁ……!?」

 

「馬鹿な、なんだ……! こいつ……!」

 

「ユーたち!? だ、大丈夫か……!」

 

 地面に伏せた彼らに走り寄るラリー。

 たった一度の攻撃で体を動かせなくなるほどのダメージ。

 それをもたらしたアザルドが、その場で苛立ちとともに地団駄を踏んだ

 

「ったく……俺は今、機嫌が悪いんだ。

 そんなに死にたいなら、先に始末しておいてやるよ!」

 

 アザルドが彼らに向かって歩き出す。

 

「逃げてください、ラリーさん……!」

 

「ば、馬鹿言うな! ユーたちを見捨てられるわけ……!」

 

 狼狽えながらも、彼らを背に庇うラリー。

 そんな事を気にもせず、アザルドはその手の中に剣を出現させた。

 

 大刀、アザルドナッター。

 切断以上に粉砕することに重点を置いているのだろう。

 鈍く輝く刃に鋭さはないが、それによる一撃はどう考えたところで必殺。

 振るわれれば簡単に殺されるだろうと理解しながら、しかし。

 

 アザルドが剣を振り上げる。

 同族たちを背中に庇いながら、ラリーが目を瞑って腕で顔を庇う。

 何の慰めにもならないその防御に、アザルドの必殺が放たれる―――

 

 ことは、なかった。

 

「ぬぉっ……!?」

 

 アザルドの驚愕する声。

 その後にも、いつまで待っても来ない攻撃。

 

 ゆっくりと腕を退かして目を開いたラリーが見たのは、赤い翼を持つ背中。

 その背に、既視感を覚える。

 彼の口がふと漏らすのは、彼がこちらの世界に来てから会っていない男の名前。

 

「……バド?」

 

「―――大空の王者! ジュウオウイーグル!」

 

 出した名前を否定する、その声。

 その声は先程までジューマンの彼らと一緒にいた人間の声だった。

 思わず目を擦って、王者の資格の力を使う人間の背中を二度見する。

 

 不意を突かれ激突されたアザルドはよろめいて。

 しかし体勢を立て直そうとした瞬間、

 

〈スキャニング! タイムブレーク!!〉

 

「セイヤァアアアアッ!!」

 

 その頭上から来る、灰色の光に包まれたジオウの落下に巻き込まれた。

 彼のブレスターに浮かぶのは、サイ、ゴリラ、ゾウ。

 脳天から直撃したそのスタンプに、アザルドの体が押し潰される。

 

「ヌ、グゥ……!」

 

 アザルドを踏みつけた直後に離脱するジオウ。

 そうして地面に叩き付けられているアザルドに、

 

〈ダイカイガン!〉〈オメガインパクト!〉

 

 ライフルモードとなったガンガンセイバー。

 それを構え、ビリー・ザ・キッドを憑依させたゴーストが放つ一撃。

 オメガインパクトがアザルドの顔面へと直撃した。

 

 盛大に吹き飛ばされて、背後の岩壁に突き刺さるアザルドの体。

 がらがらと崩れ始めた壁を見てから、イーグルが振り向いた。

 

「みんな! ラリーさん! 大丈夫ですか!?」

 

「人間がイーグルのジューマンパワーを……?」

 

「――――大和! 前!」

 

 唖然としているラリー。

 それに何と言おうか、と戸惑っている大和。

 そんな気を抜いていた彼の耳を叩くセラの叫び。

 

 彼が構え直して振り向いた瞬間には、衝撃波が放たれていた。

 

「しまっ……!?」

 

 回避などできるはずもない。彼の後ろにはみんながいる。

 イーグライザーを構え、その場で耐える姿勢を見せるジュウオウイーグル。

 だが受け止めた瞬間、彼の体が一気に吹き飛ばされた。

 

「大和先生!」

 

「次はテメェだ!」

 

 足を止め、振り向いたジオウ。

 そのすぐそこには、即座に復帰して迫っているアザルド。

 

 振り抜かれるアザルドナッター。

 ジオウはブレスターをコブラ、カメ、ワニに変えると同時に両腕を掲げる。

 光の亀甲はアザルドの大刀を受け止めて、しかし。

 

 ―――盾ごと。

 彼は轟音と共に地面に叩き付けられ、岩と土砂に埋もれた。

 

「ソウゴ!」

 

「そんでテメェだ!」

 

 ライフルを分解し、二丁拳銃に変えての迎撃。

 それを意にも介さず、アザルドがその剣を振り抜いた。

 

 迸る衝撃波。

 その直撃を貰い、凄まじい勢いで水平に吹き飛ばされていくゴースト。

 彼が水面に着弾し、水が柱になるように爆発させた。

 

「はっ! 下等生物どもが調子に乗りやがって!

 身の程って奴を弁えるんだな?」

 

「……何が下等生物だ……俺たちは今此処で生きてる……!

 それを好き放題に踏み躙ろうとするお前たちを、俺は絶対に許せない!!」

 

 イーグライザーを地面に突き立て、イーグルが立ち上がる。

 その有様に視線を向けて、アザルドが鼻を鳴らしながら歩き出した。

 目指す場所は、当然のようにジュウオウイーグル。

 

「そーかい。で、許せないからなんだってんだ?

 下等生物は下等生物らしく、ぎゃーぎゃー喚きながら死ねばいいんだよ!!」

 

 大上段から振るわれるアザルドナッター。

 それを受け止めるイーグライザーが、悲鳴のような軋みを上げる。

 必死に足を支えながら、その場で踏み止まろうとする大和。

 

「この惑星(ほし)の生き物は、みんなどこかで繋がってる……! 支え合って生きている! 何が下等で、何が上等かなんてどこにもないんだ!」

 

「だから言ってやってるだろ? この星の連中は、全部が下等生物だってよ!

 テメェらにあるのは下等か上等かの二択じゃねえ。

 俺たちを楽しませて死ぬ生き物か、楽しませずに死ぬ生き物か。その二択だけだ!!」

 

 より強い力が籠められ、刃が振り抜かれる。

 弾き飛ばされるイーグライザー。

 当然、その刃は剣を吹き飛ばすに留まらず、ジュウオウイーグルの体を切り裂いた。

 

「ぁ……!」

 

 盛大に、まるで噴水のように火花を撒き散らす赤い体。

 

 ガクン、と落ちる膝。

 その一撃に、明らかに大和の中で何かがぷつりと切れる。

 衝撃に吹き飛ばされる彼の体からは、全ての力が抜けていた。

 

「大和――――ッ!!」

 

 吹き飛ばされた体が舞い、水中に落ちる。

 水の中で赤く光り、彼の体が人間のものに戻っていく。

 変身が解除された彼は、力無く水面を漂い始めた。

 

 ―――くれてやった一撃は完全に致命傷。

 それを見舞ったアザルドが、軽く肩を竦めて次の奴らを始末するために歩き出す。

 そんな彼の背後から、淡々とした声がかかる。

 

「なるほど。これがデスガリアンというものか」

 

「あん?」

 

 振り向いたアザルドの目前には、今までいなかった白の戦士。

 ネクロムが立ちはだかっていた。

 さっきまでの連中によく似た姿、と。そいつも排除対象として認識する。

 

「ったく、ゲーム外だってのにどいつもこいつもよぉ!」

 

 振るわれるアザルドナッター。

 それは間違いなくネクロムの体を直撃し―――しかし、液体の如く崩れるネクロム。

 何を破壊することもなく、アザルドの一撃は完全に受け流された。

 意表を突かれた彼の胴体に、ネクロムの拳が突き刺さる。

 

「あん?」

 

「ふん……まずは手始めに貴様を、この世界から排除してやろう」

 

 力を抜いているネクロムに再びナッターが直撃。

 が、水を斬るように擦り抜けて、逆に反撃を貰う羽目になる。

 顔面に一撃受け、一歩分押し返されるアザルド。

 

 拳を受けた頬を手の甲で撫で、舌打ちしながら小さく笑う。

 

「はん、少しはまともなのもいるみてぇだな? だが!」

 

 アザルドナッターを両手で握り、大上段に振り上げる。

 集約する超常のエネルギーに、ネクロムが見せる態度は一つの眼魂を取り出すこと。

 彼はそれを押し込むと、乱雑に放って地面に転がした。

 

「ウォラァアアア―――ッ!」

 

 振り下ろされる刃。

 ネクロムはそれを前に反応を示さず、直撃を受け止めた。

 擦り抜けるような真似もさせず、一帯ごと丸々圧壊させるアザルドの一撃。

 それに呑み込まれ、ネクロムが爆散し―――

 

 そこから飛び出した液体が、先程投げた眼魔眼魂へと向かっていく。

 ネクロムだったものから飛び出した液体は、投げた眼魂を中へと取り込む。

 そうして、すぐさま新しい眼魂をベースに再構成されるネクロム。

 

 それはアザルドの丁度背後に現れて、

 

〈デストロイ!〉

 

 メガウルオウダーのローディングスターターが押し込まれる。

 必殺待機状態となり、背後に眼のクレストが浮かび上がらせるネクロム。

 

「なにっ!?」

 

 背後からの音に、アザルドが反応を示す。

 だが既に遅い。

 

 リキッドロッパーからウルオーデューを滴下。

 ネクロム眼魂が反応を示し、その力を完全に発揮する。

 背後に展開していた眼のクレスト。

 その全てのエネルギーが、ネクロムの右足へと纏わされていく。

 

〈ダイテンガン! ネクロム! オメガウルオウド!!〉

 

「ハァ―――ッ!!」

 

 剣を振り抜いていたアザルドの背中に、ネクロムの蹴撃が直撃する。

 ネクロム眼魂の保有する神秘エネルギーを攻撃に注いだ、必殺の一撃。

 叩き付けられ、大地を削りながら滑っていくアザルドの巨躯。

 

「ボディの換装に問題なし。

 どうやらイーディス長官の言う通り、仕上がりは完璧なようだ」

 

 地面を抉り半ば体を埋めたアザルドに向かって、ネクロムが歩みを開始する。

 

 その彼の背中を見送りながら、ラリーは水に浮く大和へと駆け寄った。

 川の水を掻き分けながら侵入し、彼を引っ張り上げるために抱き寄せる。

 

 一目で分かる重傷。

 ジューマンより体の弱い人間にとっては、致命傷同然の―――

 

「ユー! ユー! おい、目を覚ませ! 大丈夫か!?」

 

「…………ぁ」

 

 彼を抱えながら陸地に向かいつつ、その頬を叩く。

 目を開けた大和は彼を見上げながら、虚ろな目で真っ先に―――

 彼に向かって、謝罪した。

 

「……すみません、ラリーさん。人間に近づきたくない、って言ってたのに」

 

「そんな場合か! 意識をしっかり持て! 目を閉じるな!」

 

 ザバザバと水を掻き分けながら陸に向かう道中。

 か細い声で、大和の声は続く。

 

「この惑星(ほし)の生き物は、きっと、どこかで繋がってる。

 俺たちと、ラリーさんだって、繋がってる。でも、最初に繋がり方を間違えてしまって……でもきっと、望めば、繋がり方を変えられるはずなんです。望んだ繋がりに変えられると、俺は信じたいんです……だって、俺たちは、この惑星(ほし)で一緒に生きる……」

 

 声が小さくなっていく。まだ陸じゃない。

 いや、陸に届いたところで、この状況を変えられるものなどない。

 大和の状況を確認するように、ラリーが彼に視線を向けて―――

 未だに彼が、王者の資格を握っているのを見つけた。

 

「……! 人間が持つ、イーグルのジューマンパワー……

 つまり……そういうことなんだな、バド?」

 

 足を止める。連れ帰ろうとしたところで、間に合わない。

 だがこの状況を変える手段、その可能性はある。

 ラリーは腕を伸ばして、王者の資格を握る彼の手を掴む。

 

「確かにミーは諦めてしまった。だが、ユーがその望みを信じ続けるというなら。

 ミーも……もう一度だけ、変われるかどうかをユーに懸けてみよう……!」

 

 ―――ラリーと大和。

 二人が互いに握った王者の資格を経由して、力が流れていく。

 ラリーから、大和へ。生命の力、ジューマンパワーが。

 

 

 

 

「おやおや。結局自分が戦っていて、これではブラッドゲームどころではありませんね」

 

 呆れるようにモニターを見上げるクバル。

 彼の後ろの玉座にあるジニスもまた、その言葉に小さく笑った。

 

「確かにこれはこれで楽しめるが……ゲーム外の戦いを採点するわけにはいかないな」

 

「このままでは、折角ゲームを盛り上げてくれる地球の連中を、アザルドが全滅させてしまいそうですが……どうなさいますか、ジニス様」

 

「この程度で全滅するようなら、どちらにせよ大して楽しめないさ」

 

 ジニスはそう言いながら、グラスを呷る。

 その意見に頭を垂れたナリアが、モニターを操作しようと計器に触れ―――

 異常事態を認め、すぐさま声を張り上げた。

 

「高エネルギー体接近! 地球外から……地球を目掛けて、高速で……!

 サジタリアークを横切ります!」

 

 ナリアの声に、ジニスが視線をモニターに向ける。

 地球の戦場でなく、サジタリアークの周辺を観測するためのカメラ。

 そちらの映像に切り替わった瞬間、目の前を青い球体が過ぎ去っていった。

 

「今のは……?」

 

 速すぎて確認できなかった。

 その異物に対して、クバルが困惑の声を漏らす中で。

 

 ジニスの手がゆっくりとグラスを置く。

 そうして彼は、楽しみで仕方ないとでも言わんばかりに、口の中で笑い声を転がした。

 

 

 

 

 地面に叩き付けられたジオウが、土砂を掻き分けて立ち上がり―――

 その瞬間全身を覆う感覚に、顔を空へと向けた。

 

「―――――来る!!」

 

 彼が叫ぶと同時、青い星が地上に落ちる。

 場所は戦場のすぐ近く。視認できる距離だ。

 森を焼き払いながら地面に激突したそれは、青色に輝く球体。

 それの着弾の衝撃に、アザルドとネクロムも動きを止める。

 

「空から……? あれもデスガリアンの戦力か」

 

「ああん? あんなもん知らねえよ! ったく、次から次へと!」

 

 苛立たしげに剣を振るうアザルド。その衝撃波が青い球体に向かって襲い掛かる。

 恐らくその青い星を、容易に圧壊させるだろう一撃。

 だがそれは着弾する前に、星が開いて出てきた影に阻まれた。

 

 ―――煌めく紫紺。星々の輝く光景を身に宿す肢体。

 マントを翻しながらふわりと浮かび上がるそれは。

 圧倒的な衝撃を片手でいなしながら、ゆるりと地面の上に着地した。

 

「なんだと?」

 

「―――放浪せし宇宙の破壊神。そして、この星。

 全宇宙を支配する不変の法に背く存在どもよ。滅ぶがいい」

 

 顔を上げる。その月の如き黄金の眼が輝く。

 彼が突き出した手から迸るピュアパワーが、戦場に破壊光線として降り注ぐ。

 アザルドを付近にいたネクロムごと、纏めて吹き飛ばす熱量の渦。

 

 その直撃を浴びながら、アザルドが叫んだ。

 

「いきなり出てきてなんだってんだ、テメェは!」

 

「―――我が名はギンガ。宇宙最強、仮面ライダーギンガ!!」

 

 瞬間、彼の放つピュアパワーが増大する。

 力を向けられたアザルドが耐えきれぬほどの、圧倒的な破壊力。

 

「ぬ、ぐぉおおおお……!?」

 

 アザルドの全身が決壊を始める。

 キューブ型の体が弾け飛び始めて、全身がどんどんと崩れていく。

 その次の瞬間、アザルドの体が限界を迎え大爆発を巻き起こした。

 

 

 




 
ギンガの光が我を呼ぶ!

この作品における仮面ライダーギンガは、
『全宇宙を支配する不変の法は、ただ一つ。全てのものは滅びゆく』
という台詞から考えた結果。滅ぶべきなのに滅びを拒絶するもの、変化を止めたにも関わらず無意味に継続しようとするもの。そういうものに対し、宇宙から送り込まれる破滅の使者的存在と解釈しています。ライダーの形をした物理的な剪定事象みたいな存在かもしれない。
つまりマンホールは宇宙より硬い。いや、マンホールこそが宇宙…? 宇宙の心はマンホールだったんですね…

目的は平成が滅ばない元凶であるオーマジオウの排除。
なのでゲーティアの思想も排除対象でしょう、多分。
眼魔も割とグレーですが、ちゃんと滅びに向かっているので放置でいいと思ってると思います。おっちゃんのファインプレーやな。やっぱ人間は欠点あってこそなんやなって。

アザルド狙いはどちらかというと同業他社とのシェアの奪い合いかもですね。
 

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