Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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開眼!俺!2005

 

 

 

 ―――再び顔を合わせたラリーの姿は、一変していた。

 ゴリラのジューマンである彼は全身を黒い体毛に覆われている。

 そのはずなのに、今の彼は真っ白に色が抜けていた。

 

「ラリーさん、それ……!」

 

「ん、ああ……いや、水の中に入ったら白髪染めが落ちてしまったんだ。

 この姿をアミーゴたちに見せるのは、少し恥ずかしくてね……」

 

 森の中の小屋、ラリーが今まで生活に使っていた場所。

 そこで寝かされている彼は、力の抜けた動作で肩を竦めた。

 そんな言葉が嘘だなんて、確認するまでもなく分かり切っていて。

 

 タスクは彼の様子を検めながら、大和の持つ王者の資格を見た。

 

「……ジューマンパワーはジューマンの生命力そのもの。

 それを渡したということは……」

 

「俺の……俺を助けるために、ラリーさんが命を削ったってことですか?

 そんな――――」

 

 王者の資格を握り、顔に苦渋を滲ませる大和。

 だがそんな彼を見て、ラリーは嬉しそうに笑い返した。

 

「別に今すぐ死ぬわけじゃない。少し、寿命とかが削れたかもしれないが……

 その代わりになるものは、ユーがミーにくれたじゃないか」

 

「え?」

 

「人間とジューマン、二つの種族が力を合わせる姿さ。

 そんな光景を見る事があるなんて、昨日までのミーが聞いても信じなかったろう。

 おかげで、弱り切っていた心に喝を入れられた気分だよ。

 体は弱ったかもしれないが、代わりに今は心の方がすこぶる調子がよくなった」

 

 ラリーは体を起こし、王者の資格を持つ大和の手を上から握った。

 泣きそうな彼を正面から見つめて、逆に何の憂いも無しに微笑む。

 

「最高にハッピーなプレゼント交換だった。

 ありがとう、大和」

 

「ラリーさん……」

 

 そのまま大和をハグし、彼の背中を叩くラリー。

 

「ミーは少し休んだらこの森を出ようと思ってる。

 人間の世界から逃げるのはもう止めだ。

 王者の資格含め、ユーたちが探しているものがあるんだろう?

 ミーもその探し物だけでも手伝いたいんだ」

 

 背中を撫でて、ラリーが大和を慰めている。

 

 そんな光景を見ながら、マシュが気付く。

 同じ光景を見ていたタケルが、ゆっくりとその場を離れ始めたことを。

 不思議に思い、彼女はその背中を追う。

 

 彼は少し離れたところで足を止め、空を見上げ始めた。

 

「……どうかされたんですか、タケルさん」

 

「え? あ、うん……大和、先生とラリーさんを見ててさ。

 命を繋ぐ、って。こういうことなのかなって」

 

 彼がその懐から赤い眼魂、闘魂ブーストを取り出す。

 タケルが父、龍から託された力。

 これを手にした瞬間、タケルは父の想いを受け継いだ。

 

「命は……魂は全部繋がっていて、その先に続いてる。

 俺たちが多くの人から受け継いだものを、次の誰かに受け継ぐ……

 そのために俺たちは、今を生きているのかなって」

 

 眼魂を手の中で転がしながら、タケルはそう呟く。

 静かな森、その言葉を確かに聞きとったマシュ。

 彼女もまた、空を見上げながら口を開いた。

 

「―――はい。そうして、命を繋ぐためであるのなら。

 もしかしたら、死すらもただ悲しいだけのことではなくて……えっと。

 きっと、もっとずっと、多くのことがあるのかも、しれません」

 

 曖昧なマシュの物言い。タケルはそれに苦笑する。

 そんな簡単に死んだときの事は分からない。

 ただ生きている限り、死んだあとのことは分からなくてもいい。

 

 ―――今を必死に生き抜いて、その想いを誰かに託した時。

 その瞬間にこそ、分かるはずのことだから。

 

「―――今はまだ理解しきれていませんが、いつかきっと……

 いえ。それを理解するための、わたしたちのこの旅路なのです」

 

 そう言った彼女が綺麗に微笑んだ。

 そんな顔を見て、照れて焦るような様子を見せるタケル。

 彼が視線をマシュから逸らしつつ、改めて強く眼魂を握る。

 

「……俺も負けてられないな。父さんに託された想いを、未来に繋ぐ。

 そのためには、まずは15人の英雄たちの心を繋がないと」

 

 居場所の分からない眼魂は残り一つ。

 そして、二つの眼魂を持っている眼魔……アラン。

 それらの事を想いながら、タケルは気を引き締めた。

 

 

 

 

「と、言うわけで。昨日お会いしたそのラリー殿なのですが。

 人間の世界を巡りつつ、拙僧たちでは目の届かない場所を見て回り、王者の資格や眼魂を探してくれるとのことです」

 

「確かに、近くのそれっぽいところは結構探し尽くした感あるからなぁ」

 

 ナリタがそう言って天井を仰ぐ。

 あれからずっと捜索に終始してきたが、まるで見つからない。

 ある種の自由意思を持つ眼魂は隠れてる、という可能性もある。

 リョウマ眼魂のように誰かに憑りついている、とも。

 

 だが吹き飛ばされただけの王者の資格まで見つからないのはどうだろう。

 何か見落としている可能性があるのかもしれない。

 

「誰かが拾って持って行っちゃってる、とか?」

 

 そこに同席している立香が、カルデア組の中で会話に唯一参加する。

 

 昨日の戦いに続き、今朝もまたデスガリアンが出たのだ。

 強力な催眠効果のある香りを撒き散らす、ハナヤイダーと名乗ったデスガリアンが。

 

 それと戦闘になったことで、ジオウにジュウオウジャー。

 更にツクヨミもマシュも武蔵も、ころっと眠ってしまったのだ。

 

 だが彼女とゴーストであるタケル。そしてスペクター。

 彼女たちに嗅覚から作用するその毒と言える効能は発揮されなかった。

 起こしてから全員でかかれば、ものの数分でそのデスガリアンを撃破。

 

 コンティニューによる巨大化もあった。

 が、新しく戦力に加わったキューブゴリラとキューブモグラ。そのキューブゴリラがジュウオウキングのように、他のキューブと合体した新たな合体形態。ジュウオウワイルドという新たな巨神が、キューブモグラが変形したモグラドリルを装備して、一息に粉砕してしまった。

 

 とはいえ、その香りの影響を受けた皆はまだふらつくようで。

 全員休んでいる間に、こうして無事な面々は顔を突き合わせているのだ。

 

「可能性はありますな。どこまで捜索範囲を広げるかは難しい問題ですが……」

 

「マコトはすぐにまた出て行っちゃうし……カノンちゃんはマコト追いかけて行っちゃうし」

 

 そう言いながら頬杖をついて、溜め息を吐くアカリ。

 

「……やっぱり、俺は最後の眼魂。

 卑弥呼は、誰かに憑りついてるんじゃないかって思うんだ」

 

「けど、それじゃ探しようもないわよねぇ」

 

 リョウマの時からくる経験で、タケルはそう口にする。

 だがもしそうだとすると、変わった人間を探す以外に方法がなくなってしまう。

 またも溜め息を落とすアカリに、しかしタケルはゆっくり首を横に振った。

 

「龍馬の時と同じなら、きっと卑弥呼も今の状況に思うところがあるはずだ。

 たぶん、あっちから俺たちに接触してくる―――はず」

 

「最後は自信なさげになりましたな……」

 

 茶々を入れてくる御成を小さく睨む。

 彼は両手で口を押さえて、視線を逸らして誤魔化した。

 

 

 

 

 ―――思い当たるところをひたすらに巡る。

 だが目的の相手を見つけることなく、彼の捜索は無駄に終わった。

 最後に辿り着いた公園で足を止め、マコトは小さく息を吐く。

 

「……デスガリアンに比べて、眼魔の動きは鈍い。

 何を企んでいる、アラン……」

 

「もし」

 

 いきなり声をかけられて、思い切り振り返る。

 すぐさま戦闘に移れるように、構えながらの反応。

 

 だがそこにいたのは、一人の人間の少女でしかなかった。

 服装は随分と古めかしいが、眼魔のそれではない。

 警戒を解きながら、声をかけてきた相手に視線を向ける。

 

「……なにか?」

 

「私にはお前の未来が見える……お前には、運命の出会いが待ち受けている」

 

「なに?」

 

 浮世離れした雰囲気を見せる少女に、マコトが目を細めた。

 明らかに普通の人間ではない様子だが、眼魔というわけではない。

 もしかしたら―――と。

 

「お前、まさか卑弥呼か?」

 

「然り、我こそは女王・卑弥呼。

 我が眼が視通したこの世界の未来を憂い、彷徨っていたが……

 一際波乱の運命を背負いし者を見つけ、つい声をかけてしまったのだ」

 

 名を問いかけられた少女は、あっさりと肯定を返した。

 そんな彼女の物言いに対して、重ねて質問をかけるマコト

 

「……この世界の未来を憂う、か。確かに、眼魔にデスガリアン。

 世界の命運が懸かっている戦いだろう。

 だったら、だからこそお前たちの力をタケルは必要としている。何故彷徨う必要がある」

 

「…………」

 

 無言で振り向いて、マコトに背を向ける卑弥呼。

 何の答えも返さない彼女に対し、彼は小さく眉を上げた。

 

「……視えるからこそ、思うところが生まれる。そういうこともあるということだ。

 私の力はお前たちに託そう。私の視た未来を超えられるかどうかは……」

 

 少女の背中から眼魂が出現し、飛ぶ。

 それを捕まえたマコトは、眼魂が抜けて意識を失った少女を支えた。

 彼女を傍にあったベンチに横たえつつ、眉を顰める。

 

 ピンクの眼魂が言い残していったその言葉。

 未来を視て、告げるもの。邪馬台国の女王、卑弥呼。

 一体、彼女がどのような未来を視たのか。

 それを言い残すこともなく、彼女は眼魂となり彼の手の中に納まっている。

 

「どういうことだ……?」

 

「おやおや、丁度いい。ここに四つ、揃ったようですね」

 

 すぐに立ち上がり、ベンチから離れるように歩き出す。

 彼の耳に届いた声は、明らかにマコトへと向けられたもの。

 その上で四つ、などと口にするということは。

 

 ―――そいつが英雄眼魂を狙う眼魔だということに他ならない。

 

 距離を開けたまま視線を向けて、相対する。

 そこにいたのは灰色の軍服を着た男。

 

「貴様……眼魔か」

 

「ええ、その通りです。私はイゴール。

 スぺクター、あなたの持つ英雄の眼魂を頂きにきました。

 ――――ナイフ眼魔」

 

 嫌味たらしい仕草で挨拶を行う彼。

 そんなイゴールの声に応え、彼の背後から一人の怪人が現れる。

 

 シルクハットに赤い仮面、両腕の肘から先が鋭利な刃になったもの。

 イゴールが呼ぶところによると、ナイフ眼魔。

 その怪人はマコトの前に躍り出ると、両腕を打ち合わせて軽く鳴らした。

 

「イゴール様の命により、あなたを排除します」

 

「やれるものならやってみろ!」

 

〈カイガン! ノブナガ!〉

〈俺の生き様! 桶狭間!〉

 

 マコトが手を振るい、出現させるゴーストドライバー。

 そこにノブナガの眼魂を落とし込み、トリガーを引く。

 紫のパーカーゴーストをトランジェントの上に纏い、彼は武装を完了した。

 

 突き出されるガンガンハンド。

 銃モードのそれがナイフ眼魔を照準し、放たれて―――

 

「ハァッ!」

 

 ナイフ眼魔がその両肩から、ピンク色の霧を噴き出した。

 一瞬の内に周囲がその霧に包まれて、敵の姿を完全に見失う。

 つい先程まで敵がいたはずの場所を撃つ。が、命中したという手応えは得られない。

 

「なんだと……!?」

 

「ハハッ!」

 

 直後、スペクターが背後から斬られる。

 火花を散らしながらよろめいた彼が、ガンガンハンドを後ろに振り抜く。

 だがそれは掠りもせずに空を切った。

 

 今度は正面から二つの刃による斬撃。

 防御することもできず、彼はその連撃に斬り伏せられた。

 

「ぐっ……!」

 

 膝を落とし、ガンガンハンドを杖替わりに体を支える。

 そうして敵の動きを何とか捉えようとして―――しかし。

 ナイフ眼魔は霧に姿を隠しながら、確実にスペクターにダメージを蓄積させていく。

 

「アラン様に気に入られていたとはいえ、所詮は人間……

 あなたに構っているのも時間の無駄ですし、さっさと―――」

 

「お兄ちゃん! どこにいるの、大丈夫!?」

 

「おや?」

 

 霧の外から声がする。

 それは間違いなく、彼を追ってきたカノンの声。

 マコトが一瞬息を呑み、すぐさまそちらへと叫び声を上げた。

 

「カノン、逃げろ!!」

 

「おやおやおや。これは幸運、すぐに終わりそうだ。

 ナイフ眼魔! その娘を捕らえなさい!

 さあスペクター、人質と英雄の眼魂を交換することにしましょう!」

 

 嬉々としたイゴールの声が響く。

 周囲一帯は完全に霧の中。

 スペクターに周囲の状況を知る術はなく―――

 

「きゃあ!?」

 

「カノン!!」

 

 その状況を、カノンの悲鳴で理解する。

 拳を握り締め、どう動くべきかを思考。

 頭痛さえ覚えるような無様な自分に、彼の意識が沸騰して―――

 しかし、それでも妹を助けるために何とか動き……

 

「スペクター、私の声のする方へとあなたの持つ眼魂を投げなさい。

 そうすればあなたの大切な妹を放して差し上げましょう!」

 

「くっ……!」

 

 カノンを助けるためならば、何だって捧げよう。

 彼はずっとそうしてきたし、これからだってそうしていく。

 けれど、自分の無様さのせいで眼魂を失うなど―――

 カノンを救ってくれたタケル、彼を救うための手段を失うなど。

 

 カノンを拘束しているのだろう、ナイフ眼魔による追撃はない。

 霧の中に一人残されたスペクターが、懐から眼魂を取り出す。

 いま彼に扱えるのはドライバーの中のノブナガと、ツタンカーメン。

 

 今さっき彼が委ねられたヒミコ、そしてフーディーニは扱えない。

 フーディーニは何度か使おうと試したが、使えなかったのだ。

 ヒミコはもしかしたら使えるかもしれないが、この土壇場では試せない。

 

「―――俺は……!」

 

 眼魂を握り締め、歯を食い縛りながら葛藤する。

 何よりこれを渡したところで、奴がカノンを無事に解放する光景が見えない。

 眼魂も奪われ、カノンも守れず―――そんな当たり前の未来がそこにある。

 

 だから彼は眼魂を渡すことに逡巡して、

 

「だめ、お兄ちゃん!」

 

「―――では仕方ない。ナイフ眼魔、その娘の魂を切り取りなさい」

 

「ハッ!」

 

 イゴールの声が低く、冷淡に変わる。

 即応するナイフ眼魔にも戸惑いなど微塵もない。

 だからこそ彼は、もう答えるしかなかった。

 

「分かった! いま投げる……! カノンを傷つけるな……!」

 

 妹を救えない自分。友の命さえも見捨てる自分。

 ―――そんなことになった原因である、自分の弱さ。

 自分に対する溢れんばかりの怒りが、己の中でぐつぐつと煮立つ。

 

 それでも彼は、歯を食い縛りながら眼魂を投げようとして―――気付く。

 

 問いかけられている。

 この状況でお前は、俺を信じられるか? と。

 力で捻じ伏せてきたものたちが、今の彼に問いかけている。

 

「―――俺に、その資格があるのなら……!」

 

 そう、振り絞るように出した声。

 彼の声に呼応して、一つの眼魂が淡く輝きだした。

 

 ―――霧の外。

 

 ナイフ眼魔にまだ垂れ流させているピンクの霧。

 この霧の中では特殊な磁場が発生し、中にいるものの感覚を狂わせる。

 致命的なほどの影響があるわけではないが、真っ当にナイフ眼魔と戦えなくなるほどには。

 

 そんな霧の塊を外から眺めながら、イゴールは飛んできた眼魂を見る。

 放物線を描きながら霧の外に飛び出してくるのは四つ。

 スペクターが所有している英雄眼魂と同じ数だ。

 

 イゴールはにんまりと口の端を上げて、それらの眼魂を拾い上げていく。

 

「結構。確かに受け取りました、スペクター。

 では……ナイフ眼魔、その娘の魂を回収しなさい」

 

「ハッ―――!」

 

 抱えていたカノンを放し、すぐさまナイフ眼魔は腕を振り上げる。

 彼の腕のナイフは人間の肉体と魂を切り分けるもの。

 そうして切り離した魂は回収し、眼魔世界において資源として活用されるのだ。

 

 呆然としている少女に振り下ろされる刃。

 それは一秒と掛からずに、目的となる少女に届く―――前に。

 

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「ぬおッ……!?」

 

「ナイフ眼魔!? なにを……!」

 

 突然の事態、そこにイゴールの意識と視線が奪われて。

 その隙に彼がいきなり手首を掴まれて、一息に捻り上げられる。

 

 そのせいで彼が握っていたノブナガ、ツタンカーメン、ヒミコ。

 そして、スペクター。四つの眼魂が転がり落ちた。

 イゴールが必死に顔を動かし、その腕―――スペクターのトランジェント体を見る。

 

「ぬぎぎぎぎぎ!? スペ、クター……! なぜ!?」

 

「―――霧、人質……お前は確かに俺を動きを縛ってみせた。

 だが俺の動きを封じることはできても、奴を縛ることはできなかった」

 

「奴ぅ……!?」

 

 腕を一際大きく捻り上げ、そのままイゴールの体を突き飛ばす。

 同時に鎖でぐるぐる巻きにされたナイフ眼魔も、鎖が跳ねて投げ捨てられた。

 

 ―――鎖を空から下ろしているのは、彼の愛機マシンフーディー。

 バイクであったはずのそれが、半ばから真っ二つに割れたもの。

 分かれて計四つになった車輪をプロペラの如く回し、宙に浮くそれこそが。

 

「脱出王――――フーディーニだ!」

 

〈カイガン! フーディーニ!〉

〈マジイイジャン! すげぇマジシャン!〉

 

 マシンフーディーが真っ二つのバイクを背負ったパーカーゴーストとなる。

 そしてスペクターの叫びとともに舞い降り、彼へと憑依を完了した。

 仮面ライダースぺクター・フーディーニ魂。

 彼は掴んでいたイゴールの体を、ナイフ眼魔の方へと投げ飛ばす。

 

 すぐさま復帰してきて、飛んでくるイゴールを受け止める眼魔。

 

「イゴール様!」

 

「痛い!? お前が受け止めるな!」

 

 ナイフの腕で受け止められて悲鳴を上げるイゴール。

 そんな彼らをしり目に、スペクターの方へと走り寄るカノン。

 

「カノン、下がっていろ」

 

「うん。気を付けて、お兄ちゃん!」

 

 彼女に声をかけて歩み出すスペクター。

 その後ろで転がっている眼魂を拾い集めるカノン。

 そんな彼らを前にして、ナイフ眼魔から落とされたイゴールは顔を歪める。

 

「ナイフ眼魔! もう一度スペクターに教えてあげなさい!

 私の創り出したその力を!」

 

「お任せください!」

 

 ナイフ眼魔が両肩から霧を噴き出す。

 一瞬のうちに周囲をピンク色に包んでいくその勢い。

 イゴールが作ったその特殊な霧は、スペクターも眼魔も纏めて呑み込み―――

 

「あら? あら? あらら!?」

 

 次の瞬間には、ナイフ眼魔は鎖によってまたも縛られていた。

 すぐさま巻き戻しが始まるその鎖。

 フーディーニパーカーから伸びた鎖は、当然スペクターの元へ。

 

「言ったはずだ。そんなものでは、こいつを縛ることはできない!」

 

〈ダイカイガン! フーディーニ! オメガドライブ!!〉

 

 パーカーの背負った車輪、シュトゥルムローターが回転する。

 浮力を生み、空へと舞い上がっていくスペクター。

 当然のように、鎖で捕まったナイフ眼魔も一緒にだ。

 

 如何なる悪環境を作り出し閉じ込めても、生還するが故に脱出王。

 そしてナイフ眼魔は、霧の中をテリトリーとし狩りを行う者。

 だからこそ、その結果は明白だ。

 

 霧を突き破って空高く舞い上がるスペクター。

 彼が背中のバイクだったユニットを切り離し、拘束された眼魔へと突撃する。

 

「俺の生き様、見せてやる! ハァアア―――ッ!!」

 

 己のテリトリーから引きずり出された狩人に、スペクターの蹴撃が炸裂。

 その威力でナイフ眼魔のボディが罅走っていく。

 内部の眼魔眼魂までも粉砕されて、彼は断末魔と共に爆発した。

 

「イゴール様ぁああああ――――っ!?」

 

 爆発を抜け、そのまま着地するスペクター。

 彼の視線が守るもののいなくなったイゴールへと向けられる。

 

「ぬ、ぬぬぬ、ぬぬ……! まさか私の創り出した霧をこうも簡単に……!」

 

 表情を歪めながらも、イゴールの手が虚空に印を切る。

 そこに現れるガンマホール。

 彼はすぐさまそこへと逃げ込もうとして―――上空からの鎖に縛り付けられた。

 

 空にあるマシンフーディーに目を向け、驚愕するイゴール。

 

「なんと……!?」

 

「逃がさん。アランやお前たちの本当の目的。

 いまここで話してもらうぞ」

 

 歩み寄りながら、敵を捕まえるべく腕を伸ばすスペクター。

 だが彼の手はイゴールに届くことなく、途中で別のものに止められた。

 

 そこに現れてマコトの腕を掴み取ったのは、黒い軍服の青年。

 アランに他ならなかった。

 

「アラン……!」

 

「アラン様……?」

 

「…………イゴール。貴様がこちらにくる、などと私は聞いていないが。

 こちらの世界の指揮官である私を差し置き、貴様は何をしている」

 

 スペクターを捕えながら、イゴールに視線を送る彼。

 

「これはこれはアラン様。

 私がこちらの世界に来たのは、あなたの兄……アデル様のご命令ですので」

 

「兄上が?」

 

「はい、もちろん。

 アラン様が最優先されるべきは、人間を減らす外来生物の排除。

 人間の魂を我らのような完璧なる存在に変える……その業務が疎かにならぬよう、引き継いで行うのが私に与えられた役目なのです!」

 

 鎖に縛られながらのそんな物言い。

 彼に対して、アランが向けるのは胡乱げな視線。

 だがアランは、その不信を一先ず置いておく。

 

 スペクターを掴んだ手を振るい、彼の体を押し返す。

 そのままアランはメガウルオウダーを、左の手首へと装着した。

 起動したネクロム眼魂をアイコンスローンへと滑り込ませる。

 

〈イエッサー! ローディング…〉

 

「……まあいい、後で確りと話を聞かせてもらおう」

 

「もちろんですとも」

 

 メガウルオウダーを跳ね上げて、リキッドロッパーを発動。

 眼魂にウルオーデューを滴下して、彼はネクロムへ変わっていく。

 

「変身」

 

〈テンガン! ネクロム! メガウルオウド!〉

〈クラッシュ・ザ・インベーダー!〉

 

 憑依したネクロムパーカーを摘まみ、襟を正すように軽く引く。

 その白い戦士を前にして、スペクターは身構えなおした。

 

 余計なものに構っていては相手取れない、という判断。

 スペクターは致し方なく、拘束していたイゴールを解放する。

 戻ってきたマシンフーディーは彼の背へと装着された。

 

 自由を得るとすぐさまガンマホールを開き、消えていくイゴール。

 それを見送ったネクロムが、改めてスペクターに向き直る。

 

「スペクター、あれから答えは出ただろうか。

 私とて、君が理解を示してくれるのであれば無理強いはしたくない」

 

「言ったはずだ! 俺は人間として、大切なものを守るために戦う。

 戦う相手がアラン、お前であってもだ!」

 

「……では仕方ない。君には無理矢理にでも思い知らせるしかないようだ。

 我らという完璧なる存在が、如何に優れているのかを」

 

 ネクロムが始動。

 身構えているスぺクターに向け、白いボディが歩み寄っていく。

 泰然としたその動きに対し、フーディーニが鎖を放った。

 その全てが液体へと変わったネクロムの体を擦り抜けて、空を切る。

 

 無敵のネクロムが大地を蹴った。

 一気に詰め寄られる距離。

 至近距離まで接近し合った二人が、互いに拳を交わし合う。

 

「お兄ちゃん! アラン様! どうして!?」

 

 外野から聞こえてくるカノンの声。

 それに小さく鼻を鳴らすアランが、更に一歩踏み込んだ。

 

 スペクターの腕を絡め取るネクロムの腕。

 そうして腕を引かれて体勢を崩した彼の胸に、叩き込まれる拳。

 火花を散らして押し飛ばされるスペクター。

 

「カノン! 下がっていろ!」

 

「安心するといい、カノン。君もまた姉上の元へと連れ帰ってあげよう。

 こんな世界よりも、我らの完璧なる世界にいた方が君たち兄妹も幸せだろう?」

 

「え……?」

 

 体勢を立て直すスペクター。

 その腹に、更に一撃ネクロムの拳が突き刺さる。

 押し返された彼が、地面を滑って片膝を落とす。

 

「くっ……!」

 

 ゆったりとさえした動作で、距離を詰めていくネクロム。

 だがその足が、止まった。

 

「違います……」

 

「……なに?」

 

「アラン様、私たちは人間として生きていきたいんです!

 アラン様にも、アリア様にもお世話になりました……

 けど、私たちは眼魔の世界じゃなくてこっちの人間の世界で……!」

 

 ―――そうして言い返されたこと。

 それが余程不服だったのか、ネクロムが足取りの向きを変えた。

 一直線に、彼はカノンへと向けた歩き出す。

 

「カノン!!」

 

「―――君たち兄妹は、一体どれほど私を苛立たせるのか……!

 何が人間の世界だ。こんな世界に一体どんな価値があるという―――!」

 

 カノンが怯えるように体を竦め、その場で足を固まらせる。

 伸ばされたネクロムの腕が、そんな彼女を捕まえようとして、

 

 ―――横合いから、その腕を化け物の腕に掴まれた。

 

「――――なに?」

 

 アランの驚愕は、それが化け物だったことにではない。

 ただの化け物ならば、デスガリアンという可能性がある。

 だとすれば排除すればいいだけだ。

 

 だがその化け物の姿は、細部はまったく違えどよく見知ったものだった。

 

 ―――黒い体に黒いパーカーを羽織り、胸には眼を浮かべ。

 顔面に張り付けられたオレンジの顔面と一本角。

 

 それは明らかに、天空寺タケルの変身した姿。

 ―――仮面ライダーゴーストに酷似していた。

 

「なんだ、貴様。天空寺タケ……!?」

 

 ネクロムの体が飛ぶ。

 その化け物が手を放し、軽く手を振るっただけで。

 何らかの衝撃波が彼を襲い、いとも簡単に吹き飛ばしていた。

 

「タケル……じゃない! 貴様、一体何者だ!」

 

 スペクターが疾走する。

 彼とカノンの間に強引に割り込むように。

 

 だが怪物はそれさえも寄せ付けない。

 軽く腕を振るってみせただけで、スペクターの体が宙を舞う。

 地面に叩き付けられた彼から、フーディーニパーカーが飛んだ。

 

「っ、フーディーニ!?」

 

 ダメージ自体はそれほどでもないはず。

 だというのに、突然戦闘を拒否するかのように外れたフーディーニ。

 その意図がまるで理解できず、マコトは困惑の声をあげる。

 

 怪物がカノンに向き直り、彼女の顔を見据えた。

 すぐさま例えトランジェントであろうと走り出そうとする彼。

 だがスペクターが走り出す前に、怪物に剣撃が降り注ぐ。

 

 頭上に走る二刀の剣閃。

 それを察知してか、怪物はひらりと背後へと舞って躱した。

 

「よっ、と! はいはい、カノンちゃん。下がっててね、危ないから!

 どうも、また新しい勢力な感じ? 寝起きに一手、お願いするわ!」

 

 流れるように着地して、武蔵の剣が怪物を囲う。

 斬撃の結界とも言うべき、無数の剣閃。

 だが、無言の怪物はいとも容易く潜り抜ける。

 

「――――?」

 

 躱されたのは天晴。その技量に素直に感服しよう。

 だが今の動きの奇妙さは何か。

 まるで―――

 

「アナザーライダー!」

 

「あれって……ゴースト!?」

 

 後から続いてきたソウゴが叫ぶ。

 そのアナザーライダー、というのがこの怪物のことなのだろう。

 一緒にいるタケルが怪物の外見を認識して、己の姿と類似していることに驚いた。

 そんな声を上げながら彼らは、二人揃ってドライバーを出し変身プロセスを開始する。

 

「ってことは、アナザーゴースト! ……タケルなら倒せる?」

 

「それってどういうこと?」

 

「アナザーライダーは対応する仮面ライダーの力でしか完全に倒せないのです!

 つまりあれがアナザーゴーストだとするなら―――

 仮面ライダーゴーストであるタケルさんしか、倒すことができません!」

 

 武装を完了しているマシュが、カノンを抱えながら戻ってくる。

 彼女を下ろして立香に任せると、盾を構え直す。

 なぜそうなるかは分からないがとにかく一応は分かった。

 つまり、自分があの怪物……アナザーゴーストを倒せばいいのだ。

 

「分かった! 行くよ、ムサシ!」

 

〈アーイ!〉

 

 ゴーストドライバーに眼魂をセットし、印を切りながら構えて―――

 そうして、グリントアイから飛び出す赤いパーカーゴースト。

 ムサシの魂の具現である彼は、飛び出して舞い上がると同時。

 

『――――ッ、何故お主が!?』

 

「え?」

 

 その体を空中で静止させ、困惑の声を上げた。

 そんなムサシゴーストの様子を見て、驚いて動きを止めるタケル。

 瞬間、アナザーゴーストが武蔵を振り切って動く。

 

「ごめん、抜かれた――――!」

 

「タケル! 変身!」

 

〈ライダータイム!〉

〈仮面ライダージオウ!〉

 

 射出されたジオウのインジケーションアイ。

 その文字の弾丸さえも掻い潜り、アナザーゴーストはタケルの元へ。

 

「しまっ……!?」

 

 伸ばされる腕。

 それはタケルの首を狙ったもので、しかし彼はゴースト。

 死ぬほど痛くても、時間経過以外でもう死ぬ事はない身だ。

 ならばそれを耐えてでも変身をしようとして―――

 

 ぶちり、と。彼の首にかかっていた紐が切れる。

 アナザーゴーストの手の中に握られる、宮本武蔵の剣の鍔。

 ―――彼が父から受け継いだ宝物。

 

「お前、返……ッ!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 その武蔵の鍔を触媒に、宮本武蔵の魂を呼び出すかのように。

 

「え?」

 

『ぬ、うぉおおおお……ッ!?』

 

 ムサシパーカーが、アナザーゴーストの描いた印に吸われていく。

 赤く燃え上がる黒いパーカー。手の中に現れる二刀の刃。

 変わっていくアナザーゴーストを前にして、タケルが呆然とその顔を見る。

 

「タケル、いったん下がって――――!?」

 

 一閃――――いつの間にかその腕が跳ねて、ジオウが火花を噴き出した。

 

 すぐに踵を返して突撃していた武蔵が、驚愕に眼を見開く。

 理解した。このまま次の一歩を踏み出せば、自分は死ぬ。

 

 至極単純な話だ。相手が格上とかそういう話ですらない。

 だって自分は()()()()()()()()()()()、あれは()()辿()()()()()()()()()()

 登っている山は同じ。ただ純粋に、あれはこの武蔵の遥か先にある到達点。

 中腹でまごついている自分を見下ろす、頂きに立つものの“空”の眼。

 

 ―――宮本武蔵だ。

 

 取って返す。全力のブレーキ。

 完全な無駄死にを前に、新免武蔵の本能が全力で体を停止させる。

 間に合わない、100分の1秒後に自分の頸が飛ぶ光景を幻視する。

 

 奔る剣閃。何も出来ず彼女の頸は―――

 ガギン、と。盛大な金属音。

 そんな状況に至り、圧倒的な戦闘速度を発揮したマシュが前に立つ。

 

「ハッ……! ハァッ、ハ―――ッ! 武蔵さん、ご無事で……!」

 

 “死”。

 あるいは、いつか“死”を視る眼に見定められた時を思い出す。

 それと同じだ、と。そんな人を超えてきたのだ、と。

 心を持ち直し、息を整え、剣閃を遮ったマシュが口を開く。

 

 そんな彼女に庇われながら、武蔵が二刀を提げる。

 

「仁王倶梨伽羅――――!!」

 

 新免武蔵の気勢に応じ、四本腕の仁王が彼女の背後に顕現する。

 それが実像か、あるいは虚像か。

 どちらであっても、それは間違いなく目の前のものを斬り伏せるためのものに違いなく。

 

「―――――」

 

 一睨みで、その仁王の腕が四本飛んだ。

 それが、武蔵と武蔵の今の差であると証明するように。

 崩れていく仁王のヴィジョン。

 そんな光景を背にしながら、武蔵は小さく顔を引き攣らせた。

 

 アナザーゴーストの剣が走る。

 それを受け止めようとしたマシュの前に、ジオウが舞い戻る。

 

〈サイクロン! ジョーカー! ダブル!〉

 

 メモリドロイドに幻想と闘士の記憶を帯びて、彼が前に立ちはだかった。

 メタルの防御力を容易に抜く刃の一撃。

 それを浴びながらも、強引に耐えきってみせる。

 

 一撃は耐えても、ならば続く一撃は。

 更なる一撃がジオウを斬り、その体を押しやった。

 

「ぐっ……! これ、まず……!!」

 

「ソウゴ!」

 

 続く更なる一撃でジオウが地面に伏した。

 その間にカノンを抱えた立香の元に飛び込んでくるトランジェントのスペクター。

 彼はそこまでくるとドライバーからフーディーニを取り出し、カノンの手の中からスペクター眼魂を取った。

 

「お、おにいちゃ……! あの人……!」

 

「お前たちは下がってろ!」

 

〈カイガン! スペクター!〉

〈ダイカイガン! スペクター! オメガドライブ!!〉

 

 呼び出したスペクターパーカーを憑依させる。

 そのまま眼魂の力を紋章に変えて外に放ち、その全エネルギーを足一本に集約。

 スペクターが跳び上がり、流星となってアナザーゴーストに蹴りかかった。

 

「ハァアアアア――――ッ!!」

 

 微かに顎を引くアナザーゴーストが、そのまま剣一閃。

 スペクターの一撃は届くことなく、彼は地面に叩き付けられた。

 地面に叩き付けられ、そのまま変身が解除されるマコト。

 

「ぐぁ……っ!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「―――カノンちゃん!」

 

「マ、マスター! カノンさん、動かれたら……!」

 

 マコトに駆け寄るカノン、それを追う立香。

 そしてそれを盾を持って追いかけるマシュ。

 彼女たちを追いかけるような視線を飛ばすアナザーゴーストが、

 

「父さん……?」

 

 タケルのその一言で、一瞬だけ静止した。

 その言葉を聞いて、誰もが目を見開いて体を強張らせる。

 

「龍さん……!? タケル、お前何を……!」

 

 カノンが抱き起すマコトがおかしなことを口にした彼を見て。

 そこで、カノンが持ったままだった眼魂たちが震えだす。

 それはまるで、天空寺龍を知る眼魂たちが同じことを訴えるかのように。

 

「まさか……本当に……?」

 

 叩き伏せられた状態のまま、ジオウの視線がタケルに向かう。

 

「父、さん……? ぐぁ……ッ!?」

 

「その通りだ、天空寺タケル」

 

 顔を上げていたジオウの背を踏みつける足。

 突如そこに現れたのは、紫の衣装を身に纏った男。

 

「スウォルツ……!」

 

「いま貴様の目の前にいる者こそ、仮面ライダーゴーストの力を持つ者……

 アナザーゴースト、天空寺龍だ」

 

 アナザーゴーストの両腕が下がる。

 まるでスウォルツが話している間にすることはない、というかのように。

 

「なにを、言ってるんだ! なんで! だって、父さんは十年前に……!」

 

 『父さん……! 起きてよ、死なないで! 父さん!!』

 頭の中に、十年前の出来事がフラッシュバックする。

 倒れ伏した父親に縋り付く、子供だった頃の自分。

 詳しいことは覚えていない。何故か詳細は思い出せない。

 子供だったからかもしれない。ショックが大きかったからかもしれない。

 その現場に自分と父以外に、誰かがいた気がするけど思い出せない。

 

 そんなことさえどうでもよくて。

 目の前で目にした光景は、武蔵の力を使う父親の姿そのもので。

 

「ああ。2005年12月20日、天空寺龍は死んだ。そうだろう?

 だから俺がその時間から連れてきてやったのだ。

 死の淵にあった父親の体に縋り付く貴様の目の前で、アナザーゴーストに変えてな」

 

「―――スウォルツ!!」

 

 踏みつけられたまま、思い切り体を捻り上げる。

 射出される肩のメモリドロイド。

 それが人型となってスウォルツに襲い掛かり―――ガチリ、と。

 空間ごと停止させられて完全に動きを止めた。

 

「先程聞いた通りだ。アナザーゴーストは、今はお前にしか倒せん。

 だが同時に。致命傷の貴様の父親が永らえているのは、アナザーゴーストになったからだ。

 さて。ここまで言えば状況はわかるだろう?」

 

 アナザーゴーストが腕を上げる。

 刃を握った腕が周囲の人間たちを確認するようにゆっくりと動き出した。

 まるで次の獲物を探すかのような動作。

 

「まさか、俺が……!?」

 

「ははは……さあ、天空寺タケル。

 お前が天空寺龍にトドメを刺せねば、これからもっと面白いことになるかもしれんぞ?」

 

 至極楽しそうに、スウォルツは笑みを浮かべてそう言い放つ。

 咄嗟にタケルの手が胸に伸びる。

 ―――そこにはもう、父親が遺してくれた武蔵の刀の鍔はなくて。

 

「俺が……父さんを……殺す?」

 

 呆然と。彼はいま、自分がやらなければならない事を口に出して。

 その内容がまったく呑み込めずに自失した。

 

 

 




 
アナザーゴースト・ムサシ魂。
一般的な寺生まれのゴーストハンター相応の強さを持つ存在。
本能的に、相性のいいムサシ以外を使おうとはしない。
ムサシだけで何でも斬れるので他のが要らないともいう。
ムサシがいない時は寺生まれ特有の「破ァッ!」をしてくる。相手は死ぬ。

全然眼魔世界行けてないんですがそれは。
 
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