Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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天才!万能の人!1519

 

 

 

「―――――」

 

 ―――きた。その瞬間に直感する。

 そう長くは続かないだろうが、それでも逃すはずもない。

 彼女はすぐさま部屋の扉に近くに置いたトランクを持ち、退室する。

 

「わっ」

 

「おっと」

 

 扉を出たところにはロマニ。危うくぶつかりそうになる。

 反省、こう見えてとても焦っていたようだ。

 如何な天才であろうとも、そういう時もあるだろう。

 

「丁度良かった、レオナルド。悪いけど頼みが……」

 

「残念ながらタイミングが悪いね、ロマニ。今から私はレイシフトだ。

 君はすぐに準備を。オルガマリーは私が呼びに行くから」

 

「―――――分かった、すぐに準備する」

 

 何の説明もないダ・ヴィンチちゃんの言葉。

 それに対して、ロマニはすぐに神妙な態度で頷いた。

 体の向きを変えて、管制室へと走り出す彼。

 その背を見送り、ダ・ヴィンチちゃんも目的地に向かい動き出した。

 

 目指す先は食堂で―――その途中で、通路に屯っている連中を見つける。

 

「お、どうしたよ。何かあんのか?」

 

 クー・フーリン、フィン、ダビデ。あとアレキサンダー。

 女性カルデア職員に声をかけることに定評のある三人+一人だ。

 管制室に詰めた職員の精神状態が深刻になりすぎないように、適度に崩してくれる者たち。

 

「ああ、いい感じに煮詰まったからね。そろそろ助けにいける」

 

「ほう。流石は彼のレオナルド・ダ・ヴィンチ、ということなのだろうな」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの能力というより『ダ・ヴィンチ』だから、だ。

 なのでそんな誉め言葉を貰っても微妙、と。

 彼女はフィンの顔を何とも言えない表情で見つめる。

 

「君、私の名前聞いたこととかあったのかい?」

 

「もちろんサーヴァントとして召喚され、初めて聞いたがね。

 それはそれとして、私とて芸術くらい解するとも。境遇は理解できないが。

 何せ、私自身が芸術美そのものと言ってもいいのだ。

 わざわざ自分の理想に姿形を変えるなど、私では一切出てこない考えだよ」

 

 はっはっは、と。そんなことを言うフィン。

 イラッ、と。モナ・リザの眉が上がる。

 そんなやりとりをスルーして、ダビデが彼女に声をかけた。

 

「だとしたらマスターによろしく。多分、何だかんだ大丈夫だろうけど」

 

「サーヴァントとしては同行できていない事が問題だけど……

 まあ、マスターのことだからさほど心配していないね。

 無いなら無いで、その場で使えるものを使うのは得意な性格だから」

 

 さほど心配している様子もないダビデにアレキサンダー。

 まあダ・ヴィンチちゃんもある程度同意だ。

 彼女も彼女という戦力が必要だと見てレイシフトするわけではない。

 

「君たちこそこっちをよろしく。オルガマリーも連れていくからね。

 他の職員たちのメンタルケアとか、定期的にロマニを縛ってベッドに転がすのとか」

 

「その辺りは協力はするけど……

 僕の軍師がどうにかするから任せておくといいさ」

 

 笑いながら仕事をここにいないものへ投げるアレキサンダー。

 彼女の言葉に軽く顎を引いて考え込みだすダビデ。

 

「仕方ねえけどな。どうせなら戦場の方が気が楽だぜ」

 

 苦笑しながら肩を竦めるクー・フーリン。

 そんな彼らに背を向けて、ダ・ヴィンチちゃんは颯爽と歩き出した。

 

 食堂について、まずは積み上げられた杯に目が行く。

 ドレイクとモードレッドが積み上げたものだ。

 処置無し、と呆れながら給仕しているブーディカがダ・ヴィンチちゃんを見る。

 

「ダ・ヴィンチ? 珍しいね、ここにくるなんて」

 

「やあ、オルガマリーに用があってね。借りてくよ」

 

 椅子に座り、資料とずっとにらめっこ。

 そんな様子のオルガマリーに向けて歩き出す。

 彼女は一瞬だけダ・ヴィンチちゃんに目を向けて、すぐに資料に戻した。

 

 オルガマリーの背後。

 そこでは、難しい顔をしたネロが彼女の髪の毛を弄っている。

 髪型を弄られているにも関わらず、彼女は一切無反応。

 

 気を抜け、と行動で示すネロ。

 しかし常に張りつめた態度で返すオルガマリー。

 それは一種の決戦であった。

 そんな対決の中に割り込みを仕掛けるダ・ヴィンチちゃん。

 

「なにかしら」

 

「シバをどういじったって皆を観測できないよ。

 そもそもシバはそういうものじゃない。君が一番よく知ってるだろう?」

 

 所長の対面に座り、テーブルの上に持ってきたトランクを置く。

 じろりと睨み付けられながら、しかし彼女は気にした風でもない。

 その視線を浴びながら、トランクを開けて中から取り出すのは一冊の本。

 

「……あんた、それ」

 

「私は元々マスターなし。自分で契約を偽装してカルデアに留まっているサーヴァント。

 なので、こうして疑似契約のための“偽臣の書”でマスターを持つのは難しくない。

 なにせ天才だからね」

 

 目を見開くオルガマリー。

 そんな彼女の前に差し出される、サーヴァントの契約代行を果たす書物。

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチはカルデアの協力者。

 だが同時に、カルデアのこれまでの所業を受け入れないものだった。

 故に彼女は自身がやりたいようにやる、という姿勢を崩さない存在。

 

 助力するところは彼女の意思次第。

 マシュのような人間を創る計画には、絶対に関わる気はないという意思表示のため。

 誰かをマスターに持つことなど、そんなつもりは今まで一切なかった彼女が―――

 

「……どういうつもり?」

 

「これから君と私でレイシフトだ。向こうに行くので、準備したまえ」

 

「は?」

 

 ぽん、と。彼女の前に本を置いて立ち上がる。

 そうしてすぐに踵を返したダ・ヴィンチちゃんに声がかかった。

 

「なんと! マスターたちの元へレイシフトが可能となったのか!?

 うむ、では余も連れていくがいい!」

 

「ええ、マスターあるところに清姫あり。

 この皇帝は連れていかなくていいですが、わたくしは同行しましょう」

 

 すぐさま立ち上がって腕を振り回す白い薔薇の皇帝。

 更に彼女たちが向かい合うテーブルの下から生えてくる清姫。

 すり寄ってくる清姫の頭を押し返す、ダ・ヴィンチちゃんの手。

 

「残念ながら不可能だ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「む?」

 

「……むむ」

 

 それが嘘ではないと理解したのだろう。

 清姫が眉を顰めながらも扇で口元を覆う。

 そんな彼女の様子を見て、ネロもまた動きを止める。

 

「うーん、つまり?」

 

()()()()()()()()()、繋がりがあるのは私たちだけ。

 つまり向こうに行けるのは、私たちだけということになってしまうのさ。

 とはいえ、だ。私たちのレイシフトが成功すれば、それを辿ることで通信ラインの確保くらいはできるだろう。まあ、それが限度だろうけど」

 

 自分の顔に手を当てながら彼女の言葉を聞くオルガマリー。

 その視線をダ・ヴィンチちゃんが再び手にしたトランクへと向ける。

 

「それは?」

 

「これは立香ちゃん用の礼装だよ、作りかけだけどね」

 

 ぽんぽんとトランクを叩きながらそう言って、彼女は小さく微笑んだ。

 第六特異点の間ずっと、掛かり切りになっていたものだろうか。

 ―――まあそれを使わせるための当人が今、このカルデアにはいないのだが。

 

「資源に余裕があればツクヨミちゃん用に欲しいところだったんだがね。

 生憎、それだけのものは用意できなかった」

 

「……まだ完成していないんでしょう。持っていく意味あるの?」

 

「あっちで完成させるさ。あって困るものじゃないからね」

 

 そこまで聞いて、溜め息一つ。

 オルガマリーは立ち上がり、ダ・ヴィンチに追従していく。

 

「―――そういうわけらしいわ。

 わたしはレイシフトの準備をするので、あなたたちはいつも通りにお願いね」

 

「はいはい、大丈夫だよ。こっちの皆がお腹を空かせることがないように、だね」

 

 苦笑しつつ、そんなことを言うブーディカ。

 

「ネロ。たぶん今日は皆は忙しくして、管制室から出てこなくなりそうだ。

 料理はするから、ジャンヌたちと一緒に運んでもらうよ」

 

 そうやってネロに対して声をかけて、ふと気付く。

 彼女が何やら難しい顔をして、頭に手を当てていること。

 そんな様子に首を傾げて、再び声をかける。

 

「ネロ?」

 

「ん、む? ああ、うむ。任せておくがよい。

 その程度ならば余が盛大に飾りつけつつ、配膳してみせようではないか」

 

 頭痛を振り払うように軽く頭を動かし、彼女は清姫を拘束した。

 無理矢理にでも着いていく気満々の蛇娘。

 彼女は抱きしめられている状態から蛇のようにすり抜けようとして―――しかし。

 がっしりと完全に捕まえられ、可愛がられてしまう。

 

「……?」

 

 そんな彼女を見ながら、ブーディカはオルガマリーたちを見送った。

 

 

 

 

 子供じゃあるまいし、と彼女は思った。

 子供ならまだ可愛げがあるものを、と彼女は思った。

 口に出さずにお馴染みのやり取りが繰り広げられたと、誰でも分かった。

 

「……そういうわけだから、頼むわよ」

 

「はいはい、勝手にしなさいな」

 

 マスターが今度はダ・ヴィンチとレイシフトする。

 そんな事態を知り、また妙に拗ねたオルタ。

 それを呆れた視線で眺めているのはアタランテ。

 

 何かオルタとアタランテこそ姉妹染みてきたな、と。

 ちらっとそんなことを考えつつ、作業を続行するロマニ。

 

「ちなみに、タイムマジーンはどうなっている」

 

 前回の決戦で大破したマジーン。

 それは格納庫で放置されている状態で、修理されていない。

 基本的に今まではジオウによる修理だったのもある。

 

「放置中。残念ながらそっちまで手が回らなかったからね。

 今回はお休み、ということになるだろう」

 

 ダ・ヴィンチちゃんでもある程度手は付けられる。

 が、今回は純粋に手が足りていなかった。

 もっとも、向こうから呼び出せるとも限らないのだ。

 修理が完了していても出番がなかった、という可能性もあるだろう。

 

 エルメロイ二世が準備を手伝うコフィンの中に滑り込むダ・ヴィンチちゃん。

 ただのコフィンというだけではなく、更なる機材が増設されたもの。

 突貫工事で作った特別製のものの中で、彼女はさくさくと準備を完了させた。

 

「レイシフト先の観測は、私がコフィンの中でやる。

 こちらでは存在証明に重点を置いて作業をお願いするよ。

 あんまり時間を置きすぎると見失いそうだ、すぐ始めよう」

 

「……ということよ。これより、わたしとダ・ヴィンチ。

 両名による、未観測特異点へのレイシフトを強行します。

 迅速な行動が求められるため、各員はすぐに作業に取り掛かるように」

 

 そう言ってからオルガマリーもまたコフィンへ。

 彼女の方のコフィンを調整した職員。

 その手元作業を手伝っていたジャンヌが、微笑んで彼女に声をかける。

 

「主のご加護があるよう、私も祈っています」

 

 苦笑するように頷いて、コフィンへ乗り込むオルガマリー。

 そうして、俄かに騒がしくなりだしたカルデア管制室。

 全ての人員が一つの目的のために動き―――そうして。

 

『アンサモンプログラム スタート。

 霊子変換を開始 します。

 レイシフト開始まで あと3、2、1……全工程 完了(クリア)

 実証を 開始 します』

 

 彼女たちは、新たな戦場へと送り込まれた。

 

 

 

 

 どうやら美術館―――いや、特定個人の展覧会か。

 レイシフトによって到着した場所、ではないと看破する。

 恐らくは精神世界的なあれだろう。

 サーヴァントなのだし、そういうこともあると適当に納得。

 

「さて。それで……」

 

「ほう、美しい……なるほど、そういうセンスか」

 

 自分の作品が並ぶ光景を見回したダ・ヴィンチちゃんにかかる声。

 彼女がそちらに視線を向けると、そこには怪物がいた。

 

「おや、そういう君は別に美しくないね」

 

 まるでウィトルウィウス的人体図を模型にしたような。

 そんな四本の腕に、四本の脚。

 その腕とは別に腹にはモナ・リザらしき造形の顔と腕。

 頭には空気ねじを帽子のように被った、髭を蓄えた怪物。

 

「ふむ。外見は素晴らしいが内面は別に美しくないな。当たり前だが。

 せっかくのモナ・リザが台無しだ」

 

「は? お前の腹のモナ・リザの方がよっぽど台無しだから。

 なにそれ、私の作品を馬鹿にしてるの?

 節操のない取り合わせでそんな外見作って、私の美が台無しだぜ」

 

「自分をモナ・リザにする、という発想が既にモナ・リザの美を損ねている。

 駄目だなお前は、本当に駄目だ。

 お前という不純物がモナ・リザを貶めていることに何故気付かないのか……

 完璧な美に余計なものを足したら蛇足になる。当たり前のことだ」

 

「なんだとこの野郎」

 

 はあやれやれ、と溜め息を落とす怪物ダ・ヴィンチ。

 

 一瞬で分かった。もう殺し合いしかない。

 たぶんソウゴもオーマジオウにこんな感情を持っているのだろう。

 超納得してダ・ヴィンチが戦闘態勢に入る。

 だがダ・ヴィンチの怪物はそれに反応を見せず、黙り込んだ。

 

「……いきなり黙り込むね。自分の間違いを認める気になったのかな?」

 

「―――私はダ・ヴィンチ。そしてお前もダ・ヴィンチ。

 故に問う。レオナルド・ダ・ヴィンチ、なぜお前はそんなことをしている」

 

「…………それは、どういう意図の質問だい?」

 

 分かっているだろう、とダ・ヴィンチは鼻を鳴らす。

 そりゃ分かってるさ、とダ・ヴィンチちゃんは肩を竦める。

 

「んー、まあ。私はサーヴァントだからね。サーヴァントは人類史の守護者。

 根底には世界を守護するべきである、という精神がある。ダ・ヴィンチ本人にそういう精神がないとは言わないが、私はきっと本人よりそういう想いが強い……というより、際立つようにクローズアップはされているだろうね」

 

 サーヴァント、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 それに限らず、サーヴァントとして召喚されるということはそういうことだ。

 そういう意識は当然のように持たされるのがサーヴァント。

 場合によってはそれを無視して動けるのも意志ある英霊、サーヴァントだが。

 

「つまり、ダ・ヴィンチ本人というわけでもない。

 天才性は間違いなく発揮されているが、精神性の比重の部分でね」

 

「だからこそ、貴様は世界を救おうとしているのだと?」

 

「―――冗談」

 

 そりゃ気になるだろう。だって色々気になることがある。

 レオナルド・ダ・ヴィンチは美を追求するもの。

 モナ・リザの肉体だってそれによる結果だ。

 そして造形美だけではなく、機能美の追求だって彼女の領分。

 

 カルデア、人理焼却、仮面ライダー。

 この旅路で色々な未知を彼女は見てきた。

 魔術王の成果さえ含め、みんな輝かしいものばかり。

 それを探求し、己が知恵として昇華して更なるステップを。

 そんな思考が生まれないはずがない。

 

 世界が滅びるとしても、自分の矜持を崩すことなど有り得ない。

 彼女の心は、世界の命運程度じゃ左右されない。

 その天秤を傾けることができるのは、彼女の価値観ただ一つなのだから。

 

 だが、彼女は己の探求心を後回しにする。

 ダ・ヴィンチちゃんは他の何を置いても、カルデアの協力者でいる。

 

「―――私は私だよ。サーヴァント化程度じゃ、何一つ変わりはない。

 私はどんな時だろうと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()

 

 美しいものを美しいと感じたから、彼女はそれに尽くす。

 

 彼女は世界を救いたいからこの道を選んだわけではない。

 世界を救うために歩き続ける人間。

 その意思こそが美しく尊いものだと思い、こうしているのだ。

 

 美しいと信じたものの絵画を描くように、美しいと信じた誰かの歩みを支える。

 いつか絵が描き上がるように、いつか誰かが旅の終わりに辿り着くまで。

 彼女にとってそこに差はない。

 これがレオナルド・ダ・ヴィンチだから。

 

「ふむ」

 

 顎髭を撫でる怪物の腕。

 彼女が彼を理解できるように、彼に彼女が理解できないはずもない。

 幾度か手で髭を梳いたダ・ヴィンチが再び口を開く。

 

「ではあの娘はどうだ。()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 あの娘ね、と。苦笑する。

 まあダ・ヴィンチが入れ込んでる娘には幾らか人数がいるが。

 これが問いかけてくるのは、恐らく一人だけ。

 

「さて、その答えは私が出すべきものじゃないよ。

 私はサーヴァント、きっと皆が出してくれる答えを見届けるだけさ」

 

「―――――」

 

 ダ・ヴィンチが微かに顎を引き、そして通路を奥に向かって歩き出す。

 去ろうとする怪物。その背に向けて、声をかける。

 

「どこに行くんだい?」

 

「さて……今の私にはどこにも行先などないが」

 

「だったら丁度いい。私に君の情報を寄こしたまえ。

 君の求めた答えも、もしかしたら特等席で見れるかもしれないよ?」

 

 足を止めて、数秒。髭を撫でながらダ・ヴィンチが思考する。

 静かにその背を見ている彼女に振り返る彼。

 

「……いいだろう、好きにするといい。

 私の気が変わらないうちは、好きに使ってみせるがいい」

 

 そう言って、怪物の体が消えていく。

 その胸から眼魂が一つ吐き出され、ダ・ヴィンチちゃんを目掛けて飛んでくる。

 彼女はそれを掴み取り、肩を竦めて微笑んで―――

 

 

 

 

 ―――そこで、バッチリ目を覚ました。

 

 目を開けた先は、地上が遠く見える空の上。

 これはまた、なかなかの状況だ。

 このままでは速度を維持しつつ落下して、粉々の四肢散開である。

 

「おやおや、これはまた」

 

「これはまた、じゃないわよ!? どうするのよ!」

 

 同じく空中にいるオルガマリーが怒鳴る。

 まあいきなりこの高さに放り出されたらそうもなろう。

 別に、二人ともこの程度なら魔術でどうにかできる技量はあるけれど。

 

 そんな怒声を聞きつつ、ダ・ヴィンチちゃんは右手を握る。

 彼女の右腕を覆う礼装である万能籠手。

 その中には眼魂が握られていて、それは自動で籠手の中へと収納されていく。

 

「……ふむ、流石私。いい情報だ」

 

「は!? なに!?」

 

「やあ、オルガマリー! 丁度、この真下で皆が戦闘中だ!

 かなりピンチみたいだね、どうする!?」

 

「――――援護できるならさっさとしなさい!

 一応あんた、わたしのサーヴァントになったんでしょう!!」

 

 天才に振り回されている自覚をしつつ、また怒鳴る。

 その答えを聞いて、ダ・ヴィンチちゃんはからからと笑った。

 

「―――よろしい。そのオーダーに応えましょう!」

 

 快活に笑い、そして懐から眼鏡を出す。

 二つ出した眼鏡の片方を、そのままオルガマリーへ。

 

「ほら、早くかけたまえ。閃光防御だ」

 

「ああ、もう……!」

 

 二人揃って空中で眼鏡をかけて。

 そうして、ダ・ヴィンチちゃんは右腕を真下へと突き出した。

 展開されていく万能籠手、レオナルド・ダ・ヴィンチの万能性を現出するもの。

 

「―――パーカーゴーストの特性はダ・ヴィンチ眼魔(わたし)によって解析済み。

 自分で計算したものではないのが癪だけど、ここは仕方ないので我慢しましょう!

 ご覧あれ、マスター! 我が叡智が生み出す万能は、他のあらゆる奇跡を凌駕することを!」

 

 掌へと光弾が生成されていく。

 万能なる者の観点から測定された、対象に絶大な効果を約束された現象。

 圧縮された光弾は、彼女が己の銘を叫ぶとともに放たれた。

 

「―――――“万能の人(ウォモ・ウニヴェルサーレ)”!!」

 

 

 

 

 アナザーゴーストが刃を構え直し―――

 

 そしてその直後、天から光が降り注いだ。

 驚く皆の頭上で拡大していく光の波動。

 

「なに……!?」

 

「ガ、グ……ッ!?」

 

 ただの光は地上を照らすだけで他に影響を与えず―――しかし。

 その光を浴びた瞬間、アナザーゴーストがよろめいた。

 同時に、ネクロムが纏っていたネクロムパーカーが何故か彼から外れる。

 

「これは……」

 

 トランジェント体に戻ったネクロムが、宙に浮く自身のパーカーを見上げた。

 何かを嫌がるようにパーカーの体を揺するそれ。

 続くように、アナザーゴーストが纏っていたムサシのパーカーが離れる。

 そちらも見て、アランは仮面の下で眉を顰めた。

 

「眼魂の力だけを強制的に排除しているのか……?」

 

「――――いま!」

 

 ―――疾走。

 ふらついている相手に対し、武蔵の二刀が奔る。

 相手の領域に入れば死、という確信があった先程とは違う。

 上着と武装を失った怪物に対し、双剣の連続が叩き込まれた。

 

 弾かれ、地面を転げるアナザーゴースト。

 彼は軽く唸りながら、ゆっくりと立ち上がろうとする。

 

 その様子を見て、この現象をもたらした光源。

 頭上を見上げたスウォルツが、小さく肩を竦めてジオウから足を放す。

 同じく時間が停止していたメモリドロイドからも力を抜いて解放。

 メモリドロイド同士で激突させて、吹き飛ばす。

 

「ダ・ヴィンチ眼魔か……ドライブの歴史が消えた以上、奴が()()のも必然か。

 まあいい、今日はここまでにしておくとしよう。

 どうやらアナザーゴーストが天空寺龍に馴染むまで、まだ時間がかかりそうなことだしな」

 

 彼の姿が一瞬ブレ、次の瞬間にはアナザーゴーストの背後に。

 すぐさま二人の体が光に包まれ、空へと舞い上がっていく。

 消えていくその姿を追って、タケルが一歩踏み出して叫ぶ。

 

「父さん!」

 

 光の中のアナザーゴーストは何も答えず、ただ消えていった。

 

 その光景を目にしながら、ネクロムが軽く顎を上げる。

 ネクロムパーカーゴーストは未だに調子を取り戻さない。

 これ以上戦闘するならば、手持ちのグリムかサンゾウを使うことになるが……

 

 そこに光の元凶、二人の人間が空から降りてくる様子を見つける。

 新たなる闖入者に溜め息一つ。

 

「また新しい連中か……まあいい。

 先に、兄上にイゴールのことを尋ねることとしよう」

 

「っ、アラン!」

 

 ネクロムが変身を解除し、パーカーも消滅させる。

 そのままアランの指が印を描き、ガンマホールを生成。

 彼はすぐにその体を眼の紋様の中に吸い込ませていった。

 

 あっさりと撤退を選択したネクロム。

 それを対して拳で地面を叩き、マコトが何とか体を起こす。

 

「……カノン、英雄の眼魂を頼む」

 

「え? お兄ちゃん?」

 

「状況は分からないが、もうのんびりとアランの動きを待っていられる状態じゃなくなった。

 俺は、あちらでやらなければならない事をしてくる」

 

 状況はさっぱりだ。

 新しく出てきた謎の敵。それに従えられる、天空寺龍らしき怪物。

 眼魔とデスガリアンに収まらず、状況は混迷していく。

 

 ―――だが、眼魔の世界で過ごしていたマコトたちには分かっていることがある。

 眼魔の行動は、大帝アドニスの理想を実現するためのものだということ。

 実際に動いているのは、あの世界の軍を統率するアデルであるということ。

 つまりアデルさえ止めれば、眼魔側の動きは一旦は停滞するということだ。

 

 そしていま、眼魔の世界に自分の意思で行けるのはマコトだけ。

 この混迷から眼魔の動きだけでも止められるなら、やるだけの価値はある。

 

 加速していく状況は最早一刻の猶予もない。

 アデルの腹心が動いているということは、眼魔たちの動きはこれから更に苛烈になるはず。

 他の勢力に対しての干渉はできないが、眼魔だけでも動きが止められるなら。

 この世界を守るために、マコトに尽くせる最善はそこにあるはずだ。

 

 立ち上がり、印を切り、アランのようにガンマホールを生成するマコト。

 

「俺は眼魔の世界に行ってくる」

 

「そ、そんな……! 待ってお兄ちゃん!?」

 

「心配するな、俺は必ず帰ってくる。必ずな」

 

 静止するカノンを振り切り、マコトの姿が消えていく。

 開いた眼の紋章の中に、眼魂になって吸い込まれていったのだ。

 

 突然の十年前死んだ父親だという怪物。

 カノンの声に振り向けば、消えていくマコトの姿。

 襲い掛かってくる状況の連続に対し、タケルは堪え切れずに叫んだ。

 

「何なんだ……! 一体、何がどうなってるんだよ――――!?!?」

 

 

 




 
特に相談せずに自分が今必要だと思っていることを強硬するマコト兄ちゃん。
何が何だか分からないままに何か知らないが精神を追い詰められるタケル殿。

眼魔世界行って、ギフト動かして、ワイルドジュウオウキングして、グレイトフルして。
というかクバルのゲーム書けてないし一回やらせてジュウオウワイルドも出しときたい。
書かなきゃいけないことが多すぎるってそれ一番言われてるから。
なんかまあ、なるようになるでしょう(思考放棄)
 

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