Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
赤い空の元に帰還する。
見慣れたその空を見上げて、僅かに目を細める。
何故か頭に過る、向こうの青い空の事。
すぐさま頭を横に振り、馬鹿馬鹿しいとその感覚を追い出す。
そうしてアランは、住処に帰還するために歩み出した。
眼魔の居住区の中心は、大帝の祈りの間だ。
大帝の祈りこそが眼魔にとって最も重要なもの。
大帝アドニスが争いのない世界を望み、その親友イーディスが実現した。
そうしてこの完璧なる世界が生まれたのだ。
帰還して真っ先にアデルの元へ向かおうとするアラン。
だがわざわざ足を向けるまでもなく、アデルは彼を入口で待っていた。
彼の顔を見つけると、すぐさま礼を取る。
「―――ただいま戻りました、兄上」
「ああ、ご苦労」
祈りを欠かさず、実務からは離れた大帝アドニス。
今この世界で大帝自らが何らかの指令を下す、ということはまずない。
大帝は眼魔世界で最も偉大な者としての象徴となっているのだ。
その代行者であり、実質的に眼魔世界の行動を決定するもの。
それがアランの兄である、アデルだった。
「兄上、お聞きしたいことが……」
「イゴールのことか。もちろん分かっている。
だが、大帝がお前が戻ってきたら祈りの間に呼ぶよう仰せになられた」
「父上……大帝陛下が?」
自然と怪訝に思う声が出る。
祈りの間は大帝のみが入室を許された、特別な場所だ。
そこへの不用意な侵入は、アランのみならずアデルさえ許されない。
「私との話は後だ。お前はまず、祈りの間へ向かえ」
アデルの言葉に対して、アランが頭を下げる。
確かにアデルに訊きたいことはあるが、優先するべきは大帝の言葉だ。
何故呼ばれるのか、それは全く分からないが。
とにかく、彼はすぐさま大帝の御座す祈りの間へ足を向けた。
足早に去っていくアランの背を見つめ、眉を上げたアデルに気づかぬまま。
「タケルのお父さんが怪物に……?」
何とか終了した戦闘。そうして帰還した彼ら。
その中でタケルは、真っ先に大天空寺の地下にあるモノリスに向かった。
明らかに変調を起こしている彼を見て、首を傾げるアカリたち。
「うん、アナザーライダーっていう奴らなんだけど」
アナザーライダーであるだけなら、ただ倒せばいい。
サーヴァントであれば、ウォッチと霊基が癒着してしまう。
その結果、撃破がサーヴァントの消滅に繋がる。
が、ジキルはアナザーライダーとして何度か撃破され、ウォッチも抜かれた。
人間であればアナザーウォッチの破壊や摘出が直接死に繋がるわけではない、ということだ。
だからそれそのものだけなら、問題はない。
はず、なのだが。
「……先代は十年前に亡くなっておられます。
今になって、何故そのような……」
現代では死んでいる人間を、十年前の死の間際から連れてきた。
しかもその命を維持できているのは、怪物化しているからだという。
倒して怪物化を解除させれば、待っているのは死。
そしてその怪物を倒すことができるのは―――タケルだけ。
「それじゃまるで、タケルにお父さんを殺させたいみたいじゃん」
ナリタが苛立たしげにテーブルを叩く。
「その怪物を作った奴の狙いって、何か分からないんですか?」
「うーん……」
「アナザーゴーストを成長させ、我が魔王を倒すつもりかもしれないね」
シブヤからの問いに答えたのは、壁に背を預けている黒ウォズだった。
いたの? という視線を向けられて肩を竦める彼。
「天空寺龍はとても強力な力を持ったゴーストハンター。
ゴーストに成り代わらせるには、最適の人材だと言えるだろう。
それが成長しきった暁には、間違いなく最強のアナザーゴーストになる」
「……つまり、タケルには絶対倒せない相手を用意したってこと?」
「そうだね。絶対に倒されない人選をした、とも言えるだろう」
―――それならば一応、目的としては理解できる。
強くするためには時間が必要で、その時間を稼ぐには倒されない必要がある。
だから唯一倒せるタケルに、絶対倒せない相手を選んだ。
そこまで言って、黒ウォズが軽く両手を上げた。
「だが単純に、最強のアナザーゴーストを生み出す契約者を選んだ結果でもあるだろう。
結局のところ、天空寺龍が敵にとって最善の人選だったという事でしかない。
強い人間を選んだら、オマケとして倒しづらい状況でもあったというだけさ」
「そんな言い方……!」
「はいはい、声を荒げない。その手の人間に突っかかっても疲れるだけだよ」
立ち上がろうとしたアカリに、居間に入ってくる人影が声をかける。
立香とマシュ、そしてオルガマリーを伴うダ・ヴィンチちゃんだ。
彼女は入ってくるや、微笑みながら言葉を続ける。
「天空寺に召喚サークルは設置完了。流石はお寺、いい霊脈をお持ちだ。
ただまあ、物資の転送はできないね。けど通信はこれで何とか繋がるだろう」
にこやかに話を続ける彼女を見て、アカリが珍妙な表情を見せる。
帰って来るやタケルが変だったから置いといたが……
彼女の顔には、あまりにも見覚えがある。
そんな人物の登場に対し、アカリはだいぶ気を乱されているようだった。
「…………その、それでこのモナ・リザの人は?」
「ご覧の通り、レオナルド・ダ・ヴィンチさ。
英霊召喚に関する話は立香ちゃんたちから聞いてるかい?
ダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれればいいよ」
アカリからの問いかけ。
それに対し、スカートを摘まみながらくるりと回るダ・ヴィンチちゃん。
そんな様子を見て、目を見合わせるシブヤとナリタ。
モナ・リザってレオナルド・ダ・ヴィンチの自画像なんだっけ、と。
「これはこれは。ではダ・ヴィンチ殿はこういう……」
「ぅえぇええええ――――ッ!?」
御成を突き飛ばすアカリの腕。
椅子ごと転倒する坊主が床を盛大に転がった。
地面に横倒しになった御成が、アカリに対して怒鳴る。
「何をするのですかな!?」
「だってダ・ヴィンチよ!? レオナルド・ダ・ヴィンチ!!
人類史上最高の天才!! っていうかなんで? なんでモナ・リザなの!?」
「今更幽霊の一人や二人が増えたからなんだというのです!
異世界から幽霊や動物人間が来て! 並行世界の女武蔵殿が現れ! 侵略宇宙人が空に居て! 過去から先代が怪物になってきてる今! そんな小さなことで騒ぐ理由がありますかな!?」
バンバンとテーブルを叩く御成の手。
それを横合いから張り飛ばし、アカリがダ・ヴィンチちゃんを指し示す。
「大ありですー! レオナルド・ダ・ヴィンチといえば、万能の天才。
今起きてるこの現象さえ、全て科学で解明できるほどの大天才なんだから!
私たちの味方になるなら、もう全部解決したも同然よ! そうですよね!?」
「おっと。これは初めてのパターンじゃないかい?
天才として、こんな風に話振られたらどうするべきだろうね」
讃えられるのはいい気分だ。
が、これで出来ないと言ったら自分が万能の天才じゃないみたいだ。
そんな状況で困った表情を浮かべて、ダ・ヴィンチちゃんが首を傾げる。
彼女は右腕に装着された万能籠手。
そこに収納されたダ・ヴィンチ眼魂を見て―――小さく息を吐いた。
「―――私は確かに万能の天才だ。ただ、全てを科学で解き明かすからではない。
科学以外のあらゆる分野においても天才だから、万能の天才なのさ」
「ほぅれ見たことですか! アカリくんの勘違い!
ダ・ヴィンチ殿だって科学が全てではない事を認めておられますー!」
「いいえ! つまり既存の科学の中に含まれない物理現象が実在する、ってことよ!
私たちはそれを解き明かすための法則を知らないだけ!
観測して、追求すれば、全てはちゃーんと科学で証明できるのよ!」
「仲いいね、君たち」
二人の言い合いに挟まれているダ・ヴィンチちゃん。
そんな彼女を見つつ、武蔵は息を吐いた。
「それで、どうするのあいつ。
正直、タケルが倒そうと決めただけで倒せる相手でもないと思うわよ」
刃を交わした―――否、それは大嘘だ。
彼女は勝ち負けを競い、刃を交わすという舞台にさえ立てなかった。
「でも、眼魂の力を奪われなければ……」
アナザーゴーストが圧倒的な力を発揮したのは、ムサシを取り込んだからだ。
そうでない状態の戦闘力は分からない。
が、少なくともムサシを取り込んだ時よりは弱くなるだろう。
「んー、でもタケルが倒さなきゃいけないんでしょ?
それってつまり、タケルも眼魂の力を使わず倒さなきゃいけないって事になるでしょ。
使ったら、まあ間違いなく奪われるわよ」
マシュの言葉に言い返す武蔵。
アナザーゴーストはタケルでなければ倒せない。
だが、ゴーストの力を凌駕するアナザーゴーストにタケルが対抗できるか。
そこはまた全く別の話になるのだ。
「あらかじめ変身しておけば、大丈夫だったりは……」
「無理無理。絶対引っ張っられて取られるわよ。
私も
力が全く同質で、完全な格上が相手ってなると本気で踏み込みようがないと思うわ。
同じもの同士の戦いって、多分そういう風になるってこと」
言いながらぐいーと体を伸ばし、困った風な表情を見せる。
タケルでなければ倒せない。そしてタケルが倒すためには眼魂の力は必須。
だが眼魂の力を得たアナザーゴーストは、単体とは比較にならない強さ。
実際にムサシを宿したアナザーゴーストの力は目の当たりにした。
確かに、そもそもどんな攻撃をされたのかすら分からないくらいに強かった。
「うーん……どうする、所長」
「何でわたしに振るのよ……
言っておくけど、わたしはここがどうなってるかすら全く分かってないのよ」
「―――あ、そっか。
後で私たちと所長とダ・ヴィンチちゃんで、大和さんたちのとこに挨拶行かなきゃ」
ぽん、と手を打つ立香。
ジュウオウジャーの皆は先のデスガリアンとの戦いの後、自宅―――
大和の叔父の家に、全員で帰宅している。
まだ人員がいるのか……と、オルガマリーが眉を引き上げた。
先程、御成という人間が並べた現状だけでもう嫌になっているのだが。
「えーっと、所長に説明すると。今やらなきゃいけないことは……」
「いいわ、マシュとツクヨミから聞くから。
あんたたちの説明聞いてたら、突っ込まなきゃいけないことが山ほど出てきそうだもの」
そう言ってしっしっ、と手を振るオルガマリー。
立香とソウゴが目を合わせ、首を傾げた。
どかり、と。モノリスの前に腰を落とす。
そのまま大きく溜め息を吐いた彼は、ぼんやりとその石板を見上げた。
「俺が父さんを、殺す……」
「なんだなんだ、いきなり物騒なこと言い出したなー?」
一つ目お化け、ユルセン。
その小さな幽霊が、タケルの周囲をくるくると回る。
視界の中でふらふらと飛ぶそれを見て、彼は疑問の声を上げた。
「ユルセン、おっちゃんは?」
「さあ? あいつ、最近忙しいみたいだからなー」
忙しい、らしい。
タケルにゴーストの力と、15の眼魂を集めるという目的を与えた仙人。
彼は時折このモノリスの前に出現する。
神出鬼没な存在であり、こちらから接触するような事ができないのだ。
彼に対して訊きたいことがあっても、こちらから尋ねる方法はない。
膝を抱えて座り込みながら、タケルが再び口を開く。
「……なあ、ユルセン。お前、十年前のことって覚えてる?」
「十年前ぇ? さぁなぁ……なーにしてたっけなー?
お前は親父が死んだころだっけ?」
「―――そうなんだけど。俺、言われてみて思い出したんだ。
いや、思い出したっていうか……思い出せないことを、思い出したんだ」
どう説明すればいいのか、と。自分が感じている未知の感覚に悩む。
その部分の言語化があまりにも上手く行かない。
そんなタケルの様子に、ユルセンは呆れた様子をみせた。
「なぁーに言ってんだお前」
「……凄い記憶がボヤけてる、っていうか。
だけど、十年前のことなのに、父さんが死んだのは少し前だったような気もして……」
「アレだな。ストレス性の記憶障害とかだぜ、それ」
処置無し、と。ぴょーい、と跳ねて頭を横に振るユルセン。
そんな態度を前に、タケルも声を荒げる。
「俺は真面目な話をしてるんだよ!」
「じゃあ真面目に話するけど、病院行ったらどうだ? 頭のだぞ」
「病院……ゴーストなのに病院なんて行けるわけないだろ!」
もういいと言わんばかりに両腕を振り回すタケル。
それをひらりと縫うように躱し、ユルセンが姿を消す。
一人残されたタケルが、溜め息を落としつつ座り直した。
「何なんだよ、もう。一体俺は……」
「大変そうだね。ヒントが欲しいかい?」
突然の声。
それに対して跳ねて、一気に立ち上がるタケル。
彼は声の出所に対して振り向くと同時、いきなり胸倉を掴まれた。
胸倉を掴まれ、引き寄せられる。
その腕は常人のものではなく、アーマーを纏った腕。
タケルも先日見たことのあるものであった。
「ッ、あんた……! 眼魂泥棒!」
「そういう認識は嬉しくないな。
僕が狙うのは眼魂だけじゃなくて、僕にとって価値のあるお宝の全てだからね」
シアンとブラック、二色のアーマー。
頭部に無数のプレートが突き刺さった戦士。
仮面ライダーディエンドが、そこにはいた。
ぐい、と。掴まれた胸倉を思い切り引き寄せられるタケル。
自分を掴む腕を掴み返しながら、その顔を睨む。
「一体何のつもりで……!」
「言っただろう? 君のその感覚にヒントを上げに来たのさ。
いわゆる先行投資、という奴だね。僕が狙ったお宝を得るための」
「ヒント……!?」
顔をゼロ距離で突き合わせるほどに引き寄せられて―――
その直後。ディエンドの腕がタケルを放し、放り出した。
「ぐっ……!?」
押し飛ばされて尻餅をついたタケルの前。
ディエンドは腰のホルダーを開き、その中からカードを一枚抜く。
くるりとディエンドライバーを一回転させつつ、滑り込ませるそのカード。
〈カメンライド!〉
トリガーを引くと共に放たれる三つの光。
それが縦横無尽に奔り、周囲を巡ったあと一つに重なる。
実像を結ぶのは、白い戦士。
バイザーを下ろしたヘルメットのような頭部に、はためくマフラー。
肩にはタイヤのような形状のものが張り付いている。
〈マッハ!〉
―――現れたその姿を見て、タケルの意識が飛ぶ。
いや、意識が飛ぶくらいに何故かそれだけのことで驚いた。
知ってなきゃおかしいのに、知らない何かがそこにいると理解する。
「なん、だ……これ……!?」
「さぁね? 上げるのはヒントだけさ」
頭痛を堪えるように頭を抱え、膝を落とすタケル。
現れた仮面ライダーマッハがタケルの肩を掴み、無理矢理に立たせる。
その姿に絶対見覚えがあるのに、何故か一切記憶がない。
思い出せないけれど、とても大事なことなはず。
それこそ、父の死に関係するほどに重要なことなはずなのに。
マッハに抱えられたタケルを見ながら、ディエンドが軽く手を一振りする。
すると彼の背後には波打つ銀幕が出現した。
それはゆっくりと前進を始め、ディエンドを呑み込んでいく。
―――それどころか。ディエンドのみならず、マッハとタケルまで。
「他の連中ならいざ知らず、スウォルツの妨害だ。僕も手を出させてもらう。
今回の僕が狙うお宝は、あの時のリベンジみたいなものだし……邪魔はさせないよ?」
「―――――!?」
何を言っているかさっぱり分からない。
が、自分がここではないどこかに連れていかれるのは理解できる。
マッハの拘束をゴーストとして振り解こうとしても、もう遅い。
―――既に銀幕に取り込まれた彼は悲鳴も上げられぬまま、この世界から消え去った。
「―――タケルくん?」
その数秒後、地下室に降りてくる少女。
深海カノンが、不思議そうに首を傾げながら入室した。
ついさっきまで声が聞こえていたのに、何故かいない。
「タケルくん? タケルくん、いないの?」
もしかしたらゴーストになって消えているかもしれない、と。
きょろきょろと辺りを見回しながら問いかける。
それでも一切返事はなく―――
「どうしよう、眼魔世界に行っちゃったお兄ちゃんのこと……相談しようと思ってたのに」
彼女は困ったように、その場で座り込んだ。
しかしそうして数秒。彼女は首を横に振りながら立ち上がる。
「ううん、タケルくんもおじさんのことでいっぱいいっぱいなんだもの。
私も何か、私にも出来る何かを探さなきゃ……」
気を取り直して、彼女は地下室から上がっていく。
―――その後、誰もいなくなった地下室の中。
モノリスに刻まれた眼の紋様が、微かに光を帯びた。
「マシーデ イーソナ オブナー ウィートン イリーデ イビーエ イーグモ ナリュウム アイヘイム コターナ カームン ウベーガ ウェーディン イグナー マーゾ」
―――祈りの間。
その場で大いなる存在に祈っていた大帝アドニス。
彼が途中で祈りの言葉を止めて、振り返る。
そこにいたのは、自分に頭を垂れる息子―――アランの姿だった。
「アラン、何故祈りの邪魔をした。
祈りの間には私以外、何人たりとも入ることは許してはいない」
「は? い、いえ。申し訳ありません、父上。
兄上が父上から、私に祈りの間まで来るように、という言葉を預かったと……」
「アデルが?」
その言葉に対し、訝しげに表情を顰めるアドニス。
恐縮して頭を更に下げるアラン。
そんな彼の背後から、祈りの間への新たなる闖入者。
軍靴を鳴らして許可なく入室してくるのは、アデルだった。
彼はアランのすぐ後ろで足を止めると、同じように頭を下げる。
「申し訳ありません、父上。どうしても、この三人で内密な話がありまして」
「―――アデル。その必要があるならば、そのための席を設ければいい。
祈りの間をそのような……」
「それは出来ません。なぜなら、これはアランの重大な失態の話だからです」
「な……!?」
突然話を振られ、アランが頭を上げて後ろを振り向く。
アデルは頭を下げたままに、ただ淡々と言葉を続けていた。
「我らの一族がそのような失態を犯したと民にバレれば、大帝の名が穢れましょう。
一切この話を漏洩させないためには、祈りの間を使うしかなかったのです」
「兄上、お待ちください! 私は失態など……!」
「アランは今回、人間世界を我ら眼魔によって完璧な世界にするという計画の実行隊長。
途中、状況が変わりデスガリアンという敵性の排除を役目に変えましたが……
―――既に裏切ったスペクターに執着し、他の業務を疎かにしているのです」
「―――――ッ!?」
弁明をしようとしたアランが、息を呑んで静止する。
メガウルオウダーは、対デスガリアンという名目で彼に与えられたものだ。
だが彼はそれをスペクターに対し、必要以上に運用している。
それを否定しきれずに、歯を食い縛りながら俯くアラン。
「この世界を創りし大帝の一族。それこそが我々です。
あらゆる感情から解放され、完璧なる世界を管理するべきもの。
だというのに、アランは己の感情に支配され己が使命を忘れ果てた。これは―――」
「もういい」
アドニスの声に、不動のままアデルが言葉を止める。
その態度に対して、大帝は微かに目を細めた。
「お前の言いたいことは分かった。
後は私がアランから直接聞き、その上で決めることだ」
「―――は」
「アランを残し、アデルは退室せよ。これ以上祈りの間を騒がすな」
アドニスの言葉に更に深く頭を下げ、素直に踵を返すアデル。
その背中を見送りながら、アランは強く眉を顰めた。
アデルが退室するのを見送ってから、彼は父の前に跪く。
「申し訳ございません、父上。兄上の言う通り、私は……」
「―――友に執着したか。それは何故だ、アラン」
静かな問い。
詰問するような様子もなく、アドニスはアランを見据える。
それに対して頭を垂れながら、何故? と。
返答するために、自身の中で自問を繰り返す。
「それは……スペクターが我らの完璧な世界を否定し、人間の世界で……いや。
なぜ私は……スペクターを一体……どうしようと?」
大帝にこれは叛意ではない、と伝えねばならない。
だが自分自身、自分を動かしていたものの正体が分からない。
焦燥感を覚えながら、彼は思考し続ける。
「…………アラン、人間の世界はどうだった?」
黙り込んだアランに対し、まったく関係ない話題を出すアドニス。
その質問に対して、彼は意図が分からずに困惑した。
「え?」
「お前の友は人間の世界を選んだのだろう?
その友がなぜ、人間の世界にあることを選んだか……人間の世界について考えてみて、分かりはしないか?」
問いかけられ、思い出す。彼が見てきた人間の世界を。
肉体に縛られた、不合理な存在が生きる世界だ。
争いもなく、永遠の平和が約束された静謐なる眼魔の世界とは正反対。
「分かるはずもありません。
我らの完璧なる世界に比べて、あちらの世界は何一つ―――」
「どうした」
そうして言葉にしようとして、一つ引っかかった。
それを理解しただろうアドニス。
彼は、いまアランの心に引っかかったものを口にせよ、という。
このような事を口にするのか、という微かな逡巡。
小さく視線を惑わせたアランは、仕方なく口を開いて続けた。
「―――あちらの世界は……空が青く、美しかったと」
「―――――そうか」
アドニスがその言葉を聞き、踵を返した。
数秒の沈黙。その後に、何かを納得したかのような言葉。
彼はアランから意識を外し、祈りの間の中心に視線を送る。
そこにあるのは、浮遊する15枚のプレート。
「もう行っていい。これ以上訊くべきことはない」
「は? ……はっ」
自分に背を向けた父に、深く頭を下げる。
場合によっては、計画から外されるかもしれない。
事実として失態があった以上、それに何かを言う権利は自分にはない。
後釜はイゴールか……あるいは、ジャイロか。
イゴールならばどうとでもなるだろう。
だがジャイロが選ばれれば、まずスペクターたちの命はない。
そのことに微かに表情を歪め、退室するために父へと背を向ける。
そうした直後、再びアドニスが声を出した。
「―――アラン。迷った時は、自分の心に従え」
「え?」
咄嗟に振り向く。
祈りの間に向かい、背を向けたままの父からの言葉。
眼魔世界とは心を消した、争いもなく、命の失われない完璧なる管理世界。
その大望を成就させた大帝のものとは思えぬ言葉にアランは驚愕し―――
―――それを。アデルは祈りの間に忍ばせた盗聴用の眼魂で聞いていた。
彼は祈りの間のすぐ外で、その会話を聞いていた。
いや、この言葉を聞いて確信を得るために、アランを祈りの間に入れさせたのだ。
アデルが何かを諦めるように目を瞑り、そうしてから再び目を見開く。
〈ウルティマ!〉
アドニスとアラン、二人が同時に祈りの間の入口に視線を向ける。
今の起動音は特別な者にしか与えられない眼魂のもの。
それを所有しているうちの一人は、
「アデルか!? 何をするつもりだ!」
侵入してくるのは、全身白い鎧で身を包んだもの。
眼魔ウルティマへと変貌した、アデルに違いなかった。
「残念です、父上。あなたの理想を、あなたは裏切った。
我らの完璧なる世界に、心などというもので揺れる指導者は害悪だ」
「お待ちください、兄上! まさか……!」
ウルティマが腕を上げる。
アランの体は、父の言葉、そして兄の凶行に頭がついていかない。
咄嗟にメガウルオウダーを取り出そうとするも、まるで間に合わない。
―――光が奔る。
放たれた黒い光線がアラン、そしてアドニスの胸を食い破った。
「アデル……!」
砕け散る二人の五体。
そしてその中から吐き出される、二人の眼魂。
二つの眼魂は地面に落ちて転がり、粉々に砕け散った。
アランが持っていたメガウルオウダーと英雄眼魂が地面に転がる。
それに見向きもせず、アデルは祈りの間を一度出た。
外で待っているのは、彼の腹心であるイゴール。
彼はウルティマを解除すると、その男に声をかける。
「父上とアランの眼魂は破壊した。二人の体を捕え、拘束せよ」
「お任せ下さい―――大帝アデル様。
もし、反抗された場合はいかがいたしましょう?」
「父上は丁重にもてなせ。
―――アランは、抵抗するようなら……」
その後を言葉にする必要はなかった。
イゴールは恭しく頭を一度下げて、すぐに行動を始める。
彼は腕に装着された試作型メガウルオウダーに眼魂を装填した。
瞬間。その体は青い怪物体、眼魔スペリオルへと変貌。
青いボディの上に更に纏うのは、赤い仮面とシルクハットと一体化した衣装。
両腕に巨大な刃物を装備したナイフ眼魔のものだ。
眼魔スペリオル・ナイフと化したイゴールは、悠然と歩みを開始した。
「ここは、一体……?」
いつの間にか白い戦士も眼魂泥棒もいなくなり。
タケルは一人、見たこともない空間に投げ出されていた。
赤い空、誰かが住んでいるとも思えない廃墟。
「……とにかく、ここがどこなのか調べないと」
考え込んでいても仕方ない。
とにかく動いてみて、考え込むのはその後でも遅くない、はず。
タケルは近くにある廃墟に歩み寄り、そして足を止めた。
目に映るのは黒い体の人型。
それらが幽鬼のようにゆらめきながら、廃墟を巡っていたのだ。
その存在には、よく見覚えがある。
「眼魔……!? ってことはまさか、ここって……!」
眼魔世界―――
人間の世界を侵略する異世界に、彼はいつの間にか侵入していた。
遂に真骨彫が届いた今回のお宝は昔のリベンジマン。
実際は狙ってるお宝と昔の負けは何の関係もない。
ドラグランザーとウィザードラゴンくらい関係ない