Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

156 / 245
敗走!白い眼魔!2005

 

 

 

 空気が抜ける音。

 機能を停止したカプセルが、自動で開いていく。

 その中に収められているのは生身の肉体。

 

 アランが、数十年―――あるいは百数十年ぶりに。

 生の肉体を動かして、ゆっくりとその場で起き上がった。

 

「一体、兄上は何を……!」

 

 眼魔は常に眼魂で活動する。

 肉体は常時カプセルに入れられ、完璧な状態に保存されているのだ。

 眼魂が幾ら破壊されても、新たな眼魂で活動体は再生できる。

 こうして死せず、争わず、心を持たず、永遠の時を生きるのが眼魔の民。

 そのはずだったというのに。

 

 再びカプセルを起動して、眼魂さえあれば元に戻る。

 多少ふらつくが、彼は何とか立ち上がって―――

 

 隣で開く、父の入ったカプセルを見た。

 

「父上……!」

 

「―――アラン、か」

 

 アドニスもまたふらつきながら、体を起こす。

 その背中に手を貸しつつ、何とか立ち上がらせる。

 

「大丈夫ですか、父上……! くっ、なぜ兄上はこんなことを……!」

 

「―――アデル……」

 

 何かを察しているかのように、アドニスの声は重い。

 父のそんな様子に、問いかけようとしたアランが、しかし。

 

「それはアデル様の言い分なのではないでしょうか?

 元、大帝陛下。そしてアラン様」

 

 肉体の安置場、大帝一族のカプセルルーム。

 そこにあっさりと踏み込んでくるのは、スペリオル・ナイフ。

 その声に聞き覚えのあるアランが、相手を睨みながら父を背に庇う。

 

「イゴールか……!」

 

「はい。お二方とも、心などという不純物に感化されたご様子。

 他ならぬあなた方が完璧なる世界の調和を乱すこと……

 その事実にアデル様は大層心を痛めていらっしゃいます。

 ですので、お二方ともにその考えを変えられるまで、幽閉させていただこうかと」

 

 スペリオル・ナイフが両腕のナイフを擦り合わせる。

 不快に響く金属の摩擦音。

 それを聞きながらアランは懐に腕を入れようとして―――

 

 生身の自分がメガウルオウダーを持っているはずがない、と舌打ちした。

 

「ご安心ください。抵抗されなければ、傷付けはいたしません。

 アデル様の寛大な処置に感謝されるがいい」

 

「……如何に兄上とはいえ、大帝を襲うなど許されるはずがない!

 世界の調和を乱し暴走しているのは、兄上の方ではないのか!?」

 

「スペクターに拘り、使命も果たせない愚かものがよく言う。

 そしてそんな出来の悪い息子の方を重用し、この世界の調和に貢献しているアデル様を蔑ろにしている大帝……まったく度し難い」

 

 軽く鼻を鳴らしたイゴール。

 彼が腕のナイフを擦り合わせながら、歩みを開始する。

 

 相手の腕は巨大な二振りの凶器。

 そして、アランもアドニスも生身だ。

 もしその刃を受ければ、簡単に死に至ることになるだろう。

 どうするべきか、と思考を回すアラン。

 

 ―――そんな彼の背後から、アドニスがスペリオルに向けて駆け出していた。

 

「父上!?」

 

「む?」

 

 一気に走り寄り、スペリオル・ナイフに組み付くアドニス。

 両腕が凶器のイゴールは、あっさりと大帝を殺しかねないため手を出さなかった。

 彼がアデルから受けた使命は、大帝の確保だ。

 アランを殺すことは許されているが、アドニスを殺す許可は出ていない。

 

「人間の世界に逃げろ、アラン! 友の許へ行くのだ!!」

 

「なにを……何を言っているのです、父上!?」

 

「まったくです。何を言うかと思えば、この世界の大帝とは思えぬ戯言を」

 

 生身の人間、アドニス。

 それはナイフ関係なしに、スペリオルの能力で殴打しただけで死にかねない。

 イゴールは武装を間違えた、と思いつつ軽く体に力を入れる。

 振り解こうとする動きに逆らい、アドニスは必死にしがみついて離れない。

 

 ―――どう動くべきか、と。

 生身の人間を壊さないために、面倒な計算を開始するイゴール。

 

「―――アラン! お前は、お前の心に従え……!」

 

「―――――!」

 

 ―――父の言葉を聞き、走り出す。

 

 父に抱き着かれ、振り解けないスペリオルの横を通り抜け。

 イゴールがアドニスを強引に振り解かないのは、殺してはいけないから。

 まず間違いなくそうだろうと判断した彼は、ここから一度離脱することを選ぶ。

 

 人間の世界に逃げるなんてことは考えない。当たり前だ。

 まずはイーディス長官の研究室に向かう。

 大帝アドニスの親友であり、この世界を創った天才だ。

 彼ならば間違いなく、アドニスを救うために動いてくれるはず。

 

「イーディス長官は間違いなくこちら側のはず……!

 姉上もきっとそうだ……! どう動けばいい……!?」

 

 アデルの行動はクーデターそのもの。

 一体どうすればいいのか、誰が仲間なのかも分からない。

 それでも何かをしなければいけない、と。

 アランは目的地に向け走り出した。

 

 

 

 

「マコト?」

 

「お久しぶりです、アリア様」

 

 眼魔世界に潜入したマコトは、警戒網を潜り抜けてみせた。

 そうして辿り着いたのは、女性がひとり佇む部屋。

 

 ―――アリア。

 彼とカノンがこの世界に飛ばされてからの十年間。

 ずっと面倒を見てくれていた、二人の恩人だ。

 

 彼女は久しぶりに見た顔に、表情を綻ばせる。

 

「久しぶりですね、元気にしていましたか? カノンは……」

 

「カノンはあちらの世界に置いてきました。

 体を取り戻し、生き返れたんです」

 

 その言葉に驚いた様子を見せるアリア。

 だがすぐに表情を驚きから喜びに変えて、微笑みかける。

 

「良かった、あなたたちがどうなるかと心配していたのです。

 アランはあなたたちのことを、全然教えてくれませんでしたから。

 顔を合わせられないのが残念ですが……」

 

 そう言って、彼女は少しだけ視線を伏せる。

 

「……アリア様。あなただけでも」

 

 人間の世界に来てくれないか、そう続けようとして。

 しかしゆっくりと首を横に振る彼女を見て、口を噤んだ。

 

「我らの一族には、この世界を創り出した責任があります。

 例えどうなろうとも、私がこの世界を離れることはありません。

 ……そんなことよりもマコト。あなたはもしや―――」

 

 アリアの様子に、それがマコトの目的を問うものだと理解する。

 彼は一切、彼女から目を逸らすことなく断言した。

 

「あちらの世界への攻めは、アデルの指揮によるもの。

 今、これ以上の侵略を許すわけにはいかない。

 時間稼ぎにしかならなくとも、ここで一度アデルの動きを止める。

 俺はそのために、ここまでやってきました」

 

 マコトの言葉は、彼女の弟であるアデルを害そうというものだった。

 

 確かにアリアは、眼魔の中でも感性は人間に近いままだ。

 アデルの行動に思うところはある。

 マコトとカノンが助かったことは純粋に喜んでいる。

 だが眼魔世界に仇なすようなことはする気はない。

 本来ならば彼女がマコトを止めなければならない状況。

 

 そんな状況でもアリアは一つ息を吐いて―――

 

「―――そうですか。私は……」

 

 そこでハッとして、マコトの方を見上げた。

 彼も気づいたように、すぐさま足音を殺し動き出す。

 自分の体を部屋の隅に押し込むマコト。

 

 その直後に扉が開き、眼魔コマンドと呼ばれる兵隊を従える者。

 眼魔スペリオルの一人が、アリアの前に立った。

 

「アリア様、失礼します」

 

「何事ですか、騒々しい」

 

「申し訳ございません。それほど火急の要件でして……

 ―――アラン様が謀叛を起こしたのです。

 大帝陛下を殺害後、彼は自らの肉体を持ち出して逃亡しました」

 

 数秒、頭の中にまったく入ってこない内容。

 隠れているマコトの呆然とした様子も感じ取れる。

 

 問い返す言葉の内容すら思いつかない。

 そんな状況のまま、ただただ彼女は問い返した。

 

「――――なんですって?」

 

「現在、アデル様の指揮の下にアラン様の追撃が始まっています。

 この場に逃げ込んでくる可能性がありますので、我らが護衛に」

 

 そこまで口にされ、アリアはすぐさま立ち上がった。

 怪訝そうな様子を見せる眼魔スペリオルたち。

 

 このままここに居座られては、マコトが動けない。

 

「いえ、私もアデルの元へと状況の確認へ行きます。

 そこまでの護衛をあなたたちに任せます。ついてきなさい」

 

「了解しました」

 

 指令に納得したのか頭を垂れる眼魔たち。

 先導するスペリオル、その背中に続くアリア。

 更にアリアの背後を固めるように、後ろについていくコマンドたち。

 

 退室した彼女たちが離れるのを待ち、マコトがゆっくりと立ち上がる。

 

「なんだ……一体、眼魔の世界で何が起き始めた……?」

 

 ―――とにかく、アリアから貰ったタイミングだ。

 ここで呆然としている時間もなく、彼は走り出す。

 アデルの事、アランの事、そしてもう一つの懸案事項。

 それらのことを思い描きながら、マコトは気を引き締め直してその部屋を飛び出した。

 

 

 

 

「ここが眼魔の世界なら、この世界のどこかに今マコト兄ちゃんが……?」

 

 眼魔の兵隊に見つからないように身を隠しつつ、動き出す。

 ここには、先にこの世界に来ただろうマコトがいるはずだ。

 どうやれば帰れるかも分からない状況。

 眼魂泥棒を探す、という行動指針もありかもしれないが……

 

 タケルはまず、マコトを探すことに決めた。

 

 一切の生活感を感じない、風化している建造物。

 この辺りに何かがあるような感じはしないが―――

 眼魔の兵士がいるということは、まったく何もないわけではないはずだ。

 きっと何かがあるのだろう。

 

「……? 何かを探してる、のかな」

 

 眼魔の兵士たちの動きは、まるで何かを探しているかのようだ。

 もしかしたら自分や眼魂泥棒がここに来てるのがバレているのか。

 そう考えて、出来るだけ息を顰めて身を縮める。

 

「っていうか、なーんでおまえがここにいるかなぁ」

 

「――――ッ!?」

 

 耳元で囁かれる言葉。

 すぐさま振り向くと、そこにはユルセンがふわふわと浮いていた。

 

「ユルセン……!? なんでここに……!」

 

「それ、完全にこっちのセリフなんだよなー。

 ったく、どうすんだよおまえー。帰る方法あんのかぁ?」

 

「……ないけど。とりあえずマコト兄ちゃんを探す」

 

「ま、それしかないだろうけどさぁ。

 多分マコトじゃお前が帰れるほどのゲート開けられないぞ。

 もちろん、おれさまでも開けないけどなー」

 

 言うだけ言って、ユルセンが動き出す。

 眉を顰めたタケルは、その後ろに着いていく。

 周囲の眼魔に見つからないように、慎重な行進。

 

 道選びに一切迷いのないユルセンを見て、タケルが表情を硬くした。

 

「なあユルセン。何で眼魔の世界の道を知ってるんだよ」

 

「そりゃ何度も来てるからに決まってるだろ」

 

 入り組んだ道を越え、何度か広間を通り。

 次の広間には、無数のカプセルが並んでいるのを見る。

 カプセルと言っても、まるで棺桶のようだ。

 

 ―――周囲に眼魔らしきものはいない。

 気になって、そのカプセルの中を覗いてみるタケル。

 中にいたのは、眠った人間だった。

 二つ三つ覗いても、中にいるのは全部人間。

 

「このカプセルの中の人たち……まさか!」

 

「ざーんねん、こいつらは眼魔の連中の体だよ。こいつらはこのカプセルの中でずーっと眠ってるだけ。一部の連中……お前の知ってるアランみたいなのは、同じように体をカプセルの中に置いといて、眼魂で活動したりしてるけどな」

 

 もしや、人間世界から連れ去った人々か。

 そう声を上げようとしたタケルに、講釈をくれるユルセン。

 確かにアランやジャベルと言った、人間と変わらない眼魔はいた。

 だがそれでも体は眼魂が本体で、眼魔とはそういうものだと思っていた。

 

 なのにここを見れば、眼魔は人間と変わらない体を持っているという。

 

「ここにいるのが……眼魔? 人間と何も変わらないのに……

 眼魔の眼魂は、眼魔世界の人間が動かしてるってこと……?」

 

 その中の一つ、男性が寝ているカプセル。

 ―――それを眺めていたタケルの前で。

 ビー、ビー、と。カプセルが何かブザー音を発生させ始めた。

 

「え、なに? なんの音?」

 

「あ、やっべ」

 

 ユルセンが口を滑らせた、と。両手らしき部分で口を塞ぐ。

 直後、タケルたちが見ていたカプセルの中。

 心地良さそうに眠っていた男性の体が、突然灰になって崩れ落ちた。

 

「…………え?」

 

「あー……」

 

 ―――数秒前まで、幸せそうに眠っていた人間。

 それが一瞬のうちに、ただの積もった灰に変わったのだ。

 誰に何をされたわけでもない。

 ただ眠っていただけの彼は、何故か消え去ってしまった。

 

 呆然としながら、彼の入っていたカプセルに触れる。

 

 すると頭の中に流れ込んでくる、誰かの夢。

 何もない。何もない、ただ幸福なだけの日常がタケルの頭を過っていった。

 永遠に継続するただの幸福が頭の中で明滅して―――

 何もなかったように、全てが消えていく。

 

 意識が戻る。

 分からない、今の光景が何だったのか。

 ただまるで―――今消えた人が見ていた、夢の残滓に触れたようで。

 

「―――なんだよ、これ。

 おいユルセン! なんなんだよ、これは!」

 

 そんな体験に頭の中が沸騰し、タケルは状況を忘れて叫んだ。

 ここが敵地であることも、何もかもが抜け落ちた。

 

「なんでおれに訊くんだよー」

 

「お前いまやばいって言っただろ!? 知ってるんだろ、何とか言えよ!!」

 

 ひらひらと舞い逃げようとするユルセンを捕まえる。

 抵抗するのも面倒だと思ったのか。

 ユルセンは意外なほどあっさりと白状を始めた。

 

「あー、もー……分かったよ、分かった分かった。

 そいつ、生命力が無くなって死んだんだよ。

 眼魔の連中はみんなこうやってカプセルに入って肉体を維持してる。

 ただちょーっとずつ生命力は無くなっていくんだ。

 そんで、そうなると当然の話だけど皆いずれは死ぬってわけ」

 

「そんな……それで、死んだ人間はこのままにして!?」

 

 生きていればいずれ死ぬ、と。

 ユルセンはこれを、ただそれだけのことだという。

 だがカプセルの中で眠り、いつの間にか灰になる。

 それを生きているなどと呼べるものなのか。

 

「だから死なないように工夫してるんだろ?

 カプセルが肉体の維持のために消費してんのは、ほんの少しの生命力だけだ。

 それを消費させなきゃ、誰も死なないからな」

 

「消費させない……? どういう意味だよ、それ」

 

「消費させないっていうか別の奴に肩代わりさせるんだよ、生命力を。

 ま、つまり人間世界から奪ってきた魂を消費してるってことなんだけど」

 

 何でもないように、そんなことを言い出すユルセン。

 その意味を呑み込むまで、タケルが一瞬呆けた。

 

「まさか……眼魔の目的って!?」

 

「そ。このシステムを維持するために、人間の魂を集める事。

 おまえの親父も、そのために人間世界に来てた眼魔を退治してたのさ」

 

 ―――意識が飛ぶ。

 眼魔の目的。その実際の内容が出てきたのもそうだが。

 それ以上に、ユルセンから父親の話が出てきたことに。

 

「……ッ、何なんだよ、この感覚……!」

 

「侵入者発見、直ちに排除します」

 

 ハッとして声の方向を見る。

 青い戦士、眼魔スペリオル。それに付き従う黒い兵隊、眼魔コマンド。

 タケルが声を上げたせいで、敵に完全に発見されていた。

 

 即座にゴーストドライバーを出現させ、懐から眼魂を取り出す。

 すぐさま体が覚えている変身動作を成し遂げて―――

 

 そもそも。今自分が持っているのが、眼魂ですらないと気付いた。

 

「なんだこれ……!?」

 

 マゼンタカラーの横に長い何か。

 誰かの顔がそこには描いてあり、その頭の上にはスイッチがある。

 こんなものを持っていた覚えはない。

 

 ―――と、眼魂泥棒に思い切り胸倉を掴まれたことを思い出す。

 誰かに入れられたとしたら、その時しかないだろう。

 もしかして代わりに眼魂を盗まれたか、と懐に手を突っ込む。

 

 オレと闘魂、そして8個の英雄眼魂。

 それらが盗まれてはいないことを確認。

 じゃあこれは一体何なんだ、と。余計に分からなくなった。

 

「ユルセ……! いない……!」

 

 タケルが意識を逸らしている間に、ユルセンは離脱していた。

 あるいはそもそも、自分が離脱するためにタケルを囮にしたのか。

 

「排除開始」

 

 スペリオルが腕を振るう。

 眼魔コマンドたちがそれに応じ、タケルに向け走り出す。

 

「ッ、変身!」

 

〈闘魂カイガン! ブースト!〉

 

 改めて眼魂を取り出し、ゴーストへと変身。

 燃える炎の如き体へと変貌し、タケルは戦闘を開始した。

 

 無数の並ぶカプセルの一つの後ろに隠れるお化け。

 こっそりと忍びつつ、ユルセンはその一つ目の頭をゆらゆらと揺らす。

 

「悪く思うなよタケル、悪いのは全部無茶させるあのおっさんだからなー。

 はぁ……んじゃ、アランの落とし物を拾いに行きますか。

 ったく、なんでおれさまにこんなことやらせるかなぁ。自分で行けよなー、自分でさー」

 

 そんな愚痴を吐きつつ、ユルセンは祈りの間を目指し動き出す。

 戦闘の騒動が広まり、どんどん集まってくる眼魔たち。

 周囲で警戒していた眼魔たちは全部ここに集まるだろう。

 おかげで、潜入もとても楽になった。

 

 

 

 

「……侵入者か、随分と都合のいいタイミングだ」

 

 報告に来たスペリオルの言葉を聞いて、アデルが息を吐く。

 どうやら民のカプセルルームで戦闘が始まったらしい。

 状況から見れば、アランを逃がすための協力者か何かに見える。

 

「誰かが仕組んだとでも? あなたの行動さえも」

 

 このタイミングでクーデターを起こしたのはアデルだ。

 重なって何かが起きたというなら、原因はアデルと考えるのが自然。

 そう口にするアリアに対し、アデルは小さく鼻を鳴らした。

 

「都合がいいのはアランにとってですよ、姉上。

 恐らくは人間世界から協力者をこちらの世界に導いたのでしょう。

 その上で大帝を殺め、この混乱に乗じて逃げ出す……計画的な犯行だ」

 

 だが彼は、クーデターはアランのものだと断言する。

 どれほど嫌疑をかけたところで、それを突き崩す証拠はない。

 

「大帝を殺めたのが本当にアランだったなら、そうかもしれませんね」

 

 アリアのそんな態度に対し、アデルは小さく肩を竦めた。

 仮にそこに確信があったところで意味はない。

 眼魔世界の実権は、最初からアデルのものなのだから。

 大帝以外に彼に意見できるものは、この世界に存在しない。

 

 ―――大帝の一族。

 アドニス、アリア、アデル、アラン。

 本来はその四人が集まる際に用いられる、質素な空間。

 今そこに座っているのは、アリアとアデルの二人だけ。

 

 アデルはこれ以上動く様子はない。

 マコトはアデルを目的としてこの世界に来たが―――

 今回、彼に接触するのは不可能だろう。

 

 正直に言えばアリアは、それを狙ってアデルと共にいる。

 彼女が部屋を出たのはマコトを隠すためでもある。

 が、同時にアデルと同じ場所で彼女が待機する事をマコトに知らせるためだ。

 マコトは彼女に大きな恩義を感じてくれている。アデルとの戦いにアリアを巻き込む可能性がある限り、ここには積極的に攻めてくることはないはずだ。

 

 この状況を見て、きっと彼は一度撤退を選んでくれるはず。

 ―――友であるアランを連れて。

 

 彼女がアランを守るためにいま出来る事。

 それはこうしてマコトを利用する事だけだった。

 

「姉上はアランが犯人ではないと?」

 

 俯いていた顔、その唇を僅かに自嘲に歪める。

 そのまま彼女は、アデルの問いかけに答えを返した。

 

「―――見ていない私にその判断は下せません。

 ですが、いずれ真実は分かるでしょう」

 

「確かに。アランを捕えれば分かる話だ」

 

 そう言って黙り込むアデル。

 彼から目を逸らして、アリアは目を瞑る。

 弟のために無事を願って捧げる祈り。

 今この場でできることは、ただそれだけしかなかった。

 

 

 

 

〈カイガン! ゴエモン!〉

〈歌舞伎ウキウキ! 乱れ咲き!〉

 

 黄色いパーカーゴースト、ゴエモン。

 それを身に纏った、赤いゴーストが空を翔ける。

 逆手に持ったサングラスラッシャーの閃き。

 その攻撃が次々と眼魔を切り伏せていく。

 

 だがここは敵の本拠地なのだ。

 余りにも敵が多すぎて、対応しきれない。

 

「数が多い……! どんどん増えてく!」

 

 すれ違い様に眼魔コマンドを二体処理。

 その隙に迫るスペリオルの脚を払い、転がしてから切り裂く。

 

 ゴエモン魂の身軽な動きで、極力被弾を減らして体力は温存している。

 だがこの有様ではすぐに限界を迎えることになるだろう。

 一気に薙ぎ払いたくとも、この数の差では大技を使うのも難しい。

 

 戦闘の中で、戦場はいつの間にか障害物のない大広間へ。

 射線を切るものも存在しない状況。

 そこでは、囲まれているゴーストが攻撃を凌ぐ方法がない。

 

「ぐっ……!」

 

 眼魔コマンドに群がられ、その隙に眼魔スペリオルたちが光線を放つ。

 部下ごと薙ぎ払う、火線の集中砲火。

 それに呑み込まれて、ゴーストが吹き飛ばされて地面に転がった。

 

「アラン様の居所を吐かせる。拘束するぞ」

 

「了解」

 

「――――っ、く……!」

 

 にじり寄ってくる眼魔スペリオルの軍団。

 それに対して、ふらつきながら身を起こそうとするゴースト。

 体を起こし切ることなく拘束されるだろう状況。

 そんな状態の最中――――

 

「ハァ――――ッ!!」

 

〈ダイカイガン! スペクター! オメガドライブ!!〉

 

「なに―――っ!?」

 

 青い光を纏うスペクターの蹴撃が、スペリオルに激突した。

 一体目の胴体に蹴りを直撃させ、更にそいつを吹き飛ばしてもう一体巻き込む。

 纏めて二体、スペリオルの青いボディが爆発して粉々に消し飛んだ。

 

 突然の乱入に対し、残っているスペリオルたちが困惑する。

 

「スペクター……! こいつもアラン様の協力者か!」

 

「マコト兄ちゃん……!?」

 

「タケル、何故こちらの世界に……!

 どうやってこちらにきた!?」

 

「ご、ごめん……ちょっとよく分かんない!」

 

 マコトが目指したのは、アランがいそうな場所。

 つまり眼魔たちが騒ぎを起こしている中心。

 だがそこにいたのは捕えられようとしているアランではなかった。

 

 タケルがこの場にいるのもおかしい。

 が、悠長に考え込んでいられる状況ではない。

 タケルがここにいる以上、アランの確保がなおさら必須となった。

 

 マコトの開くガンマホールでは、眼魂サイズの物体以外通過できない。

 つまり眼魂化できる自分以外、人間世界へと移動できないのだ。

 だがアランの開くガンマホールであれば別。

 肉体を取り戻したアランも、眼魂になれないタケルも通れるはず。

 

 ここにいない、まだ見つかっていない。

 そう考えた場合、アランが他のどこにいるか。

 どこを目指して動いているか。

 

「―――長官の研究室……!

 タケル! こいつらを一気に吹き飛ばすぞ!!」

 

「―――分かった!」

 

 ゴーストがスペクターに眼魂を投げる。

 同時に自分が眼魂を入替、ドライバーから新たなパーカーを召喚。

 白と灰色のパーカーゴーストが飛び出し、眼魔たちの中へ突っ込んでいく。

 それに陣形が乱された眼魔コマンドたち。

 

 その隙にスペクターもまた眼魂を変える。

 黄色い眼魂を入れられ、トリガーを引かれたゴーストドライバー

 そこから舞い上がるのは、黄色と銀のパーカー。

 

〈カイガン! ベートーベン!〉

〈曲名! 運命! ジャジャジャジャーン!〉

 

〈カイガン! エジソン!〉

〈エレキ! ヒラメキ! 発明王!〉

 

 エジソン魂を憑依させたスペクターが、ガンガンハンドを取り出す。

 銃形態のそれから放たれる雷撃。

 それが周囲に広がった無数の眼魔たちの足を止めさせ、焼いていく。

 

 彼の後ろでゴーストが纏うのは、ベートーベンパーカー。

 闘魂ベートーベン魂はその場で腕を振り上げ、指揮を開始した。

 拡大していく音の領域。そこに飛び交う無数の音符。

 

 雷光、音波。

 その二つが周囲の敵を全て射程距離に収める。

 

〈ダイカイガン! ベートーベン! オメガドライブ!!〉

〈ダイカイガン! オメガスパーク!!〉

 

 ゴーストの腕がドライバーのトリガーを引く。

 そうしてから、中空で弧を描いてより強く音を奏でる指先。

 

 スペクターがドライバーにガンガンハンドを連動させる。

 銃口に収束していく稲光の渦。

 

 音の波動が物体を破壊するほどの衝撃を見舞い。

 砕かれたものを雷撃の嵐が纏めて消し飛ばす。

 二人の必殺攻撃が放たれた瞬間、周囲の眼魔たちは全て破壊された。

 

 敵が一応片付いたことを確かめ、銃を下ろすスペクター。

 そこにゴーストが駆け寄ってくる。

 

「マコト兄ちゃん!」

 

「タケル、何故お前が眼魔の世界に……いや。

 とにかく今は、向こうの世界に戻る事だけを考えよう。

 俺に考えがある、ついてきてくれ」

 

 変身を解除しながら、そう言って歩き出すマコト。

 その腕を、同じく変身を解いたタケルの腕が掴んだ。

 それに驚いたようにマコトが振り返る。

 

「待ってよマコト兄ちゃん!

 マコト兄ちゃんの体もこの世界にあるんじゃないの!?

 あのカプセルの中に!」

 

「……見たのか。ああ、そうだ。俺の肉体はこの世界にある。

 大丈夫だ、いずれ取り戻す。だが、今は状況が悪い。

 眼魔世界に何か、大きな動きが起こっている。

 一度退いて、それから考えなおせばいいさ」

 

「それじゃあ遅いんだ! 俺見たんだ……!

 あのカプセルの中で人が……!」

 

 時間はない、と。

 すぐにも動き出そうとするマコトを必死に止めるタケル。

 ついさっきの光景だ。何の前触れもなく、人が一人死んだ。

 

 ユルセンが言っていた。

 眼魔世界ではカプセルで肉体を保存し、眼魂で活動するのだと。

 マコトが眼魂であるならば、同じように彼は体を保存してるはず。

 つまり―――今この瞬間、その命が尽きてもおかしくないのだ。

 

 まずマコトの肉体を取り戻す。

 そうしなければ、マコトが死ぬかもしれない。

 だからこそ何としてでも彼はマコトを止めようとして、

 

「―――アラン坊ちゃまが起こした騒ぎではなかったか」

 

「―――――!?」

 

 思い切りマコトに引っ張られる。

 体勢を崩したタケルを背に庇いつつ、身構えるマコト。

 何とか立て直して振り向けば、そこには軍服の男がいた。

 

 バンダナを巻いたその男は、周囲をゆっくりと見回す。

 このタイミングでここにいるならば、先程の戦いは見たはずだ。

 眼魔の軍団を一息に撃破したタケルとマコトの戦い。

 それを見た上で、何の脅威とも思っていないのだ。

 

「眼魔……!」

 

「まずは目の前の敵を排除しましょう」

 

〈ウルティマ!〉

 

 眼魂を起動し、体を怪人に変貌させる男。

 スペリオルよりも研ぎ澄まされた白い鎧が顕現する。

 明らかに簡単に行く相手ではない。

 勝敗以前に時間を浪費すれば、それだけでこちらは致命的だ。

 

 それを理解して、マコトは撤退を選択しようとした。

 

「―――退くぞ、タケル。タケル……?」

 

 反応を示さないタケルに対し、マコトが困惑して振り返る。

 そこにいたのは、目を見開いて呆然としている彼の姿。

 彼は完全に自失して、その場に立ち尽くしていた。

 

 その様子に、対峙しているウルティマさえも僅かに困惑する。

 

「タケル、どうしたタケル!?」

 

「……まあいい。

 何もしないならば、ただ排除するだけ―――ッ!?」

 

 動き出そうとする白い鎧。

 その足元に無数の青い弾丸が着弾し、火花を散らした。

 新手による攻撃と判断し、すぐさま気を入れなおすウルティマ。

 

「何者だ!」

 

「―――生憎だが今回僕は裏方気分なんでね。名乗る気はないよ」

 

 声の直後、光弾が雨のように降り注ぐ。

 姿をこの場に見せず、弾丸のみを送り込む何者か。

 ウルティマが腕を振るえばその攻撃は容易に散らされる。

 

 ―――が、その弾幕が止まることはない。

 

「っ、タケル! 退くぞ、タケル!!」

 

 それが自分たちへの援護である、と理解する。

 例え違ったとしても、これに乗じて逃げるより他にない。

 何故いきなりタケルがこうなったのかも分からない。

 とにかく彼は呆然自失のタケルを引きずり、全力で走り出した。

 

 目指す先は、恐らくこの状況でアランが目指すだろう場所。

 イーディス長官の研究室だ。

 

 全力で走るマコトと、それに引っ張られるタケル。

 彼らは一気にその道を通り抜けていく。

 眼魔の本拠地でありながら、その道中で敵に会うような事はなかった。

 まるでその道が故意に開けられているかのように。

 

「長官が手を回してくれているのか……?」

 

 タケルの様子を伺いながら、僅かにスピードを落とす。

 だが止まる余裕があるわけもなく、彼らの疾走は続く。

 

 ―――やがて辿り着くのは、そう大きくない部屋だった。

 何に使うかも分からないようなものが、そこかしこに置かれた部屋。

 

 マコトたちがそこに入室すると同時、部屋の奥で誰かが身構えた。

 それはよく見覚えのある顔、アランの姿に相違なかった。

 

「アラン!」

 

「ッ、スペクター……!?」

 

 マコトの顔を見てアランが驚き、力を抜く。

 未だに違和感の付き纏う生身の肉体。

 その意識と実態の差に舌打ちしつつ、彼はマコトを睨み付けた。

 

「……何故、貴様がここにいる」

 

「―――元々はアデルを止めに来た。だが、状況が変わった。

 お前こそ、何故こんなことになっているんだ」

 

「ッ、私が知るものか……! 兄上は何故こんな……!」

 

 苛立ち、壁を殴るアラン。

 返ってくる衝撃で拳が痛み、彼は盛大に表情を歪めた。

 肉体があるから、こんな大したことのないものでさえ痛みを感じる。

 

 そんなアランの様子を見てから、隣で俯いているタケルを見るマコト。

 原因はまるで分からないが、覇気の欠け落ちたその姿。

 それを見て、現状での戦闘は完全に無理だと判断する。

 

 明確すぎるほどに不調な彼らから視線を外し、周囲の状況の確認に当たる。

 

「……長官はいないようだな。現状、最悪の事態と言ってもいいだろう。

 今はまだここにきていないが、バンダナの男がお前を探していた。

 奴からは凄まじい強さを感じる」

 

「バンダナ……ジャイロか。奴もやはり兄上に従っているか。

 拘束されれば、逃げる事は二度とできまい」

 

「アラン。このまま眼魔の世界にいても何の解決にもならない。

 一度人間の世界に退くべきだ」

 

「―――はっ、退く? あちらは私が攻め落とすべき世界だ。

 敵地に逃げ込んでどうする。スペクター、今更私の仲間面するのはよせ」

 

 皮肉げに笑うアラン。

 そんな彼に対して、マコトは大股で距離を詰めていく。

 その勢いのまま彼の胸倉を掴み上げ、壁に寄りかかっていた彼を引き寄せる。

 

「お前はさっき兄上が何故、と言ったな。この一件、アデルがやったんだろう?

 父親を殺され、こうして追放され、お前はそのままでいいのか!?

 このままではアリア様も危険なはずだ!

 どうにかするために、何かをしなくちゃいけないんじゃないのか!?」

 

 至近距離まで引き寄せられ、浴びせられる声。

 その言葉に対して、アランは酷く表情を歪めて歯を食い縛る。

 

 同時に、その言葉を聞いていたタケルが顔を僅かに上げた。

 

 確かに捕らえたからには、アデルはアドニスは早々に殺すことはないはず。

 助けるためには、自分がここから一度生還しなければならない。

 ここには既に眼魔世界において最強格の戦士、ジャイロも送り込まれているという。

 時間はない。手もない。ならば、人間の世界にでも逃げるしかない。

 

 だが、と。

 自分を掴むマコトの腕を掴み、苦渋の声を漏らすアラン。

 

「無理だ……私は生身の肉体。私が開けるガンマホールでは、あちらへは行けない。

 ネクロムになれればともかく、今の私では……」

 

「おっとっとー、こんなところにメガウルオウダーがー」

 

 そんな場にそぐわない気の抜けた声。

 それとともに、アランに向かってメガウルオウダーと眼魂が投げつけられた。

 ガチャガチャと音を立てて床に落ちるアランの持っていたもの。

 

 呆然としながら投げた相手を見て、そしてより呆然とするアラン。

 そこには、ユルセンが胸を張るように自慢げに浮いていた。

 

「何だ、この気持ちの悪い生き物は……」

 

「なんだとおまえー! 返せ、おれさまが必死に拾ってきてやったそれ返せ!!」

 

 ハッとして落ちたメガウルオウダーと眼魂を拾うアラン。

 ネクロムとグリム、サンゾウ。

 祈りの間で落としたものが、全て揃っていた。

 

「……すまない、礼を言う」

 

「へっ! このユルセンさまに感謝するんだな!」

 

 メガウルオウダーを装着して、数秒俯くアラン。

 彼はゆっくりと顔を上げ、マコトと視線を突き合わせる。

 互いに頷き合い、次いでマコトはタケルの方へと顔を向けた。

 

「タケル、一度向こうに戻る。変身しろ」

 

「…………うん」

 

〈カイガン! スペクター!〉

〈テンガン! ネクロム!〉

〈カイガン! オレ!〉

 

 三人が体をトランジェント体に変え、パーカーゴーストを身に纏う。

 ネクロムが一瞬だけ部屋の出口に目を向けて、印を切る。

 そうして展開される、人間界へと通じるガンマホール。

 

 彼らを眺めていたユルセンが何か忘れてるような、と首を傾げた。

 三人が飛び込む寸前まで部屋を見回して―――思い出す。

 

 部屋の中心にある台座に置かれた、通常より巨大な眼魂状の物体。

 そもそもここにタケルがきてるのがまず想定外。

 だがこのタイミングならいける、というかアデルが動いた以上は今じゃなきゃ不味い。

 

 ようやく思い出したユルセン。

 ガンマホールに飛び込もうとしているタケルの背中に、全力で叫びかけた。

 

「あ! でっかい眼魂! おいタケル、馬鹿待ておまえ!

 あれ! あのでっかい眼魂! おれさまが超欲しいからついでに持って帰れ!!

 っていうか、おまえもっと周りに興味持てよこのやろー!」

 

 この部屋に入った時タケルの方から興味を持ってればこんなことせずに済んだ。

 そんな恨み節も交え、ユルセンはひたすらに叫ぶのだった。

 

 

 




 
ミスター平成ライダージャイロ。
そろそろ天空の王者・草加の出番がくるはず。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。