Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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想起!十年前の記憶!2005

 

 

 

「父さん! 死なないで! 父さん!!」

 

 ―――洞窟の中にいる。

 冷たい石の地面に横たわった父からは、どんどん熱が引いていく。

 握らされた武蔵の刀の鍔からは、もう父の温かさは抜けきっていた。

 

 何かしなきゃいけない。

 ついさっきまで二人、ここに誰かがいた気がするけれど。

 もうここには、死にかけの父と自分しか残っていない。

 

「誰かぁ! 誰か助けてよ! 父さんが死んじゃうよ!!」

 

 父に縋り付き、声の限りに叫ぶ。

 

 自分には何の力もない。

 死にかけの父を治療することも、治療できるどこかへ運ぶことも。

 何一つできない。

 

 ―――叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。

 誰かに届いて、誰が拾って、そう思いながら叫ぶしか―――

 

『馬鹿野郎! ―――お前は、いつもそうやって人に頼むのか?』

 

 父を揺すっていた腕が止まる。

 一体誰に言われた言葉だったか、何故か思い出せない。

 ついさっきまで一緒にいた、誰かに言われた言葉のはずなのに。

 

『自分で何もやろうとしないで―――いつも誰かを頼るのか』

 

 大切なものを守ることを、父に任せきりにしようとした彼。

 それを叱り、改めさせようとした誰か。

 誰に言われたかも覚えていない言葉が、何故かこんなにも自分の中から溢れてくる。

 

『だったら! どうして自分で助けようとしないんだ!』

 

 涙で潤んだ瞳が見るのは、既に意識を失った父の姿。

 いつ息が止まるとも知れない、誰より大切な自分の憧れ。

 

『泣くな! 男だったら、自分を信じて立て! ―――タケル!!』

 

 ―――涙を拭う。頭を振って、立ち上がる。

 タケルに父を救うことができなくても、父を救うために戦うことはできる。

 誰かをここに呼んでくることも、まだ間に合うかもしれない。

 最後まで諦めず、自分を信じて、できることだけでも――――!

 

 父を置いて、走り出す。

 どこへ行けばいいかも分からない。

 けど、とにかく街へ出て誰でもいいから声をかけるんだ。

 大切な父を助けるために、ひたすらに足掻き続ける。

 

 走る、走る、走る、走る走る走る――――

 

 息を切らし、嘔吐しそうなほどに苦しみながら。

 それでも洞窟の抜けた森の途中で、彼は奇跡を見た。

 

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 叫ぶこともできない、擦り切れた喉。

 タケルは全力を尽くして、見つけた人間に向け走り込んだ。

 

 助けて、助かる、きっと助かる、父さんは助かる。

 

 そう信じながら彼は、見つけた大人の足に倒れ込むようにしがみついた。

 黒いズボンに掴みかかり、掠れた声を限界まで張り上げる。

 

「助けて……! お願い、父さんを、助けて……!!」

 

 そう時間だって経っていない。

 ここでこの大人の人が助けてくれれば、きっと。

 そう信じて、自分を信じて動いたから掴めた奇跡に―――

 

「―――何だこいつは。何故、人間の子供に私の姿が見える」

 

 苛立たしげな声。

 それが聞こえた直後、タケルを痛みを通り越した熱と浮遊感が襲った。

 

 蹴られたのだ、という事実をタケルが知ることはなかった。

 浮き上がるほどの力で蹴られ、地面に落ちてからも転がる小さな体。

 

 奇跡は、奇跡じゃなかった。

 体の熱よりその事実に打ちのめされたタケルが、薄くなる意識の中で見上げる。

 

〈ウルティマ!〉

 

 目の前に現れる白い化け物。

 地面を転がるタケルに向けて手を向ける怪物。

 その手の中に暗い光が灯り―――

 

 タケルは、その瞬間に意識を失った。

 

 

 

 

「うわぁああああああ―――――ッ!?!?!?」

 

 跳ね起きる。

 息荒く数秒、周囲の状況を見失って辺りを見回す。

 そこから時間をかけて、ここが自室で、今がいつなのかを思い出した。

 

 ―――眼魔の世界で見た、白い眼魔。

 自分はきっと、あれを一度見ている。

 

 落ち着かない呼吸のまま、タケルは膝を抱えて座り込んだ。

 覚えてる。覚えてるのに覚えてない。覚えてないのに覚えてる。

 前後の流れはあやふやなのに、それでもあの場面は確かにあったと覚えていた。

 

「なななななな、何事ですかなタケル殿!?」

 

 部屋がすぐ近くの御成が寝間着のまま飛んでくる。

 それに続けて、他の皆も。

 整えきれてない呼吸のまま、引き攣った表情のまま。

 しかし彼は、すぐに何でもないと首を振る。

 

「ごめん……すっごい悪い夢見ちゃって……」

 

「夢、ですかな?」

 

 それどころじゃない絶叫だったが―――

 そういう夢を見たのだ、と言われるとまあどうしようもない。

 

 もう日は昇ってきている。

 少し早いが、活動を初めてもいい頃合いだろう。

 曖昧に笑いながら、タケルは立ち上がって動き出した。

 

「ごめんごめん! 俺、ちょっと顔洗ってくるよ!」

 

「はぁ……」

 

 寝間着の皆の横をすり抜け、洗面所に向かっていくタケル。

 その背中を見送りながら、武蔵はふぅむと首を傾げ―――

 ふと、タケルの部屋に置かれている眼魂に目を止めた。

 

「……やはり、お父さんの件でとてもショックを受けているのではないでしょうか。

 通信が安定次第、Dr.ロマンにメンタルケアを依頼してみるのはどうでしょう。

 状況の解決方法としては、その、思いつきませんが……」

 

 彼の背中が見えなくなった後、マシュが呟くように言う。

 

 いつの間にか眼魔の世界に行っていたタケル。

 アランを連れ、彼と一緒に帰還したマコトの話はまだ少ししか聞けていない。

 だが、タケルは眼魔世界でも絶不調だったようだ。

 戦闘を行えるメンタルを保てないならば、アナザーゴーストとは戦えない。

 

「カルデアってとこには、お医者さんもいるんですか?」

 

「……まあ、一応はね」

 

 シブヤからロマニの事を訊かれ、微妙な表情をするオルガマリー。

 医療部門はあったが、残っているのはロマニだけ。

 一人で一部門を回し切れるはずもなく、だ。

 ダ・ヴィンチちゃんがいるのでどうにかなってはいるが。

 

「まあこちらからいきなり言及するのは止めておいた方がいい。

 何せ昨日の今日の出来事だから。

 様子を見つつ、ある程度自分だけで心の整理をつけさせてあげないとね」

 

 そう言いながら、ダ・ヴィンチちゃんが手を叩く。

 

「今日はあのアランっていう眼魔から話を聞くんだろう?

 その前に色々と済ませておこう。皆はまず着替えからだね」

 

 小さく笑って、ダ・ヴィンチちゃんがその場を離れていく。

 恐らく彼女が足を向ける先は、地下のモノリスだろう。

 言う通りなのでとりあえず、皆揃って自室へと戻っていった。

 

 ―――ひとりだけ、武蔵のみをその場に残し。

 

「……何か言いたげ? その状態で喋れるのかしら」

 

 彼女が見据えるのは赤い眼魂、ムサシのものだ。

 武蔵の言葉に対しふわり、とそれが宙に浮く。

 

 ―――次の瞬間に。

 ムサシパーカーを纏った黒い人型がそこに立っていた。

 

 納得する。

 アナザーゴーストに纏われていなくても、これはそういうものだ。

 自分の到達点―――いや、結論とでも言うべきだろうか。

 

「宮本武蔵よ、どこを目指す」

 

「あら、なに? 私の心配? それともタケルの心配?

 というか、聞かずとも他ならぬあなたに分からないとも思えないけど」

 

 黒い顔。その表面に唯一あるのは、赤い目だ。

 それに見据えられて、武蔵は肩を竦めた。

 既に空位に達し、零に至った者に対し、今からそこを目指すなどと。

 いちいちそんな口を叩きたい、とはまったく思わない。

 

 溜め息混じりの返答。

 それに対して、ムサシは微かに頭を揺らして窓から外を見る。

 

「では、辿り着いた先に何を斬る」

 

「新免武蔵の口から出る質問とも思えないけど……だって私、何かを斬りたいという信念で刃を研いできたわけじゃないもの。

 何を斬れるかは目安でしかなくて、刃の鋭さだけを求めたからの私でしょう?」

 

 だって斬りたいものを持ったら、切っ先が不純になる。

 斬りたいものにしか最大の鋭さを発揮できないなんて、剣として失敗だ。

 だから斬れるか斬れないかに拘ることはあっても、斬ることに執着はしない。

 そんなだから、宮本武蔵は人としては下衆なのだ。

 

 それを反省することはないし、恥じることもない。

 新免武蔵守藤原玄信はそれに全てを懸ける。

 空位の座に至るため、彼女はそうやって生きていく。

 

「―――そうか、そうだろうな。

 宮本武蔵はやがて、その境地へ達した時に天命を終える」

 

 パーカーのムサシは微かに首を横に振る。

 一体何を想っているのか。武蔵なれどムサシではない彼女には分からない。

 

「…………んーと。

 それは真面目にやれば死ぬ前には行けるから頑張れ、って応援?」

 

 腕を組んで遠い目をし、空を見上げるムサシ。

 そんな浸っている彼に対して、何となく言葉を返す。

 

「違うわ、莫迦者。

 無二を越え、唯一を削ぎ落とし、零へと切り込みしその刃。

 だが、その零は無を意味しない」

 

 何故か呆れられて、やれやれと言った風に首を横に振られる。

 

「うっわ、同じ武蔵に馬鹿って言われた。

 私が馬鹿ならあんたも馬鹿ですー」

 

「莫迦に莫迦と言って何が悪い。そしてこっちは莫迦じゃない」

 

 武蔵を指差しながらそう言い放つムサシ。

 彼女がその手を叩き落として、そのままパーカー男を押し飛ばす。

 押し返されたムサシがいきり立ち、逆に武蔵を押し飛ばした。

 

「なんという奴だ……! 貴様、それでも武蔵か!」

 

「あんたこそ武蔵としてどうかと思うわ!

 あのタケルの父親の怪物が出てきた時も、簡単に乗っ取られてるし!

 どんだけいいようにされてんのよ! それでも空位かっての!」

 

 そう言われたムサシが言葉を詰まらせ、動きを止める。

 ついでとばかりに、武蔵は他の眼魂たちを指差した。

 

「あの時ダ・ヴィンチに邪魔されるまでもなく、どいつもこいつも戦うの止めてたでしょ!

 タケルはともかく、マコトの方に憑いてた奴だって!」

 

 ―――その声に対して、微かに揺れる英雄眼魂たち。

 だがムサシだけはゆっくりと天井を仰ぎ、自嘲気味に息を吐いた。

 そんな彼の様子に、目を細める武蔵。

 

「……?」

 

「……確かに、それには言い返せまい。だが、これだけはお前に言っておこう。

 既に天命を終えた我が刃が、ここでこうして少しでも誰かの助けになるように。

 空位に至り、零を得ること。それは、そこでの終着を意味しない」

 

 宮本武蔵の天命がそこであった、というだけだ。

 到達した境地に辿り着いたから終わったわけではない。

 天空寺龍の呼びかけに応え、ここにいるムサシ。

 彼の意思は、彼の手にした境地は、誰かによって誰かのために使われる。

 

「―――――」

 

「そこは宮本武蔵の終わりであっても、誰かのための始まりに成り得るのだ。

 ……己が望んだ一つを残し、全ての可能性を断つ我らが零の境地。

 それは想い一つで、無限の可能性を秘めた若人を守るための無限になる」

 

 己が歩む剣の道の彼方にあるのは、“零の境地”。

 その技量、その心情、その偉業。それは全て、何にでも成り得るという。

 零であれ、無限であれ、至った者の意思一つ。

 

「剣の道には果てあれど、剣士の道に果ては無し。

 己が辿る道を突き詰めた先、お前が辿り着くべき境地。

 その先に拡がっていて欲しい景色の一つくらい、思い描くがいい。

 努々、忘れるなよ宮本武蔵」

 

「先達としての心得? ありがたいけど迷惑です。

 私にとっての道は、例え先に行く私からであっても―――」

 

 ―――剣閃が奔る。

 いや、気付いた時には既にその剣閃は終えていた。

 今、自分の目の前を過ぎ去っていったものに、喉を引き攣らせて息を呑む。

 それを描いたのが宮本武蔵であるということに疑いはなく。

 

 何を斬るでもなく振るわれた刃が、彼女の心を引き寄せた。

 彼女が求めている極みではない。

 だがそれが絶技であることに疑いようなどなく。

 

 むしろ自分が目指す対極に一歩引き返したかのような。

 そんな矛盾した刃の煌めきに、何故か惹かれた。

 アナザーゴーストの時に見た剣閃に比べれば、雑ですらあるだろう。

 だがそこには、ムサシの全霊があった。魂を賭した願いがあった。

 何故そんな心境に至ったのかは定かではないが。

 

「…………ッ!」

 

 どんな顔でそれを視ればいいのか、と表情を歪める武蔵。

 一閃描いたムサシはそのまま剣を下ろし、武蔵を見つめる。

 

「―――我が剣を見せるのは、お前のためなどではなく。

 ただ、ひとつ。頼みたいのだ、武蔵守よ。

 未だ零に至らず、唯一を決めず、無二に絞れぬその剣で

 この身が残したあり得ぬ宿業を。友との約束を、その剣で果たさせてほしい」

 

 ふ、と。

 言いたいだけ言って、ムサシの姿は消えた。

 いつの間にかそれは眼魂に戻り、床に転がっている。

 

 彼女は渦巻く感情を押し殺し、それを床から摘まみ上げた。

 そのまま他の眼魂が並んでいるところに投げつける。

 

「―――言ってくれる……!」

 

 そのまま部屋の外に出ようとした彼女。

 そこで何か一つ思いついたように足を止めた。

 だがしかし、首を横に振りながら渋い顔のまま部屋を出ていった。

 

 

 

 

「よっしゃ行けぇー! そこだ、そこ! うぉおおおお!!」

 

「レオうるさい! 音が聞こえないでしょ!?」

 

 テレビを見て大声で叫ぶレオ。

 その後ろで同じように見ているセラは、近距離からの大音量に顔を顰める。

 しかし今、音が聞こえないのは困るので塞げない。

 

 二人揃ってテレビの前を占領。

 そんな仲間の姿を見てタスクは知らん顔。勿論アムも。

 

「……ごめんなさい。うち、テレビなくて」

 

 なので、そんな二人を見ながらとりあえず大和が謝罪する。

 どうやら二人揃って、格闘技の番組を見ている様子。

 人間の世界の文明の産物を、よほど気に入ってくれたようだ。

 

 まあ状況の共有さえできればいいのだ。

 全員でなくても、参加してくれれば問題ない。

 

「―――で、説明は君がしてくれるのかい?」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが目を向けるのはマコト。

 眼魔の状況を説明できるだろうアランは、ここに同席しなかった。

 事前に彼から話を聞いたマコトからの説明になる。

 

「ああ。眼魔の現状は、俺から説明する。

 何か気になることがあれば、途中でも訊いてくれていい」

 

 そう言って眼魔の現状。

 アランの置かれた状況を説明するマコト。

 彼が認識している眼魔側の人物も、粗方説明してしまう。

 

 そもそもの眼魔の成り立ち、その思想。

 争いの根絶を願う大帝に意思によって創られた不死の世界。

 それこそが眼魔世界なのだと。

 

「争いのない、死なない世界……」

 

「……思想自体は獅子王のそれと通じる所もあります。

 その世界を生きる眼魔ではないわたしたちに、その実態を否定する権利はありません。

 けれど、やはりその生き方は―――」

 

 生物のものからは、かけ離れているのではないか。

 少なくとも自分ではそう感じ、マシュは口を噤んだ。

 

「まあ、そうね。眼魔という異世界の人間がそうやって継続してること。

 それ自体に思うところはあれど、何か言うべきところはない。

 ただ相手がその思想を、こちらの世界にまで強制する侵略者だっていうなら話は別」

 

 獅子王やメガヘクス。多少の差異はあれど、純粋に己だけの思想によって世界の在り方を強制しようとしたもの。眼魔のやり方は、それと同質のものだろう。

 わたしはそう思うけど、と。周囲を見回すオルガマリー。

 少なくとも眼魔側に賛同するような意見は、そこにはなかった。

 

「じゃあやっぱ眼魔……えーっと、アデル? だっけ。その眼魔のトップを止めなきゃいけなくなるんだよな? で、そいつを倒してから、マコトの言うアリアっていう人に眼魔を止めてもらえばいいんじゃないか。その人も眼魔の世界で偉いんだろ?」

 

 頭の中に入ってきた状況を整理しつつ、口にするナリタ。

 現状で最大の問題は、アデルという人物一人に集約されているように思う。

 

「けどどうやって? アデルって人は眼魔のトップなんでしょう?

 だったら前に出てくることなんて、ほとんどないと思う」

 

「それはこう……皆で一気に攻め込んで~とか」

 

 ツクヨミの問いに対し、答えが出ずに適当な言葉を返すしかない。

 自分で言っておきながら、ナリタは駄目だこりゃ、とテーブルに突っ伏した。

 

「デスガリアンやギンガもいるもんね。戦力をどこかに集中させるのは、他のどこかを片付けてからじゃないと無理かな」

 

 状況を整理するため、何となくノートを取っていた立香。

 彼女が混沌としている相関図の外に、別勢力を書き足した。

 

 警戒が必要、という意味で特にコンティニューするデスガリアンは顕著だろう。

 巨大な戦力が必要とされる以上、ジュウオウジャーは動けない。

 仮面ライダーとサーヴァントだけで、眼魔に攻め込むのも不可能ではないが……

 

「……眼魔は眼魂がある限り不死の軍団。

 既に警戒されている今、本拠地に攻め込むというのは無理がある」

 

「聞いた限りでは、その人が入ってるカプセルごと壊せばその限りではないんだろう?」

 

 眼魔世界への侵攻。

 その消極的なマコトの言葉に対する、タスクの言葉。

 言った途端、彼は足をアムに蹴り飛ばされた。

 

「そういうのはなし!」

 

「僕だってやる気はない。だが、意見として出さない方が不健全だ」

 

 蹴られた足は微動だにせず、タスクは小さく目を細める。

 小さく頷き、その上でマコトは彼の意見を否定した。

 

「……そうだな。そうなれば、一応は眼魔への対抗手段になる。

 だがそうなると今度は、アランの協力が得られない。

 今、俺以外が眼魔世界に渡るには、アランにゲートを開いてもらう必要がある。

 アランを眼魔の民を害する戦いに協力させるのは不可能だ」

 

「そもそも行けなくちゃ話にならない、か」

 

「そのアランさんは、どうするつもりなのでしょうか」

 

 ペンでノートを叩きつつ、首を傾げる立香。

 彼女の様子を横目にしながら、マシュがマコトへ問う。

 

「大帝……あいつの父親を何とか助け出す、と言っている。

 俺たちの協力は必要ない、とも」

 

「そうはいかないから、わざわざこっちに逃げてきたんでしょ?

 簡単にそんなこと出来るわけないじゃない。っていうかあいつ、今どこに行ってるのよ」

 

 マコトの代弁に対して、呆れるようにテーブルを軽く叩くアカリ。

 

「……カノンに任せてある。

 あいつはこっちに来てから……肉体に戻ってから何も食べてない。

 そろそろ限界だろうから、多分カノンならフミ婆のところに連れていくだろう」

 

 こちらに戻ってから、他の飲食店に行ったこともない。

 それにカノンがあの店を好いている以上、他の選択肢を取ろうともしないだろう。

 

「念の為に武蔵殿に同行して頂きましたので、カノン殿も安全でしょう」

 

「たぶん武蔵はたこ焼きが目当てなんじゃ―――」

 

 何となくそう口を開くソウゴ。

 そんな彼に対して、立香が口の前で指を一本立てる。

 分かってるからいちいち言わなくていい、というジェスチャーだ。

 

「……俺はアランに協力したい」

 

 ―――そこで、今まで黙っていたタケルが口を開いた。

 皆が一斉にタケルに向かって振り返る。

 

「……ちょっと待って、タケル。あんた、今あいつに協力したいって言った?

 あいつは眼魔よ。今もこの世界に攻め込んできてる、私たちの―――」

 

「でも、アランのお父さんは生きてる。まだ助けられるんだ」

 

 彼に反論しようとするアカリ。

 彼女の言葉を遮って、静かな声でタケルはそう言い切った。

 その言葉に、アカリも黙り込むしかない。

 タケルがこれから戦わなければならない敵は、もう救えないのだから。

 

「―――ほら! 大和さんも言ってたでしょ。この星の生き物はどこかで繋がってる、助け合って生きてるって! 眼魔の世界とこの世界は違う世界だけど、繋がったってことは助け合って生きることができるってことだと思うんだ!」

 

「え? あ……うん。そう、かも、しれない……けど」

 

 話を振られ、しどろもどろになりながら大和は返す。

 様子の変わったこの場を見回して、困った顔を浮かべるタケル。

 彼は急に立ち上がって動き出す。

 

「俺、協力したいってアランに伝えてくるよ。

 分かってもらえるかは分からないけど、とりあえずそういう意思はあるって」

 

 返答も聞かず、外へと向かっていく彼。

 それを何と言って引き留めればいいのかも分からない。

 ただただそうして見送るしかなくて―――

 

「じゃあ俺も一緒に行ってくる。こっちお願いね、所長」

 

「――――ええ」

 

 一人だけその後ろに、ソウゴが着いて行った。

 

 ―――誰の吐いたものか、長い溜め息。

 完全に停止した話し合いの場。

 そこに、テレビを見るために離脱していたレオとセラが戻ってくる。

 

「いいんじゃね? 考えるより前にとにかく動く、って感じでさ」

 

「お前はもっと考えて動いた方がいい。テレビなんか見てる場合か」

 

「セラもねー」

 

 タスクとアムに言われて身を縮めるセラ。

 が、しかし。アムにまで言われる筋合いはないと眉を上げる。

 そしてまるで堪えていなそうなレオが、指でテレビを指差した。

 

「やっぱあれ、おもしれえな! あれジューランドにも持って帰りてえ!」

 

「あれだけ持って帰っても意味ないだろ」

 

 ジューランドではテレビ番組なんて放送されていない。

 人間世界のものが受信できる、というようなこともないだろう。

 

「そうそう! あのバトルが終わった後の何か変な奴でよ、さっきタケルも言ってた大和の話みたいなことも言ってたぜ!」

 

 呆れた様子を見せられても、まるで意にも介さない。

 そんなレオにますます呆れて、タスクは肩を大きく竦めてみせた。

 

「俺みたいなことって?」

 

「皆が繋がってめっちゃすげえことなる! みたいな? な!」

 

 同意を求めてセラを見るレオ。

 まるで要領を得ない彼の物言いに、セラが溜め息混じりに補足した。

 

「何だかインターネット? とかやってる会社が今までより凄いことをやる、みたいな発表をするニュースがあったのよ。ディープ……なんとか、って会社?」

 

「ああ……インターネットの話ね……」

 

 自分が言ってるのはインターネットとかは全然関係ないんだが、と苦笑する大和。

 そうしている間にレオがシブヤとナリタの背中に迫り、肩に手を回した。

 

「知ってるか? インターネット。めっちゃ繋がるらしいぞ?」

 

「そりゃまあ……」

 

「やってみますか?」

 

 不可思議現象研究所としての活動はノートPCでの作業が主だ。

 当然、ネット環境がないはずもない。

 シブヤがPCを持ってくるために立ち上がり、ナリタはレオにばんばん肩を叩かれる。

 

「あんのか!? ここやべえな! めっちゃ繋がってる!」

 

「いてえって!」

 

「ははは、わりーわりー!」

 

 じゃれ合う彼らを見ながらふと、立香がダ・ヴィンチちゃんを見る。

 

「そういえばダ・ヴィンチちゃん。

 私たちこっちのお金とかまるでないんだけど、どうにかする方法ないかな。

 眼魔もデスガリアンも多分、長期戦になりそうだし」

 

「うーん、私が私の絵の贋作を転がしてみるとか? なんて、それは冗談だけど。

 ……そういえばさっき話に出たけれど、屋台のたこ焼き屋があるんだってね。

 屋台、屋台ねえ。身分の偽造は必要……いや、そうでもないかな?」

 

 そんな風に言いながら、悪い顔をしてオルガマリーに視線を送る。

 顔を向けられた彼女はとても嫌そうに眉をひくつかせる。

 

「…………それは、まさか私に身分証代わりになれとでも言ってるの?」

 

 ―――つまりは暗示だ。

 身分証を確認しようとする相手を片っ端から暗示にかければバレない。

 オルガマリーが一緒にいればそう出来るだろう?

 ダ・ヴィンチちゃんは完全にそう言っていた。

 

「所長が店長に……?」

 

「何となく役職が下になった感じがしますね……」

 

 勝手なイメージながら、所長から店長は何か規模が落ちた感じだ。

 そんな事を言ったマシュがオルガマリーに睨まれる。

 

「でも売るものはどうするの? そもそも元手すらないのに」

 

「たこ焼き屋さんの隣に置くなら飲み物でも売ればいいんじゃないかい?

 ついでに売れるでしょ」

 

 ツクヨミからの真っ当な質問。

 対してダ・ヴィンチちゃんは、あっけらかんとそんな適当に言い放つ。

 

「フミさんのお店を全力で利用する選択です……

 合理的ですが、流石にどうかと思わざるを得ません……」

 

「打倒、自動販売機だね」

 

 公園にはちゃんと自販機もあったのを覚えている。

 もちろん、公園の近くにはコンビニだってあるのだ。

 下手をすれば眼魔やデスガリアン以上の強敵と言ってもいいだろう。

 

「ははは、実際にいいものを提供すればそんな罪悪感は帳消しさ。

 資格や認可はオルガマリーが踏み倒すとして、屋台や商品は任せたまえ。

 ダ・ヴィンチちゃん印の素晴らしいものを提供してあげよう。

 ところで、屋台の飛行機能にはどのくらいの速度が欲しい?」

 

 それを凌駕するために眼鏡を取り出し、かけて見せるダ・ヴィンチちゃん。

 ドリンクショップ・カルデア、商品開発部レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 彼女は何故か、自信ありげに胸を張った。

 

「それ面白そう! ねえねえ、私も参加していい?」

 

 話に入ってくるアム。

 一応訊いてはいるが、既に参加を確定させているような勢いだ。

 尻尾を振りながらそんな様子を見せる彼女に、セラが溜め息を一つ。

 

「王者の資格を探すのはどうするのよ……」

 

「分かってないなぁ、セラは。そうやって街の人との交流を深めれば、それっぽいのを見かけたって話をいち早く手に入れられちゃうんだから」

 

「またそれっぽいことを……」

 

 眉間に手を当てて目を瞑るセラ。

 

「けど歩くだけじゃなくて、情報を集めるための拠点があるのはいいと思う。

 ただ、アムは参加するにしてもちゃんと担当の家事をしてからね」

 

「それに、そこで皆様の生活費が稼げるなら一石二鳥ですな」

 

 飲食店でありながら、許可や何やらを踏み倒す前提がそもそもあれだが。

 実際問題としてそれを取れる立場がない。

 大天空寺や大和ならば不可能ではないかもしれないが、後々の問題にもなる。

 

 状況的にも致し方なし、と。

 細心の注意を払って行動することで、そこには目を瞑る。

 

「じゃあ私は屋台と商品作ろうかな。悪いけど地下室で作業させてもらうよ。

 三日、いや二日で完璧に準備を整えてあげよう」

 

 そう言って退室していくダ・ヴィンチちゃん。

 その背中を眺めつつ、御成はちらりと横を見た。

 物憂げに何か考え込んでいるアカリ。そんな彼女を肘で突っつく。

 

「アカリ殿、折角の機会ですぞ。

 ダ・ヴィンチ殿を手伝ったりしなくていいのですかな?」

 

「え? ああ、ええ……そうね。うん、手伝うわ」

 

 ぼんやりとしたまま立ち上がり、地下へと向かうアカリ。

 彼女を見送ってから、マコトもまた立ち上がる。

 

「……俺はタケルとアランの様子を見てこよう」

 

「じゃあ私たちは王者の資格と眼魂を……あれ?

 もしかして、もう眼魂は揃ってる?」

 

 タケルが持っているムサシ、エジソン、ロビン、ニュートン、ビリー、ベートーベン、ベンケイ、ゴエモン、リョウマ。

 マコトが持っているヒミコ、ツタンカーメン、ノブナガ、フーディーニ。

 アランが持っているグリム、サンゾウ。

 

 指折り数える立香。ノートに書き込む名前はこれで15個。

 全ての英雄眼魂がちゃんと揃っている。

 

「そういえば、そうですね。でしたら、タケルさんはもう生き返ることが……?」

 

 そんなマシュの言葉を聞いて、御成が僅かに視線を揺らす。

 タケルを生き返らせる事ができるということは、もしかしたら。

 選択肢として、今死にかけている者を生き返らせることが出来るかもしれない。

 そう考えて、しかし首を横に振る。

 

「そうですな。タケル殿が戻ってきたら、その話もしなくては」

 

 僅かに頭を揺らし、オルガマリーに視線を送るマシュ。

 彼女は努めてその視線を無視しつつ、軽く息を吐いた。

 

「……とにかく、その辺りは天空寺タケルの復帰待ちね」

 

 そんな風に言って視線を上げるオルガマリー。

 彼女の姿を、マシュの頭の上でフォウがじいと見つめていた。

 

 

 

 

「タケルさ。やりたくないことはやらなくていいんじゃない?」

 

 恐らくアランとカノンはフミ婆のたこ焼きにいるだろう。

 ならば、と。そこを目指して歩く道中。

 ソウゴは真っ先にそんな言葉を切り出した。

 

「……やりたくないこと、って?」

 

「お父さんと戦うこととか」

 

 自分を見上げるソウゴを見返して、タケルは大きく息を吐いた。

 考えないようにしている、という自覚はある。今朝の夢見のこともある。

 あんまり話したいことではないけれど。

 

「でも、俺がやらなくちゃいけないことだから」

 

 それでも、そうだという自覚は持っていた。

 

「そうかもしれないけどさ。

 でもタケルがどうしてもやりたくないなら、俺がどうにかするよ」

 

 だけどソウゴはそう言って真摯な目でタケルを見上げる。

 けして茶化しているわけではない。

 そんなことは分かっているが、どうしても声は乱暴になってしまう。

 

「どうにかって……ソウゴに何が出来るのさ」

 

「もちろん、王様として民を守ること。

 タケルだって俺の民なんだから、どうにかして欲しいならどうにかする」

 

 具体的な内容が出てくるわけではない。

 それでも確固たる意志の元、彼はそう断言した。

 理由のないその言葉に、吐き捨てるように言い返すタケル。

 

「全然どうにかできる理由になってないじゃん」

 

「でも、それが俺のやりたいことだから。

 そのためだったら、俺は何だってやってみせるって決めてる」

 

 タケルが目を背けたいなら、代わりにそこに立ち向かう。

 どうにかする方法は思いつかないが、何とかやってみせる。

 だって、自分はそういう王様でありたいから。

 そう断言したソウゴ。彼から目を逸らして、タケルは空を見た。

 

 ―――大きな夢。ソウゴを動かすのは、それなのだろう。

 自分には、英雄たちの心を繋げるほどの夢はない。

 それどころか、その言葉を遺してくれた父親を殺す羽目になって。

 

「だからこそ。タケルが決めたんなら、俺は全力で手伝うよ」

 

「え?」

 

「今のタケルにとってさ、やりたいことって何?」

 

 アランの父を助けたい、と思ったのは嘘じゃない。

 自分の父のことから逃げてるつもりもない。

 助けられるのであれば、そんなこと関係なしに助けてあげたい。

 眼魔に思うところはあっても、そこは絶対に変わらない。

 

 ―――じゃあ、自分の父に対しては?

 ソウゴの言う通りに逃げたいと思っているのか。

 タケルは父に、英雄の心を繋ぎその魂を未来に繋げと言われた。

 その約束を破るような―――

 

「俺、は……」

 

 一体これからどうすればいいのか。

 それに悩み、タケルはただ空を見上げた。

 

 

 




 
叔父さんの家にインターネット環境を整えるためにド〇モ光で契約する大和。
そこに現れる黄金の最強ゲーマー。そば、光る。
 
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