Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

158 / 245
破壊!そして未来に繋ぐ者!2009

 

 

 

「おやまあ、カノンちゃん。

 また新しいイケメン連れて、今度こそ彼氏かい?」

 

 たこ焼きを焼いていたフミ婆が、カノンたちが近づいてくるのに気づく。

 そうして見た中に新たな男の顔を見つけ、彼女は顔を綻ばせた。

 

「フミ婆! アラン様は彼氏とかそういうのじゃなくて!」

 

「あ、必死に否定するとこが怪しいわね」

 

 フミ婆と武蔵に挟まれ、攻勢を受けるカノン。

 おろおろと手を振りながら否定する彼女を見て、アランが眉を顰めた。

 

「何の話をしている。カレシとはなんだ?」

 

「カノンちゃんとあんたがとっても仲が良い、ってことよ」

 

 適当な内容で説明する武蔵。

 それを聞いて、アランは珍妙な顔をする。

 

「……カノンと最も交友が深かったのは姉上だ」

 

「何だい、家族公認かい? めでたいねえ」

 

「だからそういうのじゃ!」

 

 アランの言葉に乗っかるフミ婆。

 それに反応するカノンの様子を笑いながら、武蔵がフミ婆に声をかけた。

 

「お婆ちゃん、たこ焼き四つお願いね」

 

「はいよ」

 

「フミ婆! 武蔵さん!」

 

 笑いながらたこ焼きの注文をする武蔵と、受けるフミ婆。

 そこで揶揄われている、と気づくカノン。

 彼女は怒りを露わに、フミ婆と武蔵を可愛らしく睨みつけた。

 

 目の前で仕上がっていくたこ焼き四パック。

 それを見たアランが、表情を渋く染める。

 

「まさか、この眼魂のようなものを食べにきたのか?

 このようなものを食べねば維持できないとは、肉体とはなんと脆弱な……」

 

「なんだい? そっちの彼氏さんはたこ焼き知らないのかい?」

 

「―――知る必要がなかった」

 

 人間にとっては当たり前かもしれない。

 だが、眼魔にとって食事など行う必要があることではないのだ。

 眼魔も眼魂システムが完成する前に限れば―――

 もしかしたら、そんな行為を取っていたということもあるのかもしれない。

 

 だが、そんな記憶はアランには残ってない。

 食事などという行為に対し、価値を感じたことがないのだろう。

 所詮、人間のエネルギー補給などその程度の行為だ。

 

「必要なくたって知ってて損はない、ってね。

 ほら、たこ焼きを初めて食べる記念だ。彼氏の分は奢りでいいよ」

 

 そう言って1パック押し付けられる。

 手にしたパックに入った丸い食べ物。

 隣を見れば、カノンも武蔵をそれを串に刺して口に運んでいた。

 

 ……体調は悪い。

 食事という行為をしなければ、肉体の性能は下がる一方。

 それを今まさに痛感しながら、仕方なく彼はたこ焼きを口に運んだ。

 

「―――――これは」

 

 口に入れて、噛み締めて、初めての感覚に唖然とする。

 

「どうだい、美味しいだろ?

 はは、顔見りゃ分かる。そりゃ良かった」

 

 未知の感覚、食事。

 初めて味わう感覚に対して、串を動かす手が止まらない。

 どうしてか、勝手に動く手がたこ焼きを全て口の中に放り込む。

 ―――そうして、

 

「あふっ、熱っ! あっつ!」

 

「あ、アラン様!? お水! フミ婆、お水ちょうだい!」

 

「あっはっは! 馬鹿だねぇ、彼氏。

 そんな一気に食べたらそうなるに決まってるじゃないか」

 

 咳き込むアランと、けらけらと笑うフミ婆。

 カノンから水を受け取り、一気に飲み干してまた咳き込む。

 そんな生態機能に襲われたアランが、恨みがましくフミ婆を見つめる。

 

「……そんなことは知らなかった」

 

「知らないことばっかじゃないか。

 変わった人だねえ、カノンちゃんの彼氏」

 

 半ば呆れるような声。

 それを向けられたアランが、目を逸らして恨み言を呟いた。

 

「熱いものを口に入れれば痛みを感じる。

 その上、息苦しいと思えば自由に体が動かなくなる。なんて不便な……」

 

「でも、美味しかっただろう?」

 

「―――――それは」

 

 己の肩を叩くフミ婆の手。

 それを払うことも出来ず、アランは視線を彷徨わせた。

 

「ま、たこ焼き食べるだけでこんなになる奴は長い人生で初めて見たけどね!」

 

「…………っ!」

 

 そんなことを言われ、アランが表情を歪めた。

 これではまるで人間如きに負けたようで気分がよくない。

 彼はすぐさま振り返り、大人しくたこ焼きを食べている武蔵を見る。

 

 頼んだのは四パック。

 アランとカノンと武蔵、それぞれに一つと後もう一つ。

 

「おい、そのもう一つを寄越せ。今度は完璧に食してみせる」

 

「はい? ……ッ、ぷはっ! ふふ、了解了解!

 私の分の予定だったけど、そう言われちゃしょうがない。ええ、この残った舟はあなたへの挑戦としましょう! どうぞ完璧に食べてみなさいな! あ、お婆ちゃん。私の分は追加注文で」

 

 言われた言葉に噴き出しつつ、武蔵が1パックを彼に譲る。

 結局は追加したが。

 

 渡されたたこ焼きを両手で抱えたアラン。

 彼が顔を引き締めて、舟の上で並ぶたこ焼きたちを睨み据えた。

 

「ふん……言われるまでもない。

 どういうものか分かっていればこの程度の相手、私にとって造作も……」

 

 ―――そこまで口にして。

 彼は手にしていたたこ焼きをカノンの方へと受け渡した。

 不思議そうな顔をする彼女の前で、アランの厳しい視線が木々の奥へ向かう。

 

 そこにいるのは、軍服の男。

 アランのよく知る男だった。

 

「お前たちはここにいろ」

 

 そう言い残し、すぐさま走り出すアラン。

 走りながら、既に腕にはメガウルオウダーを装着している。

 

 それは眼魔―――眼魂による運用を前提にした装備だ。

 生身では、その力を十全には発揮できない。

 が、それでも。ネクロムでスペリオル程度に遅れを取るつもりはない。

 

 アランが動いたのを理解し、相手も移動を開始した。

 邪魔の入らない場所を選ぶという思考は、あちらも同じらしい。

 フミ婆たちの店から大きく離れ、見知った相手と顔を突き合わせる。

 

「ジャベル……兄上に言われ、私を捕えにきたか」

 

「アラン様。新大帝アデル様の命により、あなたを連れ帰りに参りました。もっとも、大帝陛下より生死は問わぬというお言葉も頂いておりますので、一切の手加減は致しません。

 ―――あなたほどの戦士とこうして戦う機会を得た事。このジャベル、望外の喜びを得ております故……!」

 

 言いながら眼魔眼魂を取り出すジャベル。

 その眼魂を見て、アランは驚愕に目を見開いた。

 

「ウルティマだと……!?」

 

「はい。この力、大帝陛下より授かりました」

 

〈ウルティマ!〉

 

 ジャベルの姿が白い戦士に変貌する。

 スぺリオルとはまったく異なる、眼魔世界における最大戦力。

 その赤い目を爛々と輝かせながら、彼は歩みを開始した。

 

 アランもまた、即座にネクロム眼魂を起動する。

 スローンに眼魂をセットし、ユニットを立ち上げ、特殊溶液を滴下。

 自らの肉体に、ネクロムの鎧を身に纏っていく。

 

〈テンガン! ネクロム! メガウルオウド!〉

 

 身に纏うネクロムパーカー。

 白と黒のボディにライトグリーンのラインが輝く。

 全身に満ちたエネルギーを力に変え、ネクロムが奔った。

 

「ネクロム……眼魂の能力を最大に引き出すために創られた装備。

 ですがその能力は、肉体に縛られぬ眼魂故のもの。

 今のあなたが使うネクロムで、ウルティマを越えられますかな?」

 

「随分と言うようになったじゃないか、ジャベル!!」

 

 ネクロムの拳が奔る。

 対するウルティマが片手でそれをいなし、逆にネクロムの胸を打つ。

 衝撃と痛みに押し返されて、小さく舌打ちするアラン。

 眼魂のまま動かしていた時より反応が鈍い。

 

 その事実を再認し、動きが鈍ったネクロム。

 彼の隙を、ウルティマの拳が狙い撃つ。

 頭部へと直撃する一撃に、ネクロムが地面に叩き付けられた。

 

「ぐ、あ……!」

 

「素晴らしい……これがウルティマのパワー……!

 アラン様。この力、もっとあなたで確かめさせて頂きます」

 

 倒れたネクロムの胴体を目掛け、振り抜かれるウルティマの足。

 叩き込まれた蹴撃で転がされる白いボディ。

 

「調子に、乗るな……ッ!」

 

〈デストロイ!〉

 

 吹き飛びながら地面を握り、減速させて止まる。

 痛みを堪えながらネクロムが復帰し、すぐさま彼は反撃を開始した。

 体を起こすと同時に、メガウルオウダーを発動。

 ネクロム眼魂にウルオーデューを滴下し、エネルギーを爆発させる。

 

〈ダイテンガン! ネクロム! オメガウルオウド!!〉

 

「ハァアアアアア――――ッ!!」

 

 印を切り、液体を周囲に迸らせる。

 その液体で構成されていくのは、ネクロムの眼の紋様。

 紋様は解れ、攻撃のためのエネルギーとなりネクロムの足へと纏わりつく。

 

 そうしてエネルギーを帯びたネクロムが飛んだ。

 放つ蹴撃は緑の光に包まれた流星の如く。

 立ち尽くしながら待っているウルティマに対し、その一撃が殺到する。

 

 ―――それを。

 

「この程度ですか」

 

「なに……!?」

 

 真正面から、ウルティマは受け止めてみせた。

 がしりと掴み取られた足は、力を込めても動かない。

 

 ―――ネクロムデストロイ。

 流体エネルギーを纏い、それを敵性体に浸透させて粉砕する一撃。

 それを成し遂げるための足の装甲、デバステイターブーツ。

 そこを完全に掴み取り、ウルティマは平然と耐えていた。

 

「くっ……!」

 

「少々がっかりですな。あなたほどの戦士が、この程度で終わりだとは」

 

 ネクロムのブーツを掴むウルティマの掌が光を帯びる。

 その瞬間、ネクロムのエネルギーが()()()()()

 全身に満たされていた神秘エネルギーが、瞬く間に消えていく。

 

 ライトグリーンの輝きは消え、灰色に染まるネクロムのボディ。

 ジャベルがその足を放し、投げ捨てると同時。

 ネクロムは崩れ落ちて、アランは生身で地面に転がり落ちた。

 

「ッ、……たったこれしきのことで……!」

 

 ネクロムゴースト眼魂が完全に停止した。

 眼魔眼魂によってエネルギーは補充できない今、限界はある。

 だがまさか、たったこの程度で尽きるほどに薄弱だとは。

 

 地面に這いつくばりながら、ジャベルを見上げるアラン。

 まるで勝負にならずにこの有様だ。

 ウルティマの能力以上に、彼自身の戦力があまりにも低下していた。

 

「正しい運用でなければ、ネクロムであってもこの程度」

 

 対するジャベルさえも、その結果にどこか不満そうな様子をみせる。

 だが彼は地に伏せたアランへと歩み寄ろうとして―――

 

 その戦場に新たに現れた顔を見て、動きを止めた。

 

「アラン!?」

 

 アランを追いかけて、辿り着いた公園。

 そこでカノンと武蔵から教えてもらった現状。

 

 眼魔の追手を見つけて、アランはそちらに行ってしまったと。

 タケルとソウゴは、カノンを武蔵に任せてここに来た。

 

「天空寺タケル……ちょうど良い!

 新たに手にしたこの力で、貴様への雪辱の機会を求めていた!」

 

 ジャベルが声を荒げて歓喜を示す。

 あまりにも不甲斐ない戦いの後に、本命が来たことに対して。

 

「あの時の眼魔かな。行こう、タケル!」

 

 青い戦士、スペリオルではない。

 だが物言いからして、あの白い眼魔は前に会った奴だ。

 黒い軍服の男、ジャベル。

 アランを襲っているということは、アデルという奴の味方だろう。

 

 即座にドライバーを装着し、戦闘態勢に入るソウゴ。

 そうしてウォッチを起動した彼が、反応のないタケルの方を見る。

 

「タケル?」

 

「―――白い、眼魔……!?」

 

 ジャベル―――ウルティマの姿を見て、タケルが停止する。

 その姿から感じる何かに、彼の意識がぐらつく。

 尋常じゃない彼の様子に対し、ソウゴは眉を顰めた。

 

「どうした、何故変身しない! 私を倒した姿になるがいい!」

 

 折角得た機会。

 だというのに立ち尽くすタケルに、ジャベルは声を荒げた。

 

「―――変身!!」

 

〈ライダータイム! 仮面ライダージオウ!〉

〈ジカンギレード! ケン!〉

 

 ジクウドライバーを回転させ、ソウゴがジオウへと変わる。

 背後に浮かんだ時計から射出された“ライダー”の文字。

 それを頭部に合体させた瞬間、駆け出すジオウ。

 

 タケルが動かない事に苛立ちを見せるジャベル。

 が、そんな態度を取りながらもジオウへの迎撃のために彼は動いた。

 

 放たれるギレードの剣閃。

 対し、ウルティマは無手のまま拳で剣撃を打ち払う。

 二手、三手。武器を交錯させて、ジオウが微かに足を退く。

 

「どうした? 踏み込みが浅い、怯えているのか?」

 

 純粋にパワーが強大なのもある――――が。

 その立ち回りに、違和感を覚える。技量以前に、動き方にだ。

 どこかで感じた覚えのあるこの感覚……

 

「ランスロットかな……!」

 

 ()()()()()―――()()()()()()()()()()()()()

 武器の強奪、あるいは武器の破壊を可能とする能力があると判断。

 理解して放つ剣。それが腕に弾かれた瞬間、後ろに跳ぶ。

 

〈ジュウ!〉

〈フィニッシュタイム! スレスレシューティング!〉

 

 その瞬間にギレードを変形させ、バースウォッチを装填。

 距離を開けながらの銃撃を叩き込む。

 

「む……!」

 

 コイン状のエネルギー弾が無数に銃口から放たれる。

 怒涛の如く押し寄せるメダルの津波。

 それに呑み込まれ、押し流されて―――しかし。

 

「小癪!」

 

 青い燐光を纏いながら腕を一閃。

 自身を打ち据える弾丸を纏めて一気に吹き飛ばした。

 

〈スレスレシューティング!〉

 

 ―――その瞬間、ウルティマの胴体に直撃する一発の弾丸。

 彼の背後に“STOP”と描かれた標識が浮かぶ。

 標識の通りに動きを封じられるジャベル。

 動かない体を彼が強張らせた直後。

 

「ぬぅ……!」

 

〈スレスレシューティング!〉

 

 更に直撃する、マンゴーらしき果実状のエネルギー体。

 それに呑み込まれた体は更に重くなる。

 マンゴーに溺れながら、ジャベルはウルティマの装甲を軋ませた。

 

 そうして動きを止めた相手を前に、ジオウが飛ぶ。

 ギレードを投げ捨て、ウォッチに手をかけ。

 力を解放して叩き込む、必殺の一撃―――

 

〈フィニッシュタイム! タイムブレーク!!〉

 

「はぁあああああ――――ッ!!」

 

 ウルティマの周囲に12の“キック”という文字が現れる。

 それは彼を中心に時計の文字盤のように配置され、一つずつ消えていく。

 合わせるように跳び上がりながら、飛び蹴りの姿勢に入るジオウ。

 

 自分の周囲のカウントダウン。

 それを目撃して、ウルティマの中のジャベルが鼻を鳴らした。

 

「無駄だ」

 

 ウルティマが手を広げる。

 その瞬間、彼を拘束していたものが崩れていく。

 標識が崩れ、マンゴーが腐り落ち、そして“キック”の文字が一周した。

 

「!?」

 

 カウントダウンが勝手に早まり、最後の“キック”文字が飛んだ。

 本来それは、ジオウリープシューズの足裏の刻印に合わさるもの。

 そうして完全にタイミングを合わせたキックにより、敵を粉砕するものだ。

 

 だというのにタイミングが勝手にずれた。

 まだ姿勢に入っていなかったジオウの腹に、“キック”が激突する。

 迎撃の攻撃を受けたも同然に、地面へと叩き落とされるジオウ。

 

「今のは……!」

 

「ふん……」

 

 時流を操り、触れていたものを―――自身の体を拘束していたものを、急速に風化させた。

 本来の時間より加速した結果、“キック”が先んじてジオウに飛んできたのだ。

 

 腐り落ちたマンゴーの残骸を踏みしめ、ウルティマが再始動する。

 

「―――手に触ったら駄目ってことね!」

 

〈ドライブ!〉

 

 先程の感覚に納得しつつ、新たにウォッチを取り出す。

 手慣れた動作でドライバーに装着し、回転。

 ジクウマトリクスが反応し、ウォッチに刻まれた力を現界させる。

 

〈アーマータイム! ドライブ!〉

 

 赤い鎧を身に纏い、ジオウが地面を滑るように走行を開始。

 止まらずに、疾走し続ける戦闘の構え。

 

 スピードでのかく乱に主眼を置いた選択。

 ドライブアーマーが、肩のタイヤから射出する無数のホイール。

 彼は迫りくるウルティマへとそれらを全て差し向けた。

 

 ―――その赤い車体が走るのを見て、ハッとする。

 長らく意識が混濁していたタケル。

 彼はすぐさま腰に手を当てて、ゴーストドライバーを出現させた。

 

〈一発闘魂!〉

 

「……ッ、変身!」

 

 燃える闘魂眼魂をドライバーに押し込み、トリガーを引く。

 炎上する体がトランジェント体に置き換わる。

 その体の上からパーカーを身に纏い、彼は走り出した。

 

〈闘魂カイガン! ブースト!〉

 

「タケル!?」

 

 タイヤの乱舞が攪乱する敵に対し、真っ直ぐに突っ込んでいく闘志の戦士。

 それが振り抜く拳が、隙を見せたウルティマの胴体に突き刺さる。

 ―――が、ジャベルはその一撃に微動だにせず。

 彼がゴーストの手首を握り、捻り上げる。

 

「なんだ、この気の抜けた一撃は。私が戦いたいのはこんな貴様ではない!」

 

「がぁ……ッ!?」

 

 そのままゴーストの胸に叩き込まれるウルティマの拳。

 表面が弾け、火花を散らすゴーストのボディ。

 

 しかしそこで歯を食い縛って踏み止まり、サングラスラッシャーを呼び出した。

 召喚した勢いのまま叩き付けられる赤い刃。

 

 ―――まるでそれを気にした様子もなく。

 ウルティマはつまらなそうに、腹に押し当てられた刃を掴む。

 瞬時に風化し、崩れていくサングラスラッシャー。

 

「…………ッ、」

 

「つまらん……! アラン様も貴様も、揃いも揃って腑抜けたか!!」

 

 サングラスラッシャーを消滅させた腕を、そのままゴーストの腹に突き立てる。

 その瞬間、彼の掌から溢れる青い光。

 ゼロ距離で放たれる青い光弾が放たれた直後に爆発し、ゴーストの姿を呑み込んだ。

 

「タケル―――!!」

 

 吹き飛ばされて地面に落ち、変身が解除されたまま転がるタケル。

 ―――その懐から、眼魂ではない何かが零れ落ちた。

 マゼンタ色をした、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――――! あれって……まさか!」

 

 残る唯一の戦力であるジオウに、ウルティマが向き直る。

 その瞬間ドライブアーマーは両腕のシフトカー型攻撃ユニット・タイプスピードスピード、そして放てる全てのタイヤを相手に向かって射出した。

 

 それに対応している間に、ドライブアーマーの速力でタケルの側まで撤退する。

 着くと同時に倒れる彼の肩に手を置き、声をかけた。

 

「タケル、大丈夫?」

 

「……俺、何でだ。何で大切なこと、思い出せないんだ。

 大切なことだったはずなのに……! 父さんの最期が、俺の中に残ってない……!

 父さんが何で死んだのかも、確かな記憶が俺の中に残ってないんだ……!」

 

 拳を握り、地面を叩き、涙を滲ませるタケル。

 その肩に手を置きながら、微かに頭を揺らすジオウ。

 彼らの背後で迎撃を終えたウルティマが、こちらに向かってくる。

 

 それを察したソウゴが、どこを見るでもなくその場で声を張り上げた。

 

「―――黒ウォズ! 俺がこれ使うの待ってるんでしょ!?

 時間くらい稼いでよね!!」

 

 ジオウに対して光を湛えた掌を向けるウルティマ。

 光弾を飛ばそうとしたその瞬間、手首に伸びてきた布が巻き付いた。

 思い切り引っ張られ、狙いを逸らされる。

 見当違いの方向に放たれる光弾が、地面に激突して爆炎を上げた。

 

 すぐさまそちらを振りむくジャベル。

 そこには首から垂らしたストールをこちらまで伸ばした男がいた。

 彼は指でそのストールを弄り回し、肩を竦めて苦笑している。

 

「やれやれ。臣下の扱いが荒いんじゃないかい、我が魔王」

 

「新手……? 人間か?」

 

 ウルティマの手が、自分の腕に絡むストールを握る。

 武装を風化させる時間操作能力が発動し―――

 しかし、彼の腕はいつまで経っても解放されない。

 

「ヌ……!?」

 

「さあ? 一つ言えることは、君ごときが私の時間を操れるとは思わないことだ」

 

 能力で振り解くことができず、舌打ちするジャベル。

 

 どちらにせよ綱引きになれば膂力の問題でウルティマが勝つ。

 まあ流石に1分程度稼げば命令に反しないだろう、と。

 黒ウォズは微かに目を細めながら、ストールにかける力を調整する。

 敵を封じることに終始するための力のかけ方で。

 

「英雄たちの心を未来に繋げなんてって言われたって!

 俺の中に、父さんが繋いでくれたはずものが残ってなくて!

 なんでそんなことになってるかも全然分からなくて! 俺、何で……!」

 

「―――何だ、タケルの中にやりたいことあるじゃん」

 

 地面を叩いていた彼の腕をジオウが握る。

 その手を感じて止まった、タケルの背に対して言葉をかける。

 

「やっぱお父さんに言われた通り、心を未来を繋ぎたいんでしょ?

 でも、過去からお父さんが繋いできてくれた心を見失っちゃったんだ。

 だから、やりたいことだったはずなのに、そんな気になれなかった」

 

 それはきっと、アナザーライダーとの戦いが発端で。

 だからこそ、その戦いのためにソウゴが真っ先に立つ理由になる。

 

「自分の中のやりたいことが、やりたいことになった理由を忘れちゃっただけなんだ。

 ―――だったら取り戻そう。現在(いま)と、過去を。

 本当の意味でタケルが未来に繋ぎたいものを、いつか未来に繋げるように」

 

「……俺は……!」

 

 土を掴み、拳を握り締めるタケル。

 ―――そんな彼の懐から、ムサシの眼魂が零れ落ちた。

 それはそのまま飛行を開始して、彼方へと飛び去っていく。

 

 そのことにさえ気付かず、タケルは俯いたまま歯を食い縛る。

 

 彼の肩から手を放し、落ちていたウォッチを拾う。

 立ちあがったジオウがタケルから目を外し、振り向いた。

 丁度ストールを振り解かれた黒ウォズが、舌打ちしながら下がったところだ。

 

 拾い上げたウォッチを左手に握り、前に突き出す。

 ライドオンスターターを押し込むことで、起動するライドウォッチ。

 

〈ディ・ディ・ディ・ディケイド!〉

 

 起動したウォッチをドライバーのD'3スロットに装填。

 拳でライドオンリューザーを叩き、ジクウドライバーのロックを解除する。

 回転待機状態になったジクウサーキュラーを、そのまま左手で回す。

 

 ―――回転。

 世界を回すようにドライバーが回り、ジクウマトリクスがライドウォッチを認証。

 その中に刻まれた歴史を、世界に実体化させていく。

 

〈ライダータイム! 仮面ライダージオウ!〉

〈アーマータイム!〉

 

 ジオウの周囲を取り囲むように広がる光のカード。

 表面に“カメン”というジオウのクレストが描かれたそれは全部で十枚。

 

〈カメンライド! ワーオ!〉

 

 十枚のカードが、これから誕生する魔王の新たな姿のシルエットを創る。

 十の影はそれぞれ、一部分だけ実体と化している場所がある。

 頭部、胴体、右肩、左肩、右腕、左腕、右腿、左腿、右足、左足。

 それらのパーツを有する影が、ジオウを中心に重なっていく。

 

〈ディケイド! ディケイド!〉

 

 全ての影がジオウの上で重なって、彼の姿を完全に新たなるものへと変化させる。

 胸部デバイス、コードインディケーターに表示されるバーコード。

 右肩にはディケイドの名が浮かび上がり、頭部のディメンションフェイスに顔が表示。

 その顔はまさしく、“ディケイド”の名前を浮かべた、ジオウのものだった。

 

〈ディケイド!!〉

 

 マゼンタの鎧を纏い、立ち誇るジオウ。

 黒ウォズを追い払ったウルティマが、それを見て小さく唸った。

 

「ほう、貴様も新たな姿か。

 アラン様や天空寺タケルのように、すぐに無様を晒すことのないように祈るがな!」

 

 ウルティマが駆ける。

 それを前にし、彼に対して歩き出すディケイドアーマー。

 振り抜かれる拳を腕で打ち払い、そのまま頭部を殴り抜く。

 

 ジャベルは殴られた直後に体を返し、脚を振り上げてみせる。

 鞭のように撓る、ウルティマの白い脚。

 迫りくるそれを両腕で掴んで抱え、そのまま地面へと叩き伏せる。

 

「ぬぐぁ……!」

 

「こうしてやられたら、無様なのはあんたの方じゃない?

 自分を満たすためだけに戦って、誰かを傷つけて」

 

 ウルティマの腕が振り上げられ、ディケイドアーマーの肩を殴り飛ばす。

 蹈鞴を踏んで、三歩下がって止まるジオウ。

 彼がゆっくりと拳を握り直し、よろめきながら立ち上がるウルティマに向き直った。

 

「タケルはどれだけ自分が傷ついても、誰かのために立ち上がれる。

 何かを守るためでも、誰かを傷つけることに苦しめる。苦しみながらも、守るために戦える。

 だから何度倒れたって、俺はそれが無様だなんて思わない」

 

「馬鹿な……! 大帝直属のウルティマがパワーでこうも負けるだと……!?

 貴様……一体何者だ!!」

 

 叫ぶジャベル。

 それに答えようとしたジオウの視界を遮る『逢魔降臨暦』。

 即座に彼の前へと陣取った黒ウォズが、盛大に声を張り上げた。

 

「―――祝え! 全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え過去と未来をしろしめす時の王者!

 その名も仮面ライダージオウ・ディケイドアーマー!!

 この世界に通りすがりし仮面ライダーの王者が、また一つ力を継承した瞬間である!」

 

 彼の宣言に対し、わけが分からないと頭を振るジャベル。

 それに対して肩を竦め、黒ウォズが魔王に対して頭を垂れた。

 

「では、我が魔王。存分にその力を振るわれるがよろしい」

 

 言いながら体を引き、彼の前を空ける黒ウォズ。

 

 ディケイドアーマーが腕を突き出す。

 ジクウドライバーが光り、そこから出現する新たなる刃。

 新たに出現した片刃の直剣を掴み取り、構える。

 

〈ライドヘイセイバー!〉

 

「これなら……大体、いける気がする!」

 

 ―――マゼンタの軌跡を曳いて、その戦士が加速する。

 ディケイドアーマーがその重装ぶりとは思えぬ速度でウルティマに迫った。

 正面突破を考えた直線的な攻撃。

 これならば、と。ジャベルは即座に選択する行動は武器破壊。

 

 ウルティマの手が振り抜かれたヘイセイバーを掴み取る。

 同時に、ジオウの手がヘイセイバーの鍔にある時計の針、ハンドセレクターを一度回した。

 触れたものを風化させる時間操作能力。

 その発動を前にして、ヘイセイバーのスクランブルトリガーが引き絞られる。

 

〈ヘイ! ビルド!〉

〈ビルド! デュアルタイムブレーク!〉

 

 ヘイセイバーの刀身が唸る。

 まるで刀身がドリルに変わったかのような、螺旋の衝撃が刃を掴むウルティマを襲う。

 掌がズタズタに切り裂かれ、そのままジャベルが弾き飛ばされた。

 

「なん、だと……!?」

 

 蹈鞴を踏んで下がるウルティマの前で、ジオウの指がセレクターを更に回す。

 

〈ヘイ! エグゼイド! ヘイ! ゴースト!〉

〈ゴースト! デュアルタイムブレーク!〉

 

 弾かれてよろめく彼に、剣豪の剣閃が放たれる。

 赤き軌跡を描いて奔る閃光。

 それを視認する間もなく、装甲を削り落とされていくウルティマ。

 

「先程までとは、まったく別物――――!?」

 

〈ヘイ! ドライブ! ヘイ! 鎧武!〉

〈鎧武! デュアルタイムブレーク!〉

 

 果汁が波濤となって押し寄せる。

 視界を埋め尽くすオレンジ色の津波。その波ごと一閃する剣撃。

 どこに反撃するべきかも判別できず、ジャベルは身を固めるしかない。

 

〈ヘイ! ウィザード! ヘイ! フォーゼ!〉

〈フォーゼ! デュアルタイムブレーク!〉

 

 オレンジ果汁が雷撃で弾けた。

 波を蒸発させて迸る稲妻がウルティマの装甲を焼き、火花を撒き散らす。

 雷電により麻痺し、一瞬固まる彼の体。

 その胴体に回し蹴りが突き刺さり、大きく吹き飛ばされる。

 

〈ヘイ! オーズ! ヘイ! ダブル!〉

〈ダブル! デュアルタイムブレーク!〉

 

 牙の記憶を読み取った刃が白く発光。

 振るわれると同時に、三日月状の飛刃を放出した。

 

 飛来するのは荒々しい斬撃。

 その直撃を受けたウルティマが膝を落として、息を荒くし動きを止める。

 ウルティマの装甲は全身から白煙を噴き、限界を知らせていた。

 

「馬鹿な……! ウルティマが圧倒される……!?」

 

 震える体を支えながら、何とか立ち上がろうとするジャベル。

 彼の態度を見て、ジオウが微かに動きを遅らせる。

 

「…………あんたはどう思う? あんた自身が今、無様かどうか」

 

「……舐めるなァッ!!」

 

 力を振り絞り、ウルティマが立つ。

 即座に疾走に移った彼の前で、ジオウは再びセレクターを弾いた。

 

〈ヘイ! ディケイド!〉

〈ディケイド! デュアルタイムブレーク!〉

 

 引かれるスクランブルトリガー。

 そうして振り被った剣に対し、ウルティマは両腕を交差させた。

 走り込んでくる彼は、ジオウの攻撃が何であろうと正面から突破する構え。

 そんなウルティマに対して、ヘイセイバーが奔る。

 

 斬撃は刀身だけのものに非ず、無数に分裂したものに。

 守りに入った腕どころか、剣撃一つで全身を切り刻まれる。

 二度、三度と繰り返す攻撃がウルティマを力尽くで押し返した。

 

 地面を滑りながら、それでも膝を落とすことなく必死に耐えるジャベル。

 

「これ、しきィ……! 私の戦いは、まだァ……!!」

 

 よろめきながらも、彼は倒れない。

 そんな相手を前にして、ジオウはドライバーからディケイドウォッチを外した。

 流れるように、ウォッチを構えた剣のライドウォッチベースへと装着。

 ライドヘイセイバーをオーバーロード状態へと移行する。

 

〈フィニッシュタイム!〉

〈ヘイ! キバ!〉

 

 セレクターを一度回し、ヘイセイバーを手の中でくるりと回転させる。

 ジオウはその剣をまるで矢を持つように柄尻だけで持つ。

 同時に()()()()()()()、仮面ライダーの必殺技の光景。

 

 黄金のエネルギーが生じ、ジオウの手の中で大きな塊となる。

 そのエネルギーが形成するのは巨大な蝙蝠。

 ジオウが蝙蝠の胴体を握りしめ、上下に大きく翼を広げさせる。

 まるでその姿は蝙蝠を弓に見立てているが如き光景で。

 

 ―――蝙蝠を弓にして、ヘイセイバーを矢として構え。

 溢れるエネルギーでその刀身を覆い、銀の矢と成していく。

 そしてウルティマへと向け引き絞られる弓矢。

 

〈キバ! スクランブルタイムブレーク!!〉

 

 ヘイセイバーの刀身、セイバーリアライザーがキバの力を実体化する。

 形作られた銀の矢の鏃を縛っていた(カテナ)が砕け、その正体を現した。

 蝙蝠の翼を思わせる、銀と赤の鏃を持つ必殺の矢。

 

「ハァアアア――――ッ!!」

 

 ―――解き放たれる。

 放たれた銀と赤の矢は、過たずにウルティマへと直撃した。

 直撃の勢いのまま、背後の岩壁まで吹き飛ばされるジャベル。

 

「ぬぅうう、ぐぅぉおおお―――――ッ!?!?」

 

 必殺の矢と共にウルティマの姿が背後の岩壁に激突。

 その瞬間、轟音と共に罅割れながら陥没していく岩壁。

 陥没によってその場に描かれるのは、蝙蝠を思わせるキバの紋章。

 

 矢の威力によって壁にへばり付いたウルティマ。

 彼の体が壁から剥がれ落ち、地面に倒れ伏す。

 そうして消えていくウルティマのボディ。

 変身を解除されたジャベルが、呻きながら体を震わせた。

 

 ―――眼魂ではなく、生身のようだ。

 それを見て、ジオウは彼に向かって歩き出し―――すぐに足を止めた。

 

 空間に染み出すように浮かび上がってくる黒とオレンジの影。

 その姿を、確かに認識して。

 

「アナザーゴースト……」

 

 幽鬼の如くゆらりと。

 ゴーストを超えるゴーストが現世に蠢く。

 最強のゴーストが身を震わせて、地に伏せるタケルを見た。

 

 

 




 
公園付近にいたはずなのにいつの間にか岩壁がある場所で戦ってる。
犯人はキバアローのためには壁が欲しかったなどと供述しており。
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。