Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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入魂!目覚める英雄!2016

 

 

 

「―――――」

 

 空を飛んでいくムサシ眼魂を見る。

 随分と勝手な事を言ってくれたが、今がその時だとわざわざ知らせに来たようだ。

 彼はちらりと姿を見せた後、そのまま大天空寺を目掛けて飛んでいく。

 

 表情が酷く歪みそうになるが、カノンの手前何とか耐える。

 そこにやってくるマコトの姿。

 

「カノン、アランたちは……」

 

「お兄ちゃん! アラン様が眼魔の人と……それにタケルくんたちも……」

 

 カノンの言葉に眉を顰めるマコト。

 タケルとソウゴが向かったならそう心配もないかもしれない。

 が、彼はすぐに走り出そうと身構えた。

 

「なんだと?

 ―――すまない、武蔵。カノンを頼む。俺もそちらに……!」

 

 すぐさまカノンの視線の向きから方向を理解し、走り出そうとするマコト。

 だが武蔵が足を運び、そんな彼の襟首を掴んで止めた。

 いきなり掴まれた彼がバランスを崩し、体を揺らす。

 

「っ、何をする!」

 

「ごめんごめん、でも残るのはあなたの方。

 あっちは私が行くわ。ムサシ(わたし)の約束を果たすためにね」

 

 声の調子が大分落ちる。

 その声を聞いたマコトが即座に身を引き、身構えるほどに。

 咄嗟にそんな反応を示した自分自身に驚くマコト。

 

「お前……」

 

「別に私が交わしたものではないけれど、けどあの剣を見せられたらそうも言ってられない。真っ当な願いとは無縁の私ですが、残念ながらそんな願いで剣を振ったムサシ(わたし)に対して唾を吐けるほど、性根は腐ってなかったりするのです」

 

 彼女が何を言いたいのか、それはマコトには分からない。

 だがそれで、ようやく彼女が宮本武蔵なのだと得心がいった。

 目の前にいる女性はただの剣腕に優れた者などではない。

 後に英雄と呼ばれる大人物と、同一人物なのだと。

 

「……何か理由があるのか?」

 

「ん。まあ、私は手伝うだけだから。けど、タケルが何とかしてくれるでしょう!」

 

 にこやかに微笑み、そう言ってから武蔵が駆け出した。

 それを追う事はせずに、彼は微かに眉を顰めて―――直後。

 騒ぎ立てる英雄たちの眼魂が、彼の懐から一気に飛び出していった。

 

「なんだ……!? ッ、まさか……龍さん……!?」

 

 武蔵が向かったのと同じ方向へ飛んでいく眼魂。

 ノブナガ、ツタンカーメン、フーディーニ、ヒミコの四つ。

 

 眼魂が自らの意思で反応したのだとすれば、恐らくタケルたちの戦場に向かったのだ。

 タケルの元になのか、アナザーゴーストの元になのか。

 それは分からないが―――

 

 

 

 

「ふむ……」

 

 サジタリアーク・玉座の間。

 そこに座すジニスが、モニターに映している映像を見て小さく唸る。

 

「なんだなんだ? 何を見てんだ、オーナー」

 

 そこに入室してくるアザルド。

 彼は入ってくると同時に映像を見上げ、小さく鼻を鳴らした。

 映されているのは先日の戦闘映像。

 ジュウオウゴリラに吹き飛ばされるアザルドのものだ。

 

「おいおい、俺がいないとこで俺が負けてる映像を見るたぁ趣味が悪いぜ」

 

「そう思うならジニス様を楽しませるゲームを開催すればいいのです」

 

 ジニスの背後に控えるナリア。

 彼女は王の観賞を邪魔するアザルドに棘のある言葉を飛ばす。

 言われた彼は大きく体を逸らし、面白くなさそうに首を振った。

 

「分かってるよ。だが奴ら、下手なやり方じゃゲームが始まる前に潰しにきやがる。

 ちったぁ考えてから始めなきゃ、面白くならねえんだ」

 

「おや、アザルドがまさか下等生物からそのようなことを学ぶとは……

 これはこの星に来た最大の収穫ではないでしょうか?」

 

 後から入室してきたクバル。

 彼は頭を使っているアザルドに対し、そんな風に小さく笑う。

 

「はっ、言ってろ!」

 

「―――この星にきた収穫、ね」

 

 クバルの言葉を拾い、ジニスが笑いながら青い巨体に視線を向ける。

 その様子に首を傾げるアザルドたち。

 

「あん? おいオーナー!

 あんたまでクバルみてえな、そんな馬鹿みたいなことを言うんじゃねえだろうな!?」

 

「ふふふ、どうかな?

 だが、この星にはまだまだ面白い玩具になりそうなものはあるようだ」

 

 アザルドから視線を外し、ナリアに向けるジニス。

 すぐさま自分への指令だと理解し、彼女は頭を垂れた。

 

「ナリア、頼みがあるんだが」

 

「ジニス様の御心のままに」

 

 “贈り物(ギフト)”を上げよう。

 彼を楽しませてくれる、多くのものをくれるこの星に。

 けれど代わりに、彼が欲しいものは当然だが全て貰っていく。

 まず手始めに……

 

 ゴリラのジューマンが、人間のジュウオウイーグルに力を与える場面を見る。

 ジューマンパワーというのはキューブを通じて他人に割譲できるらしい。

 調べてみれば、これもきっと地球からジニスへの素敵な贈り物になるだろう。

 

 ―――だから。

 

「ギフトを地球に送ろうと思ってね。

 そしてナリア、あれが騒がしている間に地球から探してきて欲しいものがあるんだ」

 

「ギフトを……? はっ、了解しました。では、一体何を探してくれば」

 

 人間がジューマンパワーを手にして覚醒した戦士、ジュウオウイーグル。

 脆弱な下等生物である人間が、人間よりは上等な能力を持つジューマンから力を得たもの。

 

 ―――面白い。ジニスはそう思う。

 玩具として、実験動物として。

 なにより。惨めな下等生物が力に縋り、生き延びようとするその様が。

 

 ナリアに伝えるために小さく微笑みながら口にする言葉。

 

「―――ジューマンさ」

 

 困惑しながらしかし、確かに頷いて動き出すナリア。

 ギフトを取り出しに武器庫に向かう彼女を見送る。

 手元に残されたグラスの中、赤い液体を揺らしながらジニスは口の端を歪めた。

 

 

 

 

「父、さん……!」

 

 タケルが顔を上げて、アナザーゴーストを見る。

 空間から染み出してきたかのような彼は、ゆっくりと彼に向かって歩んでくる。

 

「黒ウォズ。タケルとアラン、あとあのジャベルって奴もお願いね」

 

 その前にディケイドアーマーが立ちはだかる。

 

「眼魔もかい? まあ我が魔王がそう言うならそうするがね」

 

 黒ウォズがストールを翻し、アランとジャベルを回収する。

 どうせジャベルも動ける状態ではない。

 その二人をタケルの側へと転がして、彼は一歩後退った。

 

 更に黒ウォズがジャベルの近くに落ちていたヘイセイバーを回収する。

 彼から投げ渡されるその剣を掴み、構え直すジオウ。

 対峙するアナザーゴーストと睨み合い、ディケイドアーマーは腰を落とした。

 

 ディケイドウォッチが装填されたままのヘイセイバー。

 そのセレクターを一つ弾き、ゆっくりと振り被る。

 

〈ヘイ! 電王!〉

〈電王! スクランブルタイムブレーク!!〉

 

 赤い燐光を纏う剣を振り抜く。

 その瞬間、ジオウの前方にエネルギーが迸った。

 

 人型を形成していくそのエネルギー。

 全身真っ赤で頭からは鬼のような二本角。

 ヘイセイバーの攻撃に合わせてその人型は右腕を振り上げて―――

 

 その親指で自分を指し示し。

 両腕を大きく横に広げて。

 足を開いて腰を落とし。

 ―――まるで名乗りを挙げるかのように存分に歌舞いて。

 

 それで満足したように消えてしまった。

 

「……うーん」

 

 時々こういうのあるな、と。

 そんな事を思いつつ、ヘイセイバーからウォッチを外す。

 それをドライバーに戻し、その瞬間に加速したアナザーゴーストに対応する。

 

 ムサシを宿した時ほどではない。

 が、その体捌きは並みの英霊―――サーヴァントにすら劣らない。

 アナザーゴーストの性能など関係ない。

 明らかに、この相手は尋常ではない強さだ。

 

 ―――だが。

 サーヴァントで言うなら、バーサーカーですらないのがあれだ。

 意識が喪失し、ただただ動いているだけの幽鬼。

 本来であればこれ以上に強いのだろう。だが、意思なく徘徊する幽霊では。

 

 腕を伸ばしてきたアナザーゴースト。

 その懐に潜り込み、胴体を肘で殴りつける。

 揺れる相手に対して、即座にセレクターを回すジオウ。

 

〈ヘイ! カブト! ヘイ! 響鬼!〉

〈響鬼! デュアルタイムブレーク!〉

〈ジカンギレード! ケン!〉

 

「ハァア――――ッ!!」

 

 ジオウが両腕に剣を執り、二刀を同時に炎上させた。

 剣で斬るというより、鈍器で殴るような―――

 太鼓を撥で叩くようにスナップし、手首が跳ねる。

 燃える刀身が激突すると同時、轟音とともにアナザーゴーストが吹き飛んだ。

 

 ―――だが一切ダメージはない。

 そう言わんばかりに、その体が浮かび上がる。

 

〈ヘイ! ブレイド! ヘイ! ファイズ!〉

〈ファイズ! デュアルタイムブレーク!〉

 

 ジカンギレードを放り投げ、ヘイセイバーを下から上へと切り上げる。

 地面に走っていく光の斬撃がアナザーゴーストに届く。

 途端に周囲を囲む赤い光の壁が、彼の動きを縛り付けた。

 ファイズフォンXによる銃撃と似た、しかしそれを凌駕する効果の一撃。

 

 動きを封じた相手に更なる攻撃を撃ち込むため、走り出すジオウ。

 ―――そんな彼の前で、アナザーゴーストが首を僅かに動かした。

 

「…………ッ!」

 

 アナザーゴーストの首から下げている武蔵の刀の鍔。

 それが強く発光して、空からムサシゴーストが引き寄せられてきた。

 瞬時にそれを取り込んで、ムサシ魂を憑依させるアナザーゴースト。

 

 その直後、タケルの元にムサシの眼魂。

 そして彼が運んできたと思われる眼魔世界から持ち帰ったでかい眼魂が落ちてくる。

 

「またムサシを……!」

 

 ―――剣閃が奔る。

 フォトンブラッドの結界を解体し、剣神がその場に降臨した。

 斬りかかる体勢だったディケイドアーマーにも向けられる刃。

 

「……くっ!?」

 

〈ヘイ! 龍騎! ヘイ! アギト!〉

〈アギト! デュアルタイムブレーク!〉

 

 炎を纏う剣、二刀による連撃をその一刀で以て受け止める。

 容易に弾き返され、地面に転がることになるジオウ。

 剣を握って向上させた超越感覚ですら、その人の極みを捉えきれない。

 

 それでも、と。

 剣を握り直してジオウはアナザーゴーストに対峙した。

 

 

 

 

「ねえ、タケル。まだ立てない?」

 

 別に咎めるような声でもなく。

 落ちてきたムサシ眼魂を握り締めた彼は、後ろからの武蔵の声を聞いた。

 言われなくても、立たなきゃいけないのは分かってる。

 

「―――分かってる、俺がやらなきゃいけないことなんだ。

 ソウゴに押し付けちゃいけない、俺の役目なんだ……!」

 

 何であれ、あの父を打ち倒すのは自分の役目だ。

 心境に関係なく、それは絶対だ。

 

「……そんなに思いつめなくても大丈夫よ。

 それに。もう一人、馬鹿みたいに思いつめて付き合う気の奴もいたし。

 ―――正直。タケルが感じてるのが苦しみだけなら、私も止めていいと思うの」

 

「何を……」

 

「何かを目指して苦しいだけなら頑張って、って背中を押してあげる。

 でも何があるわけでもないのに、ただ苦しいだけの道なら逃げちゃった方がいいもの」

 

 未だに地面に転ぶタケルの背中。

 顔を合わせる事もなく、武蔵はそんなことを言い続ける。

 

「要は、お父さんを倒すっていう苦しい苦しい道の先に何があるか、ってこと。

 ―――ねえ、タケル。あの敵、どう思う?」

 

「…………」

 

「あいつ、カノンちゃんは襲わなかったでしょ?

 カノンちゃんも何となくあいつに対して何か感じて、マコトを止めようとした。

 ―――なのに、タケルに剣を向けるってことは。そういうことじゃないかな」

 

 タケルの背中が震える。握り締めたムサシの眼魂に涙が落ちる。

 ずっと、ずっと、優しいけど厳しい父だった。

 何故死んだか判然としないけど、それでもタケルを守るために死んだことは覚えてる。

 もっと教えて欲しいことがあった。もっと導いてほしかった。

 ―――あんな人になりたかった。

 

「父さん……! 父さん、俺……!

 父さんが死んだのは、俺のせいで……! なのに、俺が父さんを殺すなんて……!!」

 

「きっと違うわ、タケル。って、うーん。これ私が言って説得力あるかしら。ま、あんまり父と仲良くなかった私の言葉の軽さは御目溢ししてもらうとして!

 あなたの父親が身を呈してあなたを守ったのは、あなたを守りたかったから。そして、あなたが父を愛してやまないのは、あなたにその父からの愛が届いていたから」

 

 自分の背中に、武蔵の手が添えられるのを感じる。

 彼女はそこを優しく撫でながら、言葉を続けた。

 

「―――だから言いましょう。

 父が死んだのがあなたのせいなのではなく、父はあなたのために命を懸けただけ。

 あなたは父を殺すのではなく。己を超えて欲しい、という父の願いを叶えるだけなのだと」

 

 強くなっていくタケルの震え。

 そんな彼の背中を彼女はぽんぽんと軽く叩き、その場でまた立ち上がった。

 

「泣き切るまで泣きなさい、タケル。

 その間に―――あなたの戦いのために、阿呆一人を切り離しといてあげましょう」

 

 タケルを置いて、武蔵の体が疾走する。

 途中で抜き去った黒ウォズが呆れているが、知ったことではない。

 

 無数の斬撃を捌き切れず、削られていくディケイドアーマー。

 その背後につけて、迎撃に参加する。

 ジオウを盾にしなければ武蔵自身もあっさり死ぬだろう剣の結界。

 

 どうにかして突破する必要がある。

 

「ねえ、ソウゴ! 私を正面から切り込ませたりできる!?」

 

「切り込ませたら何とかできる?」

 

 全身から火花を噴き上げながら、息を切らせたソウゴが手短に問い返す。

 このままでは長くは保たないだろう。

 むしろ、尋常じゃないほど保っているというべきか。

 

 例え何があっても、タケルが立ち上がるまで黙って耐えるつもりだろうソウゴ。

 この戦場に真摯な少年二人を前に、武蔵が腹を括って凄絶に笑った。

 

「もちろん、お姉さんに任せなさい!」

 

「―――じゃあ、真正面から突破する!」

 

〈フィニッシュタイム! ディケイド!〉

〈ヘイ! クウガ!〉

 

 必殺待機状態にしたウォッチ。そのまま回転させるドライバー。

 更にヘイセイバーのセレクターを一つ進める。

 そうしてから、ジオウはアナザーゴーストに向かって歩き出した。

 

〈アタック! タイムブレーク!!〉

 

 ウォッチの全エネルギーを防御に回す。

 周囲に奔る剣閃。全てが致命的な威力の剣の結界。

 その只中に、ただ剣を片手に提げたまま踏み込んでいく。

 

 斬られる、火花が散る。

 斬られる、アーマーが削れる。

 斬られる、体が僅かによろめく。

 

 ―――しかしそれでも一切歩調を緩めず、彼はアナザーゴーストに歩んでいく。

 剣の技量ではどうあっても勝てない。

 こちらの一撃が当たる前に、百回斬り捨てられるだけの差がそこにはある。

 

 距離が詰まれば剣の結界は密度を増す。

 何度必殺の一撃を浴びたのか、最早数え切れるようなものではない。

 だとしても。その全てを堪え、剣を放つその姿にまで距離を詰められたならば―――

 

〈クウガ! デュアルタイムブレーク!〉

 

「おりゃぁああああ――――ッ!!」

 

 切っ先が届く間合い。

 そこに踏み込んだ瞬間、ヘイセイバーのトリガーを引く。

 紫の光を帯びたこちらの必殺が、アナザーゴーストに突き付けられる。

 他の何も考えない、ただ全力を懸けた一突き。

 

 剣の腕は何一つ追いつかぬまま、しかし。

 それを撃ち払うためには、アナザーゴーストですら二刀を必要とした。

 勝負になどなっていない。全霊を賭した一撃を、当たり前のように弾かれただけ。

 けれど、そんな当たり前のことであっても。

 対応するために双剣をそちらに向けた十分の一秒だけ、武蔵が切り込める間隙が生じる。

 

 既に駆けた武蔵の手には一刀のみ。

 ―――その宿業を別つため。

 

 天空寺龍の死に際に居合わせたのは、天空寺タケルだけではない。

 彼とともに戦う宮本武蔵もまた、同じように居合わせた。

 だから、アナザーゴーストを前にしてようやく思い出したのだ。

 

 ―――()()()()()()()()()()

 

 一度はタケルを庇い、ダ・ヴィンチ眼魔の攻撃を受けて。

 一度はタケルを庇い、白い眼魔の攻撃を受けて。

 どこか似た、しかし決定的に違う結末を見届けた。

 

 そして、同じように彼はタケルに最期に遺した。

 宮本武蔵の刀の鍔を。

 いつか彼と共にムサシが戦う未来へと繋げるために。

 

 ただの矛盾だ。だが宮本武蔵の眼は、零に至りし天眼。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 何故そうなったかは分からない。だが同時に、何故そうなったかに意味はない。

 そうである、という事実だけがそこにはあった。

 

 だから。アナザーゴーストになった龍の元には今、ダ・ヴィンチ眼魔に彼が殺されてから、ずっとタケルが持ち歩いていた刀の鍔が共にある。

 だから。タケルの元には今、白い眼魔に父が殺されてからずっと持ち歩き、その鍔が元となり生成されたムサシ眼魂が共にある。

 

 一度アナザーゴーストに取り込まれたムサシには分かる。

 僅かに残っている天空寺龍の意識が。

 残ってはいても行動を左右するには弱い、弱り切った彼の意識。

 

 ―――それを知って、宮本武蔵はどうするか。

 タケルと共に戦い、アナザーゴースト打倒を目指す。

 そうだ。タケルを支え、信じ、龍の忘れ形見を見届けるならそうするべきだ。

 

 けれど。また友の死をまた傍から眺めているだけの終わりを許すのか。

 既に二度、同じことを繰り返した。三度、またただ何もせずに友の死を見送るのか。

 ……それは、己で己を許せないだろう。

 

 ―――だから、要る。可能性はある。

 龍がダ・ヴィンチ眼魔に殺された可能性と、白い眼魔に殺された可能性。

 今この世界にはその時流の揺らぎが、確かにある。

 真っ当には見極めることなど不可能だ。だが武蔵なら。その天眼なら。

 

 それを見極め、()()()()()()()()()()()()()

 

 本来の太刀筋とは真逆の一刀。

 可能性を削ぎ落し、最善手たる零へと至るその剣に。

 可能性を拡げ、その繋がりを斬り別けろと。

 

 ―――零ではなく、対する無限の領域の所業を成せ。

 と、あのパーカー男は言い残した。その剣閃を魅せた上でだ。

 

 それは無限の領域の頂どころか、麓に差し掛かった程度の剣でしかなかった。

 だがそれで十分なのだ。

 時空が歪んだこの世界ならば、その程度でも目的は果たせるのだろう。

 

 ―――ああ、ホント。

 そこでやってのけられたら、そういうのは専門外と突っぱねられない。

 宮本武蔵はろくな人間ではないが、それでも。

 友と一緒に戦わせてくれ、という存在を懸けた懇願を無視できるほど屑でもない。

 

 だから、少しだけ嫉妬を以て剣を握る。

 それだけ全てを懸けられる、無二の友を得た宮本武蔵を斬るために。

 

「――――いざ、新免武蔵守!

 我が第五勢の外にある領域に、今一歩踏み込まん!!」

 

 天眼を見開きて、斬り別けるべき場所をアナザーゴーストの体に視る。

 ヘイセイバーを制した二刀は、すぐさま返す刃で二人を斬るだろう。

 その前に成し遂げるために奔らせる剣閃。

 

 ―――それが、届き。

 

 次の瞬間、ディケイドアーマーごと武蔵が吹き飛ばされた。

 というより、ジオウの背中に巻き込まれてなければ、斬り捨てられていただろう。

 押し返されて、何とか踏み止まったジオウから離れてアナザーゴーストを見る。

 

 未だにムサシ魂が憑依したアナザーゴースト。

 ―――そして。

 そこから抜け出したムサシパーカーゴーストが空にはある。

 

「上手く、いったのかしらね……」

 

 疲労感と共に吐き出す言葉。

 それと同時にムサシがタケルの元へと飛んでいく。

 そちらを見れば、既に彼は立ち上がっていた。

 

 泣き腫らした目元を拭い、大きな眼魂を握り締め。

 

『―――父を超えろ、タケル! それが龍の、そして私の願いだ!』

 

 石のような大きな眼魂が罅割れていく。

 彼方から飛んできたマコトの持っていた英雄眼魂。

 すぐ傍で浮き上がるアランの持っていた英雄眼魂。

 その場で15個の英雄眼魂が揃い、巨大眼魂の中へと吸い込まれていく。

 

 砕け散る巨大眼魂の表面。

 石のような部分が全て剥がれ落ち、その真の姿を現した。

 ―――現れるのは、黄金の巨大眼魂。

 

〈アイコンドライバーG!〉

 

 それを握り締め、タケルが目の前に立つアナザーゴーストを睨む。

 

「―――俺は……俺を信じる! 俺が、俺を信じる限り!!

 俺を信じてくれた父さんの魂は―――永遠に不滅だ!!」

 

 叫び、アイコンドライバーGを腰に当てる。

 ベルトが展開して、タケルの腰に固定される巨大眼魂。

 彼の闘志に反応するように、その眼魂の瞳孔が発光を開始した。

 

〈グレイトフル!〉

〈ガッチリミナー! コッチニキナー! ガッチリミナー! コッチニキナー!〉

 

 瞳孔型モニター・グレイトフルスフィアの発光。

 それと同時にタケルは上半身を大きく左に捻り、印を結びながら右へと腕を振る。

 そのまま印を結んだ右手で天を切り、左手でドライバーのレゾネイトリガーを動作させた。

 

「―――変身!!」

 

〈ゼンカイガン!〉

 

 タケルの体が漆黒のボディ、サブライムスーツに覆われていく。

 その体表に黄金のエネルギーライン、ヘイローベッセルが浮かび上がる。

 漆黒の黄金の鎧に身を包んだ彼の周囲には、解き放たれた15のパーカーゴーストが舞う。

 

〈ケンゴウ ハッケン キョショウニ オウサマ サムライ ボウズニ スナイパー!〉

 

 ロビンが右脛に入り、ロビングリーブに。

 サンゾウが右下腿に入り、サンゾレッガーに。

 ゴエモンが右膝に入り、ゴエモンテクターに。

 フーディーニが右腰に入り、フーディプレートに。

 ツタンカーメン、ノブナガが右腕に入り、ツタンブレイサー、ノブナガードに。

 エジソンが右肩に入り、エジソニックショルダーに。

 

 ニュートンが左肩に入り、ニュートニックショルダーに。

 ビリー、ベートーベンが左腕に入り、ビリーガード、ベートブレイサーに。

 ベンケイが左腰に入り、ベンケプレートに。

 ヒミコが左膝に入り、ヒミコテクターに。

 グリムが左下腿に入り、グリムレッガーに。

 リョウマが左脛に入り、リョウマグリーブに。

 

 ―――そしてムサシが胸に宿り、ムサシェルブレストを構成すると同時。

 全ての力がゴーストのマスクを覆っていく。

 兜を被ったような新たな頭部、ペルソナグランドール。

 そこに黄金の眼光を輝かせ、仮面ライダーゴースト・グレイトフル魂が立ち誇った。

 

〈大変化!!〉

 

 アナザーゴーストがその威容を見て、刃金を鳴らす。

 彼の中にも宮本武蔵の力は残っている。

 そして、グレイトフル魂の中にも武蔵の力は宿っている。

 

 友と共に戦う者として。

 そして、友が息子に託した意思の見届け人として。

 

〈ガンガンセイバー!〉

〈サングラスラッシャー!〉

 

 グレイトフル魂の手の中に二刀が発生する。

 先の戦いで崩れ落ちた赤い剣もまた、無事な姿でそこに現れた。

 同時に胸のムサシェルブレストが発光。

 ムサシの持つ力がゴーストを満たしていく。

 

「――――行くぞ!!」

 

 金色の光を曳きながら、ゴーストが走る。

 振り上げられる双剣の描く軌跡は、不動の構えで迎え撃つアナザーゴーストと同等。

 

 ―――衝突を始め、数秒。

 双方が二刀流で放つ刃は拮抗し、互いの攻めがぶつかり合う。

 

 が、しかし。

 すぐに、僅かばかりアナザーゴーストの攻撃が先んじ始めた。

 武蔵の技量を引き出す人間の能力の差が、如実に現れてきたのだろう。

 ほんの少しの差で、ゴーストが一息に防戦一方まで追いつめられる。

 

 ムサシの眼が視る光景に、タケルの意識が追い付かない。

 逆にゴーストとの衝突を切っ掛けとしてか、覚醒を始めたアナザーゴースト。

 そちらの剣は冴え渡り、更に加速していく。

 

「ッ、追いつけない……! それでも!!」

 

『タケルよ。今のお前が、お前の力だけで龍の力に追いつくことは叶いません。

 私の力を使うのだ―――ムサシの眼だけで足りねば、我が力で未来を視よ!』

 

「――――ああ! ヒミコ!!」

 

 頭に響く声に導かれ、ヒミコテクターに力を注ぐ。

 ムサシの視点とは別に、ヒミコの視点がタケルの視界に雪崩れ込む。

 同じ視点を見続けてもアナザーゴーストには置いて行かれる。

 だが更にもう一つ違う視点を持ち、それを使いこなせるのならば。

 

 オーバーロードする頭の中、スパークして焼け付く視界で父だけを視る。

 その剣閃に追いつく―――否、追い越す。

 劣勢を正面から押し返し、膠着に持ち直し――――優勢に切り返す。

 

「オォオオオオオ―――ッ!!」

 

 互いの刃が激突し、アナザーゴーストが押し返される。

 ―――すぐさま反撃を放つその刃。

 その二刀による連撃をサングラスラッシャーによる一閃を以て撃墜。

 空いた胴体に、ガンガンセイバーによる斬撃を叩き込む。

 

 斬られ火花を噴き散らしたアナザーゴースト。

 その体が吹き飛ばされ、地面に落ちて転がった。

 

「ゥウ…………ッ!」

 

「はぁ……ッ、はぁッ!」

 

 転がり、呻きを上げるアナザーゴーストの姿。

 それを前に双剣を構え直して、グレイトフル魂は追撃に走り―――その瞬間。

 

「ぬぅ、ぐぁあああああ―――っ!?」

 

 ジャベルが上げた悲鳴に足を止め、そちらを見た。

 そちらを見れば、彼の頭上に一枚の石板が浮いている。

 そのプレートから放たれる波動が彼の手にした眼魔眼魂に注がれているようだ。

 燃え上がりながら崩れていき、やがてはプレートだったものは全て眼魔眼魂の中へ。

 突然の事態に、タケルが困惑しながらジャベルを見る。

 

「なんだ……!?」

 

 その事態を前にして、黒ウォズはアランを巻き込みストールによる移動で避難した。

 地面に転がされたアランが、そんなジャベルを見て表情を歪める。

 

「何が起こった……!」

 

 炎の波動に呑み込まれたジャベル。

 その手の中でウルティマ眼魂が起動し、彼の姿を別物に変えていく。

 通常のウルティマではなく、その上から赤い衣を纏った新たな姿。

 

 大きな眼球がついた装甲に頭を覆われたウルティマが、ゴーストに視線を向けた。

 

『―――標的を確認、排除します』

 

「!?」

 

 明らかにジャベルではない、別物の声

 そう口にすると同時に突き出される掌から、火炎弾がゴーストを目掛け飛ぶ。

 飛来する火炎弾を腕で殴りつけ、地面に叩き落とすグレイトフル。

 瞬間、タケルは意識に流れ込んでくるものを感じた。

 

「っ……! あの男の命を使ってるのか!?」

 

 今の攻撃は、取り込まれたジャベルの命をエネルギー源としたもの。

 ウルティマの眼魂を通じて、彼は何かの意識に()()されようとしている。

 攻撃を通じ、微かに聞こえてくる命の声。

 

「まずっ、逃げるわよ―――!?」

 

 それに覆い被さる武蔵の声。

 ゴーストが僅かに視線を横に向ければ、アナザーゴーストが指で印を切っていた。

 現れるガンマホールに似た時空の歪み。

 それが、アナザーゴーストが撤退することを示していることに疑いはない。

 

 ―――確かに、止めるべきだ。

 彷徨う父を止めることに対して、その背中を追い越すこと。

 その行為に対して、タケルは覚悟を決めた。それでも―――

 

 ゴーストは迷いなく、ウルティマに対し向き直る。

 

「放っておいたら、あそこで命が失われる!

 だから先に、あの眼魔の眼魂を壊してあいつを止める!」

 

 今、父を解放できないことを心の中で詫びる。

 けれどあの命。父であったなら、絶対に見捨てない。

 父を超えるということは、ただ父を倒すということではない筈だ。

 

 ウルティマ・ファイヤーが炎を放つ。

 それを腕で制して、耐える。

 そうして攻撃させるだけで、中にある命の息吹が弱くなっていく。

 

 何を置いても、先にあちらの動きを止めなくてはいけない。

 中途半端に反撃させてはむしろ危険だ。

 ウルティマの頑丈さは先程の戦いでよく分かっている。

 パワーアップしているだろうその姿は、より頑丈になっていると考えるべき。

 それですら耐えきれない一撃で、ウルティマ眼魂ごと吹き飛ばさねばならない。

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

 ジオウがディケイドウォッチをヘイセイバーに装填しながら、彼に並んだ。

 

「―――ソウゴ」

 

「タケルのやりたいこと、手伝うって言ったからね」

 

「……うん。俺は、俺にできる事をする。

 だから目の前で失われようとしてる命を助ける、その魂を未来に繋げるために!」

 

 ウルティマの放つ火炎弾。

 ガンガンセイバーとヘイセイバーが同時にそれを切り返す。

 真正面から叩き返された一撃が、ウルティマ自身を吹き飛ばした。

 

「一気に決める!」

 

 放つべきはこれ以上の抵抗を一切許さず、相手を粉砕する必殺の一撃。

 ジオウの指がヘイセイバーのセレクターを三周分一気に回す。

 最大可動状態になったそのマゼンタの刀身が、強く光を帯び始めた。

 

〈ヘーイ! 仮面ライダーズ!〉

 

 両手に持った双剣を投げ捨てるグレイトフル魂。

 そのままドライバーのリボルトリガーを引き、直後にレゾネイトリガーを押す。

 すると、アイコンドライバーG内部に秘められていたムサシパーカーが解き放たれる。

 

〈ムサシ! ラッシャイ!〉

〈デルデルデルゾー!〉

 

 そのまま同じように、リボルトリガーを引き、レゾネイトリガーを押す。

 それを連続して14回繰り返す。

 次々とムサシのように解放されていく、英雄たちのパーカーゴースト。

 

〈エジソン! ラッシャイ! ロビンフッド! ラッシャイ! ニュートン! ラッシャイ! ビリー・ザ・キッド! ラッシャイ! ベートーベン! ラッシャイ! ベンケイ! ラッシャイ! ゴエモン! ラッシャイ! リョウマ! ラッシャイ! ヒミコ! ラッシャイ! ツタンカーメン! ラッシャイ! ノブナガ! ラッシャイ! フーディーニ! ラッシャイ! グリム! ラッシャイ! サンゾウ! ラッシャイ!〉

 

〈ヘイ! セイ! ヘイ! セイ! ヘイ! セイ! ヘイ! セイ! へへヘイ! セイ! ヘイ セイ! ヘイ! セイ! ヘイ! セイ! へへヘイ! セイ! ヘイ セイ! ヘイ! セイ! ヘイ! セイ!〉

 

 オーバーロード状態になったヘイセイバーが極彩色に輝く。

 剣を構えるジオウの上空に集まっていく15の英雄パーカー。

 彼らが魂を合わせ、形作る曼荼羅。

 その光の曼荼羅の中にゴーストが飛び込みながら、再びレゾネイトリガーを押し込んだ。

 

〈ゾクゾクイクゾー! レッツゴー!〉

 

〈ディ・ディ・ディ・ディケイド!〉

 

 体勢を立て直したウルティマを巻き込む、二十のカードが展開。

 ヘイセイの文字と共に、二十のライダーそれぞれのクレストが描かれたもの。

 それがジオウとウルティマの間に並び立ち、一際大きく輝いた。

 

「ハァアアア――――ッ!!」

 

〈平成ライダーズ! アルティメットタイムブレーク!!〉

 

 振るわれるヘイセイバー。

 その衝撃がライダーズクレストの描かれたカードを通り、圧倒的なまでに増幅する。

 極彩色の光の斬撃。それが全てを粉砕する極光と化し、ウルティマを呑み込んだ。

 

〈全員集合! メガオメガフォーメーション!!〉

 

 ―――その中に。

 15の英雄より力を授かり、黄金の光を纏ったグレイトフル魂が飛び込んでくる。

 極光の中で足掻くウルティマ・ファイヤー。

 抵抗すら儘ならないその体に叩き付けられる、黄金の蹴撃。

 

「はぁああ―――ッ! だぁああああ――――ッ!!」

 

 堅牢なる装甲の、更にその上に装着された炎のアーマー。

 それを一息に粉砕する、絶対破壊の連撃。

 まともにそれを受けたウルティマが、次の瞬間―――完全に崩壊した。

 

 光が収まった場所で倒れ込むジャベル。

 彼の体から転がり出て砕け散る、ウルティマの眼魂。

 朦朧とした意識の中で、彼が呻き声をあげた。

 

「いま、の……力は……」

 

 爆発の残り火が周囲で燻る中、倒れ伏すジャベル。

 

〈カイサーン!〉

 

 その彼の前でアイコンドライバーGを外し、ゴーストが変身を解除する。

 タケルは一度だけアナザーゴーストが既に消えた場所を振り返り―――すぐに視線を外した。

 

 そうして倒れるジャベルに歩み寄り、その肩を抱えて引き起こす。

 

「何の、つもりだ……! 私は……!」

 

「……例え敵だったとしても、俺は助けられる命を助けたい。

 あんたも。アランも……それに、アランのお父さんも」

 

 ジャベルを抱き起しながら、タケルがアランを見る。

 何故か手元に帰ってきたグリムとサンゾウの眼魂を拾いながら、彼は僅かに目を見開いた。

 

「父上を……お前が……? 何故お前がそんなことを望む……私とお前は敵だ。

 父上の事だってお前は何も知らない……そんな事を言う理由がどこにある……!」

 

「俺はアランを知らない。眼魔のことだってよく分かってない。

 でも、それでも俺は、アランのお父さんを助けたいって想いは信じられる。

 だから、俺は――――!」

 

「私の想い……? はっ、そんなもの……!」

 

 自分自身分からないというのに、お前に何が分かる。

 口に出さずともそう態度に出して、アランはよろめきながらも歩き出した。

 タケルの肩にかかる重さが増える。

 どうやら遂にジャベルが意識を失ったらしい。

 

 離れていくアランの背を見送りながら、タケルは静かに顔を伏せた。

 

 

 




 
ガンマイザー「うるさい!!!!!!」
アデル(なんか祈りの間がキレだした…)
 

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