Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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竜の聖女1431

 

 

 

 日は既に落ち、夜闇に包まれた森の中。

 

 ジャンヌは焚火の火を眺めながら座っていた。その隣にやってくるのは、皆が休息している森の奥の方からきたマリーの姿。彼女はジャンヌの姿を認めると、その隣にゆったりと腰かけた。

 そうしてジャンヌの顔色を見て、マリーの方から一言。

 

「どうかしまして、ジャンヌ。気が抜けていたようですけど、お疲れですか?」

「マリー……いえ。疲れてはいません、これでも……サーヴァントですから。

 ただ、見慣れた街が燃えている、というのは些か堪えました。そういう意味では、気疲れもあるのかもしれません」

「そうでした。あなたにとっては、この時代こそが生きた時代なんですものね。

 ……うん! せっかくだから、トークをしましょう! 女子会トーク!」

 

 急に彼女がパン、と両の掌を打ち合わせる。

 マリーはまるで名案であると信じて疑わぬ、といった様子で、突然の提案を持ち出した。

 突然すぎてジャンヌが目を白黒させる。

 

「はい……?」

「わたしたちはサーヴァントですもの。体より精神(こころ)を休めるべきでしょう?

 だったら、せっかくですから女の子らしい会話で潤いましょう? ほら。わたしなんて思春期真っ只中の召喚ですから? 恋とか愛とか、そういう話が大好きでたまらないのです!」

 

 そんなマリーの様子に、調子を戻して小さく笑うジャンヌ。

 

「あはは……折角のお誘いですが、私にはそれは難しいです。慈愛は知っているつもりですが、恋のような感覚はとんと……」

「まあまあ! それは人生の十割を損しています、今から恋を始めましょうジャンヌ!」

「ええ、機会があれば。ではどうか、この場ではマリーの恋を聞かせてください」

 

 そう言ってジャンヌがマリーに促すと、彼女は自分の恋の話を語り出した。

 その彼女の話に乗るように、ジャンヌもまた恋話ではないが、思い出話を口に出す。

 自分が聖女ではない、ただの少女だった頃の思い出。

 

 そうして。二人の少女は揺らめく焚火の前で、互いの思い出を語り合う。

 短い間であったものの、彼女たちは己の抱えた懐かしい情景の中に浸るのであった。

 

 

 

 

 

「ああ、とっても幸せな時間でした。サーヴァントになって良かったわ、まさかジャンヌ・ダルクとこんな話ができるなんて!」

「私の方こそ。かのマリー・アントワネットと、こんな普通の話を語り合うなんて。生前、死後にこんなことがあるなどとは、思ってもいませんでした」

 

 戦いから離れて終始和やかに言葉を交わす二人。

 一時だけでも背負ったものを横に置き、心を休めた彼女たち。

 

 その二人に対し、近くに置かれた通信機から鋭い声がかかった。

 

『和やかに話をしているところ失礼! そちらにサーヴァント反応が急速接近中だ!

 ―――霊基は恐らくライダー、そして、サーヴァント反応の他に巨大な竜種の反応……!

 バーサーク・ライダー、聖女マルタだ!』

「―――マリーは立香さんたちをお願いします。私は……!」

 

 すぐさま立ち上がる二人のサーヴァント。

 ジャンヌの手の中には白い旗が出現し、ばさりと大きく翻る。

 そして彼女はマリーに対し、森の中で休む立香たちのもとに行ってくれと口にした。

 

 ―――直後。

 

 彼女たちの真正面の木々が千切れ飛び、地面が裂ける大惨事が襲来した。

 回転する竜種の突撃。その背に乗ったまま、この場所まで飛来した竜の聖女。

 

 そうしてこの場に推参した竜の背に立つ女は、今まで自分も味わっていた回転を何ともないように溜息ひとつ。乱れた髪を軽く掻き上げつつ、鈴の音のような声を響かせた。

 

「こんにちは、ジャンヌ・ダルク。寂しい夜ね」

「彼女たちを止めてみせます……!」

 

 竜に背負われ姿を見せた先達に対し、ジャンヌは旗を構えてみせた。

 そんな戦闘態勢の彼女を見て、追加で大仰なまでに溜め息をついてみせる聖女マルタ。

 流石にそんな反応が返ってくるとは思っていなかったジャンヌが狼狽する。

 

「そうね、そうなるでしょうとも。聖女たらんと己を戒めていたのに、こうして今ここにいる私は壊れた聖女の使いっ走り。彼女の手により霊基が変えられ、理性は消し飛ばされて凶暴化。

 ……こんな身のどこが聖女だって話よ」

 

 そこまで言い切ったマルタが、ちらりと集まってきた他のメンバーへ視線を送る。周囲の警戒からすぐさまマスターたちを起こし、準備させに走ったクー・フーリンの成果だ。

 彼がいなければもう少し穏便に接近も出来たのだが……彼が遊撃にいる以上、タラスクでの突貫以外に距離を詰める方法がなかったのだ。

 

 登場方法こそ凄まじかったが、彼女からは戦闘の意欲を感じない。

 駆けこんできたソウゴは彼女に対し、疑問を早々にぶつけていた。

 

「あんたは狂化っていうの、してないの?」

「してるっつってんでしょ。今は気合で耐えてんのよ、ふざけたこと言ってるとブッ飛ばすわよ」

「あ、うん。ごめん……」

 

 怒られてしまった。こちらも素直に謝る。

 ソウゴと立香の間に緊張が走る。自分の性格だと普通に話するだけで何故か怒らせてしまい、しかも怒らせると怖いタイプだ。

 するとマルタははっとした様子で、何故か妙な咳払いを始めた。

 

「んんっ! ―――御覧になった通り。

 本来あるはずのない凶暴な衝動を、こうして何とか抑え込んでいる状態です」

 

 そんな彼女の様子に耳をそばだてていたアマデウスが正直な所感を口にする。

 

「彼女の咽喉は今の発声に慣れてるよ。恫喝が日常茶飯事だったりすると見たね」

「なるほど。狂化を本性で捻じ伏せてるってわけか」

 

 感心したようにランサーが頭を振る。

 

 アマデウスの聴覚に疑いの余地はない。彼の耳は音からあらゆる情報を読み取る。恫喝が日常かはともかく、低い声にこなれているのは事実だろう。

 そんなことを暴露されたマルタの目が細くなる。ターゲットロックオン、と言わんばかりの表情。もしかしたらアマデウスは、これから死ぬやもしれない。

 

「とりあえず、あなたたちは今から捻じ伏せてあげるわ―――じゃなくて。

 ……私に与えられたのは監視の役割だった。けれど狂気に侵されたこの身に、僅かに残った理性が訴えかけてくる。ここであなたたちを試すべきだ、とね。

 ならば、我が身命をもって試しましょう。あなたたちが、()()()()()を従える竜の魔女という、今この世界を襲う災厄に立ち向かう力があるかどうかを――――!」

 

 聖女の号令。

 その声に、沈黙していたタラスクが始動する。

 

 ―――先の戦いさえ戯れであったとでも言うのか。

 彼女の意志に従うタラスクの全身には、今までとは比較にならないほど力が満ち満ちている。

 

 もっとも武装を速く済ませ、前に立つのはクー・フーリン。

 強靭無比たるタラスクを前にしても、その身が竦みようなことがあるはずもない。

 

「下がれマスター、前はオレが―――!」

「あんたはこっち!」

 

 だがその瞬間、マルタが手にする十字架の杖が発光する。発光とまさしく同時、ランサーが直前まで踏み締めていた地面が爆散した。

 その爆発が彼の足を止めさせ、即座に踏み込んでくるマルタを躱す事を不可能とする。マルタの杖が振るわれて、しかしそれを朱槍が迎え撃つ。

 

 激突する槍と杖、発生する鍔迫り合い。

 至近距離まで詰まった間合いで、二人が顔を突き合わせた。

 

「―――長物でオレに挑むかよ」

「この杖でそんな事するつもりはないってーの!

 ……けど、近くに歴戦のサーヴァント(アンタ)がいたら、あの子たちの覚悟が見えない、って話よ! しょうがないから、私に付き合ってもらうだけ!」

 

 得物が弾ける。繰り出される超速の槍捌き、対し応じる祈りの杖。

 並みの戦士ならば対応できる筈もない神速に、しかし聖女は間違いなく対抗した。

 そうして攻撃を捌きながら、彼女は舞い散る火花の向こうに見えるもう一つの戦場に意識を向ける。叫ぶのは、いま全力を解き放たれる彼女の守護霊にして、リヴァイアサンの仔の真名。

 

「さあ、行きなさい! 大鉄甲竜、“愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)”――――!!!」

 

 

 

 

 

〈仮面ライダー! ジオウ!〉

 

「ゴォオオオオオオッ――――!!」

 

 正面から飛んでくる蛍光色の文字。

 それを頭突きで弾き返し、主に名を呼ばれたタラスクが大地を轟かせる咆哮を放った。

 開かれたその口の奥に、ちろりと赤い光が灯って見える。

 

 いち早く察知したジャンヌの声が、竜の咆哮の中でさえ皆の耳に入ってきた。

 

「ッ、ブレスが来ます―――! 皆さん、私の後ろに!

 我が旗よ、我が同胞を守りたまえ――――!」

 

 瞬間、この地上に太陽が現出した。

 タラスクの口腔から溢れだす炎の津波。周囲一帯を一気に焼き尽くす竜の息吹。

 それを目の前に、ジャンヌは己の持つ旗を天へと掲げる。

 

「“我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)”――――――!!」

 

 彼女の掲げた旗を中心に、絶対防護の結界が展開される。ジャンヌ・ダルクの有する規格外の対魔力を、あらゆる攻撃から守護される聖域に転換する結界宝具。主の御業の如き聖なる結界。

 それは名高き悪竜、タラスクの炎ですらも防いでみせる。結界にぶつかり、引き裂かれ、周囲へと流れて瞬く間に周辺一帯を焼け野原に変えていく火力。

 

 結界の内側にいる非戦闘系サーヴァント。

 アマデウスがその非日常極まる爆炎を見て、指揮棒を放るような言葉を吐いた。

 

「……あれだ。これ僕たちはついていけない戦いだと思うよ、マリア。音楽家に期待する仕事じゃないよ、これはもう」

「ここにきてへたれるなんてアマデウスらしくもない。戦えなくてもそれはそれとして、友達を応援するくらいはできるものでしょう? あなたから奏でることをとりあげてしまったら、いったい何が残るというのかしら!」

「ああ、うん。まあ……応援くらいなら、何とかね?

 ―――ではマリア、君の歌声に合わせようか」

 

 そう言って、宙に浮く楽団を後ろに呼び出すアマデウス。

 彼は手にある指揮棒を振るい、彼の意志を音として表現する協力者たちへと指示を出した。

 視線はマリーへ。戦場に向かう者たちを鼓舞する歌声を、と彼女に求める。

 

 マリー・アントワネットの声は、“魅惑の美声”。

 それがアマデウス・モーツァルトの奏でる音が導けば、聞いた者にもたらす効果はもはや支援を目的とした宝具と比べてすら遜色のないものとなる。

 神域のメロディーが彩る、それと並ぶ女神の歌声。至高に達した音色の後押しを受け、勇者たちは悪竜との戦いへと臨む。

 

 ジャンヌの張った結界を跳躍することで抜け、ジオウの体がタラスクを目掛けて飛び掛かる。

 

「おおっ、さっきまでより体が軽い!」

 

 王妃の声と音楽家の演奏。

 その力で後押しを受けて強化されたジオウが、タラスクの背中に着地。

 ジカンギレードでもって、炎を吐き続ける頭を伸ばす首を狙い澄ました剣撃を見舞う―――

 

 が、その瞬間には既にタラスクは頭を甲羅の中に引っ込めていた。

 引き戻された頭に当たることなく、空を切る剣。

 

「速い……!」

 

 そしてすぐにも脚も尾も甲羅の中にしまいこみ、タラスクの体が回転を開始する。

 甲羅の上に立っていたジオウの体は、容易にその勢いで吹き飛ばされた。

 

「うわっ、とぉっ―――!?」

 

 灼熱で焼かれた地面の上を転がり、滑るジオウ。ジオウの装甲を装備している故に問題はないが、地面に残留したブレスの残り火でさえも凶器だ。ジュウジュウとスーツの表面が焼ける音を聞きながら、彼はすぐにタラスクの方へと顔を向ける。

 

 竜はジオウが体勢を立て直すのを待つことなどせず、既に全身を甲羅から出していた。即座に大きく振り上げられる前足は、言うまでもなくジオウを踏み潰すための行動に他ならない。

 きたる衝撃に身構えるジオウの前に、マシュの体が滑り込んだ。

 

「ソウゴさん!」

 

 盾に足が押し付けられ、その巨体が有する尋常ではない体重が乗せられる。踏み潰す、という攻撃。それをこんな体勢で受け止めるのでは、たとえ盾が無事に済んでところで、盾を支えるマシュの体は数秒と保つまい。

 

「マシュ! こんのっ!」

 

 即座にジオウはギレードをジュウモードに変形し、タラスクの顔に目掛けて発砲した。

 銃撃の直撃に目を閉じ、頭を逸らして体を揺するタラスク。

 

「はぁああああッ!!」

 

 僅かにとはいえ怯んでいるタラスク。

 その頭を横合いから、突撃してきた聖女が旗でフルスイングした。

 

 殴打の結果、盛大な音を立てながら横倒しにされる竜の巨体。

 解放されたマシュは盾を地につけ、軋む体を震わせながら、しかしそれでも立っている。

 

「マシュさん、ご無事ですか?」

「は、はい……!」

 

 マシュへの心配の言葉はかけど、しかし視線は倒れた竜から放さない。

 ―――いや、放せない。

 

 悪竜タラスクが、この程度の打撃でダメージを負うことなどありえない。そんなジャンヌの思考に対し、その通りだ、とでも言うかのように。

 タラスクはすぐにその巨体を起こし、口の中に炎を溜め込み始めていた。

 

 ごうごうと口から炎をこぼす巨竜の復帰。立香がその様子を見て歯噛みする。

 こちらの戦力に決定打が存在しないのだ。

 

 こちらの戦力における最高火力は、恐らくランサーの宝具だ。彼が積極的に使おうとする槍の一突きではなく、彼の魔力を振り絞って放つ投げ槍の一撃。

 だがそれを用いてさえも、悪竜タラスクを突破できると断言はできない。挙句の果てにはそのランサーも、バーサーク・ライダー、マルタ本人と交戦しているのが現状だ。

 

「じゃあどうやって……!」

 

 答えのない問いを吐き捨てる立香。

 そんな彼女の目の前で、タラスクが再び全身を引っ込めて回転体勢に移行した。

 この突撃もこちらからすれば止めようのない戦法だ。とにかく今対処するならば、マシュの盾で防ぎ、ソウゴの攻撃で傾けて、出来た隙にジャンヌが叩き落とし―――

 

 ゴウ、と。その甲羅の中から炎までもが溢れてくる。ジェットエンジンか何かに火を入れたかのように、回転の速度までが加速していく衝撃の光景。

 それを前にして、立香は呆然と口を開き―――しかしすぐさま二人に呼びかけていた。

 

「マシュ! 白ジャンヌ!」

 

 二人のサーヴァントは、名を呼ばれた理由を即座に理解して、宝具たる武装を構える。それは、二枚盾以外で立ち向かう方法がないという確信だ。

 炎を破壊力、推力に転化した竜の突撃は、爆発音とともに全開で発揮された。

 

「“疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)”―――――!!」

「“我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)”―――――!!」

 

 展開される光の盾。それを覆うかのような光の結界。

 防衛に長けた二人のサーヴァントが同時に使用する、その性能に疑いなどかけようのないはずの防護空間。その防壁に、ミサイルが如くタラスクの巨体が直撃した。

 

「くぁっ……!?」

「ぅっ……!!」

 

 結界を支える二人が、その瞬間に悲鳴を上げていた。

 まずい、などと声を上げている暇すらもない。このままでは遠からず、盾の強度に対する許容量を超過した衝撃に打ち破られ、二人纏めて打ち砕かれてしまうことが、想像に難くない。

 

「―――ソウゴ!」

「分かってる!」

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

 切羽詰っている。その自覚が焦りを加速させる。

 けれどジオウはジオウライドウォッチをジカンギレードに装填し、そのまま静止した。

 

 今のタラスクにただ斬り込んでも、そのまま逆撃を受けて砕かれるのはジオウの方だ。

 だがこのまま耐え切れるわけではないとはいえ、今タラスクを押し留めている二枚盾は、確実にタラスクの勢いを削いでいる。二枚盾が破られる直前までタラスクが消耗するのを待ち、そこに斬り込むことで状況を変える。今のジオウにはそれ以外に手はなかった。

 

 そのタイミングが訪れるまで、ほんの数秒もなかっただろう。

 マシュの、ジャンヌの、二人の足が崩れそうになる。

 その瞬間を見極めて――――

 

「いま―――!!」

 

〈ジオウ! ギリギリスラッシュ!〉

 

 防御結界の外まで踏み出し、タラスクの巨体に正面から光の刃が斬りかかった。

 

 灼熱の炎と回転の衝撃。今までマシュとジャンヌが防いでいてくれた全ての破壊力が、ジオウを襲ってくる。一瞬でジオウの変身システムが解除まで追い詰められているという実感。

 だが、今ここで刃を引くわけにはいかない。ギレードの柄を両手で更に強く握りしめて、ジオウは地面を全力で踏み締める。

 

 地面に投げ出されたマシュとジャンヌの体。それを硝子の花が守るように覆っていく。遠方で歌い、こちらの肉体を活性させてくれているマリーの援護だ。

 

 だが今ここでジオウが引けば、直進するタラスクは後ろにいる全てを粉砕していく。

 

「こん、のぉおおおおッ――――!!」

 

 スーツに内蔵された人工筋肉・タイムラッシュアームが、タラスク突貫の勢いすらも正面から支えるためのパワーを発揮する。

 ジカンギレードを持ち、タラスクと切り結ぶ腕。その前腕部を保護するフレックスアームガーダーが、限界に迫る負荷を吸収・分散することで、何とか持ち堪えさせる。

 地面を踏み縛り、押し込まれる事に耐えるジオウが吹き飛ばされぬよう、タイムラッシュレッグの生み出す力が、彼が立ち続けることを可能にしてみせる。

 膝が砕けそうな破壊力に立ち向かいながらも体を支える足が折れないよう、フレックスレッグガーダーの防御性能が守り抜く。

 

 ジオウの持つ性能が、ここに限界まで発揮されている。

 

 ―――そこまで尽くして、ようやく。

 ギリギリのところで、タラスクの体を大きく弾き返した。

 

 焼け落ちた木炭の山を崩しながら、タラスクの体が地面を転がっていく。

 だが、あの竜が今の攻防で受けたダメージなんて大したことないだろう。今まで通り、またすぐに復帰してくるに違いない。

 

 何とか一度タラスクを退け、膝を落としたジオウ。彼は刀身が焼け付いて煙を吹いているジカンギレードからウォッチを外し、ジクウドライバーへと再装填する。更に武器としての機能を停止したも同然のギレードを投げ捨てて、立香へと顔を向けた。

 

「……やりようは、あるよ。あいつ、ここにいる誰にも止められないんだから―――!」

「え?」

 

 立香の前で、そのピンチをまるで逆転の秘策であるかのように口にするソウゴ。

 はた、と。立香の頭の中にもソウゴが想像しているだろう攻略法……いや、()()()が思い浮かぶ。

 

 頭を動かす、メンバーを照会する、そこに至るまでの道筋を組み立てる。

 そして確認する。ソウゴの言う事が、本当に可能であるのかどうかを。

 

「……上から? できるの?」

「そう、上から! 今ならいける気がする!」

 

 なら信じる、と。立香は即断した。何せ今はその言葉に対し、本当に? などと問い詰めている時間すらありはしない。それに何より、この方法をとるのであれば、一番重要な役割は―――聖女ジャンヌ・ダルクなのだから。

 立香がすぐさまマシュとジャンヌに駆け寄る。体を保護していた硝子の花弁を体から落としながら、彼女たちは何とか立ち上がっていた。

 

「二人とも大丈夫!?」

「は、はい……! なんとか……」

「ごめん、今のがまた来るまで時間がない。

 ジャンヌ―――今度は今のあの攻撃、ほんの数秒でいい。一人で、止められる?」

 

 旗を支えに立ち上がるジャンヌの呼吸が止まった。

 

「タラスクの全力の突撃を、私ひとりで、ですか……?」

「マスター、それは……わたしと同時の宝具展開ですら、止められなかった攻撃です。受け止めるなら、やはりせめてわたしも参加しないと……」

「マシュには別で、同じくらい大変なことをしてもらうから大丈夫……大丈夫?」

 

 今度はマシュが呼吸を止める番だった。

 タラスクの突撃を単独で押し留めるレベルの難関を達成できるか、と問われている。

 

 立香はマシュに視線を向けている。そこに疑念はなかった。彼女の目は、諦めずにこの先に道を拓くには、それしかないのだと確信していた。

 だからこそマシュは理解する。自分という盾が、この人をここから先に連れていくには、それを成し遂げるしかないのだと。

 

 ―――約束した。一緒に立つと。なら、答えは一つしかない。

 

「―――はい、マシュ・キリエライト。タラスク攻略に全霊を尽くします」

「……ありがと、マシュ」

「―――――」

 

 バーサーク・アサシンの言葉が脳裏を過る。彼女は意識は狂化し、あるいは自身の記憶と重ねて言っただけの言葉だったのかもしれない。

 ―――けれど、事実だった。

 

 サーヴァント・ルーラーでありながら、さながら生前の延長であるかのような意識の乖離。

 サーヴァントとしての意識があるか、なんて聞かれたって困る。それが何をすればいいものなのか、学のないこの身には突然言われたって分からないのだから。

 だから出来るだけ、いつも通りにした。サーヴァントがただマスターの意思を代行するものならば、それは生前の彼女が主のサーヴァントであったという事なのだから。

 

 ああ、けれど違うのだ。

 マスターとサーヴァントとは、何かを代行したりさせたりする関係ではない。

 マスターの意思を掲げ、旗を振るだけではサーヴァント失格なのだ。

 

 共に在り、共に戦い、共に笑い、共に泣き、互いに手を取り合う二人。

 今彼女の目の前にある二人こそが、マスターとサーヴァントなのだ。

 

「―――世界に残された希望。カルデアのマスター、藤丸立香。

 復讐の炎に燃えるこのフランスの地において、聖杯の呼び声に導かれしサーヴァント・ルーラー……ジャンヌ・ダルクの名において貴女に受け入れてほしい願いがあります」

「うん」

 

 ―――彼女は旗を振った。

 戦場で血が流れる事を知りながら、その戦場の先導者として立ち上がった。

 だから、彼女は自分のその手が血に塗れていると知っている。

 先頭に立つものである限り、その責任から逃れるべきではないと、逃れられないと知っている。

 

 血に塗れた手のひらを、彼女の前に差し出す。

 その手は、カルデアという世界のために戦う者たちの中で前に立つ、彼女の手の未来の姿だ。

 

「どうか、この身と契約を。

 この地に正しき歴史を取り戻し、人理の破綻を解消し……

 ―――きっと、世界を救うために」

 

 まるで契約をもちかける悪魔のようだ、と自分で思った。

 聖女でないとは自負しているが、悪魔になったつもりはまったくないのに。

 けれど、そんなことなどまるで気にしていないように。

 彼女はすぐさま、その手を強く握り返してくれた。

 

「大丈夫! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――!」

 

 契約を結ぶ。絆を結ぶ。己の霊基に彼女を刻む。

 これで何の疑いもなく、ジャンヌ・ダルクは藤丸立香のサーヴァントだ。

 その実感に、彼女に一度笑いかける。

 笑い返してくれた彼女から、力を分けてもらう。

 

 マスターに背を向けて、既に炎と共に回転する地獄車と化しているタラスクへ目を向ける。

 既に短期間で二度、宝具を展開している。自前ではまるで魔力が足りない。

 けれど、今の自分にはマスターがいる。足りないところを補ってくれる、共に戦う勇者が。

 

「マスター、宝具展開します!」

「うん。ジャンヌ―――()()()()()()()()!!」

 

 マスターの持つ、三度だけの超魔力行使。

 令呪の光がジャンヌを包み込んだ。

 

 先程立ち向かった時は、絶望的な戦力差にさえ見えた攻撃。

 いや―――今でも力関係は変わっていない。

 聖女マルタの従えしリヴァイアサンの仔、タラスク。

 竜種たる彼のその超常存在ぶりは、まるで揺らいでいないのだから。

 

 だというのに、まるで肩の荷が下りた……

 ―――いえ、共有したのでしょうね、と。内心で苦笑する。

 

「主の御業をここに、我が同胞を守る力をここに! “我が神は(リュミノジテ)――――!!」

 

 風を燃やし、周囲に撒き散らすその熱量のみで森を焼き払う。

 祈りの聖女にしか止める事のできなかった聖書の悪竜。

 その身を受け止めるべく、彼女の象徴と化した旗を持ち、祈りを捧げる。

 

 加速する、加速する、加速する―――大地に熱と炎をもたらす竜の姿はもはや地上の太陽に他ならず、それの襲撃は死と同義だ。恒星の如き存在に人が耐えきれる道理はなく、受け止めるなどという選択は本来ありえない。

 だからこそ、その“ありえない”を―――

 

ここにありて(エテルネッル)”―――――――!!!」

 

 奇跡をもって、成立させる。

 

 彼女という存在の奇跡を結界とする、聖なる旗の光のはためき。

 ジャンヌ・ダルクという代行者に許される、主の御業の再現。

 

 それこそが、真正面から激突しにきたタラスクの巨体を受け止めた。

 なるほど。主の御力であるならば、それは可能となるだろう。けれど彼女は人の身だ。主の奇跡を降ろす旗とて、それを再現し続けられる強度はない。

 

「うっ、くぅうう――――!!」

 

 一瞬の奇跡は確かに成し遂げた。

 だがほんの数秒後には、彼女という奇跡はその御旗と共に焼き砕かれるだろう。

 

「マシュッ――――!!」

「っ、はい! “疑似展開(ロード)……ッ!」

 

 けれど、もう一人のサーヴァントがここにいる。

 けれど、彼女と共に立つマスターがここにいる。

 

()()()()()()()()()―――――!!!」

 

 マスターの指先が天を指す。その手に浮かぶ令呪の二画目が消し飛ぶ。

 魔力の充填を瞬時に完了したマシュは、彼女の指令を即座に実行するべく全力で踏み込む。

 下から上へ、大きく振り上げる軌道を描く盾。

 

人理の礎(カルデアス)”ッ―――――!!!」

 

 ジャンヌの結界によりほんの僅か、その場で停滞することになるタラスク。

 彼の竜に弱点があるとすれば、それは()()()()以外にありえない。

 亀などと揶揄される外見はしかし、確かに竜の姿と能力を的確に指摘している。

 

 正面からの回転突撃を受け止め、その場で移動を制限する。

 そんな奇跡の状況を作り出せるならば、それはその瞬間にタラスクの直下に“隙”と呼べるものを作り出すことができる。だからこそ、これは奇跡だ。

 今、この瞬間。タラスクは必殺の攻撃形態にありながら、完全なる隙を晒している。

 

 マシュが盾を振り上げると同時、大地からまるで城壁が如き光の盾が聳え立つ。

 それは天を突くようにせりあがり、亀の腹を尋常ではない速度で打ち上げた。

 

 そうなれば、どうなるか。

 

 ―――タラスクの進行方向が切り替わる。

 回転だけではなく、火炎放射のブーストでまで強化していた突撃速度。

 それが天に向かって彼の体を加速させていく。

 そのまま数秒もすれば、この戦域から彼方へと消えていくことになるだろう。

 

 自身の突撃が逆に利用されていると理解し、空の上でタラスクは即座に炎を吐くのを止めた。

 けれど、それでも回転まではすぐには止まらない。

 

 彼の回転は、()()()()()()()()()()()()()

 

 進行する方向性を定め、全力で加速させていたロケットエンジンの停止。推力の減衰によって、今まで凌駕していた重力に体が従いだす。回転しながら宙に浮く彼の巨体が減速し、天への飛翔ではなく、地への落下に切り替わる。

 

 今まだ回転し続けることで生み出す浮力と、彼にかかる重力の力関係が逆転する一瞬前。

 上昇と落下の力が釣り合い、一瞬だけ彼が空中に静止するその瞬間。

 

「だから……!」

 

 天高くに打ち出された筈のタラスクの更に頭上。

 そこに、硝子の騎馬が翔けていた。

 空を征く馬の上に立つのは、仮面ライダージオウの姿。

 

 彼は、空に上がってきたタラスクを見据え、ドライバーに装填されたジオウライドウォッチのスターターを押し込み、必殺待機状態へと移行した。

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

「これで、俺たちの勝ちだ!!」

 

 ドライバーのリューズを拳で叩き込み、ジクウドライバーをそのままの勢いで回転させる。

 

 宙で進む方向性を失ったタラスクの周囲に、輝く12個のキックの文字が展開されていく。それと同時、硝子の馬から飛び上がったジオウが、飛び蹴りの姿勢に入った。

 キックの文字がカウントダウンのように、1時から時計回りに消えていき、ジオウから見て12時の方向に配置された最後のキックの文字が、タラスクを打ち据えながらジオウの元へ向かう。文字に体当たりされたタラスクの体の向きが、ジオウに腹を向けるように回転させられた。

 

〈タイムブレーク!!〉

 

「うぉりゃぁああああッ――――!!!」

 

 タラスクを打ち据えながら飛んできたキックの文字。

 それがジオウの足裏に刻印されたキックの文字と重なる。

 

 その瞬間、ジオウ頭部の“ライダー”の文字が強く光り輝いた。

 頭と足、二か所の光る文字を合わせて組み上がる“ライダーキック”

 ジオウは空中でタラスクに向け勢いを増し、彼の竜の腹に全力の必殺技を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

『今! 今だ! ランサーくん、いまいま!』

「きたか――――!」

 

 戦場を監視していたドクターの語彙力の壊れた通信。

 それを受け、ランサーの表情が小さく笑う。と、目前の聖女が振るう十字架が輝いた瞬間、周囲が爆発してみせた。それを疾走する事で強引に躱し、最後の一当てを慣行する。

 

 爆炎の中を走破して、夜闇の中で輝く朱色の一閃を奔らせた。

 振るわれる疾風の如き朱槍の一撃を杖で逸らしつつ、マルタは二歩ほどランサーから距離を取って―――空中で起こった爆音に、思わず視線を奪われた。

 

「タラス、――――ッ!?」

 

 空高く見えるその姿。

 太陽の如き炎は消えたものの、無敵の回転を行使し続けるタラスク――――彼は今、マルタの立つこの場に向かって、途轍もない速度で()()してきていた。

 

「ちょ、あんた……!?」

 

 ジオウの必殺技ですら撃破不能。

 けれど、空高くから彼はその一撃によってマルタへ向かって()()されていた。

 マルタを誘導したランサーの手際は抜群だ。マルタでは、このタイミングは回避不能。

 慄然とした表情のマルタがしかし、力を抜いてため息と共に労いの言葉を落とす。

 

「悪かったわね、こんなことさせて……ありがと、タラスク。それとご苦労様」

 

 その瞬間。空より来たる竜の隕石が地上へと落下。

 木を薙ぎ払い地を砕き、周囲に圧倒的な破壊をもたらした。

 

 

 

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