Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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2話同時投降 1/2
 


幸福!今の生き方!2016

 

 

 

〈ファイナルフォームタイム! ド・ド・ド・ドライブ!〉

 

 ディケイドアーマーの肩と胴体―――

 ディケイドの名とバーコードが描かれた部分、コードインディケーター。

 

 その右肩に書かれた文字が、ドライブに変わる。

 同時に、胴体から左肩にかけて書かれている文字がフォーミュラに。

 

 液晶のようなヘッドギアに浮かぶ顔もまた変化した。

 表示されるのは黒いバイザーを下ろした、ヘルメットのような頭部。

 腕と足を覆っていくのは、青いアーマー。

 腕には更にその上からそれぞれタイヤが装着された。

 

「おおぉ~! 何か変わったぁ!」

 

 自分の平たい顔面を撫でながら、ジオウが自分の状態を検める。

 ディケイドウォッチには、更にウォッチを装着する機能があったのだ。

 それを使ってみれば、こうして新たな姿に変わるジオウ。

 

 彼の背後にいつの間にか立っていた黒ウォズが、すぐさま大きく手を挙げた。

 

「祝え! 全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え過去と未来をしろしめす時の王者!」

 

「もしかしてそれ、これ全部にやるの?」

 

 自分の後ろで、またも祝い始めた黒ウォズ。

 そんな彼に、ジオウはドライバーのディケイドウォッチを指で叩きつつ問いかけた。

 

「もちろん」

 

 何の躊躇いもなく、そう言い切る黒ウォズ。

 

 そんな把握作業に対して、彼方から容赦なく弾丸は放たれた。

 当たった者を問答無用でぬいぐるみにするという、1キロ先から放たれる凶弾。

 それは妙に騒ぎ立てているジオウを照準していて―――

 

 ―――その一撃を。

 神速の戦士は察知してから反応して、なお追い越してみせた。

 青い車体が潜り抜けた凶弾が背後にあったテーブルに着弾。

 テーブルが一瞬のうちにぬいぐるみになり、地面に落ちた。

 

「んんっ―――その名も仮面ライダージオウ・ディケイドアーマードライブフォーム!

 我が魔王の手にした力が、更なる力を呼び起こした瞬間である!」

 

 黒ウォズが祝福の言葉を言い切る。

 その横から飛び出してきた黄色い影が、一つのビルの屋上を指差した。

 

「今の一瞬で確かに感じたぜ―――! 奴はあっちだ!」

 

 デスガリアンの狩人、スナイパー・ハンタジイ。

 ジューマンの気配察知すら掻い潜るベテランのハンター。

 だが銃弾を放つ一瞬だけ零れた気配を、獅子の感覚が確実に掴み取った。

 

 ジュウオウライオンが指差した先、そちらに向けジオウが即座に疾走を開始した。

 発揮されるのは加速が乗らずとも1キロを二秒で走破する速度。

 ディケイドアーマーがビルの壁をも駆け上がって、その場を目指す。

 

「ち、速い……!?」

 

 ハンタジイの射撃は約三秒に一度。

 疾走するジオウに追撃を仕掛けることもできず、彼は小さく舌打ちした。

 狩人の極意は引き際、とばかりに彼は即座に撤退を選択する。

 

 相手の速度を見た以上、無理な反撃が自分を滅ぼすと一瞬で理解していた。

 たとえ相手が下等生物であっても、だ。

 狩人とは獲物を侮ったものから死んでいくのだと、彼の経験は知っている。

 

 すぐさま取って返し、ビルから飛び降りるハンタジイ。

 気配を消すのはお手の物。

 彼はほくそ笑みながら、すぐに見つからないだろうルートを構築して距離を開けていく。

 

 一人ずつだ。あの青いのは速いから、誰かを庇わせるのがいいだろう。

 だがどちらにせよ、まずはこちらを正確に察知できるジュウオウジャーから確実に―――

 

 そう考えながら、身を潜めての確実な撤退。

 焦ってただ距離を取ろうとすればいいわけではない。

 彼の実力をもってすれば、敵の付近に潜むことさえも不可能ではなく……

 

 ―――そう思考していたハンタジイの足が、何かに捕らわれる。

 

「なに!? なんだ、トラップだと―――!?」

 

「貴様の逃亡はどうやら完璧なものらしいな。

 だが貴様の位置が一度でも割れた以上、()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 ハンタジイの足に絡んだ鎖が一気に引き戻された。

 その先にいるのは、青いパーカーを纏ったスペクターの姿。

 

 あの場所。そして正面から迫るジオウ。後ろから追ってくる後続たち。

 その位置関係において、相手の意識を掻い潜ることで絶対にバレないルート。

 それを瞬時に構築したハンタジイの経験則こそが驚異であり。

 

 ―――それにまったく同じレベルで追随するのは脱出王。

 完璧すぎる脱出ルートの選択は、脱出王フーディーニにも見えていた。

 完全なる予測に基づいて張り巡らせた、逃亡者を捕らえる鎖。

 

「小癪な……!」

 

 鎖に引き寄せられながら、ハンタジイが銃口をそちらに向けた。

 自身を拘束する相手を撃つことでぬいぐるみに変え、再び逃れるために。

 

 そんな彼の下から、刃の如きヒレが飛び出した。

 コンクリートの地面を泳ぐ鮫が、ハンタジイの真下から飛び出したのだ。

 刃の如きヒレが彼の顔面に叩き付けられる。

 

「ぬぐぉ……っ!?」

 

「やらせるわけないでしょ! 大和―――!」

 

 彼を下からかちあげ、そのまま離脱するジュウオウシャーク。

 彼女が着地しながら空に向かって叫んだ。

 

「イーグライザー!」

 

 ―――そうして。

 彼女の声に応えるように、蛇のようにうねる刀身が空から放たれた。

 

 それはハンタジイの持つライフル銃に絡み付く。

 即座に引き戻されるイーグライザーの刀身。

 強引にライフルを奪い取ったその剣が、大きく振り回される。

 

「タスク!」

 

 全力のスイングで振るわれるガリアンソード。

 そこに絡んでいたライフル銃は投げ放たれて、ジュウオウエレファントに向かっていく。

 

「分かっている!」

 

 思い切り振り上げられた象の足が、それをすぐさま踏み潰す。

 ぐしゃりと潰れて原型を失う愛銃を前に、ハンタジイが声を漏らした。

 

「なんと……!?」

 

 武装を失い、更にスペクターに向け引きずられていくハンタジイ。

 その姿を前にしながら、ジュウオウイーグルが着地する。

 

 イーグライザーを放って取り出すのは、ジュウオウバスター。

 ジュウオウジャー五人による刃を見舞うためにそれを構えて―――

 

「一気に決める!」

 

「ねえねえ、大和くん。それよりも」

 

 そんな彼を止め、自分の手で強制的に振り向かせるジュウオウタイガー。

 突然のことに困惑する彼に、アムは王者の資格を見せつけた。

 

「一気に決めちゃお?」

 

「え?」

 

 引き込んだ相手を必殺の射程距離に収め、スペクターがドライバーを操作する。

 同時にそこに滑り込んでくるジオウ・ディケイドアーマー。

 彼もまたドライバーに装着したディケイドウォッチのスターターを押し込む。

 

「行くぞ、ソウゴ!」

 

「うん! これで決める!」

 

〈ダイカイガン! フーディーニ! オメガドライブ!!〉

〈ド・ド・ド・ドライブ! ファイナルアタックタイムブレーク!!〉

 

 縛られたままの相手に、二つの青い影が一気に加速した。

 全てのエネルギーを足に乗せた必殺の蹴撃が、まったく同時にハンタジイを襲う。

 その破壊力を浴びて彼を拘束していた鎖も千切れ飛んだ。

 

「ご、わぁあああ―――ッ!?」

 

 致命傷を受け、吹き飛ばされて地面を転がっていく怪人。

 転がり終えた彼の体が、地面の上で力なく手足を落とした。

 

 ―――その敗北したプレイヤーに、追加のコインが投入される。

 ハンタジイのコイン投入口に正確に、ナリアの指がそれを投げ込んだのだ。

 

「―――ジニス様の細胞から抽出したエネルギーです。無駄遣いせぬように……?」

 

 コインを入れられた怪人の骸が再起動し、巨大化していく。

 むくむくとほんの数秒で40メートルまで膨れ上がっていくハンタジイ。

 彼はゆっくりと眼下のナリアを見下ろし―――

 

「ありがとうよ、ナリ―――!」

 

『クマアックス! ジュウオウインパクト!!』

 

 その背中を、ワイルドジュウオウキングの振るう斧に粉砕された。

 先日発見した、山の中で岩と化していたキューブクマ。

 それが武装へと変形した、超重の刃・クマアックス。

 

 復活した瞬間に、ワイルドジュウオウキングの剛力で叩き付けられる一撃。

 それを受けたハンタジイが地面に叩き付けられ、爆炎を噴き上げた。

 

 コンティニュー前の敵をスペクターとジオウに任せた五人。

 彼らはコンティニューに先んじて、既にキューブアニマルの合体を済ませていたのだ。

 叩き付けられたハンタジイが、小さく震えながら呟く。

 

「出待ちとは……卑劣な……ッ!」

 

『スナイパーに言われたくありませーん!』

 

 操縦席に座ったアムが、両手で×を描く。

 待ちに徹して獲物の動きを探る狩人に言われる筋合いはない、と。

 それに反論も思いつかぬうちに、老兵が最後に断末魔を上げて大爆発を起こした。

 

「この戦場、年寄りの冷や水だったかぁ―――ッ!?」

 

「…………」

 

 正しくジニスの細胞の無駄遣いを見て、ナリアが小さく舌打ちする。

 そのまま彼女は姿を積み上がっていく巨大コインの中に消した。

 

 

 

 

「うん。こっちでも見えてたし、みんな元に戻ったみたい。良かった」

 

 コンドルデンワーにかかってきた連絡を受け、タケルが笑う。

 ハンタジイに撃たれたものはぬいぐるみになる。

 そのぬいぐるみになった無差別に撃たれた人たちは、大天空寺に集めていた。

 

 ハンタジイが倒された瞬間、ぬいぐるみから元に戻った人たちで寺は大混雑。

 それを総出で整列させ、順番に帰ってもらう。

 ついでに『この人探しています。不可思議現象研究所』と書かれたビラを配るのも忘れない。

 描かれた人物は、大和が先日の戦いで見かけた鳥のジューマンの人間態だ。

 

 電話を切り、小さく息を吐きながらそんな境内の様子を見る。

 

「なんだなんだ? 解決したってのに元気ないな、おまえ」

 

「ユルセン―――!?」

 

 声がしてみたので振り返ると、そこにいたのはユルセン―――だったが。

 その両手には串に刺したたこ焼きとドーナツをそれぞれ持っていた。

 

「ちょ、ユルセン! お前がそんな風に食べ物持ってたら……」

 

「あ、たこ焼きとドーナツが空に浮いてるー!」

 

 子供の声がして、境内の中の人達が少しずつ騒ぎ出す。

 誘導をしていたアカリが顔を引き攣らせ、さっさと引っ込めとジェスチャーを送ってきた。

 

「ハ、ハンドパワー! ハンドパワーですから、これ!」

 

「馬鹿おまえ! どこ掴む気だよ!」

 

「うっさい!」

 

 すぐさま空中のユルセンを捕まえ、地下室の方へと走り込んでいく。

 

 そこに駆け込んだ瞬間、拘束を振り解いたユルセンが飛び出した。

 即座にタケルの頭にタックルをかまし、反撃してくる。

 激突されて地面に転がったタケルは、天井を見上げながら溜め息を吐く。

 

「はぁ……」

 

 寝転がりながらそのまま視線を横に向け、屹立するモノリスに向ける。

 

「なあ、ユルセン。眼魔の世界って、どんなところなんだ?」

 

「はぁー? おまえ、この前自分で見ただろ」

 

 たこ焼きとドーナツ。

 丸い食べ物を抱えながら浮遊する、ご満悦のユルセン。

 そんな姿を見上げつつ、重ねて問いかける。

 

「アランには心がある。お父さんを助けたい、って気持ち。

 状況に戸惑う気持ちも、お兄さんに何を思えばいいか分からないって迷いも……なのに何で。

 眼魔の世界は、体を眠らせて眼魂だけで活動して、心がない事が完璧だなんて……」

 

「そりゃおまえ。まずはそこが別の話だって。

 肉体を眠らせてるのと、心を無くしちまえってのはまったく別の話なんだよ。

 何ならあいつら、昔は全員普通にこっちの世界みたいに暮らしてたわけだし」

 

「―――え?」

 

 人間みたいに暮らしていた、と聞いて。

 タケルが上半身を起こして、それを口にしたユルセンを見る。

 

「それってどういう……!?」

 

「心がどうこうって話は、眼魂のおかげで一応みんな死ななくなった後にダントンが―――」

 

「くぉらぁ―――ッ!」

 

 続きを口にしようとしたユルセンが、杖で殴り飛ばされる。

 そこに現れたのは、壮年の男性。タケルにゴーストの力を与えた者。

 今まで中々姿を見せなかった、眼魂仙人の姿であった。

 

「ったいなー! なにすんだよおまえー!」

 

「お前が余計なことまで言うからじゃ!」

 

「なぁにが余計なことだ! おまえが何も教えなさすぎなだけなんだよ!

 いーつまで経ってもガンマイザーのことすら説明しねえし!」

 

「全てを説明すれば、情報がいつどこから流出するかも分からん!

 眼魔に対抗する策はあまりにもか細い道筋……アリの一穴すら許されんのじゃ!」

 

「どーせ状況が混沌としすぎて、何を説明すればいいかも分かんなくなってるだけだろ!」

 

 この野郎! とまたも杖を振り上げる仙人。

 が、それを察知したユルセンはあっさり潜り抜けてみせた。

 そのままたこ焼きとドーナツを彼の顔にぶつけ、姿を消す。

 

「ぬお……っ!?」

 

「おっちゃん! 今の話は一体なに!?」

 

 顔面に当たった食べ物、まだ熱の残るたこ焼きをわたわたと叩き落とす。

 その内に、タケルが立ち上がってその肩を掴んでいた。

 

 逃がす気が一切なく、完全に掴まれた仙人。

 彼は凄まじく渋い顔を浮かべ、何かを考えるかのように天井を仰いだ。

 

「むぅ……仕方あるまい。

 いいだろう、まずはユルセンの奴が口にした男の話をしておこう。

 ダントンとは、眼魔の生き方に反旗を翻した男だ」

 

「眼魔の生き方……?」

 

「うむ。眼魔は死ぬことのない体を求め、肉体を眠らせて眼魂に意識を宿し活動することを選んだ存在じゃった。だがダントンは眼魂ではなく、肉体を不死身に改造することで人が死なない世界を作りだそうとした。結果、眼魔世界においてその両派閥は戦争になったのじゃ」

 

「戦争!? でも……!」

 

 眼魔の世界は争いのない世界。アランは今までそれを信じていた。

 今は確かにクーデターに近い状況で、追われてはいるが―――

 それでも今までは、争いのない世界だったのではないのだろうか。

 

「だからじゃ。その戦争では多くの者が死んだ。

 故にそうした戦争を経験した眼魔は、争いが生まれない世界を求めた。

 主張が割れたのは心があるから。ならば心を封印すれば、戦争は起きない。

 勝利した眼魂側のトップはそれを認め、一部の人間を除き全て夢の中で生かす事を選んだ。

 それがお前がユルセンと向こうの世界で見た、“眠りの間”じゃ」

 

 ユルセンは一部の人間を除き、眼魔の民は眠っていると言った。

 彼らはあのカプセルの中で幸福な夢に浸り続け―――

 そして眠っているうちに生命力が尽きて、死んでいくのだと。

 

「……戦争が起きないように、今を生きることを止めた?」

 

 タケルの言葉に対して仙人は何も言わず。

 ただモノリスへと向き合い、ゆっくりとそこに描かれた眼を見つめた。

 

「わしはあえて何も言うまい。この事実に何を思うのかは、タケル……お前次第じゃ。

 だが一つ言うならば、ダントンという男の選択は余りに非人道的な研究であった」

 

「……おっちゃん、もしかしてダントンって人のこと嫌いなの?」

 

「……わしは何せ、眼魂仙人じゃからな。眼魂を否定する奴は嫌いなのじゃーい」

 

 そう言って何故かその場で貧乏揺すりを始める仙人。

 彼は己のことを眼魂仙人、と語る。

 だがそもそもの話として、この超常の力の源―――眼魂とは何なのか。

 

「じゃあ眼魂って何なの? 眼魂の仙人なおっちゃんなら知って……」

 

「む! この気配!」

 

「え?」

 

 がばっ、と大きく振り向いた仙人がタケルの背後を指差す。

 釣られて振り返り、そこに何もいないことを確認。

 ブラフであったことを理解して、すぐさま振り返る。

 

 ―――数秒足らずにうちに、そこから仙人の姿は消えていた。

 

「ああ、もう! 何なんだよ、何で逃げるんだよ!」

 

 そう言って、仙人の消えた地下でタケルは地団駄を踏んだ。

 

 

 

 

「ケーキかぁ……どう思う?」

 

「美味しそうだと思うよ?」

 

「買わないわよ」

 

 ―――色々あった後の夕刻、買い出しの帰り。

 ケーキショップを眺めながら、指を銜える二人。

 アムと立香を細目で見つつ、オルガマリーが即切り捨てる。

 

「たまにはドーナツ以外のスイーツ、いいよねぇ」

 

「所長……店長は食べたくないの? ケーキ」

 

「わたしたちは一応自分たちの店の商品の材料の買い出しに来たのよ?

 他所の店のスイーツ買って帰ってどうするのよ。あと店長言うな」

 

 そう言って、両腕に下げた買い物袋を上げる彼女。

 言いつつもしかし、オルガマリーは買い出し用の財布の中身を検める。

 

 そもそも商売が軌道に乗り始めたからと言って、余裕があるわけじゃない。

 何を買うにしても人数が多い集団だ。

 ちょっとしたものでも全員分買えば出費はかさむ。

 商売のための材料費だってただじゃないのだし。

 

「ツクヨミも食べたくない?」

 

「私? いや、私は……どちらかというと、甘いものより辛いものの方が」

 

 そんなやり取りを傍から見ていたツクヨミ。

 味方に巻き込もうとしたが、しかし取り込みに失敗する立香。

 そうなって、彼女はちぇー、と作戦失敗に口を尖らせる。

 

 溜め息を吐くオルガマリーに、苦笑するツクヨミ。

 

「ただ、ちょっと意外かも。そうやって家計の管理みたいなことしてる所長さん」

 

「……馬鹿言いなさい。

 金額の桁は違えど、こんなんよりよっぽどシビアな経営管理をしてたのよ、わたしは。

 カルデアの責任者が誰だと思ってるのよ」

 

「凄い! じゃあケーキ代くらい簡単に捻出できちゃったり!?」

 

 言いながら背中に取り付くアム。

 めんどくさい、と表情に浮かび上がるが彼女はものともしない。

 獲物を定めた白虎に取り付かれ、オルガマリーは盛大に溜め息を落とした。

 

「……今日だけよ」

 

 諦めたように肩を落とすオルガマリー。

 そんな彼女の背中を見ながら、立香が首を傾げる。

 この財布の緩さでホントに彼女は施設の経営が出来ていたのだろうか、と。

 

「いらっしゃいませー」

 

 そうして店内に入った彼女たちの目の前。

 なんと、残っているケーキはホールで一つだけだった。

 よほど人気なのか、むしろ喜んでレジに向かうアム。

 

 ―――その直後、一人の男性が店に駆け込んできた。

 今まさに売り切れようとしているケーキを見ると、やってしまった、と。

 大きく顔を歪めて、額に手を当てた。

 

 そのあまりの様子に目をぱちくりとさせるツクヨミ。

 一体何が、と。そうしてその彼の後ろ。

 店外で車いすに乗って待っている、一人の少女を見つけた。

 

 小走りでアムの背後に近寄り、店員に話かけてる彼女をつつく。

 

「ツクヨミちゃん?」

 

「ねえ」

 

 そうして後ろの彼らを指し示し、彼女の動きを止めさせた。

 

 

 

 

「いや、本当にありがとうございます。遅かったのは俺らの方なのに……」

 

「お兄ちゃん、凄い顔してたもんね」

 

 ケーキの箱を抱えながら車いすに座る少女と、それを押す男性。

 彼らと一緒に歩きながら、アムはいえいえと手を横に振る。

 流石に病人の少女にケーキを譲る程度の良識は持ち合わせていた。

 

「こっちこそ感謝ね。余計な出費をせずに済んで」

 

 オルガマリーはそう言って肩を竦める。

 それに苦笑した男性―――不破数宏。

 

「もしよかったら、今度は私たちが出してるドーナツなんかも食べに来てね」

 

「皆さんがお店を出してるんですか?

 わあ、行きたい! ねえねえお兄ちゃん、今度連れてって!」

 

「ああ、次の休みにな」

 

 談笑しつつ、自分たちが出店してる場所を教える。

 そんなことをしつつ、目指すのは少女―――不破まりんが入院してる病院だ。

 

 辿り着いたそこで、ツクヨミが声を上げる。

 病院の駐車場でバイクを止め、寄り掛かっている人。

 それは彼女たちもよく見知った顔だった。

 

「あれ、マコトさん?」

 

 声をかけられて、気付いた彼が振り向く。

 

「ああ、お前たちか。どうしたんだ、病院なんかに来て」

 

「マコトくんこそどうしたの?」

 

「俺はカノンの送り迎えだ。

 体を取り戻し……体が治ってから、一応定期的に検査をしてもらってるからな」

 

 一般人が一緒にいることに途中で気付き、言い直す彼。

 なるほど、と。それに納得して頷くツクヨミ。

 

 そこに丁度、病院から出てきたカノンがこちらに走り寄ってくる。

 

「お兄ちゃん。迎えに来てくれて、ありがとう」

 

「このくらい何でもない。俺たちは先に帰るが……

 大天空寺でいいなら、荷物は載せていってもいいぞ。どうする?

 その量だと……流石に全部は無理だが」

 

 カノンの分のヘルメットを取り出しながら、彼が皆の荷物を見る。

 四人で分けて抱えている屋台で使うような材料だ。

 マシンフーディーには、流石に全部は入らないだろう。

 

 とはいえ少しでも運んでもらえるなら儲けものだ。

 一部だけ彼に渡して、残りを三人で分ける。

 

 アムの帰宅先は大天空寺ではないので、ここからは四人から三人だ。

 そういう意味でも一部だけでも持って行ってくれるのは助かる。

 

「私たちも帰ろうか。じゃあ不破さん、まりんちゃん、またね」

 

「お店、遊びにきてね。特別サービスしちゃうから! 店長が」

 

「あんたたちでやれ」

 

 そう言って、不破兄妹に手を振って歩き出す皆。

 にこやかにその手を振り返して別れるまりん。

 

 ―――その背後で、不破が声を上げた。

 

「あ、あの! もし良かったら明日、時間があればまりんに会いに来てくれませんか?」

 

「お兄ちゃん?」

 

 兄の突然の発言に困惑する妹。

 いきなりそんなことを言われて、皆で顔を見合わせる。

 

「俺、警備員の仕事してるんですが……明日からの世界五大文明宝石展、っていうイベントの会場警備がありまして。こっちに来る時間が取れないんで、もしよければまりんの相手になってもらえれば、なんて」

 

 きょとんとしながら彼の突然の言葉を聞く皆。

 それを見て、焦って頭を揺らす不破。

 

「ああ、いきなりこんなこと言われても困りますよね。

 すみません。あー、えっと……」

 

 そんな彼の様子を見て、カノンがマコトの袖を引いた。

 少し驚いて、しかし小さく笑う彼。

 

「言っただろう。病院までの送り迎えくらい、大したことじゃない」

 

「うん、ありがとお兄ちゃん。あの……私、来ていいですか?」

 

「所……店長、私たちは?」

 

「自由時間の使い道なんて好きにすればいいでしょ。店長言うな」

 

「じゃあ、とりあえずまた明日!」

 

 それを聞いて顔を綻ばせた不破が、大きく頭を下げた。

 その場でまりんの病室等、必要な情報を教えてもらう。

 

 そうしてから別れて、彼らが病院の中へと入っていくのを見送る。

 

「一体どうやって知り合った人だったんだ? あの人は」

 

 車いすを押して病院に入っていった兄妹を見送り、マコトが問う。

 特にどういう知り合いでもなくケーキ屋で顔を合わせただけ。

 そんなことを聞いて、珍妙な顔をするマコト。

 

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 

「いや……」

 

 妹が心配なのはよく分かるし、だから頼みに特に思うところはない。

 入院中の妹に年の近い同性の友人がいればいいと考えたのだろう。

 

 兄妹で暮らしていて、妹が病院暮らしというなら負担も相当なはずだ。

 だから兄が仕事を疎かに出来ないのはよく分かる。

 

 マコトたちは今住居を大天空寺に頼っている。

 その上でマコト自身は眼魂であるために、生きるのに一切金銭はかからない。

 

 こうしているカノンの通院費は小さくないが―――

 それでも、天空寺龍が保管してくれていた深海の家の貯金を崩せばどうにでもなる。

 いずれはマコトも職につく必要があるが、全ては眼魔などをどうにかしてからだ。

 

「不破さんがどうかしたの?」

 

「妹を持つ兄として、シンパシーを感じたとか?」

 

 少し茶化すようなツクヨミの言葉に、曖昧に頷くマコト。

 それは決して間違いじゃない。

 いや、むしろマコトの感じたことに、一番近い分析かもしれない。

 

 けれど、そんなことは絶対にありえないだろう。

 ああして平和に過ごしている兄妹だ。

 まるで以前の自分のようだ、なんて。そんなことあるはずもない。

 そんな感覚を呑み込んで、彼は家路についた。

 

 

 

 

「ハンタジイは随分とあっさりとやられたようだが……さて。

 君はどうだい、ドロボーズ?」

 

 ―――チームジャグド。

 この星に来て一番に出陣したチームリーダー、ジャグド。

 彼はジュウオウイーグルに討ち取られ、敗死した。

 結果として、今までチームが丸々一つ浮いてしまっていたのだ。

 

 とは言っても、だ。

 それらのプレイヤーは、ほぼアザルドとクバルのチームにそれぞれ振り分けられた。

 自分のプレイスタイルにあったチームに、自ら所属しにいったのだ。

 

 だがその中から二人、どちらにも所属せずに声を上げたものがいた。

 それがハンタジイ、そしてドロボーズ。

 

 彼らは自身のゲーム内容次第ではチームリーダーに取り上げて欲しい、と。

 そうジニスに対して意見を上げ、ジニスはそれを了承した。

 

 玉座のジニスに問いかけられ、唐草模様の丸い二頭身が腕を振り上げる。

 

「お任せ下さい、ジニス様! このドロボーズ! ジニス様に楽しんでいただけるよう、最高に素晴らしいブラッドゲームをご覧にいれてみせます! そう、ジャグド様の名に懸けて! いってきまーす!」

 

 そのまま返事も聞かずに飛び出していく丸いの。

 そんな姿を見送って、同席していたアザルドがテーブルに寄り掛かった。

 

「んで? あいつはどんなゲームをするって?」

 

「さあ? 金銭を盗んで回って地球の経済を混乱させるなどと言っていましたが」

 

 クバルの退屈そうにモニターを中の地球を眺めながらの返答。

 テーブルを揺らしながら、アザルドがそのゲームの内容を想像する。

 が、どうにもしっくりこない。

 

「それ、あいつ一人でどんだけかかるんだ?」

 

「あなたでさえ疑問に思う程度には、無理があるでしょうねぇ」

 

 肩を竦めてそう言うクバル。

 ()()の息抜きにそれを見に来ているジニスも肩を竦める。

 彼でさえも珍しく溜め息を吐いて、頬杖をついた。

 

「やれやれ……期待せずに待っているよ」

 

 

 

 

「わ、来てくれたんですね!」

 

 病室の中で、まりんが喜色の声を上げる。

 ドアを閉めながら入室して、用意してもらっていた椅子に腰かける三人。

 昨日会った中では、オルガマリーとアムは不参加だ。

 

「もちろん!」

 

「でもごめんなさい。私たちだけで」

 

 見舞いに来てくれた立香とツクヨミとカノンを見て、まりんはテレビを消す。

 そのテレビでやっていたのは、怪物による銀行強盗のニュース。

 それに意識を向けた立香とツクヨミが、一瞬だけ目を見合わせた。

 ―――少なくともそれが、アムが不参加になった理由だ。

 

「いえ、とっても嬉しいです。―――でもごめんなさい。

 なんか、お兄ちゃんが無理に頼んだみたいになっちゃって」

 

「ううん、そんなことないよ?」

 

 少し目線を伏せたまりんに、カノンが微笑みかける。

 

「二人揃ってお兄さんが心配性だものね」

 

 小さく笑いながら、ツクヨミがカノンとまりんの二人を交互に見る。

 言われて、困ったように苦笑を浮かべるカノン。

 

「やっぱりそうなんですか? 昨日少しお会いしただけですけど……

 カノンさんのお兄ちゃん、うちのお兄ちゃんに似てるなって思って。

 ただカノンさんのお兄さんの方が、ずっと頼り甲斐がありそうだったけど!」

 

 そう言って、少女はころころと笑う。

 兄を褒められて悪い気はしないカノンも、照れたように微笑んだ。

 

「そんな……でも、うん。私の自慢のお兄ちゃん。

 まりんさんだって、そうなんでしょ?」

 

「うん、もちろん。でも……」

 

 一切の迷いなく断言するまりん。

 しかしそこでふと、少女の顔が陰りを帯びた。

 今までに見たことのないその顔色に、立香とツクヨミは顔を見合わせる。

 

「……どうかしたの?」

 

 カノンからの問いかけに、何かを迷うまりん。

 だが恐らく言わない方が礼を失する、と。

 彼女が内心で意思を固めて、彼女たちの前で口を開いた。

 

「……その。お兄ちゃん、私のためにずっと無理してるんです。私の手術代を稼ぐために、って。昼も夜も働いて、それどころか私の面倒も見て。昨日だって久しぶりの休みだったのに私を外に連れ出してくれて……

 だから、その……ありがとうございます、お兄ちゃんの誘いを受けてくれて。私が一人にならないって思って、お兄ちゃん凄く安心したと思うんです」

 

 そう言って深く頭を下げる少女。

 

「……そんなに重い病気なの?」

 

 ちょっと、と。ツクヨミが問いかけた立香の袖を引く。

 聞かれたまりんは少し迷い、しかし出来るだけ深刻さが消えるようにと。

 口調を軽くして、自分のことについて語った。

 

「今この国で出来る治療法じゃどうにもならない病気なんだって。

 手術をしたいなら外国に行くしかなくて、そのためには凄い大金が必要で……

 でもそんなお金はないから、どうしたって間に合わないって。

 なのにお兄ちゃん、無理しすぎなくらいに頑張ってくれてて……」

 

「まりんさん……」

 

 助からない、と。既に覚悟を決めている少女が語る。

 それを理解しながらも、必死に資金を溜めようとしている兄。

 兄が必死に戦ってくれているのに、自分が弱くはなれない。

 そんな風に強がる少女の姿に、カノンは覚えがある。

 

 ―――だから似ている、と感じたのかもしれない。

 マコトと、彼女のお兄さんが。

 

「でも私はいいの。それより、残されるお兄ちゃんが心配で。

 いつも私が結婚して出ていく時は泣かないー、なんて冗談ばっかり言うんですよ?

 それより自分の結婚の心配してほしいくらいです。

 どうせなら、早くいいお嫁さんを貰って私の方を安心させて欲しいですよ!」

 

 潤む目を拭いながら、少女が兄を心配する言葉を矢継ぎ早に吐き出す。

 徐々に涙声になっていく彼女の言葉。

 

 ―――そんな彼女の後ろに回り、立香は彼女の背をゆっくりと擦り始めた。

 

 

 


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