Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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2話同時投降 2/2
 


兄妹!戦うべきもの!-1324

 

 

 

「お金お金、今度はどこで盗もうかなー! ぬふふ、色んなとこでお金を盗めば経済が混乱して、なんか色々起きて下等生物はひとたまりもないはず! ジャグド様、ジニス様! 見ててくださいねー!」

 

 ―――ステルス能力で忍びこみ、銀行を荒らしてきた直後。

 適当に金を吸い込んで暴れ回ったら即トンズラ。

 

 すたこらさっさと逃げてきた二頭身が、気になるものを見つけて足を止める。

 壁の張り紙。『世界五大文明宝石展』と描かれた宣伝のためのチラシ。

 それを目に止めて、ドロボーズが頭を捻る。

 

「宝石……宝石? 盗んで下等生物の経済を混乱させるだけでなく、ジニス様にプレゼントできる綺麗なもの……! チームジャグドは優秀なだけでなく、気の利く連中の集まりだったと証明するチャンスですよね、ジャグド様!」

 

 ドロボーズがそのチラシを食い入るように見つめ、会場の場所を暗記。

 そうして今は亡きジャグドの顔を思い浮かべ、空を見上げた。

 彼の脳内で、ジャグドがサムズアップしてみせる。

 

 このゲームを完了した暁には、手に入れた様々な宝石でジニス様をキラキラに飾り立てる。

 そして彼の側近として、ドロボーズがジャグドに次ぐ新たなるチームリーダーに就任。

 そんな素晴らしき世界の到来を予感して、彼は笑い声を漏らしながら動き出した。

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 不破は疲労の残る体を軽く動かしてほぐしつつ、息を吐いた。

 まりんの手術にかかる費用は数千万円。

 気の遠くなるような金額。心が折れそうになるのはいつものことだ。

 けれど、それでも。たった一人の家族、妹だ。

 

 ―――いつか、いつかきっと自分は。

 花嫁姿の彼女が、誰かに娶られていくのを見送るのだ。

 

 まりんは自分の花嫁姿なんて見たら、絶対に泣くなんて言うけれど。

 どう考えたって泣く筈がない。だっていつか来ると分かっていることだ。

 絶対にあいつはとんでもなくいい男を捕まえて、幸せになる。

 そんな未来がいつか絶対にくると、彼は確信しているのだ。

 

 そんな今から覚悟を決めていることが、実際に起こったところで泣くはずない。

 自分はそうなると分かってたことが実際に起きて、泣くような人間じゃないのだ。

 

「……いかんいかん、仕事中だぞ」

 

 微かに震えた膝を一度叩いて、頭を振って、気を入れなおす。

 

 宝石展とはいえ、いくら何でも白昼堂々と強盗に入る奴はいまいが。

 それでも何があるか分からないからこその警備だ。

 そう考えて彼は立ち直して、

 

 ―――突然目の前に怪物が現れたことに、顎を大きく落とした。

 

「う、うわぁああっ!?」

 

「あらら? 俺が見えてる? ……あ、そーか。

 地球じゃステルスは三分しか保たないんだった!」

 

 あちゃー、とクラッカーを複数束ねたような腕で口を覆うドロボーズ。

 透明になってそのまま全部盗み出すつもりだったが、いきなり躓いてしまった。

 彼は仕方なしに、驚愕に尻餅をついた目の前の人間に掴みかかる。

 

 太い腕に挟まれ、そのまま吊り上げられる不破。

 

「ひ……っ!」

 

「丁度いいか。ステルス出来ないとジュウオウジャーどもが来ちゃうし。

 こいつを盾にしよーっと」

 

 ミシミシと人間の体を殺さない程度に締め付けて、彼は再び歩き出す。

 ガラス戸をバリバリと砕きながら、気にもせずに前に進み―――

 

 その背後で、青い車体のバイクがブレーキングの音を轟かせた。

 

「ありゃ? もう来ちゃった?」

 

「―――その人を放せ!」

 

 ドロボーズに掴まれている人間を見て、微かに眉を上げる。

 しかしそこで退かず、マコトは眼魂を構えながら敵に対峙した。

 彼の腰には浮かび上がってくるゴーストドライバー。

 

「仕方ないなー、あれでもなーいこれでもなーい」

 

 それを前に面倒そうに左手を振り上げるドロボーズ。

 ハキダシハンドと呼ばれる彼の左腕。

 右腕のイタダキハンドで吸い込み、頭の中に蓄えた物品。

 それが次々と左手から吐き出されてくる。

 

 吐き出される物品は、その辺の道で見かけそうなラインナップ。

 標識、カラーコーン、工事看板―――

 その中に紛れて、ジュラルミンケースも飛ぶ。

 

 適当に閉めてあった銀色のケースが、地面に落ちた衝撃でガチャリと開く。

 ばらばらと舞い上がる紙幣。

 彼が銀行から奪ってきた、適当に数えて5000万円くらい。

 

 それが見えた瞬間、彼の手の中で人間が強く動いた。

 今まで恐怖に震えていただけの人間が、強い強い欲望で。

 

「おぉ?」

 

 そんな下等生物の情動に対して、ドロボーズが楽しげな声を上げた。

 

「―――――」

 

 大金から目を逸らすように、腕の中の人間が頭を揺らす。

 その様子を見て、ドロボーズは彼の耳に頭を寄せた。

 不破に対して小さな声で囁きかける、悪魔の声。

 

()()()()? 5()0()0()0()()()()()()()()()?」

 

 揺れる。揺れる。揺れる。

 徐々に呼吸が荒くなっていく人間の無様な姿。

 

 それが面白くなってきて、ドロボーズが頭を小刻みに震わせる。

 彼はマコトに見えないよう、ハキダシハンドからクラッカーを一つ取り出した。

 そうして、彼の後ろ手へと軽く押し付ける。

 

「ぬふふ、いいぞぉ? あれ、全部お前にくれてやっても。

 あんな紙切れじゃどーせジニス様には喜んで頂けないだろうし。

 俺が持ってても、下等生物の前で燃やして遊ぶくらいしかできないゴミだ。

 お前が欲しいなら、俺が宝石を盗んだ後はぜーんぶお前にくれてやってもいい」

 

「―――放す気がないなら、力尽くで捻じ伏せる!」

 

 不破に囁き続けるドロボーズの前で、マコトが眼魂を落とした。

 ゴーストドライバーに投入され、パーカーゴーストが解き放たれる。

 

「……代わりにお前は、()()()()()()これのスイッチを押すんだ。

 大丈夫だって。これはただ周りの奴を縛って捕まえるだけの玩具なんだ。

 俺は転がった連中を無視して、宝石を盗んでトンズラするだけ。

 お前は殺されそうになったから、仕方なーく俺の言う事を聞いただけ」

 

 そこまで語り、ドロボーズの腕が不破を思い切り締め上げる―――振りをした。

 

「おぉっと、そこまでだジュウオウジャー!

 こいつを殺されたくなきゃ、そこでストップだ!」

 

 直球でそこまで言われ、ジュウオウジャーではないがマコトが止まる。

 歯を食い縛り、ドライバーを操作する腕も止め。

 そうして、

 

 その直後に。

 ドロボーズの横合いからドロップキックが炸裂した。

 

「うぉらぁああッ!」

 

「ぎょえ―――ッ!?」

 

 真横からレオの蹴りを受け、人質を手放して転がっていくドロボーズ。

 すぐさま解放された不破の許に駆け付ける残る四人の戦士。

 

「―――不破さん! 大丈夫ですか!?」

 

「知り合いか?」

 

「昨日話した人!」

 

 王者の資格を携えた五人の戦士。

 そのメンバーの到着を見て、ドロボーズが転がりながら悲鳴を上げた。

 

「ぎゃあああ! ジュウオウジャーだ!

 このままじゃ俺が負けて、取り返されちまう! 俺が奪った金が全部!

 そうなったらぁ、そうなったらぁ、どうなるのかなぁ?」

 

 ―――反射的に、握らされていたクラッカーのボタンを押し込んだ。

 何かを考えての行動ではなく、今も目の前でちらつく紙幣の山。

 それさえあれば夢が夢でなくなる、という事実を前にして出た咄嗟の行動。

 

 その瞬間、クラッカーの先端が破裂。

 筒の先から無数の帯が飛び出した。

 蛇のように蠢くそれは、ジュウオウジャーの五人を一瞬のうちに縛り付ける。

 

 ―――唐突に捕縛され、地面に転がる五人。

 

「ちょ、なにこれ!?」

 

「一体なんだ!?」

 

「不破さん!? 何を……!」

 

 すぐさまドロボーズがその場に戻ってきて、転がった五人を足で更に転がした。

 

「にひひはははははッ! よーしよしよくやった!

 これで5000万円くらいはお前のもんだ! 良かったなぁ!」

 

「5000万円って……不破さん!?」

 

 そこで自分を気にかけていたのが、先日会ったアムだとやっと気づいたのか。

 不破が呆然としていた顔を逸らして、喋ることもなく口をぱくぱくと開閉する。

 そんな彼に声をかけるアムを蹴り飛ばし、ドロボーズは不破の肩に手を置いた。

 

「うんうん、良かったなぁ。で、5000万円くらいは何に使うんだ?

 なんか5000万円くらいを使ってもいい面白いことがこの星にあるのか?」

 

 どうなのそこんとこ、と。

 何か面白いことがあるのか追求し出すドロボーズ。

 彼は視線を逸らしたまま、小さな声で呟きだした。

 

「―――妹の……そうだ、俺はまりんの手術代を用意しなきゃいけないんだ……

 たとえどんなことをしても……普通に、普通に稼いでたって絶対に間に合わない……!

 だから俺は、どんなことをしたって……!」

 

「……つまんね。どうでもいいや。ほい」

 

 ドロボーズがイタダキハンドをケースに向ける。

 舞い散った現金と共に、5000万円が納められたケースは一気に吸い込まれていく。

 それを視線で追う不破の前で、ドロボーズは彼の肩を軽く叩く。

 

「大丈夫大丈夫! 宝石をちゃーんと盗めるまで預かっとくだけだって!」

 

「あなたは騙されてる! デスガリアンが約束を守るわけない!」

 

 叫ぶ大和をドロボーズの足が転がした。

 そうして彼が体をマコトの方へと向ける。

 

「人質増えちゃった! で、どうする?」

 

 ―――問われたマコト。

 彼は細めた目で、クラッカーを握って顔を伏せている不破を見た。

 そのまま強く拳を握り、ドロボーズへと向き直る。

 

「―――いいだろう、俺もお前に協力する。

 この後に来る連中にお前の邪魔をさせないように、足止めしてやる。

 宝石を盗んで逃げたいならば、逃げればいい」

 

「はぁっ!?」

 

 声を上げたレオがドロボーズに蹴られる。

 

「なになに? お前も5000万円くらいが欲しいのか?

 一個しかないぞ? 山分けにするのか?」

 

「……俺は要らん。その男に全部くれてやる」

 

 そう言ってマコトが背を向ける。

 じゃあ何で協力するの? と、頭を捻って考え込むドロボーズ。

 

 ―――既に現場の連絡を受けていたタケルとソウゴ。

 彼らは一分も経たないうちにその場に訪れた。

 

「マコト兄ちゃん! ―――デスガリアン、は……?」

 

 到着すると同時に、その場の異様な状態に息を呑む。

 大和たちを足元に転がすデスガリアンを背に、こちらを向くマコト。

 彼はゆっくりとタケルたちの方へ向け、歩いてくる。

 

「―――タケル。済まない、お前を俺のけじめに巻き込むことになった」

 

 顰めた顔でそう言い切ったマコト。

 

 彼の懐からノブナガ、ツタンカーメン、フーディーニが飛び出した。

 一瞬だけ空中で静止したその三つの眼魂。

 しかしそのままそれらは、タケルの元へと飛んでいく。

 

 ―――それだけでなく、アランが持っていたはずのグリムとサンゾウもここへ。

 15の眼魂がタケルの元へ集い、その懐に入っていく。

 まるでそれを使えと言わんばかりに熱を帯びる、アイコンドライバーG。

 

 その光景を見て、目を細めてドライバーに手をかけるマコト。

 

「俺は今回、デスガリアンについた。だから……全力で俺と戦え、タケル!!」

 

〈カイガン! スペクター!〉

 

 体をトランジェントへと換装し、スペクターのパーカーを身に纏う。

 そうして二本の角を生やした青と黒の戦士が、頭を覆うフードを取り払った。

 そのままタケルに向かって疾走を開始するその姿。

 

〈レディゴー! 覚悟! ド・キ・ド・キ! ゴースト!〉

 

 愕然としてその光景を見るタケル。

 その前にノブナガ、ツタンカーメン、フーディーニのパーカーが立ちはだかる。

 スペクターの激突を、三人のパーカーゴーストが何とか押し留めた。

 

 その状態で背後に庇うタケルへと声をかけるノブナガ。

 

『タケルよ! 今のマコト相手に言葉は不要! ただ叩き伏せよ!』

 

「そんな、ノブナガさん……!? どういうことなんだよ、マコト兄ちゃん!」

 

 組み合った状態から何とか一度スペクターを弾くパーカーたち。

 手が空いた一瞬に、ツタンカーメンがソウゴの方を向く。

 

『ソウゴ、手出しは無用だよ』

 

「……うん」

 

 そう言われ、ソウゴが一歩退く。彼らの背後に広がる光景。

 ジュウオウジャーの皆が拘束されて、デスガリアンに足蹴にされている。

 この状況で下手に動くわけにはいかないだろう。

 

 ―――だがそれ以上に。

 多分、これは止めてはいけないものなのだと直感する。

 

「っ……!」

 

〈グレイトフル!〉

 

 アイコンドライバーGを取り出し、腰に装着。

 即座にレゾネイトリガーを押し込み、タケルは全ての英雄パーカーを解放する。

 

「変身!」

 

〈ゼンカイガン!〉

〈ケンゴウ ハッケン キョショウニ オウサマ サムライ ボウズニ スナイパー!〉

〈大変化!!〉

 

 黒く輝く鎧に身を包み、15の英雄を宿した姿に変わるタケル。

 ゴースト・グレイトフル魂。

 

 姿を見せたその威容が、スペクターの振るうガンガンハンドを左腕でそのまま受け止めた。

 押し切るどころか容易に弾かれ、そのまま右の拳で胸を殴り飛ばされる。

 圧倒的なパワーの差を突き付けられ、地面に転がるスペクター。

 

「マコト兄ちゃん! どうしてこんなことを!」

 

「そうだ……! こんなことだ!

 だが俺は、ずっとそうしてきた! カノンを救うために、俺は何だってしてきた!!

 お前はそれを知っているはずだ、タケル!!」

 

 何とか体を起こし、膝立ちに。

 そのままガンガンハンドを銃として、グレイトフルへと向ける。

 放たれる放火は全てゴーストを捉え、しかし傷一つ与えられず散っていく。

 

「カノンちゃんのこと……!?」

 

 銃弾を全て真正面から耐えられ、すぐさまスペクターは走り出した。

 再びガンガンハンドをロッドモードへ。

 ドライバーのグリントアイとガンガンハンドをアイコンタクトさせ、力を解き放つ。

 

〈ダイカイガン! オメガスマッシュ!〉

 

「ハァアアア――――ッ!!」

 

 全力を込めたスペクターのその一撃。

 だがそれすら、グレイトフル魂が手を掲げるだけで動かなくなる。

 引力と斥力を支配されたスペクターは進むことも退くこともできず、その場で固まった。

 

「ぐぅ、うう……!」

 

「それって……」

 

 スペクターを停止させながら、ゴーストが視線を彼の奥に向ける。

 

「いいぞー! もっとやれー! 殺し合えー!

 宝石なんかよりジニス様に喜んでもらえそうな見世物が始まったぞー!

 見ていてくださいますか、ジニス様ー! ジュウオウジャーの同士討ちでーす!」

 

 飛び跳ねるデスガリアン。

 彼らをジュウオウジャーに含めているのはともかく。

 その足元に転がっている大和たちと、もう一人の警備員らしき服の人。

 

 その警備員らしき人。

 彼は呆然としながらもマコトの背を眺めていて―――

 

「言った筈だ……! 全力で俺と戦えと!!」

 

〈ダイカイガン! スペクター! オメガドライブ!!〉

 

 その状態で彼はドライバーのトリガーを引く。

 増大するパワーが力場を捻じ伏せ、ガンガンハンドの一撃をゴーストへ届けた。

 

 ―――それを。

 ゴーストは真正面から殴り返して弾き飛ばす。

 

「……分かった」

 

 状況が完全に分かったとは言えない。

 けど、マコトが全身全霊でそれを望んでいるのは確かに伝わってくる。

 

 ゴーストの手に現れる、ガンガンセイバーとサングラスラッシャー。

 それを両方共に銃へと変え、一斉射でスペクターを弾幕で押し潰しにかかる。

 豪雨の如く押し寄せる銃撃。青い体が衝撃に翻弄されて大きく揺れる。

 

「ォ――――ォオオオオッ!!」

 

 その最中を、強引に突き抜けてくるスペクター。

 彼はグレイトフルの持つガンガンセイバーを掴み、力任せにもぎ取った。

 それを自らの武装として構えて、振り上げて―――

 

 振り抜く前に、ゴーストの膝蹴りでくの字に折れて地面に転がる。

 倒れ伏し、体を小刻みに揺らすスペクター。

 そんな有様を見て、ゴーストが僅かに視線を逸らして、声を漏らす。

 

「……マコト兄ちゃん」

 

「まだ……まだだ……! 俺は終われない……!」

 

 地面に落した武器を掴み、再びスペクターは立ち上がってくる。

 

「マコト兄ちゃん!!」

 

「終われるわけがない……!

 妹を救う、俺たちはそのためだけに生きてきたからだ―――!!」

 

 振り上げられるガンガンハンドとセイバー。

 それを両腕でそれぞれ受け止め、グレイトフルは両方とも叩き落とした。

 

「ぬふふふふ! もっと殺し合えー!」

 

 ―――騒ぐドロボーズの後ろ。

 未だにぺたりと地面に腰を落としたままの不破が、目の前の光景から顔を背ける。

 そんな彼にかけられる、アムの言葉。

 

「―――不破さん。本当にこれでいいんですか?」

 

「……まともにやってても、まりんは助けられない。

 本当はもっと早く気づいてた。なのに目を背けてただけなんだ……これであいつの命を救えるなら、それでいい。その後俺がどんな罰を受ける事になっても」

 

 彼が放った言葉に、地面を転がりながらセラが怒気を露わにした。

 

「アンタ……それ、本当にその子のこと大切な家族だと思ってそんなこと言ってんの……!? アンタたちが大切な家族として思い合ってるなら、アンタが罰を受けるってことは、自分の存在を原因にされるその子は、アンタ以上に苦しむことになるんだよ……!」

 

「例えそうでも! 仕方ないだろ……! それでも……! 生きていて欲しいんだ……!

 あいつを死なせたくないんだ……! 俺は、そのためだけに生きてきたんだ……!!」

 

 ドロボーズに渡されたクラッカーを抱えたまま、不破が声を震わせる。

 そんな彼に対して、アムからの言葉が飛んだ。

 

「―――それは。あなたの手で、まりんちゃんの幸せを奪ってでも?」

 

 

 

 

「……私たちにもそういう友達が他にいるんだ。

 できる限り、どうにかしてあげたいと思ってるんだけどね」

 

「立香」

 

 ツクヨミから小さく制する声。

 それに苦笑を返して彼女はそのまま、まりんの背中を優しく擦る。

 

「……私みたいに、そういう病気の人?」

 

「そんな感じ。それをどうにかすることは、私にはできない。

 だからね、私はせめてその子と一緒にいようと思った。何ができるわけじゃないけど、そのくらいはできる筈だって……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、って」

 

 いつか、旅の始まりを迎えた炎の海の中。

 最初に手を伸ばした時から、ずっと変わらない。

 何ができるわけでもないけれど、側にいることだけはできる。

 そう思って、彼女はその手を取った。

 

「……きっと、立香さんの友達も幸せだと思うよ。だって私がそうだもん。

 お兄ちゃんが一緒にいてくれるだけで、今の生活だって私は幸せ」

 

「そうかな? そうだったらいいな」

 

 彼女たちの話を聞いて、カノンが小さく視線を巡らせる。

 それが向かう先はツクヨミ。

 そうやって視線を向けられて、ツクヨミは小さく顔を背けた。

 

 今の言葉が嘘ではないとするならば、候補は多くない。

 この世界にいない誰か、という可能性だってあるけれど―――と。

 

「もしかしたら、どうにかする方法がどこかにあるかもしれない。でも、もしかしたら本当にどうしようもないかもしれない。ただ……気にしないのは難しいけれど、出来るだけ皆で普通に、一緒に過ごしてあげたい―――そう思ってるんだ。どうかな?」

 

 少し、声を落ち着かせて。

 まりんは自分の背中に添えられた手に対して、答えを返す。

 

「……私だったら、それが一番嬉しい。

 その人ともいつか話してみたいな、きっと話が合いそうだから」

 

「連れてくるのはいつでもできるけど……ここでの話は内緒にね?

 今の話は保護者権限でまだ本人には内緒だから。多分、少し気付かれちゃってるけど」

 

 言いながら指を一本立てて口の前に持ってきて、小さく笑う立香。

 そんな状態を隠せるものなのか、と。

 まりんは僅かに首を傾げつつも微笑み返した。

 

「ふふ、その内緒にしてる人も同じ考えなんですよね?

 その人、同じように大切に想ってくれる人がいっぱいいるんだ」

 

「そうかも。保護者みたいな人が、いっぱいいる子だから」

 

「そんなに近しい人がいっぱいいるのはちょっと羨ましいけど……

 ううん、やっぱり羨ましくはないかな」

 

 二人だけの家族からしたら、それは少し羨ましいと。

 一瞬だけ頭を掠めた思考をすぐに放棄する。

 分かってる、と言わんばかりに立香はそんな彼女に笑いかけた。

 

「まりんちゃんには、それに負けないくらい大切な人が一人いるもんね?」

 

「うん。無理はしすぎないで欲しいけど……

 それでも、私のことを考えてくれてるって分かるから。

 だから私も―――お兄ちゃんには、いつかきっとちゃんと幸せになって欲しいなって」

 

 

 

 

「あなたがまりんちゃんに生きて欲しいと思うのと同じくらい、きっとまりんちゃんはあなたに幸せになって欲しいって思ってるはずなのに。ずっと一生懸命、自分を支えながら戦ってきたお兄ちゃんが道を踏み外すのを見て―――本当に、まりんちゃんは幸せになれるんですか!?」

 

 不破とまりん、彼ら兄妹と言葉を交わしたのはたった少しの間。

 ケーキ屋から病院までの間で会話しただけだ。

 けれど、そんな僅かな間でも伝わってくるものは確かにある。

 命を脅かされている彼女にとって、その時間が確かに幸福だったのだと。

 

「綺麗事を言わないでくれ……!

 それが例えどんな悪事でも、何もかも命が助かってからの話でいい……!」

 

 それでも、死んでしまったら終わりだと。

 命を永らえた後ならば、どんな責め苦だって清算する。

 頼むからそうさせてくれと、彼が喉から声を絞り出した。

 

「命を言い訳にして逃げないで! やることが悪事かどうかだってどうでもいい!!

 あなたは! まりんちゃんを不幸にしてでも、自分の願いを押し通したいんですか!?」

 

 ―――不破が揺れる。

 叩き付けられた彼女の言葉に、その体が激しく揺れた。

 

「マコトくんだって脅迫されてああしてるんじゃない!

 あなたの願いに同意して、共犯してもいいと思ってあそこに立ってる!

 まりんちゃんを助けるためなら、その間違いを一緒に背負ってもいいって!」

 

 最早スペクターの動きには精彩など欠片もなく。

 ゴーストの攻撃にただ翻弄されている。

 それで必死に食らいつき、迎撃されて地面に叩き伏せられた。

 

 ―――それでもなお、彼は死に物狂いで立ち上がる。

 

「本当にそれでいいんですか!?

 これが……この願いが、あなたたちの未来で、本当にいいんですか!?」

 

 彼の手が持つクラッカーが、ゆっくりと震えて―――

 そこでドロボーズが後ろでうるさい連中に向け、振り返った。

 

 ジュウオウジャーを拘束しているクラッカーを持つ手。

 それが震えているのを見て、ドロボーズがヒョイと不破に体を寄せる。

 

「うん? なんだなんだ? 要らないのか、5000万円くらい。

 なんだぁ? 要らないのかぁー? 妹のい・の・ち?」

 

「……要る、要るんだ……まりんの命と、それを救うためのお金が……」

 

 その答えを聞いて満足げに頷くドロボーズ。

 彼がでかい腕で、何度か彼の肩を叩いた。

 

「うんうん。良かったなぁ、おまえ。ここでこうしてるだけで、両方簡単に手に入る―――」

 

「でも―――」

 

 不破の手がクラッカーを手放して、地面に落とした。

 そのまま彼は両の拳をそこに思い切り叩き付け、クラッカーを砕く。

 勢い余って地面に叩き付けられた彼の手が裂けて、赤く染まった。

 

「あ! お前!?」

 

「……でも……俺は……! まりんの幸せが、一番欲しかったんだ……!」

 

 ジュウオウジャーの拘束が解ける。

 彼らに絡んでいた帯が光となって消え、その動きが解放された。

 

 そうなることを理解して、ドロボーズはすぐさま不破を捕まえようとし―――

 

〈ファイナルフォームタイム! ウィ・ウィ・ウィ・ウィザード!〉

 

 ドロボーズの立つ地面をぶち抜き、竜の爪がその身を襲う。

 黄金の爪にかち上げられ、仰け反った緑の体。

 それを更に鞭の如く撓った竜尾が打ち据え、吹き飛ばす。

 

「ぬあー!? なんだお前!」

 

「別に気にしなくていいよ。あんたの相手は、俺じゃないから」

 

 転がりながらジオウに問うドロボーズ。

 それに対して、ソウゴは一言告げると黙って翼を動かした。

 羽ばたく翼から突風を放ち、更にその体を地面に転がす。

 

 丸くてよく転がるドロボーズの体。

 ゴロゴロと回ったそれは、そのまま誰かの足にぶつかって止まった。

 

「ありゃ?」

 

 地面から見上げた視界に入るのは、今にも倒れそうな黒い体。

 二本角の青い顔面から鬼神の如き怒りを発する、一人の戦士。

 彼はゴーストに肩を支えられながら、それでも。

 

「―――そうだ。俺たちが重ねたのは、悪事だ……!

 大切なものを守るために、本来やってはいけないことに手を染めた……!」

 

「あら? あらあら? 同士討ちは? もう終わり?」

 

 いつの間にか見世物が終了していたことに、彼は周囲を見回す。

 ゴーストから離れ、スペクターがドロボーズを引き起こした。

 

「想いに囚われ、やるべきことを間違えた―――!

 他の誰のせいでもない。その道を選んでしまった、己の弱さが悪かっただけだ!」

 

「あっ! つまり俺、悪くない?」

 

 引き立てられたまま、頭を傾げるドロボーズ。

 その腕を強く握り潰さんほどに力を籠め、スペクターが引き寄せた。

 

「ああ―――! 貴様が原因の全てじゃない……! だが……!

 人の心に土足で踏み入り、大切な人への想いを弄んだ貴様を―――俺は絶対に許さん!!」

 

 そのまま顔面に拳を叩き込み、弾き飛ばす。

 地面をバウンドしながら跳ねたドロボーズが、くらくらと頭を揺らす。

 

「悪くないって言ったのに何で殴るかな!」

 

 腕をぶんぶんと振り回し、マコトに対して怒るドロボーズ。

 それに対して両の拳を握り締め、スペクターが歩き出す。

 

「タケル―――!」

 

「ああ!」

 

 マコトの声に応え、タケルがドライバーを操作する。

 それに応え、輝きを放つアイコンドライバーGの虹彩。

 

〈デルデルデルゾー!〉〈ツタンカーメン! ラッシャイ! ノブナガ! ラッシャイ! フーディーニ! ラッシャイ!〉

〈大王! 武将! 脱走! オメガフォーメーション!!〉

 

 放たれる三色の光がパーカーとなり、黒い人型と共に現れた。

 

 ノブナガがその手に携えたガンガンハンドを肩に乗せる。

 コブラケータイがガンガンハンドに合体し、ツタンカーメンが武装の形状を鎌に変えた。

 フーディーニがパーカーにある四つのホイールから鎖を垂らす。

 

 四人の姿が、ドロボーズの姿を一斉に見据えた。

 彼は咄嗟にハキダシハンドを持ち上げ、そこから無数の物品を吐き出す。

 車や岩。とにかく大質量を持つ、迎撃になりそうなものを。

 

 その瞬間、ツタンカーメンが手にした鎌を振り抜いた。

 鎌から放たれて、彼らの頭上に出現する青いピラミッド。

 それがドロボーズが吐き出した車などの大質量をそのまま呑み込んでいく。

 

「ありゃりゃりゃ!?」

 

 自分と同等の吸引力を見せられ、ドロボーズが蹈鞴を踏んだ。

 

『人が成長せぬままに生を終えるのは悲しいことだ。

 ―――その悲しみを利用し、挙句に笑いものにするものにこそ我が罰は下る』

 

 青いピラミッドが吸い込んだものをそのまま吐き返す。

 ならばとそちらにイタダキハンドを向けようとするドロボーズ。

 

 ―――が。いつの間にかその腕が鎖で雁字搦めにされていた。

 

「腕に鎖! 逮捕!? 逮捕されてる! 冤罪! 冤罪を主張しまーす!」

 

 その説得力が欠片もない主張に対し、フーディーニが鼻を鳴らす。

 より強くその腕を締め付けて、ドロボーズの動きが封じられる。

 

 腕が満足に動かせず、車や岩に激突されて薙ぎ倒される。

 大質量に埋まったドロボーズの前で、ノブナガがガンガンハンドを振り上げた。

 周囲に展開されていく、エネルギーで形成された無数の銃。

 

『下天からすれば夢幻の如く。

 されど人間五十年のうち、生まれる輝きに尊き価値あり。

 その輝きを汚さんとする者に知らしめるがいい、マコトよ!』

 

「ああ―――俺の生き様、見せてやる!!」

 

〈ダイカイガン! スペクター! オメガドライブ!!〉

 

 ノブナガが砲撃を解き放ち、放たれる火線。

 その中を縫うように跳んだスペクターが、青い砲弾と化した。

 

 無数の弾丸はドロボーズを蜂の巣と変える。

 続けて胴体へと突き刺さる、スペクターの必殺の一撃。

 炸裂したエネルギーが、その体内に叩き込まれて暴れ狂う。

 

「これが俺の生き様なのでしたー!?」

 

 断末魔を張り上げて。

 緑の体がボールのように跳ね回り、墜落して大爆発。

 炎の柱をその場に立てて、ドロボーズが最期を迎えた。

 

 そこから少し離れた、宝石展会場の屋上。

 その場に無数のコインが積み上がっていき、そこからナリアが姿を現した。

 

「―――ジニス様の細胞から抽出したエネルギーです。

 今度こそ。あなたは無駄遣いせぬように励みなさい?」

 

 爆炎の中で崩れていくドロボーズ。

 炎の柱を眺めながら、彼女はジニスの細胞が注がれたメダルに口付けする。

 そうして、軽く腕を一振りして投擲した。

 

 それはドロボーズの頭部にある投入口に確かに投入される。

 すぐさま反応を起こして、40メートル級まで膨れ上がっていくドロボーズ。

 

「サンキュー、ナリア!」

 

 その姿を見て、不破の背に手を当てていたアムが立ち上がる。

 彼女の手の中には、既にジュウオウチェンジャーが握られていた。

 

「怒ってるのはマコトくんだけじゃないって、見せてあげる!

 ―――みんな、行こう!」

 

「ああ!」

 

 五人が並び、王者の資格の面を揃える。

 

「本能覚醒―――!!」

 

 五人の姿が五色の戦士に代わり、同時にキューブアニマルたちが姿を現した。

 それぞれの戦士が乗り込む五体と、続く四体のキューブアニマル。

 それらが即座に、合体の体勢へと変わる。

 

『動物大合体!!』

 

〈アーァアァアーッ!!〉

〈ワイルドジュウオウキング!!〉

 

 イーグル、シャーク、ライオン、エレファント、タイガー、ゴリラ。

 更にキリンとモグラが合体し、巨神の姿を作っていく。

 その巨神の剛腕が握るのは、キューブクマが変形した大戦斧。

 

 目の前に降臨した巨神を前に、ドロボーズが声を張り上げた。

 

「大泥棒になった俺にかかれば何だって盗み放題!

 そこらのビルから下等生物をちょちょいと吸い込めば……あれ?」

 

 彼我の実力差は分かっているのだろう。

 速攻で人質を取ろうと周辺のビルを吸い込もうとするドロボーズ。

 だが持ち上げたイタダキハンドには何の反応もなく。

 

 不思議そうに自分の手を見た彼が、腕の先端が丸々凍っているのを理解する。

 

「ありゃ? 何で?」

 

 困惑するドロボーズの横。

 冷気を纏った竜尾を奮う、ディケイドアーマーが空を舞う。

 

 そして、それを近場のビルで見上げながら叫ぶ男。

 

「祝え! 全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え過去と未来をしろしめす時の王者!

 その名も仮面ライダージオウ・ディケイドアーマーウィザードフォーム!

 我が魔王の掌中において、その力が更に増大した瞬間である―――!」

 

 どこからともなく出現した黒ウォズが、天空を翔ける竜を見上げて述べる祝詞。

 胸のインディケーターにウィザード、オールドラゴンと描かれた形態。

 

 新たな形態で飛行するジオウを、ドロボーズの視線が一瞬追った。

 

 その隙に、盗みを封じられたドロボーズを戦斧が襲う。

 叩き付けられた刃が、彼の体から滝のような火花を撒き散らす。

 

「ぐえー!?」

 

『―――大泥棒!? 自分が盗もうとしたものの価値すら分からないくせに!』

 

 脚部から一時的にキリンとモグラが離れる。

 キリンがその頭部から砲撃を見舞い、モグラが跳躍して突撃した。

 二体の攻撃に挟まれ、左右に揺れるドロボーズ。

 

『あなたが盗もうとしたのは、正しく生きようとする命の尊厳!

 でも盗めてなんかいなかった! ただあなたは、その足で踏み躙っただけ!

 人の心に不法侵入して土足で荒らし回ったコソ泥のくせに、何が大泥棒よ!』

 

 再びキリンとモグラが脚部に合体する。

 歩みを再開したワイルドジュウオウキングが、その戦斧で追撃をかけた。

 脳天から叩き込まれた一撃に、ドロボーズは仰向けに転倒する。

 

「ぬわぁーっ!?」

 

『これで終わらせる!』

 

 王者の資格を操縦桿であるキューブから取り出し、その面を揃える。

 改めてそこへと納めることで、キューブアニマルたちの力が解放された。

 炎を噴き上げるクマアックス。

 

 巨体の踏み込みと共に振るわれる、超重の刃。

 

『クマアックス! ジュウオウインパクト!!』

 

 振り下ろされる刃に、ドロボーズの唐草模様が両断された。

 光と炎を振り撒きながら、崩れ落ちていく緑の体。

 そんな存在が、最後の最期に断末魔を上げる。

 

「今度から盗みに入る時はちゃんと靴を脱ぎまぁ~す!?

 あ、俺って靴履いてなかった!」

 

 爆発し、炎に包まれて今度こそ消滅するドロボーズ。

 その炎の柱にワイルドジュウオウキングが背を向ける。

 

 ―――その巨神の中で、未だに膝を落としている不破をアムは見た。

 

 

 

 

「そっかぁ……海外の病院でねえ……」

 

 大和の叔父―――森真理夫。

 彼はどことなく元気のない同居人たちの様子に、話を聞いてから小さく呟いた。

 聞けば彼らが知り合った少女がとても難しい病気なのだという。

 それを何とかするために、兄が無茶をして―――と。

 

「……不破さんは今まで通りに。

 どうにかできるように、ちゃんと働いてお金をため続けるって」

 

「ふぅむ……」

 

 兄はどうにかして妹を助けるために、悪事に手を染めかけたという。

 何とか思い直してくれたようだが、それでもと。

 きっと彼らの苦しい生活はまだ続いていくのだろう。

 

「まあ、でもあれだ。良かったじゃない、友達としてその子たちに会えて。

 そんで、悪い事するのを止めることができて」

 

「友達として?」

 

 アムが真理夫の言葉に顔を上げ、彼を見た。

 小さく頷き返しながら、彼は手にした料理の皿をテーブルに置いていく。

 

「だってほら、そうじゃなかったら……

 ただこの人は悪い事をした人だ~って。新聞で見たりするだけで終わりじゃない?」

 

 家の隅に積み上げた古新聞を顎で示しながら、そう言って。

 残りの皿を取りに台所に向かいながら続きを口にする。

 

「けど一回友達になって事情を知ったんなら、何を考えるにも正しい情報を知った上で考えられるわけ。何かしてあげられるかどうかとは別にさ。

 本当のことを知ってても知らなくても、自分の真実は自分の中にしかないけど。どうせなら、全部知った上で自分の中の真実を決めたいな、僕は」

 

 テーブルに残りの料理を並べつつ、真理夫はそんなことを言う。

 聞いていたレオが、頭を振り乱した。

 

「……そう簡単に決められりゃ苦労しねえけどなー」

 

「だねえ。で、大和は?」

 

 溜め息混じりに突っ伏すレオに、苦笑しつつ同意を返す。

 そしてこの場にいない大和の事を問いかける。

 

「大和なら外にいますが……」

 

「何か凄い怖い顔してたけど」

 

 タスクとセラが窓へと視線を向ける。

 その先にいるだろう大和の事を考えて、真理夫は苦笑した。

 

「あいつもお年頃だからなぁ。

 呼んでくるから、みんなは先に食べてていいよ」

 

「うっし! まずは食って、その後に考える!

 それが動物ってもんだろ! いただきます!」

 

 言われてすぐさま食事に入るレオ。呆れながら彼を見る他の三人。

 それを横目に見つつ、真理夫は家の外へと出ていった。

 

 ―――家の外に出てすぐのところだ。

 大和はすぐそこで、メモを片手に俯いていた。

 何も言わずに彼に並び、手を差し出す。

 

 彼に気付いた大和が、驚いたように顔を上げる。

 

「……叔父さん?」

 

「その兄妹の連絡先、預かってきたんだろ?

 伝えといてやるから、ほれ」

 

 そう言いながらもう一度手を突き出す。

 大和が手にしていたメモに視線を落とし、声を震わせた。

 

「―――なんで」

 

「そりゃな。少しでもその子たちにとって選択肢が多い方がいいもんな。

 あの人、間違いなくその界隈に顔が利くだろうし。

 何も変わらんかもしれんが、やった方がいいのは間違いない」

 

 病気のことは医者に訊くのは一番だ。

 この街で特に名の知れた医者が近くにいるなら、訊いてみるに越したことはない。

 何らかのコネや伝手で状況をいい方に転がす方法だってあるかもしれない。

 そんな奇跡みたいな幸運があるとは思えないが、やった方がいい事に違いはないだろう。

 

 ―――そんなのよく分かってる、と。

 大和がそのメモを握る手に力を込めた。

 

 医者としてのコミュニティを持つ人間ならば、と。

 もしかしたら、何か少しでも状況を明るくできるかもしれない。

 そう思って、手を出そうとしたけれど―――

 

「……なのに俺は、こうして連絡も取れずにいる。自分の都合で。

 もしかしたら人が一人、助けられるかもしれないっていうのに……

 ―――っ、自分で自分が情けなくなる……」

 

「だーから、連絡してやるって言ってるだろ?

 ったく。お前の情けないとこなんて、今までどんだけ見てきたと思ってんだ」

 

 そんな彼の手の中から、真理夫が連絡先を引っ手繰る。

 

「……ごめん」

 

「いいんだよ。そんな情けない部分を支え合うために、生き物は繋がってるんだろ?

 ま、お姉ちゃんの受け売りだけどさ」

 

 肩を叩き、大和を家の中へと押し込んでいく真理夫。

 彼の背中を押しながら、小さな声で真理夫は続けた。

 

「少しずつでいい。例え理由が何であれ、だ。

 向き合おうとしたお前は、ちゃーんと前に進んでるよ」

 

「……ありがとう、叔父さん」

 

 かけられた言葉より小さい声で、大和は礼を返した。

 頭をわしわしと掻き乱されながら、押し込まれる家の中。

 少しだけ引き攣った笑みを浮かべながら、彼は食卓についた。

 

 

 




 
妹など王位継承の邪魔なので記憶を奪って異世界に追放すればいい。

一話で纏めるつもりが長くなりすぎたので分割。
続けてみっちゃん、ディープスペクター、たこ焼きセーターマン、バングレイとさくさく行きたいですな。(さくさく行けるとは言っていない)
 
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