Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「あーららー」
―――眼球型の巨大な宇宙船らしきもの。
それが落下して上げる爆炎を見下ろしながら、毒々しい青さの怪物が天井を仰ぐ。
その格好は、まるでサーカスの猛獣使いのようで。
彼は紛れもなくサーカスを愛する者であり、今もまたそれらしいことをしていたのだ。
小惑星によるお手玉をしながら、宇宙を飛び回っていた。
だが偶然にも、ちょっとコントロールを失った小惑星があの宇宙船らしきものに激突。
眼球型のそれは、近くにあった星にそのまま墜落してしまった。
叩き落としたのは、明らかに何らかの力により造られた人造のもの。
それは一体なんぞや、と。
疑問に思った彼が、愛船であるサーカスのテントのような形状の宇宙船。
フライングテント号から星の地表を確認してみれば。
「まさか、生きてらっしゃるとは。
まあそんなことよりもこの星、ちゃーんと下等生物が住んでるんですねぇ……」
軽く見た感じ、空飛ぶ巨大な蟲のようなものはいるのは知っていた。
が、一応知的生命体と分類されるだろう下等生物の存在は知らなかった。
いると知っていれば、せっかくだから自分のサーカスに―――
「でぇもなー、少ないし、弱ってるし、面白みもないし……
私のサーカス団員として加えるのはちょっとなぁ……」
団員は消耗品とは言え、彼にだって選ぶ権利がある。
どう見ても、この星の下等生物は質が悪い。
彼はフライングテント号の椅子に背中を預け、足を振り回しながら溜め息を吐く。
「どぉーしよっかなぁ、大したエネルギーにもなりそうにないしぃー……
……よし、決めた。こんな星は無視して、他んとこ行こう!
私の宇宙最大の大大大大大空中ブランコに相応しい場所はどこにあるかなぁ!」
こんな劣悪な星のことはさっぱり忘れ、彼は宇宙船の操舵を再開する。
目指すのは、宇宙間を揺れる史上最大の空中ブランコを設置するに相応しい場所だ。
二体の巨神がぶつかりあう、ある意味では神話の光景。
そんなものを見上げつつ、ダ・ヴィンチちゃんは大天空寺の下に駐車した車を降りた。
『マシュは現着済み……! だが、今回の敵はあまりにも強力だ! 増援は―――』
「……だそうだけど、君はどうする?」
後ろに乗せていたアランとカノンが降りてくる。
移動中にアランの持っていた英雄眼魂も飛んでいった。
つまり、あちらにはタケルも既に向かっているということだろう。
「……貴様は?」
そうして訊き返してくるアラン。
ダ・ヴィンチちゃんは何を当たり前なことを、と。
わざと大仰に肩を竦めて、彼に返答を寄こした。
「君たちの世界の大気の解析のための準備にかかるよ。
マシュが持って帰ってこないと始まらないが、あっちだって必要だもの」
『って、君は救援にいかないつもりかい!?』
「そりゃね。不意の目晦まし程度はどうにかなっても、それ以上はどうしようもない。
私は私にできることをやるだけさ」
赤い霧自体はアカリに任せておけばいいという考えだが、手伝う気もある。
少なくとも、研究のための環境を事前に整えるくらいは。
言いながら歩き出し、大天空寺の方へと向かっていく彼女。
難しい顔をしながらその後に続くアランとカノン。
そんな徒歩の最中、すぐ傍に駐車された天空寺タケルのバイクを見つける。
バイク以外の方法で移動したならば、何もおかしいことはないが。
「―――おや」
そう呟いて、ダ・ヴィンチちゃんが足を止める。
何事かとアランがその先を見れば、タケルのバイクの傍に落ちている物体。
―――マコトが持っていたはずの、コブラケータイだ。
それがコブラモードに変形し、動き出した。
「あれ、お兄ちゃんの……?」
コブラが動き出し、そのままカノンの元へと移動する。
しゃがんで差し出した彼女の掌に乗り上げるコブラ。
「なぜスペクターのものがここに……
おい、スペクターもあちらの戦場に向かっているのか?」
『……あ、ボクだよね。ええと、こちらでは確認できていない。
マコトくんは戦闘には参加していない。
けど、彼が持っていた眼魂は全て、予めタケルくんが持っていたようだ。
脱出王フーディーニの眼魂を最初から使っていたからね』
映像ログを確認しつつのロマニの返答。
それを聞いて、アランが眉を大きく上げた。
「フーディーニ……スペクターの足でもあるはずだ。なのに、なぜ……?」
そうして、脳裏によぎる一つの可能性。
スペクターは眼魂。肉体を眼魔世界に置いたままだ。
つまり、今眼魔世界を牛耳っているアデルの思いのままだということ。
眠りの間に安置されている彼の体。
それをアデルが無理矢理に覚醒させた可能性は存在する。
「まさか、兄上……?」
口を手で覆いながら、最悪の状況に思考を馳せる。
そんなアランを見てダ・ヴィンチちゃんも僅かに目を細めた。
状況がかなり切迫してきたように感じる。
もう少し猶予があると思っていたが、時間はないのかもしれない。
「アラン様、もしかしてお兄ちゃんの身に何か……?」
不安そうに彼を見上げるカノン。
彼女から目を逸らすように、彼は巨神の戦場に視線を送った。
「……まずは天空寺タケルに状況を確認する。貴様が私を案内しろ」
そう言ってダ・ヴィンチちゃんの方を見るアラン。
しん、と数秒静まってから、彼女が口を開く。
「言われてるけど、ロマニ?」
『あ、ボク!? ボクの方かい!?
えっと、通信越しじゃ判断できないから名前呼んでもらっていいかい!?
ロマニ・アーキマンでもDr.ロマンでも何でも!』
「……ロマニ・アーキマン。
天空寺タケルたちがいる場所へと私を誘導しろ」
彼らの会話にころころと笑いながら、ダ・ヴィンチちゃんがバイクを見る。
タケルのバイクはキーが差したまま放置だ。
どうやら乗ろうとはして、そのまま別の手段での移動に切り替えたらしい。
そこに手持ちの通信機を無理矢理つけて、彼へと示す。
「タケルくんには悪いが、これを借りるといい」
「…………いいだろう」
彼は即座に腕にメガウルオウダーを装着した。
起動したネクロム眼魂を装填し、すぐにユニットを立ち上げる。
〈ローディング…〉
放たれるネクロムパーカー。
彼はそれを背後に引き連れつつ、バイクへと跨った。
その状態でカノンへと視線を向けて、声をかける。
「お前は心配せずに待っていろ。スペクターは私が必ず連れ戻す」
〈テンガン! ネクロム! メガウルオウド!〉
〈クラッシュ・ザ・インベーダー!〉
答えも待たず、ネクロムに変わったアランがバイクを発進させる。
連動するように、タケルのバイクが馬のような姿―――
ゴーストストライカーへと変貌する。
それに一瞬だけ戸惑いながら、しかし彼は一気に加速し戦場に向かった。
「アラン様……」
パーカーを纏った白い姿を見送り、立ち尽くすカノン。
そんな彼女を見つつ、ダ・ヴィンチちゃんが顔を上げる。
石段から誰かが駆け降りてくる音。
「あれ、ダ・ヴィンチちゃん?」
「おや、立香ちゃん。どうしたんだい?」
「どうしたも何も、マシュあっちに行ったんでしょ?
だったら私もって……」
そんな彼女の答えを聞いて、片目を瞑って悩み込むダ・ヴィンチちゃん。
「……悪いけど、それより先にやって欲しいことがあるんだ。
多分、時間がないからね。いいかい?」
「―――必要なんでしょう? 何すればいい?」
一瞬だけマシュがいるだろう戦場に視線を送り。
しかし彼女は、ダ・ヴィンチちゃんに向き直った。
『くそっ、なんてパワーだよ……!』
ワイルドジュウオウキングが手にした、クマアックス。
それに対するトウサイジュウオーの右腕、ビッグクロコダイルジョーズ。
鰐の顎が叩き付けられる斧を銜え込み、そこで動きを封じる。
押せも引けもしない力の差。
その状態で、トウサイジュウオーは左腕を振り上げた。
『こんなものか―――!』
巨神の胴体へと突き出される犀の角。
ホーンによる打撃に、ワイルドジュウオウキングの胸が爆ぜた。
衝撃でクマアックスを手放しながら、仰向けに転倒する巨神。
『ぐっ……! まだまだ……!』
キューブの接合部を軋ませながら、巨神が再び立ち上がる。
それを見逃して待ち受けながら、ザワールドがハンドルを軽く指で叩いた。
鰐の口で捕まえていたクマを、適当に投げ捨てるトウサイジュウオー。
『そうだ、まだまだ足掻いてみせろ。
―――そうじゃなきゃつまらないからなぁ!』
『―――っ、そんな事言ってられるのも今の内よ! みんな!』
セラが王者の資格を取り上げ、その面を揃える。
同じように皆がジュウオウキューブを回し、キューブアニマルの力を解放した。
『ジュウオウダイナミックストライク!!』
イーグル、シャーク、ライオン、エレファント、タイガー、ゴリラ。
そしてキリンとモグラ。
ワイルドジュウオウキングを構成するキューブ。
その場に集った全ての力が、一つの光となって押し寄せる。
虹色の光の奔流を前にして、ザワールドは機内に接続したザライトに手をかけた。
『無駄だ。その程度じゃなぁッ!』
トウサイジュウオーが鰐の顎を開いて上げる。
その集い、黒、金、銀の三色の光。
『トウサイトリプルザビースト!!』
九の動物が集まった光に歯向かう三頭の獣。
激突して飛び散る威力。
四散する光が、周囲の建造物をあっさりと溶解させ―――る、その前に。
その威力が周囲を破壊せぬように、白亜の城塞が立ち塞がった。
更には周囲を覆うように、無数の音符状のエネルギー体が展開。
超威力の攻撃同士の衝突が周囲に被害を与えぬように囲い込む。
―――やがて。
虹を引き裂くのは、黒金銀という三色の閃光。
突き抜けてくる三獣の光が、ワイルドジュウオウキングを直撃した。
『うわぁああああ―――ッ!』
転倒して、全身からまるで血のように火花を噴き出す巨神。
その結果に対し、満足そうに鼻を鳴らすザワールド。
彼がトウサイジュウオーをゆっくりと既に倒れた相手に迫らせていく。
『どうした。俺はまだまだ言えるぞ?
この程度じゃ、つまらねえってなぁッ!』
トウサイジュウオーが足を振り上げる。
振り下ろす先には、倒れたワイルドジュウオウキング。
ズガン、と。轟音を立てて叩き付けられた足。
その衝撃がコックピットシートを大きく震動させる。
『……ッ、ここまで手も足も出ないなんて……!』
『それが俺とお前たちの、レベルの差だ!』
更に体重を載せて、ワイルドジュウオウキングを軋ませる。
今にも崩れ落ちそうな、彼らと共に戦う巨神。
その操縦桿であるキューブを握りながら、大和が声を震わせた。
『例えそうだとしても……! 手も足も、何一つお前に通用しないのだとしても!
俺たちは諦めない―――! この
トウサイジュウオーの足を掴む腕。
そこに込められた力が、僅かに黒い巨体を押し返し始めた。
僅かに苛立ちを見せ、ザワールドが足に更なる体重を載せる。
『へっ、俺たちばっか諦めてちゃカッコつかねえもんな……!』
『命で遊ぶお前たちには理解できないだろうな―――
例えどれだけ追い詰められようと、最後の最後まで生きようとする命の力が!』
かけた重量を上回る剛力が、少しずつトウサイジュウオーを押し返す。
増した苛立ちが、そのまま足にかける力を増大させていく。
『下等生物がどれだけ力を重ねようが、ジニス様の御力には遠く及ばない!
それを証明するのが、この俺の存在理由だ!』
『可哀想な理由……! でもそうだよね、あなただってデスガリアンの被害者!
あなたを止めるためにも、私たちはこんなところで負けられない!』
『―――そしてあなたのような人たちを二度と出さないように。
私たちはデスガリアンを、ジニスを、倒してみせる!!』
ワイルドジュウオウキングの力が更に増し―――
そして対するように、トウサイジュウオーから僅かに力が抜けた。
その間隙を突くように、彼らは一気に黒の巨体を押し返す。
『オォオオオオオ――――ッ!!』
押し返されて、蹈鞴を踏んで下がっていくトウサイジュウオー。
全身がダメージで加熱した王者の巨神が立ち上がる。
既に限界を突破して、しかしそれでも戦士たちと共に戦うために。
『―――俺の、ため……? グッ……!?』
―――対して、何故かザワールドの体から力が抜ける。
彼はコックピットの中で、両腕で頭を抱え込むように包む。
脳に走る痛みを堪えるように、必死に。
その様子を見上げていたナリアが、小さく呻いた。
「あん? おいおい、あいつはどうしたんだ? オーナー」
ザワールドの戦いを眺めていたアザルド。
画面の中で引き起こされた不調を見て、彼はジニスに振り返る。
頬杖をついて同じく画面を眺めていた彼は、溜め息混じりに肩を竦めた。
「どうやら、洗脳が甘かったようだね」
「はは! オーナーは連中を甘く見すぎなんだよ!」
珍しいジニスの失態を前に、アザルドが笑う。
それを横目で見ていたクバルが同時に背筋を凍らせた。
一言もなく、態度にも示さず、ジニスの雰囲気が一気に冷えたから。
頭の中まで岩が詰まっている不死身のアザルドは気にしないだろう。
だがクバルからすれば、これは自殺行為以外の何物でもなかった。
すぐさま話を変えるべく、クバルはアザルドに話を振る。
「そういうあなたは、やけに下等生物の肩を持ちますね。
まあ、ジュウオウジャーどもに一度負けたからなのでしょうが……」
「まあな。下等生物の中にも見所がある奴は時々出る、ってことだろーよ。
オーナーだって、そういう奴をザワールドにする人間に選んだんだろ。
だったら、洗脳もきっちりかけとかねえとな?」
ザワールドに選んだ人間。それもまたジュウオウジャーと同じ。
脆弱な種でありながら、強靭な何かを秘めた者であるが故に選んだのだろう。
ただでさえ弱い人間の中から、わざわざ弱い人間を選ぶ理由はない。
こうして戦士に改造する以上、強い心を持った――――
そこで、クバルの悪寒が最高潮に達した。
声に出さず、全力で慄然とする。
今のアザルドの言葉の、一体何が気に障ったというのか。
原因も分からず、これ以上発言するのは不味い。
そう確信して、彼はすぐに顔を伏せた。
洗脳の話か?
ジニスは確実な洗脳を施したのに、下等生物に解かれたのが気に食わない?
いや、その程度の話で気分を害するような存在ではないのだ。
下等生物が足掻く姿を見る分には、彼は寛容ですらある。
だというのに、何故。アザルドの発言のどこが?
ジニスは恐らく強い人間とジューマンを捕獲し、ザワールドに改造した。
強い人間の中には、ジュウオウジャーのような連中もいる
だとすれば甘く見れば、洗脳が解かれるという事態も起き得る。
その程度は、娯楽として割り切るのがジニスのはず―――
「…………ふふ、そうだね。少々、甘く見すぎていた。
―――ナリア。ザワールドを連れて帰っておいで。
今日はここまでにしよう」
彼は地球にいるナリアに、そう言葉を送った。
すぐさま了解の返事を返し、ザワールドとトウサイジュウオーを回収する彼女。
だがその感情の深淵から漏れ出している怒りは、未だ収まらない。
それに触れないように、部屋の端によって待機すること。
クバルに出来るのはそれだけだった。
「―――ただの祈りの間ではないのか、ここは」
アデルは父を追放した祈りの間で一人、天蓋を見上げていた。
そこに浮かぶ15枚のプレート。
先日はそれが反応を示し、1枚どこかへと消えたこともあった。
いつの間にかそれは元の場所へと戻っていたが。
父が大いなる力の根源と繋がるために祈りを捧げる場。
そこで首を上に向けていた彼が、何かに気づいたようにゆっくり振り返る。
「……スペクターか」
「――――アデル。あなたは、この世界に投げ出された俺を戦士として取り立ててくれた。その事には感謝している。
だが、今のあんたの行動は一体何なんだ! 今のあんたからは、かつて感じた戦士としての誇りはどこにも感じない!」
問い詰めるマコト。
彼に対して失笑したアデルが、懐から眼魂を取り出した。
「私は何も変わっていない。私の目的が理解できないというならそれは……
スペクター、貴様の目が曇っただけだ」
〈ウルティマ!〉
アデルの姿が白い戦士に変わる。
言葉を交わして何かが変わるとは思っていなかった。
だからこそ、マコトはすぐさま託された眼魂を持ち出す。
―――深淵のようなディープブルーの眼魂。
その起動スイッチ、ゴーストリベレイターを彼が押し込む。
途端にマコトの全身に走る稲妻。
「ぐ、ぁ……ッ!?」
圧倒的な力の奔流。肉体を砕き、精神を磨り潰すような。
まるで深海に無理矢理引き込まれていくような、地獄の感覚。
―――その感覚を、歯を食い縛って乗りこなす。
この力が己を深淵に引きずり込むものだというのなら。
その深淵の中で戦い抜いてみせる。
己のために。守らねばならぬ妹のために。共に戦う友のために。
「―――――ッ!!」
〈ダイブ・トゥ・ディープ…〉
〈アーイ! ギロットミロー! ギロットミロー!〉
眼魂を押し込み、ドライバーを閉じる。
その瞬間にグリントアイから放たれるパーカーゴースト。
メタリックに輝く、ディープバイオレットのパーカー。
「―――なんだ、その力は?」
アデルが困惑しながら、現れたパーカーを見る。
初めて見る眼魂。英雄の眼魂ではない、ましてスペクターでもない。
微かに思考するのは、新たに眼魂を作ることのできる者。
イーディスの事を考えて一瞬だけ逡巡し、しかしすぐさま彼は腕を突き出した。
放たれる黒い光。
それが変わっていくマコトに向け殺到し、しかし。
〈ゲンカイガン! ディープスペクター!〉
既にドライバーのトリガーを引き絞った彼が。
今までとは違う、銀色のトランジェントに姿を変えていた。
パーカーがその上に纏わって、
ウルティマの放った一撃が、そこでマコトに着弾する。
祈りの間を騒がす、大爆音。
爆発と共に巻き上げられる炎の渦。
それに呑み込まれたスペクターに対し、アデルはゆるりと腕を下げ―――
〈ゲットゴー! 覚悟! ギ・ザ・ギ・ザ! ゴースト!〉
巻き上がる赤い炎を、深海色の炎が塗り潰す。
その中から踏み出してくる、銀色のスペクター。
彼が被ったフードをゆっくりと外しながら、顔を上げる。
大きく肥大化し、凶悪なまでに研ぎ澄まされた二本の角。
―――ケイオスウィスプホーン。
それを始めとして、手足から伸びる鋭利な刃であるクァンタムレイザー。
触れたもの全てを傷付けるような、全身が凶器の深淵の使者。
そう変わったマコトが、ウルティマを正面に見据えた。
「あんたを止めて、アランの家族とこの世界を取り戻す―――
そのためならば、俺はどんな力でも乗りこなしてみせる!」
「…………ふん。
大帝となったこの私に逆らうならば、お前も処分するだけだ。
父上や、アランのようにな―――!」
ウルティマが腕を掲げる。迸る光。
眼魔世界最強格の存在たるウルティマ。
その力が遺憾なく発揮され――――
ただそれを突き破り飛び込んできたスペクターに、彼は顔面を殴打された。
殴り抜ける銀色の拳。
ウルティマの白いボディが宙を舞い、祈りの間の壁に突き刺さる。
「ガッ……!? な、に……馬鹿な……!?」
追撃に走る銀色の光。
稲妻のように暴力的に迫るそれに対し、アデルは両の掌で攻撃を受けた。
掌で受けた結果、肩口まで突き抜けていく衝撃。
ただの拳の一撃で、ウルティマの腕の機能がほぼ完全に停止する。
持ち上げるだけの事すら出来なくなる両腕。
受け止めるために全力を振り絞った足腰までもが、まともではなくなる。
直立することすら敵わず、がくがくと震えだす脚部。
「なんだ……! なにが……!?」
全身を突き抜けていく未知の感覚。
ウルティマが完全に出力負け。しかも、比較するのが馬鹿らしいほどの差。
たった二度の交錯でこんなことになるなど、ありえるはずが―――
「アデル―――! 貴様は生身の大帝をどこかに幽閉しているはずだ!
まずはその、大帝の居場所を教えてもらう――――!!」
握った拳に青く燃える炎。不味い、と直感を超えた確信を得る。
ただ殴られただけで、ウルティマが一瞬で機能不全。
だとするならば、
まず間違いなく、一撃で彼の眼魂ごとウルティマが粉砕され―――
―――その瞬間。15枚のプレートが輝きを放った。
放たれた光は指向性を持ち、アデルに向けて放たれる。
瞬く間の出来事で、更にその次の瞬間。
赤く発光する1枚のプレートが、ディープスペクターの前に落下してきた。
状況が分からず、咄嗟に足を止めるマコト。
彼の前で、炎上を始めるそのプレート。
それがゆっくりとカタチを変えて、人型を成していく。
「なに……っ!?」
その人型は、アデルと全く同じ顔の人間に変わった。
アデル本人はウルティマに変わったまま、確かにその人型の後ろにいる。
当のアデルさえもその現象を見て、明らかに狼狽する様子を見せた。
無表情でスペクターを見つめる彼の口が動く。
『脅威対象を確認―――排除します』
アデルのものではない、明らかな女性らしき声。
その声と同時に、アデルの姿が変わる。
変化していく新たな姿は、怪物染みた外見。
―――頭部、胴体、両肩。
巨大な赤い球体をそれぞれに有した、燃え上がる炎を模った意匠の怪人。
『排除開始』
炎の魔人が腕を上げ、そこから炎弾を放出する。
すぐさまマコトはそれを新たな敵と断じた。
故に拳でその炎を粉砕し、更に大きく踏み込んだ。
銀色の稲妻となり、深淵の炎を纏う拳が魔人の胸に突き刺さる。
「オォオオオオオ――――ッ!!」
拳を叩き込んだ瞬間、更にもう一歩踏み込む。
怪人の胸は、炎のような紋章が描かれた赤い球体の胴体。
―――そのスフィアを、全力で殴り抜いて粉砕する。
怪人は反応する間もなく、五体が砕けてバラバラに散っていく。
「な……!」
明らかにウルティマさえも超えた、炎の魔人。
それさえも物ともせず、拳一つで粉砕したスペクター。
その威力を前にして、アデルが言葉を詰まらせた。
こんな怪物を止める手段は今の眼魔世界にはない、と。
―――だがここに、アデルさえ知らぬその現象は存在する。
砕け散った魔人が掻き消え、頭上に再び赤く発光するプレートが出現する。
出現すると同時、それが再び床まで降りてくる。
次の瞬間にはプレートは炎の魔人に変わり、ディープスペクターに立ちはだかっていた。
「なんだ―――!? こいつ、復活するのか―――!」
驚きながらも、マコトの体は止まらない。
すぐさま拳撃の体勢に入り、魔人に向けてそれを振り抜いている。
改めて狙うのはつい数秒前、何も出来ずに殴り砕かれた存在。
―――確実に粉砕できるはずだった相手が、反応をみせる。
スペクターの拳撃に合わせるように、彼もまた拳を握って振り抜いていた。
空中で激突する互いの腕。
一瞬の拮抗、その直後に魔人の腕が砕け散り、大きく吹き飛ばされる。
「これは……!?」
反応速度だけではなく、躯体の強度も。
たった数秒前の個体からすると、明らかに向上している。
「アデル! こいつらは一体……!?」
地に膝を落としたウルティマの前に、14枚のプレートが降りてくる。
それが先程の赤いプレートと同じように、アデルの顔を持つ人型に一斉に変わった。
『祈りの間に脅威対象の存在を確認。眼魔世界存続の危機と判断。
緊急事態により、ガンマイザーへの接触権限をアドニスからアデルへと委譲』
「ガン、マイザー……!?」
足を止めたスペクターに、炎の魔人が再び向かってくる。
反射的にその足を刈り取り転倒させ、地面に打ち付けられた頭部を拳で粉砕する。
―――完全に破壊すると同時に消え、再び宙に現れるプレート。
それは次の瞬間には炎の魔人に変わり、床に降りていた。
『排除』
「――――ッ、!?」
明らかに動きが変わり、マコトに迫りくる炎の魔人。
破壊するための動きを止め、どう動くか思考を巡らせ―――
14体のアデルの顔をした人型が、強く発光を始めた。
「まさか、こいつら全部……!?」
もはやどうしようもない戦場になりつつあるこの場。
撤退するしかない、と。
歯を食い縛り、それを選ぼうとするマコト。
彼を逃がすまいと15基全部がマコトを狙うガンマイザー。
―――そうして、次の瞬間。
並んでいた14体のアデルが全て弾け飛んだ。
「ッ、なにが――――!?」
直後、ウルティマの後頭部が黒い腕に掴み取られる。
そのまま床へと叩き付けられ、遂に限界を超えたウルティマの変身が解除された。
素顔のまま床に押し付けられたアデルが、下手人を必死に見上げる。
「久しぶりじゃないか、アデル……!」
彼を地面に押し付けたまま、黒い怪物が人に戻る。
かつてに知己の顔を見上げて、アデルが顔を歪めた。
「馬鹿な……! ダントン……!? なぜ、貴様がここに……!」
「私を閉じ込めていたグレートアイと繋がっていたアドニスを殺したんだろう?
だったらこういうこともあるかもしれない。違う理由かもしれない。
けれど。こうしている今、理由が重要かな?」
「何をしに来た……! 既にこの世界に貴様の居場所は―――!」
「もちろん――――グレートアイを滅ぼしにきたのさ。
結果は出た! アドニスとイーディスが結託して創ったこの世界は失敗だと!
こうして私がここにいることが、何よりの証明だ!!」
アデルを掴みながらそう叫ぶダントンと呼ばれた男。
炎の魔人が即座に狙いを変え、そちらに向かって突撃した。
アデルを掴むダントンの腕を横から掴み、それを引き剥がそうとし―――
ただの人間にしか見えないその腕が、ガンマイザーにすら動かせなかった。
『脅威対象の順位を修正。脅威度を最大に設定。対象はダント――――』
ダントンの腕が黒く変わり、炎の魔人の首が飛ぶ。
その直後に桃色に光るプレートが降りてくる。
土の柱が隆起するように変化し、姿を現す新たなる怪人。
彼の隣に白いプレートが降り、巨大な戦槌へと変形。
ハンマーを手にした大地の魔人がすぐさま構え―――
次の瞬間。ハンマーを叩き折られ、その首を捩じり切られていた。
すぐさま更に降りてくる、色の深さが違う二枚の緑のプレート。
荒れた雲のような造形の怪人と、赤い弓が形成されて―――
魔人が弓を掴む暇もなく、両者ともに握り潰された。
「イーディスの創ったものが、私を倒せるか? 倒せないだろう!
私を倒せるなら、私は今まで奴に閉じ込められてなどいなかった!!
そうだろう、イーディス!
お前では私を倒せないから、アドニスがグレートアイに願ったのだ!!」
ぐるり、と黒い怪人の単眼が廻る。
ガンマイザーを薙ぎ払い、その怪人はスペクターへと視線を向けた。
「―――アドニスを裏切ったアデルと敵対する、特別な眼魂を持つ男……
お前がイーディスの遣いか? ならばお前も私の敵か?」
「ッ……!」
意識を向けられたマコトの肌が粟立つ。
ガンマイザーとすら比較にならないほどの戦闘力を持った怪物。
先程から見せている移動速度も尋常なものではない。
恐らく速いだけではなく、ワープしているのだろう。
そんな相手から逃げられるとは思い難い。
だがガンマイザーは既にマコトのことを忘れたように、完全にダントンに向かっている。
奴らを争わせておけば、もしかしたら――――
そう思い描いた瞬間、黒い怪物がディープスペクターの目の前に出現した。
反射的にドライバーを操作し、エネルギーを解放する。
〈ゲンカイダイカイガン! ディープスペクター! ギガオメガドライブ!!〉
「ハァアアアアア――――ッ!!」
紋章を出現させ、そのエネルギーを拳に纏い。
深淵の炎に燃える一撃をダントンの顔面へと見舞う。
その至近距離からの拳撃。
それにダントンは、自らの拳を合わせるように腕を振るった。
激突する互いの一撃。その決着は、一秒と待たずに簡単についた。
吹き飛ばされるスペクター。
丁度祈りの間の入り口の方へと吹き飛ばされて、廊下へと転がり出た。
地面に着弾して、転がって、壁にぶつかり。
変身が解除されるマコト。
「あッ……! ぐっ……!」
それでもよろめきながら、立ち上がる。
祈りの間から脱出できたのならば上出来だ。
ガンマイザー、ダントン。
イーディス長官が言ったように、眼魔世界に激動がある。
これをタケルたちに伝える前に死ぬわけにはいかない。
砕けそうになる体を支え、再び変身しようと眼魂に手をかける。
が、ディープスペクター眼魂に触れた瞬間、体に激痛が走る。
「ッ、こいつになるには……今の俺の体力では無理か……!
一度どこかに、身を隠して……!」
アデルもダントンも今、互いに対して掛かり切りのはず。
マコトはただ一撃でズタボロになった体をおして、すぐに何とか走り始めた。
―――呆然と。
周囲をガンマイザーに囲まれながら、ダントンが動きを止める。
拳を交わした瞬間、彼と繋がって流れ込んできた感覚。
培養液の中の胎児。誰かの歌声。それを取り上げる男。
妹。彼らを連れ出した男。
―――それらがぐちゃぐちゃになって、ダントンの中へと流れ込んできた。
だが分かる。そんな記憶を持っているのは、たった一人しかいない。
「リヨン? リヨンなのか?」
よろめきながら、ダントンがマコトの後を追おうとする。
だが既に彼は見えない。周囲には展開した15体のガンマイザー。
だがもう彼には、消えたマコトの背中しか見えていなかった。
「リヨン! 待ってくれ、リヨン!!
貴様ら、そこを退けェエエエエエ――――ッ!!!」
『排除』
ダントンが変わった怪物―――エヴォリュードが咆哮する。
しかし無限に再生するガンマイザーが彼を逃がさない。
何度砕かれようと、15枚のプレートは再生する。
同時にガンマイザーが進化し、ダントンに攻撃を加えられるようになっても。
エヴォリュードの肉体は砕かれても、すぐさま再生する。
それらの戦いを後目に、アデルは何とか祈りの間を脱出した。
拳で壁を強く叩き、憎々しげに表情を歪める。
「なんだというのだ……! 祈りの間も、ガンマイザーに、グレートアイ……!
それにダントンまでもが―――!」
大きく舌打ちした彼は、祈りの間の更に奥に位置する地下通路を目指し始める。
眼魔世界で既に使用しなくなって久しい、地下居住区。
そこに幽閉している父に、これらの現象を問い詰めに行くために。
キレるジニス様。
言うのがアザルドじゃなければもうちょっとは我慢できた。
親子で育成するガンマイザー。
いっぱい倒したのでいっぱい強い。