Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「撤退した……?」
様子がおかしくなり、立ち尽くしたトウサイジュウオー。
その巨体は、そのままナリアによって回収された。
コインの山の中に消えていく黒い巨神。
それを前にして、タケルはドライバーを外した。
〈カイサーン!〉
グリムとサンゾウは恐らくアランに向け飛んでいく。
―――だがマコトの所持していた眼魂はそのまま。
タケルの元に留まり、その懐に戻っていった。
それを見て、ソウゴも怪訝そうな顔をする。
だがとりあえずそれは置いといて、彼も変身を解除。
膝を落としたマシュに駆け寄った。
「マシュ、大丈夫?」
「はい……何とか。あ、そうだ―――」
彼女は思い出したように、腰に装備していた何かの容器を取り出す。
が、恐らくはザワールドに振り回されて、岩壁に叩き付けられた時か。
その衝撃で完全に破損してしまっていた。
「あ……」
「あの赤い空気入れるための奴? 一回戻らなきゃ駄目かな」
大天空寺の場所は把握している。
ウィザードウォッチで転移できれば、と思ったが。
しかし魔力を使い果たしたせいで、今すぐには起動できない。
走って行った方が早いだろう。
そこにキィ、と。地面を擦るタイヤの音が聞こえる。
目を向ければ、ネクロムがバイクに乗ってきていた。
彼はすぐさま降りて、変身を解除。タケルに詰め寄ってくる。
「天空寺タケル、スペクターはどうした?」
そのアランの言葉に目を細めて、懐から眼魂を取り出すタケル。
彼の手に乗っているのは、特別な眼魂ではない。
眼魔の民がアバターを作るために使用する、通常の眼魂だ。
「……これが、マコト兄ちゃんのバイクの傍に落ちてた」
「―――やはりか」
「やはりって、お前も知ってたのか?
眼魔世界の人が入ってるカプセルでは、人が死ぬこともあるって!」
アランの反応に、今度はタケルの方が詰め寄った。
彼の肩を掴み、一気に引き寄せて睨むように。
言われたアランの方が、胡乱げな視線でタケルを見返した。
「何を言っている? 人が死ぬ? お前は何の話をしているんだ」
「とぼけるなよ! 俺は聞いたんだ!
眼魔はそうしないためにこっちの人間を攫ってるって! 眼魔の世界が心を無くそうとしたのは、ダントンって奴との間で起きた戦争のせいだってことも!」
「―――何故お前がその名を」
アランが目を見開いて、肩にかけられた手を掴み返す。
だがタケルは怯むこともなく、より強くアランの肩を掴んだ。
「あのカプセルでは少しずつ生命力が減っていって、いつか死ぬ。
だから眼魔はその生命力を補うために、こっちの人間を攫ってるって!」
「何を馬鹿なことを……そんなはずが」
「この目で見た! あのカプセルの中で、人が灰になって死ぬところを!
もしかしたら、マコト兄ちゃんだってあんな風に……!」
彼らの会話の中、駆け寄ってくるソウゴとマシュ。
二人が顔を見合わせながら、その内容に表情を硬くした。
アランはそんな話は聞いたことがない。
―――だが、同時に。
この天空寺タケルが虚偽で怒る理由があるとも思わない。
ダントンが引き金となり、引き起こされた眼魔百年戦争。
それを知っているのは、ごく一部―――
…………いや、大天空寺にはジャベルがいる。
彼から情報を引き出す手段があれば、ダントンを知ることも不可能ではない。
―――そして。
大帝となったアデルの部下となった彼が、アランの知らない情報を持っていれば。
もしかしたら、タケルがアランよりも事情を深く知っている可能性があるのだ。
「だが……そんな、馬鹿な……?」
視線を彷徨わせるアラン。
その様子に彼も知らないことだったのだ、と。
タケルがはっとして彼から手を放す。
「……ごめん。でもとにかく、今の話は本当なんだ!
眼魔の世界では、カプセルの中で生命力の無くなった人が死んでいってる。
だからマコト兄ちゃんも、もしかしたら……!」
「―――仮に、それが本当だったとして。スペクターの肉体は保管されてまだ数年だ。我ら眼魔に比べれば時間など経過していないも同然。生命力が尽きる、というような事はないだろう。
それよりも恐らく、スペクターの休眠カプセルを兄上が解放した可能性が高い」
「それってマコトを殺すために?」
目を細めて、その会話の中に口を挟むソウゴ。
「……その可能性が絶対にないとは言わない。
だが恐らくは違うだろう。まだあちらには姉上もいる。
スペクターを排除するためとはいえ、兄上はまだ姉上と敵対を明確にはしないはず」
大帝アドニスを排除し、アランにその責任を擦り付け。
それでも、眼魔世界を全て牛耳れているわけではないはずだ。
実務はほぼ全てアデルが担っていた。
が、アドニスの持っていた眼魔の象徴としての存在としては、アリアの方が濃い。
彼女が声を上げれば、眼魔世界は
それを理解しているからこそ、少なくとも完全支配するまではアデルは動かないはず。
アリアはそこにいるだけで、アデルの抑止力として機能しているのだ。
もちろん彼女もそんな事は望んでいないだろうが―――それでも。
やる時にはやる
いや、アランよりもアデルの方が余程アリアを評価しているはずだ。
だからこそ、不思議だ。
マコトを引き戻すようなタイミングでは、絶対にないはずなのに。
「つまり……まだマコト兄ちゃんを助けにいける?」
「―――ああ。恐らくは、囚われてはいても殺されてはいないはず」
そう言った瞬間、アランの肩にタケルの手がかかる。
「アラン! 俺を向こうの世界に連れて行ってくれ!
マコト兄ちゃんを助けに行かなきゃ!」
「…………いいだろう」
微かに目を伏せた彼が、タケルを振り払った。
そのままメガウルオウダーを構えるアラン。
「あの、少し待ってください。
タケルさんは今戦闘を行ったばかりで、少し回復を待ってからの方がいいのでは?」
マシュがそれを慌てて引き留める。
「それは……」
ほんの短い交戦ではあった。が、異常なまでの強さのザワールド。
彼との激突でダメージがなかったとは言えない。
自分の胸に手を当てて、微かに顔を顰めるタケル。
「それに作戦、考えてった方がいいんじゃない?
アランに道聞くとかして、あらかじめどうやって回るかとか」
「確かに。ルート構築はしておいた方がいいかもしれませんね」
言われて、眼魔世界の複雑な石造りの建造物を思い浮かべる。
確かにそうした方がいいし、場合によっては二手に分かれられるようにした方がいい。
あちらに突入したら、もう止まってはいられない。
眼魔世界への侵入自体が、人質や処分というマコトの身を脅かす結果に繋がりかねない。
アランの考えであれば、すぐにどうこうされるわけではない。
ならば入念な準備を整えてからの突撃の方がいいに決まっている。
「…………分かった。アラン、家に来てくれ。作戦を立てよう」
「―――よかろう」
そうやって言葉を交わす二人。
そんな姿を見ながら、ソウゴとマシュは顔を見合わせた。
慌ただしく動く大天空寺。
その中で密やかに立ち上がり、動き出す。
宮本武蔵はオレンジ髪の女に連れられ、出ていった。
本来ならばその状況で見張りに入るスペクターもいないという。
彼の戦力把握が正しければ、今この寺は無防備だ。
ジャベルは音もなく立ち上がり、襖を開けて状況を把握する。
眼魔スペリオルの眼魂を持っているのは、あの坊主。
彼を叩き伏せて、その懐から眼魂を奪い取る。
そうすれば、最早この場の誰にも彼は止められない。
居間に集まっている連中を補足。
その視線が全てよそを見ている瞬間を縫い、彼は踏み出し―――
即座に反応した女に足を引っかけられ、体勢を崩し。
次の瞬間、胸に赤い光弾を撃ち込まれて吹き飛んだ。
壁にぶつかり、そのまま気絶して崩れ落ちるジャベル。
「……ねえ、やっぱり縛っておいた方がいいんじゃない?」
溜め息混じりにそう言って、ファイズフォンXを下ろすツクヨミ。
目にも止まらぬ早業に、坊主三人が思わず拍手を送った。
立香がダ・ヴィンチちゃんに頼まれたのは、赤い霧の回収。
ザワールドの乱入で、マシュに任せた回収が上手く行かないと考えたのだろう。
毒を受け付けない彼女ならば、大きな問題はないはずと。
その念のための護衛としてつけられたのが、宮本武蔵。
そして代わりにもしもの時にジャベルの制圧を任されたのが彼女、ツクヨミだ。
任された通りに仕事をやり遂げた彼女は、床に崩れ落ちたジャベルを見る。
「何度もこうやって襲われちゃたまんないしなぁ……」
「どうなんですか、御成さん?」
彼女の意見に同意を示したシブヤとナリタ。
二人が微妙な顔をしている御成を見ると、彼は更に表情を渋くした。
「確かに。ですが、拙僧は彼の様子に何か……
その、分かり合えそうな何かを感じたのです」
「今まさに俺たちを襲おうとしてたような気がするけど……」
気絶した彼を仕方なくシブヤが布団の方へと引っ張っていく。
そんな姿を見ながら、ナリタが首を傾げる。
「なんだかんだ、アラン殿とも上手くやっているのです。
他の眼魔と上手くやれない、などということはけして……」
信じるようにそう口にする御成。
どうかなぁ、なんて首を傾げながらナリタがシブヤを手伝いに動く。
シブヤが腕を持ち、ナリタが足を持ち、よいしょと持ち上げて。
「うわっ……!?」
「貴様ら――――ッ!」
―――その瞬間、意識を取り戻したジャベルが体を動かした。
二人を振り払おうと、一気に手足を動かし始める彼。
彼がすぐさま御成に飛び掛からんとそちらに目を向けて―――
そして銃声と共にまたも意識を失う。
ガクリ、と力を失って落ちる頭。
何のこともなく、即座に銃口を向けたツクヨミが彼を撃っていた。
「慣れてますね……」
「まあ、それなりに」
パタリとファイズフォンを畳み、懐にしまい込む。
そんな状況に晒されて、御成はスペリオルの眼魂を取り出した。
もしかしたらこれ、ツクヨミに預けた方が安全なのでは?
「い、いえいえ。曲りなりにも、客人からの預かり物。
住職代理である拙僧が預からず、誰が預かるというのですか!」
だが彼はすぐさまそれを懐に収め、顔を横に大きく振った。
〈サーチホーク! 探しタカ! タカ!〉
風のせいで既に戦場から大きく流されていた赤い霧。
その大体真下の位置まで移動して、タカウォッチロイドを打ち上げる。
彼の体に吊り下げた容器で空気を回収してきてもらうためだ。
恐らく立香は大丈夫だろうが、生身の武蔵には危険がある。
彼女には、少し離れた場所に待機してもらっていた。
そんな武蔵が、足元にいる白い獣の方を見る。
「ねえねえ、フォウくん。空が赤いわねぇ」
特に内容が浮かばなかったので、適当にそう切り出す。
だが白い獣は話しかけるなとばかりに三歩分、武蔵から距離を取る。
「……えー、なんで私には懐かないかなぁ」
フォウは大体カルデアの人間と一緒にいる。
ダ・ヴィンチちゃんと一緒にいるのは、あまり見たことないが。
まあ大抵はマシュと立香だ。時々ツクヨミ、稀にソウゴ、くらいのバランス。
だがツクヨミと一緒にいるくらいの確立で、アムと一緒にいる事はある。
なんだろう、白い毛並み繋がりとかそういう?
答えの出ない問題に頭を悩ませていると、立香が上げたタカウォッチが返ってくる。
彼に吊るした容器を受け取って、立香はタカウォッチも回収した。
「お待たせー」
「フォウ」
戻ってくる立香の体を駆け上がり、その肩に上がるフォウ。
むむむとそれを見送った武蔵が、ふと視線をずらす。
赤い空気が流れた分、少し離れた位置になった戦場。
そこからは既に巨神の姿は消えていた。
だが寺を出発した時には、未だに戦っていたことには変わりない。
そんな場所まで訪れて、こうして空気の回収。
「―――立香って意外と肝が据わってるわよね。
そうじゃなきゃここまで戦ってこれなかった、ってことでもあるのでしょうけど」
「んー……そういうわけじゃない、とは自分では思うけど」
急いで、と言われているので小走りで。
しかし会話できる程度の速さで脚を動かし続ける二人。
「ここにだって、武蔵がいなくちゃ危なくてこれなかったと思うよ?」
「そりゃね。いざって時に生き延びる手段なしで動く方が問題よ。
ただ、マシュはまだしも私にも簡単に命を預けられるんだなって思っただけ」
「嫌だった?」
「嫌ではないけど。うーん……ただ、命を預ける相手は選んだ方がいいとは思うわ。
私はマシュほどに、真摯な姿勢で人を守れる人間じゃないもの」
命は懸けるし、心身も賭すだろう。
戦いに際して守ると決めたものは、全力で守ろう。
――――けれどやっぱり。
彼女は最後の最後で、自分の全てを“守るため”に使える人間ではないのだ。
別にそんな自分を恥じているわけではない。
自分はそういう人間なのだと、そうやって生きていく事に不満もない。
不満でないんだから改心も改善もありえない。
ただそういう人間なのに、誰かに信じられすぎてしまうと、ただ申し訳ない。
そう思って口にした言葉に、立香は首を傾げた。
「ちゃんと選んでるつもりだけどな。
まあでも、嫌じゃないならそのまま信じるよ。武蔵のこと」
「……うーん。あー、そっかー……んー、ううーん。あー……」
―――久しく忘れていた感覚を思い出し、困ったなぁと武蔵が百面相する。
立香はそんな彼女を、変なものを見る顔で見つめた。
仕方なしに彼女は手をぱたぱたと振り、その会話を打ち切ってしまう。
「よし、今の話は置いときましょう。ほら、急ぐ急ぐ!」
「わっ」
武蔵の腕が立香の腰を捕まえ、そのまま担いだ。
剣豪の速度が遺憾なく発揮され、彼女たちは大天空寺を目掛けて走っていく。
抱えられた立香の頭の上で、フォウは面倒そうに一鳴きした。
ザワールドが撤退し、同じく引き上げてきたジュウオウジャー。
彼らは大天空寺の庭に立ち尽くし、空を見上げていた。
地下室では今、マコトの救出計画が進んでいる。
だが彼らが参加することはできない。
デスガリアン、特にザワールドがいつまた攻めてくるとも分からない。
それを考慮した結果、彼らもソウゴもこちらで待機だ。
五人とソウゴ、彼らはそこに集まって全員が無言。
そんな中で、大和が口を開いた。
「ザワールド……あいつ、最後。俺たちの声が届いてたんじゃないかな」
何の言葉に反応したのかは分からない。
けれど、あのタイミングで明らかにトウサイジュウオーの動きが変わった。
その直後に逃がすようにナリアが彼を回収。
それがまるで、あちら側にとって触れられたくない部分に触れてしまったようで。
「つまり……改造された人間の意識がまだ、残ってる?」
「その改造というのがどんなものかは分からないが……可能性はある。
取り返しのつかない改造ではなく、洗脳のようなものなのかもしれない」
縁側に座りながらアムが息を吐き、タスクは壁に寄りかかった。
「ならもしかして、ザワールドを解放することも……?」
「ってもどうやってだよ。分かってんだろ、あいつはマジでやべぇ。
俺たち全員でも敵わねえくらいによ」
セラが口にした可能性がないとは言わない。
けれど、そんな余裕がある相手か? という問題だ。
必死に抵抗して、何度だって立ち上がるつもりはある。
けれど、ザワールド本人にもトウサイジュウオーにも痛打一つ与えることが出来なかった。
認めたくないが、実際にそれが今のレベルの差、という奴だ。
必死に食らい付かなければならない立場で、そんな余裕があるとは思えない。
その事実に、大和が目を伏せる。
そんな彼を見てソウゴが口を挟もうとして―――
「あんたら、暇ならこっちの手伝いしなさい。運び込むものが多いのよ」
地下室から一度出てきたオルガマリーに遮られた。
そうやって声をかけてきた彼女が、集団の様子を見て目を眇める。
何よ、という視線をソウゴに向ける彼女。
「ザワールドがもしかしたら解放できるかもしれないけど、相手が強すぎて危ないっていう話」
単刀直入すぎる物言いに、オルガマリーの眉が軽く震えた。
眉間に指を当て、瞑目しながら溜め息を吐く彼女。
再び目を開いた彼女は、俯いている大和へと視線を向ける。
「…………別に、私がどうこう言う筋合いはないけれどね。
あんた、自分の中だけで気負いすぎなんじゃない?」
「え?」
突然彼女に声をかけられて、大和が困惑したような声を上げる。
「あんたが何を言いだそうが、決めるのはやる奴よ。あんたが口にした瞬間、何もかも決まるわけでもないでしょう? だったら、まず口を開きなさい。
っていうか。自分の失敗は即謝れるのに、自分のやりたい事は黙り込むわけ? そういうとこ、どうにかした方がいいんじゃないの? 私には関係ないけど」
―――そこまで言って、言い終えると同時に凄まじく渋い顔になっていく。
当たり前だ。アドバイスでも何でもなく、ただの嫉妬なんだから。
そんなことを言いだす自分が馬鹿らしくて、自爆しているも同然だ。
彼はリーダーで、自分もリーダーで。
彼は仲間たちの先頭で戦うことができて、彼女には後ろで見てることしかできない。
サーヴァントではない、当たり前の人間と多く関わったせいだろうか。
こんな風に、余計なことを言いだすのは。
「……………………………仲間なんでしょ」
凄まじく盛大に言うかどうかを迷って。
言った挙句に彼女は表情をきつくして、こんな台詞言うんじゃなかったという顔をする。
彼女はそのまますぐ振り向いて、大天空寺の自分の部屋に向かって行った。
そんなオルガマリーの背中を見送って、ソウゴが大和に顔を向ける。
「だって?」
「……そう、だね」
彼を直視するソウゴの目。大和が目を瞑って黙り込んだ。
それから数秒待って、その目が開く。
何かを決意したように表情を引き締める大和。
彼が仲間たちに向き直って、静かに言葉を紡ぎ出す。
「ごめん、みんな……俺、ザワールドを助けたい。
どれだけ危険なのかは分かってる。ただでさえ強いザワールドとの戦いに、余計な枷まで持ち込むのが命取りになるかもしれないって。分かってて、それでも」
ばん! と、膝を叩く音。
自分の膝を思い切り叩いたレオが、ゆっくりと立ち上がって大和に詰め寄ってくる。
額を突き合わせるような至近距離。
そこで視線を合わせて、獅子は口を開いて唸るような低い声を出す。
「大和。お前それ、本気で言ってんのか」
「―――うん、本気だ。みんなに危険を強いることになる。
それは分かってて、それでも。みんなと一緒に、彼を解放するために戦いたい。
俺ひとりじゃ、ザワールドは止められないから」
真っ直ぐに見返す、大和の瞳。
それと睨み合っていたレオが、その場で大きく深呼吸した。
直後、大和の背中を叩く獅子の腕。
「い……ッたぁ……! ちょ、ちょっと強すぎ……!」
「っしゃあ! しょうがねえ、俺は乗ってやる! お前たちはどうだ!?」
ばんばんと大和の背中を叩きながら、レオが振り向いた。
「別にわざわざそんな風に訊かなくても十分だ」
わざわざ詰め寄ったレオに対し、呆れた様子を見せるタスク。
ぱん、と。手を叩いて合わせ、アムが再び立ち上がる。
「この星の生き物はみんなどこかで繋がってる、だもんね!」
「あ、いや……それは」
自分の―――母の言葉を引用され、大和が顔を引き攣らせる。
何とも言えない表情になった彼の前。
「その繋がりを無理矢理切り離して、好き放題されてるんだもの。
私たちが手を伸ばして、繋ぎ直せるなら……やる価値はあるかもね」
軽く手を叩いて、そう言って笑うセラ。
「うっし、じゃあどうする? 俺たち、戦いながら何ができんだ?」
無理矢理に大和と肩を組んで、レオが声を上げる。
そうやって自分に絡んだ腕に苦笑しながら。
大和は前を全員に視線を巡らせて、強く顔を引き締めた。
「―――伝えよう。俺たちの想いを言葉にして。
あなたを助けたいんだ、って。まずはそうしなきゃ、何も伝わらない」
皆を見据える大和の目。その瞳に、四人全員が大きく頷く。
作戦なんて言えるものじゃない。
けれど、それもせずに何かを決めることなんて、もう出来ない。
そんな彼らに背を向けて、ソウゴが小走りに室内に入っていく。
すぐにオルガマリーへと追いついて、その後ろにつける。
歩いている所長の後ろで同じ速度で歩くソウゴ。
「…………なによ」
「何が?」
ソウゴは何やら、カルガモみたいにくっついてくる。
小さく振り向いて、そんな彼を睨みつけた。
「何でついてくるのよ」
「ついてきちゃダメだった?
自分で暇なら荷物運ぶの手伝えって言ったのに」
言い返されて、ぐぬぬと顔を顰めるオルガマリー。
仕方なしに彼女は思い切り手を振って、目の前の部屋の荷物を指差した。
それは積み重なったバッグの山。
「それ、運びなさい」
「うん。俺の仕事は、所長の言う事を聞くことだもんね。
所長がやりたいことを口に出してくれれば、絶対にどうにかするよ?」
にやにやとしながらそう言い切るソウゴ。
そんな彼をギロリと睨み、彼女はさっさと荷物を運び始めた。
「――――凄い。これが、レオナルド・ダ・ヴィンチ……!」
立香たちが持ち帰ってきた赤い大気。
それを万能籠手に繋いだ解析装置にかけながら、アカリが瞠目した。
凄まじい勢いで行われる成分の分析を、彼女は一瞬たりとも見逃さないようにしている。
「さて、アカリちゃん。この分析結果を元に、さっさと中和剤を作ろうじゃないか」
「はい!」
同席する天才の技量全てを盗んでみせる、と気炎を上げるアカリ。
そんな彼女の様子にうんうん、と首を何度か縦に振るダ・ヴィンチちゃん。
今の私、天才感出してるなぁ、と。
常に天才だということには、変わりはないのだけど。
「―――ああ、そうだ。
アランくん、君の眼魂とデバイスを貸してくれるかい?」
ふと思い出したように。
モノリスの間に集まっている彼ら、その中のアランへと声をかける。
彼は胡乱げな視線を彼女に向け、用途を確認する。
「……何故だ」
「君の変身態、ネクロムに集積された情報から向こうのマップを作ろうと思ってね。
口で説明するだけより、そっちの方がいいだろう?」
そう言われれば、確かにその方がいい。
―――できるのならば、だが。
「できるのか?」
「多分ね。ネクロムというか、ゲート……ガンマホール発生装置と言った方がいいかな。
移動装置である以上は、地形情報は最低限きっと入っているだろう」
言いながら手を差し出してくるダ・ヴィンチちゃん。
微かに目を細めた彼が、自分の腕を掴んでいるカノンに目を向ける。
不安そうに彼を見上げる少女に溜め息一つ。
―――マコトの救出の可能性を高めるためだ。
やれることはやるべきだろう。
「……分かった」
それでも仕方なさそうに、メガウルオウダーを差し出す彼。
受け取ったダ・ヴィンチちゃんはそのままそれを己の籠手の隣に置く。
「さてさて、こっちも重要だ。最低限使えるマップの構築。
どんどん進めていこうじゃないか」
言いながら自らの宝具とメガウルオウダーを接続。
更にネクロム眼魂を籠手の中へと放り込む。
アカリがにらめっこしているPCのモニターに、一気に情報が流れ込んでくる。
「眼魂の情報を読み込む籠手……私もこういうの作るべきかしら。
いえ、不知火を改造して……あれ?」
呟きつつキーボードを叩く指。
止め処なく変化し続ける画面に視線を走らせていたアカリ。
彼女が不思議そうに首を傾げて、動きを止めた。
「ねえ、あんた」
「……なんだ? メガウルオウダーを壊すような真似はするなよ」
「しないわよ。そうじゃなくて、ネクロムっていうのにも武器あるじゃない。
マコトが持ってた武器に似てる、眼魂が使える奴」
ダ・ヴィンチちゃんが後ろから覗き込む。
画面に映し出されているのは、ガンガンキャッチャーという表示。
当然のことながら、ネクロムでの使用を想定している装備だ。
どうやら本体の眼魂を変更せず、眼魂の力を使用するためのものらしいが。
「…………」
「ふむ、使用制限があるのかな?
解除しようと思えば、どうにかなるかもしれないけど……」
出来るかどうか、という話に時間を使っている暇はないだろう。
まして、今回はタケルとアランによる少数潜入。
戦闘は極力避けて忍び込み、目的を達成しての撤退が想定の内容だ。
武装はあって困るものではないが、絶対に必要なものではない。
「必要ない」
アラン本人にそう断言され、アカリは目を眇めた。
そうしてから一度大きく肩を竦め、すぐさま作業に戻る。
そんな彼女を眺めつつ、御成がタケルの背中に声をかけた。
「タケル殿。今が火急の事態とは分かっておりますが、よろしいですかな」
「なに?」
「マコト殿も体を取り戻された、というなら。
タケル殿も今の内に早々に、生き返ってしまった方がよろしいのではないでしょうか?
今まで先延ばしにしてきましたが、英雄の眼魂は15個揃っているのですし」
「―――いや、でも俺は……」
時間切れまではあと60日以上ある。
だからそのままでいい、ということではないが―――
それでも、決着をつけてからでいいのではないかと。
その二人の会話に対し、マシュが小さな声で。
「その、よろしいでしょうか?」
「マシュ?」
背後から声をかけてきたマシュに、振り返る二人。
彼女を見て立香が僅かに視線を彷徨わせた、が。
すぐに気を入れなおして、マシュを見つめる。
マシュがちらちらと視線を向けるのは、入口の階段。
先程外に出るためにオルガマリーが上がっていった場所だ。
「ええと、実は、といいますか、その……所長のこと、なのですが」
「オルガマリー殿の?」
ふむ、と首を傾げる御成。
そんな彼を前にして、彼女は意を決して喋り出した。
「所長もその……肉体を失い、眼魂で活動している人なのです」
「……え!?」
「なぜ眼魂になったか、経緯はわたしたちもよく分かっていないのですが……
とにかくそうなって。今はダ・ヴィンチちゃんが造った人形に、眼魂を入れています。
……もし叶うならば、タケルさんと同じように……」
声がどんどんと落ちていくマシュ。
本人の確認も取らずにこれを要請していいのか、ということもある。
尻すぼみの言葉を受けて、しかしタケルは大きく頷いた。
「―――分かった」
「ちょ、タケル殿……! そんな簡単に……!
確かに、オルガマリー殿のことは驚きですが……まずはタケル殿がですな!」
御成がタケルを押し留めようとする。
と、そこでカノンが申し訳なさそうに顔を伏せて。
それに気付いて、おろおろと右往左往し始める御成。
そこでアカリが椅子から立ち上がり、机を思い切り叩いた。
「私に考えがあるわ。
その15個の眼魂を揃えて叶えられる願い―――増やせばいいのよ!」
立ち上がった彼女を全員で見て、全員で首を傾げる。
いや、言葉の意図は分かる。分かる、のだが。
「……というと?」
「一つだけ願いを叶えてくれる、でしょ?
だったらその願いを二つ、いえ三つ……いっそ十個くらいまで増やして下さいって願うの」
【一つだけ願いを叶えよう】に対して、【では叶えてくれる願いの数を増やしてくれ】と。
いっそ誰でも考えそうな、そんな答えを打ち出すアカリ。
「…………それはどうだろうね。
願いを叶えてくれる存在のリソースの問題で、一つなのかもしれないし」
「確かにそうかもしれません。けど、やってみる価値はあると思います。
そうでなくても、カノンちゃんが生き返ってから一か月ちょい。
ここでタケルが普通に生き返ることが出来たら、遅くともまた一か月後には……」
片目を瞑って首を傾げるダ・ヴィンチちゃん。
そんな彼女にそう言ってみせるアカリ。
アカリはそのままタケルを振り返って、びしりと指を突き付けた。
「だからタケル、願いの数を増やせるかどうかはともかくとして。
どうなったとしても、今の内にあんたが生き返っていた方がいいのよ!
もし次に使うまでにパワーの充電期間が存在するってなったら困るでしょ?」
「それに、アカリ殿の願い増量作戦が上手く行けば、無理に侵入せずともマコト殿を眼魔世界から連れ戻すことも叶うのでは!? もしかしたら、デスガリアンも追っ払ってもらえたりして!」
盛り上がっていく彼らの言葉を聞いて、タケルが視線を彷徨わせる。
―――そんな彼の袖をくいくい、と。
引っ張られて気付いたタケルがそちらを見ると、カノンがやったことだった。
その表情は深刻で、何か大きな話をしようとしているように見えた。
「……分かった、とりあえずやってみよう。
もし願いを増やせた場合に叶えなきゃいけない事があるか、大和さんたちにも訊いてくる。
カノンちゃん、悪いけど手伝ってもらっていい?」
「―――あ、はい」
そう言い合って、二人で地下室を出ていく。
庭には大和たちがいるので、そちらに行かないように裏手に回った。
そうしてから、タケルはカノンに尋ねる。
「どうしたの? もしかして、マコト兄ちゃんのことで何か……」
「そうじゃなくて……みんなの前で言っていいのか、分からないことで。
多分……なんですけど、立香さんたちも本人にも隠してるらしくて……
でも、本人もある程度は気付いているんじゃないか、って……」
「……?」
カノンはあまり積極的な人間ではない。が、けして気弱という事ではない。
言いたい事も、訊きたい事もハッキリという人間だ。
だというのにこれほど言葉を詰まらせる彼女を、タケルが怪訝そうに見つめる。
歯切れの悪い口振りで、しかし言わなければと彼女は小さな声を絞り出す。
「―――多分、マシュちゃんが。
どうすればいいかも分からないような病気で……永くない、みたいな、そんな話を……
立香さんと、ツクヨミさんが……」
「…………え?」
その言葉を聞いて、咄嗟に地下室の方を見る。
当たり前のようにそこにいた彼女が、まさかそんな、と。
「……だからもし、眼魂に願いを叶えてもらえるならマシュちゃんも……」
「―――分かった、何とかしてみる」
だがそれが事実であっても、カノンを生き返らせてくれたあの力ならば。
きっと自分も、マコトも、オルガマリーも、マシュも。
何の憂いもなく、未来に向かえるに違いないはずだ。
そうして一度大和たちの許に行き、事情を説明。
もし願いが増やせるなら、と。
現状で必要な事を確認してタケルは15個の眼魂と共にモノリスへ向かい合った。
15個の眼魂が集合し、それら空中に浮いて。
眼の紋章を描くような配置で停止する。
かつてカノンを救った時のように、大いなる力の降臨の予兆を感じ―――
その、次の瞬間。
―――ガンマイザーが一斉に天井を見上げる。
一斉に、と言っても人型の形態を持つ五体だけだったが。
『グレートアイへの外部からの干渉を感知』
五体の魔人、五本の武装、五基のエレメンタル。
十五のガンマイザーが全てプレートに戻り、天井へと浮かび上がった。
その瞬間、そいつらの相手をしていたエヴォリュードが離脱する。
要警戒対象を逃がすことにも構わず、ガンマイザーが本来の使命に立ち返った。
『排除』
一度は彼らを飛び越して接触されてしまったが、二度はない。
15枚のプレートが同時に発光し、祈りの間を光で包む。
全てのガンマイザーが、不法にグレートアイに接触しようとする何かを弾き返した。
―――使命を果たして、数秒の待機。
更なる反応がないことを確認して、ガンマイザーが動き出す。
本来の使命のためにも、祈りの間を空けることはできない。
だがダントンは―――
そして脅威度は格段に下がるが、スペクターも放置することは許されない。
両者に接触、排除されることを考えると、アデルの確保も必須。
故に決断を下す。
アデルの許へとプラネット、オシレーションを向かわせ確保。
ダントンの追撃にはファイヤー、リキッド、アロー、ブレード、グラビティ、エレクトリック。
残りは全て祈りの間において待機とする。
―――全ては、眼魔世界のために。
グレートアイ(運命力不足で死ぬ奴を助けるのは無理やぞ)